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邦画評だけ見る 直近50作 Archive

映画「我が家は楽し」(1951)  監督:中村登  出演:高峰秀子、笠智衆、山田五十鈴

上2
(左から)次女信子18歳(岸恵子)、長女朋子(高峰秀子)、三女光子、長男和男、
父・植村孝作(笠智衆)、母・なみ子(山田五十鈴)



 日本は、まだ連合国軍占領下(1945-1952)。
 戦後の混乱期をなんとか抜け出し、経済復興の糸口をつかもうとする1951年(昭和26年)のお話。
 人々はみな、一応に貧しかった。

 それでも植村の一家6人は幸せだ。
1_20180706171057b87.jpg 父親の植村孝作(笠智衆)は森永製菓の工場勤務の課長。仕事の出来るほうの人物ではないが実直で人当たりはいい。
 忘れ物の多い父さんだが、その穏やかな性格は一家のムードメーカーであり大黒柱。
 母親のなみ子(山田五十鈴)は良妻賢母、17歳で結婚し今年が結婚25周年。
 子供の病気や修学旅行費用などの出費で家計は赤字、母親はミシン仕事で家計を助けている。
 それでも家族の服も靴も雨傘も新調できずだが、家族はみな明るく我慢している。
 だが、お米が足りない。夕食の一家団らんの時、母親は、夫と子たちにはご飯をすすめ、自分はパンを食べてしのいでいる。(戦後の食糧不足は緩和されつつはあったが・・)
 そして、母親の奥の手は質屋であった。

 子供は4人一男三女。みな親思い、姉弟仲良し。
 次女の信子(岸恵子デビュー作)は18歳、高3で修学旅行目前。(戦時中途絶えていた修学旅行の再開まもなくの頃)
 長男は野球好きな小学生、三女はまだ幼子。
 さて、長女の朋子(高峰秀子)は無職、画家を目指している。
 朋子自身も就職を考え、叔母からも就職をすすめられているが、母親は絵の勉強をしなさいと言う。実は母親は若いころ画家を志していた。その叶わなかった夢を娘に託したい。(そして実際のところ、女性の勤め先はなかなか無い時代)

4_2018070619251916f.jpg 映画はこうして当時の、貧しいながらも、こうあれ、こうあってほしい理想の家族像を描くが、不幸も交える。
 朋子の絵の絵画展落選。朋子の彼氏内田三郎(佐田啓二)の結核による死亡(当時、疾患別死亡者数の順位で、結核は1位か2位と高い)
 父親の勤続25年の、永年勤続報奨金を、表彰の日の帰りにすられる。(ただし子たちへのプレゼントを買った残金だった。三女の玩具のピアノ、次女の旅行バッグ、長男のグローブ、長女へは敬愛する著名画家の画集)

 そして一番の困難は、この一家が住んでいる借家を追い出されることになったこと。(当時、手ごろな借家物件はとても少ない)
 だが、日ごろ行いの良い者は救われる。(のかも知れない)
3_201807061949200ed.jpg 叔母(なみ子の妹)の家に同居を許され一家が引っ越しする前日、一家と手伝いに来ていた叔母が、最後の夕食をとっていた時に、その朗報が届いた。

             

 この植村家は世田谷区か大田区辺りの私鉄沿線に住む、貧しいとはいえ、当時の中流層だろう。(植村家の家の向かいの洋館邸宅のレンガ塀が壊れているのは空襲によるだろうから、東京郊外ではなくて近郊と見た)
 一方、当時の都内の底辺の人々の戦後生活はどうだったろうか?
 それは、今井正監督の「どっこい生きてる」を観るのがいいかもしれない。映画「どっこい生きてる」の記事はこちらからどうぞ。

監督:中村登|1951年|91分|
原案:田中澄江|脚本:柳井隆雄、田中澄江|撮影:厚田雄春|
出演:植村孝作(笠智衆)|その妻なみ子(山田五十鈴)|朋子(高峰秀子)|信子(岸恵子)|和男(岡本克政)|光子(福井和子)|朋子の彼氏・内田三郎(佐田啓二)|なみ子の妹・福田かよ子(桜むつ子)|洋館邸宅に一人住む金沢老人(高堂国典)|朋子の画家仲間・小泉千代(楠田薫)|朋子が敬愛する大宮画伯(青山杉作)|勤め人で家主の馬場信太郎(増田順二)|その妻・夏子(水上令子)|叔母の紹介で朋子が務めた土建屋の社長(南進一郎)|永年表彰する森永製菓の社長(奈良真養)|ほか

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映画「ケンとカズ」  監督:小路紘史

上
ケン(左)とカズ。


01-_20180701130306c6d.jpg ケンとカズの友情を描く、リアルで硬派な映画。
 べたべたした仲間付き合いではない2人は、いつも互いに、最低限の事しか言わない。

 2人は町工場のしがない自動車修理工だ。
 そんな日常の裏で、通りの陰で待つ男達に、2人は覚せい剤を売りに行く。
 ケン(カトウシンスケ)の先輩・藤堂は小さな組の組長で、この藤堂の誘いでケンはいつしか覚せい剤を売るようになった。

 カズ(毎熊克哉)はケンより、切れやすい。
 ケンの誘いでカズはここで修理工になったが、時折、工場長の胸ぐらつかんで脅すほどの剣幕。
 覚せい剤の客がカズに、カズの気に障ることを言おうものなら、客はぼこぼこにされる。やりすぎだと言ってそれを止めるのがケン。
 ケンとカズが、藤堂の島をうろつくヤクザを襲撃する時も、カズは抑えがきかない。

2-0_201807011304265b4.jpg 今じゃ、覚せい剤商売に付いちゃ、カズの方が主導権を握っている。(カズはもはや修理工の仕事に興味がない)
 カズは考える。藤堂との商売じゃ、せこせこ働いてもタカが知れてる。(藤堂に対して売上げ金をごまかしているようだ)
 カズは一歩踏み込む。極秘に、藤堂と争う、藤堂より大きな組から覚せい剤を仕入れようとする。

 ケンはそんなカズの行動に一応は付き合うものの、「やりすぎだ、俺はやらない、ひとりでやれ」とケンはカズに言う。
 カズは本気だ。互いに、いつもの口数の少なさが、沈黙に変わる。
 裏の世界は狭い。藤堂も敵対組も、カズとケンの行動を見ている。

 ある日、2人は殴り合いになる、口より先に手が出る。殴り殴ったあと、また互いに無口になり、ケンはその場から去って行った。


3-0_20180701130954a56.jpg ケンは早紀(飯島珠奈)と住んでいる。早紀は妊娠している。
 ケンの様子の変化を敏感に察した早紀は、我が子を思い心配だ。
 そして、ケンがカズについて行けなくなったのは、ケンが家庭を思うようになったからだ。

 カズは母親(神保明子)と住んでいる。
 その昔、母親は、幼いカズを虐待し続けた。
 しかし、「カズ、お前、マザコンだろ」そうケンは言った。図星だった。カズは母親をばばあと罵るが、心の底ではマザコンらしい。
 母親は育児放棄(ネグレクト)ではなかった。
 幼いカズを虐待したあと、母親はいつもカズを抱きしめ、私が悪かったと泣く日々だった。
 その母親が今じゃ認知症の症状。ばばあと罵るカズに、母親を施設に入れる金は無い。

 そしてその日、カズは藤堂に呼び出される。人気のない高架下。カズは既に痛めつけられている。
 追って、ケンも高架下に来た。やはり呼び出されたんだろう。そしてラストの見せ場・・・。

             

 修理工場には、ケン、カズの下に見習い工のテル(藤原季節)がいる。
 テルはケン、カズのあとについていくが、そのうち藤堂の息がかかる。

 このテルと、カズの母親の2人の役柄が、ドラマに奥行きを作っている。
 ラストの、ある1シーンがいささか冗長なのが残念。でも、辛口のいい映画です。

監督・脚本:小路紘史|2016年|96分|
撮影:山本周平
出演:ケン(カトウシンスケ)|カズ(毎熊克哉)|工場の後輩・テル(藤原季節)|ケンの彼女・早紀(飯島珠奈)|組長の藤堂(髙野春樹)|藤堂の子分の田上(江原大介)|カズの母親(神保明子)|ほか

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映画「合葬」  監督:小林達夫

上

 将軍徳川慶喜が政権返上を明治天皇に奏上した大政奉還1867年から翌年1868年までのお話。

 世の中の土台が瓦解する幕末に、武士に生まれたからこその、生き方選択の迷路に迷い込んだ、幼なじみの3人の男たちがいた。
 しかし、この先世の中どうなる、という大きな不安が押し迫るさなかでも、武士にも、また武家の女や町人・農民といった人々にも、彼らの日常はそれぞれにあった。もちろん恋もあった。

1-0_20180627112225bd2.jpg 秋津極(柳楽優弥)は彰義隊に入隊するため、砂世(門脇麦)との婚約を一方的に解消した。(秋津は死を覚悟していた)
 砂世は、秋津の幼なじみの福原悌二郎の妹で、砂世は幼いころから秋津に淡い恋心を抱いていたのだった。
 秋津のもう一人の幼なじみ吉森柾之助は、養子先の武家から前触れなく、ていよく追い出される。(養子先の武家の女達は武士の世は終わったと、時代の変わり目を読んでいる)

 吉森に何処へと行くあてはない。秋津はこの迷える吉森を彰義隊に引き入れた。
 その吉森にもうひとつの迷いがあった。それは、茶屋で働く かなという女に恋をどう打ち明けようかという迷い。だが、そのかなは秋津に猛烈に一目惚れしてしまう。
 
 こうして秋津は妻になる女を捨て、吉森は女への思いを抱きながら彰義隊に入隊する。
 この事態におよんで、徳川将軍の身辺警護と江戸の秩序守護を目的とした彰義隊なんて、大政奉還した今、もう意味ないじゃんと思う福原は秋津に、改めて妹との婚約解消を考え直してくれ、いや少なくとも妹にもう一度会ってやってくれ、と頼み込んだ。
 そしてさらには福原は、秋津と吉森の、彰義隊に対する考えを覆そうと、彰義隊の客分となって彼らの宿舎(寺)に出入りするようになった。

 その寺には、森篤之進(オダギリジョー)という、彰義隊の武闘派(抗戦派)に懐疑的な男もいたが、その日、彰義隊と新政府軍との戦争が上野(パンダがいる上野)や谷根千あたりで始まってしまう。
 結局、福原は秋津、吉森と共に戦争に加わるが、福原は戦死。
 (彰義隊は、上野の寛永寺(上野公園)に結集するがほぼ全滅、生き残ったわずかの隊員は散り散りに谷根千あたりに四散。上野戦争)
 農家の小屋に身を隠す、負傷した秋津とそれを見守る吉森。翌朝、秋津はこの小屋で自害。

 福原の妹、砂世は、年上の穏やかな男と結婚した。
 砂世は、夫の前で胸の内を打ち明ける。
 あなたとの縁談の話が持ち上がった時、私は兄にウソをつきました。これから一生悔やむことになるから、一目秋津に会っておきたいと。

2-1_201806271123553c7.jpg でも、私はある夜、秋津と一夜を共にしていました。何処から聴こえる笛の調べに魅了されたらしい秋津が、突然に我が家の縁側に現れたのです。
 これを聞く夫は穏やかにほほ笑むばかりでありました。

 いわゆる歴史小説で描かれる幕末ではありませんね。
 話の底にある、ある種の「静寂さ」を感じ得れば、よりいい映画に思えるかもしれません。 
 何かで読んだ記憶ですが、谷根千あたりの武家屋敷の庭に上野戦争で敗れた彰義隊隊員が隠れていたという話を思い出しました。

監督:小林達夫|2015年|87分|
原作:杉浦日向子|脚本:渡辺あや|撮影:渡辺伸二|
出演:秋津極(柳楽優弥)|吉森柾之助(瀬戸康史)|福原悌二郎(岡山天音)|福原砂世(門脇麦)|かな(桜井美南)|森篤之進(オダギリジョー)|ほか

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映画「日本の悪霊」  監督:黒木和雄

2_201806060938547fd.jpg

 双子のように瓜二つのヤクザと刑事が入れ替わり、終いには同質化して行くお話。
 映画はふたりの登場人物の違いを、徐々に曖昧にしていきます。
 殺伐とした風景のロケ地に、ドキュメンタリー映画風のリアリティを持ち込んだ本作は、今新たな魅力を放っているようにも思えます。
 本作をヤクザ映画だと決めつけず、また、原作は脚本化の素材である位の気持ちで受けて、原作や1960-70年の政治闘争にこだわらずに観ることも一興でしょう。
 
 群馬県のある街での出来事です。地元で古くからあるが弱体化したヤクザ・鬼頭組を、この地に勢力を伸ばす新興勢力の天地組がなきものにしようとしていた。

5_20180606120805fa0.png そんな中、ふたりの男がこの街に現れる。
 そのひとりは、村瀬(佐藤慶)という男。
 村瀬は鬼頭組を傘下に置く組のナンバー2の知的な男で、鬼頭組の偵察に来た。
 鬼頭組は村瀬という大物が助っ人に来てくれると大喜び。

 もうひとりは、落合刑事(佐藤慶・一人二役)。
 県警から派遣されてきた暴力団取り締まりを専任とする刑事だが、県警本部では、いまいちウダツの上がらぬ男であった。
 街に着いた落合刑事は、案の定、鬼頭組から村瀬と間違われる。

 実はその村瀬、この街に過去を持っている。
 そんなことで村瀬は、昔のなじみの女を訪ねるが、女の部屋には先客がいた。落合刑事だ。
 女は落合刑事を村瀬だと思い誘い入れたのだった。

 先客が刑事だと分かった村瀬は、他人とは思えぬ落合刑事に強要した。やくざと刑事、入れ替わろうと。
 落合にとって、これは刑事になりすまして、鬼頭組周辺状況の情報把握もさることながら、実は、この街の過去の真相を探り出そうという思いがあった。
 一方、落合刑事がこれを拒まなかったのは、やくざの世界に以前から魅力を感じていたからであった。
 村瀬は警察署へ、落合刑事は鬼頭組へと潜り込む。そうして、なりすましの男ふたりの、それぞれの物語が街の女たちも交えて、始まる。

 さて、先ほど言った、村瀬はこの街に過去を持っている、の話。
 1955年まで日本共産党は中国共産党の影響を受けていた。例えば農村の地主に対しての武装闘争。(しかし日本共産党は1955年にこの方針の放棄を宣言)
 村瀬の過去とは、若いころ、この群馬の街で仲間とこの闘争に加わり地主を襲い、結果時には村瀬は逃げ来る地主を迎えうち刺し殺し、村瀬はじめ仲間は四散した。
 だがこの事件には謎が残り、ヤクザになった村瀬は今も当事者として、過去の真相を究明したかったのだ。
 かたや、地元警察の署長は、この事件当時からこの事件にかかわっていた。実は謎を作ったのはこの男であった。この署長の一存でこの街でのこの事件は、街の世間体よくうやむやに処理された。
 鬼頭組の組長・鬼頭正之助は、署長の意向で当時、村瀬が犯した殺人の犯人としてムショに入った。当然、見返りは鬼頭組の安泰確保であった。しかし、組長と署長との間に亀裂が生じ始める。

 話が進むうちに、真相はより明らかになっていく。そして、村瀬と落合刑事の意気はいつしか投合していくのであった。

監督:黒木和雄|1970年|96分|ATG|
原作:高橋和巳|脚本:福田善之|撮影:堀田泰寛|音楽:岡林信康 、 早川義夫|
出演:村瀬勝/落合刑事(佐藤慶)|鬼頭正之助(高橋辰夫)|後藤署長(観世栄夫)|川田部長(榎本陽介)|子分甲(蔦森皓祐)|子分乙(深尾諠)|子分丙(鈴木両全)|子分J(土井通肇)|子分戊(倉沢周平)|子分T(坂本長利)|子分A(関口瑛)|県警本部・山口(林昭夫)|天地組・馬場(渡辺文雄)|東(丸茂光紀)|伊三次膳内(成瀬昌彦)|地主襲撃のリーダー(土方巽)|警官(岡村春彦)|パチンコ屋親父(殿山泰司)|少女(高橋美智子)|夏子(堀井永子)|歌手(岡林信康)|鬼頭竜子(奈良あけみ)|

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映画「剣侠江戸紫」  監督:並木鏡太郎

1_20180526163517c26.jpg

 なかなかの時代劇、特に脚本がよく書けている。
 実在の人を素材にした映画。113分最後まで観せます。

 時は17世紀、江戸時代前期のころ。
 当時、(将軍家直属の家臣である)旗本のひとり、水野十郎左衛門(嵐寛寿郎)という侍は、為政者側の身でありながら、江戸市中において「旗本奴」というやくざ集団を組織し、その頭であった。
 旗本奴の中でも白柄組は特に乱暴者ぞろいで、彼らは旗本を笠に、日々悪行狼藉を働いていた。

 かたや江戸には、町人身分の遊俠の徒である「町奴」という集団があった。
 この町奴の頭領、幡随院長兵衛(大河内傳次郎)は、旗本奴との無駄な争いを避けつつも、江戸市中の勢力を巡って白柄組と対立していた。

 さて、ここに登場するのが、白井権八(大谷友右衛門)という鳥取藩の若侍。(剣が立つ)
 この白井権八、あることで藩士達から疎外され精神的に追い詰められ、その結果、藩士である父の同僚(白井権八の上司)を城内で斬殺するに至る。(のちにあった江戸城松の廊下での赤穂事件のよう)そして白井権八は藩を捨て江戸へ逃げた。
 だが、殺された藩士の子、本庄助七・本庄助八の兄弟は親の仇討ちと、白井権八のあとを追った。

 話は進んで、江戸に来た白井権八が、ある日、白柄組の男達に取り巻かれて難儀していたところを、通りかかった幡随院長兵衛に救われ、客分の身となった。
 しかし、白柄組が白井権八にちゃちゃを入れたこの些細なもめ事は、「客分として白井権八をかくまわずに我に差し出せ」と言う、水野十郎左衛門による幡随院長兵衛への圧力へと発展する。(鳥取藩内の斬殺事件を水野は知っていた)
 また同時に、助七の白井権八仇討ちの一件を知った白柄組は、助七を利用しようとする。(助八は既に白井権八に斬られて死去)

0_20180526164000656.jpg ここに話に色を添えるのは、吉原一の花魁・小紫(山根寿子)。白井権八との仲が深まる。
 無職の白井権八は小紫と会うため、辻斬(つじぎり)をして吉原の金を作り出す。これを知った小紫は白井権八に、吉原を足抜けするから、どこか遠くへ駆け落ちしようと迫る。

 話を戻す。
 一度客分とした男を粗末に扱うことは、幡随院長兵衛、町奴の頭領の意地としてできない。(日本の侠客の元祖と言われている)
 幡随院長兵衛は、白井権八を水野に差し出さず、長兵衛自ら単身で水野の屋敷へ向かった。死を覚悟していた。
 だが水野は、この幡随院長兵衛の度胸、態度はあっぱれと、彼を褒め称え、杯を交わそうとした。
 しかし水野の部下は毒杯を長兵衛に飲ませる。これを知った水野はこの部下を切り殺した。
 そして、そのあと、水野は長兵衛を槍で刺し殺す。毒杯を飲ませた事が世間に知れては水野の恥だと。長兵衛は男らしく、まったく抵抗しなかった。

 一方、小紫は胸を躍らせ、渡しの舟着き場で白井権八を待っている。
 そのころ、当の白井権八は辻斬の罪のかどで、町奉行率いる一団に囲まれ非業の死を遂げていた。

 体制側の人々の振る舞い、そうでない人々の有り様、個人の正義、異端児排除、同調圧力と思考停止などなど、様々に読み取れるお話。
 
◆水野十郎左衛門(1630-1664)
 本名・水野成之、江戸時代前期の旗本。通称、十郎左衛門。
 詳しくはhttps://ja.wikipedia.org/wiki/水野成之
◆幡随院長兵衛(1622-1650 or 1657)
 江戸時代前期の町人。町奴の頭領で、日本の侠客の元祖ともいわれる。
 詳しくはhttps://ja.wikipedia.org/wiki/幡随院長兵衛
◆白井権八(1655頃-1679)
 本名・平井権八。江戸時代前期に実在した日本の武士。
 詳しくはhttps://ja.wikipedia.org/wiki/平井権八

監督:並木鏡太郎|1954年|113分|
脚本:三村伸太郎|撮影:河崎喜久三|
出演:幡随院長兵衛(大河内傳次郎)|水野十郎左衛門(嵐寛寿郎)|白井権八(大谷友右衛門)|三浦屋の花魁小紫(山根寿子)|ほか多数

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映画「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」  監督:石井裕也

上

1-0_201805201409348ae.jpg 慎二(池松壮亮)と美香(石橋静河)の、とても純なラブストーリー。
 それは繊細な男女の物語。恋することを怖がる美香の話でもある。

 とは言え、映画は今を生きるシンドさを、時間をとって描いている。
 特に慎二の周辺の登場人物は底辺であえぐ人が多い。心に重荷を抱いて、それでもなんとか今日一日分の、心のバランスを保とうとしている。
 
 舞台は東京。
 慎二と美香が出会う渋谷新宿の、作られた眩さと、人気のない街はずれの夜の暗さ。
 そして日雇い労働のビル建設現場と、死んでゆく患者を見送るに慣れた総合病院の廊下。
 そんな舞台を背景に、明日を見通せぬ日常の、鉛のような海に浮かんだ、慎二と美香の危なっかしい小さな恋。
 それで二人は、やっと明日を考えられる気がして、少し安堵するに至ったようだ。

2-0_20180520141205f57.jpg 慎二は生まれつき片目の視力がないことで屈折して生きてきた。
 高校の時、それなりに勉強ができ友達にも囲まれていたようだが、それは装いの日々であった。
 今は日雇いで生活している。慎二はこの生活に不満は無いようだ。今までに無くすなおに生きれる。
 日雇いの先輩は智之(松田龍平)という男で面倒をみてくれる。
 慎二が住むアパートの隣室のじいさんと仲がいい。本をたくさん持っていて、貸してくれていたが、ある日じいさんが孤独死。
 智之も、建設現場で突然死してしまう。

3-0_20180520141440c75.jpg 美香は東京に出て来て看護師をしている。
 毎日ではないが、患者が死んで病室を出ていくを見送るのが辛い。
 夜のバイトもしているのは、実家の父親に仕送りするためだ。
 美香が幼いころ母親は他界。自殺だったのか父親は口を閉ざしてきた。
 別れた彼氏から今でも愛しているというメッセージを受け取るが。

 物語は、登場人物に割り当てられたエピソードのパッチワークといってもいい。
 その一つひとつは、陳腐とは言わないが、よくある話。
 しかし、監督の素晴らしい演出力という魔法が、話をわざとらしくなく、リアルにして最後までしっかり観せる。

4-0_20180520141845ad9.jpg

監督・脚本:石井裕也|2017年|108分|
原作:最果タヒ(詩集「夜空はいつでも最高密度の青色だ」)|
出演:美香(石橋静河)|慎二(池松壮亮)|智之(松田龍平)|美香の母(市川実日子)|岩下(田中哲司)|玲(佐藤玲)|牧田(三浦貴大)|フィリピン人の実習生アンドレス(ポール・マグサリン)|慎二の隣人の老人(大西力)|ストリートミュージシャン(野嵜好美)|ほか

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映画「赤ちょうちん」 監督:藤田敏八  主演:秋吉久美子

上

 飾り気をえぐり取った殺伐とした荒い感触と、この先を見失った時代の、いかにも1970年代前半の映画といった趣きの作品です。

 熊本県天草から出てきた17歳の幸枝(秋吉久美子)と、二十歳そこそこの政行(高岡健二)との、不安定な幸せの道筋を描く。
 時は冬、ふたりの幸せは政行が住む、中央線大久保・東中野駅間の高架脇の、一間のアパートで始まった。

 話は引っ越しを繰り返す場面展開で進み、その中で映画は、幸枝と政行の愛の行方を追いかける。
 ふたりにとって引っ越しは、あてのない幸せ探しであり、同時に若いふたりにとって、世間を学ぶ旅であり、かつ、いわれのない試練の旅であった。


1-0_2018051012361124e.jpg アパート建て替えで追い出された政行は、京王線幡ヶ谷にあるキッチン付きトイレなしの部屋に越し、幸枝との同棲が始まる。
 ところがある日突然、この部屋にかつて住んでいた男(長門裕之)が無断で居候しだして、奇妙な3人住まいが始まる。
 その上、この部屋は幡ヶ谷斎場のそば。斎場を怖がる幸枝は引っ越しを望んだ。

 次は新宿高層ビルがすぐそこの西新宿の部屋へ。
 ここで幸枝の妊娠が分かった。しかし生活はふたりだけでも苦しい。ふたりは悩む。政行は中絶を求めた。
 そんなある日、幸枝は近くを流れる神田川に身投げしようとした。

 反省した政行は男として覚悟を決め、幸枝の出産を前提に郊外へ引っ越し。周りは畑が残る土地、キッチンもトイレもある一階だ。
 幸枝は病院で無事出産しふたりは喜んだが、幸枝は産後の鬱なのか、周囲の住民や家主(悠木千帆)との折り合いが上手くいかない。
 赤ちゃんが眠る窓際のガラス窓が投石で割れる、近所の子供かも知れない。さらには買い物途中に店前に停めて置いたはずのベビーカーが、坂道を暴走する事故を家主のせいにする。政行は四度目の引っ越しを決意した。

 安い家賃を求めて葛飾の土手近くの長屋へ越す。
 長屋の隣家は彼らを優しく歓迎した。政行は隣家から工場の職場を斡旋してもらった。良き人情の長屋住まいが始まる。
 だが住み始めてから知ったことは、ここは一家心中の悲惨な部屋であった。
 でも何故か幸枝は政行が思うほど動揺しない。いや政行より平気。もっと言えば今までの幸枝よりも、幸枝は変になっていたのだ。
 しかし政行はそれに気づかず、隣家のおばさんに幸枝の様子が変だと言われる。御用聞きの男にわけもなく殴りかかったりしていた。
 そんなある日、政行が務める工場に電話が入る。おばさんからだ、すぐ帰って来い、幸枝の行動が・・。

 シーンは精神病院のベッドで身体拘束された幸枝と、ベッドサイドの政行のシーンに移る。
 そしてラストシーン、政行は赤ん坊と二人だけの、5度目の引っ越しをするのであった。(終)

 映画は幾つかのエピソードを差し入れて、話を膨らませている。
 話の冒頭で、とある立体駐車場の係員として政行が働いていた職場の先輩・修(河原崎長一郎)、その彼女・利代子(横山リエ)のふたりは、幾つものシーンで政行と幸枝のストーリーと絡み合う。

 全編を通して思うに、秋吉久美子演ずる幸枝の表情が終始硬い印象が残る。
 ちなみに本題ではないが、幸枝の出産時に病院が赤ちゃんを取り違えるエピソードがある。
 幸枝と赤ちゃんのツーショットを政行が撮った直後に、看護師が取り違えたことを言いながら、幸枝の赤ちゃんを抱いて病室に入って来る。政行は再度、写真を撮るが、ふたりの心は落ち着かない。これも印象に残る。

監督:藤田敏八|1974年|93分|
脚本:中島丈博、桃井章|撮影:萩原憲治|
出演:久米政行(高岡健二)|霜川幸枝(秋吉久美子)|中年男(長門裕之)|牟田修(河原崎長一郎)|利代子(横山リエ)|幸枝の兄(石橋正次)|吉村クニ子(悠木千帆)|ミキ子(山科ゆり)|広村ヒサ子(中原早苗)|深谷ウメ(三戸部スエ)|松崎敬造(陶隆)|松崎文子(南風洋子)|松崎進(山本コウタロー)|管理人(小松方正)|

【 藤田敏八監督の映画 】
これまでに掲載した作品です。画像をクリックしてお読みください。

写真
「妹」
主演:秋吉久美子、林隆三
写真
「もっとしなやかにもっとしたたかに」
主演:森下愛子、奥田瑛二
写真
「修羅雪姫」・「修羅雪姫 怨み恋歌」
主演:梶芽衣子

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映画「ストロベリーショートケイクス」  監督:矢崎仁司

上








 恋に悩む東京の女4人、それぞれの生きざまドラマ。

 その、それぞれの生きざまは、世の中、こんな女がいるだろう、と思われる女性像を、意識的にデフォルメして、美しく標本化し、花のイラスト図鑑のように仕立ててある。

 恋に悩む女4人は、二組のペアになって登場する。(つまり映画は、4人個別の恋物語で、同時に二組の物語でもあります)



1-0_201805031336155ad.jpg 里子(池脇千鶴)と秋代(中村優子)。
 このふたりは、ちょっと高級なデリバリーヘルスの店「ヘブンズゲイト」に勤めている。里子は店の電話受付嬢、秋代はヘルス嬢。
 里子は、過去に破れた恋からやっと抜け出せた、そして今、夢のような恋をしたい願望真っ最中。
 秋代は、成就しえない恋を抱えている。思い続ける彼氏とは、専門学校の同窓の菊地(安藤政信)。男と女の親友同士で菊池にその気はないし彼女がいる。

2-0_201805031337298be.jpg ちひろ(中越典子)と塔子(原作者の魚喃キリコ、俳優芸名岩瀬塔子)。
 こちらのふたりは、ルームシェアするふたり。ちひろは、いわゆるOLで、塔子は売れだしたフリーのイラストレーター。
 女4人のなかで唯一、恋の現在進行形を行くのは、OLのちひろ。相手はビジネスマンの永井(加瀬亮)。ちひろは永井の部屋に通う。
 塔子は、彼氏に捨てられ、忘れようとして忘れかけている恋を抱えている。

 里子の話は、漫画チックに喜劇仕立ての風味。結局里子は店を辞め、バイトし始めた高架下の中華の店の、あの男と一緒になるのか。
 秋代の話は、あれがそうなら、恋は成就できなかったけれども授かったのかな。
 女4人のなかで唯一だったちひろは、一番悲しい。
 塔子は、元カレからの結婚式招待状で、忘れようとして忘れかけている昔の恋があることを、我々に見せる。 
 
 映画は、里子と秋代、ちひろと塔子の二組、女同士の話をそれぞれするが、建てつけが悪い。 
 また結末は、この二組の話をひとつにして終わらせようとするが、如何せん、無理がある。
 ちなみに、エピソードが一番リアルなのは、イラストレーターの塔子の話。発注者である編集者とフリーランスの葛藤軋轢でした。そして塔子の絵筆の筆さばき。

監督:矢崎仁司|2005年| 127分|
原作:魚喃キリコ|脚本:狗飼恭子|撮影:石井勲|
出演:里子(池脇千鶴)|秋代(中村優子)|ちひろ(中越典子)|塔子(岩瀬塔子こと魚喃キリコ)|ちひろの彼氏永井(加瀬亮)|秋代の彼氏菊地(安藤政信)|デリヘルの店「ヘブンズゲイト」の店長森尾(村杉蝉之介)|デリヘル嬢・ミチル(前田綾花)|デリヘル嬢・ユリ(宮下ともみ)|デリヘル嬢・サキエ(桂亜沙美)|街中華のリー(趙たみ和)|秋代の客(高取英)|秋代の客(諏訪太朗)||秋代の客(保坂和志)|秋代の客(戌井昭人)|編集長・大崎(矢島健一)|女医(いしのようこ)|里子の母の恋人・田所(奥村公延)|里子の母・町子(中原ひとみ)|ほか

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映画「正門前行」  監督:佐藤信介

100_20180422123801a99.jpg

 淡々としていますが、コメディです。

 この映画、監督の手による脚本の勝利です。
 回りまわっての結末で、ふたつの話を、巧みにストンと落とします。うまい!(と最後で思う)
 
 しかし、脚本を映像化する段になると案外難しい。(と思われる)
 普段のように普通にしゃべってねの演技も、う~ん残念ながら中だるみしがち。

 美大キャンパス内の学生間のうわさが、友達の知り合いのその知り合いというように、関連する学生らのそれぞれの勝手な発言によって、思いもかけない展開になるわけですが、うわさ好きじゃない私は、観ていてなんだか、そんな事どうでもいいじゃんとウザく感じます。
 が、ついつい最後まで観てしまったのは、この監督の独特な語り口にいつしか、引き込まれてしまったからでした。
 尺66分てのもいいですね。

 それから、容疑者扱いされてしまう松永君は、主人公の神崎君の彼女・恭子さんの、元カレ。
 このことに神崎君は嫉妬しても仕方ないのだが、神崎君は松永君を罵る、このシーンが可笑しい。
 それと、女子高生の瀬川さん(坂野友香)が、一番光っています。

 ちなみに、この映画、1997年の製作、つまり固定電話だけの時代。
 当時、アパート住まいの学生の部屋に電話は必ずしも有ったわけじゃない。
 iPhoneのある今、の設定なら、この話、どんな展開になったのでしょう。

監督・脚本:佐藤信介|1997年|66分|
撮影:河津太郎|
出演:主人公の神崎(内野勝就)|その彼女の恭子(伊藤聖子)|松永(川野弘毅)|瀬川(坂野友香)|掛井(脇坂宏志)|藤城(金子泰子)|森(森直子)|石塚(藤田英彦)|兼満(矢島淳子)|樋口(中村靖日)|ほか

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映画「宇宙人 東京に現わる」  監督:島耕二

上






 SF娯楽映画です。
 「宇宙人 東京に現わる」というチョット怖いタイトルですが、宇宙人地球侵略といった好戦的な話じゃない。

 我々よりずっと、科学的に文化的に進化した太陽系外の宇宙人・パイラ星人は、実は地球を案じてやって来たのです。
 しかし円盤がいきなり飛来し、地球は大騒ぎ。
 そんなわけで真意を伝えたいパイラ星人は、人間の姿に変身して東京の日本人に友好的にコンタクトをとろうとするのですが。
 
 それで分かったこと。
 パイラ星人が言うに「地球を観察していると、最近やたら地球のあちこちで核実験のキノコ雲が見られる。我々もかつて核を持っていたが廃絶した。地球人の未来を案じる我々は、地球人も核廃絶の道を選ぶように提言しに来た」と。(まるでノーベル平和賞を授賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の人のよう)
 「だから地球人のなかでも、広島長崎で悲惨な経験をした日本人と最初にコンタクトをとるのが一番だと考え、こうして話している」と。

1-0_20180308144029517.png 時を置いて次に分かったこと。
 地球人には発見できないほどにまだ遠くにいる天体R(彗星?)だが、いま刻々と地球に向かって高速で接近している、らしい。
 これは一大事!核保有各国はそれぞれに、そのすべての核爆弾を天体Rへ向けて発射し、天体破壊ないしはコース変更を試みたのですが、残念ながら天体Rに何の変化も起きませんでした。
 その間も天体Rは地球にどんどん接近し、今や肉眼でも見えだした。

 そこで、こりゃあかんと思ったパイラ星人は、世界でただ一人、ウリュウムという元素を発見し密かに研究する松田博士(山形勲)とコンタクトをとった。(パイラ星人も知らない発見だった)
 ウリュウムで作る爆弾は、原子爆弾や水素爆弾より破壊力があるらしい。
 パイラ星人は松田博士から研究成果を提供してもらい、地球近くの宇宙空間に浮かぶ母艦内で急ぎ爆弾を製造した。そして母艦からRへ向けて発射。Rは期待通り破壊された。
 かくしてパイラ星人は地球の危機を救ったのであった。(終わり)
 以上が話の核ですが、本作はSF娯楽映画ですので、パイラ星人という宇宙人らしさの強調、(SFによくある)科学者数人の懸命な働き、取り巻きの若い男女、無垢な子供たち、世間一般の驚き恐怖を中心に物語ります。

 話の顛末は至って単純なのですが、映画のあちこちに挿入される野外シーンが効果的で、映画を生き生きしたものにしています。センスの良さを感じます。

 本作製作年の1956年は、米ソともにまだ人工衛星を実現していませんので、実際はRへ確実に、核爆弾をロケット発射できなかったのでしょう。(たぶん)
 ちなみに1964年製作のスタンリー・キューブリックの映画「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」では、核爆弾はミサイルじゃなくて、まだ爆撃機B-52から「投下」していますね。(下線部から映画記事をご覧いただけます)

 また本作製作年の1956年とは、太平洋戦争(1945年)から11年経ったが、サンフランシスコ講和条約発効(1952年)からまだ4年しか経っていない。つまり国際社会の舞台に日本が復帰して間もないころ。まだまだ信用度は低かったろう。
 だからでしょうか、R天体破壊について、日本は海外各国に対し音頭をろうとするのですが、その外交姿勢は腰が引けていてドメスティック。内向的なのを感じました。
 ついでに言えば、日本の民間一般人が、観光目的で海外旅行が自由に出来るようになるのは、まだ8年も先。(1964年)
 そう考えると、観客は、東京に来て日本人に化けたパイラ星人の星よりも、外国のほうが遠い国と思って観ていたかもしれません。

 お話の結末のその後を考えると、Rに向けてすべての保有核爆弾を使いつくした核保有国は、また新たに核を製造するのでしょうね。
 一方、松田博士が発見したウリュウムについて、どこかの国がその研究成果を盗もうとするのでしょうか。(研究資料はR天体破壊後、破棄したということでしたが博士の頭の中にはあるわけです)
下2監督:島耕二|1956年|87分|
原案:中島源太郎|脚本:小国英雄|色彩指導:岡本太郎|美術:間野重雄|特殊技術:的場徹 、築地米三郎 、田中捨一|大映カラー使用作品
出演:磯辺直太郎(南部彰三)|磯辺徳子(目黒幸子)|磯辺徹(川崎敬三)|小村芳雄(見明凡太朗)|小村多恵子(永井ミエ子)|松田英輔(山形勲)|松田清子(平井岐代子)|天文台通信係(フランク・熊谷)|高島博士(河原侃二)|青空ひかり / 天野銀子(パイラ人)(苅田とよみ)|パイラ人第二号(八木沢敏)|パイラ人第三号(夏木章)|パイラ人第四号(津田駿二)|黒メガネの男(斎藤紫香)|ほか

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映画「ふりむいた花嫁」 主演 : 倍賞千恵子, 淡島千景, 伴淳三郎  監督 : 番匠義彰

上2



 昭和36年(1961年)のカラー娯楽作品、喜劇です。
 映画が語るのは、江戸時代から続く老舗「隅田」という、どじょう料理店を営む一家の話です。
 しっかりした脚本・演出を味わいつつ、さりげなく巧い演技というものを知ってほしい。

1-1_20180212193513891.jpg コミカルな役回りは、伴淳三郎、桂小金治、千之赫子、大泉滉らが主に担い、ラブストーリーは倍賞千恵子と山本豊三、淡島千景と伴淳三郎が担います。

 よってこの映画、伴淳三郎が主役の作品と言っていい。
 伴淳は、憧れのスター俳優といった風な看板は無いがしかし、名脇役というジャンルには収まらない存在感ある巧い俳優だ。
 はしゃがず抑えた演技と、笑いを誘うちょっとした仕草のセンスに、あらためて注目したい。
 これにあわせてか、桂小金治も比較的抑えて演技しているところが好ましい。また千之赫子、大泉滉はともに、伴淳・小金治とは違う角度から笑いを誘う。
 淡島千景が色っぽいが、淡島に対してピチピチ20歳の倍賞千恵子が、この映画の売りなんだろうが、これら俳優に森繁久彌とフランキー堺が加わると、どこの何の映画か分からなくなってしまうな、などと詰まらぬ事を考えた。

 さて、お話です。
 老舗どじょう料理店「隅田」のあるじ・亀太郎(伴淳三郎)には、新一(小坂一也)、その妹の春江(倍賞千恵子)と二人の子はいるが、妻は亡くしている。
 店は有名店で、観光バスのコースにもなっている。由造(桂小金治)や光子(千之赫子)、ベテランのおふく(高橋とよ)といった店の者は毎日大忙しの大繁盛。
 春江も店を手伝い、父にかわって帳場も接客もこなしている。生まれた時から、どじょう屋の中で育った春江はこの店この商売が大好き。

 一方、長男・新一は家の商売にまったく関心がない。大学時代から演劇の道を目指し、卒業後は就職もせず民放テレビドラマのエキストラ(端役)をしている。
 だから、新一に店を継いでほしいと思う父と、長男との口論はいつものこと。中に入るのは春江だ。
 そしてある日、次期連続ドラマで、ついに新一に主役級の役がまわってきた。
 そんなことで父は、娘・春江に婿を迎えることを考え始めた。さて由緒あるどじょう屋に最適な婿とは・・。

 次に男と女の話。
 亀太郎が組合の会合に行くと言っていつも行く先は、実は蓮子(淡島千景)がマダムのバー。
 ここでは亀太郎はある会社の社長さんということになっていて、本当の社長さんで福原という男(三井弘次)と亀太郎とが、店に来てはマダムの取り合いになっている。

 父がそうなら娘の春江は、「隅田」に来た中島という近所に住む男(山本豊三)と親しくなって行く。がしかし、父親は以前から付き合いのある、若きどじょう研究家の南小路邦麿(大泉滉)を勧めるのであった。

 父娘がそうならば、調理場を任されている由造(桂小金治)は、店に雇われの光子(千之赫子)と前からいい仲。だが由造は、あるじ亀太郎から「この店はお前が頼り」と言われ、それを盗み聞きした光子は、あるじは由造と春江さんを一緒にさせようとしていると早合点し悶々とする次第。(亀太郎が調理場の頭から婿養子になったのを知ってのこと) 
 ところが由造も「可愛い春江さんと一緒になってこの店のあるじになれるのかも・・」と思う期待の気持ちも隠せない。
 というわけで、何やらそれぞれにひと悶着ありそうな。

1-2_201802121937276ab.jpg ここで話を混ぜっ返す役が、春江の恋人となった中島君。
 その日、中島は「隅田」の店の奥、春江の家の居間にいた。つまり春江さんと結婚します宣言をしに来たのだが、結果は散々なことになってしまう。
 亀太郎はどじょう研究家の男が念頭にあり、サラリーマンの中島なんて問題外、そのうえ(誰にも言えないが)一番頭に来たのは、なぜか、蓮子を狙うあの福原が社長の会社・福原商事に、中島が勤めていることであった。
 春江はとうとう家出する。兄の新一が家を飛び出て住んでいる下宿に、かくまってもらった。

 さらには、混ぜっ返された話をまとめに入ったのは、バーのマダム蓮子(淡島千景)でした。
 新一の演劇仲間にキリ子(芳村真理)という俳優の卵がいて、この子が偶然にも蓮子の姪だった。そんなことが切っ掛けで、蓮子は新一から、春江と中島の仲を裂こうとするのが、常連客の亀太郎だと知ったわけ。
 それからのその日、今度は蓮子が春江の家の居間にいる。
 亀太郎はドキリとした。あの時のあの事を思い出したのだ。
 それは蓮子の店で、亀太郎は蓮子から真面目な顔で「あなたがお客の中で一番信頼できる方、私のこれからのことを相談したい方」と聞いた忘れられぬ一言。だから亀太郎はドキリとしたのち、ニヤリとした。

 しかし、蓮子の話は春江と中島の結婚を認めなさいという申し出であった。さらには「私が母親役として式に出たい」とまで言われて、亀太郎はうんと言う以外に言うことはなかった。「こりゃ、蓮子が「隅田」の女将になるかも・・」

 式は無事済んだが、亀太郎の隣に座る蓮子、その仲睦まじい二人の様子に妬き通しの福原社長であった。
 それから、亀太郎と蓮子はご苦労様を言い、そのあと亀太郎は意を決して言った。「俺の嫁になってくれないか」
 「ごめんなさい。夫に死に別れて5年、亡くした夫が忘れられない女なんです」

 しょんぼり店に帰って来た亀太郎は由造(桂小金治)に「お冷だ」と言う。「水じゃない」「へい、かしこまりました、特級冷や」(終わり)

 あれっ、「隅田」の跡取りはどうなるんだ?って話は残されたままで終わります。老舗の家の結婚は難しいようですね。
 ちなみに聞いた話ですが、この「隅田」のモデルになったであろう浅草の名店のお嬢さんが、これまた江戸時代からの老舗和菓子屋に嫁いだとか。
 最後に1961年の映画をちょっと。(ひっくり返して見ても1961、という腕時計のTVコマーシャルがあった年)

 東京浅草を舞台にした話の「ふりむいた花嫁」の製作年、1961年(昭和36年)を軸に、日本を見渡してみると・・
 東京の郊外、私鉄沿線では「喜劇 駅前団地」で、とんだ騒動がありました。(監督:久松静児)
 もうひとつの郊外、新しく宅地開発された丘陵地では、社内結婚した若夫婦が大家の二階を間借りしています。「二階の他人」(監督:山田洋次)
 銀座四丁目交差点では、スリの女と若い男がすれ違っていました。「セクシー地帯」(監督:石井輝男)
 「隅田」がある浅草の夜の街の影には、身寄りのない少年もいるんです。「不良少年」(監督:羽仁進)
 横須賀、軍港の街じゃ、やくざの抗争が報じられています。「豚と軍艦」(監督:今村昌平)
 東京大阪間を走る特急列車の食堂車では、コックとウェイトレスとの恋が・・・。「特急にっぽん」(監督:川島雄三)
 その大阪駅の構内では詐欺を商売にする男たちに気を付けましょう。「猫と鰹節 ある詐話師の物語」(監督:堀川弘通)
 そして京都伏見では、老舗の造り酒屋の一家で、やはり、あれやこれやがありました。「小早川家の秋」(監督:小津安二郎)
 それぞれ映画のタイトル名をクリックして、記事をお読みください。
監督:番匠義彰|1961年|89分|
脚本:笠原良三|撮影:生方敏夫|
出演:伴淳三郎(三田亀太郎)|小坂一也(新一)|倍賞千恵子(春江)|三井弘次(福原康之助)|淡島千景(マダム蓮子)|山本豊三(中島和男)|大泉滉(南小路邦麿)|芳村真理(キリ子)|高橋とよ(女中頭おふく)|千之赫子(女中光子)|下村朱実(女中トミ子)|桂小金治(職人由造)|中村是好(鳶職寅吉)|ほか

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一話 (京都、旅行、美味など)      書評   美術

クラシック音楽    ポピュラー音楽   

映画「強虫女と弱虫男」 主演:乙羽信子  監督:新藤兼人

1_20180209180846c34.jpg

 強い女が主人公の喜劇映画。
 女のバイタリティー(生活力)がスクリーンから溢れ出る迫力、力作です。

 時は昭和43年、映画の舞台となるのは京都祇園と、もうひとつは九州の筑豊。
 母フミ子(乙羽信子)と長女キミ子(山岸映子)は、ネグリジェ・キャバレー「平安母艦」のホステス。
 祇園の四条通から、(たぶん)「花見小路通上ル」あたりの夜の街で、母娘同じ店で働いている。

0 母フミ子と長女キミ子は、大勢いる店のホステス達を尻目に、客への積極的営業で店一番の成績。「はい、おビールいただきましょうネ」
 さらに母娘は、客たちの中から金づるになる「カモ」を探していた。
 母フミ子が見つけ出したのが西陣の織元のじいさん(若宮忠三郎)。店に内緒で小遣いをくれる。
 もう一人は長女キミ子についた客で、母フミ子は“本命のカモはこの男だ!”と言って策略を練って、娘がものにした男が権兵衛(観世栄夫)。権兵衛は「寿司食おう」といってキミ子を連れ出し、織元のじいさんより多額の小遣いをくれる。
 権兵衛は、京の街の外れに畑を持つ大地主(豪農)の一人息子。30歳代半ばの独身でバツ2。

 母フミ子には、長女キミ子の下に長男次女がいて、年上の夫・善造(殿山泰司)がいる。
 善造は筑豊の炭鉱の鉱夫で、これまで一家の生計を担ってきたが、炭鉱が閉鎖。その後は、年老いた善造の転職はままならず、一家5人は生活保護を受ける日々だった。
 善造一家らが住んでいた炭鉱の木造社宅は、閉山後、地元の代議士が買い上げ、この男が大家となる。
 善造ら家賃滞納の住人たちは、大家から嫌がらせを受けている。家の隣にわざと養鶏場を作り、鶏の騒音や悪臭で住人を追い出そうとする。
 善造の家では、生活保護の金で密かに買った白黒テレビや洗濯機があって、これについて大家はあれこれ言う。誰かの密告か。
 さらには、京都へ出稼ぎに行ったフミ子らの収入があるだろと、生活保護受給停止をちらつかせ善造を脅した。これに対し夫婦は形式上、離婚手続きをとって対抗する。
 それでも社宅住人達は立ち退かないので、大家は強硬手段に出た。

 さて、京都。権兵衛の屋敷。(歴史ある大屋敷)
 権兵衛の母(毛利菊枝)は権兵衛を叱っている。家の金を勝手に使って怒られている。
 しかもキャバレーの女・キミ子と結婚したいと言う権兵衛に、母は呆れてなすすべがない。
 最初の嫁は西陣のお嬢さんで家事ができなくて追い出され、二人目は姑に虐められて出て行ったらしい。そして親離れできない一人息子・権兵衛。

 一方、キミ子は、母フミ子の策略に従って、権兵衛に誘われるままにホテルで処女を与えていた。
 このことでキミ子は売春の罪で捕まった。(警察が知ったのは、権兵衛の母の指図で権兵衛の友人が動いた結果だった)
 キミ子もしたたかな女。(映画では言わないが、キミ子も家族を養う意気込みが凄い)
 権兵衛の母はフミ子を呼び出し直談判、10万円を差し出して、手を引いてくれと下手に出た。フミ子は金は受け取ったが、権兵衛の母が用意した証文にはサインしなかった。「私は字が書けません」と。

 さてさてキミ子に惚れ、どうしても結婚したい権兵衛は、フミ子キミ子が住む一間の貸間を訪ねる。
 だが母親フミ子はこの求婚の願い出を蹴った。
 蹴られて気持ちの行き場を失った権兵衛は、かっとなって思わず手元にあった果物ナイフでフミ子の腹を刺した。
 示談で済ませたい権兵衛の母であったが、フミ子はがんとして裁判を選んだ。そして勝つ。
 しかし、その後、家にやくざが押し入り、フミ子は殴られた。(この男が本作一番の強い男) 

 そののちフミ子は娘キミ子を連れて、筑豊の家に帰ってきた。
 帰ってみれば、夫・善造が大家の娘を妊娠させたという騒ぎ。(娘は飛び切り美人だが重度の知的障害がある)
 いや、善造だけじゃなく、社宅の男二人も交わったと言う。
 これをもって、大家は住人を追い出せると踏んでいた。
 だが実は濡れ衣、フミ子は大家を前にして、この一難をなんなくやり過ごす。(実は大家が3人を脅迫しての嘘の自白であった)

 それからまた日が過ぎて、フミ子と娘キミ子が列車に乗っている。
 駅弁を食べながら、「大阪にしようか、でもやっぱり京都よね」
 「あんた、権兵衛に惚れてたんじゃない?」
 ふたりの屈託ない笑い。(終)
 
 昭和40年代の「空気」を体現するネグリジェ・キャバレー「平安母艦」の店内シーンが圧巻。(経験ないが)
 くわえて、キャバレー店の海軍軍服姿の主任(戸浦六宏)が漫画チックさを添えている。
 総じて、新藤兼人作品のうちで好きな映画です。
 エネルギッシュないい映画なので、どこかの映画専門チャンネルで放映して欲しい。
監督・脚本:新藤兼人|1968年|107分|
撮影:黒田清巳
出演:フミ子(乙羽信子)|キミ子(山岸映子)|権兵衛(観世栄夫)|平安母艦の主任(戸浦六宏)|善造(殿山泰司)|フミ子の常連客(若宮忠三郎)|権兵衛の母親(毛利菊枝)|権兵衛の友人・川原(草野大悟)|炭鉱社宅住人・ステテコ(山村弘三)|炭鉱社宅住人・フンドシ(宮田勝)|権兵衛側の弁護士・熊谷(浜田寅彦)|フミ子の長男(中学生)の担任の先生・矢島教師(小川吉信)|キャバレーの歌手(佳川ヨコ)|大家の娘?竜(中村良子)|山野(武周鴨)|オミツ(川口敦子)|

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クラシック音楽    ポピュラー音楽   

映画「歌行燈」(1943年)  監督:成瀬巳喜男

1_20180129125858dd6.jpg

 話は明治の30年頃。
1-0_201801291259301d7.png 将来を期待されていた観世流の能楽師、恩地喜多八(花柳章太郎)がある事でしくじり、父親で家元の恩地源三郎に「二度と謡を口にするな」と言われ、勘当(破門)される。

 その後、喜多八はあてもなく東京を離れ、地方の盛り場で三味線を弾き、当時はやりの博多節を、客の求めに応じて歌う「流し」稼業に落ちていった。(博多節とは花柳界のお座敷唄。喜多八の様な稼業を博多節の「門付け」と言う。街を流し歩き、待合茶屋や呑み屋の前に立って唄い、客や芸者からお金を頂く商売)

2-0_20180129130102072.png 喜多八のしくじりとは、伊勢に住み名古屋辺りじゃ著名な謡曲の師匠、宗山という盲目老人を自殺に追いやったことであった。
 事の発端は、喜多八はじめ家元総出の名古屋公演の折り、ある客が喜多八の芸は未熟だと批判し、ついては「宗山先生に教えを請え」と言われたことから始まった。

 さて、無事に名古屋公演を終えた家元・恩地源三郎と、喜多八の叔父・辺見雪叟は、喜多八を伴い、骨休みにと前から計画していた伊勢に逗留する。これは喜多八にとっては好都合であった。
 宿に着いてのその夜、喜多八は宿をそっと抜け、宗山の家を探し出し、その家に上がり込んだ。

 俺は観世流家元の倅、恩地喜多八だ、田舎者の宗山とやらに、観世流の芸の高さを思い知らせよう。
 一方、盲目の宗山は突然の客人・喜多八を、駆け出しの能楽師と思い、自信たっぷりに謡を披露し始める。
 喜多八は鼓を打つかわりに、その謡に合わせて腿を叩く。そして徐々に、宗山の拍子を先導し、謡の息の間合いを縮めていく。 
 追い詰められて宗山は、ついに息が切れ畳に打っ伏した。(このシーンはお侍で言えば道場破りだ)
 宗山は喜多八に頭を下げ教えを請うとしたが、喜多八は意気揚々とその場を去った。振り返れば若気の至りであった。

 翌早朝、宿に新聞記者が押し寄せていた。宗山の自殺だ。
 家元・恩地源三郎は、記者たちの前で倅の喜多八の非を謝罪し、その場で即座に喜多八を破門にした。

 こうして博多節の門付けとなった喜多八は、三重県辺りで毎日をうつろに漫然と過ごしていた。
 そんなある日、喜多八は同業の門付け芸人・次郎蔵と出会い意気投合する。
 そして奇遇にも、この次郎蔵を介して喜多八は、宗山の娘・お袖(山田五十鈴)を知ることになる。

 父を亡くしたお袖は、親戚に家を追い出されて芸者になっていた。だが、不幸にもお袖に音楽の才が無い。三味も弾けぬ芸者は芸者と言えぬ。身を売るしかない。
 これを不憫に思う喜多八はお袖に舞を教えた。お袖は喜び懸命に習った。それは喜多八の思う罪滅ぼしでもあった。そしていつしか、ふたりに恋が芽生え始める。

 さて、家元・恩地源三郎は、一門に喜多八に優る謡の担い手が育たず悶々としていたが、それでも名古屋興行を決行した。
 そののち、源三郎は弟の辺見雪叟と再び、伊勢の宿にいた。二人はあらためて時の巡りを感じ、その思いを打ち払うべく、芸者でも呼ぼうか、となった。

 街の芸者たちは他の大きなお座敷に呼ばれていたのだろう。芸者置屋にただ一人残ったお袖が源三郎の座敷に呼ばれる。
 そこで、芸の無いお袖は、おずおずと源三郎に舞をみせた。
 さすが家元たちである。その舞の動作に観世流を直観する。これはまぎれもなく喜多八が教えたに違いない!
 そこに、この様子を庭の隅から見ていた喜多八が登場し、お袖は宗山の娘であること、そしてお袖を救い罪滅ぼししたことを話す。
 これを聞いた源三郎は破門勘当を許し、喜多八お袖はじめ叔父も喜び涙ぐむのであった。めでたしめでたし。

 原作者は泉鏡花。
 泉鏡花のあの、装飾音符連射の、艶ある幻想的表現、あれを映画にするのはとても難題。
 そして山田五十鈴の演技だが、1935年溝口監督「マリアのお雪」に、当時18歳で主演した山田五十鈴のあの素晴らしい演技とは、比べようがない出来。(「マリアのお雪」の記事はこちらから、どうぞ)
 別な見方をすれば、本作製作は昭和18年、戦争のさ中によくこんな映画が作れたものだと思う。戦意高揚の影響はフィルム上、「一億で背負へ、誉の家と人」というスローガンと下記の写真だけだ。(東宝のマークの下に東南アジアの地図)

 ちなみに、喜多八が歌う博多節が実にいい。(街の人々がそれを惚れ惚れと聴くシーンがある)
 最後にどうでもいいことだが、喜多八が東京から姿を消したあと、父親が言うセリフ。「たぶん、京都大阪か、あるいは伊勢近江あたりにいるんだろう」の、伊勢近江が気になった。特に近江だ。明治の頃、近江は今よりずっと栄えていたんだと思った次第。
監督:成瀬巳喜男|1943年|93分|
原作:泉鏡花 『歌行燈』|脚本:久保田万太郎 |撮影:中井朝一|
出演:恩地喜多八(花柳章太郎)|お袖(山田五十鈴)|喜多八の父・恩地源三郎(大矢市次郎)|喜多八の叔父・辺見雪叟(伊志井寛)|お袖の父・宗山(村田正雄)|門付け芸人の次郎蔵(柳永二郎)|ほか

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クラシック音楽    ポピュラー音楽   

映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」(2016年) 主演:神木隆之介、長瀬智也  監督:宮藤官九郎

上

 奇想天外、波乱万丈なドタバタ喜劇でありながらも悲劇、かつ純情恋愛物語。
 そして、ロックバンドのお話でもあり、さらには輪廻転生、これがストーリーの要となります。
 125分、一気にみせます。

1-0_20180118102841587.jpg 高校生の大助(神木隆之介)の乗る修学旅行の観光バスが突然、断崖絶壁から真っ逆さまに転落。
 気が付きゃ、大助は地獄にいた。どうして、俺が地獄なんだ。それより、俺、死んだの?
 なぜに地獄なのか、それはあまりにも不条理、ほんに些細な罪とは言えぬ罪だった。
 バスに乗っていたほかのクラスメイトは、ここにいない。皆は天国なのか・・。俺だけかよ!

 そんな大助の前に、鬼のキラーK(長瀬智也)が現れる。
 キラーKは地獄のロックバンドのリーダーでギター&ボーカルであった。
 (バンドメンバーは、ドラムのCOZY(桐谷健太)、ベースの邪子(清野菜名))

 お話は、このキラーKと大助を軸に、地獄絵図の世界と生前の世界とを交互に描いていく。
 二つの世界を結ぶのは、大助の輪廻転生。大助はさまざまな動物となって何度も現世に現れる。そして現世で見たことを地獄以外には行けない鬼のキラーKに話す。
 (現世に比べて地獄の時間の歩みは遅く、地獄のちょっとした時間が現世では1年2年であったりする。結果、現世の未来へのタイムマシンの様相を呈する)

2-0_20180118103018cc6.jpg この舞台仕掛けの中、大助はあこがれの同級生ひろ美(森川葵)のその後を知り、またキラーKの彼女なおみ(尾野真千子)のその後も知ることとなる。それぞれの恋愛に共通するは純情恋愛物語。

 さて地獄では、ド派手なロックバンドの決戦が繰り広げられる。
 なぜか地獄にいる、大助の同級生・じゅんこ(皆川猿時)率いる地獄のガールズバンドは強敵であった。

 しかし、そんなことより、大助あこがれのひろ美ちゃん、キラーKのなおみちゃんのことが気にかかかるわけでありますが、映画はそれをちゃんと語ります。
 さらには、ついに大助は天国に行けたのですが・・・。(この天国の様子が可笑しいです。仏(荒川良々)、神(瑛蓮))

 兎に角、ひっちゃかめっちゃかなストーリーなのですが、宮沢りえ(20年後のひろ美)、烏丸せつこ(牛頭)、田口トモロヲ(馬頭)、みうらじゅんも出演しています。
 また、憂歌団の木村充輝(小鬼)や、ギタリストのChar(鬼)や、シシド・カフカ(地獄のガールズバンド・ドラマー)らも出ています。

 サウンドについて言えば、ハードロックな演奏が大半だが、キラーKがバンドを従えて大助に対して歌うファンキーな曲がいいし、大助の同級生で転落事故の生存者であったが40歳代になって不倫で地獄へ落ちた松浦(古舘寛治)が一人でキーボードを弾くシーンでのファンキーな演奏がいい。

監督・脚本:宮藤官九郎|2016年|125分|
撮影:相馬大輔|
下出演:関大助(神木隆之介)|キラーK、生前は近藤善和(長瀬智也)|近藤善和の彼女・なおみ、あだ名は死神(尾野真千子)|大助が想いを寄せる同級生・手塚ひろ美(森川葵)|COZY(桐谷健太)|邪子(清野菜名)|大助の同級生・じゅんこ(皆川猿時)|大助の同級生で生存者であったが不倫で地獄へ落ちた松浦(古舘寛治)キラーKからウェストバックと呼ばれる|閻魔大王のえんま校長(古田新太)|20年後のひろ美(宮沢りえ)|地獄のガールズバンド・ドラマー(シシド・カフカ)|地獄のガールズバンド・ベーシスト(清)|大助の母親(坂井真紀)|仏(荒川良々)|神(瑛蓮)|MOJA・MJ(みうらじゅん)|鬼ギタリスト(Char)|ジゴロック挑戦者(野村義男)|ジゴロック挑戦者(ゴンゾー)|地獄の軽音楽部(福田哲丸)|地獄の軽音楽部(一ノ瀬雄太)|地獄の軽音楽部(藤原一真)|地獄の軽音楽部(柳田将司)|歌うたいの小鬼(木村充輝)|鬼警備員(関本大介)|緑鬼(ジャスティス岩倉)|牛頭(烏丸せつこ)|馬頭(田口トモロヲ)|鬼野(片桐仁)|

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映画「心に花の咲く日まで」 主演:淡島千景  監督:佐分利信

上

 いい映画を見つけました。よく出来た作品です。
 「昭和30年」を生きる、すず子(淡島千景)という女の日常を、あたたかく描く映画です。
 穏やかな喜劇でありますが、スパイスを効かせた突飛なエピソードが所々に仕掛けられています。

1-0_20180110122812af3.png 畑が続く武蔵野の郊外に住むすず子は、夫の笹山三吉(芥川比呂志)と赤ちゃんの三人暮らし。
 三吉は造船会社の技師でしたが、会社が倒産し今は無職。
 そんなことで夫にかわってすず子が、習い覚えた洋裁でわずかな稼ぎをしています。
 三吉はというと、好きな交響曲「田園」のレコードを聴きながら子守りや家事をし、時に造船の研究をしています。
 すず子は、呑気で優しいそんな三吉が好きですが、二人そろって銭湯にも行けない貧しさが、いつまでも続けられないと思っています。
 三吉はあれこれ職探しをしていますが、贅沢にも選り好みしています。それは、なにしろ、三吉は口下手で人との応対が上手くないため。すず子も仕方ないなと夫を見守っています。でも時々いら立ちます。

 さて、こんな一家を見守る人々がいます。
 すず子と同窓の原さん(丹阿弥谷津子)は、この家に少しのお金を貸したり時折、土産を持ってきます。原さんは、友達のすず子が心配ですし、いい旦那と暮らしているすず子を羨ましく思っています。実は原さんは妾の生活をしているのです。(そんな気持ちをすず子に吐露するシーンがあります)

 すず子の実家は都内にある大きな家です。父親は既に他界しているようで、いまは裕福ではありませんが、母親は健在です。弟も陰ながら姉を気遣います。
 そして、造船会社の元上司たちも三吉の行く末を心配しています。

2-0_20180110122932fd0.jpg 続いて、突飛なエピソードとなる喜劇的登場人物も、この一家を見守っています。
 いや、すず子と三吉が世話しているといった方がいいかもしれない二人が、すず子の家の隣に住む、森下さん(杉村春子)と、その愛人で森下さんよりずっと年下の志野君(仲谷昇・当時26歳)。(三吉が志野君と呼ぶのです) 
 森下さんと、美男子で小説家志望の変人で女たらしの志野君とのドタバタは、この映画に賑わいを添えます。

 そして、すず子の姉(文野朋子)。姉は出戻りで実家にいます。離婚がそうさせるのでしょうか、姉は独善的でガメツイ女です。すず子が盲腸で入院し、その入院費が払えないという時、姉は金を貸そうかと言います、銀行利子で。

 結局、入院費は三吉が家の家具や大切な蓄音機を売って払いました。
 退院後、家に帰ったすず子は、家ががらんとしているのに驚きます。
 三吉が売らずに残したものは、すず子のミシン、ベビーバスケット、三吉の造船研究模型、そしてテニスラケット。
 学生時代、三吉はテニスが上手で、すず子は三吉のその姿に惚れたのでした。


 話は、三吉の元上司が、三吉に研究所の職を世話するところで穏やかに終わります。
 この映画、ところどころでフォトジェニックなシーンを見せます。(お見逃しなく)
 そんなシーンも手伝って、この映画の中を吹く、ふくよかなそよ風が感じられれば、いいですね。これが本作の肝です。 
 小津映画などでの杉村春子の役回りに慣れ親しんだ向きには、この映画の森下さん役の演技が写実風に見えるかもしれませんが、そうではありません。

監督:佐分利信|1955年|109分|
原作:田中澄江|脚本:田中澄江、井手俊郎|撮影:藤井静|
出演:笹山三吉(芥川比呂志)|笹山すず子(淡島千景)|森下さん(杉村春子)|志野君(仲谷昇)|すず子の母親・山崎とき(長岡輝子)|すず子の姉・山崎たか子(文野朋子)|すず子の弟・山崎良(飯田紀美夫)|すず子と同窓の原さん(丹阿弥谷津子)|ほか

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映画特選:アナーキーにぶっ飛んでいくコメディに乾杯!(日本映画編)

 荒唐無稽で波乱万丈なコメディ。
 一度はこんな映画を作りたい、遊んでみたい、そんなことを思う監督がいるんです。
 もちろん、そんな映画を自分の持ち味とする監督もいる。
 あるいは、若かった、だから、やれました的な監督もいた。

 どれも一夜一話の特選映画です。
 これまでに掲載してきた映画から厳選した33本
 そのうち、ここに9本並べます。
 いやいや、33本のすべてを見たい方は、こちらから

写真
「穴」
監督:市川崑 (1957)
京マチ子、船越英二、山村聡

アップテンポなコメディ。1957年製作
の映画だが、今も新鮮!
コメディなセリフは、よく吟味されて
いて、言葉の奥行きを感じさせつつも
軽く滑らか。時にズバリと言うが、決
して重くならない。セリフが飛び交う
シーンは、緊張と緩和を持ち前のリズ
ムに乗せて勢いよく語ってくる。
ストーリーは、波乱万丈な人間模様を
描きながら、アウトローで向こうっ気
の強いフリー女性ジャーナリストの冒
険物語。
写真
「イン・ザ・プール」
監督:三木聡 (2005)
オダギリジョー、松尾スズキ、田辺誠一

この馬鹿馬鹿しいコメディに、付いて
行けるかどうかが、いい映画と感じる
か、つまらんアホくさと感じるかの分
水嶺。
あるいは、オダギリジョーに、あんな
役させるの?が分水嶺かも。
あるいは、原作は原作、映画は映画と
して、別なものとして切り分けて楽し
めるかどうかが、分水嶺。そんな映画
です。
物語はメンタルヘルスケアが必要な人
が増えてますテナ話です。精神科医も。

写真
「ウルトラ ミラクル ラブストーリー」
監督:横浜聡子 (2009)
松山ケンイチ、麻生久美子

超・奇蹟的なラブストーリー。ただし、
この映画、結構、荒唐無稽ですので、
ご注意を。
生まれつき精神障がいを持つ青年と、
東京から流れて来て保育園に勤め始め
た町子先生。青年は町子先生と出会い、
いっぺんで一目ぼれ。
彼は、いつもの能天気さで、積極的に
町子先生に接する。
これに対し、一歩も二歩も引く先生で
あった。さてこのお話、どう展開する
のやら・・。

写真
「億万長者」
監督:市川崑 (1954)
久我美子、山田五十鈴、木村功

極上の喜劇映画です。
アナーキーでトンガってますが、しっ
かりとした娯楽映画です。
東京がまだ戦災から復興しきれていな
い頃の話。あばら家に住む一家に税務
署の若い職員が納税の催促に来るので
すが、とても催促できない状況。
加えて原爆を開発する女、賄賂の密談
を暴露する赤坂芸者の話が絡み合い、
話は思わぬ展開になります。
俳優たちが皆、喜々として演技してい
る。これが一番の見どころです。

写真
「音曲の乱」
監督:林海象 (1992)
佐野史郎、東京スカパラ、鰐淵晴子

時は現代だが、まだ徳川の天下。
そう、江戸幕府が390年続いているSF。
佐野城の城主はバカ殿で、その上、無
類の女好き。
城下町のあちこちにキャバレーやSM
クラブがあって、千両箱を小脇に抱え
た殿は毎日、こんな店で過ごしている。
そんな折、南蛮渡来の音曲が殿の耳に
聴こえ始めた。これは妖術だ!
さっそく音術の忍び七人衆が呼び集め
られた。それぞれ得意の楽器を武器と
する、手練れたちだ。そして世は乱に。

写真
「亀は意外と速く泳ぐ」
監督:三木聡 (2005)
上野樹里、蒼井優、伊武雅刀、嶋田久作

夫の海外単身赴任で1人ポツンと毎日
を送る主婦・片倉スズメ(上野樹里)
のお話。
これは実話なのか、それとも暇を持
て余す女の誇大妄想なのか。
話は、てんでばらばら無秩序に破天荒
に展開するおバカな話なので、アホら
しくて途中で投げ出す人もいるかも。
とにかく、スズメは募集広告を見てス
パイになった。
スズメは先輩のスパイ達と行動を共に
しだすのだが・・。

写真
「川下さんは何度もやってくる」
監督:いまおかしんじ (2014)
水澤紳吾、佐藤宏、櫻井拓也

生活は貧しく頼り甲斐いないが、仲間
に思いやりある、あったかい男たちの、
おバカで物悲しい喜劇映画です。
先輩の川下の通夜。なんと先輩が棺桶
から、むっくり起き上がった。
そんなことで始まるこの映画、30代後
半の男三人のショボさを愛情持って
描いている。
とりわけ、川下役の佐藤の怪演ぶりは
最高だ! この人の演技は、映画撮影
の枠に収まらない。そして、セリフの
数より豪快な笑いのほうが多い。

写真
「教祖誕生」
監督:天間敏広 (1993)
萩原聖人、北野武、岸部一徳

北野武原作の映画。ちょっとひねくれ
た喜劇です。
いかがわしい教団が徐々に大きくなる
過程で、新たな教祖が誕生する話。
信者獲得はビジネスで、収益がないと
教団の繁栄はない。街で拾った老人を
教祖に仕立てたが、図に乗ってきたの
でクビにした。
しかし教祖は必要不可欠だ。司馬(北
野武)は高山(萩原聖人)に「教祖」
をやれと命じる。まるで人事異動に近
い感覚だ。


写真
「空気の無くなる日」
監督:伊東寿恵男 (1949)
深見泰三、花沢徳衛、河崎竪男

ハレーすい星の接近で村中が大騒ぎ、
というお話です。舞台は富山の村。
空気がなくなる!
すい星が接近して来て、その引力で地
球の空気が吸い取られてしまう。
空気がなくなるのは5分間らしい。
ある人が考えた。タイヤチューブ内の
空気を吸えば、5分間は凌げる。
一方、校長は生徒を校庭に集め、さっ
そく始めたその訓練は、洗面器に水を
はって顔をつけ、できるだけ息を止め
る訓練だった。


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映画「川の底からこんにちは」 主演:満島ひかり  監督:石井裕也

上

 「どうせ、私は中の下」だしと言い、何事もはなから「しょうがない」と諦め、流されるままに生きて来た佐和子(満島ひかり)。
 しかし映画後半、佐和子の、開き直っての大進撃に、スカッとするお話。
1-0_20171215101247bdf.png
 佐和子は、家出のついでに、高校の先輩を引っかけて駆け落ち。
 東京へ出て、はや5年。
 この間、愛に恵まれず、先輩含め4人の男に次々に捨てられ、今は派遣でOL、独り住まい。
 5人目の男は職場の正社員、健一(遠藤雅)で、彼はバツイチ子供一人付。
 佐和子に結婚の意思はないのに、健一は娘に、佐和子のことを「新しいお母さん」と言っている。

 父親が入院したという知らせが佐和子に来た。良くないらしい。
 叔父は、見舞いを期に、実家に帰って来いと佐和子に言う。
 母親は既に他界していて、父親は一人でいる。
 
 佐和子の実家はシジミを販売している自営業。
 近くの湖から採れるシジミを漁師から買い上げ、パックに詰めて出荷する。
 出荷作業の工場には10数人のおばちゃんが働いていて、みな漁師の主婦。
 だけど実家の商売はまったくの右肩下がりの廃業寸前。

2-0_20171215102349ad9.png 健一は突然会社を辞めて、佐和子の実家へ子連れで行くと、ある日出し抜けに佐和子に言った。ハッ?私、聞いてないし!
 佐和子はこの5年、一度も実家に帰ってない。帰らない帰れない事情がある。
 それは父親に対する嫌悪感。工場の女を家に連れ込んだ現場を見てしまった。まだ多感の年ごろだった。

3-0_20171215102751d63.jpg しかし、ま、とにかく、佐和子と健一親子は実家に帰ってきた。見舞いもした。
 叔父だけは佐和子を気遣うが、周囲の視線、とりわけシジミ工場のおばちゃん達は、佐和子は父親を捨て駆け落ちした女だ言い、冷たい。

 そんななか、こともあろうに健一が工場の女と駆け落ちする。女は工場で唯一若い女、佐和子の同窓。

 このことが佐和子の心のスイッチをオンにした。ここから佐和子の人生、ヤケッパチの大進撃が始まった。
 私が商売を立て直す!
 思いもよらぬこの気迫に父親もおばちゃん達も、佐和子に惚れた。
 あとは観てのお楽しみ。

 いい映画です。娯楽作品に仕上がっています。

監督・脚本:石井裕也|2009年|112分|
撮影:沖村志宏|
出演:木村佐和子(満島ひかり)|新井健一(遠藤雅)|新井加代子(相原綺羅)|木村忠男(志賀廣太郎)|木村信夫(岩松了)|遠藤進(菅間勇)|塩田敏子(稲川実代子)|塩田淳三(猪俣俊明)|村岡友美(鈴木なつみ)|斎藤響子(牧野エミ)|月島さん(工藤時子)|杉山さん(安室満樹子)|中島さん(しのへけい子)|江口さん(よしのよしこ)|高木正樹(並樹史朗)|サユリ(山内ナヲ)|モトカ(丸山明恵)|腸内洗浄スタッフ(目黒真希)|川上良男(森岡龍)|ギャル(廣瀬友美)|医者(潮見諭)|保育園の先生(とんとろとん)|

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クラシック音楽    ポピュラー音楽   



映画「天の茶助」 主演:松山ケンイチ  監督:SABU

上

 あなたの現在過去そのすべては、天界の、大勢いる人生脚本家のひとりが執筆した脚本に書かれている。
 あなた担当のその人生脚本家は、今このときも書き続けている。あなたのすぐの未来を、先の未来を。

0_201712051850155e3.jpg このユニークなドラマ設定がなかなか良い。
 挿入される有名映画のパロディ(下記)や、コミカルなシーンもいい。アクションシーンも悪くない。
 また、時系列の中で、その間の推移を語る説明シーン、これをヒョイと省略ジャンプする場面切り返しに、スピード感があって荒削りで斬新だ。
 沖縄の伝統芸能エイサーの踊り、あの衣装、太鼓の響きの中に、天界から降りた主人公・茶助らを放り込んだのもGood。
 松山ケンイチを選んだキャスティングもいい、こんなお話には、たぶん彼が一番最適だ。
 白塗り顔の、狂気警官の鋭い笑いはスクリーンを突きぬけて行く。テント芝居の役者のよう。

 だが、良いのは、ここまで。
 情に訴えるシーンが、とても冗長。ゆったり見せて堪能してもらおうとの顧客サービスが見え見えで、観ていてしんどい。
 そのほか、各所に、分かりやすさの配慮が散りばめられていて、ここまでしなきゃいけないんだ。
 茶助の念力で不治の病人を直すシーンで、茶助の念力疲れを、目の下のクマのメイクで表現させるところは、遊びかな。
 とにかく、良い/良くないが、マダラ模様を呈して展開して行く。
 売れなきゃが第一なんだろうけれども、プロデューサー・市山尚三のお考えか。着想が良いだけに、踏ん張ればもっといい作品になったのに、残念。

 ストーリーはこんな感じ。
 天界でお茶くみをしている茶助(松山ケンイチ)は、ある人生脚本家が担当する脚本中の女性ユリ(大野いと)に惚れていた。
 しかし、脚本を盗み見するとユリは、この先、交通事故死するようだ。
 そうなるのは、他の人生脚本家が書いている脚本の中で、ある男が自暴自棄になって車を暴走させるからである。人生脚本家は他の脚本家が書く内容を曲げられない。

 ユリの人生を書く脚本家は茶助に言った。「ユリを救えるのはお前だけだ。下界へ行け。私は脚本でお前を支援するから。」
 このあとは観てのお楽しみ、かな。

監督・原作・脚本:SABU|2015年|105分|
プロデューサー:市山尚三|撮影:相馬大輔|
出演:早乙女茶助(松山ケンイチ)|新城ユリ(大野いと)|骨董店の種田潤一(大杉漣)|ラーメン屋の彦村ジョー(伊勢谷友介)|チャーリー・ポン(田口浩正)|早乙女茶子(玉城ティナ)|白塗警官(オラキヲ)|康夫(今野浩喜)|根岸一輝(RYO)|加賀謙一(DJ KEIN)|ヒットマン(山田親太朗)|黒竜会:黒木(寺島進)|ほか

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一話 (京都、旅行、美味など)      書評   美術

クラシック音楽    ポピュラー音楽   

 映画「タイタニック」や「ゴースト/ニューヨークの幻」のほかに、ウォン・カーウァイの香港映画「恋する惑星」のサングラス女性や、アニメ「有頂天家族」に出くるような商店街アーケード屋根上シーンもあった。
 また、ラーメン屋の彦村(伊勢谷友介)が女優の女性と出会い頭にぶつかるシーンは、「ノッティングヒルの恋人」ですね。
 そのほかに私が連想した映画。
 天界から降りてきた男の背に羽があるのはヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」、狂気じみた白塗り顔の男は、岩井俊二監督の「スワロウテイル」に出てくる男を思い出す。
 アーケード街で格闘する強い男は、真利子哲也監督の「ディストラクション・ベイビーズ」をイメージした。天界の人生脚本家たちの白装束は韓国映画の「祝祭」を連想した。
 それと病気を治す茶助の不思議な念力は「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」あたりかな。
 (画像をクリックしてお読みください)

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「恋する惑星」
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「ベルリン・天使の詩」
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「スワロウテイル」
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「ディストラクション・ベイビーズ」
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「祝祭」





映画「雁」(がん) 1953年 主演:高峰秀子 監督:豊田四郎

上





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 明治13年(1880年)ころのお話です。
 明治になったとは言え、人々の心は、まだまだ江戸時代のままだったでしょう。そんなことを念頭に観てみましょう。
 舞台は、下谷練塀町(秋葉原駅周辺)と、上野不忍池あたり。

 練塀町の裏店(裏通りの貧乏長屋)に住む父娘、名は老父の善吉と、その一人娘のお玉(高峰秀子)。
 老父は飴細工をして売り歩く飴屋だが、もう歳で商売ができないようでした。また、お玉に稼ぎはなかった。

 高利貸しの末造(東野英治郎)は、ちょいと金が貯まって妾が欲しい。そこで、おさん(飯田蝶子)という女が動いて、未造にお玉を勧めた。この話がうまくいけば、おさんは未造からの借金が帳消しになるのだった。
 おさんは出戻りのお玉に言った、これで父親も楽ができるんだよ。また、おさんは未造のことを呉服屋の旦那だと言って嘘をつき、事をすんなりすすめようとした。

 未造がお玉のために用意した小さな妾宅 は、不忍池の池端から坂を登ったその道沿いにあった。
 未造は家に妻子を置いて、妾宅に頻繁に通った。だが、浮気はばれる。人の口に戸は立てられぬ。
 早くも未造の妻(浦辺粂子)は、お玉という女と、この妾宅の場所を密かに突き止めていた。お玉は未造の妻の影に怯えた。
 
 妾にならざるを得なかったお玉だったが、まだ二十歳を過ぎたかくらいの若さ。
 ある日、妾宅の前を行く東大生の岡田(芥川比呂志)に、お玉は恋心を抱くようになる。岡田の方もまんざらでもない。
 しかし、これは悲恋に終わるのであった。


 観終えて思うのは、高峰秀子の演技が妙に硬い。どうしたんだろう。
 それに演出手法が古典的。例えば、同監督の「泣虫小僧」は1938年製作だが、そんな古さはないのに。(「泣虫小僧」の記事は下線部をクリックしてご覧ください)

監督:豊田四郎|1953年|104分|
原作:森鴎外|脚色:成澤昌茂|撮影:三浦光雄|
出演:お玉(高峰秀子)|その父親・善吉(田中栄三)|高利貸しの末造(東野英治郎)|その妻・お常(浦辺粂子)|岡田(芥川比呂志)|木村(宇野重吉)|お玉の住む妾宅の隣家に住む和裁のお師匠・お貞(三宅邦子)|ほか

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【 豊田四郎監督の映画 】

 これまでに記事にした作品です。(画像をクリックしてお読みください)


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「泣虫小僧」
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「夫婦善哉」
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「猫と庄造と二人のをんな」
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「雪国」
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「珍品堂主人」
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「新・夫婦善哉」
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「台所太平記」
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「波影」


映画「西陣の姉妹」 監督:吉村公三郎

1_20171130084141042.jpg
長女・芳江(三浦光子)、次女・久子(宮城野由美子)、三女・富子(津村悠子)


 生活の糧を失う弱者たちを、新藤兼人が「京都」を舞台に脚本化、これに「偽れる盛装」「夜の河」と京都を描くを得意とする監督、吉村公三郎が腕を振るう。(下線部から当該記事をご覧ください)
 物語は昭和27年ごろ、西陣の織元の老舗「大森屋」の三姉妹を描く。

 振り返れば戦前から、和装のニーズは減っていた(と、セリフにある)。
 くわえて、手工業から機械化工業化へと進む中、京都西陣は手工業の伝統を守り、かつ高級品を生産するがゆえに沈滞、衰勢の状況であった。

 日本中の呉服屋に名の通った老舗大森屋、ここのあるじ大森孫三郎がある日、ピストル自殺。
 しかるべき各方面に借金を重ねても資金繰りがうまく行かずのことであった。
 残されたのは、妻のお豊(東山千栄子)と、長女・芳江(三浦光子)、次女・久子(宮城野由美子)、三女・富子(津村悠子)の三姉妹に、番頭の幸吉(宇野重吉)や大森屋の機(はた)を織る織り子たちと、西陣にある下請け工場(こうば)の織り子たち。そして莫大な借金。

2_201711300845125bc.jpg もとより、妻のお豊と三姉妹の女四人の誰もが、大森屋の今後を考えることはできなかった。
 そこで番頭の幸吉が、再建に向けての手はずを整えた。幸吉の申し出にお豊が承諾したのだ。幸吉は番頭でありながら心底、大森屋の人間であった。
 しかし、結果これがうまくいかなかった。肝心の問屋が破産し納品できなかったのだ。

 織り子たちがざわめき始める。
 わけても、高利貸しの男・高村(菅井一郎)が一気に高圧的な態度に出る。
 高村は既に、大森屋のあるじに金を貸していた。そして番頭・幸吉の手はずには、高村からの新たな借金も含まれていたのだ。
 高村は大森屋所蔵の掛け軸、器など道具類を持っていく。
 一方、下請けの織り子達が、何かしらの金を求めて談判にくる。
 これらに対応したのは、唯一気丈な次女・久子(宮城野由美子)であった。

 また、高村の高圧的な態度に刃向かったのは、日ごろ従順でおとなしい番頭の幸吉であった。
 事件の発端は偶然の出来事だった。
 高村に差し出す大森家の道具類の中に、袋に納めた日本刀があった。その日本刀を高村が、幸吉の手から強引に奪い取ろうとしたその時、高村は袋ごと刀の鞘(さや)の部分を握って引っ張ったため、結果、抜き身の刀を幸吉が持つ格好になり、そのままに幸吉は高村をじっと見た。

 そして幸吉は日本刀片手に高村に歩み寄る。恐れをなした高村は後ずさりし玄関へ。ここで幸吉が高村に切りつける。
 傷を負った高村は、あわてふためいて大森家を飛び出し、大通りへ。
 刀を持って追いかける高村。この沙汰を見守る通り沿いの人々。
 ついに警察が駆け付け、野次馬が取り囲む中、幸吉は現行犯逮捕。

 結局、人が中に入り情状酌量の末、幸吉は大森家に戻って来る。
 戻った幸吉の胸に次女・久子が顔を埋める。これまでの久子の緊張が解けて行く瞬間であった。

 しかし、大森家に金を貸した人々、高村はじめ、大森屋あるじと幼なじみの佐藤(進藤英太郎)などは、ついに土地家屋の引き渡しを迫る。
 そんな中、久子は幸吉に頼みごとを言う。戦争で夫を亡くした姉の芳江(三浦光子)と結婚してくれと。
 これを聞いて幸吉は静かに驚く。私はあなたが好きだった、そしてそれをご存知ですよね。久子は承知とうなずいた。
 そののち、大森屋の人々は散り散りに去り、家屋が取り壊され、敷地が露わになったころ、久子は西陣を去っていくのであった。

 菅井一郎演ずる悪役・高村の悪行に観客が打ちのめされる中、大通りを逃げ走る高村を、幸吉が日本刀を片手に追いかけるシーンで、観るものみな、幸吉アッパレと溜飲を下げることになるのでしょう。

 大森屋のあるじは、祇園の芸者・染香(田中絹代)を囲っていた。あるじの死後、この染香は、あるじが彼女のために建てた家を売って金に換え、妻のお豊に差し出した。また、再びお座敷に出ることにした染香は、お茶屋で高村に会うが皆の前で彼を罵倒する。ここでも観客は喜ぶだろう。

 大森屋が自殺した現場は、先斗町の鴨川に面したお茶屋の座敷であった。彼は幼なじみの佐藤(進藤英太郎)をこのお茶屋に呼んで再度の借金を頼んだが素気無く断られてしまう。そのあとの自殺であった。
 映画冒頭、このお茶屋の外観をカメラは鴨川から構える。二階でどんちゃん騒ぎをする景気のいい人々を撮影し、そして一階の大森屋がいる部屋を映し出す。

 番頭の幸吉が、兄に会うシーン。このシーンは堀川にかかる橋の上。2人が立つ背景に路面電車(京電)が堀川の鉄橋を渡っていくのが見える。ここは、堀川中立売。
 京電とは私鉄・京都電気鉄道でのちに京都市電に併合された。堀川を走るこの京電は北野天満宮から京都駅間を走った。
 吉村公三郎監督の1956年製作の「夜の河」では、京電が堀川の橋を渡って川の東を走るシーンが出てくる。
 ついでに言えば、1952年の本作「西陣の姉妹」では街の道は舗装されていない。「夜の河」ではアスファルト舗装はされてないが、奇麗に地固めされているのが見える。

監督:吉村公三郎|1952年|110分|
脚本:新藤兼人|撮影:宮川一夫|
出演:長女・芳江(三浦光子)|次女・久子(宮城野由美子)|三女・富子(津村悠子)|西陣の織元「大森屋」の主人・大森孫三郎(柳永二郎)|その妻・お豊(東山千栄子)|番頭の横山幸吉(宇野重吉)|大森屋の主人の二号さんで祇園の元芸者・染香(田中絹代)|大森屋の主人と幼なじみで西陣出の男・佐藤義右衛門(進藤英太郎)|高利貸しの男・高村義雄(菅井一郎)|三女・富子の婚約者・安井浩(三橋達也)|大森屋の直雇いの織り子(織工)の長・次郎爺(殿山泰司)|番頭の幸吉の兄、名古屋で工場を経営・横山岩次(近衛敏明)|ほか

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映画「スワロウテイル」 映画音楽に魅せられて 主演:CHARA 監督:岩井俊二

上

 日本のどこか、海沿いの都市、その市街の外れにある、円都(イェンタウン)と呼ばれる無法のバラック集落地区に、中国系不法移民たちが住んでいる。

1-0_201711171315104b1.png 映画冒頭で私たちはたちまち、この移民たちの日常世界に引き込まれる。
 それは、中国語をベースに片言の日本語・英語が混じる無国籍風のセリフ、かつシーンの様子も、いかにも無法地域らしく怪しげで素晴らしいからだ。ロケ地選択と美術の仕事の勝利だろう。

2-0_201711171316336f7.png 映画は、この円都(イェンタウン)での物語を第一章にして、次に円都の暮らしから離脱する主人公らの新たな展開を第二章にする二部構成。
 映画全体を通して思うに、正直言って脚本が弱い。
 弱いが、これを補って余りあるものにしているのは、なんと言ってもCHARA自身の魅力と彼女の歌。
 加えてやはり、映像イメージが牽引する無法の街のシーンの作りだ。

 ミュージシャンで女優のCHARAの魅力とは、少女っぽい舌足らずな中国語のセリフかも知れない。
 歌は、恥ずかし気に歌いだす「マイウェイ」もいいが、映画ラストに流れる「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」がいいですね。
 当時、この歌はヒットしてよく流れていました。曲の冒頭の、哀愁のある儚げなシンセサイザーの音色がいいし、もちろんCHARAのウィスパーボイスが魅力的です。
 映画製作の1996年はバブル崩壊の直後。そんな厭世的な気分が映画の背景にあるような気がします。 

 
監督・原作・脚本:岩井俊二|1996年|149分|
撮影:篠田昇|音楽:小林武史|主題歌:YEN TOWN BAND|美術:種田陽平|
出演:ヒオ・フェイホン(三上博史)|グリコ(CHARA)|アゲハ(伊藤歩)|リョウ・リャンキ(江口洋介)|マオフウ(アンディ・ホイ)|ラン(渡部篤郎)|鈴木野(桃井かおり)|シェンメイ(山口智子)|レイコ(大塚寧々)|星野(洞口依子)|医者(ミッキー・カーチス)|葛飾(渡辺哲)|須藤(塩見三省)|浅川(武発太郎)|アーロウ(シーク・マハメッド・ベイ)|ホァン(小橋賢児)|ワン(翁華栄)|アゲハの母・ユリコ(藤井かほり)|デイブ(ケント・フリック)|金髪男(ローリー寺西)|本田(田口トモロヲ)|楠木(鈴木慶一)|監査官(山崎一)|亀和田(北見敏之)|パンク男(光石研)|ロリータ店長(酒井敏也)|インタビュアー(クリス・ペプラー)|藤田(陰山泰)|ツェン(顧暁東)|ニハット(アブラハム・レビン)|チュンオン(楊錠宇)|クラブの客(浅野忠信)|少女アゲハ(鴨川寿枝)|YEN TOWN BAND(ブライアン・バートン―ルイス、カーク・D・ハバード、カレブ・ジェイムズ、アリ・モリズミ・MTV、 C.J.、ダニエル・グルーンバウム)|

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映画「あらくれ」(1957) 主演:高峰秀子 監督:成瀬巳喜男

上

 明治に生まれ、大正の時代を生きる女、お島(高峰秀子)の話。

1-0_20171112165819fbe.jpg お島は「あらくれ」な女、世間・風習に逆らって荒々しく振る舞い生きる女だと映画は言う。
 夫に盾突き、取っ組み合いの夫婦喧嘩をしたり、夫の浮気相手の女と組んずほぐれつの格闘をする。そして大抵、お島は勝つ。
 たしかに時として、お島は乱暴を働く女だが、果たして「あらくれ」な女だろうか。
  
 お島は、養女として育てられた。
 年ごろになった頃、養子先の家が一方的に決めた縁談を嫌い、祝言当日にお島はその家を飛び出した。
 そののち東京に出て、病で妻を亡くした缶詰屋の鶴さん(上原謙)と結婚。だが鶴さんの浮気が続き、夫婦仲は破綻、ついに離婚。

 離婚したはいいが、世間にお島の居場所はない。
 実家を出たきりの実兄を頼って、お島は見知らぬその地へ行くが、そこの旅館の女将に金を借りた兄が行方不明になる。お島は、仕方なく、その旅館の女中として働き始めた。

 旅館の若旦那、浜屋(森雅之)の妻は病弱で、静養のため実家にいた。そんなことで若旦那はお島に恋してしまう。
 やがて妻の身体が回復し実家から妻が帰って来る。板挟みになった若旦那は、お島を妾にして関係を続けようとするが、お島はこれを嫌い、再び東京へ出た。

2-0 縫製の店で働き始めたお島は、職場の男、小野田(加東大介)と所帯を持ち、洋服仕立て屋を始める。
 しかし、一緒になってお島は小野田に商才が無いことに気付き始める。そのうえ小野田は、女(三浦光子)とねんごろになり、家まで持たせる始末。
 業を煮やしたお島は、店の若い職人(仲代達矢)と小僧を連れて温泉地へ出かけた。それは、3人で新しく店を開こうという相談のためであった。

 
 たしかに、お島は男勝りで才覚がある。
 一方、登場する男たちは皆、器が小さく、お島が抵抗しようとすると、世間体を持ち出し、女を見くだす態度をとる。
 映画は、そんな男尊女卑がまかり通る時代に生きる女の自活を描こうとしている。

 がしかし、観終わってみれば、高峰秀子の演技は印象に残るが、男たちの人物像がどれも紋切り型で、結果、相対するお島の人物像も平板になってみえる。よって作品としてはいささか凡庸な印象だ。
 本作は原作と趣が少々違うかも知れない。

監督:成瀬巳喜男|1957年|121分|
原作:徳田秋声『あらくれ』1915年(大正4年)|脚色:水木洋子|撮影:玉井正夫|
出演:お島(高峰秀子)|缶詰屋の主・鶴さん(上原謙)|田舎の旅館の若旦那・浜屋(森雅之)|洋服の仕立て職人・小野田(加東大介)|お島の実父(東野英治郎)|お島の実母(岸輝子)|お島の兄・壮太郎(宮口精二)|お島の姉・おすず(中北千枝子)|お島の養父・喜助(坂本武)|お島の養母・おとら(本間文子)|作太郎(谷晃)|植源の隠居(林幹)|植源の隠居の息子・房吉(田中春男)|鶴さんの幼なじみで小野田の女になった女・おゆう(三浦光子)|浜屋の妻・お君(千石規子)|精米所の主人(志村喬)|お島の伯母(沢村貞子)|お島の店の職人・木村(仲代達矢)|ほか

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映画「喜劇 駅前旅館」 監督:豊田四郎

上






 本作は1958年の製作。このころの日本映画は良く出来ている。
 脚本も演出も、俳優の技量も、娯楽性も、文句なしにハイレベル。
 ベテラン俳優の、さりげない一挙手一投足に、感情表現の絶妙な味があることにも注目してほしい。

 東京の「東玄関」上野駅の駅前旅館150軒や飲食店街は、多くの旅行客に親しまれ繁盛して来た。
 そして昨今、修学旅行の団体客が、毎日のように旅館街にどっと押し寄せてくる!

1-0_201711041139566da.png 戦後、修学旅行が再開され、さらに本格化したのが、この映画の時代、1950年代。
 戦前は、修学旅行は「国家神道教育」に通じる神社を目的地としていたが、戦後、これが自由化され、さらには修学旅行は誰もが行くものとして一般化された。
 よって修学旅行の行き先は、交通の利便性や社会見学先を考えると日本の「首都」東京になり、かつ団体客の受け入れ可能な宿泊旅館を考慮すると、自ずと上野であった。

 このことで、焼野原から復興してきた上野の駅前旅館街は一変した。
 大型の旅館は、黙っていても、各地の学校から予約が入るという、ウハウハ極楽状態。もう上野駅前で客引きする必要は無くなっていた。
 
 こんなことを背景に「喜劇 駅前旅館」は始まる。
 大型旅館の柊元(くきもと)旅館、ここのベテラン番頭の次平(森繁久彌)は、玄関で騒ぐ修学旅行生たちを目の前にして嘆く。「これは旅館じゃない、流れ作業の工場だ」
 40歳代の次平は客引きのプロ。次平を頼って来るリピーター一般客も多い。旅館一同の、宿泊客に対する丁寧なおもてなし。
 しかし、修学旅行生の団体客を相手にすると、旅館は、彼らの一日のスケジュールに沿って流れ作業のように動く。次平はこれを、もはや旅館業の工場化だという。

2-0_20171104114124f04.png 本作公開時の宣伝文句は、「舌三寸で客を引き、胸三寸で恋のせる、番頭家業の裏おもて」。
 旅館街のそばにある飲み屋の女将、お辰(淡島千景)の店に、次平や他の旅館の番頭たち(伴淳三郎、多々良純ら)の口達者な常連が集まる。お辰は前々から次平に気があるが、次平にその気があるのや無いのやら。

 くわえて、恋物語がもう二つ。
 はとバスの添乗員の小山欣一(フランキー堺)は、柊元旅館の可愛い女中、お京(三井美奈)が好き。ふたりのその先はいかに。
 もうひとつの話は、次平の昔の女、於菊(淡路恵子)が柊元旅館に客として現れる。さてこちらの展開は・・。

 そして、団体客の物語。
 関西女子高の修学旅行生を引率する老先生(左卜全)、同じく四国男子高の先生(藤村有弘)、同じく東北女子高の先生(若水ヤエ子)に、山田紡績の社員旅行を引率するおばさん社員(浪花千栄子)が、話に騒ぎを持ち込む。

 さらには、上野界隈のやくざの頭(山茶花究)が率いる一団が、客引きを巡って、あるいは旅館の女中の引き抜きや麻薬売買で騒ぎを起こす。
 さてさて、このあと、すったもんだのお話はどうなりますでしょうか、それは観てのお楽しみ。
 ちなみに、柊元旅館主人(森川信)、その妻(草笛光子)も話に味を添えています。
 
監督:豊田四郎|1958年|109分|
原作:井伏鱒二|脚色:八住利雄|撮影:安本淳|
出演:生野次平(柊元旅館番頭):森繁久彌|柊元三治(柊元旅館主人):森川信|柊元お浜(柊元旅館内儀):草笛光子|柊元梅吉(柊元旅館中番):藤木悠|柊元お京(柊元旅館女中):三井美奈|柊元お松(柊元旅館女中):都家かつ江|高沢(水無瀬ホテル番頭):伴淳三郎|春木屋番頭:多々良純|杉田屋番頭:若宮忠三郎|小山欣一(添乗員):フランキー堺|お辰(辰巳屋女主人):淡島千景|於菊:淡路恵子|相田(関西女子高校先生):左卜全|広見(四国男子高校先生):藤村有弘|保健の先生(山田紡績):浪花千栄子|女の先生(東北女高):若水ヤエ子|カッパのボス株:山茶花究|カッパA:大村千吉|カッパB:西条悦朗|カッパC:堺左千夫|カッパD:水島直哉|辰巳屋小女:小桜京子|山田(紡績所長):谷晃|芸者:三田照子|女学生:市原悦子|

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映画「青空娘」 主演:若尾文子  監督:増村保造

下






1-00_201710260754521ec.png





















 いい映画ですね。
 娯楽映画の喜劇をベースにした、継子(ままこ)いじめと、まだ見ぬ実母を探す話。
 そして、

 この物語の中、主人公・小野有子18歳(若尾文子)は、苦境をはねのけ、青空の下、爽やかに駆け抜けて行きます。


 喜劇的な役回りは、有子が卒業した女子高の恩師で独身の二見先生(菅原謙二)、有子に一目惚れするお坊ちゃん青年の広岡(川崎敬三)、有子の実父小野栄一の大邸宅の女中・八重(ミヤコ蝶々)、そしてちょい役ですが、穏やかな広岡の母親(東山千栄子)や、気っぷのいいキャバレーの女支配人(清川玉枝)。
 これに対し、有子を虐める悪役は、小野の正妻・達子(沢村貞子)にその長女照子。

 そもそも、有子の不幸のもとは、父親の小野栄一(信欣三)だ。
 栄一は今は大手町にある会社の社長だが、若いころ、職場の女性と恋愛し、有子が生まれた。しかし、これは不倫であった。
 それまでに栄一は、上司の役員に押し切られて、その娘・達子(沢村貞子)と結婚していた。だが結婚当初から栄一は、達子に愛を感じることはなかった。

2-0_20171025103255905.png 有子は生まれてすぐに、伊豆の海近い、母親の実家に預けられた。そして母・三村町子(三宅邦子)は姿を消す。
 それから18年後、祖母に育てられ高校を卒業した有子は、父親の招きで、東京にある父親の自宅で暮らすことになっていた。
 その直前、祖母が他界。祖母は死に際に、東京の母は実の母ではないと有子に告げた。
 次女の有子はこれまで、兄姉そして弟の4人のうち、自分だけが伊豆にいることに疑問を持ってはいたが、誰もそのわけを言う者はいなかったし、有子も深くは考えて来なかった。

 そして、高校を卒業した有子は東京へ。
 しかし、大邸宅で有子を待っていたのは正妻・達子の冷たい仕打ちだった。
 つまり、次の女中が見つかるまでは(というレトリックで)、その日から、有子は女中としてこの家に住むことになった。なんと彼女にあてがわれた一室は階段下の納戸であった。(まるでハリー・ポッターのようだ)
 有子を不憫に思うのは、この家の古女中の八重(ミヤコ蝶々)、八重は有子を暖かく、面白おかしく励ます。

 そこへ父親が出張先から帰宅。有子との再会を喜ぶ間もなく、父親は、妻・達子の有子に対する待遇に驚き、冷たく短い夫婦喧嘩。
 そして父親が折れた。それから達子へ愚痴。有子を呼ぶことについて、あんなに何度も、頭を下げて頼んだのに、この様か。
 しかし、有子は歳に似合わず大人の対応であった。つまり、女中として同居することに異を唱えなかった。八重は有子に、女中仕事を教え始め、有子は積極的に女中であろうとした。

3-0_2017102510491822e.jpg そんなある日、さる会社社長の御曹司である広岡(川崎敬三)が、この家に現れる。広岡は、長女の照子が招いた遊び仲間のひとりで、照子は彼を好いていた。(照子も社長令嬢だ)
 しかし、広岡は女中の有子に一目ぼれしてしまう。このことから、照子はそれまで以上に有子を憎むようになるし、母・達子も同様だった。

 そんなこんなで、自宅で有子とゆっくり話せない父親は、彼女を会社に呼んだ。
 有子は父親から、実母とのいきさつを初めて聞き、母の写真を見せられた。初めて見る、私のお母さん。

 女中であろうとした有子だったが、正妻・達子と照子の虐めに耐えかねて、ついに伊豆へ帰ってしまう。
 煮え切らぬ父親と、有子を愛する広岡、そして不憫に思う女中・八重は、有子を案じる以外に手の打ちようはなかった。

 
 ここから話は急展開。
 帰郷した有子に、叔母が言った。つい先日、お前の母親が訪ねてきたと。私のお母さんは生きている。東京にいるらしいことが分かる。
 東京に戻った有子は、恩師・二見先生(菅原謙二)に会う。(有子の卒業後、先生は教師を辞め、東京の広告制作プロダクションのデザイナーになっていたのだ)

5_2017102511323909e.png 教え子恩師の一線を越えて密かに有子を愛する二見先生と、結婚を前提に付き合いたいと公言する広岡の二人は、有子の母親探しに協力する。
 そして、有子は母親の三村町子(三宅邦子)に会えたのであった。

 
 喜劇と悲劇で挟んだ「王子様との恋」サンドイッチをお楽しみください。 
 くわえて、映画が語る物語の展開に沿って、映像が実に的確で分かりやすい表現をしていることに注目してほしい。
 有子を実家に預けた母は悲しみを抱き満州へ、そして現地で結婚。これは、戦前、たぶん昭和14、15年ごろ。中国東北部に満州国という日本の傀儡政権があったころ。母は戦後、帰国し二見先生の勤務先の雑居ビルの掃除婦をしていた。

監督:増村保造|1957年|88分|
原作:源氏鶏太|脚色:白坂依志夫|撮影:高橋通夫|
出演:小野有子(若尾文子)|有子が通った高校の恩師・二見桂吉(菅原謙二)|有子に一目惚れした広岡良輔(川崎敬三)|その母親・広岡静江(東山千栄子)|有子の実父・小野栄一(信欣三)|その正妻・小野達子(沢村貞子)|その長女・小野照子(穂高のり子)|同じくその長男・小野正治(品川隆二)|同じくその次男・小野弘志(岩垂幸彦)|有子の実母・三村町子(三宅邦子)|小野家の女中・八重(ミヤコ蝶々)|小野家に出入りする魚屋・哲五郎(南都雄二)|有子のお婆さん(滝花久子)|有子の友人・信子の叔母でキャバレーの支配人(清川玉枝)|
6-2.png
有子の部屋は、階段下の納戸
写真
女中であろうとする有子
6-3.png
ブルジョアは鯛、私らはイカ
     
6-4.png
有子を諦める二見先生
写真
失恋乾杯に付き合う女支配人
6-6.jpg
広岡と始まる新しい人生


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映画「薔薇大名」 監督:池広一夫

下
月太郎の婚約者・お小夜と、横恋慕のスリ師・お京。
だが、この男、月太郎じゃなく、実は奥州棚倉藩の若君・小笠原左馬之助であった。


 時代劇です。陽気でおバカな喜劇話です。
 大名行列など冗長なシーンは早回しで観せますし、悲しいシーンも含め音楽はユーモラスなジャズ風。
 でも、ストーリーは凝っています。

 「薔薇大名」の「薔薇」の意は、若君の腕に薔薇のようなアザがあるからで、他意はない。
 私は池広一夫というこの監督の映画が好きで、本作は監督の第一作目らしい。
 1シーンだけの特別出演で市川雷蔵が突然出てくるが、ほかは主役も含め、一般的には余り知名度がない俳優ばかり。
 でも今となっては、これがかえって新鮮でいい! 

1-1_20171006115730085.png 話は、ある藩の若君・左馬之助と、曲芸一座の芸人・月太郎の、その姿かたちがソックリであったことから始まる。
 そして、月太郎に恋する、同じ一座の芸人娘・お小夜と、月太郎に横恋慕のスリ稼業の女、この2人の女が話に花を添える。
 さらには、若君/月太郎、この瓜二つの2人の立場が入れ替わった事が、つまり偽・若君が、結局は、若君の藩の内紛を解決することになるという、藩をあげての大騒動に発展する。
 では、若君と町人の月太郎がなぜ入れ替わったのか?

2-1_201710061159044fc.png

 密かに江戸市中に滞在する小笠原左馬之助(小林勝彦)は、実は奥州棚倉藩(福島県)の若君。
 その棚倉藩では、城主の跡目争いという陰湿な内紛が起きていた。
 現城主(左馬之助の父親)は、悪者家老の指図で長期間に渡り藩医から毒を盛られ衰弱していた。
 家老は城主と若君を暗殺し、家老派の新たな城主をうちたてようと企んでいるのだ。
 これに気づいた左馬之助はひとり江戸に出て急ぎ毒薬の勉強をし、藩医が薬と称する毒薬の証拠を握ろうとしていた。
 しかし、左馬之助が国元から突然姿を消した事とそのわけは極秘であり、父親はじめ藩の誰もが知らぬことであった。
 だが、家老は若君が江戸にいることを嗅ぎつけ、暗殺団を江戸へ送り、若君は切られて大川に落ちた。

3-0_20171006120128172.png 一方、そんなことなど知る由もない城主派の侍たちも、若君を探しに江戸に来ていた。
 城主の寿命があとわずか、一刻も早く若君を見つけ出し、国元へ帰ってもらわないと、家老派の思うがままになってしまう。わが藩、存亡の危機。
 そんなある日の江戸市中、城主派の侍が月太郎(小林勝彦)を見かける、あ!若君だ! いや、人違いだ!俺は月太郎だ! 
 結局、月太郎は城主派に拘束されるが、彼の腕に若君の証拠の「薔薇」のアザがないことが分かり、今度は若君に化けて身代わりで国元へ行ってくれと懇願される。
 このお礼は100両という多額で、月太郎は婚約者の病父の薬代を思い、大役を引き受け、大名駕籠に乗せられて、侍たちと国元の奥州棚倉藩(福島県)へ。

 さらに一方、そんなことなど知る由もない、月太郎の婚約者・お小夜(浦路洋子)。
 突如姿を消した月太郎から奥州棚倉へ行くとだけ知らされたお小夜は、一座の座長を説き伏せ、一座の面々とともに棚倉へ巡業の旅に出る手はずとなった。
 そんな時に、月太郎がお小夜の前に現れた。ずぶ濡れで傷を負っていた。どうしたの!
 優しく介抱された左馬之助だが、知らぬ町人に自分が誰かも言えず、なりゆきで月太郎を演ずることとなる。
 お小夜は左馬之助を月太郎だと疑いすらしない。(左馬之助は侍言葉で話すんだけどね) お小夜は「いつまで芝居の真似をしてるのよ」てな感じ。(喜劇ですから)

5 -0 しかし、一座の棚倉への巡業スケジュールはもう変更できず、お小夜と左馬之助と一座全員は旅に出た。
 旅の途中、左馬之助は、本陣(大名専用の宿)の準備の様子や、街道を駆け抜ける早馬から、胸騒ぎを覚える。
 その夜、旅籠の一室で左馬之助はお小夜に抱いてと迫られ、左馬之助はおおいに戸惑う。

 そこへ、市川雷蔵扮する町人が「いちゃいちゃする声がうるせぇ、宿は貸し切りじゃねぇんだ」と、部屋に飛び込んで来る。
 そして市川雷蔵は左馬之助に向かって、本心をこの女に打ち明けろと言い残して去る。(無理やりの筋書きで可笑しい)
 そこでついに左馬之助はお小夜に、自分は月太郎じゃない、それに月太郎が藩騒動に巻き込まれているらしく、危険だと告げる。
 これを聞いて心配するお小夜に、「この小笠原左馬之助が彼を救える」と言う。お小夜はお願いいたしますと頭を下げた。

 さて、ラスト近く。
 月太郎こと偽若君と城主派一行が、城内に入る。
 また、曲芸一座は城主の招きと偽って、これも城内へ。(若君の計らいだろう) 
 そのうち、偽若君の腕にアザがないことが家老派にばれて一大事。だがそこへ一座が現れる。

7-0.png そおして、時代劇のお約束事、家老一派と城主派のチャンチャンバラバラ。
 若君の武道達人の技、月太郎とお小夜らの曲芸の技が敵をやっつけます。
 加えて、一座の出し物、中に入った人を消す魔法の箪笥や、一座巡業に付いて来た、月太郎に横恋慕のスリ師・お京が大活躍します。めでたしめでたし。


監督:池広一夫(池廣一夫)|1960年|68分|
原作:陣出達朗|脚色:淀川新八|撮影:本田平三|
出演:月太郎、小笠原左馬之助(小林勝彦)|月太郎の婚約者・お小夜(浦路洋子)|スリ稼業の女・お京(宮川和子)|ほか多数

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映画「お父さんと伊藤さん」 上野樹里、リリー・フランキー、藤竜也 監督:タナダユキ

上
さすが年の功、伊藤さんは、お父さんのあしらいが上手。

1-0_20170930124809c6c.png
 拍手!脚本が良く出来ていて、演出に抜け目がない。
 息子娘の世代も、父親の世代も楽しめるビターな喜劇。

 話は、妻を亡くした頑固な父親の、たらい回し。
 そんな意固地な父親を持つ息子娘であれば、あるいは、あんな息子娘を持つ父親であれば、こうなる事もある、というこわい話。

 その、あんな息子娘とは。
 長男の潔(長谷川朝晴)と嫁・理々子(安藤聖)の夫婦のところに父親(藤竜也)が同居している。
 夫婦は父親との生活に辟易している。そのうえ、夫婦は中学受験の双子を抱えている。
 特に理々子は義父との関係がもう破綻状態。義父の姿を見るだけで吐き気を催すくらいに精神的に追い詰められている。

 そこで潔は逡巡しながらも、妹の彩(上野樹里)に父親を引き受けてもらいたいと乞うた。
 「未来永劫ってわけじゃない。子供の受験が終わる来年春までの半年でいいんだ」
 切羽詰まった潔は、父親というものは娘と相性がいいという神話にすがったのかもしれない。
 しばらくぶりに会った兄妹だったが、しかし、彩は「ごめん、ほんとにごめん」と断った。
 潔は知らなかった。彩は独り住まいではなかった。伊藤(リリー・フランキー)という男と同居しているのだった。(兄妹はこんな程度に疎遠であった)

 彩は34歳、本屋でアルバイトをしている。会社を辞めてからはバイトの仕事しか見つからない。
 伊藤は54歳。彩とはコンビニのバイト先で知り合った。今は学校給食のバイトをしている。
 彩は伊藤の過去をよく知らない。知る必要もないと思っている。20の歳の差はあるが、本人たちに違和感はない。

 さて、兄と会ってのち帰宅した彩は、玄関に見慣れぬ靴を発見。
 おお、伊藤さんがお父さんと話してる!

 話はここから、父親の秘密も絡んで、てんやわんやの展開になります。あとは観てのお楽しみ。

下2監督:タナダユキ|2016年|119分|
原作:中澤日菜子|脚本:黒沢久子|撮影:大塚亮|
出演:山中彩(上野樹里)|伊藤康昭(リリー・フランキー)|山中潔(長谷川朝晴)|山中理々子(安藤聖)|叔母の小枝子(渡辺えり)|お父さん(藤竜也)|ほか

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映画「或る女」(1942年) 主演:田中絹代 監督:渋谷実

上


 話は、明治から大正にかけての、「或る女」の10年を描いている。

1-1_20170923130911f26.png 席主※(坂本武)の計らいで、寄席で下働きしている、おしげ(田中絹代)。(※寄席のあるじ)
 このおしげに向かって、寄主に雇われている元落語家の男・柴田(河村黎吉)が、話していいものか、いけないものかと迷いながらも、話始める。
 「実はね、三楽が東京に帰ってきているらしい」と、くわえて「子もいてね、おまけにカミさんが病に伏せってしまい、金に大層、困ってるらしい」
 これを聞いて、おしげは「僅かばかりだけど、お金ならあるわ」、しかし柴田は「そりゃ、いけねえよ」

 そこへやって来た席主は即座に、「おしげさんに、三楽のことなんか言うもんじゃない」と柴田を制した。続けて、おしげには、「三楽は、あんたにあんなに苦労をかけた男だ、もうかかわりなさんな」と三楽を罵りながら言った。
 これに対しおしげは、「もう10年も前のことだもの、今じゃ何とも思わないわ」

2-0_20170923131120b96.png そして映画は10年前にさかのぼる。(明治の終わり頃)
 そのころ、三楽という芸人(徳大寺伸)は東京じゃ少しばかり売れ始めていた。
 寄席で働く若き娘おしげは、三楽の舞台と舞台を降りた後の短い逢瀬をいつも心待ちにしていた。三楽のほうも、まんざらではなかった。
 だが、彼に欲があった。上方の舞台に出て一旗揚げたいと、三味線の女を連れて東京を去った。三楽はこの女と、既に出来ていたのだった。
 おしげは、突然の失恋に心砕かれ、席主にそれまでの礼も言わず、故郷の田舎へ帰った。

 故郷の家には、兄とその子の二人が住んでいる。この親子は困窮していた。兄は少ない蓄えを人に騙され奪われ、また借金で家は抵当に入っていた。
 しかし兄の子・勇は、幼いながらも進学を望んでいた。将来大きな船の船員になりたいという。

 おしげは自身の悲しみを心の底に押しやって、この世に身内はこの三人、力合わせて勇を育ててやりましょうと、兄を励ます。
 おしげは東京に戻って働き、稼いだお金は兄の子・勇の教育費にと、兄は借金返済にと、兄妹はそれぞれ再び働き始めた。

 そう、おしげのこの頑張りは、どこから来るのだろうか。
 それは、おしげが失った自身の生きがいを新たに見つけたから。つまり、三楽への想いから、実の母子のようにして勇を育てる愛へと、気持ちを切り替えたから。
 それでも、おしげは、三楽への愛を今も心に抱き続けている。そして、だから、私は一生結婚はしないと決心していた。

 東京に戻ったおしげは、斡旋屋の紹介で、あるお屋敷の住み込み女中の職を得る。
 安定したこの職は、兄のもとへ送金するに十分であった。
 この家の娘は病弱で家に閉じこもったままで日々を過ごしていたが、おしげが来たことで親しい話相手ができ、おしげを慕った。

 だが不幸なことに、この娘に好きな人がいたが、相手の家から一方的に婚約が破棄され、娘は失意に陥った。
 たまたま、おしげは田舎の兄の家に帰っていた。そこへおしげに会いたくて娘が一人でやって来た。だが病弱な娘は、儚くもここで体調を崩し世を去ってしまう。屋敷の主は、これをおしげのせいにし、おしげは突然に解雇された。

 理不尽に思いながらも、おしげは挫けない。
 顔の広い柴田の紹介で、勇のため、おしげは料理屋で働き始めた。
3-0_201709231321415ff.png そんなある日、勇(佐野周二)がおしげに会いに来た。商船大学を成績二位で卒業したことを報告に。
 とても喜ぶおしげは勇を連れて、大学の寮じゃ食べられない美味しいものをご馳走しようと、上等な店のうなぎやへ。おしげが勇に酌をするその仕草は玄人の様だった。
 勇はおしげに言った、「叔母さんは料理屋なんかで働く女性じゃない。僕は嫌だ、無理を言うようだが仕事を変えてほしい」と訴えた。「これからは僕は給金をもらえて、採用前提の試用期間航海に出る。お金の方はもう大丈夫。無理しないで田舎に帰ってゆっくりして」
 (当時、商船大卒の航海士とは、日航のパイロット以上の高給とりだった。くわえて勇が知識人になったせいだろう、自分を養ってくれた大事な叔母には飲み屋の女でいて欲しくなかった、勇はそう思っていた)

 しかし、おしげは田舎に帰らず、東京のミシン縫製の町工場で働き始める。(私はもう畑仕事はできない)
 ある日、工場でおしげが倒れた。彼女の人生は、これまで働き詰めの毎日であった。

 このことを聞きつけた席主は、弱ったおしげを手厚く介抱し、快復したおしげは再び寄席で働くことになった。
 こうして、おしげの10年が過ぎた。

 さて、冒頭シーンの続きに映画は戻る。
 おしげは、幾何かの金を口座から下ろし、三楽一家が住む家へ向かった。
 どぶに掛かる小橋を渡って、おしげは三楽の粗末な家の玄関先に立った。
 驚く三楽はおしげを家にあげた。儀礼的な挨拶の後、おしげが差し出す金に、三楽は躊躇するも手を出そうとしたが、三楽の妻はこれを制した。

 そこへ突如、勇が柴田の案内でやって来た。勇は叔母を苦しめた三楽を罵りに来たのだった。
 それはおしげに代わって誰かがいつか言うべき三楽に対する罵りであった。
 その三楽は、そう言ってもらえて私もすっきりした、長年の胸のつかえがやっととれたと感謝し泣いた。
 荒んだ場をおしげと柴田が納め、三楽夫婦はおしげの金を受け取ったのであった。
 
 脚本が弱いが、田中絹代の優れた演技でもっている映画。
 戦時中に製作・公開されたものだが、戦時下の影響はない。ただし、映画が始まる前に「一億の誠で包め兵の家」というスローガンが映し出される。

 映画に石油ランプと白熱電球のあかりが出てくる。
 電灯は、大正11年頃には東京市内のほぼ全域に普及したらしい。
 よって、おしげの10年は、明治末期から大正時代にかけての話なんだろう。

 それと映画に出てくる知らない言葉。
 「おちょうもく」:金銭の異称。江戸時代までの銭貨は中心に穴があり、その形が鳥の目に似ていたところからいう。「お鳥目」
 「おちょうばさん」:帳場とは商店・旅館・料理屋などで,帳簿をつけ勘定をする所。会計場。
           おしげは料理屋で「お帳場さん」も兼ねてた仕事をしていた。
 「アプレンティス」:見習いを意味する英語。卒業した勇が見習いで航海に出ることをおしげに言うシーンで勇が言う言葉。

監督:渋谷実|1942年|96分|
脚本:池田忠雄、津路嘉郎|撮影:森田俊保|
出演:おしげ(田中絹代)|実兄の一人息子・勇(佐野周二)|柴田(河村黎吉)|良吉(斎藤達雄)|三楽(徳大寺伸)|おたま(木暮実千代)|筆子(文谷千代子)|小せい(伏見信子)|樋口(坂本武)|お豊(忍節子)|お松(三村秀子)|勇の少年時代(津田晴彦)|藤子未亡人(葛城文子)|下宿のお母さん(飯田蝶子)|料亭の女将(吉川満子)|おとし(高松栄子)|昌子(森川まさみ)|敬一郎(日守新一)|徳さん(水島亮太郎)|お兼(松尾千鶴子)|城太郎(大塚紀男)|半玉(森和美)|

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映画「朧夜の女」(おぼろよの女) 1936年 監督:五所平之助

下
 照子


 時は昭和の初め頃、叔父に連れられ行った先の銀座のバー、そこの女と出来てしまった初心な大学生の初恋の顛末。

01-_20170919135736160.jpg 大学生の誠一(徳大寺伸)は、父を早くに亡くし、母のお徳(飯田蝶子)が女手一つで育てた一人息子。すれてない箱入り息子でいい男。
 お徳は、牛や(牛鍋屋)で働いているが、若いころは芸者だった様子。どこかの店の主人風の旦那に頼まれ、唄、三味線の個人教授をしている。

 誠一を銀座のバーに連れ出した張本人の叔父・文吉(坂本武)は、お徳の実兄で昔は粋な遊び人だった。
 その文吉が収まるところにやっと収まって所帯を持った、その妻が、おきよ(吉川満子)という女。
 この夫婦には子がいない。神社の石段下で張物屋を営んでいる。(着物の洗濯屋さん:お客の着物を抜糸して反物にし洗濯する稼業。洗い張り。)
 以上こんな登場人物の描写が話の前段にあって、映画は物語のその先を語り始める。

2-0_20170919140548d74.jpg バーの女・照子(飯塚敏子)は、昔風にありていに言えば、芸者上がりの女給だ。
 だが照子は数年前までは芝神明で指折りの芸者だった。旦那(パトロン)がついて芸者を辞めたが、その旦那が急死、照子の人生は下り坂となっていた。

 文吉は芝神明にいた照子を覚えていた。照子も客として文吉を覚えていた。銀座のバーは再開の場でもあった。
 さて、その後、誠一と照子は密かに会い文通を交わした。ふたりの愛は純であった。しかし誠一はこのことを母親に言えないでいる。

 そしてある日、誠一は照子から妊娠したことを告げられる。
 誠一は驚き戸惑うが、照子は心の奥底で、これを機に身を引くことを決めていた。
 誠一さんは勉強をして将来偉くなる人。子一人、私ひとりでもちゃんと育てていける・・。

 かたや、悩み抜いた誠一は、叔父・文吉に打ち明ける。(死んでも母親には言えない)
 文吉は驚きはしたが、すぐさま、こう思った。自慢の甥が自分を頼りにしてくれた嬉しさ、照子はまったく知らぬ女じゃないこと、さらにはわが身を振り返れば、身に覚えがないことでは無い。
 そこで文吉は思案の末、自分が照子と浮気して子をこしらえてしまった、という嘘を思いつく。そして、これを妻のおきよに言った。

 これを聞いたおきよは、大いに悲しむ一方、これまでの文吉の放蕩を思うと、そんなには驚かなかった。
 誠一と照子の関係を未だ知らぬ母・お徳は、兄の放蕩ぶりを「いい歳して」と非難するも、義姉として子供の出来ないおきよに言う。「兄さんは女ときっぱり分かれる、その代わり、子は家で育てると言ってる。辛いだろうけど、いっそ育ててみれば。赤ちゃんは可愛いよ。世間は、おきよさんはよく出来た嫁だと、ほめそやすよ。」

 ひとつ目の嘘が通って文吉は、慌てて空き家を探し、土手下の家に照子を住まわせる。
 つまり今度はこれ、姉のお徳に対しての嘘。文吉と照子のこの愛の巣に、お徳は便所の傍の軒に吊り下げる「吊り下げ手洗い器」や何やかにやを買いそろえてやってくる。

 さて文吉、お徳が去ったあと、ポツンと座る照子、そこへ誠一が現れる。
 誠一は言う、こんな嘘はやめよう。俺は母親に正直に言う、結婚しよう。叔父や叔母にこれ以上迷惑はかけられない、俺は卑怯だ、と。しかし、照子は誠一の訴えを受け流すだけだった。

 それからそんなに時を経ず、照子は妊娠中毒症で急遽入院する。そして、あっけなく世を去る。
 土手下の家で通夜が行われた。霊前には文吉の友人やお徳もいる。そこへ誠一が現れた。これに気づいた文吉は彼を家の外に連れ出す。
 「もうこれ以上の嘘は、耐えられない、母親にすべてを言う。」と泣く誠一を制して文吉は言う。「この世の中、嘘も正しいことがある、何よりも照子は今もそれを望んでいる」と。


 なにしろ80年以上前の映画です。
 世間の常識が、今と違うことを理解して観ましょう。
 それと、近代を対象にした都市民俗学?とでも言いましょうか、銀座のバーの様子、そこで働くキラキラ衣装の少女、牛鍋屋の様子、張物屋の職人の仕事風景、寄席の様子、一般家屋の室内などに注目しても面白いかもしれません。

監督:五所平之助|1936年|111分|
原作:五所亭|脚本:池田忠雄|撮影:小原譲治
出演:照子、バーでの源氏名(飯塚敏子)|誠一(徳大寺伸)|文吉(坂本武)|お徳(飯田蝶子)|おきよ(吉川満子)|医師(佐分利信)|町内の旦那衆(河村黎吉、野本正一、新井淳)|職人(青野清、谷麗光)|芸者(忍節子)|牛やの女(岡村文子、江坂静子)|女給(朝見草子、立花泰子)|女中(大関君子)|牛やの主人(水島亮太郎)|学生(大山健二、阿部正三郎、金光嗣郎)|講釈師(一龍斎 貞丈)|

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映画 「石合戦」 監督:若杉光夫

上
石合戦。右方向の対岸にいる相手陣営と石の投げ合い。
このシーンは、仮設の木の橋の上から撮っている。


 兵庫県の山あいにある、のどかな村の人々を描く映画。

 川を挟んで二手に分かれた子たちが、互いに対岸の子たちに向けて、河原の石の投げ合いをしている。石合戦だが、男の子の遊びでもある。
 どちらの陣営の子も、同じ小学校に通っているが、仲が悪い。
 仲が悪いのは、その子らの親たちが仲が悪いからなのだ。いや、親だけじゃなく祖父母の代も、昔から仲が悪い。
 かつて、石が顔に当って失明した人も村人の中にいる。
 映画は、村の大人同士のつまらぬ人間関係が、そのまま子たちの人間関係に影響するのだと言っている。

 県会議員の大野という男は、この村で大人たちの頂点の座にいるらしい。彼の家は戦前までは大地主だった。
 村一番の真面目な男・松蔵(宇野重吉)は、戦後、この大野から僅かな土地を買った。
 この極めてまっとうな方法で土地を買った松蔵に大野は苛立っていた。大野に寄り添い、大野の為なら、何かあればひと肌脱ぎます、なんて言う人々に乞われて、大野は土地を手離す、なんていうストーリーが好きな男なのだ。松蔵はそうではなかった。

 子たちが川遊びしていたその日、この大野の旦那が、川にかかる仮設の橋を渡っていた。
 そこへ、松蔵の子が橋の下から手を伸ばし、大野の足を引っ張り、彼を川へ落としてしまった。
 子どもの悪戯だったが、大野は怒った。大野は松蔵を村八分にしてしまう。村八分にされて松蔵の子も、村の子たちから村八分にされてしまう。

1-0_20170824193604438.jpg 主人公の男の子・竹丸(浜田光夫)は、村の神社の一人息子。
 がき大将の正反対で、石合戦が怖いし、仮設の低い橋から川に未だに飛び込めない。(その落差1メートルほど)
 竹丸の母親(山田五十鈴)は病で長年、伏せっている。竹丸の父親(小沢栄太郎)は、神社の神主で、夏の祭りの収支がマイナスなのが頭痛の種。(賽銭などの収益-諸費用の支出)
 「ここは好きじゃない大野にすがるしかないな。」なにしろ、大野は小学校の校舎新築で業者と癒着し、大金を懐にしたらしい。(村中の噂)

 さて、大野が川に落とされたあと、河原にいた子らの中に、大野は竹丸の姿を見た。
 そして、大野は竹丸を密かに呼んで、誰が俺を川に落としたのだと問いただした。大野得意の甘言と脅し(アメとムチ)を竹丸に示し、つい、やったのは松蔵の子だと竹丸は言ってしまう。
 これが噂となって広がり、竹丸は子らから村八分となってしまう。

 話の展開はいくつかのエピソードと共に進む。
 竹丸の母が大阪の病院に緊急入院する。村の合併話が、大野の先導で進む。
 小学校の若い教師・渡辺先生(内藤武敏)が子たちの石合戦を止めさせる。また、渡辺先生が「アカ」だという噂を真に受ける大野は、先生を辞任に追い込もうとする。それを支援する小学校校長や村長といった村のお偉いサンたち。
 そして、大野が贈収賄で逮捕される。
 一方、竹丸の母がこの世を去る。真剣に神に祈った竹丸は、神殿で暴れる。

 そうしてラストは少々強引だが、ハッピーエンドに。
 竹丸の家は村では裕福だ。この竹丸の生活環境と、村の貧しい家の子の境遇を映画は対比してみせる。
 渡辺先生のシーンでは、子供対象の教育映画っぽい雰囲気があって鼻白むシーンはあるが、これを乗り越えられると、昭和30年当時の日本が垣間見れる。

監督:若杉光夫|1955年|91分|
原作:上司小剣|脚色:松丸青史 、 吉田隆一 、 村山亜土|撮影:仲沢半次郎|
出演:竹丸(浜田光夫)|その父・上神満臣(小沢栄太郎)|その妻・鴻子(山田五十鈴)|小学校の教師・渡辺正男(内藤武敏)|県会議員の大野剛造(嵯峨善兵)|松蔵(宇野重吉)|ほか

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映画 「無花果の顔」(いちじくの顔) 監督:桃井かおり 出演:山田花子、石倉三郎

上

 一家四人の門脇というウチの、幸せの変遷を描く映画。
 今までにないタイプの喜劇映画です。いくつものエピソードが絡みます。それと、お伽噺の要素を持ち合わせていて、ちょっとシュールです。音楽はいいセンス。

1-0_2017081915362933d.png 表通りの裏手、門脇の家。
 ちゃぶ台がある一家団らんの和室と縁側、無花果(いちじく)の木が植わった中庭、中庭に沿って濡れ縁伝いの先にある風呂場は薪で沸かす風呂、赤い冷蔵庫やカラフルなガラス瓶が並ぶ台所とその一角がミシン仕事のスペース。

 妻(桃井かおり)は、夫思いの世話女房。(いささか古いタイプの女性像の設定だ)
 夫(石倉三郎)は水道・ガス管のベテラン配管工。茹でたジャガイモに塩辛を乗せて風呂上りのビールを美味そうに飲む。(仲睦まじいが、少々ズレた夫婦の会話は、新作落語の登場人物のよう)
 今夜の夕食は、ちゃぶ台でチーズフォンデュ。今夜は、娘(山田花子)に息子(HIROYUKI)も加わって久々に家族団らんのひと時。

 さて、何でもなく過ぎる日々から、ちょっとした物語は始まる。
 夫が何やら忙しい。家を空けたと思ったら、現場に近いウィークリーマンションを借りたという。
 夜間の徹夜仕事らしい。でも、よくよく聞くと仕事じゃない。昔、職人仲間が手抜き工事をした建物がリニューアル中で、夫は誰もいない夜間の現場に密かに侵入し、当時の手抜き工事の配管をボランティアで、ていねいに直しているのだ。黙ってればわかりゃしない事を。ひとがいいったらありゃしない。

1-00_20170819154711f30.png ボランティアの案件が無事終わり、やっと通常の仕事を始めた矢先、夫が現場で倒れ死亡。(脳溢血か心筋梗塞か)
 急な死に直面し家族はぼんやりしている。職場の面々が通夜に来る。妻の弟(光石研)が心配してそっと姉に聞く。生命保険は?労災は? そんなこと知らないわよ。

 妻は、娘(山田花子)が一人住まいしている部屋に転がり込む。娘はちょっとした小説家で雑誌に連載を書いている。

 妻は仕事を見つけた。料理が美味いきちんとした飲み屋で働き始める。その店の主人(高橋克実)が、ある日、求婚する。
 門脇のあの家を素敵にリニューアルして、二人が住み始める。門脇の娘息子も、店の主人の娘も祝福している。

 娘(山田花子)が赤ちゃんを出産した。娘が嫌がった年上の男(岩松了)の子だったが、娘はひとりで育てるという。
 最近、妻(桃井かおり)の様子が変だ。新しい夫(高橋克実)は心配する。優しい夫は妻を温かく包み込むのであった。(一応、これでめでたしめでたし)
 そして、こんな人々の生きざまを庭先からじっと見守ってきた、これからも見守って行く無花果の木。それから、門脇家の娘は、幼い頃から、この無花果の木と通じ合えているようだ。



2-0_20170819155439615.png 配慮された細やかな脚本が、生活のリアルな質感を呼びます。例えば、通夜の準備シーンでは。
 缶の箱に納めた古い家族の写真の数々(娘が父親の写真を探している、葬式なんだという実感や経験を思い起こさせる)。
 生臭い握りより稲荷寿司か太巻きよネと言いながら、通夜客のために、出前の店選びに悩む妻。そして夫が死んだのに、寿司屋の女将とあてどもないオバサン会話を続ける妻。(死をまだ実感できない経験が思い浮かぶ)、等々。

 可笑しな会話があちこちに挿入されています。例えば、斎場にて。
 「どうして焼くの、まだ生き返るかもしれないのに、私、認めないから」 
 「火で焼いたら熱いでしょ お父さんかわいそうでしょ それでなくてもおとうさん暑がりなのに」
 娘:「死んだんだからしょうがないでしょ」
 妻:「親を燃やして、しょうがないでしょという言い草はないでしょ」

3-1_20170819155735034.png シュールな側面。例えば、夫が借りたウィークリーマンションでの夢想のシーン。
 隣家の若い女(金魚の化身?)が、マンションの部屋に・・・。

 当時、観た印象はわからん映画でしたが、今回観てみると、ウ~ン、いい映画です。
 大人のお話ですね、この映画は。

監督・脚本:桃井かおり|2006年|94分|
撮影:釘宮慎治|音楽:Gilad Benamram|音楽プロデューサー:Kaz Utsunomiya|美術:安宅紀史|
出演:娘(山田花子)|息子(HIROYUKI)|母(桃井かおり)|父(石倉三郎)|新しい父親(高橋克実)|娘の彼氏(岩松了)|母の弟(光石研)|父親が借りたウィークリーマンションの隣に住む謎の女(渡辺真起子)|ほか

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映画 「泣虫小僧」(泣蟲小僧)  監督:豊田四郎

上
左から、菅子と啓吉、そして蓮子。


 泣虫になってしまいそうな小僧、啓吉11歳の姿を追えば、幸せ薄い少年物映画。
 啓吉の母・貞子とその妹三人の四人姉妹に注目すれば、1938年(昭和13年)当時の、進んだ女性が見えて来る映画。

1-0_20170810172134c98.jpg 貞子(栗島すみ子)は二児の母。小さな一軒家に住んでいるが、夫を亡くし生活に困っている。女手で喫茶店を開業するらしい。やり手だ。
 貞子には愛人がいる。この家で一緒に住むことになるが、男は商売に失敗したようで、うな垂れている。
 啓吉はこの男を避ける。啓吉の幼い妹は母親から、男をパパと呼ばされる。

 貞子は啓吉を、貞子の次妹・寛子に預けようとする。(今回が初めてではなさそう)
 寛子は「またぁ」と迷惑がるが、姉に言えない。自分に替わって夫・勘三に断わりを言わそうとするが、勘三は人がいい。「引き受けましょう」と義姉に、つい言ってしまう。
 勘三は小説家だが売れない。生活は楽じゃない。だから勘三は寛子の尻の下。
 始終暇な勘三は啓吉と相性がいい、啓吉も好きな叔父さん。しかし、寛子は啓吉を追い出したい。

 ある日、勘三は啓吉を連れて、私鉄沿線、郊外に住む蓮子(市川春代)を訪ねる。
 蓮子は、貞子をはじめとする四人姉妹の末の妹。まだ二十歳前だが、画家(志望)の夫と二人暮らし。
 この夫婦は妙に明るいが、料金不払いで電気を止められている。そんな生活を知った勘三は啓吉を連れて、すごすごと帰って行く。

 結局、啓吉は菅子のもとに落ち着く。菅子は四人姉妹の三番目、アパートの一室を借りて一人住まい。
 会社勤めをしているようだ。勘三に優しい。勘三も菅子に、なつく。
 菅子は勘三に問うた。「叔母さんの誰が好き?」 勘三の返事は「おかあさん」
 
 末の妹・蓮子も三番目の菅子も現代っ子だ。蓮子は少々飛んでいるアート系モダンガールなら、菅子は自立する女性、職業婦人といったところか。(とにかくこの四人姉妹はみな揃って、勢いがいい)

 下の姉妹ふたりが、姉の貞子を訪ねる。「啓吉は、やっぱり母親の元が一番よ」と自立する女・菅子がきっぱりと言う。(末っ子の蓮子は、姉の前では物言えない。)
 そんなことで、啓吉は母親に引き取られる。

 啓吉が体操の授業中に用務員室に呼ばれる。行ってみれば、お母さん。よそ行きの着物姿だ。
 貞子は用務員の男に聞かれないよう、部屋を出て啓吉に言った。「急に九州へ行かなくちゃならないのよ。すぐ、帰って来るから、ね。」
 啓吉は泣きそうになりながらも、母の言うことを信ずるよりほか無かった。

 学校が終わって、家に帰ると家は家具ひとつ無い、もぬけの殻。
 貞子は、啓吉の妹だけを連れて、愛人の元へ行ってしまった。

 啓吉が頼りにしたのは、菅子おばさんだけだった。小説家の勘三おじさんは頼りにならない。
 それは啓吉が勘三の家に世話になっている頃の話だ。
 勘三は、その夜、啓吉を飲み屋に連れだし、啓吉は店で寝込んでしまう。目を覚ますと勘三おじさんの姿が無い。啓吉は慌てて呑み屋を出て、勘三を探して夜の街をさ迷う。(それは勘三がトイレに立った隙だった、勘三は啓吉がいなくなったことに気付かず、深酒でその店でつぶれてしまう。)
 さ迷う啓吉を憐れに思い救ったのは、尺八吹きの男であった。
 一人住まいの男は、啓吉を一晩泊めて、朝飯を食わせてやり、そして男は啓吉を励ました。辛い時は誰でもある、そんな時は歌を歌うんだ、と。

 映画製作年の1938年(昭和13年)は、国家総動員法施行の年、ヒトラー青少年団来日。
 映画のシーンで、家の上を軍用機が飛んでいく。 
 公開当時の観客は、この作品をどんなふうに観たのでしょうか。

 ちなみに本作から連想する映画に、少年と家族をテーマにしたものでは、大島渚の「少年」(1969年)、是枝裕和の「誰も知らない」(2004年)、小栗康平の「泥の河」(1981年)。洋画ではフランソワ・トリュフォーの 「大人は判ってくれない」(1959年)などが思い浮かびます。
 四人姉妹の映画では佐伯清の「浅草四人姉妹」。戦後復興期の女性の姿を描いていました。
 (映画タイトル名をクリックして記事をお読みください)

 <これまでに記事にした映画から>
 出演女優の栗島すみ子は、成瀬巳喜男の「流れる」に、やはり特別出演ということで出演していました。
 二番目の妹役の逢初夢子は、島津保次郎の「隣の八重ちゃん」(1934年)の八重ちゃん役や、山田洋次の「霧の旗」 に出演。
 末の妹役の市川春代は、マキノ正博の「鴛鴦歌合戦」(1939年)、伊丹万作の「戦国奇譚 気まぐれ冠者」(1935年)に出演していました。
 
監督:豊田四郎|1938年|80分|
原作:林芙美子|脚色:八田尚之|撮影:小倉金弥|
出演:泣虫小僧の田崎啓吉11歳(林文夫)|啓吉の母親・貞子(栗島すみ子)|貞子の次妹・寛子(逢初夢子)|貞子のその次の妹・中橋菅子(梅園龍子)|貞子の末の妹・蓮子(市川春代)|貞子の愛人・吉田善吉(一木礼司) |寛子の夫で小説家の松山勘三(藤井貢)|蓮子の夫で画家の瀬良三石(高島敏郎)|
尺八吹きの男・水上竜山(山口勇)| 啓吉の幼い妹・礼子(若葉喜代子)|寛子の子・伸太郎(横山一雄)|

【 豊田四郎の映画 】~これまでに記事にした作品です。 

夫婦善哉」「猫と庄造と二人のをんな」「雪国」「珍品堂主人」「新・夫婦善哉」「台所太平記」 「波影

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映画 「故郷」(1972) 倍賞千恵子、井川比佐志、笠智衆、渥美清  監督:山田洋次

上
砕石を満載し、今にも沈みそうな木造運搬船が、小舟を曳いてゆっくり瀬戸内の海を行く。船は老朽化している。
写真
船長で一家のあるじ、精一。
写真
船の機関士でもある、妻の民子。子供が二人いる。

 

 どっしりと腰を据えた脚本、じっくり観るに値する、いい映画。

1-0_20170723141037d2f.png 話の舞台は、瀬戸内海に浮かぶ小島と、海上を行きかう木造の砕石運搬船という、日ごろ馴染みのないドラマ設定が、観る者に異色な印象を与えてくれる。
 くわえて、ドキュメンタリー映画の要素も加わり、1972年当時のライブな感覚が味わえる。

 広島県の倉橋島という島に住む、石崎一家の物語です。
 一家の稼業は、一抱えもある砕石を採石場で積み込み、沿岸の埋立て地造成現場の沖合まで航行し、そこで石を海に投棄する仕事。
 この砕石専用の運搬船は「石船」と呼ばれ、特に倉橋島の各家では、この石船を持ち稼業に励む家々が多かったのです。

 石崎の家は、精一(井川比佐志)、民子(倍賞千恵子)の夫婦に、子が二人、そして精一の父(笠智衆)の、五人家族。
 夫婦はそろって船に乗るので、子は専ら祖父が面倒をみている。
 海を見下ろす島の丘には、小さな畑があって民子はそこで野菜を作っているが、買い物に行く間がなく、毎日の食材に困ることがある。
 それを補ってくれているのが、軽トラ行商の魚屋の松下(渥美清)だ。家族同然で、「今日の余りモノだよ」と言って、気安く魚を分けてくれるのだ。

 倉橋島は今も、のどかな様相を見せるが、この島にも時代の波が押し寄せていた。
 石船の運搬単価は下落し、ダンプトラックの陸送に取って代わろうとしていた。これに対抗するには、船体を大きくした鋼鉄船に乗り換えるしかなかった。しかし、石崎に毛頭そんな金はない。
 そんなことより、石崎の早急の課題は、今の木造船のエンジンが寿命に来ていること。砕石運搬の仕事を差配してくれる親方に相談したが、金の融通は無理だった。

 かつて精一と一緒に船に乗っていた弟は、先のない石船の仕事に見切りをつけ、島を離れて今は勤め人になっていた。
 そして、ついに、精一も石船稼業を諦めた。
 人の紹介で、広島県尾道にある造船所に勤めることになったのだ。家族の移住である。精一の父は島に残ることになった。

 東京から来てこの島に移り住んだ魚屋の松下(渥美清)が、映画の中で独り言のように言っている。倉橋島というこんないい島に、どうして住み続けることが出来ないんだろうね。
 また精一は、零細な稼業に押し寄せる時代の波について、妻の民子にこう言っている。「なんで、わしらは大きなもんに勝てんのかいの・・・」と。


監督:山田洋次|1972年|96分|
原作:山田洋次|脚本:山田洋次、宮崎晃|撮影:高羽哲夫|
出演:石崎精一(井川比佐志)|精一の妻・民子(倍賞千恵子)|精一の実父・石崎仙造(笠智衆)|精一の弟・石崎健次(前田吟)|魚屋の松下松太郎(渥美清)|ほか

【 山田洋次の映画 】 ~これまでに記事にした作品から (下記題名をクリック)

二階の他人」「下町の太陽」「馬鹿が戦車でやって来る」「霧の旗」「故郷

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映画 「ジヌよさらば かむろば村へ」  監督・脚本:松尾スズキ

上2


1-0_20170719110447be0.jpg 松尾スズキ監督2015年作のドタバタ喜劇です。こういう質のいい映画をつくる監督に拍手!
 くわえて阿部サダヲの芯のある演技が、この映画の柱になってます。
 なにしろ脚本がいい! (近年、他監督の新作邦画の多くが、その脚本がいかに駄作か・・・・)
 各所にみられる気の利いた可笑しいセリフも聞き逃しなく。

 東北のある村に、頼りなさげな若い男が一人ふらりと現れる。100万円で廃屋のような古い農家住宅を買ったらしい。
 この、かむろば村は限界集落一歩手前。村では、村長・天野与三郎(阿部サダヲ)は、まだ若い。

 天野村長は、この頼りなさげな男・高見武晴(松田龍平)を、まるで身内のように「タケ」と呼んで、親身に世話をする。
 タケは元銀行員。ムリな融資と回収不能の連鎖から、タケは精神的に参ってしまった。そして退職。病名はカネ恐怖症。カネを見るも触るもダメ。身体がガクガクしてきて、その場で気絶する。(本作の題にあるジヌとは銭ということらしい)
 だからカネを使わない生活を探して、タケはかむろば村にたどり着いた次第。

 カネを使わない生活。それは現物支給の生活。
 タケがはじめた便利屋の労働提供は野菜に換わる。村長の店、よろずやの「スーパーあまの」でのバイトも同様で、店の食料品に換わる。ただし、レジはできない。村長の妻・亜希子(松たか子)か、パート店員・いそ子(片桐はいり)がする。

 天野村長は、村に村人に真剣に尽くす。信頼も厚い。(見習え、全国の村長町長よ)
 だが、彼には秘めておきたい過去があった。そしてある日、村長の過去を知るやくざ・多治見(松尾スズキ)がやって来た。
 ひとモンチャク起きないわけがない。警察沙汰となった。

 隣り町の町議会議員が、かむろば村を吸収合併することを企んでいる。かむろば村に何やら処理場を作る計画だ。
 そして、かむろば村の村長選挙が始まる。隣り町の町議は、日頃から手なずけておいた村の助役に立候補させた。
 一方、天野村長は自分に替わって頼りなさげなタケを立候補させる。タケはカネにまみれていない。まみれようがない。ついにタケもその気になった。

 ところで、隣り町の町議会議員は、手なずけたい女がいる。村にある旅館の美人女将だ。
 女将は、かむろば村の老人で自称神様の、なかぬっさん(西田敏行)の娘だ。
 この、なかぬっさんは、いい神様で、(重要なシーンで目が不気味に光る)、この話で重要な役回り。天野村長やタケを助けるのだ。
 だが、神様とはいえ寄る年波には勝てぬ。なかぬっさんが他界。そして、どうやら、孫が村の神を引き継いだようだ。
 村長と村の神が代替わりし、かむろば村は次代へと歩み始める。
 

監督・脚本:松尾スズキ|2015年|121分|
原作:いがらしみきお|撮影:月永雄太|
出演:高見武晴、あだ名タケ(松田龍平)|かむろば村村長・天野与三郎(阿部サダヲ)|その妻・天野亜希子(松たか子)|女子高生・青葉(二階堂ふみ)|村長の店「スーパーあまの」のパート店員・いそ子(片桐はいり)|自称かむろば村の神様・なかぬっさん(西田敏行)|なかぬっさんの娘で伊佐旅館の女将・奈津(中村優子)|奈津の息子でなかぬっさんの孫、与三郎との子・進( 田中仁人)|かむろば村の助役・伊吉(村杉蝉之介)|伊吉の妻でや村役場の職員・トキ(伊勢志摩)|伊佐旅館の板前で元やくざ・勝男(オクイシュージ)|タケの農作業の面倒をみる何時も笑顔のみよんつぁん(モロ師岡)|村のやくざ青年で女子高生青葉が好きな青木(荒川良々)|隣の町の町会議員・伊佐旅館の女将・奈津に気がある・青舐(皆川猿時)|村長の過去を知るやくざ・多治見(松尾スズキ)|

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映画 「プープーの物語」  監督:渡邉謙作

写真
フウとスズ










写真
ブルーの色が好きなスズと、オープンカー


1-0_201707141055476be.png
 二人の女子、フウとスズの、大変大変なロードムービー。
 これは、ちょっとやっかいなキテレツ喜劇です。
 その上、軽くてユルくて、くだらない。Good!
 今のご時世じゃ、もうこういう映画はつくれない。

 フウは密かにスズが好き。スズはブルーの色が好き。
 フウはスズに寄りつく男をなぎ倒す。スズは赤ちゃんを抱えてる。
 スズは世のしがらみに頓着しない。その時の気まぐれで爽やかに生きてる、チョット足りない女の子。
 フウはスズが好きだから、そんなスズをいつもフォローする。

 大きく広がる田園風景の中、フウとスズと赤ちゃんのプープーはヒッチハイクの車を待っている。
 そこへ、スズが好きなブルー色のオープンカーがやって来る。はしゃぐスズ。
 着いた先で、オープンカーの男がスズに襲い掛かる、
 察したフウは生まれて初めての人殺しで、男をやっつけたはずが、どっこい生きていて逆襲を喰らう。
 だが次の瞬間、男は眉間に銃弾を受け、即死。
 間一髪のところ、二人を救ったのは、オープンカーの後部トランクから突如現れた、不思議な銀色少年、トランクマン。

1-0_2017071410592830c.png そんな頃、女装の妻とその夫は、自分たちの行方不明の赤ちゃんを探していた。
 この二人組に捕まったフウとスズ、計4人はオープンカーに乗って、彼らの赤ちゃん探しに付き合わされる。

 「きっと、ここよ」とフウは車を止めさせた。そこはスズが赤ちゃんをベビーカーごと、置き去りにした所。
 やっぱり!草原の茂みの中から赤ちゃんの泣き声。
 スズの赤ちゃんを奪おうとする二人組は、フウとスズに銃口を向けるが。どこからともなくドキューン。ここで例のトランクマンが再度ふたりを救った。

 そもそも、フウとスズのこの旅は、赤ちゃんのお父さんに会いに行く旅。
 一方、赤ちゃんのお父さん、木嶋(國村隼)は、スズからの手紙を、楽しい我が家で受け取っていた。

 手紙を読んで木嶋は唸った。たしか、依頼殺人でスズを殺したはずなのに…。
 木嶋はさっそく、あの時の殺人請負人ジョージ(原田芳雄)に会うことにした。結局木嶋は今度はジョージに頼まず、自らスズを狙うことにした。

 執拗な追跡の結果、木嶋がフウとスズの前に現れる。互いに拳銃の撃ち合いが始まり、次ぎの瞬間、木嶋が崩れた。
 そう、ここでもお助けトランクマン!

 そおして、フウとスズとプープーに、再び幸せな日々が始まるのでした。めでたしめでたし。なんぢゃ!このケッタイな話は・・。

 あの鈴木清順が脇役の老人で現れる。舞台セリフっぽい長セリフです。
 挿入のサウンド、いいセンス。
 軽く受け流して観ましょうね。
 

監督・脚本:渡邉謙作|1998年|73分|
原案:ミッキー・ケン・ケン・ブー|撮影:村石直人|音楽:三宅純|
出演:スズ(上原さくら)|フウ(松尾れい子)|木嶋(國村隼)|ジョージ(原田芳雄)|トランクマン(山中零)|老人(鈴木清順)|
オープンカーの男、職業ゴルファー(桜井大造)|イルカ(津田充昭)|ゲスオ(大森立嗣)|写真の男(ジョー山中)|ほか

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映画 「飢餓海峡」 監督:内田吐夢

上
函館警察の元刑事弓坂(右)は、当時追っていた男・犬飼に10年の時を経て、
このとき初めて会った。(東舞鶴警察留置場にて)


 「飢餓海峡」の飢餓とは、直截的には、主人公ふたりの貧しい出自を、海峡とは津軽海峡を指すが、題名の意味合いは、あまりに貧しい生まれであったが故に、どちらの人生も、(対岸の)幸せに至れなかったことの不幸を表わしている。(原作:水上勉)

 物語は、北海道を放浪していた犬飼(三國連太郎)という極貧の生まれの男と、青森県下北半島にある恐山のふもとに住む、やはり貧しい家の娘・八重(左幸子)、このふたりそれぞれの顛末を描く大作。(182分)

1-0_2017062915305344e.png 時は昭和22年、北海道にいた犬飼が、網走刑務所を出所した二人組に出会ったことから、話は始まる。
 当時、放浪中の身であった犬飼は、彼らの仲間になった訳ではなかったが、旅の道連れとなっていた。
 列車に乗った3人。その車内で犬飼は、この二人組が北海道岩内町の質屋を狙って強盗を働き大金を手にした事、その時、質屋の家族を殺し家に火を放った事を、それとなく薄々知る。逃亡する二人組と、この時点でも旅の道連れの犬飼であった。

 列車を降りた3人は海岸へと向かう。警察の目を避けて、津軽海峡を舟で渡ろうと言うのである。
 時はちょうど、青函連絡船が台風で転覆事故を起こしたその直後であった。
 遭難者救助のため地元消防団ら大勢が、次々に小舟で沖合に出て行こうとする、その騒動の最中であった。
 犬飼は二人組に言われるままに消防団員を装い、小舟一艘を借りた。

 日が暮れた荒海の沖合での出来事だった。
 二人組が仲間割れの喧嘩を始め、一人が海に落ちる。ついで片割れが犬飼に襲い掛かった。犬飼は身を守った結果その男は海に落ちた。深夜の出来事であった。(これは10年後、犬飼が東舞鶴警察の刑事の尋問に答えた発言であり虚偽かもしれないが、犬飼の真の告白かもしれない)

 結局早朝、犬飼一人が下北半島の海岸に、辛うじてたどり着いた。そうして犬飼はここで初めて、二人組が持っていた大金を確認した。大きな幸せを感じた瞬間であった。この金でこれからの人生が開ける!
 同時に、貧しく過ぎた自分の過去が、心の中で走馬灯のように駆け巡った。何をやってもうまく行かない人生だった。
 そして次に彼はおびえ始めた。自分が強盗殺人放火の犯人と疑われる、二人組を殺したと疑われる。当然であった。彼は乗って来た小舟を壊し、燃やしてしまう。

 食うものも無く、行く宛も無く、山林をさ迷った犬飼は、トロッコのような森林鉄道列車を見て飛び乗った。
 彼が八重に会ったのはこの時だった。
 ひどく汚れた身なりだがいい男の犬飼を見て、八重は食べていたおにぎりを二つ、犬飼にやった。
 そのあと、八重が仲居兼娼婦をする小さな旅館で、八重は犬飼に風呂をすすめ爪を切ってやったりの世話を丁寧にしてやった。
 八重は困った人を前にしての親切心だったのかもしれないが、見知らぬこの男に心が揺れたのは確かであった。
 一方、犬飼は、たぶん、生まれて初めての、真っ直ぐな親切に、やはり心が揺れていたのかもしれない。ふたりは交わった。

 犬飼は、「なんも悪い事した銭や無いから、好きにつこうたらええ」と手に入れた金から、八重にとっては大金の額を、そこにあった新聞紙に包んで、お礼として八重に渡した。そして犬飼は急ぎ旅館を後にした。(このふたりが再会するのは10年後であった)

 八重の家は貧しい上に借金を抱えていた。
 母親は死に、年老いた父親(加藤嘉)は林業で働くが稼ぎは少ない。仕方なく旅館で働く八重であったが、この金で貧しい暮らしから抜け出せる。借金を返済できる、父親の生活の足しにもできるから、自分は東京へ行きたい。東京に出て心機一転、堅気の働きがしたい。そう考えた八重は迷わず、同郷の知り合いを頼りに上京する。
 始め、間口一間の呑み屋に雇われ、次に娼婦となり、やがて芸者となって10年の時が過ぎた。生活は安定し、貯金を貯め、八重はそれなりに満足であった。

 一方、この10年の間に、犬飼多吉は樽見京一郎と名に変え、 京都府北部、日本海に面する舞鶴で会社経営をする実業家になっていた。
 大きな屋敷に住み、大陸引上げの女と結婚し、地元に、また故郷の小さな村に多額の寄付をする篤志家としても名をはせていた。

 ある日、八重はふと見た新聞記事の顔写真に、釘付けになった。犬飼さんだ!女の直感であった。記事には樽見京一郎の多額の寄付のことを礼賛していた。
 八重は居ても立っても居られない、住所が掲載されているその記事の切り抜きを持って、その日に舞鶴へ向かった。八重はただ犬飼に会って一言、10年前の礼を言いたかったのである。

2-0_2017062915392876c.jpg しかし八重を前にして、恰幅のいい樽見京一郎は、何の事やらと知らぬ存ぜぬを押し通そうとする。だが、間近に見る男は犬塚である。八重は懸命に話しかけた。ついに犬塚は白状する、そして犬塚の心がまたしても大きく揺れ、八重の首を絞めてしまう。
 そのあと犬塚は八重に茶を出した書生も殺し、深夜、二人の死体を心中に見せかけ海に投げた。

 八重には、この10年間ずっと後生大事にしていた物があった。それは、親切のお礼だと犬塚が言って、札束を新聞紙に包んだ、その古新聞紙と、犬塚の爪を切った時のその爪であった。(この古新聞の一面記事は青函連絡船転覆事故)
 八重は、犬塚が津軽海峡を渡って来た事も、二人組の大金を得ていた事も何も知らなかった。
 八重が知っているのは、弓坂という刑事が八重を訪ねて来て、「見知らぬ大男を見なかったか」と聞かれ、嘘をついた事だけだった。

 東舞鶴警察の刑事たち(高倉健ほか)が動き出す。
 調べが進むうちに樽見の犯行という線が濃厚になる。八重の遺体から例の多額寄付の新聞記事切り抜きが発見されたのだ。さらに見つかったのは、彼女が持っていた青函連絡船転覆事故を報じる古新聞。
 刑事たちは、樽見と八重の関係を探りはじめる。

 八重の父親が娘の遺体を引き取りに来た時、東舞鶴警察は、10年前に函館警察の刑事が八重を捜していたことを知る。
 そして、函館警察の元刑事弓坂(伴淳三郎)が呼び出される。 
 10年前、弓坂は北海道岩内町の質屋強盗殺人放火事件を追っていた。加えて青函連絡船転覆事故による遭難水死の遺体のうち、身元不明の2体が、網走刑務所を出所した二人組である事までは突きとめていた。そして、この二人の死体の額には、ともに妙な打撲の傷があった。小舟のオールによるものか。
 さらには当時、小舟を借りに来た男がその舟を燃やしたであろう灰も確認し、男が下北半島にたどり着いた事は明らかである事も突きとめていた。
 加えて東舞鶴警察は、10年目の宿帳から樽見の筆跡を確認した。
 ついに、樽見京一郎が東舞鶴警察に呼び出された。さて、このあと結末はいかに!!


監督:内田吐夢|1964年|182分|
原作:水上勉|脚色:鈴木尚之|撮影:仲沢半次郎|
出演:犬飼多吉/樽見京一郎(三國連太郎)|杉戸八重(左幸子)|樽見の妻・敏子(風見章子)|八重の父・長左衛門(加藤嘉)|函館警察の刑事・弓坂吉太郎(伴淳三郎)|弓坂の妻・織江(進藤幸)|網走刑務所を出所した二人組の一人・沼田八郎(最上逸馬)|網走刑務所を出所した二人組の一人・木島忠吉(安藤三男)|戸波刑事(岡野耕作)|佐藤刑事(菅原正)|岩内署長(志摩栄)|朝日館主人(曽根秀介)|朝日館女中(牧野内とみ子)|札幌の警部補(北山達也)|和尚(山本麟一)|漁師辰次(大久保正信)|下北の漁師(矢野昭)|下北の巡査(西村淳二)|巫子(遠藤慎子)|大湊の巡査(田村錦人)|富貴屋のおかみ(荒木玉枝)|煙草屋のおかみ(河村久子)|記者A(室田日出男)|池袋の警官(久保一)|警視庁の係官(北峰有二)|唐木刑事(鈴木昭夫)|堀口刑事(関山耕司)|嘱託医(斎藤三男)|味村時雄(高倉健)|ほか
下

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映画 「夜叉」  監督:降旗康男

上


 田中裕子を愛でる映画です。

1-0_2017061914235620d.png 任侠映画は今も好まないが、高倉健主演の「夜叉」を、前世紀に観たような気がしたので、今回あらためて観てみたら・・。
 高倉健のおはこ、無口で無表情な演技よりも、田中裕子の無言と微かに移ろう田中の表情の方が、ずっと雄弁だった。

2-0_20170619142734972.png 修治(高倉健)は、人斬り夜叉と言われた大阪ミナミのやくざであったが、覚醒剤で金を稼ぐな、という彼の主張が、組の中で通らず彼は干された。加えて、かたぎの女である冬子(いしだあゆみ)との結婚を機に、修治は足を洗い冬子の実家、福井県敦賀で漁師となった。

 修治の妻、冬子はこの漁師町で生まれた。15年前、冬子は大阪に働きに出て、やくざ者とは知らず修治と出会ったのであった。
 螢子(田中裕子)はミナミから流れて来て、この漁師町で「蛍」という名の呑み屋をはじめた女。螢子は子連れであり、彼氏はミナミのヤクザ、失島(北野武)であった。

 螢子と冬子の、それぞれの修治への愛。それは、ミナミのやくざな世界の中の愛、敦賀湾の漁師町の愛。

 脚本は練りが不足している。説明のためのモノクロ回想シーンは、どれも安っぽくて頂けない。
 ただし、秀逸なシーンが三つ。本作の全体を支える要です。
 ・螢子の店で、修治と冬子が客として酒を飲むシーン。修治をめぐって、螢子と冬子との間でスパークする激しく静かな火花。
 ・ある夜、修治宅を訪れた螢子が、二人だけの話がしたくて彼を海際に呼び出すシーン。螢子が修治に、ぼそっと言う。「冬子さん、嫌いや」
 ・夫に献身的で日ごろ大人しい冬子が、修治と螢子の関係を知ったその夜、冬子は修治に向かって、苦しい胸のうちから絞り出すように言う凄んだセリフ、「私はあなたの妻です!」 この一瞬、女優いしだあゆみが光る。
  かつて人斬り夜叉と言われた男も、この一言には敵わなかったというお話でした。

 
監督:降旗康男|1985年|128分|
脚本:中村努|撮影:木村大作|
出演:修治(高倉健)|螢子(田中裕子)|冬子(いしだあゆみ)|冬子の母親うめ(乙羽信子)|失島(北野武)|啓太(田中邦衛)|啓太の妻とら(あき竹城)|修治が属した組の組長の妻塙松子(奈良岡朋子)|修治の舎弟トシオ(小林稔侍)|親爺(大滝秀治)|修治が若い頃の女夏子(檀ふみ)|組員(寺田農)|ミナミの組長(下條正巳)|

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映画 「君と歩こう」  監督:石井裕也

上
田舎を出るノリオと明美先生。2人の明るい駆け落ちが始まった。

 田舎に住む、34歳の独身女性教師と高校生男子との駆け落ち喜劇話。

 映画は、よくある話の人物設定を否定してみせる。
 つまり、34歳男性教師が若い女子高校生と駆け落ちするのではなく、だ。
 また、その愛は極端に淡い。
 キスさえなく男子は童貞のまま、よくある男女の愛には程遠く、とりあえず切羽つまった駆け落ちでもない。

 そして話の筋は、基本、喜劇だが、奇妙で突飛で写実的じゃない。
 しかし一方で、どうしようもなく現実的でもあり、このふたつの要素がまだらに入り混じるところが、監督の喜劇なんだろう。

 大きく欠けてしまった心を抱く者同士、ノリオと明美。ふたりは自身のそれを言わない。
 だからこそ、優しい。 これは愛?

1-0 教師の明美(目黒真希)は、高校生のノリオ(森岡龍)に対し、自分は駆け落ちのプロだという。
 その日、ノリオは明美にせかされ、住み慣れた田舎を後に、ふたりは東京へ出た。

 まずは、ふたりはそれぞれの携帯電話を渋谷川に捨てる。
 そして、日当たりのいい部屋を借りた。明美はノリオに言う。
 「私はお金持ちなの。前々から言ってるとおり、ノリオは勉強して弁護士になるの。勉強しなさい。」 「はい先生」
 
 明美:「How are you?」 明美はいつもノリオに、こう問いかけるが、
 ノリオ:「ア、アム、アム・・・」
 明美:「I'm fine thank you. and you? でしょう」
 ノリオは覚えが悪い。

 話が進むうちにわかること。
 ノリオの両親はそろって自殺した。
 ノリオと明美の出会いは、両親の自殺のその直後、後追い自殺しようと、ノリオが首つりしている、「その最中」に、明美先生が家庭訪問に訪れたのだった。
 その後、ノリオはひとりで自宅に住み続けるが、家はゴミ屋敷になっていた。

 さて、明美とノリオの話に、サブストーリーが3つ絡んで、明美とノリオの東京生活が明らかになって行く。
 サブの話のひとつは、高校生同士(吉谷彩子、前野朋哉)の恋愛で女子が妊娠。この女子がカラオケ屋でバイトをしていて、この店で明美先生もノリオに内緒でバイトを始めるが、ノリオの前では要領がいい先生は意外にも、役立たず・・。さらには、そんな様子をノリオが見てしまう。
 一方、この女子高生を気遣うノリオを遠目に目撃した明美先生は、ノリオが浮気していると嫉妬する。
 結局、駆け落ちのプロ・明美先生は、このカップルを駆け落ちさせようと奮闘することに。
 次ぎのサブストーリーは、ノリオが偶然出会った謎の女性・康代(勝俣幸子)に、ノリオは公園の多目的トイレで童貞を奪われる。
 三つ目は、両親がいない野球ファン少年・安太郎(渡部駿太)がノリオに出会う話。

 そして、こんな何やかにやがあった、3年後。
 田舎を出たはずのノリオは、田舎の自宅に戻っていた。
 そしてある日、ノリオは畑の中のバス停で、バスを降りたばかりの、明美先生を発見する。
 明美はノリオに、笑顔を返すのであった。

下2監督・脚本:石井裕也|2009年|90分|
撮影:高木風太|
出演:田中明美(目黒真希)|佐伯ノリオ(森岡龍)|女子高生・一瀬メグミ(吉谷彩子)|男子高生・竹友(前野朋哉)|野球好きな安太郎(渡部駿太)|謎な女・康代(勝俣幸子)|ノリオの同級生のひとり・康隆(中村無何有)|ほか

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映画 「憲兵とバラバラ死美人」  監督:並木鏡太郎

上2
殺された女、百合子(三重明子)

 時は昭和12年、仙台歩兵第四連隊の敷地内で発覚した猟奇殺人事件のお話。

1-0_20170506211933332.png 連隊内で飲料水として使っている井戸から、若い女性の胴体が引き上げられます。その女性は妊娠していました。
 さて、殺人犯は連隊兵士だとみて、地元警察ではなく、憲兵隊が捜査を開始します。

 この映画は60年前に製作された娯楽作品です。映画公開当時は「バラバラ死美人」というショッキングな内容を楽しめたのかも知れませんが、今の感覚で観ると、犯罪ミステリー映画です。衝撃度への期待は裏切られます。でも、悪くはないです。

2-0_20170506214044305.png
 映画の内容は、1950年代によく作られた、刑事事件ドラマや怪談もの映画の、典型的なスタイルをとりながらも、コミカルさも忘れない作りです。
 ただし本作では、犯人捜査をする主役の刑事を、憲兵隊の曹長(下士官)に置き換えています。
 当時の、典型的なドラマ・スタイルを楽しみましょう。
 
 遺体発見後、憲兵の小坂曹長(中山昭二)が、仙台連隊長の招きで東京からやってきます。彼は腕利きの捜査官です。
 一方、地元、仙台の憲兵隊も捜査を始めていて、小坂曹長と事件解明でつばぜり合いになります。

 殺された女性、百合子(三重明子)、犯人の君塚軍曹(江見俊太郎)、この二人の登場シーンは少ないのですが、共に存在感ある俳優で、とても印象に残ります。この映画の見どころです。

 主演の小坂曹長(中山昭二)は、憲兵にしては温和な性格。地道に証拠を探し推理し、また地元警察の老刑事をうまく活用します。
 その小坂曹長の部下、高山(鮎川浩)は、曹長を助けながらも、コミカルで軽妙な演技をしています。

 東京から来た小坂曹長と高山が宿とした家は、高山の幼なじみの、しの(江畑絢子)という女性の家でした。この、しのの快活さと、高山の可笑しさが楽しいです。高山は、しのが好きです。
 また、しのの姉、喜代子(若杉嘉津子)は、飲み屋を切り盛りする、色っぽい独身女性。彼女は小坂曹長に一目惚れ、曹長もまんざらでもない。

 こういうサイドストーリーを脇に従えながら、小坂曹長と高山による犯人捜査は続けられます。
 そして、犯人逮捕のため、小坂曹長は満洲へ渡ります。
 満洲へ移動した仙台歩兵第四連隊に犯人の君塚軍曹もいて、彼はさらに連隊を離れてハルピンに逃げていました。 
 
 ちなみに、地元憲兵隊によって誤認逮捕され、取り調べで拷問にあう恒吉軍曹(天知茂、この時26歳)。若いながらも既に、あの天知茂特有の薄暗い魅力たっぷりです。

監督:並木鏡太郎|1957年|73分|
原作:小坂慶助|脚色:杉本彰|撮影:山中晋|
出演:小坂徳助曹長(中山昭二)|小坂の部下でヒラの憲兵・高山忠吉(鮎川浩)|被害者・伊藤百合子(三重明子)|殺人犯の軍曹・君塚八太郎(江見俊太郎)|小坂が宿にした家のあるじ・加島喜代子(若杉嘉津子)|喜代子の妹で高山の幼なじみ・加島しの(江畑絢子)|萩山憲兵曹長(細川俊夫)|刈田憲兵伍長(小高まさる)|井部憲兵隊長(倉橋宏明)|坂本憲兵大尉(高松政雄)|金田(三村俊夫)|田所(明日香実)|恒吉軍曹(天知茂)|山本(西一樹)|細井(浅見比呂志)|酒井(築地博)|小俣軍曹(池月正)|内務班の古年兵A(山岡正義)|内務班の古年兵B(宇田勝哉)|西村衛生伍長(館正三郎)|高梨(加藤章)|田中(小浜幸夫)|守谷刑事部長(岬洋二)|馬渡老刑事(久保春二)|医師の石川博士(児玉一男)|石川博士の助手(千葉徹)|鴨下妙子(松浦浪路)|清の家の女将(津路清子)|文子(小野彰子)|老姿およし(五月藤江)|歯科医(武村新)|村井夫人(高岡久美子)|

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映画 「戦国奇譚 気まぐれ冠者」(1935年) 監督:伊丹万作 (せんごくきたん きまぐれかじゃ)

上
「ヒゲの勘十」と「気まぐれ冠者」(片岡千恵蔵)

 この映画は、映画監督で俳優だった伊丹十三の父、伊丹万作(1900 - 1946)が、昭和10年に作ったコミカルな時代劇映画です。(トーキー作品)

1-0_20170423103831cee.jpg 表看板の主役は片岡千恵蔵で、浪人の「気まぐれ冠者」を演じていますが、この気まぐれ冠者に連れ添う、太っちょでちょっとヌケてる「髯(ヒゲ)の勘十」、この役を演ずる田村邦男という俳優が、とても素晴らしい。味があります。
 この人を主役として観るほうが、たぶん、この映画を楽しめると思います。(彼は日本大学相撲部出身だったそうです)
 (※冠者とは「若者」の意。ここでは、気まぐれ野郎ってな感じか)

 話の展開はゆったり進みます。
 旅する浪人の二人、気まぐれ冠者と髯(ヒゲ)の勘十は、山賊一味ともつながりがある、風来坊です。
 この二人は、ある藩が主催する御前試合の会場前を通りかかりました。(※殿さまの面前で行う武術試合)
 槍が得意な勘十が、これは面白そうだと、御前試合に飛び入り参加したことがきっかけで、二人は殿さまに家来として雇われることとなります。
 (どうでもいい事ですが……気まぐれ冠者は、のんきな殿さまから、「給与(禄)はいくら欲しいか」と出し抜けに聞かれ、たじろぎながらも抜け目なく希望金額を言います。勘十は、その額の多さに驚きます。
 しかし、すぐさま、殿の側近から予算的余裕は無いからねと耳打ちされた殿は、結局、気まぐれ冠者の希望金額を値切ります。でも一軒家が与えられます。厚遇ですよね。)


 さて、二人が仕官したこの国(藩)は、隣りの国が攻めてくることを恐れています。
 そこで、隣国が「攻めて来ないように」する、何か良い方法は無いものかと、殿さまはじめ家来たちは、これまでにも幾度も思案したのですが、良いアイデアは出てきません。
 まあ、この国はとても平和主義の国で、戦争は避けたいし、家来の武術レベルも低いようです。そして家来はみんな、間が抜けたのんびり屋です。おまけに殿さまは、はっきり言って阿呆です。
    ……………………………………
 そんななか、気まぐれ冠者は、隣国を偵察してみようと考えて、殿さまの許可を得ます。
 気まぐれ冠者は勘十を連れて、隣国に入りますが、不覚にも二人は捕まってしまい、城の牢屋に入れられてしまいます。
 しかし、牢屋の床の、ある敷石を持ち上げると、その下には地下へ降りて行ける抜け穴があることを発見し、二人は迷路のような抜け穴をたどって行きました。
 そして、行き止まりまで来ると、抜け道に天井がありました。気まぐれ冠者は勘十を踏み台にして、その天井を押し上げ、上の様子を見て、あっと驚きます。次に、どれどれと勘十も上の様子を見て驚きます。
 天井ように見えたのは、実は城内の部屋の床で、二人はその部屋の畳を持ち上げていたのです。そして、その部屋は、なんと、この国のお姫様、椿姫(市川春代)の部屋でありました。

 ひとり、この部屋にいた姫は、突然、床下から現れた二人を怖がっていましたが、気まぐれ冠者は絶妙に姫におべっかを使い、姫を懐柔することに成功します。
 そして、二人は、殿さまの前(お白州)に引き出されますが、殿の脇にいる姫の計らいで、殿さまは二人を釈放します。この国の殿さまも、バカ殿のようです。

 さて、ここから、気まぐれ冠者が考え出した、敵国攪乱(かくらん)作戦が始まります。
 その作戦の秘密兵器は、金の卵です。まずは金の卵を国中に知らしめます。
 そして、気まぐれ冠者と勘十、そして彼らの手下数名(知り合いの山賊)が、忍者姿となって行動し始めます。
 この国の、あちこちの農家のニワトリ小屋に、金の卵をそっと置いて行きます。そのうち、この国の人々は、そして殿さまも家来も、金の卵を産むニワトリを巡って、我を忘れ夢中になって行きます。国中が翻弄されます。隣国侵略どころではありません。作戦大成功。

 そんなわけで、気まぐれ冠者と勘十は馬にまたがり、この国で新たに手下にした人々を従えて、意気揚々と凱旋の途に就くのでした。めでたし。(馬にまたがって凱旋するシーンは、中国大陸を感じますね)

 本来、88分の尺の作品だそうですが、現存は75分なので、観れないシーンがあります。
 また、古い映画なので、音声が聞き取りにくい。よって、元は分かりやすい大衆向け仕立ての映画なのですが、話がイマイチ分からない。
 そのうえ、気まぐれ冠者と勘十が仕官した国の殿さま(伊藤隆世)と、隣国の殿さま(ジョウ・オハラ)の様子が似ているので、コンガラガル。(仕官した国の殿さまには、長いあごヒゲがある)
 それでも、ホンワリした、いい喜劇映画と言えるでしょう。

 本作の制作は1935年。この頃の時代背景。
 1931年、柳条湖事件に端を発して満洲事変が勃発、関東軍により満洲全土が占領される。その後、関東軍主導の下に同地域は中華民国からの独立を宣言し、1932年、満洲国建国に至った。
 こんな世情になかで、当時の人々は、この映画を観ていました。
 
 
この映画は、トーキーです。つまり無声映画じゃないです。
日本初のトーキーは1927年。
1938年当時でも、日本では映画製作の3分の1は、まだ無声映画だったそうです。

監督・原作・脚本:伊丹万作|1935年|88分 (現存75分)|トーキー、モノクロ|
製作:片岡千恵蔵プロダクション|撮影:石本秀雄|
出演:片岡千恵蔵(気まぐれ冠者)|田村邦男(髯の勘十)|伊藤隆世(殿様)|ジョウ・オハラ(敵国の殿様)|市川春代( 椿姫 敵国のお姫様)|尾上華丈(木曽猿)|瀬川路三郎( 関羽左衛門)|香川良介(隠密横目氏)|林誠之助(金神)|駒井燿(百足)|ほか

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映画 「羅生門」  監督:黒澤明

上2

 女優、京マチ子を愛でる映画です。
1-0_20170409235658056.jpg
 時は平安時代のある日。人けのない山間の道を、平安京の中央官庁に勤務する官人の金沢(森雅之)は、妻の真砂(京マチ子)を乗せた馬の手綱を引き、亰へと向かっていた。
 偶然、その道端に居た盗賊の多襄丸(三船敏郎)は、通り過ぎる馬上の真砂の美しさに一目惚れ。
 この女を奪いたい、その一心で多襄丸は、ふたりの行く手に立ちはだかった。そうして格闘の末、多襄丸は金沢を縛り上げ、彼の目前で妻の真砂を犯した。その後、金沢は死体で発見される。

 どうも、そこまでは確か、らしい。
 と言うのは、それは検非違使庁(けびいちしちょう)のお白洲に呼び出された、この事件の関係者らの供述から、推測される。
 被疑者は、縄で縛られた盗賊・多襄丸。証人は、金沢の妻・真砂と、巫女(霊能者)の降霊術によって呼び出された金沢の霊。加えて、死体の第一発見者の杣売の男(志村喬)、生前の金沢を見かけた旅法師(千秋実)、弱っていた多襄丸を捉えた男(加東大介)。
 しかし、多襄丸、真砂、金沢の霊、それぞれの供述が大きく食い違う。誰が金沢を、真砂の短刀で殺したのか。

 さて、お白州の後日、土砂降りの雨の中、羅生門の下で雨宿りする、死体の発見者の杣売の男が、下人の男(上田吉二郎)と旅法師に、お白州で言えなかった真実を語り出す。杣売の男は、事件に関わりたくなかったのだ。

 多襄丸、真砂、金沢の霊、この3名の供述は、カメラに向かってなされる。つまり、検非違使庁の役人(裁判官)は観客となる。
 そして、この3名の供述と杣売の男が見た真実が、それぞれ映像として再現され、映画は進む。
 京マチ子が、4名の供述でまったく異なる真砂を演じ分ける。これが見事。(観てのお楽しみ)
 少し残念なのは、多襄丸の供述時のセリフが硬いこと。

  「羅生門」(らしょうもん)とは、平安京の中央を南北に貫く朱雀大路の南端にあった都の正門、羅城門(らじょうもん)のこと。のちに、平安京の西側半分および七条以南の地は、荒廃してしまう。羅城門が見る影も無い本作は、その頃の話と思われる。


英語表記:Rashomon
監督:黒澤明|1950年|88分|
原作:芥川龍之介|脚本:黒澤明 、橋本忍|撮影:宮川一夫|
出演:多襄丸(三船敏郎)|金沢武弘(森雅之)|金沢の妻・真砂(京マチ子)|杣売(志村喬)|旅法師(千秋実)|下人(上田吉二郎)|旅免(加東大介)|巫女(本間文子)|

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映画 「やくたたず」   監督:三宅唱

上

 いい映画です。
1-0_20170324165718a12.jpg どこにでもいるような男子高校生三人の、極々日常的な時間の流れが、カメラによって切り取られ、映画に映し出される。ストーリーというほどの物語性は無い。
 大筋の台本はあるんだろうが、たぶんセリフや演技は俳優に任せている。演技の巧さは求めてはいない、カメラの前で構えなく、極、自然に振る舞えることが大事であった。
 本作をつまらないと思うのは自由だが、映像そのものが、言外に何やら静かに語っているのが分かると、この映画、気に入ると思う。
 
 話の舞台は、雪降る札幌郊外のそのまた外れ。車は通るが人影は見当たらない、殺風景な雪景色。
 枯草茂る小さな丘陵を越えれば、海。モノクロ映像が、白い雪原と冷たい空気を強調する。

 防犯機器の取付施工をする小さな会社に伊丹という従業員がいて、彼を慕って高校3年生の三人が、バイト気分で仕事を手伝いしはじめる。「やくたたず」です。
 高校3年生とはいっても、まだまだ幼い、三人はじゃれ合うように日々を過ごす。
 彼らの先輩、伊丹が勤めるこの会社は、年配のオーナー社長と若い女性従業員一人だけ(この映画の紅一点)。 そして、小さな事務所小屋と機材倉庫に古ぼけた日産サニートラック1台。
 それに、伊丹の友人で刑事の、おとなしい次郎が登場人物に加わり、そして物語と言えることは、日産サニートラックが盗難にあうことぐらい。それも事件と言うほどもない事件。
 これで76分間、最後まで飽きずに観てしまえる。いい映画です。それとカメラワークがイカしてる。お試しあれ。
 

監督・脚本・撮影:三宅唱|2010年|76分|
出演:柴田貴哉|玉井英棋|山段智昭|櫛野剛一|足立智充|南利雄|片方一予|須田紗妃|


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映画 「いなべ」   監督:深田晃司

上
直子と智広のふたりが行く。

 38分の短編映画です。短編ならではの、さらりとした良さがある静かな映画です。
 起承転結の、起・承が穏やかに推移し、ラスト近くで一気に、転と結が用意されているお話です。

1-0_201703182041556fb.jpg 三重県いなべ市の郊外、田園地帯に、長男の智広(松田洋昌)と、歳の離れた高校生の妹、そして母親と祖母の一家4人が住んでいる。その妹は母親が再婚して生まれた娘らしい。
 そこへ智広の姉の直子(倉田あみ)がひょっこり、17年ぶりに帰って来た。幼児を抱えている。高齢出産は大変だったのよと言う。夫はあとから来るらしい。母親は仕事で夜にならないと帰って来ない。この話は、母親が帰宅するまでの数時間の物語。

 妹は直子を知らない。それほどに、直子はこれまで家に近づかなかったし、まったく音信不通だった。兄の智広から話を聞いた妹は、この人があの幻の姉なのねとつぶやく。
 直子は若い頃、家出をした。わけは、直子の英語の家庭教師をしていた男性だった。直子はこの年上の男を慕っていた。将来、この人と結婚してもいいと思うほどだった。ところが、この男は母親と一緒になった。そして直子は家を出た。その後、その男は世を去る。そんな17年を経て、直子が今日、帰って来たのだ。

 直子は智広を連れて、幼い頃を懐かしむように家の近所を歩く。そして直子は林に入って、昔、密かに土に埋めて隠したものを探し出す。それに付き合う、久しぶりの弟気分の智広。
 この姉弟がそんな散歩をするうちに夕暮れが近づく。五重塔のような展望台にふたりは登った。
 展望台からの見晴らしは素晴らしく、夕闇に浮かぶ街の灯りが遠くに綺麗に輝きだす頃。展望台に吹く風が、何か座りの悪いふたりの気持ちを揺らせて、ここよりも、どこか、ずっと向こうのどこかへ、ふたりの心を、ふっと奪い去って行くような、なぜかそんな心もとなさを智広は感じていた。

 直子は智広に、「会えて良かった」と言った。そののち、直子と智広はふたりして家へ帰るはずだったが、家に帰って来たのは智広ひとりだった。
 智広が玄関を開けると、母親が智広の帰りを待ちあぐねていた。母親は言った。「直子の夫だと言う男の人が来てるのよ...。」(あとは映画を観てね)

 滝のシーンはGoodだし、智広の妹がその友人と自転車に乗るシーンは、直子のこれまでを説明する為のシーンだが、自然で良い。だが、直子と智広が散歩するシーンが全体にやや冗長。広場で男4人がサッカーボールをけり合うシーンは、もうヒトヒネリしないとなんのこっちゃになってしまう。

下




監督・脚本:深田晃司|2013年|38分|
撮影 根岸憲一
出演:智広(松田洋昌)|直子(倉田あみ)|伊藤優衣|井上みなみ|望月皇希|康光岐|鈴木Q太郎|西田幸治|哲夫|桂三輝|ほんこん|

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映画 「安珍と清姫」 若尾文子,市川雷蔵  監督:島耕二

上

 安珍・清姫伝説をもとにした、大人の日本昔話といった内容の映画。
 自由奔放なな姫、若尾文子(清姫)と、まじめ一徹な僧侶、市川雷蔵(安珍)、このふたりの魅力につきる映画です。
 1960年の映画ですが、今でも十分に鑑賞に堪えます。
 話はとても古く、平安時代から伝承され、紀州(和歌山県日高郡)道成寺という寺に伝わる話です。

1-0_20170226142424cf0.png おてんばで勝ち気な清姫が狩猟の途中、姫が射た矢が流れ矢となって安珍の腕に当たってしまいます。これがふたりの運命の出会いでありました。
 安珍と連れの僧は、奥州白河より熊野に参詣に来た旅の僧であり、修行中の身でした。
 だから信心一途の安珍は、僧の戒律を守るため、傷の手当をしようと近づく清姫を避けます。清姫を美しいと思うが故に、なおさら避けます。そして安珍は己の煩悩と戦うこととなります。

 かたや清姫は、自身の過失を詫びつつも、自分を避ける、無視しようとする安珍に腹が立ちます。そのうえ、清姫は里の荘官(庄司)の美しい娘、プライドを傷つけられた思い。だから清姫はなんとか、安珍の僧の仮面をはがして、安珍の気を無理にでも自分へ引き付けたい。
 実はそれは安珍への恋だったのですが、清姫は自分のうぬぼれの方が勝り、恋とは気付きませんでした。
 ある夜、安珍が傷を癒やすため、里のいで湯にひとり入っていると、そこへ清姫が現れ、一糸まとわず湯に入ってきます。何やら妖しい色気さえ漂う姫は、安珍を誘います。そうして勝ち気な清姫は、安珍の心が自分に向いていることを安珍に白状させ、あたかも勝ったがごとく高らかに笑うのでした。

 しかしそののち、清姫は安珍への愛に気付きます。清姫は、煩悩に苦しみながら里を去り道成寺へ向かう安珍を追います。
 道成寺への途中、安珍は滝に入っての修行(滝行)のため、仮小屋に滞在します。そこへ清姫が追い付きました。
 そしてふたりは、ついに結ばれます。しかし悲しいかな、このふたりの愛は何処まで行っても悲恋なのです。僧の戒律を破った安珍は、煩悩の苦しみに加えて、自戒の念に苛まれていきます。

 安珍は姫から逃げるように道成寺へひた走ります。そして、彼を追う清姫は、とうとう川に身を投げてしまうのでした。
 その夜、道成寺の境内に異変が起きます。雷鳴と嵐のなか、大蛇に化身した清姫が・・・。

 余計なことですが、仮小屋でのシーンは、なかなか色っぽいです。ご注目。
 本作を観て思い出すのが、2016年の映画「仁光の受難」。これ、安珍・清姫伝説を下敷きにしています。ですが清姫ではなく、村の女達や山女。やたらモテる修行僧の女難の話、喜劇です。
 本作 「安珍と清姫」と同じく、平安時代の話として、女狐の化身との愛の話、内田吐夢の「恋や恋なすな恋」は、大川橋蔵と瑳峨三智子の競演。これもファンタジー作品です。
 若尾文子つながりで言うと、「初春狸御殿」。これはミュージカル。本作 「安珍と清姫」と同じく、若尾文子と市川雷蔵の競演。  
 ちなみに、本木雅弘主演の修行僧の映画「ファンシイダンス」は、僧自ら禁を破りまくるお話でした。
 以上、文中の下線部をクリックして、当該4作の過去記事をお読みください。

英語タイトル:The Priest and the Beauty
監督:島耕二|1960年|85分|
脚本:小国英雄|撮影:小原譲治|
出演:安珍(市川雷蔵)|清姫(若尾文子)|清姫の父で里の荘官・清継(見明凡太朗)|清姫と結婚したい里の長者・友綱(片山明彦)|連れの僧・道覚(小堀阿吉雄)|桜姫(浦路洋子)|早苗(毛利郁子)|増全(荒木忍)|義円(南部彰三)|佐助(花布辰男)|渚(毛利菊枝)|ほか

下


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映画 「どっこい生きてる」   監督:今井正

上
 早朝、日雇いの仕事を求めて、木造の臨時職安前に押し寄せる人々 (これは実写だろう)


0 非戦闘員を無差別に殺傷した東京大空襲から6年経った1951年、占領下の東京の街中の様子とは、どうだったのか、を知る映画。
 観たいと思う方は多くないと思われる映画だが、機会があれば観ておくことをお勧めします。

 進駐軍こそ映画に出てこないが、空爆で破壊されたビルの残骸や、焼け跡のもろもろの瓦礫がまだ街のあちこちにあるのです。
 その瓦礫の撤去や河川改修の作業(日雇い仕事)を職安が提供している。
 多くの人々に職がないのだ。職安が斡旋を開始する早朝、人々は急ごしらえの木造の臨時職安前に、押し合いへし合い、ひしめく。
 多くの人々に金がない。その日、家族が食うものが買えないのだ。
 しかし日雇いで得た金は僅か、数日の食費も賄えない。
 運よく、なんとか勤め先が見つかっても、給料日までを食いつなぐ生活費がないために、その職を諦めざるをえない、そしてまた日雇い生活に戻ってしまう悪循環。(前借りはできない)

 主人公の毛利(河原崎長十郎)は妻と二人の子を抱えている。毛利は毎朝職安に出かけるが、日雇いの職にありつけないこともある。
 家族はみな、着の身着のままだ。粗末な掘っ建て小屋の貸家に住んでいるが、家賃が滞っている。さらには、家主が土地を売ったために立ち退きを余儀なくされる。
 毛利は妻子を、東北にある妻の実家へ帰した。定職に就けて金が出来たら、東京に呼び戻す予定だった。

 うな垂れる毛利は簡易宿泊所にころがりこんだ。日雇いで知り合った顔があちこちに見受けられた。(宿泊所は大部屋雑魚寝)
 日雇い仲間で毛利と気の合う水野(木村功)は、毛利より若いが明るくしっかり者。水野は、その外観が、小学校の二階建て木造校舎のような戦災者共同住宅に住んでいる。(炊事洗濯便所は共同) 一家一間の部屋に、じいさんと妻子ほか、なんと計7人が住んでいる。
 毎朝、職安に出かけては、日雇いをする日々が続く。

 そのうち毛利は旋盤の職を見つけたが、給料日まで食っていく金が、手元に無いがために、悶々としていた。
 それを聞いた水野の計らいで、共同住宅の住人の秋山婆さん(飯田蝶子)が動いた。共同住宅の住人に毛利のために募金を訴え、毛利が食いつなげる金が集まった。

 だが、その夜、簡易宿泊所内で毛利はその金を盗まれる。
 翌朝、旋盤の工場に初出勤したが、工場主から、受注予定の仕事がキャンセルになったので、雇えないと言われる。(実は、工場主の妻が毛利の貧しい風采を見て信頼がおけない怪しい輩と判断したのだった)
 行き詰った毛利は、簡易宿泊所の男に誘われ盗みを働く。警官に追われ逃げる毛利は、ふと気づくと、追い出された家の前にいた。そして、毛利の姿を見かけた大家は言った。上野警察から呼び出しがかかっているよと。

 毛利は観念して出頭したが、話の要件は毛利の妻子の引取りであった。無賃乗車で上野に帰って来たのだ。
 田舎の実家では、六畳に何人もが寝起きする状態だったらしい。田舎とて包容力がなくなっていた。

 上野駅近くで、毛利一家は途方に暮れる。もう、一家心中しかない。
 その前に、子たちに楽しい思いをさせようと遊園地へ。
 だが、ちょっと目を離した隙に息子が池に落ち溺れる。毛利は池に飛び込み息子を救った。
 そして夫婦は思った。生きよう。
 
下監督:今井正|1951年|102分|
脚本 岩佐氏寿 、 平田兼三 、 今井正|撮影 宮島義勇中尾駿一郎、植松永吉|
出演:毛利修三(河原崎長十郎)|妻さと(河原崎しづ江)|子供雄一(河原崎労作)|子供民代(町田よし子)|簡易宿泊所に住む男・花村(中村翫右衛門)|水野(木村功)|水野の妻(岸旗江)|水野の父(市川笑太郎)|水野の妹(今村いづみ)|水野良(寺田勝之)|水野健(寺田健)|秋山婆さん(飯田蝶子)|藤木(四代目中村梅之助)|班長野田(中村公三郎)|現場の男(坂東秀弥)|吉田製作所主(瀬川菊之丞)|妻きみ(川路夏子)|大家山川(河原崎国太郎)|トラックの男(花沢徳衛)|簡易宿泊所亭主(松本染升)|



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映画 「パルコフィクション」   監督:矢口史靖、鈴木卓爾

1-0_20170216152911cfe.jpg


 矢口史靖監督の「裸足のピクニック」(1993)、「ひみつの花園」(1997)、「アドレナリンドライブ」(1999)を、面白い映画として観て来た者にとって 、本作「パルコフィクション」(2002)は、前三作の延長線上にある映画として観れる。
 奇天烈な展開、作り手のひねくれた遊び心が嬉しい喜劇映画。(文中の下線部をクリックすると、その映画記事が読めます)

 でも矢口映画ヒット作「ウォーターボーイズ」(2001)を気に入った人は 「パルコフィクション」を多分、受け入れないだろう。作風が違う。

 これは監督の二面性とも言えるが、しかし残念ながら、「ウォーターボーイズ」は、その後の「スウィングガールズ」 (2004)や「WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常」(2014)と同様に、凡庸な映画。
 認められて、予算がつく映画製作を任されるようになり、監督として箔がついたのでしょうが・・・、惜しいです。
 ただし「ロボジー」 (2012)はいい映画。「ハッピーフライト」 (2008)はなんとか観れる。

 本作 「パルコフィクション」は、あのパルコを舞台に6話の構成になっている。
 「パルコ誕生」、「入社試験」、「バーゲン」を矢口史靖が監督・脚本を担当し、「はるこ」、「見上げてごらん」、「ポップコーンサンバ」を鈴木卓爾が監督・脚本を担当している。どれも面白い。
 第三話「バーゲン」は、行定勲監督の映画「きょうのできごと」を思い出す。

監督・脚本:矢口史靖、鈴木卓爾 |2002年|65分|
発案:安田裕子|撮影監督:白尾一博|
出演:パルコ役員(田中要次)|老人(相馬剛三)|鈴木徹(小島大輝)|徹の父(寺十吾)|徹の担任教師(椎名令恵)|老人の息子(森下能幸)|コンビニ店員(山中聡)|医師(伊藤智之)|看護婦(元木千早)|花子(真野きりな)|東大男(近藤公園)|面接官(福田勝洋)|新入社員(大高敏宏)|新入社員(古澤弘年)|新入社員(出雲勝麿)|新入社員(小松玲子)|新入社員(池崎真理)|木下イズミ(村上東奈)|ムラチュー(高橋健太)|木下はるこ(進藤幸)|屋上の作業員(田邊年秋)|バーはるこの客(佐藤佐吉)|5歳のはるこ(森田季砂)|斧(鈴木卓爾)|極悪トリオ・甲(宇野孝信)|極悪トリオ・乙(山口大輔)|極悪トリオ・丙(野田幸祐)|バーはるこの子ママ (松村奈緒)|イズミの母(吉野晶)|パルコの店員(唯野未歩子)|パルコの店員(中村靖日)|パルコの店員(紫とも)|パルコのCM(真野きりな)|パルコのCM(近藤公園)|原井鈴子(猫田直)|塩野谷恵子(塩野谷恵子)|店長(紫とも)|パルコの客(坂井三恵)|店員(稲田千花)|警備員(荒川良々)|山谷美都子(唯野未歩子)|大須観三(荒川良々)|荒間素敵子 (田村たがめ)|司(徳井優)|セラピス( 緒方明)|渡部(松永大司)|ジコディ(ジェニファー・ホルメス)|美都子の少女時代(松村奈緒)|美都子の同僚(吉野晶)|

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映画 「ディストラクション・ベイビーズ」   監督:真利子哲也

上

1-0_2017020209333779e.jpg

 世間から、「はみ出た」者たちへの哀歌。そして、覚醒し始めるモンスターの物語。あるいは、痛そうな映画。
 
 ある日、何の前触れもなく、やがて駆出し、そして、その一瞬、暴発する怒り。仕掛けるケンカとその痛みと血の味は、覚醒し始める暗黒の悪の予感と快感を誘い、男はなかば陶酔の中。

 愛媛県の松山から、さほど遠くない小さな漁村で、その男、泰良(柳楽優弥)は養父(でんでん)のもとに育った。
 高校生の泰良はいつもケンカ沙汰。ある日、ふいっとふらり無一文で松山の街に出る。あては何もない。
 泰良は行き当たりばったりに、通りすがりの男や街のヤクザ相手に、ケンカをいきなり仕掛ける。打ちのめされるが、再度は勝つ。この繰り返しで泰良は徐々に、そして確信的に、バイオレンスの奥にある甘い味に目覚め、心の闇の中で陶酔していく。

 泰良に出会った裕也(菅田将暉)は、臆病な男だったが、泰良の腕力を利用し、泰良を従え、通行人に乱暴を働きながら、松山の街を我が物顔で歩き出す。裕也の心の奥に潜んでいた、こんな悪の衝動が路上に転がり出たのだ。
 そんな裕也を、いささか小馬鹿にした目で見る泰良。泰良は裕也に従っているとは、まったく思ってない。

 裕也が強奪したベンツに、偶然、キャバクラ嬢の那奈(小松菜奈)がいた。
 那奈は身柄を拘束されながら、裕也と泰良の3人は、このベンツで深夜の松山市街を離れた。
 翌日、山の中の道で、泰良は車を降りる。しばらくして戻って来た泰良の服に血が着いている。どこかでまた、乱暴したらしい。泰良を追って来た男が、泰良に叩きのめされ路面に倒れた。 

 それまでトランクに入れられていた那奈が運転をさせられる。と、走りだそうとするその時、車は何かに乗り上げる。倒れていた男だった。裕也は那奈にその男をトランクに入れさせる。
 あっ、那奈は慌てた。その男が意識を取り戻したのだ。那奈はなぜか反射的に、男の首を渾身の力で絞めた。それを見た泰良と裕也は、少しの驚きを感じながらも、ニヤリとするのだった。

 警察に追われていた泰良が、祭りの夜、松山に現れた。泰良の人相はがらりと変わっていたのだった。

 全体的に、セリフの聞きやすさを嫌い、わざと低めの音量になっている。とりわけ泰良のセリフの数は僅か。その中で立ち上がってくる「異様さ」を表現するのが、泰良・役の柳楽優弥の仕事。だが、その顔に幼さが残るせいか迫力に欠ける感じ。高校生という設定だからか? 少し残念。(もっとも、映画によくある安っぽいヤサグレ男ではないが。)
 バイオレンス・モンスターで思い出すのが、2014年の韓国映画「その怪物」だが、この映画は優男で迫力がなかった。 (下線部をクリックして「その怪物」の記事をご覧ください)

1-5_20170202101351566.jpg【 真利子哲也監督の映画 】
これまでに記事にした作品です。
以下のタイトル名をクリックしてお読みください。
イエローキッド」 2009、「NINIFUNI」 2011、
同じ星の下、それぞれの夜  FUN FAIR」 2012
【 柳楽優弥出演の映画 】
誰も知らない」 2004  監督:是枝裕和 お薦め

監督:真利子哲也|2016年|108分|
脚本:真利子哲也、喜安浩平|撮影:佐々木靖之|
出演:柳楽優弥(芦原泰良)|菅田将暉(北原裕也)|小松菜奈(那奈)|村上虹郎(芦原将太)|池松壮亮(三浦慎吾)|北村匠海(健児)|三浦誠己(河野淳平)|でんでん(近藤和雄)|ほか

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映画 「変魚路」   監督:高嶺剛

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2-0








ミサイラーと、白髪の山の神と、イフェ―パタイジョーのオブジェ(守り神?)


 唐の世が大和の世になって、大和の世がアメリカ世に、アメリカ世が大和の世に・・・
 という歌が、三線一本で歌われて映画が始まります。

 高嶺剛監督の映画は、これまでに、「パラダイスビュー」(1985)と「ウンタマギルー」(1989)を取りあげてきました。(下線部をクリックして過去記事をお読みください)
 どちらの映画も、沖縄の地と文化にしっかりと根差す映画で、沖縄のいにしえをモチーフに取り入れ、かつウチナーグチのセリフでした。
 この「変魚路」も、その路線は変わりありません。しかし、お話の様相は変わった風に思えます。
 ひとつは、現在未来よりも、しきりに過去を振り返るようなシーンがあります。それは、沖縄の良きいにしえを今も継承すると言う風じゃなく、主人公たちの少年時代の古い写真(敗戦直後の頃か)が何度も映し出されます。回顧の念でしょうか。
 もうひとつは、登場人物の多くが年配者たち(出演者たちが老いました)で、若い人の愛といったことは出てきません。
 一方、そうした事と釣り合いを取ろうとするかのように、映画表現は過激になっています。
 沖縄芝居(大衆演劇)や沖縄の民話のイメージを背景にしながらも、突拍子もない調子はずれなシーンが前後の脈略なく現れ、かつ、それらをコラージュした表現が多く出てきます。もちろん可笑しなユルいシーンもあります。


3_201701311231263fc.jpg 監督(1948- )が老いたのでしょうか? 総じて映画の角が丸くなりました。怒りが遠のいた。もっとはっきり言えば、何やら、世に対する「あきらめ」とでもいうようなものが感じ取れます。
 映画表現はハチャメチャではありますが、穏やかなお話でした。
 「パラダイスビュー」や「ウンタマギルー」が良かったと思う方は、「変魚路」を難解な映画と思わず観てください。


監督・脚本:高嶺剛|2016年|82分|
撮影:高木駿一、平田守|
音楽:坂田明|ヨハン・バットリング|ポール・ニルセン・ラブ|大城美佐子|大工哲弘|嘉手苅林昌|CONDITION GREEN|北村三郎|
出演:平良進(タルガニ)|北村三郎(パパジョー)|大城美佐子(カメ)|川満勝弘(ミサイラー)|ほか


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映画 「さくらん」   監督:蜷川実花  脚本:タナダユキ

上

 この映画は安野モヨコの漫画をもとにし、(だから基本、女性向けで)、そして、やたら極彩色な写真家・蜷川実花と、「モル」「百万円と苦虫女」の映画監督・脚本家のタナダユキと、椎名林檎との、3人による共作の映画。
 江戸時代や時代劇や遊郭モノが好きな人は敬遠するかもしれないけれど、たまにはこういう映画もそれなりに悪くない。

1-0_201701251405554b3.jpg これでもかという濃厚な色使いで埋め尽くされる映像は、結果、その色彩に酔う感覚で心地良く思う人や、外国人を狙っているんだろう。
 でも映像を観てると、室内インテリアや着物が、残念ながら安っぽい。いま出来上がりました的で、衣装や大道具に、まだ味(色味)がしみ込んでない感じがする。色に深みが無く、なぜか色紙を思い浮かべてしまう。
 色彩じゃない方の「色」は、女優3人の白い背中を拝めるくらい。そもそも、この映画に粘っこい男性目線はない。

 男性と言えば、店の使用人・倉之助(椎名桔平)。倉之助は、吉原遊廓の遊女で主人公の日暮(土屋アンナ)の相手役。
 この倉之助はイケメンで、イケメンの役どころだからこその、いつもの宿命で、なにやら「場」から浮いているのが可笑しい。
 でも、だからこそ、遊郭の中庭にいる倉之助は、店の2階にいる日暮と、「ロミオとジュリエット」ができるし、ラストでは満開の桜の中を、ふたりして走れるのである。こういうところが、倉之助が映える活躍の場なのだ。

 さて主役の土屋アンナは女優として「見せる」が、あの一本調子の演技は変わらない。
 あとふたりの花魁、高尾(木村佳乃)、粧ひ(菅野美穂)も、極彩色に埋もれて、演技はかすれ気味。
 ま、しかし、時代劇に挑戦するのは良い。

 この映画を作った人は、製作にあたって参考に、川島雄三の映画 「幕末太陽傳」を観てるだろう。
 また、遊郭を扱った破天荒なインディーズ映画、林海象の「音曲の乱」は、もし予算がたっぷりあったなら、「さくらん」に近い極彩色を得たかもしれない。
 男性目線が多い中、周防正行の映画「舞妓はレディ」は、遊郭じゃなく祇園だが、かわいい舞妓目線の映画だった。
 (上記文中、下線部は当該映画の記事へのリンクです。クリックして、当ブログの記事をお読みください)
 

監督:蜷川実花|2007年|111分|
原作:安野モヨコ|脚本:タナダユキ|撮影:石坂拓郎|音楽:椎名林檎|
出演:きよ葉/日暮(土屋アンナ)|倉之助(椎名桔平)|惣次郎(成宮寛貴)|高尾(木村佳乃)|粧ひ(菅野美穂)|光信(永瀬正敏)|若菊(美波)|大工(山本浩司)|坂口(遠藤憲一)|幼いきよ葉(小池彩夢)|しげじ(山口愛)|お蘭(小泉今日子)|楼主(石橋蓮司)|女将(夏木マリ)|ご隠居(四代目市川左團次)|清次(安藤政信)|桃花(蜷川みほ)|花屋(小栗旬)|

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映画 「さらば愛しき大地」   監督:柳町光男

上

 映画の舞台は茨城県鹿嶋市、海と霞ヶ浦に挟まれた平たい地域。
 そこは田んぼが一面に広がる田園風景、そして疎らに点在する農家。
1-0_20170123155834c4f.jpg その一軒が主人公、幸雄(根津甚八)の家だ。幸雄は代々農家のこの家の長男。

 映画は、男女の愛と、衰退していく農業になすすべもない農家の、悲哀を描きながらも、その地に根ざす風土へのこみ上げる郷愁を伝えようとしている。

 幸雄の家は、米作と僅かな養豚じゃ今や食えなくて、(それは、老いた両親と嫁・文江(山口美也子)に任せ)、幸雄自身はダンプトラックを買って、生コン用川砂のピストン運搬を請け負っている。現金収入が入る。この家は俺が支えていると、幸雄は殿様気分。家族を見下して、いい気分。文江との関係は、もとより良くない。

 だが、幸雄はすぐカッとなる、つまらぬことで酒で荒れる。自尊心が強い一方、劣等感が強い。
 特に弟に対してだ。子供のころから頭が良く、品行方正な弟の明彦(矢吹二朗)には、いまも母親から多くの愛情が注がれている。その明彦は、独身で東京で働き東京に住んでいる。

 ある日、幸雄と文江の息子二人が、不幸にも、近所の水辺で遊んでいて水死してしまう。
 さすがの幸雄も、身重の文江も両親も、嘆いても嘆ききれない毎日であった。
 このことは幸雄、文江を精神的に不安定にさせ、二人の関係は疎遠の一途をたどる。

 母と二人暮らしの順子(秋吉久美子)。その母親が若い男と駆け落ちした。順子が知る限り、母親の駆け落ちはこれで3回目。
2-0_20170123160222583.png ひとり残された順子を、通りかかった幸雄がトラックに乗せたことが発端で、幸雄は順子と住む家を借り、嫁・文江と順子との、二重生活が始まる。
 互いの悲しみを舐めあう関係であった。
 それは、川砂運搬がそれなりに高収入だったから成り立った。とは言え、幸雄は文江のいる実家に帰ろうとはしなかった。

 やがて順子との間にも子供が出来、そこだけ見れば、幸せな一家に見えた。実家では、文江は第三子を出産し、幸雄の両親と農作業に相変らず追われていた。
 そこへ、東京にいた明彦が実家に帰って来た。明彦も川砂の運搬業を始め、瞬く間まに小さな事務所を構え事務員も置くに至る。

 そのうち、幸雄は覚醒剤に手を出すようになった。
 幸雄は川砂運搬の発注元の生コン会社の部長とうまくやって、仕事を多く回してもらっていたが、先方からは幸雄に運搬の手配管理も任されるようになるが、幸雄にそういう才はなく、また組織的な行動や指示に馴染めなかった。
 明彦と比べて幸雄は、という劣等感がまた頭をもたげる。荒れ始める。順子にもつらく当たるようになる。幸雄はひとり捨て鉢になり、自暴自棄、自滅への道を歩み出す。
 一方、明彦は結婚が決まった。相手は事務所の女の子だ。

 ついに、幸雄は包丁で順子を刺し殺す。覚醒剤による幻覚が順子の命を奪った。
 映画のラスト。実家の庭先では、明彦夫婦、文江とその子、両親が、ワイワイやっている。子ブタが集団で豚舎から脱走したのだ。
 そこには、やりきれないほどに繰り返しの何ごともない日々と、一時の幸せ、そして覚醒剤と殺人が、大した違和感なく同居している妙な風景であった。
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 地元社会を浮遊する幸雄と順子に対し、対称的な位置づけで描かれる家族や友人など地元に根付く人々。彼らはいわば古い慣習伝統に生きる人々だ。しかし、そんな彼らの中にも、生きにくい地元に(ささやかだが)あらがう者もいた。
 映画は幸雄と順子を主人公にするが、ふたりを取り巻く人々の生きざまも見つめたい。なぜなら、この映画は取り巻く人々あっての物語なのだ。 
 作品としては、幸雄の妻役の山口美也子、幸雄の母親役・日高澄子、父親役・奥村公延および幸雄の同僚役・蟹江敬三たちの、しっかりした脇役が素晴らしく、彼らによる勝利とみるべきだ。

3-0_20170123162335d49.png監督・脚本:柳町光男|1982年|130分|
撮影:田村正毅
出演:山沢幸雄(根津甚八)|順子(秋吉久美子)|幸雄の弟・山沢明彦(矢吹二朗)|幸雄の正妻・山沢文江(山口美也子)|幸雄の母・山沢イネ(日高澄子)|幸雄の父・山沢幸一郎(奥村公延)|幸雄の同僚・大尽(蟹江敬三)|その妻・フミ子(中島葵)|順子の母(佐々木すみ江)|実家に呼んだ霊媒師(白川和子)|ほか

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<さ行> の邦画  これまでに記事にした映画から。 2017.1.5 現在

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 下の画像をクリックして、その映画記事をご覧ください。
 五十音順に並べています。
 
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やまなか

Author:やまなか
 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めてはや9年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

<一話一夜の方針かな>
 1)古今東西の映画を分け隔てなく並べて、気に入った映画を選びます。
     
 2)以前に観た映画でも、もう一度あらためて観てます。むかし感じた印象と大きく異なることも多いからです。

 3)「素」な気持ちで、「映画作品そのもの」に向き合うことが、私の遊びです。
 作品自体が語りかけてくること以外の額縁情報、つまり宣伝文句、その受け売り文章、受賞実績、監督発言、出演俳優がどうしたとか、そして映画評論本やらは、はなから無視して、自分の眼で観るようにしています。

 4)観て気に入らない映画、つまんない映画は、基本掲載しません。
 だから、観たけど掲載しない映画は多いです。巨匠の名作と言われる映画も、気に入らなければ掲載しません。また、名物にうまいモノなし、ということも実感します。

 ただし、まだ観てない映画は、たくさんあります。こんな一夜一話ですが、今後も、見に来てください。   
 美術や音楽、書籍や温泉の記事も増やしたいと思っています。よろしく。  

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