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洋画評だけ見る 直近50作 Archive

映画「夏をゆく人々」 イタリア映画 監督:アリーチェ・ロルヴァケル

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長女ジェルソミーナ、多感な年ごろ


 イタリア半島の中ほどにある大きな湖、この湖畔に住む家族のお話。

1-0_201709151404336b7.jpg 湖周辺の広々とした草原、ここで一家7人は養蜂で生計を立てている。
 でも、男手は父さんだけで、母さんとその子4人姉妹と居候のおばさんの、女6人の家。
 そのうえ、長女ジェルソミーナの下の娘たちは、まだ幼い。

 ミツバチの箱を運んだり、遠心分離機で蜂蜜を抽出したり、バケツに一杯になった蜂蜜を運んだりと、力仕事はたくさんある。
 だから、父さんは女手しかいないことで、いつもイライラしている。(そして家族に対して、しょっちゅうワンマンなふるまい)

 そんな父親をみて、ジェルソミーナは懸命に養蜂の仕事をこなしている。口にこそ出さないが、父親も長女のそんな様子を力強く思っている。

 ある日、無口な少年が少年院からこの家にやって来た。父親は、少年の更生のためのプログラムを利用して男手を手に入れたのだ。家に住み込みで仕事を手伝うことになった。

 自然に優しい農業・畜産・養蜂家などを対象にしたコンクールがテレビ局の主催で開催されるという。
 このことを知ったジェルソミーナは密かにコンクールに応募した。よそ者を嫌う父親は、こういうことには絶対反対することを彼女は知っていました。

 さあ、さて、ここら辺りから物語は思わぬ展開をし始めます。
 話の筋のその先を急いで追う姿勢では、この映画は楽しめません。ゆったりした気分で観ましょう。
 主人公のジェルソミーナ役の女性の、楚々とした雰囲気がいいです。プロの俳優じゃないようです。映画はこのジェルソミーナの存在感で成り立っています。

 父親は家族の中ではワンマンですが、世間に対しては自閉的な男です。
 そんな彼ですが、男手が欲しいがためによそ者の少年を家に迎え入れました。
 一方、ジェルソミーナはそろそろ大人の女になろうとしています。自分の意志でコンクールに応募したように、ジェルソミーナの意識は田舎の一軒家から世間に出ていこうとしています。そんな彼女と彼女の恋を母親も叔母も応援します。

 
 映画の後半ぐらいから、「エトルリア」「エトルリア人」という言葉が出てきます。
 この一家の住む地域は、エトルリアという、紀元前8世紀~紀元前1世紀ごろにイタリア半島中部にあった都市国家群があった場所。
 映画は、そんな歴史の謎めいた不思議さをバックグラウンドに秘めているようです。(それは例えば、この一家の家のそばにロケに来た女優さんの姿を借りて・・)
 

オリジナルタイトル:LE MERAVIGLIE|
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル|イタリア スイス ドイツ|2014年|111分|
撮影:エレーヌ・ルヴァール|
出演:ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)|アンジェリカ(アルバ・ロルヴァケル)|ウルフガング(サム・ルーウィック)|ココ(ザビーネ・ティモテオ)|ミリーカテナ(モニカ・ベルッチ)|アドリアン(アンドレ・M・ヘンニック)|少年更生係イルデ(マルガレーテ・ティーゼル)|ほか

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映画「青いドレスの女」 監督:カール・フランクリン

上
 映画冒頭は、こんなイラストと、T-ボーン・ウォーカーの歌うブルースで始まる。


1-0_201709071744482a8.jpg 原作は推理小説。(黒人の私立探偵小説「イージー・ローリンズ」シリーズの第1作を映画化)
 最近は少なくなってしまった、黒人が主体の映画。(1995年制作)

 時代は1948年、場所はロサンゼルス。
 黒人差別は当然の時代。(公民権運動が本格的に動き出すのは1950年代半ば頃から)

 第二次世界大戦で欧州戦線(黒人部隊)を経験した主人公の黒人青年イージーは、戦後、兵役経験を活かし機械工として造船所や航空機メンテ工場で働いていた。
 イージーは真面目な青年だ。勤め先では社員として勤務。それ故に、黒人ではあるが一定の社会的信頼を得ていた。
 つまり住宅ローンが組めて、(黒人だけの)戸建住宅街に一軒家を持ち、粋な車も持っていた。優雅な独身生活であった。

 しかし、突然の解雇。職探しを始めるが、まともな勤め先がみつからない。ローン返済が滞る。
 そんな折、行きつけのバーのあるじジョッピーから、オルブライトという怪しげな白人の男を紹介される。
 オルブライトはイージーに、ある白人女を探してほしいと札束をちらつかせる。切羽詰まっていたイージーはこの話に乗った。

 話は、市長選挙が絡む。
 ロスの富豪トッド・カーターと、対抗馬のマシュー・テレルという二人の白人が立候補を表明していた。
 ところがカーターは突然、自ら立候補を取り下げた。
 カーターが愛し婚約者となった女性に、「ある問題」があることが発覚し、彼の周囲はカーターに婚約破棄を迫った。その結果、カーターは出馬の意欲も無くなり、失意に沈んでしまったのだった。
 一方のマシュー・テレルは押しの強い男だが、密かなある弱点を持っていた。
  
 イージーは、白人女探しに、市長選挙が絡むこんな背景があるとは知る由も無かった。
 いざイージーが動き始めると、彼の行く先々で殺人現場に遭遇する。警察に連行される。
 そして、彼が探す白人女性、(青いドレスの女)ダフネがイージーの前に現れた。
 彼女はマシュー・テレルの弱みを握っているらしい・・なぜ。
 イージーが足で知り得た事柄が、次の謎を解き明かすことになり、イージーの身の危険は増していく。
 そもそも、カーターの婚約者の「ある問題」とは何?、婚約者は誰?、マシュー・テレルの弱みとは?
 
 昨今のアメリカをみていると、こんな黒人主体の映画はもう製作されないかもしれない。

 総じて、描き切れていない大雑把さのある映画だが、娯楽映画ですからね。
 でも挿入音楽がいいです。
 映画冒頭、のっけからT-ボーンのブルースが流れて、私はノックアウト。
 この映画に取りあげられた主なミュージシャンは、往年のモダンブルースシンガーのT-ボーン・ウォーカー、ピー・ウィー・クレイトンや、ビッグバンドをバックにして歌うジャンプブルースシンガーのジミー・ウィザースプーン、ロイ・ブラウンなどなど、そしてデューク・エリントンも。
 サウンドトラック情報:http://www.allmusic.com/album/devil-in-a-blue-dress-sony-mw0000176104

オリジナルタイトル:Devil in a Blue Dress|
監督・脚本:カール・フランクリン|アメリカ|1995年|102分|
原作:ウォルター・モズレイ|撮影:タク・フジモト|
出演:イージーこと、エゼキエル・ローリンズ(デンゼル・ワシントン)|青いドレスの女・ダフネ・モネ(ジェニファー・ビールス)|イージーの親友で殺人が得意なケンカの助っ人・マウス・アレクサンダー(ドン・チードル)|バーのオヤジでイージーの友人・ジョッピー(メル・ウィンクラー)|ロス一番の富豪の白人、ダフネを愛するトッド・カーター(テリー・キニー)|カーターと市長選挙を争う白人、他人に言えない秘密を持つ男マシュー・テレル(モーリー・チェイキン)|ジョッピーがイージーに紹介した白人でマシュー・テレルに雇われる男ドウィット・オルブライト(トム・サイズモア)|ダフネの親友・コレッタ・ジェームズ( リサ・ニコル・カールソン)|コレッタの彼氏、イージーの知り合いデュプリー・ブロチャード(ジャーナード・バークス)|ほか

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映画「ヴィンセントが教えてくれたこと」 監督:セオドア・メルフィ

上


1-0_201709061020036f5.jpg 70歳の頑固ジジイと、12歳の孤独な少年のお話。
 この映画、若い方には少年モノ映画に観えるかも知れないが、年配にはいささかビターな喜劇映画に観えるかも知れない。 

 頑固で人の話を聞かない人嫌いなジジイ、ヴィンセント(ビル・マーレイ)は、二十歳代の頃にはベトナム戦線を経験した世代。
 今は、白人中産階級(中の下)が住む住宅街の中の、小さな一軒家で一人暮らしだ。(子はいないようだ)

 ヴィンセントの楽しみは、安酒とタバコとTVそして、行きつけの店の踊り子・ダカと時々の有料セックス。
 暮らしは決して豊かじゃない、いや苦しい。無職の上に、自宅を抵当に入れての生活資金は底をつき、借りちゃいけない所から金を借りている。
 彼のお金はどこへ消えるのか? それは、今も最愛の妻サンディを預けている上等な介護施設。妻は重度の認知症なのだ。そして、この施設への払いが滞っている。

 そんなある日、ヴィンセントの隣家にマギーとその1人息子オリバーが越してきた。
 マギーは病院のMRI検査技師。夫は弁護士だが、この夫の度重なる浮気が原因で夫婦関係は破たん、今、オリバーの親権をめぐって離婚調停中。子供の奪い合いを避け、マギーはオリバーを連れて越してきた。(子は養子らしい)

 オリバーは12歳にしちゃ小柄。転校生への学内いじめ、母親の長時間勤務やらで、オリバーは一人ぼっち。
 「結果的に」これを救ったのが、人嫌いな隣人ヴィンセント。いいウチの子に育ったひ弱なオリバーは、おやじの塊みたいなジジイに世間を教わることになる。(競馬場、バー、娼婦、ケンカの仕方、悪い言葉など)

 これは、ヴィンセントから見れば、転がり込んで来たベビーシッターという時給稼ぎだった。
 マギーから見ればヴィンセントは、隣家のベビーシッターで便利な反面、ウチの子をワルに染め上げるジジイ。
 オリバーにとっては、初めは近寄りがたい偏屈ジジイだったが、いつの間にか仲良くなり、最後には「St.VINCENT」と褒め称える。

 話は、脳溢血によるヴィンセントの緊急入院・リハビリや、妻のいる介護施設からの料金不払いによる退去勧告や妻の死、オリバーの親権騒動の結末、踊り子のダカの嬉しい出産などのエピソードが絡んで行く。

 オリバーが学内発表で、ヴィンセントを聖人と褒めるシーンは、あまりにもアメリカ映画的感動シーンに仕立て上げられていて白けるが、これは、映画の結末のヴィンセントのうら悲しい境遇を考えると、プラスマイナスのバランスをとっての配慮とみておこう。
オリジナルタイトル:St.VINCENT|
監督・脚本:セオドア・メルフィ|アメリカ|2014年|102分|
撮影:ジョン・リンドレイ
出演:ヴィンセント(ビル・マーレイ)|オリバー(ジェイデン・リーベラー)|その母親マギー(メリッサ・マッカーシー)|ヴィンセントの有料彼女・ダカ(ナオミ・ワッツ)|ヴィンセントの妻サンディ(ドナ・ミッチェル)|ほか

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映画「カフェ・ブダペスト」 ハンガリー映画 監督:フェテケ・イボヤ

上
歌とギターのユーラと、サックス吹きのワジム。ブダペストの街角にて。

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 時は1990年、ソ連崩壊(1991年)の前年。
 祖国ソ連を離れ、開かれた東欧ハンガリーへと旅立ったロシア人の男たちの物語。

  映画冒頭のナレーションより…(本作は1995年製作)
  当時の気分を語るのは難しい。あり得ないことが突如 起きたのだ。
  ハンガリーが西側に扉を開いたのを契機に、すべてが急速に進行した。
  東欧が幸福に酔ったあの日々、忘れ得ぬ時代。
  そしてついにハンガリーからソ連軍撤退。
  (ところが)今度は別のロシア人がやって来た。西側を目指し、その入り口、ハンガリーに人々が押し寄せたのだ。
 (下記|1989年の出来事)
 
 2人のロシア人ミュージシャン、歌とギターのユーラと、サックス吹きのワジムが、ハンガリーのブダペストへたどり着く。(※※下記|2人の経路)

2‐0 (ユーラが歌う)
  ♪さあ 旅立とう 歌を道連れに
  ステンカ・ラージンは もう十分歌われた
  新時代の俺たちは そんなの歌わない。
  直立不動で大声で 一体何を歌ってる
  共産主義の歌なんて もう うんざり …
 (ユーラ役の俳優は、ロシア出身のシンガーソングライター)

 機械工をしていた若いロシア人のセルゲイも、西側諸国を目指して、まずはブダペストにたどり着く。
 このようにして当時、既にブダペストには、祖国ソ連を脱出した人々の他に、少々危ない商売をする出稼ぎ組や、自身の人生を捨てた破滅型の放浪人など、様々なロシア人たちが滞留していた。
 また、そんなロシア人を相手に宿を提供するブダペストの人、フリーマーケットでロシア人を鴨にする人など、様々なハンガリー人がいた。
 加えて、東方諸国の解放とソ連国内の混乱に乗じて、ロシア系犯罪組織がブダペストへも進出して来て、表のフリーマーケットや裏のヤミ市で、恐喝とブローカーの動きを見せ始めていた。

下


 一方、こんな東欧に対し、冒険心とある種のロマンを抱いてブダペストに来る西側の人々もいて、映画は2人の女性を登場させて、恋を語り物語を彩る。
 それはイギリス人のマギーと、アメリカ人のスーザンだ。
 ひょうきんで明るいユーラはマギーと出会い、サックスのメロディがかっこいいワジムはスーザンと出会う。
 真面目な青年セルゲイは、泊まった宿のハンガリー人の女将(年上の独身女性)の世話になる。



 この映画、誰が主人公かと言えば、ユーラが歌うメロディとその歌詞だろう。
 ユーラ役のロシア出身のシンガーソングライター、ユーリ・フォミチェフという人の歌が、映画の各所で流れる。これが素晴らしい。
 ロシア由来かな、独特のうら悲しさと、その反面の楽しさを合わせ持つ音楽だ。西側のブルース音楽の領域とは別世界。

 映画は、当時のブダペストを活写し、時代の変わり目を、重くせずにすっきりと饒舌に語っている。いい映画だ。  

 このお話の時代のあと、ロシアは西側諸国と共に生きていくはずだったが、いつの間にかプーチンの国となっている。
 また、東欧の人々は職を求めて西側に移って行く。東欧諸国も我先にEUに加盟した。そして今、今度はEU離脱を考えている国がある。
1989年の東欧の出来事
 1989年5月2日 - ハンガリー政府がオーストリアとの国境にある鉄条網の撤去に着手。鉄のカーテンが破られる。
 同年6月 - ポーランドで、自由選挙実施。非労働党政党「連帯」が上院過半数を占める。東欧革命のさきがけ。
 同年8月19日 - ハンガリーで汎ヨーロッパ・ピクニックが開催、約600人の東ドイツ市民がオーストリア経由で西ドイツへ亡命。
 同年10月7日 - ハンガリー社会主義労働者党、ハンガリー社会党への改組を決定し、一党独裁政党としての歴史に終止符を打つ。
 同年10月17日 - 東ドイツで強権的な政治を行っていたエーリッヒ・ホーネッカー・ドイツ社会主義統一党書記長の書記長解任が党政治局で決議され、ホーネッカーが失脚。
 同年11月9日 - 東ドイツがベルリンの壁の通行を自由化。
 同年11月10日 - ベルリンの壁崩壊。
        ブルガリアで共産党書記長のトドル・ジフコフが失脚。これを機にブルガリアでも民主化が始まる。
 同年11月24日 - チェコスロバキアビロード革命。共産党政権が崩壊。
 同年12月1日 - 東ドイツで憲法が改正され、ドイツ社会主義統一党(SED)による国家の指導条項が削除される。SEDの一党独裁制が終焉。
 同年12月22日 - ルーマニアのニコラエ・チャウシェスク政権崩壊(ルーマニア革命)。

3-1_20170901123010e01.png※※2人の経路
 時は1990年。ユーラとワジムは、ロシア人バンドのメンバーで、ユーゴで行われるコンサート会場へ、バンド専用バスで向かっていた。このバンドのバスの経路に注目。
 当初、ソ連・ハンガリー国境に到着するが、検問で拒否され越境できず迂回することになる。
 まずはソ連・チェコ国境を通過、次にチェコ・ハンガリー国境を通過し、ハンガリー・ユーゴ国境を越えようとした。(リアルな描写)
 ところがここで、2人はバスを降り、バンド仲間から分かれてブダペストにたどり着く。
オリジナルタイトル:BOLSE VITA|
監督・脚本:フェテケ・イボヤ|ハンガリー、ドイツ|1995年|101分|
撮影:サライ・アンドラーシュ|
出演:ギター弾きのユーラ(ユーリ・フォミチェフ)|サックス吹きのワジム(イーゴリ・チェルニエヴィッチ)|機械工のセルゲイ(アレクセイ・セレブリャコフ)|イギリス女性・マギー(ヘレン・バクセンデール)|米国人女性・スーザン(キャロリン・リンケ)|外人向けの宿の女将・エルジ(マール・アーグネシュ)|ほか

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映画「抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より」 監督:ロベール・ブレッソン

上






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 フランス軍人の手記をもとに監督自ら脚本を書いた、脱獄する男の一部始終を描くサスペンス映画。

 舞台はリヨンにあるモントリュック監獄の独房、時は1943年。

 その前年、ナチスドイツは南フランスへ進軍し地域を占領、リヨンはドイツ軍やその治安部隊の街となっていた。
 翌1943年6月、レジスタンス運動の中心人物が逮捕、虐殺されるなど、ナチスドイツによるレジスタンス撲滅が一気に進んで行った。

 その頃だろう、映画の主人公フォンテーヌ中尉も逮捕され拷問を受け、独房に入れられた。
 監獄の中庭では、毎日のように銃殺刑の執行が進む。
 中尉は入獄後、時を置かず脱獄を決意し、獄中のレジスタンスらによる密かな協力を得て、獄中で得られるわずかなもので脱獄のための準備を始める。
 そんなある日、獄中のレジスタンスの一人が脱獄を試みたが失敗し処刑されてしまう。しかし中尉にとっては、彼の失敗が自分の脱獄手法の改善を図るきっかけとなった。
 そして、中尉も死刑の判決を受ける。これで脱獄の決意はより固まった。

 準備が整い、いつ脱獄するかという時に、中尉の独房に一人の青年が押し込まれて来た。
 当初、中尉は彼をドイツの回し者かと疑ったがそうではなかった。そして、行きがかり上、この青年とともに脱獄するしかない。
 ついに、その夜、中尉はふたりで脱獄するのであった。


 映画のタイトルが「脱獄」ではなく「抵抗」であるのは、中尉のレジスタンス活動を褒め称えているからだろう。
 映像の多くはフォンテーヌ中尉の独房の中。台詞は極わずか。音楽も入れない。だが、シーンに緊張感があり、スリリング。

 一方、脱獄実行シーンは屋外である。それゆえに、閉ざされた空間におけるそれまでの高い緊張が、屋外に出て拡散してしまう。そのせいか、あるいは脱獄シーンそのものが有り触れているせいか、残念ながら脱獄実行シーンは凡庸だ。

 独房シーンを飽きさせないのは撮影の技と、なんと言っても中尉役のフランソワ・ルテリエという人が醸し出す雰囲気。これが至って素晴らしい。
 この映画の登場人物の多くはプロ俳優を使っていないらしい。中尉役の彼は普通の学生であった。

 最後に。フォンテーヌ中尉の脱獄の翌年1944年に、リヨンはドイツ軍から解放される。


オリジナルタイトル:UN CONDAMNE A MORT S'EST ECHAPPE OU LE VENT SOUFFLE OU IL VEUT|
英語タイトル:A MAN ESCAPED|
監督・脚本・脚色・台詞:ロベール・ブレッソン|フランス|1956年|100分|
原案:アンリ・ドヴィニ|
出演:フォンテーヌ中尉(フランソワ・ルテリエ)|青年ジョスト(シャルル・ル・クランシュ)|ほか

【ロベール・ブレッソンの映画】 これまでに記事にした映画から。

スリ」(1960年)  「バルタザールどこへ行く」(1964年) 

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映画 「ナック」 監督:リチャード・レスター

上
 天然のナンシー


1-0_20170826084019135.jpg 1965年のロンドン。流行りはじめた若者文化、カウンターカルチャーの、ブームの部分をすくい上げて作ったドタバタ喜劇。
 当時のティーンエイジの子たちを観客対象にした映画だ。
 「最近の若いもんは…」とブツブツ言う街の大人たちをスナップした、ドキュメンタリーっぽいシーンが各所に幾つもあって、世間にチョイ逆らいたいティーンエイジの笑いを誘ったんだろう。

2-0_20170826084408f36.jpg そんな古臭い大人たちの批判をよそに、若いもん3人のお話が進みます。
 やたら女にもてる(努力もしている)きざなドラマーのトーレン、もてたいがもてない要領の悪いコリン、天然系おのぼりさんの女の子ナンシー、この3人が主人公。

 そのほかに、たくさんの美人の女の子たちが入れ替わり立ち替わり登場する。
 それはトーレンの彼女達や、トーレンの持て過ぎをひがむコリンの妄想シーンに出てくる女の子たち。
 案外、ここが見どころかも知れない。(ただしヌードもセックスもない健全映画、だが男尊女卑)

 ちなみに、この女の子の中に、ハイティーンだったジェーン・バーキンやシャーロット・ランプリングが出演しているらしい。(捜してください)

 筋は言うほどのものではないが、モノクロ映像がきれいです。
 1965年のロンドンの風景やファッションが何やらアンティークです。

 監督は本作「ナック」製作の前年(1964年)に、「ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!」を、「ナック」製作の同年1965年に「ヘルプ!4人はアイドル」を撮っている。

 ボブ・ディランの英国ツアーに追ったドキュメンタリー映画「ドント・ルック・バック」(1967年)に出てくるティーンエイジの子たちも、この「ナック」やビートルズ映画を見たんだろうな。    

 1969年ごろのロンドンに住む青年を描いた映画「ウィズネイルと僕」(1987年)の二人は、この「ナック」の主人公たちと同世代の数年後なのでしょう。 (下線部をクリックして、その過去記事にお進みください)

 時代はいつも多面的です。
 その時代をどんなスタンスで見るか、見たかで、時代の色合いは違って見えます。
 例えば、ポップカルチャーに焦点を当てて見る、カウンターカルチャーの視点で見る、政治が人に与えた影響の文脈で見る。
 ひとりの人の中でも、時とともに見方は移ろって行きます。


オリジナルタイトル:The Knack ...and How to Get It|
監督:リチャード・レスター|イギリス|1965年|85分|
原作戯曲:アン・ジェリコー|脚色:チャールズ・ウッド|撮影:デイヴィッド・ワトキン|
出演:ナンシー(リタ・トゥシンハム)|コリン(マイケル・クロフォード)|トーレン(レイ・ブルックス)|ジェーン・バーキン|ジャクリーン・ビセット|シャーロット・ランプリング|

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映画 「ギャラリー 欲望の画廊」  監督:ダンカン・ウォード

上

 香辛料をうんと効かせた辛辣なコメディ。その分、脂っこくなくサラリと仕上げた映画。映像もきれいだ。

1-0_2017081816335729d.jpg どこまで真実かは知らないが、イギリスの現代アートシーンの狂った裏側を強烈に風刺している。(のかな)
 好色だが、やり手の美術商アート・スピンドルと、現代美術コレクターのボブ・マクルストン、この二人の中年男が悪役主人公と言っていい。
 (アメリカの現代アート作家だったバスキア(1960 - 1988)に、若い頃に接したという人物設定で、1980年代から現代アートで生きて来た40歳半ばの中年だ)

 とにかく、その絵画やオブジェは、世の中にその一点しかない。
 だから、これがビジネスかと思わせるほどに、売る買う両者の騙し合い。カネ、名声維持、見栄と猜疑心、精神的摩耗・・・。

 一方、成功したい魂胆丸だしの、現代アートの駆け出しアーティストたち。独立してギャラリーのオーナーになりたい賢い女。そして、アートシーンの末端にすがり続けたが、芽が出ない男の自殺。

 そんな世界に男と女が生きている。不倫、チョッカイに、パトロンという利害関係。登場人物の相関図は錯綜する。それにゲイとレズ、果ては離婚と財産分与騒動。話は盛りだくさんだ。

2-0_20170818163902513.jpg 逸話のひとつとして、画家モンドリアン(1872 - 1944)の「Boogie Woogie」を、その昔、画家本人から買った老富豪が出てくる。
 画商のアートも、美術コレクターのボブも、そしてその他の画商・個人コレクターもこの絵を狙う。(きっとサザビーズや美術館も、か)
 しかし老富豪は売りたくない。だが夫人は召使の男と組んで、値を吊りあげ売ろうとする。その結末は・・。

 もうひとつ。アートの所で5年働いていたが、ボブをパトロンに据えて、ギャラリーのオーナーになった女性ベスは、赤裸々なビデオアート作品を手掛ける女性アーティストをピックアップし、第一回目の個展を開く。
 アートやボブは、この作品が映像という複製芸術なので、値が付く芸術とは思わない様子が面白い。

 ついでに。ベスの替わりに画商アートに雇われた女性ペイジが、生まれながらの不具合で手術を受ける。その時、摘出された臓器を、ボブはホルムアルデヒド漬け作品にしてペイジに送るのだ。
 ひどい話だが、これは、イギリスの現代アート・アーティスト、ダミアン・ハーストを連想させる。この作家は、鮫、牛、羊の全身を、そのまま、ホルムアルデヒドを満たした大きなガラス箱に保存した作品で有名。

 とにかく、カネと名声を求めて、人々がうごめく現代アートシーン。
 ベスに出し抜かれた画商アート・スピンドルも、離婚と財産分与を切り抜けたコレクターのボブ・マクルストンも、性懲りもなく、したたかに明日へと向かうのである。

オリジナルタイトル:Boogie Woogie|
監督:ダンカン・ウォード|イギリス|2009年|94分|
原作:ダニー・モイニハン 小説『Boogie Woogie』|脚本:ダニー・モイニハン|撮影:ジョン・マシソン|
出演:ロンドン屈指の美術商・アート・スピンドル(ダニー・ヒューストン)|美術収集家で、アートの元で働くベスを引き抜きパトロンになる・ボブ・マクルストン(ステラン・スカルスガルド)|アートの元で働く女性で、ボブの協力を得て独立してギャラリーを持つことになる賢い女・ベス(ヘザー・グラハム)|新進気鋭の若手アーティストでベスの恋人ジョー(ジャック・ヒューストン)|ジョーと不倫する、ボブの妻・ジーン・マクルストン(ジリアン・アンダーソン)|ベスに替わってアートの元で働くローラースケートの女・ペイジ(アマンダ・サイフリッド)|モンドリアンの名画Boogie Woogieの第一作を所有している老富豪アルフレッド・ラインゴールド(クリストファー・リー: ピエト)|その妻でその絵を売りたいアルフリーダ(ジョアンナ・ラムレイ)|その召使いでアルフリーダと一緒になるロバート・フレイン(サイモン・マクバーニー)|アートシーンで食えない男・デューイ(アラン・カミング)|ジーンの友人エミール(シャーロット・ランプリング)|ほか

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映画 「ラブゴーゴー」 台湾映画 監督:チェン・ユーシュン

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初恋のひと、リーファ










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パン屋のアシェン


 コテコテの台湾製コメディかと思いきや、案外、すっきりとした爽やかさ。

1-0_20170805151418f33.jpg パン屋のおばさんが貸してる部屋に、3人の男女が住んでいる。
 アシェン(チェン・ジンシン)は、おばさんの甥。長年、パンとケーキの職人として真面目に働き続けて、今じゃ店を任されている。
 シュウは田舎から出て来た青年で、音楽で食って行きたいが芽が出ない。金がなく、店の売れ残りのパンで、日々何とか、しのいでいる。
 OLのリリー(リャオ・ホェイチェン)は、大食漢で甘いモノ好き。恋人が欲しい。

 さて、ここから三話構成の第一話が始まります。
 ある日、店にレモンケーキを買いに来た女性がいた。美人だ。アシェンは、その女性が、小学校6年の同級生で、初恋のひと、リーファだと、すぐに気付いた。
 忘れていた初恋のひとは、その日から毎日来店するが、アシェンはドキドキするだけで、声もかけられない。手紙に託そうともしたが渡せない。
 そこでアシェンは考えた。彼にとって得意なコミュニケーション・ツールは、ケーキだ。店のケーキのネーミングを、「リーファへの想いの言葉」に替えはじめる。(リーファはアシェンに気付いていないが、ケーキの名前を面白がったようだ)
 さらには、テレビ放送を通して歌の歌詞で彼女に想いを伝えよう! 音痴のアシェンは、素人のど自慢に応募し、同時にシュウから歌の特訓を受ける。
 しかし、テレビ番組を見てくれなきゃ。だが放送日時を書いた手紙が渡せない。その時、業を煮やした店の女の子が、アシェンの書いた手紙をさっと奪い、リーファを追いかけ手渡した。

 第二話。
 OLのリリーが、街でポケベルを拾った。(携帯電話がまだ無い時代の話です)
 ポケベルをいじり回しているうちに、持ち主の電話番号が分かって、恐るおそる電話をかけてみると、留守番電話のメッセージが若い男のいい声! リリーはこの声に惚れてしまうが・・・。

 第三話。
 訪問セールスのアソン(シー・イーナン)が、痴漢撃退グッズを売り歩いているが、売れない。(第一話では、パン屋のおばさんに売ろうとした)
 高層ビルに迷い込むように入り込んだアソンは、高級な美容室を見つけ、客のフリして入った。ここは女性ばかりだ、セールスできるぞと、アソンは踏んだのだ。
 彼を担当したのは、リーファであった。リーファはこの店を経営している。アソンは彼女に一目惚れ。
 しかし、当のリーファは、愛しい彼との別れ話の時であった。
 
 三話とも、程よいコメディ性を保ちながら、爽やかなテイストです。
 第一話でアシェンがリーファに宛てた手紙文には、ジーンと来ますね。
 第一話のラストは第三話のラストになってつながります。
 第二話は話としては弱いのですが、可笑しい増量剤を加えていて、悪くない。2003年の邦画「茶の味」に出てくる巨大な少女は、本作のリリーの映像表現を真似ています。
 第三話はちょっと頂けない。

 総じて言うと、第一話の話で全編を描いてもらいたかった、というのが私の気持ちです。

オリジナルタイトル:愛情来了 Love Go Go|
監督・脚本:チェン・ユーシュン|台湾|1997年|113分|
撮影:ツァイ・チェンタイ|
出演:パン屋のアシェン(チェン・ジンシン)|アシェンの同級生で初恋の相手・リーファ(タン・ナ)|音楽で食って行きたいシュウ(マニェン・シェン)|OLのリリー(リャオ・ホェイチェン)|訪問セールスのアソン(シー・イーナン)|パン屋のおばさん(チウ・ショウミン)|パンにガムを入れた男(ホアン・ツジャオ)|

下
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映画 「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」 監督:ジム・ジャームッシュ

上

 何世紀も生きて来たヴァンパイア夫婦の話。

1-0_201708041043400af.jpg その昔、人間の首筋に噛みついて生血を吸った彼らも、21世紀では、それはもう蛮行で、節度あるヴァンパイアはドリンクとして血を飲んでいる。

 夫のアダムは、病院の血液検査室の男に大金を渡し、輸血用の新鮮な血を横流ししてもらっている。
2-0_20170804105034de4.jpg 妻のイヴは、ヴァンパイアの老作家(ジョン・ハート)がどこかから仕入れてくる信頼度の高い血を分けてもらっている。

 なにせ近年、人の血の多くは汚染されていてヴァンパイアにとっては危険である。汚染されていない清い血の継続的供給はヴァンパイアにとって死活問題であった。

 アダムは何世紀も前から作曲家で、今ではクラシックの作曲家となってしまった人々とも活動してきた。
 ただしアダムはヴァンパイアなので、「人間」の歴史の表舞台には出て来れず、自身の曲を他の(人間の)作曲家に託したりしてきた。アダムは控えめな男であったが、そのことが不満と言えば不満であった。

 そして、20世紀半ばからは作曲するロックミュージシャンとして生きて来た。
 彼の部屋は、1960~70年代のエレキギターの名器や、1905年製のギブソンのアコースティックギター、エフェクター類やドラムセット、ヴァイオリンやリュートなどなど、様々な楽器がグチャグチャ無造作にそこらじゅう。そして、自宅録音のために、スタジオ録音用の往年の機器類が所狭しと並んでいる。
 イヴの部屋には、あらゆる国のあらゆるジャンルの書物がそこらじゅうに積まれている。(日本の文庫本もある)
 夫婦とも、実にマニアックな方々である。監督の理想の部屋なんだろうか。

 さて、お話の方はというと、大したこともないので割愛。観てのお楽しみ。(123分、一応飽きずに見通しました)
 敢えて言えば、ストーリーのスジよりも、ストーリー設定に重きがある映画といえましょう。
 あるいは、監督の世界観を覗き見ることができる作品なのかもしれない。

 気に入った台詞が2つありました。
 イヴが、鬱になりかけのアダムに言う。「自分の心にとらわれるのは、生きる時間の無駄づかいよ」
 もうひとつは、モロッコの港町のライブハウスで夫婦して聴いた、素晴らしい若手歌手を指して、アダムがイヴに言う台詞。「有名になるには、もったいない才能だ」 (確かに素晴らしい歌手です!伴奏は控えめなギターと不思議なパーカッションだけ)
 有名になったが故に才能が消えていくミュージシャンを、何世紀に渡ってたくさん見て来たアダムの言葉。(監督の名言か)

 とても驚いたことがありました。
 映画の半ばあたりで、突然、ある曲が流れます。
 その曲は、女性ソウル歌手のデニス・ラサールが歌う「TRAPPED BY A THING CALLED LOVE」(デニス・ラサール作詩作曲)
 この曲は、デニス・ラサールのアルバムのA面1曲目に収録されてる曲で、私が好きなソウルのベストに入るLPなのです。 (Westbound Records ‎– 1972年)
 いや、ビックリ!
 イヴはこの曲をかけて、元気のない旦那とダンスします。

 つっこみを3つ。
 アダムが病院で輸血用血液を分けてもらうシーン。
 病院の男(人間)がアダムに言う。アダムが首にかけている聴診器を見て、「それ、古いね、70年代のモノかい?」
 私がアダムなら、こう言いかえす。「あんたの座ってる、その椅子、古いね、70年代の椅子だろ」
 男が座ってる椅子は、スチール製、キャスター付のねずみ色のくたびれたオフィス家具なんです。
 ちなみに、監督は1953年生まれ。70年代が懐かしいのでしょうかね。

 アダムの手足となっている男(人間)が、アダムが欲しがった貴重なエレキギターを探しだして納品しに来たシーン。
 ケースからおもむろにギターを取り出して、アダムが試奏する。しかし、だ!
 何か、気の利いたリードのフレーズを弾くのかと思いきや、たどたどしく2フレットで指3本のAしか押さえない・・・、それだけ。オイオイ、これ失笑でした。(楽器店で恐るおそる試奏する中学生みたい)

 3つ目は、本作の題名です。英語タイトルをまんまカタカナにしただけ。ハナから売る気がない素振りが素晴らしい。

 最後に、これまでに記事にした映画で、ヴァンパイアの映画「SUCK サック」、これもロックがらみでした。

下 
オリジナルタイトル:Only Lovers Left Alive|
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ|アメリカ イギリス ドイツ|2013年|123分|
撮影監督:ヨリック・ルソー|音楽:ジョセフ・ヴァン・ヴィセム|
出演:アダム(トム・ヒドルストン)|イヴ(ティルダ・スウィントン)|イヴの妹のエヴァ(ミア・ワシコウスカ)|老作家マーロー(通称キット)(ジョン・ハート)|アダムの手先として動くイアン(人間)(アントン・イェルチン)|ワトソン医師(人間)(ジェフリー・ライト)|


【ジム・ジャームッシュ監督の作品】 ~これまでに記事にした映画から
(題名をクリックしてご覧ください)

パーマネントバケーション」「ナイト・オン・ザ・プラネット」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」

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映画 「大統領の理髪師」 韓国映画  監督:イム・チャンサン

上
左から、理髪師のソン、大統領、側近。

 
 社会的にとてもシリアスな題材を、敢えてコミカルなタッチで映画化にするには、勇気が要ると思います。

 大企業による公害被害とその訴訟勝利という実話を扱った、ジュリア・ロバーツ主演映画「エリン・ブロコビッチ」が、まさしくそうした映画でした。(この記事はこちらからどうぞ)

1-0_201708011416255d3.jpg 本作の「大統領の理髪師」も、基本こうしたコミカルタッチな映画です。
 ここでのシリアスな題材とは、1960年代、韓国大統領の独裁政治によって犠牲となった一般市民の悲劇です。
 でも、観てみるとわかりますが、意外に軽い仕立てに作られています。

 「大統領の理髪師」で終始一貫、固有名詞なしで登場する「大統領」とは、実は第5代大統領の朴正煕です。(1917-1979)
 (その娘は第18代大統領のパク・クネ(朴槿恵)ですね。)
 ただし、理髪師のお話は創作です。つまり創作のお話を語ることで、映画は朴正煕の独裁政権を批判しています。

 「エリン・ブロコビッチ」は、ジュリア・ロバーツ演ずる普通一般の女性が、ある偶然の機会で、弁護士代行として公害訴訟に立ち向かうコミカルな話でしたが、本作「大統領の理髪師」は、ソン・ガンホ演ずる理髪店の男が、ある日、無理やり、大統領の専属理髪師にされてしまいます。このことから喜劇と悲劇が始まります。

 ジュリア・ロバーツ演ずる女性は高卒で、弁護士として求められるハイレベルな専門知識からは、ほど遠い人物でした。一方、ソン・ガンホ演ずる理髪師は文盲で世事に疎い男です。両作品ともに、この知識ギャップが喜劇設定になっています。
 
 さて、ソン・ハンモは定期的に官邸(青瓦台)に呼ばれ、官邸内に新設した理髪室で、国で一番偉い男(独裁者)の、髪を切りヒゲを剃ることになります。こりゃ、誰でもビビります。しかし名誉でもあるわけです。

 ここで事件が起きます。
 細菌性の下痢症状を抱えた北朝鮮の兵士(スパイ)が、ソウルに侵入して来ます。そしてソウル市内にこの細菌が拡がりはじめます。
 韓国当局はこの細菌をマルクス病菌と名付け、下痢をした人間は北朝鮮と接触したヤツだと断定し検挙し始めます。
 また同時に当局は、急に下痢の症状になった市民は、「スパイと接触したヤツ」に接触して、下痢になった人間だと断定し、尋問をし密告を促します。
 ソン・ハンモの理髪店がある町内では、彼の知り合い幼なじみ数人が疑われ、尋問を受け拷問を受け処刑されてしまいました。

 そんなある日、ソン・ハンモの店に、大統領側近の偉いサンが散髪に来ていました。(店は官邸のお膝元の街にあります)
 そして運命です。その時、ソン・ハンモの息子ナガンが、お腹が痛いと父親に訴えました。偉いサンはギロッと睨みます。
 大統領から寵愛を受けているソン・ハンモですから、国の民としてもっとも模範的態度を示さねばなりません。

2-0_201708011423262e7.jpg 彼は息子を連れて近くの交番に出頭します。交番は町内にあって警官とは親しい間柄です。まさか、息子を当局に渡すことはなかろうと踏んだのですが、ナガンは当局に送られ電気拷問を受けます。
 しかし、ナガンの身体は電気を通されても、なぜかただ、ムズガユイだけでした。

 数日後、送り返されてきたナガンは半身不随になっていました。
 ソン・ハンモは体制に対し煮えたぎる怒りを覚えますが、大統領や側近の前では平静を装います。
 一方で、ソン・ハンモは息子を背負い、息子の足を治せる民間医療の医者や仙人を訪ね歩きました。そして、韓国一の仙人に会うことができました。

 映画のラスト近く、大統領が側近によって暗殺されてしまいます。
 ソン・ハンモのその後は、いかに。彼の息子の足は一体どうなるのか! 観てのお楽しみ。

 ちなみに、映画はクーデターで政権を掌握した朴政権についてだけではなく、ベトナム戦争で負傷した韓国軍兵士の心、朴大統領の前任の不正選挙についても語っています。


オリジナルタイトル:孝子洞理髪師|효자동 이발사|
監督・脚本:イム・チャンサン|韓国|2004年|116分|
撮影 チョ・ヨンギュ|
出演:ソン・ハンモ(ソン・ガンホ)|その妻のキム(ムン・ソリ)|その子ナガン(イ・ジェウン)|大統領(チョ・ヨンジン)|警護室長チャン・ヒョクス(ソン・ビョンホ)|中央情報部長パク・ジョンマン(パク・ヨンス)|ほか

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映画 「初恋のアルバム 人魚姫のいた島」 韓国映画  監督:パク・フンシク

2_20170723103949f09.jpg




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 甘口の映画だが、そう悪くはない。
 それは、若き日の母親とその娘ナヨンを、一人二役で演ずる、チョン・ドヨンが光っているからです。

 ナヨンは失踪した父親を探して、母親が生まれ育った島へ旅立ちました。
 ですが、島に着いた途端、ナヨンは、母親が娘であった頃へ、タイムスリップしてしまう。
 タイムスリップしたその先では、島も、そして周りの海も、まだまだ開発の手が及んでないのどかな風土、光りに満ち溢れた風景でした。

1-0_20170721103413879.jpg 若き日の母・ヨンスンは幼い弟と二人住まい。親はいません。ヨンスンは島の女たちと一緒に、海女をして生活しています。
 島には小さな郵便局があって、ヨンスンはそこの若い配達夫・ジングクと恋仲になっていました。
 学校へ通えず文盲のままに過ぎて来たヨンスンに、ジングクは優しく読み書きを教えています。

 映画はその大部分の時間を使って、このヨンスンとジングク、若い二人の、たどたどしい愛を瑞々しく描いて行きます。これが本作の見どころでしょう。

 さて、そののちジングクは転勤で島を離れることになりますが、結局、その後二人はめでたく結ばれました。
 そう、この郵便局の男ジングクがナヨンの父親になるのです。

 しかし、いつからなのでしょうか、両親の夫婦仲がうまく行かないようになってしまいました。(映画は、夫婦仲が悪い事や以下の事については、少ししか時間を割きません)

2-0_2017072110361922a.jpg 勝ち気な母親は、事あるごとに、がなり声で父親を容赦なく、なじる毎日。父親は言われるまま、ただ黙っている。
 ナヨンはそんな母親が嫌いだ。こんな、女尊男卑な家庭に生まれたくなかった。

 どうやら父親は借金を背負っているようです。人の好い父親は、誰かの連帯保証人になったらしく、返済義務が生じている。
 父親の郵便局勤めの稼ぎだけでは賄えない。その分、家計を補うためにも、母親は銭湯でマッサージ/垢すりをして働いています。(ナヨンも郵便局に勤めています)

 そのうえ、近年、父親は体調が悪い。病院の検査でも良くないらしい。だが父親は、このことを誰にも話していません。
 父親は妻に債務に病魔に疲れてしまい、失踪。
 そこで、娘ナヨンが、父親探しに島へ向かうのでした。

 そして映画冒頭。父親の葬儀の席で、借金を残したまま他界したことを、母親は大声でなじり、大泣きするのです。

 タイムスリップから帰ったナヨンは思います。
 あんなに、ねじ曲がってしまった母親の心に、夫にも見せない秘めた愛、若き日の愛が、あるのだろうと。
 そして、父親については、純粋に優しいということは、かえって周りを傷つけることになると・・・。

 残念なのは、若い頃の両親と現在の両親の、その様相の格差があまりにあまりなので、別の人の話に思えてしまいます。
 いやいや往往にして、こうなってしまうものですよ、と映画は言っているのでしょうか。


下
オリジナルタイトル:人魚姫|인어공주 |
監督:パク・フンシク|韓国|2004年|111分|
原案:キョン・ヒェウォン|脚本:パク・フンシク 、 ソン・ヒェジン|撮影:チェ・ヨンテク|
出演:娘のナヨン、若き日のナヨンの母・チョ・ヨンスン、一人二役(チョン・ドヨン)|現在の母・キム・ヨンスン(コ・ドゥシム)|若き日の父・キム・ジングク(パク・ヘイル)|現在の父・キム・ジングク(キム・ボングン)|ナヨンの彼氏・ドヒョン(イ・ソンギュン)|ほか

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映画 「アデル、ブルーは熱い色」  監督:アブデラティフ・ケシシュ

上
 アデルとエマ
1-0_20170713094955213.jpg


 オリジナルの題名は「アデルの人生:第1章と第2章」。
 高校生のアデルが同じ学校の先輩男子より、街で見かけたブルーの髪の女性に魅かれていく話。
 主人公のアデル役のアデル・エグザルコプロスの自然体の熱演に脱帽だ、素晴らしい。

 宣伝では、衝撃の愛の7分間、史上最高のラブシーンにカンヌが大喝采!と、レスビアンの性描写をことさらに言うが、蓮っ葉な売り文句だな、それがこの映画の売りなのかい?

 ブルーの髪の女性エマは画家、その彼女が映画の中で、自身の作品に言及するキュレーター(美術評論家)に対して言っている。「作品に敬意を払うべきよ」と。このセリフをそのまま、本作の配給会社に言いたいね。
 観るほうも、エロいの観たけりゃ、他のにすれば。

 売りのラブシーンよりも、アデルがクラブで街頭デモでパーティで幼稚園で踊るダンスシーンの方が長い。映画の各所で出てくる。監督は愛と踊り両方のシーンをもって、作品のいしずえ(礎)と考えている風に思える。

 映画に使われる音楽の選定にセンスを感じる、いいね。

 あと、アデルの家庭は中の下か、労働者階級で、人生において特に職業選択は手堅くというに対して、エマの家庭は自由奔放な上流階級。お父さんは二人目で、著名なシェフ。エマの家庭はレスビアンを許容する。

 話のスジはいたって単純だが、「アデルの人生:第1章と第2章」を丁寧に描いて行く。179分の大作。
 演技輝くアデルに注目。じっくり観てみよう。

 ちなみに、アデルに対して恋愛感情なしに、親身になってくれる男子が登場する。
 2015年の韓国映画「恋物語」にも同様な男子が主人公のレスビアンな女子を慰める。(「恋物語」の記事はこちらから。)


オリジナルタイトル:La Vie d'Adèle : Chapitres 1 et 2|
英語タイトル:BLUE IS THE WARMEST COLOR|
監督:アブデラティフ・ケシシュ|フランス|2013年|179分|
原作:ジュリー・マロ|脚本:アブデラティフ・ケシシュ 、 ガリア・ラクロワ|
撮影監督:ソフィアン・エル・ファニ|音楽:ジャン=ポール・ユリエ|音楽監修:エリーゼ・ルーゲン|
出演:アデル(アデル・エグザルコプロス)|エマ(レア・セドゥー)|サミール(サリム・ケシュシュ)|リーズ(モナ・バルラベン)|トマ(ジェレミー・ラユルト)|ベアトリス(アルマ・ホドロフスキー)|アントワーヌ(バンジャマン・シクスー)|ほか

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映画 「チャップリンからの贈りもの」  監督:グザヴィエ・ボーヴォワ

上
左から、娘のサミラ、父親のオスマン、そして風来坊のエディ。
 

 話の舞台はスイス、レマン湖の辺り。
 生真面目なアルジェリア人と楽天家のベルギー人、この二人の男がトンデモナイことを仕出かす話。

1-0_20170708220906035.jpg 北アフリカはアルジェリアからの(不法?)移民の男オスマンは、テレビも無い粗末な小屋に妻子と住んでいる。
 最近、妻が重い腰痛で緊急入院し、オスマンは娘のサミラと二人っきり。  
 そこへ風来坊のベルギー人エディが訪ねて来た。エディはオスマンの命の恩人で、義理堅いオスマンはエディの居候を歓迎した。
 だが、病院でこのことを知ったオスマンの妻は、「エディはやっかい者」と渋い顔。以前に良くない事があった様子。

 オスマンは問題を抱えていた。
 妻の医療費が払えない。だから妻は手術が受けられない。
 病院からは、オスマンの妻であることを証明する家族証明を提示すれば、低所得者向けに、手術代などの医療費が割安になる。
 しかしオスマン夫婦は結婚の際、スイスの役所の手続きをしていない、だから証明するものが無い、よって高額医療費の全額負担となってしまう。
 そのうえ、妻が働けないでいるので、家族の収入はがた減り。銀行に金を借りる相談に行ったが相手にしてもらえない。
 手立てがないオスマンは頭を抱えている。おまけに娘のサミラは母親が家にいないので情緒不安定。

2-0_20170708215635248.jpg こんなオスマン一家の困った様子を見ていた居候のエディに、アイデアが浮かんだ。
 最近、他界したチャップリンの遺体を一時、盗んで、身代金を頂こう!
 晩年、レマン湖のほとりの別荘に住んでいたチャップリンは、近くの墓地に埋葬されていたのだ。

 エディの突飛な言動に慣れているオスマンだったが、これには呆れた。呆れたが魅力的でもあった。なにしろオスマンに打つ手がなかった。
 ついにある夜、二人は闇に紛れて、墓荒らしを決行し、人目につかない別の場所に棺を埋めた。
 次に、チャップリン家に対して、電話で犯行声明と身代金要求。電話はエディが担当、オスマンは英語が話せない。
 しかしエディの電話は、思うように話が進まず相手に怒鳴りだしたり、オスマンに相談なく身代金を半額にしたりと、横にいるオスマンはハラハラし通し。
 (シーンは喜劇とまでは行きませんが、ともに貧しい男の凸凹コンビの様相。)

 さてさて話は、このあと、どうなるのでしょう。でも映画は、一応、ハッピーエンドを迎えます。
 脚本は、スイスで1977年に実際にあった事件を基にしているようです。
 チャールズ・チャップリンは、1977年12月25日に死去、映画の日本語タイトル名は12月25日クリスマスの日にかけているのでしょうか。
 ちなみにですが、スイスでは、全住民の24.6%の外国人を抱えているらしい。(2015年現在)


オリジナルタイトル:La Rançon de la Gloire|
英語タイトル:THE PRICE OF FAME|
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ|フランス|2014年|115分|
脚本:エティエンヌ・コメ 、 グザヴィエ・ボーヴォワ|撮影監督:カロリーヌ・シャンプティエ|
出演:エディ(ブノワ・ポールヴールド)|オスマン(ロシュディ・ゼム)|サーカスの女・ローサ(キアラ・マストロヤンニ)|チャップリンの秘書・ジョン・クルーカー(ピーター・コヨーテ)|オスマンの娘・サミラ(セリ・グマシュ)|オスマンの妻・ヌールNoor(ナディーン・ラバキー)|チャップリンの娘(ドロレス・チャップリン)|

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映画 「フローズン・リバー」  監督:コートニー・ハント

上


 お話は、アメリカ東北部、カナダとの国境近く。
 ニューヨーク州の北辺を流れるセントローレンス川、この川を国境線にして向こうはカナダだ。

 生活に窮する白人中年女性と、アメリカ先住民族の若い女性との、母親同士の思わぬ出会いと人種の壁と、凍った川を車で渡る密入国者輸送の共犯と、友情を描く。

1-0_20170703141232ab2.jpg この国境付近でトレーラーハウス※(下記)に住み、二人の息子を抱える白人女性レイには、もう小銭しかない。レンタルで借りてるテレビ(受像機)の支払いも滞っている。下の子はまだ4歳位、ディズニーのアニメが楽しみなのに。
 レイは1ドルショップで働くが非正規雇用、給料日はまだ先。
 ある日、コツコツ貯えた金を持って、夫は姿を消した。その金は、一家四人が暖かく楽しく住める新しいトレーラーハウスを買うための金だった。

 夫はギャンブルに溺れていた。それを激しく責めるレイだったらしい。そんな両親をこれまで見て来た15歳の長男は父親を擁護する。
 レイは夫を探しに、いや、持って逃げた金を取り返すべく、夫がよく行くモホーク・ビンゴ・パレスへ車で出かけた。
 そこはインディアン・カジノのビンゴ会場、北アメリカ先住民族のモホーク族の保留地のなかにある。

 夫の姿はなかった。車は駐車場にあった。夫はここからバスで行方をくらましたようだ。
 モホーク族の女ライラが会場から飛び出してきて、夫が乗って来た車で走り去る。何! あとを追うレイ。
 たどりついたところは、保留地の中のライラの家、レイのハウスより小さくて、キャンピング用のトレーラーの様。一人住まいだ。
 ライラはレイに言う、「この車を売らない?」 (トランクルームが大きいこの車は、人を入れて運ぶのに役に立つのだ。)

 ライラはこんな車が欲しかった。車があれば、兄の商売を手伝って金が入る。その金を貧しい義母に渡せる。
 出産直後に赤ちゃんを義母に奪われたままのライラは、赤ちゃんのために金を渡したい。(ライラの夫はすでに世を去っていた)

 ライラの兄たちの商売は、カナダからアメリカへの密入国斡旋だった。
 冬はセントローレンス川が凍り、車で川を渡れる。(フローズン・リバー)
 そして、川の両岸つまりカナダ側もモホーク族の保留地。保留地の中にはアメリカ・カナダの国境はない。このことを逆手に取った密入国。
 車のトランクルームに密入国者を入れて密かに川を渡るのだ。部族の闇収入源なのか。

 結局、ライラの話を聞いてレイも密入国者輸送を手伝うことになる。稼いだ金は折半だ。
 レイはレイでまとまった金が近々に欲しかった。あと数日以内にトレーラーハウスの残金を納めないと、頭金が消えてしまう。

 さて、レイの無謀な冒険、ライラの土地勘、そして意外にも沈着冷静なレイの判断。
 カナダ側から川を渡りアメリカ側の保留地を出ると、州警察の目が光るが、白人のレイは怪しまれないし、警官とは見知った間柄でもあった。

 3回目の密入国ほう助のある夜、レイとライラは窮地に追い込まれる。
 州警察と彼女らの間に、モホーク族の部族議会が入って事を丸く収めることになる。要するにトカゲのシッポ切り。
 会議の結論はレイかライラのどちらかが自首する。
 はじめ、ライラが自首すると言った。なぜならレイには帰りを待つ二人の息子がいる。レイは一瞬躊躇しながらも、家へ帰ろうとしたが、引き返した。
 そしてレイはライラに言った。あなたは赤ちゃんを義母から奪い返して、そして私の家に住み、息子二人の面倒をみて。刑期は4か月らしいから。


※トレーラーハウスとは
  キャンピング・トレーラーの形態だが、特定の場所に定住するを目的とした移動可能住宅。タイヤがついたプレハブ住宅。トラックで牽引する。
※インディアン・カジノとは
  保留地内でインディアン部族が経営する各種カジノ。アメリカ連邦政府との連邦条約規定に基づくインディアン部族の権利となっている。
 参考サイト https://ja.wikipedia.org/wiki/イロコイ連邦のインディアン・カジノの項。保留地についても解説あり。
※モホーク族とは
  https://ja.wikipedia.org/wiki/モホーク族
 
下
オリジナルタイトル:Frozen River|
監督・脚本:コートニー・ハント|アメリカ|2008年|97分|
撮影監督:リード・モラノ|
出演:レイ(メリッサ・レオ)|ライラ(ミスティ・アップハム)|レイの長男ティー・ジェイ(チャーリー・マクダーモット)|ジャック・ブルーノ(マーク・ブーン・Jr)|フィナーティ警官(マイケル・オキーフ)|ジミー(ディラン・カルソナ)|リッキー(ジェイムズ・ライリー)|ビリー・スリー・リヴァーズ(マイケル・スカイ)|チェン・リー (ナンシー・ウー)|ガイ・ベルサイユ(ジェイ・クレイツ)|






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映画 「ウィスキー」 ウルグアイ映画  監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール

上
事業主のハコボと従業員のマルタ、ともに独身だ。


01- 人生を十分味わって来た年配者たち3人の機微を描く映画です。
 
 南米ウルグアイの街中にある、朴訥な事業主と無口な女性従業員3人の、靴下製造の小さな町工場。
 古い製造機械を相手に黙々と、決まりきった単純労働をこなす日々。
 明るい期待は無いが、月々決まった生活の糧は得る。
 出社退社時の判で押したような毎日の挨拶、朝夕の表のシャッターの開閉、機械の騒音と蛍光灯の光、就業中最低限の会話、沈み込む感受性。

 その一方で映画は、真面目な市井の人が時に見せる、作られていない、じんわりとした可笑しさを提供する。
 しかし、これを喜劇と言い切るには、いささか重苦しい。

 心を閉じてしまった年配者たちの、思ってもみなかった恩返し。それは彼らの誠実さが擦り切れていなかった証。
 映画は喜劇を求めず、無口な人の実直さをすなおに描いている。

2-0 靴下工場の事業主ハコボと、長年従業員頭を務める独身女性マルタの二人は、わずかな会話で意志が通じ合う。
 そんなある日、ハコボの母親の墓石建立式に出席するために、ブラジルに住むハコボの弟エルマンがやって来た。(兄弟はユダヤ人)

 この兄弟は仲が悪く長年会っていない。面と向かっても、話す話題もない。
 それは独身のハコボが、介護も含め母親の世話を最後まで面倒みたからだった。実母でありながら弟エルマンはまったく兄任せであった。

 そのエルマンは昔、父親が始めた靴下製造の、稼業の古臭さを嫌がり、家を飛び出してブラジルで新式の靴下工場を始め、商売はうまく成功した。兄弟の造る靴下の品質やデザインの違いは鮮明だ。兄より弟に才覚があったと言える。
 ちなみに、エルマンの家族は幸せそうで、娘のひとりは近く医者になると言う。

 弟の、兄と母に対する不義理。兄の、弟に対する漠然とした嫉妬。
 そんな中で、ハコボは弟に対するメンツか、自分は結婚したと嘘を伝えていた。
 映画はここから始まる。
 ハコボはマルタに、弟が滞在している間だけ(仮の)妻になってくれと頼みこんだ。意外にもマルタはすなおに受け入れた。長年雇ってもらえている日ごろの恩を返すつもりだったのか。
 さっそくマルタはハコボの家に行き、シングルベッドをくっ付けてダブルベッドに見立てたり室内を小ぎれいにして、なんとか夫婦の家に見えるようにした。しかしハコボはこれを嫌がり、ベッドを離し、自身はソファで寝た。

 また、エルマンは不機嫌な兄と話ができないために、マルタに語りかけることが多くなる。マルタはマルタで、日ごろ、男性と話す機会がないためか、いつになく笑顔と饒舌さを世慣れたエルマンに見せる。そしてそんな二人を見て、ハコボはうっすら焼きもちを焼く。

 この三人が一泊旅行をする。
 ホテルのクラブで三人がショウを見ている時、マルタは出し抜けに、紙に包んだ札束をテーブルに乗せてハコボに差し出す。
 不義理を金で埋め合わせしようとするのかという気持ちでそれを一旦押し返したハコボだが、結局紙包みを懐に仕舞い込んだ。
 次に映画はふたつを語る。
 ホテルの夜、マルタは約束の時間に密かにエルマンの部屋へ行きベッドを共にした。
 同じころ、ハコボはホテルのカジノへ行き、紙包みの全額を両替しルーレットに賭けた。

 翌朝、ホテルのチェックアウト前に、ハコボはマルタに、綺麗な包装紙に包んだ「モノ」をプレゼントした。
 そして次の日、これまで一度も遅刻すらしなかったマルタは、ついに工場に現れなかった。

下


オリジナルタイトル:Whisky|
監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール|ウルグアイ・アルゼンチン・ドイツ・スペイン| 2004年|94分|
脚本フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール、ゴンサロ・デルガド・ガリアーナ|
撮影バルバラ・アルバレス|
出演:ハコボ・コレル(アンドレス・パソス)|マルタ・アクーニャ(ミレージャ・パスクアル)|エルマン・コレル(ホルヘ・ボラーニ)|マーティン(ダニエル・エンドレール)|グラシェラ(アナ・カッツ)|カルロス(アルフォンソ・トール)|

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映画 「ブーベの恋人」  監督:ルイジ・コメンチーニ

上

 マーラ役の女優クラウディア・カルディナーレ当時25歳を愛でる映画です。

 時は第二次世界大戦末期、舞台はイタリア北部。
 当時、イタリア北部はナチスドイツの占領下にあって、ナチスドイツは、ムッソリーニが率いたファシズム体制の残党を傀儡にし、共和国を建国していた。
 お話は、これに抵抗するパルチザン(レジスタンス)の父と兄を持つ娘マーラと、そしてその二人を知る、やはりパルチザンの男ブーベ(ジョージ・チャキリス)との恋物語。

1-0_201706231114141a2.png 出会いは、1944年のある日、ブーベがマーラの父親を訪ねて来たことに始まる。
 ふたりは互いに、会ったその時から意識し合うことになる。
 しかしブーベは、イタリア人ファシストである憲兵とその息子を殺害し逃走中の身であった。
 片やマーラは普通の田舎の娘であった。父親や兄が彼女にパルチザンについて語ることもなく、彼女にはブーベの活動は遠い世界であった。

 その後、時を置いてブーベはマーラを訪ね、幾度かの短い逢瀬があり、そしていつしか、二人は行動を共にすることになる。身を隠しての日々であった。
 しかし、ブーベに危機が迫り、パルチザン幹部の計らいで彼は単身、国外に逃れることとなった。
 
 1945年、イタリア北部がパルチザン勢力によって奪還される。
 そののち、しばらくしてブーベが帰国。時代はもう、レジスタンス闘争の時を終え、イタリア全土は共和制の時代になっていた。
 ブーベは今や、ファシスト体制下で反体制分子として追われる身ではなく、殺人犯として裁判にかけられることになった。

 映画ラスト近く。マーラは列車に乗って、ブーベのいる刑務所へ面会に向かおうとしている。彼が収監されて7年の月日が経つ。
 出所までは、この先さらに7年。マーラはひたすらブーベの出所を待っている。

 時代背景。
 ムッソリーニ率いるファシズム政権崩壊の1943年以降、イタリア北部は、ナチスドイツとファシズム体制時の残党(傀儡)の支配下となり、一方、連合軍が侵攻したイタリア南部は、連合軍と国王政府との支配地域となって、イタリアは大きく二分されてしまう。
 この時から、北部各地でレジスタンス運動が起こり、ドイツ軍およびイタリア人ファシストを相手に、パルチザン勢力による国土解放に向けた戦いの時代に突入することになった。
 そして1945年4月にようやく北部地域の解放を果たし、イタリアは同年12月に共和制の時代になった。

 ブーベの苦難。
 北部が解放されてのち、ファシスト体制下で罪人となった人々に恩赦が出た。しかし、ブーベの帰国はそのあとであったために恩赦を受けることは出来なかった。ブーベはパルチザン幹部の命令に従ったために恩赦のチャンスを逃してしまった。

 マーラのふたつの愛。
 ブーベが国外逃亡した後、彼女はステファーノとの恋に落ちる。しかし、彼女は彼に「でも私はブーベの恋人よ、わかって。」と言いマーラを待つ身であることを告げた。そして、裁判時にマーラはブーベへの愛を、改めて強く感じたのであった。
 ブーベはマーラに言った。今までもこれからもお前が支えだ。もしお前がいなかったなら、俺は自殺していたかもしれない、と。


オリジナルタイトル;La Ragazza di Bube|
監督:ルイジ・コメンチーニ|イタリア・フランス|1963年|112分|
原作:カルロ・カッソーラ|脚色:ルイジ・コメンチーニ 、 マルチェロ・フォンダート|
撮影:ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ|
出演:マーラ(クラウディア・カルディナーレ)|ブーベ(ジョージ・チャキリス)|マーラの彼氏ステファーノ(マルク・ミシェル)|リリアーナ(ダニー・パリス)|イネス(モニク・ヴィータ)|マーラの母(カルラ・カーロ)|マーラの父(エミリオ・エスポジート)|

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映画 「フェリーニのアマルコルド」  監督:フェデリコ・フェリーニ

上
少年チッタの家族。

 フェリーニ監督(1920-1993)が少年時代のある年、特別に印象深く彼の心に残る、その1年を題材にしたといわれる喜劇&ファンタジー映画です。

2-0_20170616122321fff.jpg 時は1935年の春。
 映画のバックグラウンドは、ファシスト党のムッソリーニが首相となり、一党独裁政治をはじめて13年経った頃。
 そしてファシスト党指揮下の秘密警察が設立されてから5年経った春。圧政の時代。
 少年チッタは15歳。異性に目覚める頃、大人として世間に出て行く準備の時。

1-0_20170616121821de5.jpg
 映画の舞台は、イタリア北部の小都市。
 1930年代とはいえ、まだまだ19世紀のおおらかさと、男尊女卑と、泥臭い人の営みが残る街。

 お話は、分かりやすく起承転結を語るものではなく、映画は映像を体感させようとする。
 たくさんのアイデアを詰め込んだ押しの強いシーンの連射と、突拍子な切り返し、おふざけも紛れ込む。
 監督の創る喜びが伝わってくる。


 「フェリーニのアマルコルド」の路線を、よりストーリー性を重んじ楽しくドタバタにすると、エミール・クストリッツァ監督の、例えば奇人変人続出の「黒猫・白猫」(1998)に行き当る。

 そのドタバタを抑えて、悲しく屈折した喜劇性とアイロニーに重心を置くとすると、ロイ・アンダーソン監督の例えば「愛おしき隣人」(2007)が思い浮かぶ。
 また、多数の人物を登場させるだけで、その場面に可笑しみが加わる技法もフェリーニ由来のように思う。

 「永遠と一日」(1998)のテオ・アンゲロプロス監督も映像で語って行く監督で、フェリーニの映像力のうちの、大人数の登場と大舞台の演劇性、そして人生における祝祭の喜びを取り込んでいるように思える。

 これらの監督は、本作の様々なシーンを観ていて、「あッ、あの監督は、このシーンに影響されたんじゃないか」と思ったので書いてみた。 

 文中の下線部をクリックして当該記事をお読みください。


オリジナルタイトル:Federico Fellini Amarcord|
監督:フェデリコ・フェリーニ|イタリア、フランス|1974年|124分|
脚本:フェデリコ・フェリーニ 、 トニーノ・グエッラ|
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ|
出演:チッタ(ブルーノ・ザニン)|チッタの父(アルマンド・ブランチャ)|チッタの母(プペラ・マッジオ)|グラディスカ(マガリ・ノエル)|ほか

◆これまでに記事にしたフェデリコ・フェリーニ監督の映画
 
 「8 1/2」(1963年)  「甘い生活」(1960年)


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映画 「ミニー&モスコウィッツ」  監督:ジョン・カサヴェテス

上

 1970年代、特にその前半に製作された映画のなかに、独特の風合いのリアリティを持つ映画がある。

1-0_201706091309353ff.png 本作もそうだ。
 登場人物はみな、臆面も無く自我丸出しで、愚かで、そして圧倒的に、人として強い。
 そして同時に弱い。
 その、人の弱み、つたなさを表わすにあたって映画は、飾らず盛らず、ためらいなくありのままに弱みを表わそうとする。
 愚直に生きようとする人々を、映画は応援する。
 加えて、観る者が感じる、映画のざらついた手触り感は、1970年代はモノに重さがある、アナログ全盛の時代だからだ。

 話はミニー(ジーナ・ローランズ)と、モスコウィッツ(シーモア・カッセル)のラブストーリー。
 ロサンゼルス郡立美術館に勤めるミニー(ジーナ・ローランズ)は、独身で一人住まい。
 人付き合いが下手で、何でも話せる話し相手は、職場の年配女性。彼女も独身だ。
 ミニーはひとりでいると心が乱れる。愛が欲しい。
 不倫相手の彼はいるが、愛はもう終わっている。

 モスコウィッツはレストランの駐車場付きのサービス係り。
 最低限の収入だが、そんなことを気にしない気楽に生きる男。
 そんな彼が、ミニーに一目惚れ。
 だが、ふたりの愛は、そう簡単には進まない。住む世界が違い過ぎる。

 ふたりの愚直さが、喜劇になって行く。
 監督自身の結婚経験を盛り込んだ作品とのこと。
 
オリジナルタイトル:Minnie and Moskowitz|
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス|アメリカ|1971年|114分|
撮影 アーサー・J・オニッツ、アルリック・エデンス、マイケル・ディー・マルグリーズ|
出演:ミニー(ジーナ・ローランズ)|モスコウィッツ(シーモア・カッセル)|ヴァル・エイヴァリー|キャサリン・カサヴェテス|エルジー・エイムス|レディ・ローランズ|ジョン・カサヴェテス|

◆これまでに記事にした映画から。

【ジーナ・ローランズ出演の映画】
グロリア」(監督:ジョン・カサヴェテス)、「ナイト・オン・ザ・プラネット」(監督:ジム・ジャームッシュ)

【シーモア・カッセル出演の映画】
イン・ザ・スープ」(監督:アレクサンダー・ロックウェル)


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映画 「紅の翼」1954年 主演:ジョン・ウェイン 監督:ウィリアム・A・ウェルマン

上
ホノルルを発った旅客機(プロペラ4発機)、搭乗数総勢21名。 

 1954年製作の旅客機パニックもの。

1-0_20170528124954547.png ジョン・ウェイン演じる副操縦士ダンは、1917年からの超ベテラン飛行機乗り。(職歴37年)
 彼は、長年民間航空の機長として活躍し、また二回の世界大戦と朝鮮戦争で空軍パイロットを勤めた男。
 今は別の、この航空会社で、機長を若手に譲り、自身は副操縦士の座にいる。しかしながら若手からは煙たがられている様子。

 さて、ダンが副操縦士として乗り込んだホノルル発サンフランシスコ行きの便が、晴天の中、空港を飛び立った。予定所要時間12時間16分。
 ハワイ、サンフランシスコ間は、どこまで行っても太平洋上である。
 夜になり、帰還不能点(ホノルルへ引き返す燃料がなくなる限界点)を過ぎたあたりで、旅客機の第1エンジンが突如、火を噴いた。
 さらにはこの爆発で、燃料タンクから燃料が漏れだした。機は揺れ出す。

 慌てる機長、第3操縦士、ステュワーデスの3名は、みな若い。もちろん搭乗客たちも騒ぎ出す。
 これを冷静に見るダンも、本当は怖い。だが、彼は状況を判断し的確な行動をとる。
 ダンは自ら進んで、若い機長に代わり、客たちに状況説明をした。
 「事実を過不足なく、正確に伝えることに徹します」と冒頭に述べ、まずは客の信頼感を得る努力をし、次に客の心を和らげながら、水面着陸への対処を説明した。

 しかし結局、旅客機はダンの機転のきいた操縦で、水面着陸せずに、何とか夜更けのサンフランシスコ空港にたどりつけた。(着陸後の燃料残量は、わずか114リットルだった)

 映画は、乗客それぞれの人物背景や心理描写を描くが、いささか喜劇的である。これはパニックドラマの怖さをやわらげるためだろう。(1954年当時の観客は怖かったと思う) 搭乗客の人物像は下記

 ちなみに、ダンには辛い過去があった。ダンが機長として搭乗した便が、南米コロンビアで墜落。ダンは墜落の衝撃で操縦席の窓から投げ出され、ひとり奇跡的に助かったが、ほかの搭乗者は全員が死亡した。そして悲しいことに、この搭乗者の中に、ダンの妻子がいたのだった。


下 さて、この映画を取りあげたのは、先に書いたジョン・ウェイン演じる副操縦士ダンの次のセリフ、「事実を過不足なく、正確に伝えることに徹します」が印象に残ったからだ。
 そのセリフは、「説明責任ある人の説明責任」を副操縦士ダンが、ちゃんと認識している証だ。これがかっこいい。見識ある男。

 昨今、世界中で、物事を、責任ある説明をせずに、ただ、「まったく問題ない」と言い切る人が多いと感じている。
 こういう人こそ、一番、「問題がある」し、信頼感を失う言動だ。


オリジナルタイトル:The High and the Mighty|
監督:ウィリアム・A・ウェルマン|アメリカ|1954年|147分|
原作・脚本:アーネスト・K・ガン|撮影:アーチー・スタウト|
出演:搭乗員5名:副操縦士ダン・ローマン(ジョン・ウェイン)|機長のサリヴァン(ロバート・スタック)|第3操縦士ホビー(ウィリアム・キャンベル)|ステュワーデスのスポールディング(ドー・アヴドン)|航空士ウィルビー(ウォーリー・ブラウン)|
搭乗客16名:ハワイにある核ミサイル開発プロジェクトにいた世界的な原子科学者フラハティ(ポール・ケリー)|文通相手とサンフランシスコで初めて会う予定の元・美人コンクール受賞者サリー(ジャン・スターリング)|富裕層の勝ち気な女性リディア・ライス(ラレイン・デイ)|その夫で尻に敷かれているハワード・ライス(ジョン・ハワード)|サンフランシスコの母親の許へひとりで搭乗した5歳の少年トビー(マイケル・ウエルマン)|サンフランシスコの漁師ホセ・ロコタ(ジョン・クォーレン)|満洲生まれの朝鮮人女性ドロシー・チェン(ジョイ・キム)|ブロードウェイのプロデューサ―のギュスターヴ・パーディ(ロバート・ニュートン)|その妻で人気女優リリアン(ジュリー・ビショップ)|ハワイ旅行帰りの夫エド・ジョゼフ(フィル・ハリス)|その妻(アン・ドーラン)|新婚旅行帰りの夫婦(カレン・シャープ、ジョン・スミス)|搭乗客メイ・ホルト(クレア・トレヴァ)|搭乗客ケン・チャイルド(デイヴィッド・ブライアン)|搭乗客ハムフリー・アグニュー(シドニー・ブラックマー)|その他、船員、航空会社地上職ほか

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映画 「ゴモラ」  イタリア映画 監督:マッテオ・ガローネ

上4

 ナポリを拠点とする犯罪組織の素顔を描く群像ドラマ。
 映画は、この犯罪組織の実態を暴露した原作「死都ゴモラ」をしっかり把握しながら、出色の脚本と演出で見事な仕上がりをみせます。
 実に、よくできた映画です。

1-0_20170525142457506.jpg
 映画は5つの話を語ります。
 犯罪組織の街に住むトトという子供が、ごく自然に組織の一員となって行く話。
 やはり同じ街に育った不良少年マルコとチーロの無知で向こう見ずな行動と悲しい結末の話。 
 組織からファミリーに支給される手当金の、会計と訪問支給を担う男ドン・チーロの話。
 組織が一般社会から資金を調達するために経営する、産業廃棄物処理会社の不法投棄の話。
 同じく、組織が経営する高級オートクチュールの縫製工場のベテラン職人パスクワーレの話。

 この5つの話の展開は、シーンを切り替えながら、徐々にかつ、ほぼ同時進行的な描き方で進んで行きます。
 しかしながら観客は、思うほど複雑な映画には感じないでしょう。これもこの映画の魅力のひとつです。

 ただ、ドン・チーロとパスクワーレの様相が、ちょっと似てるため、紛らわしいのが注意点。

 この犯罪組織はカモッラといい、イタリア4大マフィアのひとつ。
 著者は、この作品を執筆したことにより2006年からマフィアに殺害を予告されており、常に警察の保護下での生活を余儀なくされている。また2008年10月には度重なる脅迫により遂にイタリアを出国、海外移住せざるを得ない状況に追い込まれている。(らしい)ウィキペディアにより。


オリジナル・タイトル:GOMORRA|
監督:マッテオ・ガローネ|イタリア|2008年|135分|
原作:ロベルト・サヴィアーノ『死都ゴモラ』|
脚本:マルリツィオ・ブラウッチ 、 ウーゴ・キーティ 、 ジャンニ・ディ・グレゴリオ 、 マッテオ・ガローネ 、 マッシモ・ガウディオーゾ 、 ロベルト・サヴィアーノ|
撮影:マルコ・オノラート|
出演:少年トト(サルヴァトーレ・アブルツェーゼ)|少年シモーネ(シモーネ・サケッティーノ)|ドン・チーロ(ジャンフェリーチェ・インパラート)|少年シモーネの母親マリア(マリア・ナツィオナーレ)|産業廃棄物処理会社社長フランコ(トニ・セルヴィッロ)|フランコに雇われたロベルト(カルミネ・パテルノステ)ル|高級オートクチュールの腕のいい仕立て職人パスクワーレ(サルヴァトーレ・カンタルーポ)|高級オートクチュールの縫製工場社長ヤヴァローネ(ジージョ・モッラ)|不良少年マルコ(マルコ・マコール)|不良少年チーロ(チーロ・ペトローネ)|

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映画 「アナザー プラネット」  監督:マイク・ケイヒル

上

 過去か未来の自分を客観視するタイムトラベル。
 そうじゃないアイデアが、「もうひとつの地球」、原題がAnother Earthという、この映画。

 ある時から、空にもうひとつの地球が出現し、学者たちの見解がニュースとなって報道される。
 どうも、「あの」地球上には、我々とまったく同じ人類が、同じような自然環境、社会環境で生活しているらしい。
 どちらがコピーなのか、さえ言えぬくらいに、同じらしい。

1-0_20170522194049638.jpg そんなある日、主人公のローダが夜空を見上げて、よそ見運転したその直後、一台の車と正面衝突。
 ローダは命に別状はなかったが、相手の車の家族は即死であった。
 この事件でローダは刑務所入り。彼女は17歳でMITに合格した才女であったが、人生を棒に振った。

 出所したローダは、学校の清掃係として働き始めた。単純労働は彼女の心を慰めた。
 そしてある時彼女は、相手の車の父親ジョンが生存していることを知る。
 彼女はそのジョンの家をつきとめる。ジョンは一人住まいで、荒れた生活を送っていた。

 ローダは、家事代行サービス会社の派遣社員を装って、ジョンと接触を持ち始める。
 何回かの訪問の末、ジョンは徐々に派遣社員ローダに心を開くようになる。
 しかし、ローダは自分が加害者であることが言えない。そう言うがために、ジョンに近寄ったのに。

 ローダは宇宙のことが好きな少女であった。自分の部屋には天体写真がたくさん貼ってある。
 第二の地球への宇宙旅行、これに応募、当選した1名は民間人として、あの地球へ行ける。ローダはこれに応募し、彼女が書いた応募動機が称賛され、ロケットに乗れることになる。

 そんなある日、ローダとジョンはついに結ばれる。ふたりに愛が芽生えたのだった。
 ローダはジョンの家に赴き、宇宙旅行の事を言った。ジョンは、危険だから行かないでくれと言う。
 そしてそんな言い合いの中で、ついにローダはジョンに、自分が加害者だと言った。もちろん、ジョンはローダを追い出した。

 その数日後、ローダはジョンの家へ行き、宇宙旅行の当選資格のすべてをジョンに譲るべく、書類を置いて帰った。あの地球には、あなたの家族が生きているかもしれないと・・。
2-0_20170522194357f09.jpg なぜなら、あの事故の少し前から、この地球とあの地球が同じじゃなくなっているらしいと学者たちが述べている。あの事故も、あの地球ではなかったかもしれない。

 宇宙旅行を控えて、ジョンが宇宙飛行訓練を受けている映像がテレビで放映されている。
 それを学校の清掃員控室でローダは眺めている。

 ラスト。ローダが仕事を終え自宅に帰って来た。
 すると、玄関近くに、ひとりの女性が立っていて、ローダを見つめている。


 なんだ、SF映画か、と嫌う向きもいるかと思うが、つまらぬSF映画の棚に並べておくには、もったいない作。
 でも、謎がある。あちらの地球へ行ったジョンは、家族が生きている事が確認できれば、この地球へ戻る気は当初からなかったろう。
 しかし、そうなら、あちらの地球で、父親ジョンはふたりになる・・。

 そしてジョンは、帰りのロケットに、あちらのローダ、事故を起こさなかったローダを搭乗させたようだ。(ローダの家の玄関先にいた女性)
 あちらのローダは、これを望んだのだろう。なぜ?

オリジナルタイトル:Another Earth
監督・撮影:マイク・ケイヒル|アメリカ| 2011年|93分|
脚本:マイク・ケイヒル、ブリット・マーリング|
出演:ローダ(ブリット・マーリング)|ジョン(ウィリアム・メイポーザー)|ほか

【 SF映画 】
 これまでに取り上げたSF映画です。題名をクリックしてお読みください。

ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」  「宇宙人王(ワン)さんとの遭遇」  「宇宙人ポール

レポマン」  「南東から来た男」  「光の旅人 K-PAX 」  「ダフト・パンク エレクトロマ

12モンキーズ」   「ラ・ジュテ」  「ロスト・チルドレン

不思議惑星キン・ザ・ザ」  「ミュージアム・ヴィジター」  「マルコヴィッチの穴

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下

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映画 「マイ・ファニー・レディ」  監督:ピーター・ボグダノヴィッチ  当初の題名「シーズ・ファニー・ザット・ウェイ」

上

 いやぁ、楽しい喜劇映画です。いいです、笑えます。
 これは、脚本の勝利! 手練れの技。
 気分を変えたい時、明るくなりたい時、娯楽にどうぞ。

 他人に言えない「秘密」がバレたら・・。
 登場人物それぞれが持つ秘密が、知り合いの繋がりの中で、思わぬ所から、次々にあからさまになって行きます。
 観客はたぶん、ドミノ倒しを見るような快感と、スピーディな話の展開を楽しめます。

1-0_20170519223540cc6.jpg 映画は基本、女優になりたい主人公イザベラ(イモージェン・プーツ)の「シンデレラ・ストーリー」という筋書きで話を進めますが、内容は登場人物各人のエピソードの集合体です。
 でも、そのエピソードのひとつひとつは、言っちゃなんですが、物語としては使い古された、よくある話です。でも、これが可笑しい!のです。
 それは脚本が、よくある話に、素敵な魔法をかけてるんですね。ここが見どころです。

 いきなり有名女優になった、シンデレラガールのイザベラが芸能インタビューを受け、過去を語る話が、映像化されてお話は展開されます。
 映画の冒頭は、ニューヨークで高級コールガールをしていたイザベラ(ビジネスネーム:イジ―)が、呼ばれてホテルの一室へ行く所から始まります。
 その客はアーノルドといって、実はブロードウェイの舞台監督だった。(もちろんその時、彼はイジ―に身分を明かさなかった)

 その数日後、アーノルド監督は、妻で女優のデルタ、アーノルドとは長い付き合いの男優・セス、そして脚本家のジョシュとともに、次期公開作品の主演女優を選び出すオーディション会場に集まります。(主演女優の役柄はコールガール)
 そして、あの客の男がオーディション会場にいる、そんな事とは知らず、女優になりたいイザベラは、オーディション会場に来た。
 そして彼女は迫真の演技をみせました。(それもそのはず、イザベラは本物のコールガールですから)

 ここら辺から話が、幾つものエピソードに枝分かれし出し、その枝々が各所で交わり、その時、誰かの秘密がばれていく。
 一見、話は複雑そうだが、観ている分には、まったく難しくない。ここが、この映画のミソ。手練れの技。
 さてさて、以下のあれやこれやを、映画はどう観せるのか!
 監督(兼脚本)の冴えた腕前を楽しみましょう。

 コールガールのイザベラとアーノルドの密会を、同じホテルにいたセスが目撃していた。それで、オーディション会場に現れたイザベラ、そして何やら慌てている様子のアーノルド、このふたりをセスはじっと見つめていた。
 オーディションでのイザベラの演技は素晴らしく、妻のデルタも脚本家のジョシュも、アーノルドがイザベラを採用することに、何故、躊躇しているのか不思議だった。
 一方、脚本家のジョシュには、セラピスト(心理療法)をしている彼女ジェーンがいるが、関係は冷え切っていた。
 このジェーンの施す心理療法を受けに通っているのが、イザベラと年配の判事。
 ジョシュは、女優の卵イザベラに一目惚れ、夢中になってしまう。
 それより以前から、年配の判事もコールガールのイザベラを愛してしまっている。ところが、イザベラは女優修行のためコールガールを辞めたがために、判事の片思いは燃え上がる。
 判事はイザベラを捜すため、私立探偵を雇うが、これがジョシュの父親。父親は、コールガールと付き合う息子に悩むと同時に、雇主と息子の三角関係の中に飛び込んだ形。
 あることでイザベラとの密会が発覚し、夫アーノルドの女遊びを知った妻デルタは、情緒不安定になり、昔の(秘密の)恋人セスに近づく。
 ジョシュとイザベラの恋を知った、ジョシュの彼女ジェーンも怒り狂う。

下 そしてそもそもアーノルドは、このお話以前から、各所で女の子をひっかけていて、そのうちの何人かに、「君はきっと成功する」と分かれ際に言って、お金を渡していた。
 女優になりたいと言っていたイザベラも、有名デザイナーになりたいと言った女性も、アパレルの仕事で成功したいと言った女性も、そののちそうなった。エピソードの中で、アーノルドはそういう女性から感謝されるシーンがある。アーノルドは人を見る目があるのだろう。

 ちなみに、ラストで登場人物のその後が語られる。(ジョシュの彼女ジェーンは、セスと結ばれる)
 もうひとつ、ラストのラストで、インタビューを終えたイザベラを迎えに、今の彼氏役でクエンティン・タランティーノが登場する。
 ついでに、もうひとつ。セス役のリス・エヴァンスは、映画「ノッティングヒルの恋人」に出てくる。本屋の店主ヒュー・グラントと一緒に住んでいる、あのパンツ男で悪趣味なTシャツ男。



オリジナルタイトル:SHE'S FUNNY THAT WAY|
監督・脚本:ピーター・ボグダノヴィッチ(1939 - )|アメリカ|2014年|93分|
撮影:ヤーロン・オーバック|
出演:イザベラ・パターソン、別名イジ―(イモージェン・プーツ)|舞台監督のアーノルド・アルバートソン(オーウェン・ウィルソン)|その妻で女優のデルタ・シモンズ(キャスリン・ハーン)|男優のセス・ギルバート(リス・エヴァンス)|脚本家のジョシュ・フリート(ウィル・フォーテ)|ジョシュの恋人でセラピストのジェーン・クレアモンド(ジェニファー・アニストン)|コールガールの元締め女将のビッキー(デビー・マザール)|クエンティン・タランティーノ(クエンティン・タランティーノ)|ほか

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映画 「GO NOW」  監督:マイケル・ウィンターボトム

上


1-0_20170512142734ff2.png








カレンとニック


 スコットランドの、ある街に住み、地元で働く男女のラブ・ストーリー。
 苦難の壁をふたりして乗り越え、ようやっとハッピーエンドの結末を迎えます。
 スコットランドらしい雰囲気を味わえます。(行ったことはないですが)

 ニックは、歴史的な建築の外装修理の現場で、職人として働いています。
 休日は地元のアマチュア・サッカーチームで汗を流しています。
 チームのメンバーは、ニックの飲み友達であり悪友です。

 カレンは、小さなホテルのラウンジで働いています。
 ホテルの上司チャーリーは前々からカレンにお熱で、一方、カレンも上司が嫌いじゃないし、遅刻しても見逃してくれるとか融通を利かせてくれるのをいいことに、だらだら続く職場不倫。
 カレンの私生活は、ポーラという女性と部屋をシェアして住んでいます。

 そんなある日、ニックとカレンは出会います。
 ふたりは、すぐに好き同士になるのですが、ニックは、カレンが上司と付き合っていることを知っています。カレンはそれを認めるでもなく否定するでもなく、そんな態度でした。上司の男はニックよりもずっと高給取りです。

2-0_201705121441112e9.jpg
 そして、それでもニックとカレンは部屋を借りて一緒に住み始めます。
 幸せな日々が続くように見えた、その矢先、ニックの身体に自覚症状のある異変が生じます。
 それは、手のしびれから始まり、徐々に異変は広がり、モノが二重に見える複視、排尿障害、ついに歩行障害に至り、車椅子生活を余儀なくされます。多発性硬化症という難病でした。
 生活の一部であったサッカーは諦めざるを得ません。

 もちろん、その間、専門医へ通い、入院、リハビリをしました。
 カレンは、ニックの闘病を懸命に助けます。診察や検査やリハビリに立ち会い励まし、多発性硬化症の専門書を密かに読み、病床に付っきり、退院後はリハビリのためのランニングでも伴走しました。食事療法も彼に提案します。
 また、ニックのサッカー仲間たちも彼を見舞い見守ります。
 しかし、一時の小康状態はあったものの、病は治りません。車椅子生活です。

 ニックはカレン以上に悩みます。誰でも、難病の診断が下されては、平常心ではいられません。
 ニックは言います。もし、私が難病にならなかったら、お前はとうに私から離れて行ったよね。お前が、今も上司チャーリーと会っていることは、街のうわさで知ってるよ。それに、お前が私のあれこれ全部を仕切っているのに、うんざりだ。

 確かに、カレンは上司とホテルで会っていました。
 また、元ルームメイトのポーラに会った時、ポーラに「もう別れたら」と言われ、「結婚の約束をしたわけじゃないし・・・」ともカレンは言っていました。
 ニックに対する憐れみ(憐憫)の呪縛の中に、カレンはいるのでしょうか。カレンはカレンで葛藤しています。


3-0_2017051214533586d.png ついに、ニックは決断します。この部屋から出て行け!
 ニックは、カレンの服やなにもかもをタンスから出して、すべて放り投げます。
 カレンはニックのアパートの外で、雨の中、じっと立ちすくんでいます。それを窓越しにちらりと見るニック。
 ニックは外に出て、去れと追い打ちを掛けます。
 そしてそれから、どのくらい経ったのでしょうか、カレンはまだアパートの前にいます。またニックは外へよろよろと出て行きました。
 そしてニックは、カレンへ歩みより、カレンに寄りかかるようにして、言った。
 「愛してる」と。そう言ってふたりは抱きしめ合うのでした。



 難病をテーマにした、よく有り勝ちなドラマとは、数段違います。(ことさらに難病を売りにする売り文句はやめましょう。)
 ニックのサッカー仲間のトニーは、以前から誰彼かまわず、きつい冗談を言います。難病になったニックにも、彼の心を理解しないかのような冗談をトニーは言います。
 一方、ニックが振るえる身体で、何とかビリヤードをしているのを見て、親しいサッカー仲間は押し黙り、じっと見詰めます。
 映画は、時折、ニックに同情しません。カレンの浮気もそういう観点から描かれています。
 こういう辛口さが、本作の味でもあります。

下 しかし、映画はギャグも忘れません。映画に何回か挿入されるモノクロシーンは、静止画の連写(フリーズフレーム)手法で、笑いを提供します。
 加えて、各シーンに流れる音楽は、元気の出るソウルミュージック。アメリカのソウルシンガー、ジョー・テックスが、時にボブ・マーリーのレゲエも流れます。重苦しいシーンであっても、明るい活力を呼び起こすスパイスとして、音楽が効果的に使われています。
 地味な映画と言っちゃ、それまでですが、マイケル・ウィンターボトム監督の映画、いいです。
 

オリジナルタイトル:Go Now
監督:マイケル・ウィンターボトム|イギリス|1995年|83分|
脚本:マイケル・ウィンターボトム、ポール・ヘンリー・パウエル、ジミー・マクガヴァーン|
撮影:ダフ・ホブソン|
出演:ニック(ロバート・カーライル)|カレン(ジュリエット・オーブリー)|トニー(ジェームズ・ネスビット)|カレンのルームメイトでトニーと付き合う様になる女性・ポーラ(ソフィー・オコネド)|サミー(バーウィック・ケイラー)|デル(ダレン・タイ)|ジョージ(ショーン・マッケンジー)|ほか

【マイケル・ウィンターボトム監督の映画】
 これまでに記事にした作品から。以下のタイトル名をクリックしてお読みください。

バタフライ・キス」  「ひかりのまち」  「アイ ウォント ユー


5-0_20170512150916ebd.png【 一夜一話の 歩き方 】

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映画 「ブルース・ブラザース」  監督:ジョン・ランディス

上



上4













ツイン・ボーカルのブルース兄弟。弟分エルウッドと、兄貴のジェイク。


 ド派手なカー・アクション付きの喜劇映画です。
 音楽あふれる映画ですが、ミュージカルじゃありません。ミュージシャンが主人公の、ドタバタ・アクション・コメディです。
 さて、お話と音楽、これを分けて紹介して行きましょう。

1-0_201705112256109d5.jpg
 【お話】
 ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)と、エルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)、このブルース兄弟が主人公です。
 兄弟と言っても実の兄弟じゃない、ジェイクの弟分がエルウッド。ともに教会が運営する孤児院で育ったのです。

 ふたりは、かつて仲間と、“ブルース・ブラザース・バンド”という名のバンドを組んで、ファンキーなソウルナンバーを得意として酒場を回り、ライブ演奏して稼いでいました。
 しかしあることでジェイクは監獄へ。そして仮釈放の日、弟分エルウッドが刑務所に迎えに来た。ここから映画は始まります。

 兄弟は、兄ジェイクの出所を報告するため、まずは、孤児院の院長シスターに会いに行きます。
 そこで知った事。それは、教会が資金難で孤児院の税金が払えないでいること。そして数日以内に5000ドルを納税しないと、孤児院は閉院せざるを得ないという緊急事態。
 映画は、この数日間にブルース兄弟が、バンド仲間や、警察、ネオナチ団体、カントリー&ウェスタン・バンド、そして謎の女、果ては軍隊を巻き込んで展開する、慌ただしい波乱万丈を描きます。
 そして、ラスト。何台ものパトカーに追われる兄弟は、市中でのド派手なカーアクションの末、なんとか締切日ギリギリで、5000ドル耳をそろえて税務署へ納税します。え、どうやって5000ドルを? そして結末は?それは観てのお楽しみ。

2-0_201705112318587be.jpg
 【音楽】 
 幼い兄弟に音楽を教えたのは、孤児院の管理人の老人で、兄弟の養父といってもいい、カーティスじいさん(キャブ・キャロウェイ)でした。また、カーティスじいさんはジェイクの出所後も兄弟を心配し、陰で支えます。
 キャブ・キャロウェイ(1907 - 1994)は、1930~1940年代に活躍した著名なジャズのビッグバンド・リーダーで歌手でもありました。
3-0_20170511232211e7e.jpg 映画ラスト近くで、兄弟は5000ドルを一気に稼ぐため、大ホールでワンマンコンサートを開くのですが、二人は警察やらに追われて開演に遅れる。そこで時間稼ぎのため、カーティスじいさんは、ソウルバンドをバックに歌います。貴重なシーンです。
「ミニー・ザ・ムーチャー」という彼が登場し語る、ドキュメンタリー映画(1981年)があるので、気が向いたらそのうち掲載します。

 そのほかに、映画は3人のビッグスターのソウルシンガーを登場させます。
 その1人は、カーティスじいさんが「会って来い」と兄弟に言った、ジェームス牧師(ジェームス・ブラウン)。
 次は、散り散りになっていたバンド仲間を、兄弟が集めて向かった先の楽器店、そこの主人、 レイ・チャールズ。
 3人目は、バンド仲間のひとりが嫁の尻に敷かれて働いている食堂、その嫁で食堂の女主人のアレサ・フランクリン。
 ジェームス・ブラウンは教会内で牧師風ゴスペルを歌い、レイ・チャールズは楽器店内で楽しそうにエレクトリック・ピアノを弾きソウルを歌い、アレサ・フランクリンは食堂内で、旦那に向かって、「私をとるのかバンドをとるのか、どっち!」と怒りながらソウルを歌う。
 
 そしてバンド仲間に、ベースのドナルド・ダック・ダン、ギターのスティーヴ・クロッパーが実名で出演しています。
 このふたりは、かつてブッカー・T&ザ・MG'sというバンドのメンバーで、主にスタジオ・ミュージシャンとして、数多くの著名なソウルシンガーや名プロデューサーと共に、録音スタジオで名曲を作り上げました。
 
 ちなみに、ブルース兄弟のブルースとは、その名がジェイク・ブルースとエルウッド・ブルースだからの、ブルースです。
 確かに1曲、兄弟はステージでブルースを歌いますが、“ブルース・ブラザース・バンド”はソウルバンドです。
 正真正銘なブルースは、有名なブルース・ミュージシャンのジョン・リー・フッカーが登場し、路上で演奏するシーンがありますね。

オリジナルタイトル:The Blues Brothers
監督:ジョン・ランディス|アメリカ|1980年|133分|
脚本:ダン・エイクロイド、ジョン・ランディス|撮影:スティーブン・M・カッツ|
出演:ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)|エルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)|孤児院の管理人カーティスじいさん(キャブ・キャロウェイ)|ジェームス牧師(ジェームス・ブラウン)|レイ楽器店、盲目の店主(レイ・チャールズ)|バンドマンの嫁で食堂の女将(アレサ・フランクリン)|バンドのギター(スティーヴ・クロッパー)|同じくバンドのベース(ドナルド・ダック・ダン)|路上で歌うミュージシャン(ジョン・リー・フッカー)|イリノイ州カルメット市 聖ヘレン養護施設シスター(キャスリーン・フリーマン)|ジェイクを追う謎の女(キャリー・フィッシャー)|ナチ司令官(ヘンリー・ギブソン)|バートン刑事(ジョン・キャンディ)|エルウッドにGSでナンパされる女(ツイッギー)|納税課職員(スティーヴン・スピルバーグ)|聖歌隊メンバーのひとり(チャカ・カーン)?|そのほかのバンドのメンバー6人:マーフィ・ダン、ウィリー・ホール、トム・マローン、ルー・マリーニ、マット“ギター”マーフィ、アラン・ルービン|ほか

【 一夜一話の 歩き方 】
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映画 「ションヤンの酒家 (みせ)」 中国映画 監督:フォ・ジェンチイ

上

1-0_2017050122192760c.jpg
 お話の舞台は、市街地再開発が盛んな頃の、中国の大都市、重慶市です。
 この重慶の片隅にある下町、吉慶街(チーチンジェ)という所は、10数年前に出来た小さな飲食街ですが、店内で調理して、道にテーブルと椅子を出して客をもてなす、昔ながらの雰囲気を残す飲食街です。
 独身で美人の女主人ションヤンは、長年、ここで鴨の首(鴨肉)を「売り」にする、酒家を営んでいます。
 ですが、この吉慶街の一画については、今まで幾度も再開発の噂がありました。そして、また、新たな計画の話が噂され始めました。

 映画は、ともに苦労人の男女のラブストーリーに、この再開発の一件を絡ませます。
 ただし、この映画、登場人物の説明が、いろんな場面のセリフの中でなされるため、字幕を見過ごすと、身分差がある単純な恋愛ものにしか見えないかもしれません。(過去を振り返るなど説明のために挿入するシーンはありません。)

 さて、主人公の女主人ションヤンについての話を始めましょう。
 長年、吉慶街で店を営んでいると言いましたが、それにしてはションヤンは若くみえます。でもたぶん、30代前半でしょう。
 ションヤンは10代の頃、切羽詰まってこの商売を始めたようです。
 彼女の母親は、彼女の弟を産んで他界し、そして父親は愛人が出来て、家を出て行きました。
 ションヤンは生きて行かねばなりませんでした。そのうえ弟のジュウジュウを母親代わりに育てなくてはなりません。彼女は、何ごとも自分のやり方で問題解決する、勝ち気さを身につけて行きました。
 実はこの映画、ションヤンの恋物語以外に、たくさんの事を語りかけます。以下、ションヤンという女性の背景です。

2-0_20170501223714464.png
 ションヤンの弟ジュウジュウが、この2年前から麻薬に手を出してしまいます。ミュージシャンになれなかったからでしょうか。
 中毒症状が激しくなって、ションヤンはジュウジュウを、重慶にある薬物中毒の更生施設に密かに入れました。
 
 ションヤンの店には、住込みの女の子が働いています。アメイといいます。働き者です。ションヤンも頼りにしています。
 アメイはジュウジュウが好きです。でも、この愛は一方通行のようです。まして施設内で禁断症状のジュウジュウは、それどころではありません。ですが、ションヤンはジュウジュウとアメイを一緒にさせようと思っています。
 また、田舎に住むアメイの親が、我が娘をションヤンに預ける時に、「都市の戸籍が欲しい」とションヤンに頼んだことも、彼女は忘れてはいませんでした。

 かつて、ションヤンの父親が家を出た後、父親は住んでいたアパートを人に貸したのですが、その後、今の住人(その甥)は、部屋を明け渡してくれません。ションヤンは、この部屋をジュウジュウとアメイが住む部屋にあてたいと前から考えていました。
 そこでションヤンは、実家のこの権利問題を何とか解決したいと、何度も役所(住宅管理所)に通っては、その所長に相談していました。

 その所長には、ウツ症状の大学生の息子がいることを、ある時ションヤンは知ります。
 実家を取り戻したいションヤンは、所長にうまく取り計らってもらいたいために、彼の息子とアメイを一緒にさせようと画策します。天秤に掛けたのです。
 アメイにジュウジュウをあきらめさせ、同時に実父にも働きかけて、実家はションヤンの名義となりました。
 のちにションヤンは、高層マンションに住まう裕福なアメイを訪問します。(重慶の戸籍を取得しました)

 そして、もうひとつのサイドストーリー。
 ションヤンには、影の薄い兄がいます。株に熱をあげる女房の尻に敷かれています。
 兄夫婦にはトアルという一人っ子がいます。出産時、この女房は母乳が出ず、流産したばかりのションヤンが母親代わり(乳母)をしました。そして今も、ションヤンは小学生のトアルを預かっています。
 これまで、恋多きションヤンですが、どれも長続きしませんでした。そして、まだ若きションヤンですが、弟のジュウジュウとトアルを我が子のように育ててきました。
 なのに、兄嫁はションヤンに辛く当たります。将来、トアルが住むべき部屋を、勝手に名義変更したと。

3-0_201705020846100cd.jpg
  さて、こうした面倒な事の真っ最中に、ションヤンは恋をしました。
 相手は中年の客、卓さん。当初、彼は足しげく店に通って来ては、いつも離れた席から遠目にションヤンを眺めていました。
 彼は高級車に乗っています。ふたりの噂は吉慶街で広まって行きます。
 しかし、実は彼は吉慶街地区の再開発プランを推進する民間側のボスだということが、郊外に出たデートの帰りに発覚します。ションヤンは怒りを抑えることができませんでした。
 さらには、彼はションヤンの今後については、十分面倒見ようと言いますが、結婚する気はありませんでした。
 ションヤンは激しく降る雨の中、卓さんの車を降りて、ひとり立ち去って行きました。
 
 この話、小説という方法ではうまく表現できても、映画にするには難しい題材です。
 映画は、込み入った多くの事を、ていねいに語るには向いてないかもしれません。
 でも、ションヤン役の女優・タオ・ホンを起用し、一点突破したようです。
 ただ、少し残念なのは、ションヤンに対する態度を急変させる卓さんの唐突さ、及びアメイのその後が、十分に描き切れていないこと。

オリジナルタイトル:生活秀
監督:フォ・ジェンチイ|中国|2002年|106分|
原作:チ・リ|脚本:チウ・シー|撮影:スン・ミン|
出演:ションヤン(タオ・ホン)|卓さん(タオ・ザール)|弟ジュウジュウ(パン・ユエミン)|兄(チャン・シーホン)|兄嫁(ウー・ルイシュエ)|兄の息子トアル(リー・ショウチェン)|アメイ(ヤン・イー)|住宅管理所所長(ロ・ドーユァン)|所長の息子(リュウ・ミン)|ションヤンの父(ジャン・ミンショウ)|ションヤンの義母(ズン・メイズウ)|

【 一夜一話の 歩き方 】下1

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映画 「真夏の素肌」 ロシア映画 監督:ニギーナ・サイフルラーエワ

上
手前がセルゲイ、奥がサーシャ、右がオーリャ。オーリャの実父が、このセルゲイ。

 娘と父をテーマにする佳作。一見、青春映画らしい爽やかな表現をとっているが、少々トゲがある。

 モスクワに住むオーリャとサーシャは共に17歳で、卒業間近な女の子。
 このふたりの女の子が、真夏の黒海の海辺で過ごした、数日を描く物語。

1-0_20170428144553f3b.jpg オーリャは父親を知らず、母親と義父に育てられた。サーシャも父親が無くて育った。
 頭はいいがいつも控えめなオーリャ、一方サーシャは特に男性に対して奔放な子、ふたりは親友だが性格は正反対。

 黒海へ行く旅のプランは、実は、オーリャが実の父親に会ってみたい、と言い出したことが発端だった。
 しかし、行くことに決心したものの、初めて会う父親はどんな男なのか、会って何を話せばいいのか、そんなことに悩むオーリャに、サーシャは「ふたりが入れ替わろう」と提案する。つまり、オーリャがサーシャに、サーシャがまだ見ぬ父親の娘に、成りすます。

 そうして、ふたりはオーリャの父親セルゲイを訪ねた。彼は、黒海の海辺に建つ、粗末な一軒家にひとり住んでいた。
 事前に知らせはしたようだが、セルゲイはふたりを拒否するでもなく歓迎するでもなく、黙って家に招き入れ、そしてそれから、この三人の、数日の物語が始まる。

 セルゲイも、娘のオーリャを一度も見たことは無い。
 かつて、黒海のこの地に住むセルゲイと、モスクワから来たオーリャの母親はここで愛が芽生えた。
 しかし、何があったのか、彼女はその後ひとりモスクワへ帰ってしまった。それ以来、セルゲイはオーリャの母親に会っていない。そして母親はモスクワでオーリャを出産したのだった。

 “父と娘の初めての出会い”を演ずるサーシャを、そばで見守るオーリャは、恥ずかしさも不安も無く、父親を客観的に見ることができた。
 片や、父親がいないで育ったサーシャは、セルゲイに父親的な存在感を感じてうれしい、そして、ちょっといい男。
 でも、セルゲイは娘に対して、いい感情を抱けないでいる。露出度の多い蓮っ葉なファッション、村の男キリルに積極的に迫って行く娘。(実はサーシャだが) 

 だが、そんなセルゲイ自身も、若い女性とその一時を楽しんでいることがわかる。
 オーリャは思う。こんな粗野な男をなぜ母親は好きになったのか。おまけに、セルゲイの稼ぎは夜間の密漁のようだ。

2-0_20170428145316252.png そんなこんなを見たオーリャは、実父に嫌悪感を抱き始める。
 「私が実の娘です」と言う気も無くなり、行き詰ったオーリャは自暴自棄に陥る。オーリャはその夜、サーシャが付き合いだしたキリルとドラッグパーティで一夜を明かした。
 そしてまた、その夜は、サーシャがセルゲイや密漁仲間と一緒に漁へ出かけた夜だった。このことがきっかけで、サーシャとセルゲイの距離は縮まった。

 オールナイトのドラッグパーティが終わったその朝、砂浜で下着姿で目を覚ましたオーリャは、実父に(嫌悪感を抱きつつも)涙ながらに、私が娘だと告白の電話をした。
 セルゲイはこれを聞いて、漁から帰ったサーシャを家から追い出した。しかし、サーシャは夜になって密かにセルゲイの納屋に入り込むのであった。

 ラストシーン。オーリャとサーシャが、海の見えるバス停でバスを待っている。
 オーリャは二つ目の告白をサーシャにする。「私、あなたの彼キリルと寝たわ。」
 それを聞いたサーシャは、「そう」と言いながらオーリャに背を向け、海の方を見ながら、ひとりそっと微笑んだ。そう、それは言わぬ方がいい。

 さて、ふたりがやってきた黒海のこの海辺は、ウクライナの東、黒海に突き出たクリミア半島です。
 この映画製作の2014年、この地域はクリミア自治共和国としてロシア連邦に編入されました。ただし、ウクライナ政府およびアメリカ、欧州連合(EU)、そして日本などは、ロシアへの編入を認めていません。

オリジナルタイトル:Kak menya zovut|
英語タイトル:NAME ME
監督:ニギーナ・サイフルラーエワ|ロシア|2014年|91分|
脚本:リュボーフィ・ムリメンコ|ニギーナ・サイフルラーエワ|
出演:サーシャ(アレクサンドラ・ボルティチ)|オーリャ(マリーナ・ヴァシリエヴァ)|セルゲイ(コンスタンチン・ラヴロネンコ)|キリル(キリル・カガノヴィッチ)|スヴェタ(アンナ・コトヴァ)|

【 一夜一話の 歩き方 】下4
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映画 「夢のバスにのって」 ペルー映画  監督:フェルナンド・エスピノーサ、アレハンドロ・レガスピ

上
 3人の右端が、フリアナ。(男の子に成り済ましている)
 路線バスの車中で、歌って、空缶のパーカッションをたたいて、
 乗客から小銭をもらい稼ぐ。


 南アメリカの、ブラジルの西、太平洋に面する国、ペルー共和国の映画です。
 その首都リマの街で、明るく、たくましく、貧しくも、親に頼らず「自立して生きる」子供たちが、主役です。

1-0_20170419150549297.jpg 映画製作の1988年当時、ペルーは大変な経済危機とインフレにさらされていて失業率は60%以上、国は国家破産状態に陥る、1990年を目前にしていました。

 マリの街のスラム街に住む、12歳の女の子フリアナが主人公です。気立てのいい子です。
 彼女の母親は優しいですが、働きもしない継父はフリアナに乱暴です。
 母親は屋台の店を出して稼ぎますが、生活は苦しい。だからフリアナも、近くの大きな墓地で墓の清掃をして稼いでいます。

 フリアナの弟のクラビートは、すでに家を出ていて、近所の建物で暮らしています。
 そこには、クラビートのほかに8人の少年たちが同居しています。リマの街の子もいれば、ジャングルの奥地から来た子もいる。肌の色の黒い子も白い子もその中間の子もいます。

 彼らはリマの街でストリートチルドレンだったところを、ドン・ペドロという男が彼らを救い、そこは窓のない倉庫のような大部屋ですが、子たちに寝る場所と食事を与えています。
 そして、ドン・ペドロは子たちを使って金儲けをしています。街を走る路線バスの車内で、彼らに楽しい歌を歌わせ、乗客から投げ銭をもらう、そんな商売です。
 
 もちろん、ドン・ペドロは胴元としてピンハネをしますが、墓の清掃よりも、いい稼ぎになるのです。
 フリアナは、クラビートを頼って、ドン・ペドロの元で働き始めます。ただし、ここは男の子だけしか雇いません。
 そこでフリアナは髪を短く切って、男の子のような話しぶりで、働きました。
 もちろん、母親と離れて生活しなければならないのは辛かったようです。

 映画はストリートチルドレンすれすれの彼らの様子を、例えば少年たちの団結や仲間割れ、ドン・ペドロに対する反抗などを、明るく描いて行きます。

 ラスト近く、フリアナや弟クラビートをはじめ、ドン・ペドロに反抗したグループの少年たちは、胴元の家を出て、海岸の廃船に住み始めます。フリアナは、女の子の姿に戻っていて、女友達もいて、少年たちの世話役をしています。

 そして、ラスト。
 リマの夜、街を行くバスには、少年たちが乗っています。
 乗客の姿は無く、彼らだけです。車内では、みな歌い踊り、空缶をたたいてリズムをとっています。
 あれは「夢のバス」です。

下オリジナルタイトル:Juliana
監督:フェルナンド・エスピノーサ、アレハンドロ・レガスピ|ペルー共和国|1988年|98分|
脚本:レネ・ウェーバー|撮影:ダニー・ガヴィディア|
出演:フリアナ(ロサ・イザベル・モルフィーノ)|その弟クラビート(エドバル・センテーノ)|ドン・ペドロ(フリオ・ヴェガ)|他
【 ペルーの映画 】
 一夜一話で、これまでにとりあげた作品から。

 「悲しみのミルク」(2009年)
 映画タイトル名をクリックしてお読みください。

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映画 「エリン・ブロコビッチ」  監督:スティーヴン・ソダーバーグ

上


1-0_20170416161214c86.jpg
 この映画は、エリン・ブロコビッチという名の実在の女性の活躍を、実話を基に脚色したドラマです。
 基本、公害訴訟をまじめに扱ったストーリーですが、話は決して重くはありません。巧い作りです。

 エリン役を演ずるジュリア・ロバーツと、老弁護士エド(アルバート・フィニー)との絡みはコミカルですし、隣りに引っ越してきたジョージとエリンとのラブストーリーも楽しめます。かつ、訴訟の推移もラブストーリーもハッピーエンドで終わります。
 そのうえ、当初、八方ふさがりの境遇であったエリン、その彼女の、胸のすくサクセス・ストーリーでもあります。

 さらには、こうした事柄と、片や、6価クロム公害で健康被害に苦しむ多くの原告団をかかえることになった公害訴訟、この両方を巧みにバランスをとって映画化されていて、違和感なく、とてもいい娯楽映画に仕上げています。

 高卒のエリンは美人ですが、2回の離婚、3人の子持ちのシングルマザー、おまけに職が見つからない。(実在のエリンは大卒)
 職探しに奔走している最中に、エリンは交通事故にあい、弁護士エドと出会う。
 被害者であるエリンですが、彼女の蓮っ葉な身なり、品の無い言動(しかし直言!)が、陪審員たちには印象悪く作用して、エリンは賠償金をもらい損ねます。

 その後も職が見つからず生活に窮したエリンは、強引にもエドの弁護士事務所に入り込んで居座り、勝手に事務の仕事を始めます。人の好いエドは、ついにエリンを許し、彼女を雇うこととなる。物語は、ここから始まります。

 ある日、事務所で書類整理をしていたエリンは、公害の実態を知るきっかけをつかみます。そして、彼女独自の現地調査を経て、エドと共に実態解明に奔走することになります。

 こうしてエリンとエドは、1993年にカリフォルニア州の大手企業PG&Eを相手取って訴訟を起こし、3億3300万ドルの和解金を勝ち取ることになります。この金額は、アメリカ史上最高額の和解金でした。
 その後も、エリンはエドの弁護士事務所で働くこととなり、破格の金額のボーナスももらえることになります。そして、ジョージとの関係も回復してハッピーエンドでお話は終わります。

オリジナルタイトル:Erin Brockovich
監督:スティーヴン・ソダーバーグ|アメリカ|2000年|131分|
脚本:スザンナ・グラント|撮影:エド・ラッハマン|
出演:エリン・ブロコビッチ(ジュリア・ロバーツ)|エドワード・L・マスリー(アルバート・フィニー)|ジョージ(アーロン・エッカート)|ドナ・ジェンセン(マージ・ヘルゲンバーカー)|チャールズ・エンブリー(トレイシー・ウォルター)|カート・ポッター(ピーター・コヨーテ)|パメラ・ダンカン(チェリー・ジョーンズ)|

【スティーヴン・ソダーバーグ監督の映画】
 一夜一話でこれまでに取り上げた作品から。(タイトル名をクリックしてお読みください)
 「Bubble/バブル」  「フル・フロンタル」  「ガールフレンド・エクスペリエンス

下
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映画 「あの子を探して」  監督:チャン・イーモウ

上

1-0_20170413152946032.jpg

 中国河北省の田舎、チェンニンパという村にある、先生ひとり教室ひとつの小さな小さな小学校がお話の舞台。
 起承転結がしっかりしていて、結はハッピーエンドで、良く出来たお話です。

 ですが、シーンを感動的印象的にするため、話を少々誇張しています。よって、写実的(リアル)なお話というよりも、現代のおとぎ話として観ると、ちょうどいいでしょう。
 とは言え、素人の子たちを生徒に仕立てた教室のシーンは、自然で、とてもいきいきとしていて、リアルで、この映画の要であり、見どころです。

 そして、主役の、13歳の代理先生役のウェイ・ミンジも、素人俳優。
 大胆な起用ですね。演技や表情の起伏がみてとれないウェイ・ミンジ、観てのとおりですが、話が進むにつれて徐々に、代理先生という役柄に魂が入り、物語の中でいきいきと立ち現れる。観終わったころには、ウェイ・ミンジは素晴らしい主人公だと思うことでしょう。これが、この映画、一番の見どころです。

 村の学校には、大ベテランのカオ先生がいましたが、家庭の事情で一カ月間、村を離れることとなった。
 そこでチャン村長は、その間、先生の代理になれる人を探して、村や近隣のあちこちを巡った末に、やっと、13歳のウェイ・ミンジを見つけ出した。(教職免許など気にしていない)
 カオ先生は、こんな子供のウェイ・ミンジに教室を任せられないと、村長に言うが、村長は無理と思いながらもウェイ・ミンジを推した。なぜなら、このところ、学校から生徒が退学して生徒数が減っているのだ。村長はこの流れを止めたい。先生が不在になれば、さらに生徒が辞めていくかもしれない。カオ先生は仕方なく、ウェイ・ミンジに教室を任せることにした。

 とは言え、ウェイ・ミンジに何を教えられるのだろう。カオ先生はウェイ・ミンジにこう言った。この教科書のこのページを黒板に板書しなさい、そして、それをノート(紙の束)に写させなさい。
 ウェイ・ミンジは、この仕事を50元で請け負っていた。そしてもし、一カ月の間に、生徒が減らなかったなら、さらに10元だそうと言われた。
 ところが、学校一のわんぱくホエクーがある日から姿を消した。ウェイ・ミンジが彼の家を訪ねると、家は母子家庭で母親は病になっていた。ホエクーは町へ出稼ぎに行ったのだった。
 さて、ここから物語は大きく動き出す。13歳のウェイ・ミンジは、どう行動するのだろうか ・・・。それは観てのお楽しみ。
 「あの子を探して」のあの子は、ホエクーです。

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オリジナルタイトル:一個都不能少 Not One Less
監督:チャン・イーモウ|中国|1999年|106分|
原作・脚本:シー・シアンション|撮影:ホウ・ヨン|
出演:代理の先生ウェイ・ミンジ:魏敏芝(ウェイ・ミンジ)|カオ先生:高恩満(カオ・エンマン)|生徒ホエクー:張慧科(チャン・ホエクー)|チャン村長:田正達(チャン・ジェンダ)|ほか

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映画 「チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢」 監督:マルジャン・サトラピ , バンサン・パロノー

上

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 ノスタルジックな大人のおとぎ話。たまにはこういう映画もいいでしょう。
 原作がコミックなので、ところどころアニメーションが入るが、違和感なし。ほんわかした雰囲気を盛り上げます。
 また、時々、コミカルになります。お楽しみください。

 1958年のテヘランから、お話は始まる。
 ヴァイオリニストを目指すナセル・アリ(マチュー・アマルリック)は、テクニックはあるが、演奏する音楽に魂が込められず、大きな壁に突き当たっていた。
 そんなある日、ナセル・アリは素晴らしい女性イラーヌを知った。いつしか、ふたりは愛を誓い合うようになり、イラーヌの父親に結婚の許しを乞うこととなった。しかし、父親はがんとして結婚を許さなかった。生活が不安定な芸術家に娘はやれないと。仕方なく、ふたりは別れた。

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 しかし、皮肉なことにイラーヌへの思いが、ナセル・アリの演奏を素晴らしいものに仕立て上げた。ヴァイオリンの師匠は彼を完璧だとほめた。そして師匠の師匠から伝授されて来たヴァイオリンの名器を、ナセル・アリは譲り受けた。

 その後、ナセル・アリは世に認められるヴァイオリニストとなり、コンサートで世界中を駆け巡った。40歳過ぎても彼は独身であった。イラーヌを忘れることができなかったのだ。

 だがついに、ナセル・アリの独身にピリオドが打たれることになった。、母親の強い勧めで、ナセル・アリは仕方なく、ファランギースという数学の教師と結婚することとなった。愛無き結婚であった。子どもは二人生まれたが、夫婦に愛は育たなかった。
 その日、夫婦げんかのさ中、妻は激怒して名器のヴァイオリンを床にたたきつけた。名器は修復不可能なくらいに哀れな姿となってしまう。

 自身の分身であった名器を失ったナセル・アリは、これと替わる優れたヴァイオリンを探し求めたが、分身となり得る楽器は見つからなかった。そして、彼は緩慢な自殺を試みる。8日目には、死の天使アズラエルが彼のベッドサイドに現れる。
 その一日目から死までの8日間、ベッドに横たわるナセル・アリのこれまでを、彼の走馬灯のような回想で綴るのが、実はこの映画のストーリー。

 よって現在のシーンと、様々な時点での過去シーンが「語りにあわせて」入れ替りに立ち現れる。このことや、アニメの挿入や、時々ファンタジックな味付けがあったり、時にコミカルであったり、と、総じて何か一貫性を、もし感じえなかったとしたら、本作は散漫な作品と思うでしょう。
 フランス映画「アメリ」に出てくる八百屋のあるじに虐められる、知的障害のある小僧役であった俳優ジャメル・ドゥブーズが、本作で骨董屋と物乞いの二役で登場し、味のある演技を見せます。

オリジナルタイトル:Poulet aux prunes|
監督:マルジャン・サトラピ、バンサン・パロノー|フランス・ドイツ・ベルギー|2011年|92分|
原作:マルジャン・サトラピ - コミック作品『鶏のプラム煮』|脚本:マルジャン・サトラピ,バンサン・パロノー|
撮影:クリストフ・ボーカルヌ|
出演:ナセル・アリ(マチュー・アマルリック)|死の天使アズラエル/ナレーション(エドゥアール・ベール)|ナセル・アリの妻ファランギース( マリア・デ・メデイロス)|ナセル・アリのかつての恋人イラーヌ(ゴルシフテ・ファラハニ)|ナセル・アリの弟アブディ(エリック・カラヴァカ)|ナセル・アリの娘リリ(キアラ・マストロヤンニ)|バイオリンの師匠(ディディエ・フラマン)|イラーヌの父・時計屋(セルジュ・アヴェディキアン)|弟アブディの妻(ローナ・ハートナー)|古物商フーシャング/物乞い(ジャメル・ドゥブーズ)|ナセル・アリの母親パルヴィーン(イザベラ・ロッセリーニ)|

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映画 「甘い生活」  監督:フェデリコ・フェリーニ

上

上2


 この映画は「フェデリコ・フェリーニの代表作なんだから」なんて思って、固く構えて観てはいけません。
 何しろ、素晴らしい映像です。これを楽しみましょう。

 ただし、話の筋はほとんど無く、様々なシーンが取っ散らかった状態です。つまり、ストーリー展開で物語ることを放棄しています。
 映画でこういうことをやること自体が、60年近く前の当時、とても斬新でかっこ良かったのでしょう。
 よって、映画が与えてくれる物語に、心地良く揺られることを期待するなら、この映画は難解な作品と言っていいでしょう。

 映像が素晴らしいと思うのは、シーンのある一瞬を切り取ると、それがそのまま、一枚の優れた写真作品になる位のクオリティが、映画のあちこちにあるからなのです。(これって案外、そうあることでは無いです)

1-0_201704011428535ce.png
 つまり具体的には、俳優たちのそれぞれの向き・身振り・人物群配置の計算や、会員制キャバレー・地下室・トレヴィの泉・病院・古城など映画の舞台装置のバリエーションある選択や、郊外の新築アパート群・道路・海辺などの野外ロケ地選択の、そうした演出の総体と、それらの画面の構図の組み立てが、何でもないようでいて、実は緻密になされている。

 加えて例えば、カメラを構えてばらばらと走るパパラッチ軍団の荒っぽい突撃や、トレヴィの泉に入っちゃうシーンや、ものすごい数のエキストラの登場や、聖母マリア出現の地の広く開けたシーン、そして極めつけが突然の豪雨が、ともすれば、緻密に組み上げたからこそ、静的になりがちな映像に、動きと驚きのドラマ効果を与えている。

3-0_201704011434076d2.png
 そしてさらに観ると、その演出・構図に、二通りある。
 そのひとつは例えば、多くの人物がいるキャバレー店内シーンなどの屋内シーンや、トレヴィの泉の周りのパーティなど比較的狭い範囲で撮影するシーンに注目してみると、俳優たちはてんでに動いているようだが、その動きが前もって計算されていて、なるほど、いい構図(絵)になっている。(そう見える)
 もうひとつは、病院ロビーや聖母マリア出現の地やラストの海辺など、開けた画角と遠近のあるシーンでは、大きなステージ上で展開される「舞台演劇演出」の手法が駆使されて、俳優達の、うまい具合な構図配置がなされている。
 素晴らしい映像です。楽しみましょう。

 あと、登場人物にも注目したい。
 過去の栄光にすがる年配の貴族たち、その空気に反発するも退廃的にしか振る舞えない若い貴族。
 そんな貴族だけれども、彼らの特権・財産である「上流階級」、そこへ加わった新興ビジネスの富裕層。
 そんなイタリアに来て、売れっ子美人女優という華やかな風を送り込む米国映画芸能界。
 そんな上流階級や映画女優のスキャンダルを狙う、芸能記者とパパラッチ軍団という庶民。
 そんな騒がしいローマとはまったく無縁の庶民が、ローマの娼婦であり、郊外に住む貧しい庶民は救いを求めて聖母マリア出現の地に集う。
 
 これまでに記事にしたフェリーニの作品は、1963年製作の「8 1/2」です。こちらから、お読みください。

オリジナルタイトル:La Dolce Vita
監督:フェデリコ・フェリーニ|イタリア|1960年|174分|
原案:フェデリコ・フェリーニ、トゥリオ・ピネリ、エンニオ・フライアーノ|
脚色:フェデリコ・フェリーニ、エンニオ・フライアーノ、トゥリオ・ピネリ、ブルネロ・ロンディ|
撮影:オテロ・マルテリ|音楽:ニーノ・ロータ|
出演:マルチェロ・マストロヤンニ(マルチェロ)|アニタ・エクバーグ(シルヴィア)|アヌーク・エーメ(マダレーナ)|アラン・キュニー(ステイナー)|イヴォンヌ・フルノー(エマ)|マガリ・ノエル(ファニー)|レックス・バーカー(ロバート)|ジャック・セルナス(セルナス)|ウォルター・サンテッソ(パパラッツォ)|ニコ(ニコ)|


【 一夜一話の 歩き方 】4-0_20170401153331773.png

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映画 「トレヴィの泉で二度目の恋を」  監督:マイケル・ラドフォード

上2



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 老人の恋というテーマのこの映画は、お若い方には敬遠されるだろうけど、1934年生まれの女優シャーリー・マクレーン演ずるエルサの恋は、瑞々しい。
 一方、 エルサのお相手、1929年生まれの俳優クリストファー・プラマー演ずるフレッドは、最近妻を亡くし、住み慣れた家からエルサが住むアパートの隣室に越してきた。この喜劇は、ここらへんから始まります。

 仮に、同じ脚本を日本の俳優が演じたら、たぶん、誰が演じても、観てられないかもしれない。

 エルサとフレッドの二人だけで、話は推し進められるのですが、二人の息子・娘や孫を登場させて、エルサとフレッドの人柄を描きます。
 また映画は、エルサの長男と、フレッドの娘の旦那を対比させて、ほんの少し、2014年のアメリカ社会を描きます。
 なお、女優シャーリー・マクレーン26歳の時の主演映画「アパートの鍵貸します」(監督:ビリー・ワイルダー)の記事はこちらから、どうぞ。

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オリジナルタイトル:ELSA&FRED
監督:マイケル・ラドフォード|アメリカ、フランス|2014年|97分|
脚本:マイケル・ラドフォード、アンナ・パヴィニャーノ|撮影:マイケル・マクドノー|
出演:エルサ・ヘイズ(シャーリー・マクレーン)|フレッド・バークロフト(クリストファー・プラマー)|フレッドの娘リディア・バークロフト(マーシャ・ゲイ・ハーデン)|ジャック(クリス・ノス)|フレッドの孫Michael(ジャレッド・ギルマン)|レイモンド・ヘイズ(スコット・バクラ)|ジョン(ジョージ・シーガル)|マックス・ヘイズ(ジェームズ・ブローリン)|アレック・ヘイズ(レグ・ロジャース)|水道修理位の男アルマンド(ウェンデル・ピアース)|


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映画 「第三の男」  映画音楽に魅せられて  監督:キャロル・リード

上

 ご存じ、有名な英国サスペンスドラマ「第三の男」。舞台となるのは、1949年のオーストリアの都市ウィーン。

1-0_20170312161622d88.jpg 映画は観る者を焦らせます。話が進む中、事態は少しずつ見えては来るのですが、依然としてその先が謎に包まれたままの、モドカシイ前半。
 そして後半、その見えてきたはずの事態が、死んだはずのハリー(オーソン・ウェルズ)の出現によって、一気に崩れ去り、話が大きく展開する、その面白さが見どころです。
 かつ、注目のシーンは、ハリーを探す親友ホリー(ジョゼフ・コットン)の前に、闇の中から忽然と浮かび上がる、ハリーの何とも言えぬ不敵な表情。これがこの映画の要ですね。
 そして、ウィーンの街の下にある巨大な大下水渠のシーンは、観る者の心をとりこにして、物語後半の展開を加速させています。

 さて、アントン・カラス作曲・演奏のテーマ曲。いいですね。
 物悲しいようでダンサブルな曲です。

オリジナルタイトル:The Third Man
監督:キャロル・リード|イギリス|1949年|104分|
原作・脚色 グレアム・グリーン|撮影:ロバート・クラスカー|作曲・演奏:アントン・カラス|
出演:ホリー・マーチンス(ジョゼフ・コットン)|アンナ・シュミット(アリダ・ヴァリ)|“第三の男”ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)|キャロウェイ少佐(トレヴァー・ハワード)|ペイン軍曹(バーナード・リー)|門衛(パウル・ヘルビガー)|クルツ男爵(エルンスト・ドイッチュ)|ポペスク(ジークフリート・ブロイアー )|ビンケル医師(エリッヒ・ポント)|クラビン(ウィルフリッド・ハイド=ホワイト)|

【 映画音楽に魅せられて 】
 これまでに取り上げた映画です。
 タイトルをクリックして過去記事をお読みください。

 「オズの魔法使」 「三文オペラ」 

 「死刑台のエレベーター」 「風の又三郎

 「リオ、アイラブユー」 「110番街交差点


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映画 「卵の番人」  ノルウェー映画  監督:ベント・ハーメル

上1

 とてもゆっくりしたテンポの話です。ほのぼのしていて、しかし、奥深い所に苦く鋭いトゲがある。

 ノルウェーの片田舎に、仲睦まじく住む、年老いた兄弟、ファーとモーのふたりがおりました。
1-0_201703101408215a8.png 人里離れた彼らの一軒家は、なだらかな丘を背にぽつんと建っています。近所に人家は見当たりません。雪が積もれば、辺りはは白一色の静寂の世界です。
 ただ、人里離れたとはいえ、地域の幹線道路が家の近くを通っていて、冬には除雪トラックが走りますし、疎らに住む住民たちは、このトラックをまるで乗り合いバスのように利用しています。

 ファーとモーは一年中、家から外出しません。車も持っていませんし町に出ようとも思いません。
 孤独な生活のようにみえますが、彼らは不自由とも思ってませんし不満もありません。
 ふたりの日々は簡素です。自分たちがつくる簡単な食事とコーヒー、石炭ストーブとラジオ、カード遊びとパイプとクロスワードパズル、それだけです。それで十分幸せと思っています。
 外部との接点は、電話、食料配達の男達、ハウスクリーニングの若い女性くらい。

 ある日、珍しく電話が鳴りました。それは兄のファー宛の電話でした。
 電話で連絡してきた事は、ファーがかつて、隣国スウェーデンにいた時に結ばれた女性が重病になったという知らせでした。そして、ついては息子のコンラードの世話をして欲しいということでした。
 ファーに子供がいたのです。このことは弟のモーも知っていたことなので、ふたりはコンラードを受け入れます。

 この時から、ファーとモーのふたりだけの生活リズムに、変化が見え始めるのでした。
 コンラードは車椅子の生活です。年は二十歳代でしょうか。一日中、押し黙っていて話しません。時折、クーとかカーとか鳥のような声を出すだけです。何か障害があるようにも見えます。食事はバナナミルクセーキしか受け付けません。世話は父親であるファーがやります。

 そんな日々が続くある日、モーは旅支度をし、納屋からバイクを静かに押して、密かに寝静まった家を抜け出しました。
 街道に出たところで運よく、除雪トラックが来て、モーはトラックの運転席に乗り込みます。
 除雪トラックは、夜明け前の、わずかに明るい一本道をスピードを上げて走り去って行きました。

 モーが家を出て行く様子を家からじっと見ている人影が見えました。それはコンラードでした。
 映画はコンラードをカッコウのヒナに例えています。カッコウは他種の鳥の巣に卵を産み付けますね。(托卵)
 産み付けられた鳥の親は、カッコウの卵と自分の卵と一緒に育てますが、孵化すると、カッコウのヒナは他のヒナを巣から蹴落とします。モーはコンラードによって追い出されたのです。
 ただし、モーは遅まきながら、自分の青春を始めたのかもしれません。
 それは兄の(スウェーデンでの)青春を目の当たりにして、触発されたのかもしれませんね。

下3オリジナルタイトル:Eggs
監督・脚本:ベント・ハーメル|ノルウェー|1995年|86分|
撮影 エリック・ポッペ|
出演:弟モー(スヴェレ・ハンセン)|兄ファー(ヒュルストルモーン)|ファーの息子コンラード(レイフ・アンドレ)|ほか
【 ベント・ハーメル監督の映画 】
これまでに一夜一話で取り上げた作品から。
タイトルをクリックして記事をお読みください。

キッチン・ストーリー」  「ホルテンさんのはじめての冒険


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映画 「GUMMO ガンモ」  監督:ハーモニー・コリン

上

  巨大な竜巻被害にあった地域に住む子供たちを、ドキュメンタリータッチで描く映画。刺激的です。
 場所はアメリカのオハイオ州にある小さな町。 
 なにしろ被害は甚大で、竜巻に巻き上げられた人間や家や地上にあるモノすべては、ものすごい速度で上空高く舞いあがり落下した。
1-0_20170304192143903.jpg 人々は、身体がちぎれた家族の遺体に直面し、家屋や車は壊され、犬は電柱の上で死んでいた。(映画の冒頭で示される)
 加えて竜巻で破壊されたのは、人の精神と善悪の感覚と向上心だった。徹底的に崩れた。
 まるで第三次世界大戦が起きたあとの、荒廃した世界を描くSF映画のような世界だ。
 ただし、竜巻被害の範囲はハリケーンのように広範囲ではなく局地的。竜巻が通過した所だけだ。よって、まわりの世間一般は、何の被害も無く、世の中は平常だ。それだけに、被災地域は妙に孤立している。(映画はここを舞台とする)

 さらに追い打ちをかけたのは、ここに住む住人の生活レベルがもともと低いことから、金銭的な立ち直りが出来ない事、また水道などライフラインの復旧も十分には進んでいないようだ。
 人々は壊れた家に住んでいる。家の中は、片づけをする意欲もなく、ゴミ屋敷のようになった家もある。大人は働くことをせず、怠惰な日々、子供は通学もせず毎日遊んでいる。被災者たちに明日は見えない。

 映画は、これらの状況(物語の設定)によって、健全な社会通念、つまり「良い子ちゃん」市民と言う束縛から、人々の精神が「もし」解放されたとしたら、人はどんな行動をとるのだろうか、それを子供達の行動を中心にして描いて見せている。
 社会通念的に言っちゃいけない事、やっちゃいけない事が、これでもかと出てくる。それがどんなことかは、観てください。

 これに加えて映画は、身体障害や精神障害の人も登場させている。つまり本作は、映画製作にあたっての、言っちゃいけない事、やっちゃいけない事を、気にしないで製作すると、どんな映画になるかに、敢えて挑戦しているとも言える。

 本作を観てすぐ思い浮かべたのは、アレクセイ・ゲルマン監督のロシア映画「神々のたそがれ」。本作と通底している。
 物語に身を任せる映画の対極にある映画です。

オリジナルタイトル:Gummo
監督・脚本:ハーモニー・コリン|アメリカ|1997年|89分|
撮影:ジャン・イヴ・エスコフィエ|
出演:ソロモン(ジェイコブ・レイノルズ)|タムラー(ニック・サットン)|バニーボーイ(ジェイコブ・シーウェル)|ドット(クロエ・セヴィニー)|ソロモンの母(リンダ・マンズ)|Helen(キャリサ・グラックスマン)|Darby(ダービー・ドグハーティー)|Cole(マックス・パーリッチ)|

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映画 「ブロンドの恋」   監督:ミロス・フォアマン

上0

 地味ですが、なかなかいい喜劇映画です。
 とは言え、ストーリーというほどのストーリーは無いですし、喜劇というほどの喜劇性もあまり無く、あっさりしたドラマです。
 でも、いいのです。映画全体からじんわりと、何とも言えぬ可笑しさが伝わってきます。監督の魔術でしょう。
1-0_201702282100569dc.jpg 中年兵士3人の、何ともモドカシイ、若い女性3人への「誘い」の駆け引きと、その女の子達のひとり、アンドゥラの恋の冒険という2話構成の話。アンドゥラは右のこの娘 。

 たくさんの人が集う広いダンスパーティ会場。ステージには楽団もいて華やか。 
 ただし会場にいる人々は、工場の女性従業員と軍隊の予備兵の、このふたつの団体だけ。
 実はこれ、軍の協力を得て、製靴工場が考え出した苦肉の作のダンスパーティーだったのです。

 田舎の小さな町にある、この製靴工場には2000人もの女性従業員が勤めている。多くは寮生活をしている。
 町は小さく店もなく、かつこの地に住む男性はほんの少し、だから女性従業員の日常は味気ない。
 工場側は、これでは従業員の元気も出ない、工場を辞めてプラハなどの都会へ行ってしまう、なんとかしなきゃと悩んでいた。

 そこで工場は軍と相談して、予備兵を一時この地に駐屯させて、町の男性人口を増やすことにしたわけ。
 予備兵は、おおかた中年で妻帯者、だから兵士と愛が芽生えて工場を辞めると言い出す女性従業員も少ないだろう。

2-0_20170228211056d5f.jpg さて、その夜、開催されたダンスパーティでは、多くの男女が楽しげに踊っている。工場側の作戦は大成功。
 しかし、女性従業員アンドゥラとその友人の3人は、3人とも、「中年男ばっかりジャン」と、むっつりしてテーブルにいた。

 一方、そこから離れたテーブルには、中年兵士3人が、アンドゥラ達に目星をつけている。(ここからのシーンが笑える面白い見どころ)
 兵士たちはまず、彼女たちのテーブルへワインのボトル1本をウェイターに届けさせ、そのあと、誰が彼女たちの所へ行き、突破口を開くかの相談をしている。そして、呑みが終われば近くの森へ誘おう。
 おじさん兵士3人は、基本、乗り気なのだが、ぎこちなく腰が引けていて話がまとまらない。帰ると言い出すのもいる。

 やっとひとりが彼女達の所へ行って話をつけ、おじさん達と女の子達との輪ができる。そして、パーティーが終わる頃、今度は女の子達が女子トイレへ行ってヒソヒソ相談。
 結局、おじさん達は待ちぼうけを食ったに終わる。彼女達は女子寮へ引き上げる。

3-0_2017022822010950a.jpg ただし、アンドゥラだけはホールの2階へ。(ここから第2話が始まる)
 3人そろってトイレへ相談しに行く途中、アンドゥラは楽団の若いピアノ弾きと出会ったのだ。彼女は、彼の誘いに乗って、彼が宿泊している部屋へ行く。
 数日経って、アンドゥラはスーツケースにいっぱい詰め込んで、ピアノ弾きが住むプラハへ旅立った。
 その夜、アンドゥラは彼の実家に到着したが、彼はいない。彼はプラハのどこかで、女の子とデート中。まさかアンドゥラが訪ねて来るとは彼はまったく予期していない。
 結局、アンドゥラは彼の両親に招かれ家に入るが、親はアンドゥラのことなど何も聞いていない。(ここからが第2の見どころ)
 この娘は何?、大きなカバンを抱えてと、彼女をいぶかる母親と、寛容的な態度の父親。そのうち、一人息子をめぐって親同士の言い争いになる。
 夜更け、口紅の跡を拭きながら彼が帰って来て、驚く。アンドゥラが自分のベッドに寝ている。そのベッドに潜り込もうとする彼を制するのは母親。こっちで寝なさいと、親子3人川の字になって朝となる。
 アンドゥラは寮へ帰り、相部屋の同僚たちに、プラハの恋の冒険を、創作交えてちょっと自慢げに話するのでした。
 

オリジナルタイトル:LASKY JEDNE PLAVOVLASKY
英語タイトル:THE LOVES OF A BLONDE
監督:ミロス・フォアマン|チェコスロヴァキア|1965年|88分|
脚本:ミロス・フォアマン、ヤロスラフ・パプーシェク、イヴァン・パッサー、ヴァツラフ・シャシェク|
撮影:ミロスラフ・オンドリチェク|
出演:アンドゥラ Andula(ハナ・ブレイショーヴァ)|Milda(ウラジミール・プショルト)|Vacovský(ウラジミール・メンシーク)|ほか

4-0【 ミロス・フォアマン監督の映画 】
一夜一話で、これまでに記事にした映画から2作です。
タイトル名をクリックして、お読みください。

 「カッコーの巣の上で

 「火事だよ!カワイ子ちゃん


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映画 「タクシードライバー」   監督:マーティン・スコセッシ

上

 話の舞台はニューヨーク、マンハッタン。
1-00_20170224184413844.jpg 1973年に海兵隊を除隊して3年が経つ、トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)という26歳の孤独な男の話。

 重度の不眠症に悩む、無職のトラヴィスは部屋にいても仕方がなくて、夜間夜通し、街を歩いたり地下鉄やバスに乗って、ひたすら時間をつぶしていた。そうしてトラヴィスは、深夜の街、ニューヨークの裏側の醜さを、いらだたしく感じ取っていた。
 「夜の街は、売春婦、街娼、ヤクザ、ホモ、オカマ、麻薬売人といった人間のクズが歩き回っている。奴らを根こそぎ洗い流す雨は、いつ降るんだ。」トラヴィスはそう思い続けている。

 ある日トラヴィスは、食うためにタクシー運転手になった。勤務は夕方6時から朝の6時まで、休日は週一。
 タクシーのフロントガラス越しのネオンや、窓からの風や街の匂いに、トラヴィスの塞ぐ心は、少しは癒やされ静かに開放されるようだ。
 一方、深夜、街を流していれば、否が応にも売春婦やらが目に付くし、男が売春婦を同伴し騒ぎながらタクシーに乗り込んでくる。
 そんな毎日のなかで、トラヴィスの妄想は膨らんで行く。この先いつまでもタクシー運転手じゃだめだ、何かしてみたい。   

 ある夜、次期大統領候補の議員が偶然にも彼のタクシーに乗って来た。その時トラヴィスが知ったことは、社会階層の高みで世直ししようとする特権階級がいること、そしてその大統領候補はトラヴィスが考えるニューヨークの夜の街の浄化に無関心であったこと。
 つぎに、トラヴィスの心のどこかを動かすことになったもうひとつのことは、その大統領候補の選挙事務所にいる女性に恋したことだった。しかし、彼女はトラヴィスが住む世界とは違い過ぎた。

2-0_20170224184746e21.jpg それからのトラヴィスは、より深く考え始める。
 「俺の人生に必要なのは、きっかけだ。自分の殻だけに閉じこもり一生過ごすのはバカげている。」
 トラヴィスの妄想は、社会に対しての正義、世直しへと進んで行く。

 だが、彼に社会的地位も力もない、また世に認められる正義の思想や活動も持たないトラヴィスにとって、自身の正義をひとり貫くには、世間より、クズの相手より、優位な高みにいなければならない。
 トラヴィスは銃を手にし射撃訓練をはじめる。肉体も鍛えた。いつしか、トラヴィスは鏡の前で英雄になって行く。
 その結果、手ごたえがあった。行きつけの店が強盗にあっている場に居合せたトラヴィスは、その黒人青年を射殺。店のあるじは喜んだ。頭をモヒカン刈りにして大統領候補の街頭演説に出向いたが、ボディーガードに疑われてうまく行かなかった。

 そして、「俺の人生に必要なのは、きっかけだ。」と言う、そのきっかけになったのが、ひとりの娼婦だった。
 その娘はアイリス、まだ少女だ。それを知ったトラヴィスは、アイリスと話し、その稼業から救うと誓った。
 そののちトラヴィスは売春婦宿に押し入り、撃たれはしたが、ポン引きの男(ハーヴェイ・カイテル)やボスら3名を射殺した。

 後日、この事件はマスコミにとりあげられ、トラヴィスの正義と、アイリスの両親の感謝の言葉は、広く知れ渡ることとなった。
3-0_2017022418525549a.png しかし当のトラヴィスは、舞い上がることもなく、また淡々と、無数の無名のタクシードライバー達の中に戻って行った。
 ただし、ひとつ、トラヴィスは夢想した。それは、彼が一度は恋した選挙事務所の女性を、タクシーに乗せ彼女の家まで送る情景だった。

 公開から40年以上経ったこの映画をいま観て思うこと。
 ニューヨークの怖さや荒みを、当時、我々は今日思う以上に感じていて、この映画が描く世界をとてもすさんだ世界と思っていた。
 だから、トラヴィスをアクション映画のヒーローとして観る人がいたのかもしれない。
 でもいま観て思うに、この映画、案外、繊細な映画ですね。

オリジナルタイトル:Taxi Driver
監督:マーティン・スコセッシ|アメリカ|1976年|114分|
脚本:ポール・シュレイダー|台詞:ケイ・チャピン|撮影:マイケル・チャップマン|
出演:トラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)|選挙事務所の女ベッツィー(シビル・シェパード)|娼婦のアイリス(ジョディ・フォスター)|ポン引きのスポーツ(ハーヴェイ・カイテル)|ウィザード(ピーター・ボイル)|トム(アルバート・ブルックス)|大統領候補のパランタイン上院議員(レナード・ハリス)|タクシー会社の受付(ジョー・スピネル)|ポルノ映画館の売店の女(ダイアン・アボット)|銃のセールスマン(スティーヴン・プリンス)|ほか

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映画 「ガールフレンド・エクスペリエンス」   監督:スティーヴン・ソダーバーグ

上




1-0_20170222115445fa4.jpg








 話の舞台は、ニューヨーク、マンハッタン。
 二十歳そこそこの若い女性チェルシーは、マンハッタンで一二を争う最高級のデリヘル嬢。
 電話で依頼主の自宅や宿泊先ホテルへ呼び出されて売春に応じる出張ヘルス。

 何が最高級かと言えば、1時間2,000ドル。(20万~22万円くらい)
 レストランやバーで、あたかも彼女と、のようにデートする時間や、そのあとの一晩、朝までの時間、その合計が8時間とすれば、16,000ドル、ざっと160~180万円くらい。現金決済。封筒の中には、いつも分厚い札束。
 客層は、当然、ウォール街のビジネスエリートや、個人でなにやら金儲けしている連中。映画では30~40代くらいの男が多い。
 自宅に呼ばれる場合、その自宅とはマンハッタンの高級マンション、客は一人住まいだ。

 チェルシーは、客の居る場所へ運転手つきの高級車で出かける。
 売春斡旋組織に属さず、フリーでやっている。ウェブ上に自身のサイトを公開し、宣伝に抜かりはない。彼女はビジネスをしている。
 空いた時間は、高級ブティックで服や靴や下着を買う。隙のないファッションに身を包む。 
 そんなチェルシーが気を許せる相手は、一緒に暮らして2年足らずの彼氏クリスと、一人の女友達。

 この映画、チェルシーとその行動に注目しがちだが、実はもうひとつの側面も描いている。
 それは、マンハッタンのビジネスエリートな男たちの、ありのままの生態だ。チェルシーという鏡に映しだされる男たち。
 なかには疲れた風の男がいる、仕事の話を一方的に語る男がいる。そんな彼らはチェルシーと会って精神的な安定を得る。映画は、彼らに対して、少々、憐れみや愚かさを感じている。

 本作の語り口はドキュメンタリーっぽい。物語性はあまりない。5日間のチェルシーの行動を追うかたち。
 あるシーンの途中に他のシーンが挿入される、交互にシーンが入れ替わる、そんなシーン操作(インターカット)も多い。だから、余計にお話に入り込めないかもしれない。だが、監督は意識的にそうしている。ただし、実験映画じゃない。そこんところが本作の見どころです。
 お話、つまり、いかにもの「作り話」に付き合うのに飽いた観客にとっては、さらりとしたいい映画。
 例えだが、スルメは舐めたくらいじゃ味はしないが、噛んでるうちに美味を感じる。本作も、観たあとに、ジワーッとクールな味を感じ得はじめたなら、しめたもの。

 時は、リーマン・ショック直後、大統領選でオバマ氏が一般投票勝利の頃。あの時代を描写した映画でもあります。

オリジナルタイトル:The Girlfriend Experience
監督:スティーヴン・ソダーバーグ|アメリカ|2009年|77分|
脚本 ブライアン・コペルマン 、 デイヴィッド・レヴィーン|撮影 スティーヴン・ソダーバーグ|
出演:チェルシー (サーシャ・グレイ)|クリス(クリス・サントス)|インタビュアー(マーク・ジェイコブソン)|エロティック鑑定家(グレン・ケニー)|ティム(ティモシー・デイヴィス)|デヴィッド (デイヴィッド・レヴィーン)|フィリップ(フィリップ・アイタン)|

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映画 「セッション」   監督:デイミアン・チャゼル

上

 ジャズを教える音楽学校を舞台にする、鬼教師と学生たちとの学園ドラマ。
 そのスパルタ教育は教師のパワハラとも受け取れるが、しかし、鬼教師のテレンス・フレッチャー(J・K・シモンズ)が指導する学生ビッグバンドは抜群のジャズ演奏をする。

1-0_201702082152121b8.jpg アンドリューは幼い頃からドラムを叩いてきた。そして名門のシェイファー音楽学校に入学。
 この学校の授業(ゼミ、演習)は、ビッグバンド演奏の実習という形態をとっている。ゼミ毎にビッグバンドが組織され、担当教師それぞれが指導・指揮する。

 テレンス・フレッチャーは、シェイファー音楽学校きっての教師でスパルタ鬼先生だが、彼の授業(演奏実習)は学生の誰もが憧れる授業であった。そして、彼に認められて彼が指揮するビッグバンドの演奏メンバーになれれば、次に誰もが思うのは、レギュラーメンバーになりたい。
  ある日、アンドリューはテレンス・フレッチャーのバンド実習に呼ばれる。(つまりアンドリューの才能が「一応」認められたことになる。)

 アンドリューは呼ばれた初日から鬼教師のパワハラ洗礼を受ける。
 悔しいアンドリューはその日から、文字通り血の出る練習をする。そして、先輩を押しのけてドラムのレギュラーになれたかに思えた矢先、テレンス・フレッチャーはアンドリューのクラスメイトのライアンも授業に呼び出した。レギュラーの地位に向けてアンドリュー含めドラム演奏者3人の熾烈な競争となった。そして、ついにアンドリューはレギュラーを勝ち取った。
 しかし、これから先、まだいろんなことが起きますが・・・あとは観てください。

 そしてラスト。学校を追放されたテレンス・フレッチャーは、プロのメンバーを率いてカーネギーホールのコンサートに出演しますが、そのドラマーはアンドリューです。
 アンドリューはテレンス・フレッチャー教師のパワハラによって、ドラマーの道を諦めていましたが、彼の誘いで再度スティックを握ることになります。
 しかし、テレンス・フレッチャーの誘いには「裏」があったのです。それはアンドリューへの仕返しでした、しかし・・・・。
 
 シーンの多くは、学内の練習スタジオか、コンサートの演奏シーンです。
 ビッグバンドが演奏する音楽は、シャープな現代的なモダンジャズ。これが楽しめます。

 アンドリュー役のマイルズ・テラーという俳優は、ジャズドラムを本当に叩きます。ピアノやギターなら、俳優が演奏できなくても、映像で騙せるかもしれませんが、ドラムはそうはいかない。マイルズ・テラーは、ジャズをやって来た人なんでしょう。私なら、鬼教師役のJ・K・シモンズよりも、彼を褒めたい。
 パワハラのシーンは、ときに劇画的で興ざめですが、ビッグバンドのサウンドが良いので帳消しというところでしょうか。

2-0_20170208220321516.png 鬼教師が言うこのセリフが気に入りました。
 世の中、甘くなった。ジャズが死ぬわけだ。
 カフェあたりで売ってるジャズのCDが(それを)証明してる。
 (ジャズの世界で)もっとも危険な言葉は、「上出来だ(グッド・ジョブ)」という安易な言葉だよ。

オリジナル・タイトル:WHIPLASH
監督・脚本:デイミアン・チャゼル|アメリカ| 2014年|106分|
撮影:シャロン・メール|
出演:アンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)|テレンス・フレッチャー(J・K・シモンズ)|アンドリューの父親のジム・ニーマン(ポール・ライザー)|アンドリューの彼女のニコル(メリッサ・ブノワ)|ドラム専攻でクラスメイトのライアン・コノリー(オースティン・ストウェル)|ドラム専攻の先輩のカール・タナー(ネイト・ラング)|ほか

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映画 「パリ、テキサス」   監督:ヴィム・ヴェンダース

上2

 
 この映画は、お話がサンドイッチのように三つの階層から成っていて、相互に関連します。
 加えて、3つの舞台装置(仕掛け)が、つまり、テキサスの荒野にあるパリという所「パリ、テキサス」と、過去の幸せな日々を映した8ミリフィルム映像、そしてマジックミラー越しのテレフォンクラブが、現在過去を繫ぐ回廊として、象徴的に印象的に機能している映画です。

1-0_201701191435397cf.jpg お話の第1の層(幻視の世界)では、主人公トラヴィスがまるで夢遊病者のようにテキサスの荒れた大地を徘徊しています。この荒野や、あとで出てくる荒野の中にあるパリは、どうしようもない悲しみを抱えるトラヴィスの心象風景と言っていいでしょう。

 第2のお話の層(トラヴィスを取り巻く現実世界)への移行は、トラヴィスがぶっ倒れて荒野の中にある診療所に担ぎ込まれるところです。これがきっかけでトラヴィスは、弟ウォルトと再会し、現実の世界へと舞い戻ります。つまり、ウォルトは嫌がるトラヴィスをロサンゼルス郊外の自分の家に連れて帰り保護します。

 ウォルトの家には、トラヴィスとその妻ジェーンとの間にできた一人息子ハンターがいました。これまでウォルト夫妻は、幼かったハンターを養子のように育てていました。
 それはつまり、かつて、トラヴィスとジェーンの夫婦関係が破たんし、トラヴィスが家を出、続いてジェーンもハンターを置いて失踪した結果、ウォルト夫妻がハンターの世話をしなくてはならなくなったのでした。

 ハンターは7歳になりますが、両親のことは憶えていません。まだ赤ちゃんだった頃の8ミリフィルム映像で、自分の両親を知っているだけでした。
 徘徊の世界にいたトラヴィスは、徐々に我が子ハンターを認識し出し、父親として振る舞うようになります。同時にハンターは、8ミリ映像の中の父親と、目の前にいる男とを結びつけることが出来るようになります。

 そんなある日、トラヴィスは妻ジェーンを探しに行こうと決心します。ハンターも望んで父親に同行します。
 妻を探す見込みは、わずかですがありました。ジェーンはハンターの養育費として、毎月決まった日に、5ドル、10ドル、あるいは50ドルとその都度まちまちな金額でしたが、ウォルト家の口座に金を振り込んでいます。つまり、振込銀行の支店が分かっていました。トラヴィスとハンターは、振り込みするその日に、テキサスにあるその支店を目指して、車で向かいます。

2-0_201701191446193f5.png 第3のお話の層(トラヴィスの心の核心の世界)へのきっかけは、ハンターが母親を「直感」で見つけた事でした。
 トラヴィスとハンターは、銀行支店の前で母親が來るのを待ち伏せしていたのです。母親が運転しているとハンターが言う、赤い車はどんどん去って行きます。父子はその車を追います。高速道路に乗り、そして降りてあるビルで赤い車は止まりました。トラヴィスはハンターを車に置いて、そのビルに入ります。

 そこはテレフォンクラブで、店内の個室にあるマジックミラー越しに、店の女と電話でデートできる所でした。
 トラヴィスは、店でジェーン(ナスターシャ・キンスキー)らしき女を遠目に発見し、さっそく客を装ってその女を指名します。やがて個室内のマジックミラーの向こうに女が現れます。すぐにジェーンだと確認できました。(ただしジェーンの方からは彼の姿は見えません)

 翌日再度、来店し、ふたりはマジックミラー越しに対面します。
 トラヴィスは、当時言えなかった、言う機会が無かった自身の心境を、ジェーンに包み隠さず一方的に語りかけます。そして最後に、ハンターと一緒に泊っているホテルのルームナンバーを言って、トラヴィスはその場を去って行きます。トラヴィスは直に、妻とは会いませんでした。
 その夜、ジェーンはホテルの部屋で、我が子ハンターを抱きしめました。しかし、そこにはトラヴィスはいません。再び失踪したのです。つまり、彼はまた、第1のお話の世界へ帰って行ったのです。

 なぜ、ふたりの関係は破たんしたのでしょう。なぜ、トラヴィスはまた放浪の人生を歩むのでしょう。
 結婚した当時、トラヴィスは仕事探しに悩んでいました。地元に良い職がなく、家を出て出稼ぎしないと、一家を養えませんでした。しかし、トラヴィスは溺愛するジェーンと、一時でも離れていることは心的な苦痛でした。朴訥なトラヴィスと、歳の差が大きくある二十歳前のジェーンでした。

 出稼ぎ先のトラヴィスは、ジェーンが浮気しているという妄想を次第に抱き始めます。そして妄想は日を追うごとに大きくなって行きました。自身で自分を追い詰めているのに気付かぬトラヴィスは、家に戻り妄想を元にジェーンを罵ります。
 そんな中、ジェーンが妊娠。辛い思いをするジェーンも彼を罵ります。夫婦の関係は、どんどん、ささくれ立って行きました。
 しかし、それでも、トラヴィスは苦しみながらもジェーンをこよなく愛していたのでした。
 (このトラヴィスの心の核心は、テレフォンクラブでトラヴィスがジェーンに、電話でつぶやくように語るそのシーンで明らかになります。これを見逃すと話が分からなくなる重要場面です) 
 トラヴィス自身のこの、愛と憎の合い入れぬ感情は、彼の精神を蝕みました。そして失踪。残された若いジェーンは、まともに相談する相手もなく、やはり心を病み、幼いハンターを置いて、続いてその行方をくらましました。(映画はここら辺りの事情を、映像にしていないので、難解に感じるかも知れません) 

 トラヴィスとジェーンとの関係はすさみ切っていて、ふたりはまるで荒野の中にいるようでした。ですが、愛はあったのです。それはテキサスの荒野の中にある、はかない場所「パリ」が象徴しています。そこはフランスのパリではないが、彼にとっては甘い香りの愛の街のように思える所。トラヴィスは、今もそう思っています。

 さて折角3人が一緒になれるはずだったのに、なぜトラヴィスは妻子を置いて、また放浪の人生を歩むのか。
 すべて俺が悪いのだ。トラヴィスはちゃんと理解しています。つまりは、愛と一家の生計とが両立しないのです。
 下層の一家がひとつ屋根の下に住みながら、地元で働いて妻子を養うに足る仕事が、今も地元には無い。よって、やはりかつてのように家を出て出稼ぎせざるを得ない。そうなれば、トラヴィスはまた荒れます。だから下層の男トラヴィスは、ジェーンへの愛と、一緒に住むことの両方を諦めざるを得ないのです。(この頃からアメリカ国内は、低所得労働者にとって、とても厳しい時代になって行きました)

3-0_20170119151503bd1.jpg トラヴィスは几帳面な男でした。荒野での映画冒頭シーンで、飲料水を飲み干した空のポリタンクを捨てる時、ポリタンクのキャップをきちんと閉めてから捨てる男。弟の家に居候して、弟夫婦やハンターの靴をすべて磨き、家の外できちんと並べて日干しする男。
 妻との日常も、毎日、互いの歯車がきちんとかみ合うことが、トラヴィスの心の安らぎとなっていたのだろう。それがトラヴィスが感じたい愛の実感だったのかもしれない。

 余談だが、弟ウォルトの人生も気になるところ。この兄弟は貧しい一家に生まれたらしい。
 兄は良い仕事にありつけない低所得者層のままだったが、ウォルトは妻と共に広告看板制作会社を営み、それなりの収益があるらしく、借金をして、ロサンゼルス郊外に、空港の傍とは言え、小さな一軒家を新築している。ウォルトは中流に這い上がったようだった。
 今、この映画を観て感じるのは、その後、アメリカがさらなる格差社会となって、中流階級が消滅して行ったこと。
 ウォルトの家は、丘を切り開いた新しい住宅造成地の端にあって、丘の上。そこから空港を見下ろすシーンは、何か心にきりきりと来るようで、印象的でした。

オリジナルタイトル:Paris, Texas
監督:ヴィム・ヴェンダース|西ドイツ フランス|1984年|147分|
脚本:サム・シェパード|脚色:L・M・キット・カーソン|撮影:ロビー・ミュラー|
出演: トラヴィス・ヘンダースン(ハリー・ディーン・スタントン)|その妻ジェーン・ヘンダースン(ナスターシャ・キンスキー)|その子ハンター・ヘンダースン(ハンター・カーソン)|トラヴィスの実弟ウォルト・ヘンダースン(ディーン・ストックウェル)|その妻アン・ヘンダースン(オーロール・クレマン)|

【ヴィム・ヴェンダースの映画】
これまでに記事にした作品です。それぞれの題名をクリックしてお読みください。
都市の夏」(1970)     「ゴールキーパーの不安」(1972)
都会のアリス」(1973)     「さすらい」(1975) ←お薦め
ベルリン・天使の詩」(1987)     「ミリオンダラー・ホテル」(2000)     「パレルモ・シューティング」(2008)

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映画 「天使の涙」   監督:ウォン・カーウァイ(王家衛)

上0

 二人の男と、三人の女の話。舞台は、夜の香港です。
 このお話は、実は、話の底に、たっぷりのコミカルさをたたえながらも、それをシャープな映像で覆い隠して、ニヒルに冷たく自虐的に、明日に希望ない人々を描こうとしています。
 久々に観ましたが、今もって新鮮。賞味期限は、まだまだ先。

1-0_201701131244473d4.png 殺しのエージェント(ミシェール・リー)と、殺し屋(レオン・ライ)の二人は、タッグを組んで完璧な仕事をして来た。
 仕事をする上で、二人は決して顔を合わさない。エージェントの女は現場を下見しお膳立てして、ドライに指示を出す。殺し屋も女の指示通りドライに仕事をこなす。しかし、エージェントの女は密かに、殺し屋の男に気がある。片や殺し屋は、そろそろこの商売から足を洗おうとしている。

2-0_20170113124630322.jpg 口がきけないモウ(金城武)は、真夜中にあちこちのいろんな店で商売をしている。
 例えば、ある日は散髪屋、ある時はアイスクリーム移動販売車、次の日は屋台の豚肉屋、そして、ある夜はハンバーガーショップ。
 つまり、夜中に勝手に他人の店舗をこじ開けて、その店に入り込み、通りがかりの人間に、無理やり押し売りしている。時に腕力も使う。だが、モウはいたって善人だ。もっと言えば、幼い心のままに大人になってしまった男。

 その女(チャーリー・ヤン)は、愛する彼に電話していたが、その電話で彼が結婚することを知り、突如失恋した。そして、偶然その場にモウがいた。
 その後、なりゆきでモウは、逆上する失恋娘が彼の結婚相手に殴り込みをかけるのに付き合うことになる。でもなぜ?、それはモウの一方的な初恋だった。

3-0_2017011312594148c.jpg 殺し屋商売から足を洗おうとしているロンリーな殺し屋は、雨降る夜のマクドナルドで、いつになく人恋しかった。
 人けのない夜のマクドナルドに、もうひとりの客がいた。客の女は、殺し屋に近づき彼の気を引こうとする。その客は、金髪の女(カレン・モク)。結局、金髪の女は自分の部屋に殺し屋を引き入れて、夜が明ける。

 密かに殺し屋の男に気がある例のエージェントの女は、情緒不安定だった。
 ある夜、それは偶然だった。エージェントの女が金髪の女とすれ違った。そして互いにハッとする。互いに殺し屋の男との関係を嗅ぎ取ったのだ。
 その後エージェントの女は、引き際を探っている殺し屋に最後の仕事を出すが・・・。

 その夜、モウは勝手にこじ開けたハンバーガーショップにいた。
 ふと気付くと店の前に、あの失恋娘がキャビンアテンダントの制服で立っている。人待ちの様子。口のきけないモウは、女の気を引こうとするが、彼氏が現れ二人は去って行った。


4-0_2017011313204129c.jpg エージェント役のミシェール・リー、失恋娘役のチャーリー・ヤン、金髪の女役のカレン・モク、この三女優の演技の競い合い、これが見どころです。
 この映画、台詞は少ない。エージェントの女とモウの、独り言のようなナレーションが、それぞれの登場シーンに入る。これがうるさく感じないところが良い。

 登場人物五人のそれぞれの様子にも注目したい。
 ベストマッチングであった、エージェントの女と殺し屋の関係はご破算となり、完璧だった殺し屋は相手に撃たれてしまう。
 これに比べ失恋娘は、初恋するモウの助けを借りて、自身の失恋を克服し、新しい彼氏をさっさと見つけ、かつ航空会社に就職する。この現実的な失恋娘の、明日への行動力は素晴らしい。
 一方、金髪の女は、あいかわらず成り行き任せに、ひとり気ままに世間を浮遊する。
 残るモウは、いつまで経っても、子供の心。お人好しで失恋娘にいいようにされ、これまた、たまたまだったが、エージェントの女の面倒もみることになる。
 そうしてモウ自身は、焼き鳥屋でやっとまともな仕事を得るが店が閉店となり、また夜中の勝手な商売に逆戻り。おまけに、二人暮らしだった父親が他界し、モウはひとりになる。

 製作時の1995年当時、とうとう二年後に迫った香港返還は、香港の誰もが考えざるを得ないことだった。そう思うと、(映画は香港返還を語らないが)、この登場人物五人それぞれの生きざまは、不安を抱えて返還を迎える人びとの、対応の比喩だとみると、意味深長に思えて来る。

 最後になるが、同じくウォン・カーウァイ監督の映画「恋する惑星」(1994年)と本作、混同しないように。
 なお、本作の美しいビジュアル表現は、イギリス映画「ひかりのまち」(1999年、監督:マイケル・ウィンターボトム)に受け継がれているとも思える。(この二つの映画の記事は、題名をクリックしてお読みください)

5-0_20170113134827646.pngオリジナルタイトル:堕落天使
監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)|香港|1995年|96分|
撮影 クリストファー・ドイル
出演:殺し屋(レオン・ライ)|エージェント(ミシェール・リー)|モウ(金城武)|失恋娘(チャーリー・ヤン)|金髪の女(カレン・モク)|

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映画 「歌うつぐみがおりました」   監督:オタール・イオセリアーニ

上

1-0_20170108204603078.jpg 南コーカサスにある国、ジョージア(旧名グルジア)の首都トビリシでの、可笑しなお話です。
 主人公のギア・アグラゼという男は、劇場専属オーケストラの打楽器奏者。
 舞台の幕が開き演奏が始まると、ヴァイオリンや管楽器の奏者は忙しいが、ティンパニーという楽器は概して暇。下手すると、曲の最初と最後の数小節しかティンパニーは登場しない。そうするとその間、ずっと座っているだけ、なのだが、ギア・アグラゼの場合は違う。

 とにかく、ギア・アグラゼは忙しい。
 幸い、ティンパニーの位置は、舞台下のオーケストラボックスの出入り口付近にある。それをいいことにギアは、オーケストラが演奏中に劇場を抜け出して外出し、最後の数小節を迎える直前に、危機一髪のタイミングでティンパニーの前に帰ってくる。

 その間、ギアが何をしているかと言えば、ある所へ行きある約束を済ませ、次に女の子に会いに行き、その後またちょっとした用を済ませに出かけ、その次に別の女の子に会いに行く。かつ、その移動中の路上で、ワル仲間から儲け話に誘われたり、出会う女の子に挨拶したり。そして、あわてて劇場に向かうのだ。

 何しろ、彼は顔が広く人気者でお調子者。そしていつもせわしない。絶えず、何か(複数の事を)していないと落ち着かない性分らしい。
 つまり、あらゆる案件がギアの中で同時並行に推移しつつあり、それらをつまみ食いする格好で、事をさばいて行こうとする。ポジティブシンキングだが、勝手に楽観過ぎて詰めが甘い。結局、何もかもが中途半端で、その場限りになりがち。
 かつ、約束をすっぽかしたり規則を破るものだから、ギアをよく思わない女の子や、彼を辞めさせたい劇場のお偉いサンがいる。しかし、それは一部の人で、おおかたの人々にとっては、ギアは憎めない存在の人気者なのだ。

 そんなギアを客観的に眺める人々が、映画の中に登場する。それは、ある女の子や図書館にいるメガネのおじさんや、とりわけ、ギアの友人の外科医である。その外科医は、ギアの精神的な面を心配する。しかし、その後ギアは呆気なく死んでしまうのだ。

 この映画を観て思うこと。
 人をひとつの歯車に例えるならば、世間は多くの歯車が互いに噛み合って動いている。この映画が言いたい事のひとつは、そんな事のような気がする。
 ただし歯車と言ったそれは、組織の一歯車といった負のイメージじゃなく、プラスのイメージ、協働あるいは恩義の貸し借りという意味合いだ。
 加えて、歯車にはいろんな種類がある。特にギアみたいな人間は、「遊び歯車」かもしれない。世の中、役にたたないようで役にたつギアみたいな人が必要なんだ。
 なぜ、ここで歯車を持ち出したかと言えば、ギアが交通事故で死亡した直後、映画の最後のシーンで、ギアの友人の時計修理職人が、動かなくなった懐中時計を修理する。修理が終わると時計のメカニズムがたくさんの歯車が一斉に動き出すところを、カメラはアップで見せるのだ。監督のメッセージだよね。

 もうひとつ、思うこと。ギアが絶えずふらふら浮遊しているように見えるのは、実はギアを取り巻く状況や関係性を「早回し」して見せているからだ、という見方。アレクセイ・ゲルマン監督のロシア映画「フルスタリョフ、車を!」と通底する感じがする。

 さらに思うこと。映画冒頭で、ギアは丘の上から、自分の住む街を見下ろしている。これは、ギア自身やギアに関わる全てを客観視するもう一人のギアを表わしているのだと思います。オタール・イオセリアーニ監督の「月曜日に乾杯!」にも同様なシーンがありました。
 (「フルスタリョフ、車を!」、「月曜日に乾杯!」の記事は、それぞれ題名をクリックしてお読みください)

下

オリジナルタイトル:Iko shashvi mgalobeli
英語タイトル:LIVED ONCE A SONG-THRUSH
監督:オタール・イオセリアーニ|ジョージア(グルジア)|1970年|82分|
脚本:オタール・イオセリアーニ、ディミトリ・エリスタービ、オタール・メフリシビリ、イリヤ・ヌシノフ、シェルマザン・カキチャシビリ、シモン・ルンギン|
撮影:アベサロム・マイスラーゼ|
出演:ゲラ・カンデラキ(ギア・アグラゼ)|ジャンスグ・カヒーゼ(指揮者)|マリーナ・カルツィヴァーゼ(マリナ)|ほか


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映画 「大人は判ってくれない」   監督:フランソワ・トリュフォー

上

 例えば、ミュージシャンのファーストアルバムの中には、「えも言われぬ素晴らしさ」を、今も維持し続けるものがある。
 フランソワ・トリュフォーの長編第一作、この「大人は判ってくれない」は、そんな魅力がある、いい映画。

0_20161224112719755.png それにしても、この映画を観て感じるこの新鮮さは、何だろうか。
 ファーストアルバムで名を揚げ、以後、技量を磨き経験を重ね、ビッグネームになるわけだが、大抵の場合、その第一作の魅力は、消えていく。映画についても、そうかもしれない。
 敢えて言えば、第一作の魅力は、(その時点で)才能を秘めた「素人」が、失敗を恐れずに作るからこそ生み出せる。若さかも知れない。とりわけ若い感性、これは、どうあがいてもベテランには出せない味。だから光る。

 物語は、子供の養育を嫌う両親と、その子の話を、子の視点で描こうとする。
 母親は再婚で、その子・アントワーヌ12歳 (ジャン=ピエール・レオ)は、母親の連れ子。共働きの両親は不仲で、母親には恋人がいる。家は中流の下レベル。

 アントワーヌが学校から家に帰っても、いつも親は居ず、日曜日も親は彼を構わない。しかし、アントワーヌは家事手伝いはすなおにしている。一方、学校では教師に反抗的で、要注意の悪い生徒。

 アントワーヌは悪友・ルネとつるんで、パリの街をぶらつく、学校を無断欠席し映画館に行く。世間的には不良予備軍。
 そしてアントワーヌはついに家出する。家を出て、ルネの叔父の印刷工場の片隅で一夜をあかし、さらにはルネの家に密かに居候。
 ルネの家はマンション最上階の金持ちだが、年老いてくたびれた風の父親(と若い母親?)はルネに対し、とても放任主義。

 アントワーヌは父親が勤務するオフィスから、タイプライターを盗み出し、ついに警察に保護される。そして、この機会を逃さぬ両親は、アントワーヌの養育を放棄する。つまり、親は警察にアントワーヌを少年院に入れてくれと願うのであった。これは、まさにネグレクトだ。(養育すべき者が子供の世話を怠り放置すること。)

 なんとも殺伐とした話にみえるが、そうでもない場面もある。
 アントワーヌに対する両親の(気まぐれな)愛情も描いているのだ。(例えば母親が息子をバスタオルで包んでやったり、一家で映画館に行ったり) この辺りは、話があまりに殺伐になり過ぎないようにとする、監督のバランス感覚か。
 また、ネグレクトに軸足を置いて観るのじゃなく、アントワーヌ少年の反抗期の話という見方もある。
 さらには漠然とだが、カウンターカルチャーの文脈で観る見方もある。(保守的な教師像や官憲や親の表現など)

 巨匠フランソワ・トリュフォーの映画ということで、大いに持ち上げられる作品だが、正直、お話の作りは平凡。
 しかし一方、これまでに、どれだけ多くの作り手が、この映画からいろいろの事を学んだことだろうか。それはたぶん、映像表現の素晴らしいセンスだろう。
 ま、しかし、ひたらく言ってしまえば、結局のところ、アントワーヌ12歳 (ジャン=ピエール・レオも当時12歳)のさりげない爽やかさが、この映画の最大の魅力、ということに落ち着く。

オリジナル・タイトル:Les Quatre Cents Coups|
英語タイトル:THE 400 BLOWS|
監督:フランソワ・トリュフォー|フランス|1959年|99分|
脚色:マルセル・ムーシー、フランソワ・トリュフォー|
撮影:アンリ・ドカエ|
出演:アントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レオ )|その親友・ルネ・ビジェー(パトリック・オーフェー)|母親・ジルベルト(クレール・モーリエ)|父親・ジュリアン(アルベール・レミー)|ほか
下

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第17回東京フィルメックス上映作品の「まとめ」です。

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、これまで12回シリーズで書いて来ました。
 今日は、そのまとめです。

2016_FILMEX.jpg 今年は、欲張って合計18本の映画を観ました。(各作品についての記事は、下記の題名をクリックしてお読みください)
 私が、いい映画だと思うものに印、アキマヘンと思ったものには×印を、下記映画につけました。無印は、悪くはない映画、か、う~んまあそうーね的な映画です。(通常、一夜一話では×印映画は掲載しません)
 
 映画祭というものは水物で、漁師の仕事のようだ。上映作品捜しにおいて、いい漁になるか、そうでないかは、(つまり作品の量と質は)、結局、網を入れてみないとわからない。
 総じて上映作品数は昨年より多いので、これは期待できるぞと、思ってたんですが、×印が多い。特別招待作品には、がっかりです。どうしてこんな映画を呼ぶんでしょう。
 最優秀作品賞受賞が「よみがえりの樹」(中国)とは驚いた、かつ同時に納得。憶測ですが、たぶん、作品集めにジャ・ジャンクーの協力が要るのでしょうね。
 コンペティション審査員のひとりが、「仁光の受難」を推したのは、とても同感です。
 まあ、しかし、◎印の映画に出会えて嬉しいです。来年のフィルメックスも今から楽しみにしています。
 
【コンペティション部門】 および東京フィルメックスの受賞

 ×よみがえりの樹(中国) 最優秀作品賞受賞、  バーニング・バード(スリランカ) 審査員特別賞受賞
 「私たち」仮題(韓国) スペシャル・メンションと観客賞、  普通の家族(フィリピン) 学生審査員賞
 オリーブの山(イスラエル)、  マンダレーへの道(台湾)、  ×神水の中のナイフ( 中国 )、
 恋物語(韓国)、  ぼくらの亡命(日本)、  仁光の受難(日本)

 (※「私たち」仮題は、見逃しました。来年に公開されるそうですから、その時に観ます。)

【特集上映 イスラエル映画の現在】

 山のかなたに(イスラエル)、  ティクン~世界の修復(イスラエル)

【特別招待作品】

 ×The NET 網に囚われた男 監督:キム・ギドク(韓国)、  ×大樹は風を招く 監督:フランク・ホイ他(香港)、
 ×山<モンテ> 監督:アミール・ナデリ(イタリア)、  ×エグジール 監督:リティ・パン(カンボジア)、
 苦い銭 監督:ワン・ビン(中国)

【特別招待作品 フィルメックス・クラシック】

 ザーヤンデルードの夜 監督:モフセン・マフマルバフ(イラン)、  タイペイ・ストーリー 監督:エドワード・ヤン(台湾)
 そのほかの3作は観ませんでした。

【これまでの東京フィルメックスに関する記事】

 ◆「第16回東京フィルメックス、まとめ。」の記事は、こちらから
 ◆「第15回東京フィルメックス」からは、「さよなら歌舞伎町」(監督:廣木隆一)、「扉の少女」(韓国)と「生きる」(韓国) ・・・題名をクリックしてお読みください。
 ◆「第14回東京フィルメックスのまとめ」の記事は、こちらから、ご覧ください。

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中国映画 「苦い銭」 監督:ワン・ビン ~第17回東京フィルメックス上映作品(特別招待作品)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第11回です。
 本作品はフィルメックスの招待作品です。
 この映画は香港製作ですが、ワン・ビン監督の作品ですので、便宜上、中国映画とします。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「苦い銭」  Bitter Money|苦钱|香港、フランス|2016|163分|
 監督:ワン・ビン  (WANG Bing|王 兵)
1_20161201130525456.jpg
 いいドキュメンタリー映画ですね。
 舞台は、中国浙江省湖州。上海市に近い。
 ここら一帯には、たくさんの縫製工場がある。大きな仕事を一手に引き受ける郊外の大きな工場から、そんな工場の下請けをする町工場まであって、また小さいながらも直で受注する町工場もあるようだ。

 この「苦い銭」では、街中で働く人々を描きます。ですが、監督作品特有の武骨な感触、包み隠さぬ現実描写、登場人物の剥き出しの感情は健在です。

 映画は、ベテラン従業員6人ほどを抱える、ある子供服の縫製工場の様子を描いて行きます。
 登場人物の従業員は、リンリンという女性以外は皆、地方から湖州に単身で来た出稼ぎの人たち。彼らは工場の階上にある共同宿舎に住込みで働いている。
 雲南省からはるばる来たばかりの15歳・新人の男の子と女の子(都会に来れてウキウキ)。工場近くの店で夫が商売をしている女性従業員のリンリン(写真の人)。もう一人の女性は子供を故郷に置いて出稼ぎに来た。
 そのほか、温和で無口な中年男性のベテラン従業員や、飲むと手が付けられない不満分子の年配従業員、作業の手が遅いのを悩む若手男性もいる。(時給ではなく、何着仕上げたかなのだ)

 シーンの様子は例えば、こんなだ。夫によるDV一歩手前のリンリン夫婦の激しい夫婦喧嘩にカメラが入り、延々と撮る。
 昼間の作業風景はもちろんだが、突然に急ぎの仕事が入り、夜中に起こされ仕事を始める様子も撮る。
 宿舎の部屋で自分に閉じこもる人の、心の中にもカメラは入り、つぶやきが聞こえる。(ここは街だが遊ぶ金がないのだ)
 社長は従業員に意外と優しいそんなやり取りもあるし、出荷の荷造り共同作業では働く場の絆が浮かび上がる。

 彼らの仕事はしんどいが、ミシン相手に座ってする屋内仕事。監督のほかの作品に出てくる、例えば炭坑製鉄所などの野外の肉体重労働じゃない。けれど、縫製の仕事に携わる彼らの様子からは、監督作品特有の武骨な感触、包み隠さぬ現実描写、登場人物の剥き出しの感情が、とても生々しく感じられる。言い換えると、NHKテレビ番組「鶴瓶の家族に乾杯」のような取材者と取材対象者との、表層的な慣れないは一切見られない。

 この作品は、市井の人々のありのままを、それも広大な国土の極一点の様子を描いたドキュメンタリーだが、でも、「中国の今」をしっかりと感じとれるのは、何と言ってもワン・ビン監督の魅力。
 ドキュメンタリーの対象となる事象をあまたの中から探し出し、その場を特定する力、出演を依頼する交渉力。そして取材撮影中に起こる予期せぬことも、見られたくない内面が剥き出しになる時も、それを許す出演者と、遠慮なく撮影する監督との人間関係。ワン・ビン監督の魅力だ。

【ワン・ビン監督の映画】  これまでに記事にした作品です。題名をクリックしてお読みください。

 「石炭、金」(2009年)、「無言歌」(2010年)

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韓国映画 「恋物語」  ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第10回目です。
 いい映画です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「恋物語」  Our Love Story|韓国|2015|99分|
 監督:イ・ヒョンジュ (LEE Hyun-ju)

ユンジュと、右がジス
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ユンジュと、男友達
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 今年のフィルメックス上映作の中で、とても良い印象が残る、いい映画。
 「Our Love Story」とは、女性同士のLove Story。だから不快に思う向きは、この時点で脱落してしまうが、とてもうまく描けているLove Storyです。女性監督ならではの、心のこもった きめ細やかな描写。しかも、監督の長編第1作なのだから驚く。
 
 ユンジュと言う名の美大生と、ジスという女性とが、ソウルの街で出会い、恋をする。
 ユンジュにとって、これは初恋であり同時に初めての女性との関係であった。かつ、愛することの喜びを初めて知る。

 ユンジュは人付き合いのいい子で、大学の同僚男子にも、以前からの知り合いの男子にも好かれている。この以前からの男子は小説家の卵で、彼が結婚する前からの知り合い。彼は、プサンで相手と離婚しソウルに舞い戻り、ユンジュに会いに来る。だがユンジュはこれまで、男子から「好かれている」それ以上のことに発展したことはなかった。
 もちろん、ユンジュはジスとの愛を周囲に話すことはないが、唯一、小説家の卵の彼には、すなおに話せた。

 ジスが遠い田舎に帰郷することとなった。母を亡くして、父親をひとりにして置けなくなったからだ。
 娘を待ちわびていた父親は、中断していたいいなずけの男との交際を再度ジスに勧める。しかし、ジスは本音を言えない。
 
 ユンジュはジスが帰郷したあと、彼女の事がひと時も頭から離れず、卒業制作のオブジェ創作は進まないどころか、制作を放棄してしまう。よって、キャンパスにも行かなくなる。ジスへの思いが募るユンジュは、ついにジスの実家へ行くことにした。
 しかし、ジスはユンジュを冷たく扱う。それは、父親の前だから、実家の周囲の目を気にするから、さらには父親が願う結婚のことも考えるからか・・・。

 いつしか、ふたりは疎遠になって行く。距離の問題もある、それぞれ自身の抱える問題もある。愛の炎は消えかかっている。
 その後、ジスがソウルに出てきてユンジュに会いに来る。今度はユンジュの態度が冷たくみえる。平静を装おうとするジスは、ユンジュにしがみつく。
 さあ、これからのふたりに、どんな明日があるのだろうか・・・。
 映画は、陰のあるハッピーエンドを迎えます。

 なかなか言葉にできないような細やかさが、この映画にあります。イ・ヒョンジュ監督の素晴らしさです。ユンジュとジスの揺らぐ心の機微を上手にすくい上げています。また、脚本への緻密な配慮もうかがえます。是非、公開してほしい映画です。

【若手女性監督の、いい映画】  これまでに記事にした作品からです。 
 次のどちらの映画も、繊細で美しい。この「恋物語」と通底するテイストがあります。題名をクリックしてお読みください。 

 記憶が私を見る」 監督:ソン・ファン[製作:ジャ・ジャンクー] (2012年中国映画)
 理髪店の娘」  監督:シャーロット・リム (2009年マレーシア映画)
 

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イラン映画 「ザーヤンデルードの夜」 監督:モフセン・マフマルバフ  ~第17回東京フィルメックス上映作品(特別招待作品 フィルメックス・クラシック)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその9回目です。
 本作品は1990年に発表されたもので、フィルメックスの招待作品です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「ザーヤンデルードの夜」  The Nights of Zayandehrood|イラン|2016|63分|
 監督:モフセン・マフマルバフ(Mohsen MAKHMALBAF)
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 1979年のイラン革命(イスラム革命)の直前直後を描く映画。
 革命は、他国勢力の影響下ではなく、イラン人民による革命で、かつ、結果イスラムの力によるものであった。
 その後、イスラム政権による国家運営となって、イスラム教下での女性差別、自由主義者や左翼、非イスラム教者への弾圧が行われた。
 
 映画に登場する大学教授は自由主義思想の人で、慎重に言葉を選びながらも、聴く者によってはラディカルな講義をしていて、学生からは一定の支持があった。しかし、革命が始まる前夜の頃から、彼をあからさまに非難する学生が増えて行った。そしてついに、彼らによって講義は妨害される。
 ある夜、教授は妻と連れだって歩いている所へ一台の車が突っ込み、走り去った。妻は死亡し、教授は車椅子の生活となってしまう。あれは事故だったのだろうか。
 教授にはひとり娘がいて、彼女は救急病棟で看護師として働いている。運ばれてくる患者の多くは、薬による自殺未遂だ。その中の一人の男が彼女を好きになる。映画は、この男を登場させて、革命前後ころの社会的弱者を描いている。
 一方、かつて彼女から離れて行った元彼が離婚し、彼女の前に再び現れる。二人の男からの求愛に彼女は悩むのであった。(この結婚相手のことに教授は父親として娘に介入する。) 革命後、教授は大学に復帰し、あらたに講義を始めるのであった。

 監督は当時、革命に加わったとのことだが、その後の経緯と現状の中で、監督は大きな戸惑いを感じ続けているのだろう。
 この映画は本来、100分の尺があったらしいが、25分の検閲カットののち、1990年にテヘランで初上映。その後、上映禁止、ネガ没収となった。近年失われていたネガの一部が発見、修復され今に至る(2016年に修復版公開)。本作の上映時間は63分だから、100分のうち37分が消えてしまった作品。だから、映画の語ることが、正直イマイチ分からない。
 消えてしまったシーンが語る内容は、この映画の中の教授が、革命前に講義した内容と重なっているように思える。

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イスラエル映画 「オリーブの山」、中国映画 「よみがえりの樹」、イタリア映画 「山<モンテ>」 ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第8回です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「オリーブの山」  Mountain|イスラエル、デンマーク|2015|83分|
 監督:ヤエレ・カヤム  (Yaelle KAYAM)
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 若い監督のデビュー作には、時に不思議へ誘うかのような、言葉にしようのない魅力を持つものがある。
 それは、自分勝手に素晴らしいと思う、若さゆえの独り善がりが生み出す新鮮さ、ベテランには無い原動力。
 その不思議さは、芸術というフィルター越しの風景なのか。いや、単に妙チクリンなだけのか。うむ、なかなかそうとは言いきれないのが、このミステリアスな映画。

 舞台はイスラエルにあるオリーブ山という丘陵。旧約および新約聖書にたびたび出てくる所らしい。そこに墓地がある。世界最古でかつ最大のユダヤ人のためだけの墓地。

100.jpg この墓地の中に住む若夫婦の妻・ツヴィアが主人公。つつましい一家で、子がいて、夫はユダヤ教正統派の学者のようだ。
 何不自由ない家だが、夫は最近過労気味。精神的に参っている。そのせいか、夫は妻の夜の要求に応えられないでいる。夫婦仲もギクシャクしている。

 朝、夫や子を送り出したあと、ツヴィアは台所でタバコを吸う。家は丘の中腹だから、台所の窓から見える風景がいいのだ。
 気晴らしに外へ出て、墓地の階段を上がり、見晴らしの良い場所でたたずむのが彼女のお気に入り。時たま通りすがる、墓掘りのアラブ人の男は、たたずむ彼女の前で立ち止まり、決まってタバコの火を求める。そしていつも、取りとめのないつかの間の会話が始まる。なぜかお互い、癒やされる。

 そのうちツヴィアは、家族が寝静まった夜に墓地に出るようになる。タバコを吸う辺りからは、遠くの街の灯が見える。
 ある夜、墓地の中で喘ぎ声が聞こえた。売春婦とその客だ。ツヴィアはその様子をじっと見ている。彼女が何かを落とした。その物音を聞き付けた売春斡旋の男たちが、ツヴィアを追いかける。彼女は間一髪で難を逃れた。

 その日から、ツヴィアは彼らのために料理を作るようになる。作った料理を鍋のまま、真夜中に墓地へ持って行き、恐々ながらも彼らに提供するのだ。何と言う とち狂った女だと思っていた彼らだったが、そのうちツヴィアの料理を心待ちにするようになった。

 その日ツヴィアは、まったく同じ料理を同時に二つの鍋に作っている。ひとつの鍋は家族に、もうひとつの鍋は売春グループたちのため。そしてツヴィアはおもむろに、殺鼠剤(ネズミ駆除薬剤)を取り出し、片方の鍋に入れた。
 夜が更け、いつものように彼女は鍋を抱えて墓地の中を行く。売春グループたちは美味しそうにその料理を食っている。そして彼女は帰る。墓地の階段を降りて行くその途中で、ツヴィアは立ち止まった。彼女は我が家をじっと見下ろしている。
 
 まだ若いゆえの解釈も見受けるが、映画が映しだす丘陵(オリーブ山)からの拡がりある風景が、観る者の心をも澄ます。そして、拡がりある風景に対比されるツヴィアの受け身で縮こまった心、不可解な心境。ミステリアス。 

「よみがえりの樹」  Life After Life (枝繁葉茂)|中国|2016|85分|
 監督:チャン・ハンイ (ZHANG Hanyi)
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 霊魂がとりつく憑依憑霊の話に、輪廻転生にまつわるエピソードを添えた物語。監督にとって、これが長編映画第一作目。
 ここは中国、黄土高原が広がる陜西省の辺鄙な村落。古くからの家は、崖(がけ)に横穴を掘って造った土の中の家(横穴式住居ヤオトン)だ。しかし今では、そのヤオトンの家々も、そうでない家も、みな空き家。もうこの村落に留まる人は極わずかになってしまった。
 村はこれまで炭坑で食って来たが、坑道崩落で閉鎖となる。地域住民はみな、新築の高層アパート一棟に集約されるらしい。これを嫌がる人もいる。

 そんな村に、妻を亡くした男と、その息子がいる。息子の名はレイレイ、小学校低学年くらい。ヤオトンの家に住んでいる。
 ある日、ふたりして近隣の林に入り、焚き木ひろいをしていた。その時、突如レイレイの身に、母親の霊魂が取り着いた。
 母親・シュウインは息子の声を借りて、夫に言った。我が家の前に植わっていた木を、何処か良いところへ移植したい。あの木は私が嫁いできた時の、唯一の嫁入りの品だった。
 ここから夫と、亡き妻シュウイン(レイレイの身に取り着いた母の霊魂)のふたりが、木の移植に苦労する話となる。三輪オートバイに乗って、ふたりは移植を手伝ってくれそうな人をあちこち訪ねるが、誰も相手にしてくれない。そんな中、ふたりはシュウインの実家を訪ね、シュウインは老いた両親に、自分が戻って来たことを密かに伝えたりもする。
 結局、ふたりだけの移植作業となり、レイレイの子供の身では力仕事がはかどらず苦労する。そして、荒野にその木を植え替えた。

 憑依憑霊の話は、拍子抜けの感あり。
 映画は、妻が憑霊したのちの些細な話を、必要最小限のセリフとともに、村落周辺の風景映像を延々と流して表現しようとする。
 監督は撮影されたこの地で生まれ育ったとのこと。だから、観客がなんとなく観ている映像は、監督にとっては特別な景色なのだ、その景色に監督の記憶や愛着が重なるのだろうが、観客にそれが伝わってこない。
 見方を変えれば、この物語は短編小説にはなるが、話を絵(映像)に当てはめるのは難しい。

 この映画のプロデュースは、ジャ・ジャンクー。彼が主催する「添翼計画」(若手監督育成プロジェクト)からの出品作。
 以前の出品作では、ソン・ファン監督の「記憶が私を見る」(2012年)が、抜群に良い。(この記事は、こちらからお読みください)

「山<モンテ>」  Monte|イタリア、フランス、アメリカ|2016|105分|
 監督:アミール・ナデリ  (Amir NADERI)
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 監督のアミール・ナデリは、イランの映画監督。この映画は、全編をイタリアで撮影された。
 時代は中世末期。巨大な岩があちこちに露出している山の中腹に住む一家三人。
 家の周囲は、山くずれで、がけになった急斜面、岩がガラガラしている所。そんな山あいの狭い土地に畑を耕すが、石が混じる土地は山陰で陽も当らない。
 こんな荒れた土地を離れれば良いものをと思うが、彼らは町に住めない。蔑視されている人びとなのだ。
 一家のあるじアゴスティーノは、ある日からゲンノウ(大型ハンマー)で巨岩を打ち砕こうとし始める。しかし、力しても岩は硬い、ゲンノウは跳ね返されるばかりだ。そんなシーンが延々と続く。しかしラストは、思わぬことに・・。
 ヴェネチア映画祭で「監督・ばんざい!賞」が授与されたらしいが、延々と続く岩を打ち砕こうとするシーンが、この先いつまで続くのか、はやく終わって欲しい!と願った、久々の映画でした。
 

台湾映画 「台北ストーリー」(旧題名:幼なじみ) 監督:エドワード・ヤン  ~第17回東京フィルメックス上映作品 (特別招待作品 フィルメックス・クラシック)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその7回目。 
 今回の映画 「タイペイ・ストーリー」は、1985年製作のエドワード・ヤン監督による映画で、フィルメックスの招待作品です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「台北ストーリー」 (幼なじみ)  Taipei Story|青梅竹馬|台湾|1985|120分|
 監督:エドワード・ヤン  (Edward YANG|楊德昌)
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 1985年ごろの台北の街での話。
 その頃、台北では新しい経営がビジネスチャンスを求めて競い合い、また大きな資本を持つ企業は企業買収を進めていた。
 もちろん一方で、家業を継いで昔ながらの商売を続ける人々も多くいた。

 チン(ツァイ・チン)と、ロン(ホウ・シャオシェン)は台北の街中で育った幼なじみ。
 チンは、ビルを手掛ける建築設計事務所にいて、設計技師の社長のもとで、秘書兼マネジャ的な仕事をしている。
 有能なチンは高収入でオシャレな身なりで、独身。実家を離れてマンションで一人住まいをしている。社長はチンに好意を抱いていて、彼女もまんざらではない。
 しかし、ある会社がこの事務所を買収することになる。この会社はチンに継続雇用の意向を示し、新たに秘書の仕事を勧めたが、チンはきっぱり断った。

 一方、ロンは古くからの問屋街にある布問屋の息子。最近までアメリカに行っていた。向こうの台湾人コミュニティでの商談だったのだろう。ロンは若い頃、野球をやっていた。小柄で大人しそうに見えるが腕力がある。ワルな連中とも付き合っている。

 この間、互いにさしたる連絡も取っていなかったふたりが、久方ぶりに会った。幼なじみではあるが、これまで別々の世界に生きて来たふたり、ではあったのだが・・。
 急な失職と、いい勤め先も見つからないチンは情緒不安定で、とりあえず一時、実家に戻っていた。ロンはロンで商売がうまく行かない様子。そして、ふたりは結ばれる。しかし翌日には、互いにそんな仲ではなくなっている。チンとロンのこんな宙ぶらりんな関係がその後も続く。

 自暴自棄気味なチンは、暴走族の若い子たちに交じって遊ぶようになる。そんな折、建築事務所の元社長から、離婚したからという連絡が来た。

 ある夜遅く、チンがマンションに帰ってくると、マンション前に暴走族の1人が彼女の帰宅を待っている。男はチンが好きになったらしい。チンは怖がって帰れず、ロンに助けを求める。
 タクシーで駆けつけたロンは、その男を脅し殴って退散させ、チンは無事に部屋に戻れた。ところが、ロンがタクシーに乗車し帰ろうとすると、暴走族の男がバイクでタクシーについて来る。山間部の暗い道までも、男はまだ執拗について来る。
 ロンはタクシーを降り、その男と取っ組み合うが、ロンは男のナイフで腹部を刺されてしまう。

 深夜、ロンは人けの全くない山の夜道をふらふら歩きだすが、結局、出血多量で意識不明となってしまう。翌朝、ロンは警察に発見され救急車も来たが、救急隊員に急ぐ様子はない。既に死亡しているのだろうか。
 チンに電話が来た。彼女が以前から頼りにしている年配女性からで、あなたに相応しい仕事があるとのこと。チンは言われた場所に行ったが、そこは内装前のビルの広い一画だった。
 「ここが新しく立ち上げる会社のオフィスになるのよ。」 その会社とは、そう言うその女性が社長となって起業する、IT系の会社だそうだ。そんな話を聞き流しながら、チンは窓の外をぼんやり眺めているのであった。

 この映画に出てくる幾つかのエピソードも含め、どのストーリーもメリハリがない。中途半端さを拭えない。時代の変わり目の、真っただ中に生きるとは、案外そういうことなのかもしれない。

 上映時間:110分|
 脚本:エドワード・ヤン、チュー・ティエンウェン、ホウ・シャオシェン|撮影:ヤン・ウェイハン|
 出演:ホウ・シャオシエン|ツァイ・チン|ウー・ニェンツェン|クー・イーチェン|ほか

 【エドワード・ヤン監督の映画】 これまでに取り上げた作品です。タイトル名をクリックして記事をお読みください。

 「牯嶺街少年殺人事件」(クーリンチェ少年殺人事件)(1991年)、 「ヤンヤン 夏の想い出」(2000年)

 【ホウ・シャオシェン監督の映画】

 「憂鬱な楽園」(1996年)、 「童年往事 時の流れ」(1985年)、 「冬冬の夏休み」(1984年)、 「風櫃の少年」(1984年) 

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イスラエル映画の 「ティクン ~ 世界の修復」、「山のかなたに」 ~第17回東京フィルメックス上映作品(特集上映:イスラエル映画の現在)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第5回。
 両作品はともにイスラエル製作の映画です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「ティクン ~ 世界の修復」  Tikkun|イスラエル|2015|120分|
  監督:アヴィシャイ・シヴァン  (Avishai SIVAN)
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 この映画は、ユダヤ教の「超正統派」に属する一家の話である。
 よって、映画を観るには少々予備知識がいる。
 それはユダヤ教についてだ。ユダヤ教にはいくつもの教派があって、そのなかの正統派という教派の中にさらに「超正統派」という教派がある。ユダヤ教の最右派でイスラエル人口の10%近くが信仰しているらしい。
 この超正統派の人々は、同じ教派の狭いコミュニティーの中だけで厳格な人生を送る。例えば、結婚相手は必ずコミュニティー内といった風で、教派外部や俗世との接触をことさら避ける。テレビも見ないし映画館にも行かないらしい。また、男性女性の性の分離を厳格に実施している。

13_20161127192539240.jpg さて、テルアビブの街に住むこの一家の長男・ハイム・アロンは、超正統派の神学校に通う青年。他の多くの学生に比べて、彼はあまりにも熱心過ぎる学びの姿勢であった。朝は誰よりも早く登校し、深夜になってもひとり神学校の教室に残っていた。(彼はとても神経質で、他人と交わらず、そして年齢の割にはいささか幼い)

 しかしそんな毎日は体力的に続かない。勉学に疲れ、ついに精神までもが摩耗しきってしまった彼は、ある日、家庭内事故で意識不明の重体となる。彼の家に駆けつけた救急隊員は懸命な救急救命処置を行うが、悲しいかな、その場で死亡の宣告がおりる。これを見守っていた父親は、息子の死を受け入れられず、自ら救命処置を続けた。その結果、奇跡的に彼は蘇生した。そしてその後、彼は入院し快復する。

 しかし、快復した彼は神学の勉強をサボりだす。人が変わったようだった。ひとつの身体に二つ目の魂が宿ったのだ。真夜中にふらりと家を出て、ヒッチハイクで遠出したり、売春宿にも入った。(しかし、裸の女性を見て逃げだす) ついに神学校から追放される。
 屠殺場で働く父親は、この頃から悪夢を見るようになる。寝ている息子を包丁で刺し殺す悪夢だ。なぜなら、夢の中で、神は父親に言ったのだ。「息子の死は私の意志なのに、お前は彼を生き返らせた。私の意志にお前は刃向かうのか!」と。

 一方、信仰を捨てたかにみえる息子はまたしても、精神が摩耗して行く。深夜に外出し、濃霧の中を夢遊病者のように徘徊し、実に奇妙な出来事に遭遇する。(映画は幻想的シーンを描く) 俗世は彼にとってあまりにも不可解で厳しい別世界であったのか。
 ユダヤ教に縁のない私には理解に苦しむ映画であった。

「山のかなたに」  Beyond the Mountains and Hills|イスラエル、ベルギー、ドイツ|2016|90分|
  監督:エラン・コリリン  (Eran KOLIRIN)
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 何をどれほど認識しているのかよく分からないが、何かと反体制的な行動をとる、若いユダヤ人女性・イファットが、登場人物の1人。
 イファットはイスラエルで差別されるアラブ人に対し漠然とだが心情的な好意を持っている。あることがきっかけで、イファットは、山の向こう側の人里離れた所にある、アラブ人労働者の貧しい集落の青年と、怖いながらも少し親しくなった。悪い人じゃなさそう。イファットにとって、これは世間知らずの向こう見ずな冒険か、非日常的な愛なのか。(人口の75%がユダヤ人、アラブ人は20%。宗教別ではユダヤ教徒が75%、ムスリムが16%)

 もう1人の登場人物は高校の教師をしているユダヤ人中年女性。彼女の授業に熱心なひとりの男子生徒に、彼女はいつしか好意を寄せ始める。そして、ある日、教師と生徒の一線を越えてしまう。
 さらにもう1人の登場人物は、長年勤めあげた軍隊を退役したばかりの退役軍人のダヴィド。これから第二の人生だ。まずはマルチ商法の商品販売員になるが、うまく行かない。憂さ晴らしに、夜間、人けのない暗い夜道に車を止めて、山のすそ野に向けて拳銃を乱射する。

 翌朝、ダヴィドが拳銃を撃った辺りでアラブ人男性の死体が発見される。銃で撃たれたらしい。警察が現場検証をしている。その夜、ダヴィドは密かに現場に向かい、自分の銃の薬きょうを路上で拾う。
 もうひとりの翌朝。女性教師の下着姿の画像がネットに公開され、学校では生徒たちが騒ぐ。これを知った教師の息子は、母親の相手をした男子生徒を襲い、握った大きな石で生徒の頭部を一撃する。

 さて、実は、この4人の登場人物は、何不自由ないユダヤ人一家の親子4人なのだ。(う~ん、設定に無理があり過ぎ)
 ダヴィドが警察に呼び出される。彼が出向いて分かったことは、呼び出したのは警察ではなく、国家警察だった。ダヴィドは夜間の乱射を告白したが、彼らはそれを問題にしない。(たぶんアラブ人の死とは関係なかったのだろう) 彼らはダヴィドに協力してくれと言う。テロ犯罪者を追っている。あなたの娘・イファットが会っているアラブ人だ。娘のスマホに、あるアプリを密かに入れ込んでくれ。
 一方、教師の妻は自身の行為を、夫・ダヴィドに告白しようとするが、ダヴィドはそれを制した。そして言った。私たちは、これからも夫婦だ。
 ところで、イファットが会っていたアラブ人だが、その後、逮捕された。イファットはそのニュースを見て驚く。

 この映画の監督は、エラン・コリリン。彼の「迷子の警察音楽隊」(2007)は、コミカルで奇妙で少し悲しいドラマが良かった。映画製作にあたっての監督のテーマは、ユダヤ人・アラブ人、あるいはイスラエルとパレスチナやエジプトといった関係性を問うものだ。それにしても、この映画「山のかなたに」はアカン。
 映画 「迷子の警察音楽隊」の記事は、こちらからご覧ください。

 その他のイスラエル映画 ~ これまでに記事にした作品です。 映画タイトルをクリックして、ご覧ください。

 「ジェリーフィッシュ」   監督:エトガー・ケレット、シーラ・ゲフェン 2007年
   3つのエピソードを追う映画。イスラエルのリゾート地でもあるテルアビブの街での話。
   海から来た不思議な女の子、黒いドレスの詩人の女性、フィリピンからイスラエルに出稼ぎに来たジョイ。
   この3人の女性がキーで話は展開します。 

 「若さ」   監督:トム・ショヴァル 2013年  第14回東京フィルメックス上映作品でした。

   イスラエルのテルアビブ近郊が舞台。アパートに住む両親と兄弟。
   長男18歳は、徴兵されて来週には家を出る。しかし兵役に就く前に、兄弟にはやることがあった・・・。   
   (リンク先のページの下の方に「若さ」の記事があります) 

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プロフィール

やまなか

Author:やまなか
 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めて8年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

<一話一夜の方針かな>
 1)古今東西の映画を分け隔てなく並べて、気に入った映画を選びます。
     
 2)以前に観た映画でも、もう一度あらためて観てます。むかし感じた印象と大きく異なることも多いからです。

 3)「素」な気持ちで、「映画作品そのもの」に向き合うことが、私の遊びです。
 作品自体が語りかけてくること以外の額縁情報、つまり宣伝文句、その受け売り文章、受賞実績、監督発言、出演俳優がどうしたとか、そして映画評論本やらは、はなから無視して、自分の眼で観るようにしています。

 4)観て気に入らない映画、つまんない映画は、基本掲載しません。
 だから、観たけど掲載しない映画は多いです。巨匠の名作と言われる映画も、気に入らなければ掲載しません。また、名物にうまいモノなし、ということも実感します。

 ただし、まだ観てない映画は、たくさんあります。こんな一夜一話ですが、今後も、見に来てください。   
 美術や音楽、書籍や温泉の記事も増やしたいと思っています。よろしく。  

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