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洋画評だけ見る 直近50作 Archive

映画「ウェイクアップ!ネッド」 監督:カーク・ジョーンズ

上

1-0_20180219205348cf6.jpg これはイギリスの隣国アイルランドにある離島で起きた出来事。
 この小さな島の住人の誰かが一枚の宝くじを買い、なんと12億円を当てたのです。(約700万アイルランドポンド)

 こんな時、誰しも私が当てましたなんて言わないもの。島民は新聞記事で知りました。
 さあいったい誰が当てたのか。ジャッキーとマイケルはその誰かをつきとめようと行動に出ます。
 島で一軒の呑み屋に出かけたり、目星をつけた人々を自宅に招待してパーティを開き様子を見ましたが、それと思しき奴がいない。
 しかしパーティが終わってはたと気づいた。招待客の一人ネッドが来なかったのだ。奴は感づいたか。

 ジャッキーがネッドの家に行くと、ネッドは家のソファに座った姿で死んでいた。片手に宝くじを持って。ネッドは一人住まいなのです。
 ここでジャッキーは、マイケルをネッドに仕立てて、ネッドの賞金を横取りしようと考えます。

 宝くじの社員がヘリに乗って島を訪れます。
 島に着陸し用意された車で、その社員はネッドの家へ向かおうとしますが道が分からず海べりに出た。
 ちょうどこの時、ジャッキーとマイケルが海水浴をしていた。
 ジャッキーは道案内をしようと言い、その社員の車に乗りネッドの家へ。マイケルは着替える時間もなく慌てて裸でバイクにまたがりネッドの家へ。
 なんとか間に合って、マイケルは宝くじの社員に対しネッドを演じた。

2_20180219205648e4a.jpg そおしてジャッキーとマイケルは12億円を折半したかって? いやいや、それは観てのお楽しみ。
 ← ちなみに、映画冒頭のこのシーンに騙されないようにね。

オリジナルタイトル:Waking Ned Devine
監督・脚本:カーク・ジョーンズ|イギリス|1998年|92分|
撮影:ヘンリー・ブラーム|
出演:ジャッキー(イアン・バネン)|マイケル(デイビット・ケリー)|アニー(フィオヌラ・フラナガン)|ネッド(ジミー・キーオ)|リジー(エイリーン・ドロミー)|ほか

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映画「ガッジョ・ディーロ」  監督:トニー・ガトリフ

上

 ルーマニアの辺境にあるロマ集落にたどり着いた一人のフランス人青年、ステファン(ロマン・デュリス)。
 ロマ語もルーマニア語も解さないステファンが、なぜここへ来たのか。

 ステファンの父親は世界を旅する男であった。ステファンは父親を慕っていたのだろう。父親が旅先で録音した、遺品のカセットテープをこれまで幾度も繰り返し聴いてきた。それは哀愁あるロマの女の歌声であった。
 ステファンはその歌声の向こうに、父親が抱いた旅路のロマンを夢想した。そして、いつしかステファンはロマ音楽の魅力に取り憑かれる。ステファンはテープレコーダーと幾本ものカセットテープを持ってルーマニアへ旅立った。

1-0_20180202124406cc2.png 映画のタイトル名「ガッジョ・ディーロ」とは、ロマ語で「愚かなよそ者」を意味する。
 地元のルーマニア人も近づかないロマ集落に、ある日突然、ステファンが現れる。集落は一斉に、にわとり泥棒だなどと、ざわめき始める。

2-0_20180202124549c25.jpg そんなロマ人のなかで、ステファンに好意を抱く老人がいた。イシドールだ。
 イシドールの一人息子が警察沙汰で遠くの刑務所へ連れ去られたその日に、ステファンが集落に現れた。イシドールはしばらく会えない息子への思いを、ステファンに投影することで気が安らぐのであった。
 そうしてイシドールはなにかとステファンの面倒をみてやった。ロマ語も教えた。

 もう一人、ステファンに好意を抱くロマが現れる。サビーナ(ローナ・ハートナー)だ。ローナ・ハートナーはルーマニアの女優、歌手、作曲家。(ウィキペディアによる)
 そのうち、ふたりに恋が芽生える。ステファンはイシドールやサビーナの助けで集落に受け入れられるようになる。
 そしてステファンは、ここへ来た目的だったロマ音楽の収録を始めた。

 映画は各シーンで、ロマの素晴らしい演奏をドキュメンタリー風に見せ、また人の心あたたかくも貧しい生活の様子を伝える。
 観客はいつしか、自身もこの集落に滞在するかのような気持ちになる。(そうなれば、本作が好きになるかもしれない)

 ラスト近くになって、映画はロマに対する差別を言う。
 刑期を終えてイシドールの息子が帰ってきた。父親はじめ集落の人々は彼の帰還を大いに喜んだが、息子は自分を警察に密告したルーマニア人を酒場で見つけ襲った。
 そののち、ロマの集落を多数のルーマニア人が襲撃し、あばら家のような家々を焼き払う。この時イシドールの息子は焼死した。

 ラストシーン。
 ステファンは車に乗り、集落をあとにした。だが何を思ったのか、荒野を走る一本道の途中で車を止めた。
 そしてステファンはそっとつぶやいた。「俺ってバカだな」
 車を降り立ったステファンは、おもむろに路肩に穴を掘り、録りためたカセットテープを次々に壊して埋めた。
 その壊す音で目を覚ました女が、後部座席からむっくりと起き上がった。サビーナであった。

 たぶんふたりは、ステファンの母が待つパリへ行くのだろう。
 ステファンは大人として目覚めたのだ。
 父親が抱いた旅路のロマンをなぞってロマの人々を慕う気持ちから、目の前にいるサビーナを一人の女として愛することへと。

 映画のなかで流れるロマ・ミュージックを楽しんでください。

 ※ご参考
 1991年にはブカレスト近郊のボランタン村でロマの家100軒が数百名の暴徒に襲われ、焼き討ちに遭う事件が起きている。
 伊藤千尋・著『「ジプシー」の幌馬車を追った』p.218、1999年発行(ウィキペディアによる)
オリジナルタイトル:Gadjo Dilo
監督・脚本・音楽:トニー・ガトリフ|フランス、ルーマニア|1997年|100分|
撮影:エリック・ギシャール|
出演:フランス人青年ステファン(ロマン・デュリス)|ロマの女性サビーナ(ローナ・ハートナー)|ロマの老人イシドール(イシドール・サーバン)|その他にイシドール・サーバンはじめ、多数のロマ人素人俳優が登場する。

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映画「スペースボール」 監督:メル・ブルックス

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1-0_20180131203116a7c.jpg 「スター・ウォーズ」のパロディ版です。
 とことん、おバカなSFコメディ。気分転換したい時にでもご覧ください。
 なにしろ徹底的に「スター・ウォーズ」をおちょくってます。さらにラスト近くで「エイリアン」も出てきます。

 ウィキペディアによると、パロディ版を作るにあたってジョージ・ルーカスが快諾したとのこと。だから、躊躇なく正面切って堂々と製作していて、それが本作をいい映画にしています。笑えます。

 話は、スペースボール星人が自身の星の大気を使い果たし、ドルイデア星から大気を奪おうとする。
 スペースボール星のスクルーブ大統領(メル・ブルックス監督)と、チビのダーク・ヘルメット(リック・モラニス)は、ドルイデア星の王女・ヴェスパ姫を拉致して、ヴェスパ姫の父親・ローランド王を脅し、大気を覆い囲むバリアを解除する「暗証番号」を聞き出そうとする。
2-0_20180131203252b79.jpg ローランド王から、100万宇宙ドルの賞金を出すから姫を取り返してくれと頼まれたローン・スターとバーフは、スペースボール星人と戦うのである。
 さらには、聖者ヨーグルト(メル・ブルックス監督が二役)は、ローン・スターに力シュワルツの力(フォース)を授ける。そしてローン・スターは、ダーク・ヘルメットとライトセイバーもどきで一戦を交える。
 さてさて、このあとは、観てのお楽しみ。
オリジナルタイトル:Spaceballs
監督:メル・ブルックス|アメリカ|1987年|96分|
脚本:メル・ブルックス、 トーマス・ミーハン 、ロニー・グラハム|
撮影:ニック・マクリーン|
出演:イーグル5号の船長ローン・スター(ビル・プルマン)|ローン・スターとタグを組む乗組員、人間と犬のミックスのバーフ(ジョン・キャンディ)|ドルイデア星のヴェスパ姫(ダフネ・ズニーガ)|スペースボール星のスクルーブ大統領/聖者ヨーグルト(メル・ブルックス)|ダーク・ヘルメット(リック・モラニス)|ヴェスパ姫の父親・ローランド王(ディック・バン・パテン)|ヴェスパ姫の結婚相手・アクビ王子(ジム・J・ブロック)|ヴェスパ姫の召使ロボットのドット(ロレーン・ヤーネル)|

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映画「断絶」(1971年) 監督:モンテ・ヘルマン

上3

1-0_20180124161343139.jpg
 The Driver(ジェームズ・テイラー)とThe Mechanic(デニス・ウィルソン)、この二人の男がアメリカの各州を放浪するアメリカン・ニューシネマ。
 オリジナルタイトルは「Two-Lane Blacktop」(アスファルト舗装道路)。

 彼ら二人が乗る車は、レース仕様に改造した1955年型シボレー。モンスターなエンジンを積んでいる。兎に角、速い!
 改造車マニアやスピード狂がどの州にもいて、直線コースでスピードを競うドラッグレースが各地で日常的に行われている。
 The DriverとThe Mechanicの二人は、そんなドラッグレースを渡り歩き、レースに勝って賭け金を得ては又、次のレースを求めて各地を巡るのだ。
 二人はレースに対しとてもストイックで、その生きざまはアウトサイダー。

 この話に華を添えるがThe Girl(ローリー・バード)という家出娘。ヒッチハイクで気の向くままに放浪している。
 ストーリーは、The Girlが1955年型シボレーに拾われて進んでいく。

2-0_20180124162908edf.jpg さらにはGM製マッスルカー、ポンティアック・GTOの新車に乗る中年男、G.T.O(ウォーレン・オーツ)が登場する。
 G.T.Oは何やら孤独を背負う中年。ヒッチハイクの人を乗せては、を繰り返しながら、行く当てもなくこいつも放浪している変人。
 The Driver、The Mechanic、The Girlの若いの3人が無口なのに対して、このおっさんはヒッチハイカーにその都度、有ること無いこと口から出まかせ、よくしゃべる。

 映画は、1955年型シボレー組とポンティアック・GTOの、一般道長距離レースを軸にゆっくり展開するが、話に起承転結はない。カーアクションを求める向きは肩透かしを食らう。(ただし、ラストシーンは意味深長だ)

 おそらく映画は、語られる話(=近景)の向こうにある、1971年のアメリカを感じ取ってくれと言っている。
 つまり、映画で表現される様々な中に、作者が思う1971年のアメリカが比喩的に表現されている。それをくみ取って観てみましょう。

 ちなみに、The Driver役のジェームズ・テイラー、The Mechanic役のデニス・ウィルソンは、ともに著名なミュージシャン。
 ついでに言うと、漫画家、大友克洋の作品「ハイウェイスター」は、この「断絶」にインスパイアされたと思う。1955年型シボレーは、1950年代のトヨペット・クラウンになっている。
オリジナルタイトル:Two-Lane Blacktop|
監督:モンテ・ヘルマン|アメリカ|1971年|102分|
原作:ウィル・コリー|脚本:ルディ・ワーリッツァー、ウィル・コリー|
撮影:ジャック・デールソン|
出演:The Driver:ジェームズ・テイラー|G.T.O:ウォーレン・オーツ|The Girl:ローリー・バード|The Mechanic:デニス・ウィルソン|

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映画「国際市場で逢いましょう」(2014年) 監督:ユン・ジェギュン

上1
上2
















 朝鮮半島に住む人々の親子親戚の強い絆と、生き抜くエネルギーを描く、結末はハッピーエンドなドラマ。
 コミカルなシーンもたくさんある娯楽映画ですが同時に、朝鮮民族が背負った苦難の歴史を通史として見せてくれます。

01-_20180112134526771.jpg 話は、南北の軍事境界線で半島が分断されることになる朝鮮戦争(1950-53)で、北側に住んでいた親子6人の一家が住む場所を追われ、無数の難民の波に飲まれるところから始まる。
 世界を二分する冷戦が朝鮮半島におよぼしたこの戦争は、たまたま北や南に住む庶民にとっては、外国が絡む、降ってわいたような内戦だったのかもしれません。

 とにかく、米軍の軍艦(難民引き揚げ救助船)に、間際で乗船できなかった父親と末の妹とに生き別れとなってしまった母親と子供3人は、釜山に住む父方の叔母の家に落ち着いた。(ここが国際市場と呼ばれる商店街)
02-.png そのころ、釜山の街は米軍兵士がたくさんいて、ちょうど日本の戦後直後の進駐軍によるギブミーチョコレートの様相そのものであった。そして、北から避難した人々は釜山の人々から「アカ」と呼ばれ始める。

 主人公となる、一家の幼い長男・ドクス(ファン・ジョンミン)は、生き別れとなる間際に、父親から「私にかわってお前が家長になるんだ。家長はどんな時でも自分よりも家族のことが優先だ」と、家族の団結と幸せを任されたのであった。

 青年となったドクスはお金を稼ぐため、政府の試験に合格し、西ドイツの炭鉱に炭鉱労働者として2年間派遣される。
 その稼ぎは、家族の生活費はもちろんだが、次男のソウル大学の学費のためでもあった。
 たしかに稼ぎは良かったけれども、ドクスが落盤事故に会うといった危険な仕事でもあった。
 しかし西ドイツの地でドクスにとって見返りもあった。それは、看護師として派遣されていた、のちに妻となる韓国人女性・ヨンジャ(キム・ユンジン)と出会えたことであった。

 (このあたりの史実は下記のKBS WORLD Radio のサイトに掲載の「コリア70年 西ドイツへ向かった韓国の青年たち」に詳しいようです)
 http://world.kbs.co.kr/japanese/program/program_kpanorama_detail.htm?No=10037233

 帰国後ドクスはヨンジャと結婚したが、国際市場で商いをする叔母の店を手伝うも、ドクス一家を養う金は生まれない。
 ドクスはベトナム戦争最中のベトナムへ兵隊としてではなく出稼ぎに行く。(韓国軍のベトナム派兵は1964-72)
 がしかし、現地でドクスは片足を負傷し義足となった。

3-1_201801121349260c0.png それからまた時が経ち、弟妹も結婚し孫達も生まれ一家は大人数となった。
 そんなころ、南北分断の結果、離散してしまった家族との再会の場として、テレビ番組が放送されていた。
 これに出演したドクスは、父親には会えなかったものの、幸運にも末の妹と再会できた。
 妹はアメリカ人の養子となってアメリカにいたのであった。

 余生を生きる今、ドクスは回想する。 父親から「私にかわってお前が家長になるんだ。家長はどんな時でも自分よりも家族のことが優先だ」と、家族の団結と幸せを任されたことが、なんとか成し遂げられたと・・。


下

オリジナルタイトル:국제시장
監督・脚本:ユン・ジェギュン|韓国|2014年|127分|
撮影:チェ・ヨンファン|
出演:ドクス(ファン・ジョンミン)|その妻ヨンジャ(キム・ユンジン)|ドクスの親友で西ドイツ、ベトナムにも一緒に行ったダルグ(オ・ダルス)|ドクスの父親(チョン・ジニョン)|ドクスの母親(チャン・ヨンナム)|ドクスの叔母(ラ・ミラン)|ドクスの上の妹クッスン(キム・スルギ)|ほか

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映画「希望のかなた」(2017年) 監督:アキ・カウリスマキ

上

1-0_2018010321382586f.jpg アキ・カウリスマキ監督「節」が楽しめます。
 フィンランドにたどり着いたシリア難民青年の話ですが、深刻さは余り感じ無い軽い作りです。
 加えて、監督独特の、いつものトボケた可笑しさも織り込まれています。でも、難民流入問題を軽んじているわけではありません。
 また、監督の映画が好きな方は、常連俳優たちの登場や、監督好みの音楽が楽しめます。
 
 青年カーリドは、戦乱のシリア北部の都市アレッポを離れ、トルコ、ギリシャ、ハンガリー、ポーランドを経てフィンランドのヘルシンキの港にたどり着く。
 カーリドは早速、警察に出向き難民申請を願い出て、難民の一時滞在収容施設に落ち着いた。
 施設にはシリア、イランやアフリカ諸国からの多くの申請者がいる。

 さて話は変わって、フィンランド人のヴィクストロムという男は、アル中の妻を置いて家を出、賭博で大金を得て、その金でレストランを買った。
 その頃、カーリドは難民申請が却下され、シリアへの強制送還の決定が出る。
 帰国したくないカーリドは施設を抜け出し街をさ迷い、ヴィクストロムのレストランの前の物陰に潜んでいた。
 ヴィクストロムはカーリドを見つけ、この店で彼を雇い、倉庫に住まわすことになる。

 映画はさらに、レストランの従業員たちとの可笑しなシーン、ヘルシンキのネオナチがカーリドをつけ狙う話、シリアを出てから生き別れとなったカーリドの妹との再会などの話を語ります。 
 そしてラスト、ネオナチに襲われたカーリドの運命は・・。 

オリジナルタイトル:TOIVON TUOLLA PUOLEN
監督・脚本:アキ・カウリスマキ|フィンランド|2017年|98分|
撮影:ティモ・サルミネン
出演:カーリド(シェルワン・ハジ)|ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)|カラムニウス(イルッカ・コイヴラ)|ニルヒネン(ヤンネ・ヒューティアイネン)|ミルヤ(ヌップ・コイブ)|ヴィクストロムの妻(カイヤ・パカリネン)|ミリアム(ニロズ・ハジ)|マズダク(サイモン・フセイン・アルバズーン)|洋品店の女店主(カティ・オウティネン)|収容施設の女性(マリヤ・ヤルヴェンヘルミ)|

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映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」 主演:ヘレン・ミレン 監督:サイモン・カーティス

上
「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」

1-0_20171218161131722.jpg
 事実に基づいた映画ですが、ハラハラワクワクのエンターテイメントな仕上がりになっています。
 この有名な絵画の背景を知ることができる面白い映画です。
 映画は、絵画の所有権を巡って主人公が裁判で勝訴するストーリーですが、法廷内の論争シーンは多くなく簡潔。よって字幕を懸命に追わないと置いて行かれるという様なことはありません。

 オーストリアのユダヤ人実業家がクリムトに描かせた妻の肖像画(1907年完成)は、戦時中、ナチスドイツによって強奪され、戦後その絵は、オーストリア政府の美術館にて所有されていたました。(ウィーンのベルヴェデーレ宮殿内にあるオーストリア・ギャラリーという美術館)

2-0_201712181613257fe.jpg しかし、肖像画に描かれた女性アデーレの姪にあたるマリア・アルトマン(アメリカ在住)は、この肖像画の所有権をめぐってオーストリア政府を相手取り裁判を起こし、2006年にやっとオーストリア政府から取り戻しました。
 映画はこのマリア・アルトマンを主人公(ヘレン・ミレン)にして、ことの顛末を物語にしています。

 事実はこうでした。
 実業家のフェルディナント・ブロッホ=バウアーの妻アデーレ(1881- 1925)は、自分の肖像画をオーストリア・ギャラリーに寄贈するようにと遺言を残し、1925年に死去しました。
 しかしその後、夫のフェルディナント(1864- 1945)は、肖像画の所有権はもともと自分にあるとして、絵画をオーストリア政府へ寄贈せず、遺言で甥姪に相続するとして1945年に死去しました。(芸術愛好家フェルディナントはクリムトへの発注主でありクリムトのパトロンでした)

 つまりオーストリア政府はアデーレの遺言に基づき肖像画を所有してきました。
 一方、相続人の一人、マリア・アルトマンは弁護士とともに、叔父のフェルディナントの遺言書を資料館から発見し、オーストリア政府を相手取り訴訟を起こします。

 この有能な若き弁護士は、マリア・アルトマンの友人の息子ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)でした。
 ランディの祖父は、オーストリアの作曲家アルノルト・シェーンベルクというのも興味深い話です。
 
 肖像画は、138 x 138 cm 、油彩で描かれその上に金彩を施した絵画。
 勝訴までは「黄金のアデーレ」と呼ばれた肖像画は、その後「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」という名に変わりました。
 マリア・アルトマンは勝訴したのち、絵は家に置かず、美術館で公開展示していました。
 そこへ、ナチスがユダヤ人から強奪した美術品を収集することを使命とする人※が、この絵を買い取りました。
 買取額は156億円(1億3500万ドル)で、現在ニューヨークのノイエ・ガレリエに展示されているそうです。

 ※ロナルド・ローダー
 ノイエ・ガレリエは、かつてナチスがユダヤ人から収奪した美術品を現代の所有者から取り戻し、所蔵。
 ローダーは自身が駐オーストリア米国大使だったころからこの問題に取り組んでおり、「ユダヤ人損害賠償世界機構(World Jewish Restitution Organization)」の一員であり、クリントン政権時代にはナチスの略奪事件の査問委員会にも属していた。
 ローダーは本作の獲得について「これは我々にとってのモナ・リザである」とコメントしている。(なるほど)
 (wikipediaの「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」から引用)
 ノイエ・ガレリエの公式サイト:http://www.neuegalerie.org/

 ちなみに、20世紀初頭、画家クリムトは上流階級の婦人たちの肖像画を多く手がけていたようです。

オリジナルタイトル:WOMAN IN GOLD
監督:サイモン・カーティス|アメリカ、イギリス|2015年|109分|
脚本 アレクシ・ケイ・キャンベル
出演:マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)|弁護士ランドル・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)|ほか

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映画「影」(1956年) ポーランド  監督:イェジー・カワレロウィッチ

上2



1-0_20171209174005071.jpg
















 ポーランド人民共和国、時は1950年代、共産主義時代初期のころの話。
 (ポーランドの共産主義時代1945~1989年)

 炭坑労働者ミクラは、ビスクピックというボスに頼まれて、密かに男たちを坑内に入れたのであった。
 しかし男たちは、坑道内で爆薬を仕掛けたテロを実行し、多くの犠牲者が出る大事件となった。
 ミクラは驚いた。そして俺が疑われると感じたミクラは、実行犯の侵入を依頼した男を急いで探し、事の次第を問いただしたかった。

 男が乗ったという列車が、まさに駅を発車しようとしていた。
 ミクラは、その列車に飛び乗り、男を探して車内を巡った。男はいた。男はミクラを見て車内通路を逃げる。そして男はついに、走る列車から飛び降りた。だが即死であった。

 その飛び降り現場を若い男女が偶然に目撃し警察へ連絡した。
 男の死体はさっそく警察に運ばれ、医師クニシンによる検死が始まった。

 一方、男が飛び降りたそのあと、ミクラは次の駅で降りたところで、駅員に無賃乗車で捕まった。
 そののち警察はミクラの供述から、この列車飛び降り事故の真相を知ることとなった。

 映画はこの話を語る中で、2つの回想シーンを挿入する。
 その1つは、飛び降り死した男を検死する医師クニシンの語る話。

 回想は第二次世界大戦中の1943年にクニシンが体験した事件。
 当時、ポーランドはナチスドイツの占領下にあった。若きクニシンはレジスタンスとして活動していた。
 ある日、クニシンらレジスタンスは、活動資金を得るため、あるドイツ人高利貸しの店を襲い金を奪おうとしていた。
 そこへ別の男たちが店に来て銃撃戦となった。だが、相手はドイツ軍ではなかった。
 あとで分かった事だが、撃ち合った双方は組織こそ違え、ともにレジスタンスの男たちであった。
 これは明らかに意図的にレジスタンス組織間の争いを誘う誰かの企てであった。
 双方のレジスタンス組織に、店襲撃計画と襲撃時間を勧めたのは一体誰なのだろうか。だが当時、ことは謎に終わった。

 今にしてクニシンは振り返る。銃撃戦のあと、負傷した男を抱きかかえ、通りに出ると、ちょうどビスクピックが荷台付自転車に乗ってそこを通りかかった。クニシンは負傷した男をその荷台に乗せて現場を去ることができたのだ。
 それにしてもビスクピックの出現は偶然だったのか。ちなみに、ビスクピックという男は、クニシンらレジスタンスの活動拠点を提供していた男であった。

2-0_20171209175457979.jpg もう1つの回想は、列車飛び降り事件の捜査を総指揮する老刑事カルボウスキーが、ビスクピックという名を部下から聞いて思い出した話だった。
 それは終戦直後の混乱時期(1946年)に、カルボウスキーが政府軍兵士として体験した襲撃作戦であった。
 当時、「小隊」と呼ばれる武装集団がいて、村々で略奪を繰り返し、村人たちを虐待し恐れられていた。
 しかし、この「小隊」の戦闘能力は優れていて、政府軍はいまだ彼らを鎮圧できずにいた。
 そこでカルボウスキーら志願兵は、その身分を偽り、武装集団の本陣に入り込み、隠し持った手りゅう弾で首領ら幹部を亡き者にした。
 この襲撃作戦で判明したことは、「小隊」が政府軍兵士の中に、スパイたちを潜り込ませていたことだった。これを画策した人物は、ビスクピックという名の男だったと、当時、カルボウスキーは聞かされた、ということであった。

 以上、映画は、3つの出来事に謎の男を登場させる。
 これが「影」である。それぞれのビスクピックという名の男は同一人物なのか。

 映画は、謎の「影」を登場させたスリラー仕立ての作品である。
 だが、なぜ、「影」を悪者とするのだろうか。
 「影」とは、たぶん、1939年以来、ソ連に刃向かい続けたポーランド亡命政府なのだろう。

 映画のテーマは学ぶべき重要なことだが、映画の作りは、総じて巧くない。傑作とはとても言い難い。 

オリジナルタイトル:CIEN|The Shadow|
監督:イェジー・カワレロウィッチ|ポーランド|1956年|98分|
脚本:アレクサンドル・シチボル・リルスキ|撮影:イェジー・リップマン|
出演:医師クニシン(ズィグムント・ケンストウィッチ)|ビスクピック(イグナチー・マホフスキー)|ミクラ(タデウシュ・ユラシュ)|カルボウスキー(アドルフ・フロニッキー)|ヤシチカ(エミール・カレウィッチ)|ほか

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台湾映画「ジョニーは行方不明」,ワン・ビン監督香港映画「ファンさん」,インドネシア映画「見えるもの、見えざるもの」 ~第18回東京フィルメックス上映作品

この3作品の中では、冒頭の「ジョニーは行方不明」が抜きんでて良い。

『ジョニーは行方不明』   Missing Johnny|強尼・凱克|【コンペティション対象作品】
台湾|2017|105分|監督:ホァン・シー(HUANG Xi)|
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 いい映画です。
 インコを飼う女と、知的障害が少しある少年、そして建物修理便利屋の男が登場する。舞台は台北の街。

 女がひとり住むアパートに少年の家族も住んでいる。だからこの2人は見知らぬ関係ではない。
 便利屋の男が働く現場に少年も下働きとして働いているが、男が少年を雇っているわけではない。
 女の部屋はアパート屋上にあるペントハウスで、その屋根に登って、ある日、男が雨漏り修繕をする。

 映画はこのように、3人は互いに浅い関係にあることを示していく。
 観客の方は、ここから次に何か物語が紡ぎだされるのではと期待しつつ待つことになるが、この導入部的なものが、物語の前奏曲的なものが、実は後半まで続いていく。
 その前奏曲に描き込まれるのは、台北の都会の中で、3人それぞれが抱える孤独の事情だ。
 この前奏曲はとても静かで繊細で美しい。

 そして映画はラストに向かう。
 同郷の男がアパートに現れる。女はこの男に長年囲われて来たのだが、その夜、もう耐えきれずに女は部屋を出て逃げる。
 出たところに偶然、便利屋の車が駐車していた。
 買い物を終えた便利屋が車に乗ろうとして、車内の女に気付く。ふたりの無言が続く。
 そしておもむろに便利屋は車を走らせる。

 ラストシーン。一番の見せ場である。
 夕暮れの台北市街を背景に、高速道路インターチェンジの遠景映像。
 その遠景の中、女を乗せた車が突然、インターチェンジ入口へ向かう登り坂で止まってしまう。エンジン故障で道をふさいでしまった。
 すぐに渋滞発生。車を降りて慌てる男と女。女は車を懸命に押す、後ろの車の運転手も手伝い始める。
 やがて、後続車が動き出す。
 陽が落ちるのは早い。映像は夜景となり、幾重にも交差する高速道にたくさんのヘッドライトが行き交う。
 それは台北に住む幾多の人生が行き交う夜景。その中に男と女もいる。 
 そして、どこかから舞い降りた安堵が観客を包む。

 本監督のデビュー作。
 あのホウ・シャオシェン監督に教えを受けて来たとのこと。
 作柄は、ホウ・シャオシェンに通ずるところもあるが、より繊細で21世紀的。
写真
便利屋の男
写真
知的障害が少しある少年

『ファンさん』   Mrs. Fang|方繡英|【特別招待作品】
香港、フランス、ドイツ |2017| 87分|監督:ワン・ビン (WANG Bing)|
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 認知症の老婆が自宅で衰弱死していく。
 その様子を凝視する監督独特のスタイルで映画はすすむ。

 老婆はもう話はできない、表情は無く意識はもうろうとしている。娘や息子や孫、親せきが集まって来る。
 彼らはベッドサイドで老婆を見守りながらも、静かではない。

 彼らの間で会話が絶えない。大きな声の話。
 それは、親族の集まり具合が悪いの、誰それがどうのこうのといった話。向こうの人はよく言い合いよくしゃべる。
 こういうシーンが長回しで続く。
 そおして、このごく普通の田舎の人々それぞれの生活意識が少し見えてくる。

 今回の作品は定点観測だ。撮影場所は屋外もあるが、多くはこの家のベッドサイド。
 一点を掘り下げる。がしかし、展開に乏しく飽きる。字幕に現れない情報を我々が取れないからかもしれない。

 安らかな死とは言えなくとも、事故死や突然の死ではない限り、見送る時、当事者は意外に冷静なものだ。
21_20171125115155796.jpg22_20171125115156d25.jpg

『見えるもの、見えざるもの』   The Seen and Unseen|【コンペティション対象作品】
インドネシア、オランダ、オーストラリア、カタール|2017|86分|監督:カミラ・アンディニ(Kamila ANDINI)|
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 仲の良い双子の姉弟の話。
 弟がある日突然に倒れ入院した。脳腫瘍だった。
 病室で姉が弟に寄り添う。
 弟に寄せる姉のその思いを、バリの民話になぞらえて映画は幻想的に表現していく。

 こういう表現はアニメに向いている。
 実写だと、どうしても、大人が振り付けをした子供の芝居にしか見えない。
 そうは言っても、白い服の精霊(?)役の子供たちが、身体を丸くして病室の床や草原をマリのようにゆっくり転がる振り付けは、実写でも幻想的だった。舞踏派の舞台のようであれは悪くない。

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中国映画「相愛相親」,「天使は白をまとう」,「氷の下」 ~第18回東京フィルメックス上映作品

これら3作品の中では、「相愛相親」がいい出来です。

『相愛相親』   Love Education|相愛相親|【特別招待作品】
中国、台湾|2017|120分|監督・主演:シルヴィア・チャン(Sylvia CHANG)|
10_2017112210015589f.jpg
 女性監督(兼主演)によるホームドラマ、女性目線の映画です。
 喜劇的な場面があり、女性観客の間から時折クスクス笑いが聞こえました。
 また、シーンの切り返しに独特のリズムがあって、これが心地良い印象を与えています。 

 中年の主人公が母親の遺骨を、父親が眠る故郷の墓に埋葬しようとするが、故郷に住む父親の先妻に断固反対される話です。

 父親はその昔、先妻を故郷に残し出稼ぎに出た切り、故郷へ帰らず、都会で知り合った女性と結婚。この女性が主人公の母親でした。
 この間永い間、先妻は夫が帰って来るのを辛抱強く待ちました。そして遺骨となって帰って来てからは墓守をして来たわけです。だから故郷の村人たちは先妻の肩を持ちます。

 こんな筋書きを飾るエピソードが三つ。
 ひとつが、埋葬騒動を番組ネタにしようとするテレビ局。
 ふたつめは、主人公の娘。娘は当初、この内輪もめを客観視していましたが、そのうちに、孤独に生きる先妻に興味を持ち始め彼女に近づいていきます。
 もうひとつは、主人公の夫。尻に敷かれても、おっとりした夫。この俳優、いい味を出していますが俳優ではない。
 (本業は映画監督で名はティエン・チュアンチュアン。「青い凧」「ジャスミンの花開く」「ルアンの歌」「五月の恋」などで知られる人物)
 もちろん主人公を演ずる監督のシルヴィア・チャンもいいですね。

 ちなみに映画に出てくるシーンですが。
 TSUTAYAがやっている書店を中心にした生活提案型の店舗のような店、あちらの新幹線、モダンなマンションの部屋などなど、どれも日本と変わらない。いわゆる中国っぽいと思えるシーンは、先妻の住む古風な家屋くらいでしょうか。
 映画は、現代の中国の都会に住む家族の様子がよくわかります。
写真
娘は彼氏と家出し先妻の家へ。
彼氏はミュージシャン。
写真
その昔は夫が好きだった。
そんなことさえ忘れていた妻。

『天使は白をまとう』   Angels Wear White|嘉年華|【特別招待作品】
中国|2017|107分|監督:ヴィヴィアン・チュウ(Vivian QU)|
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 ふたりの少女が主人公のお話です。
 家出をし各地を転々としたのち、この海辺のリゾート地へ流れ着いた16歳の少女(左写真)。
 彼女は小さな(ラブ)ホテルで住み込みの従業員をしている。

 もうひとりは、私立名門校の小学生の女の子。母親と二人住まいだが、母は娘の面倒を見ない女。
 この子は同級生と一緒に、地元の名士に誘われホテルで一泊し援助交際をしたが、16歳の従業員が従業員としてこのことを目撃する。

 のちにこれが発覚し事件となり、地元警察が動き出して、小学生の少女二人は親同伴で病院にて検査を受けることになる。
 名士関係者やホテルのオーナーはもみ消しを図るが、噂は広がる。
 名士は少女の親に金で働きかける。今後の教育費の面倒をみると。
 ついに警察も名士の味方をする。事件は無かったことになってしまう。そして少女たちは・・。

 脚本が練れていない。物語を巧く物語れていないのだ。
 また、二人の少女の心の様子が描き切れていない。俳優のだんまりだけでは伝わらない。ただし、小学生役の少女の目つきは、多部未華子のように鋭い。
 根底にある社会批判がぬるいのは、致し方ないか。 
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『氷の下』   The Conformist|氷之下|【コンペティション対象作品】
中国|2017|126分|監督:ツァイ・シャンジュン(CAI Shangjun)|
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 う~ん辛い。

 コワモテ風を狙っているようだが、脚本が空中分解している。
 それを知ってか、126分間、客を飽きさせないようにと、あるいは驚かそうと、次から次へと肩に力が入った映像が出てくる。
 カメラは頑張っていたが、私は映画の終わるのが待ち遠しかった。









32.jpg31.jpg33_20171122223418470.jpg


映画「ブロンクス物語 愛につつまれた街」 監督:ロバート・デ・ニーロ

写真
「犯人は誰だ」 幼いカロジェロが目撃証人となった。みな、街のギャングだ。
犯人である組のボス、ソニーは目の前にいる。横で父親はハラハラする。



写真
カロジェロ9歳














写真
この金は誰から貰った?と父は問う
     
写真
カロジェロはボスから目をかけられ、
賭博場のサイコロ振りで小遣いをもらう。

 ニューヨークはマンハッタン北辺の、ハーレム川の向こう、そこはブロンクス。
 時は1960年代。ブロンクスの、その一区画は当時イタリア系暴力団が支配する街だった。
 これは、この街に生まれ育った少年の成長を綴るお話。そして、人種差別の偏見を越えたラブストーリー。

 少年・カロジェロと両親が暮らす家は、通りに面した3階建ての3階。
 そして隣りの店は、街のギャングの溜まり場だ。地下室は賭博の場になっていた。
 こんな環境は、自ずと9歳のカロジェロに「街のスター」である、組のボスや組員たちへの好奇心や憧れをすり込んだ。

1-0_201710281144562a0.jpg 組のボス、ソニー(チャズ・パルミンテリ、本作の脚本を書いている)は、街の住人から表向き尊敬されつつも、人々を恐怖心で支配していた。
 一方、ソニーは気に入った人間には気配りする男。教養は無いものの、人生哲学を持っていて、刑務所では難しい本を読んでいたらしい。

 ある日、カロジェロは家の前にいて、ソニーが男を射殺する現場を目撃する。
 その直後、その現場で、駆け付けた刑事は容疑者たちを集め、幼いカロジェロを目撃証人にして犯人識別を始めた。

 通りに幾人かの人の目があったはずなのに、警察に対しカロジェロを目撃証人とした、街の人々。それでいて、事の行方は面白そうだと様子をうかがう街の野次馬。

 そんな人だかりの中、息子から事件の様子を既に聞いていた父親・ロレンツォ(ロバート・デ・ニーロ)は、息子がソニーを犯人と言わないかと気を揉んだ。だが、カロジェロは「ここに犯人はいない」と言った。
2-00_201710281202044d9.jpg この時からカロジェロが17歳になるまで、ソニーとは親子のような関係が続いた。(映画は主に、このふたりの様子を描いていく)

 ソニーは何かとカロジェロに便宜を払い可愛がった。だがカロジェロは悪の道へは行かなかった。
 それはソニーがカロジェロを、自分のような道に行かせたくなかったこと(つまりソニーのカロジェロへの恩返し)、くわえて正義感ある父親・ロレンツォの存在があったからこそだった。

 黒人女性ジェーン(タラル・ヒックス)との出会い。人種を越えた愛。
 ロレンツォは、ブロンクスを巡るスクールバスの運転手だ。
 高校生になったカロジェロ17歳は、父親が運転するバスに乗っていた時、同じ高校に通うジェーンに一目惚れしてしまう。ジェーンの方もそうだった。

 だが同じブロンクスでも、カロジェロが住む一画はイタリア人の街、ジェーンが住む街は黒人街。ふたつの街はいつもいがみ合っていた。ふたりの間に壁は無くても、ふたりの周囲はそうではなかった。
 イタリア人地区を通り過ぎようとする黒人たちが襲われることもしばしばであった。しかしカロジェロはこれには加わらない。どうして彼らを虐めるのかと。
 そんな街の雰囲気のなか、カロジェロが黒人女性と付き合うことは非難の的だった。
 悩んだカロジェロは父親に話すが、正義感ある父親ではあったが、反対した。
 ソニーにも話した。彼は反対しなかった上に、付き合うに値する女性かを判断する方法を教えてくれた。

 カロジェロの幼なじみの連中は、街の不良になっていた。ソニーはカロジェロに、あんな奴らに近づくなといつも言われるが、長年の付き合いもある。カロジェロは、彼らとつるむ時はつるんでいた。

 ある夜、彼らは車に乗って黒人街へ行き、拳銃と火炎瓶で一軒の店を襲撃した。
 彼らの襲撃は成功したかにみえたが、投げた火炎瓶を1人の黒人が投げ返し、彼らの車は炎上、彼ら全員が焼死した。
 
 実は、この事件の直前、彼らに誘われたカロジェロも、これから襲撃しようとする車に悶々としながらも乗っていた。
 その様子を見かけたのか、走る車にソニーの車が近づき、ソニーはカロジェロに降りろと命令した。
 そしていつもの小言、こいつらに近づくな。そしてカロジェロはソニーの車に乗せられ、その場を去ったのだ。結果、カロジェロはソニーのおかげで命拾いをした。

3-1_201710281215259e6.jpg ソニーが死んだ。
 かつて父親をソニーに殺された男が、ソニーを撃ったのだ。即死であった。
 葬儀に加わったカロジェロは、ソニーの手下たちの誰もが悲しまずにいることを、冷めた目で眺めていた。
 カロジェロは、葬儀が終わっても、棺の前にひとりいた。そして、眠るソニーに言った。「これからもジェーンと付き合っていくよ」 

 警察に嘘をつき悪者ソニーを救ったカロジェロの心の迷いに注目してください。
 父親はカロジェロに「大人になれば分かる」と言うが、これじゃ子供には分からないですね。それと脚本上、父親の存在が薄い。
 カロジェロがサイコロを振って、もらった多額の金をソニーに返すと父親が妻に言うシーン、稼ぎのいい仕事を紹介するとソニーから言われたが断ったと妻に言うシーン、この時、妻は残念がります。妻は正義より現実主義者のようで、可笑しいです。

 ちなみに映画では、40曲ほどの1960年代のポップスが流れています。シナトラやビートルズやボブ・ディランも聴こえてきます。
 曲は、場面に合わせて白人ポップスと黒人ポップスを使い分けています。例えば黒人街のシーンでは例えばジェームズ・ブラウンのソウルが流れます。
 カロジェロの父はスクールバスを運転しながらジャズを聴いてます。でも17歳のカロジェロはジャズが嫌いです。
 カロジェロの幼なじみは、黒人ポップスのドゥーワップを嫌っています。

 映画のサウンドトラック曲目リスト:http://www.imdb.com/title/tt0106489/soundtrack

下 12 左端オリジナルタイトル:A Bronx Tale|
監督:ロバート・デ・ニーロ|アメリカ|1994年|121分|
脚本:チャズ・パルミンテリ|撮影:レイナルド・ヴィラロボス|
出演:カロジェロ・アネロ(リロ・ブランカート・ジュニア)|ロレンツォ・アネロ(ロバート・デ・ニーロ)|ソニー(チャズ・パルミンテリ)|
カーマイン(ジョー・ペシ)|9歳のカロジェロ(フランシス・キャプラ)|ジェーン・ウィリアムズ(タラル・ヒックス)|ロジーナ・アネロ(キャスリン・ナルドゥッチ)|ジミー(クレム・カセルタ)|エディ(エディ・モンタナーロ)|ジョジョ(フレッド・フィッシャー)|

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映画「シークレット・サンシャイン」 監督:イ・チャンドン

上2

 
 とても良く出来た、いい映画です。
 脚本も演出も女優チョン・ドヨンの演技も、どれもが素晴らしい出来。

1-0_2017102214411826c.jpg ですが、テーマは実に重いです。(ここで引いても結構)
 家族愛、夫との死別、誘拐犯による息子の死、神の愛・救い(信仰の喜び)と癒えぬ心、救われぬ信仰、自殺未遂、救いのないその先。

 映画は、総じては安易な表現(例えば劇画的な)にならず、リアルでていねいな描写に徹しています。
 もう少し言えば、登場人物のその場の様を、セリフに頼らず上手に感情表現し、映像表現しています。 
 主人公のみならず脇役たちについても、いるいるそんな人がというように活き活きと描かれ、映画の中で息づいています。
 
 未亡人シネ(チョン・ドヨン)は一人息子のジュンを連れ、ソウルから密陽(ミリャン)に引っ越してきた。
 港町プサンから北へ入ったこの小さな街は、亡夫の故郷であった。シネは、母子の人生の再出発を、夫が愛したこの街に託したのだった。

 シネは、ものをストレートに言う女で勝気。夫の親・親戚と、またシネの唯一の肉親である実弟とも疎遠なのは、彼女のそういう性格がそうしているのかもしれない。

 シネは商店街にある住宅付き店舗でピアノ教室を始めた。
 ソウルという大都会から来たそんな未亡人シネに、田舎街の人々の視線が集まるのは当然だった。

 シネは、同じ商店街で自動車修理店を開くキムという独身男性(ソン・ガンホ)と知り合いになる。キムは下心を抑えながら、新参者のシネの面倒を親切にみてやり始める。
 そんな中、シネは、郊外の土地を買う不動産投資の姿勢をキムに見せ始める。キムはさっそく彼の人脈で不動産屋を紹介した。
 しかし実は、シネにそんな金はない。街の人々の、未亡人母子へ向けての好奇心や哀れみを強く感じるシネは、持ち前の勝気さから、こんな虚勢を張ったのだ。

2-0_201710221443474a5.png だが、未亡人が金を持っているという噂は、男の心に悪を呼び込む。(これが息子ジュンの誘拐、身代金要求につながってしまう)

 シネは身代金を指定場所に置き、警察が動き出し、そして無情にも、シネは息子ジュンの死に遭遇する。(誘拐犯がジュンを殺してしまった)

 一方、シネに哀れみを感じた信者たちは、彼女にクリスチャン信仰を勧めた。
 その時、シネは言った、「なぜ神はジュンの命を奪ったの」

 子を失ったシネの悲しみは、絶望の域を超え耐えがたきものだった。
 張り裂ける心を抱えるシネは、すがるように救いを求めて、ついに教会の扉を開けた。

 従順な信者になったシネは、神のあふれる愛を感じ始める。教会での礼拝、布教活動、地域集会に加わることで、語り合える友もでき、シネはやっと心の安定を得られるようになる。心は癒され幸せであった。
 しかし、家でひとりポツンといる時、シネはジュンの気配を感じ、聞こえるはずのないジュンの声を聞くのであった。

 シネの信仰が深まるなか、彼女は、「汝(なんじ)の敵を愛し許せ」という神の言葉通りに、誘拐殺人犯の男を許そうと思うと信者仲間に打ち明ける。
 自動車修理店のキムは、シネが刑務所で男と面会しようとするのを止める。牧師は「あなたが刑務所に行くとき、神はともにいます」と言った。信者に付き添われ、キムの運転で、シネは刑務所へ向かい、男と面会する。

03-.png 「神の恩寵と愛を伝えるために、私はここへ来ました」
 これに対し男は言った。
 「神は、この罪深き罪人にも訪れました。私の罪を許したのです」
 「えっ、神が・・・罪を許したですって?」
 「そして、心の平安が訪れました、あなたのためにも私は祈ります」

 なんというすっきりした男の笑顔!男は刑務所内で信者になっていたのだった。
 シネの動揺はあまりに強烈であった。刑務所の駐車場で彼女は気を失い倒れてしまった。
 家に戻ったシネは狂気のさた、信者集会所のガラス窓に石を投げつけ、そのあと家で手首を切って自殺を図り、血まみれで前の道にさ迷い出て、精神病棟に入院。
 
 なぜにシネは・・・。
 退院後、信者の集まりでシネは吐くように言う。
 「汝の敵を愛し許せと神は言うが、許したくても、私は許せない。
  男は、もう神に許されて、心やすらかだって言った。
  私が男を許す前に、なぜ神は許したの?
  私が苦しんでいる時に、あの男はすでに許され、救われていたわ。
  なぜ、そんなことが!」

 その後のシネは、まるで抜け殻の様だった。

 韓国の人口の約3割がキリスト教徒で、キリスト教が最大勢力の宗教らしい。
 シネとの出会いから、ここまで、キムはずっとシネを案じている。このキムという男にも注目してください。
 ちなみに、タイトル名「シークレット・サンシャイン」は、シネが住み始めた街・「密陽」の「密」をシークレット、「陽」をサンシャインと読んで名付けたと、トークショーで監督が言っていた。


オリジナルタイトル:밀양(ミリャン)|密陽 Secret Sunshine|
監督:イ・チャンドン|韓国|2007年|142分|
原作:イ・チョンジュン|脚本:イ・チャンドン|
出演:イ・シネ(チョン・ドヨン)|キム・ジョンチャン(ソン・ガンホ)|ジュンが通う塾の教師・誘拐殺人犯(チョ・ヨンジン)|シネの弟・ミンギ(キム・ヨンジェ)|シネの一人息子ジュン(ソン・ジョンヨプ)|犯人の娘チョンア(ソン・ミリム)|薬局の女性キム執事(キム・ミヒャン)|カン長老(イ・ユンヒ)|シン社長(キム・ジョンス)|洋品店の女主人(キム・ミギョン)|牧師(オ・マンソク)|

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映画「ピンク・キャデラック」(1989年) 監督:バディ・ヴァン・ホーン

下


下4

 ご存知、ハリウッド映画俳優クリント・イーストウッド主演の映画。
 ですが、相手役の女性ルーを演じる女優バーナデット・ピータースが光ります。

1-0_20171020151830618.jpg この小柄な女優は、特にミュージカル女優として有名だそうですが、この映画で演ずるルーという女は、見るからに貧相。そしてノータリンで弱弱しい。
 しかし、そのルーのおバカさ、行てまえ(やっちまえ)的無謀さが、映画をコメディーにしています。そして、ルーに振り回される、クリント・イーストウッド演ずるトム。

 トムは離婚して独身。仕事は、保釈金が払えない人間に代わって保釈金を立替負担する会社の下請け。
 つまり、この会社が立替えた金を「払わない」踏み倒し人間を見つけ出して、身柄を拘束する仕事で、トムはフリーでやっている。

 ルーは偽札所持で逮捕の女。立替金を返済しない人物リストの一人。トムがこの案件を請け負った。
 しかし偽札は実は、家庭内暴力をするルーの夫が、ある組織に属していて、組織がらみの犯罪であることが分かってくる。
 この組織は武装し、白人至上主義を唱えるネオナチ集団。(これがアクションシーンのネタになっている)

 ルーが所持していた偽札以外に、組織は大量の偽札を持っていた。
 夫は組織に言われて、その大量の偽札を自分の車に隠している。この車が夫愛用のピンク・キャデラック。

 一方、ルーは夫に愛想も尽きて顔見りゃ憎らしい状態で家出。赤ん坊を乗せ、このキャデラックで姉の家へ行こうとした。
 でも、なんとしたことか、走るキャデラックから、お札が舞い散っていく! 組織はルーを追う。
 しかし実は、車に積んであった札は・・・。

 あとは観てのお楽しみ。
  
オリジナルタイトル:PINK CADILLAC|
監督:バディ・ヴァン・ホーン|アメリカ|1989年|122分|
脚本:ジョン・エスコウ|撮影:ジャック・N・グリーン|
出演:クリント・イーストウッド(トム・ノワック)|バーナデット・ピータース(ルー・アン・マクグィン)|マイケル・デ・バレス(アレックス)|ジェフリー・ルイス(リッキー・Z)|ティモシー・カーハート(ロイ・マクグィン)|ほか

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2-1_20171020153255d1b.jpg    2-2_20171020153257e4e.png









映画「偉大なるマルグリット」 監督:グザヴィエ・ジャノリ

上

 話は悲劇なのですが、それ以上に喜劇的であります。
 夫の冷めた愛を取り戻したいがために歌う主人公の音痴がとても印象に残りますが、映画が語る本質は悲しい愛の物語なのです。

1-0_20171013211911588.png 時は1920年、フランスの郊外。
 大邸宅に住む貴族の女性マルグリット・デュモン(カトリーヌ・フロ)は裕福な資産家です。
 夫のジョルジュ・デュモンの爵位は、マルグリットが買いました。
 夫は大きなビジネスをしていますが、その資金はやはり夫人が提供しています。

 ですがマルグリットは、夫に対して金のことで恩着せがましい物言いをすることはありません。
 彼女はまったくの天然の気質で、夫を純粋に愛しています。
 かたや夫は、マルグリットに対し負い目を感じ続けていて、もはや夫の心はマルグリットから離れて久しいのです。
 しかし妻と離婚すれば金は消え失せます。夫は女と不倫をして憂さを晴らしています。

 夫婦に子はなく、夫は仕事で、あるいは浮気で家を空けることも多いようです。
 ですから、マルグリットは大邸宅にひとりいて、寂しいのです。

 マルグリットはクラシック音楽の愛好家です。音楽が彼女の心を慰めます。
 邸宅には彼女のための音楽室があり、ピアノと蓄音機があって多数のSPレコードを集めています。
 マルグリットは歌うことも趣味にしています。歌曲の譜面をたくさん持っています。
2-0_201710132120243e0.jpg インド人の執事マデルボスは彼女の歌にあわせてピアノ伴奏をします。オペラの歌曲を歌うときは、舞台衣装を着て歌います。
 そうです、マルグリットはオペラの舞台衣装や小道具も集めているのです。
 執事のマデルボスはオペラ歌手になり切ったマルグリットを写真撮影します。撮った写真はまるで有名なオペラ歌手のようです。執事はマルグリットの秘め事遊びのお相手をしています。

 でもマルグリットの本当は、歌を歌う妖艶な姿を夫に見てほしいのです。彼女は夫の愛の復活を求めているのでした。
 しかし、そんなマルグリットを、夫は陰でバケモノだと言います。

 なぜなら、マルグリットは大の音痴でした。そのうえ、自分が音痴であることを認識できないのです。彼女は先天的に歌唱能力が欠けている障害を持っているのでした。(詳細下記) 
 ですが、マルグリットは戦災孤児救済などのために、邸宅内でオーケストラ付の慈善コンサートを幾度も催します。
 観客は親しい貴族たちです。彼らはマルグリットの奇声に未だに慣れていません。ですが演奏が終わると誰もが笑顔で彼女を褒め称えます。
 夫の気遣いは計り知れません。邸宅内でひとり歌うのであれば、その時どんな舞台衣装を着ようが、夫は黙認しています。
 しかしコンサートを催す度に、夫の心は悲しいことに、ますますマルグリットから離れていくのです。

2-1_201710132122023ff.png そんなある日の邸宅内コンサートに、新聞記者と前衛的な挿絵画家、この二人の若者が密かに忍び込みます。
 そして彼らはマルグリットの圧倒的奇声に遭遇しぶったまげるわけです。特に画家は彼女を絶賛します。そして新聞記事になりました。
 つまり、夫が関係者に口外禁止にしていたマルグリットの奇声が、世間にばれてしまいました。

 さて、このシーンを導入に、映画はマルグリットの奔放さを語り始めます。
 挿絵画家はモンパルナスあたりの芸術家たち自由人の一人なのでしょうか、前衛急進的な反体制派の男です。
 この画家に誘われるままに、彼女は夜の街でジャズが流れる当時最先端のとんがった店で踊ります。(マルグリットの音楽的感性 下記)
 1人で夜の街にいること自体が初体験のマルグリットは、大いに開放感を味わいます。一人遊びに飽いたもう一人のマルグリットなのでしょうか。

2-2_20171013212350e40.png 画家が主催するアバンギャルドな催しに、マルグリットが出演し店は大騒動になり、その内容が反体制的であったことから、画家もマルグリットも警察に連行されてしまいます。世間は彼女のことをますます知ることになりました。
 画家はマルグリットに歌の先生を紹介します。そして、マルグリットは大劇場でリサイタルを開くことになります・・。

 話は飛んで、物語の結末は精神病棟でした。そこで何が行われようとするのか・・・これも観てのお楽しみ、いや悲しみましょう。 
 マルグリットを本当に思いやるのは、マルグリットの生きざまをフィルムに収めることに執心する執事と、皮肉なことに夫の不倫相手の女だけでした。

 観終わって残念なことは、脚本上、マルグリットの夫の人物描写が弱いこと。
 音痴の歌手というヒントは実話から得たようです。その人物とはアメリカのソプラノ歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンス(1868-1944)という女性。歌唱能力が完全に欠落していたそうです。現在でもこの歌手のCDがあります。
 参考wikipediaサイト https://ja.wikipedia.org/wiki/フローレンス・フォスター・ジェンキンス
 なお、メリル・ストリープ主演映画「マダム・フローレンス!夢見るふたり」(2016年)は未見。

 ★先天性失音楽症による歌唱能力の欠如とは 参考サイト 「脳の活動によって音から音楽になる」 
  http://music-specialty.com/musicology/brain-activity.html

 ★マルグリットの音楽的感性について
  歌唱能力欠如のマルグリットですが、音楽を聴く感性は鋭いようです。
  画家に紹介されて彼女はひとりで前衛オペラ「道化師」を見に行き、いたく感銘を受けます。
  ちなみにこの音楽会会場にはプロのサクラ手配師がいて10人のサクラが拍手やブラボーを叫んでいます。
  「現代歌曲は人気がないので」と言う小人症の手配師の言が印象的です。
 
オリジナルタイトル:MARGUERITE|
監督:グザヴィエ・ジャノリ|フランス|2015年|129分|
脚本・脚色:グザヴィエ・ジャノリ|脚本協力:マルシア・ロマーノ|撮影:グリン・スピーカート|
出演:マルグリット・デュモン(カトリーヌ・フロ)|ジョルジュ・デュモン(アンドレ・マルコン)|アトスペッジーニ(ミシェル・フォー)|アゼル(クリスタ・テレ)|マデルボス(デニス・ムプンガ)|リュシアンボーモン(シルヴァン・デュエード)|キルフォンプリースト(オベール・フェノワ)|フェリシテ(ソフィア・ルブット)|ディエゴ(テオ・チョルビ)|ほか

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映画「女と男のいる舗道」 監督:ジャン=リュック・ゴダール

上


1-0_20171010213421399.jpg ナナを演じる女優アンナ・カリーナが、映画全編84分間、ずっと出ずっぱりの映画です。
 総じてセリフの少ない中、加えてあっさりした演出のもと、アンナ・カリーナの存在の味が、この映画のイメージを決定しています。
 カメラは、いつもアンナ・カリーナに寄り添いながらも、彼女の存在感に頼ることなく、素晴らしい撮影を実現しています。
 スチールカメラ撮影での、しっかりした構図力が基本にないと、こういう映像は撮れないように思います。(他にあるようで、なかなか無いものです)

 舞台はパリ。子持ちのナナは子を置いて離婚し、女優を目指すが現実はレコードショップの店員をして、しがない独り身人生を送っている。しかし、パリでの生活には薄給のナナ。結局、娼婦の道を歩むことになります。

 映画は12の章で成り立っています。
 ストーリーは12章を通して展開されますが、各章はそれぞれに異なるモチーフを持って語ります。
 全編を終始一本の話で描く映画では、時に、どこかに冗長なシーンが入りがちですが、本作の作りはそういうことが入る隙はなく、緻密さが印象に残ります。
 
 2階のビリヤード場で、ジュークボックスから流れるロックンロールで、ひとり踊るナナのシーンがいいです。
 話は悲しい話ですが、重く暗くならずドライ。映像はとてもスタイリッシュ。
 ゴダールの作だからと、かたく構えず肩の力を抜いて自分の目で楽しく観ましょう。
 

オリジナル・タイトル:Vivre sa vie: Film en douze tableaux|自分の人生を生きる、12のタブローに描かれた映画|
監督:ジャン=リュック・ゴダール|フランス|1962年|84分|
原作:マルセル・サコット|脚本:ジャン=リュック・ゴダール|撮影:ラウール・クタール|音楽:ミシェル・ルグラン|
出演:ナナ(アンナ・カリーナ)|ラウール(サディ・レボ)|ポール(アンドレ・ラバルト)|イヴェット(ギレーヌ・シュランベルジェ)|ほか

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【 ゴダールの映画 】

いままでに取り上げた作品です。画像をクリックしてお読みください。
写真
「アルファヴィル」
写真
「勝手にしやがれ」
写真
「小さな兵隊」

映画「ラスト・ショー」  監督:ピーター・ボグダノヴィッチ

上
ソニー、デュアンとジェイシー


 1951年、アメリカはテキサス、白人だけのさびれた小さな田舎町。
 映画は、この町に住む高校生たちの恋、友情を描くとともに、高校を卒業し社会へ出ていく道筋の、それぞれの選択を見守って描いています。

1-0_20171009135756d7d.jpg その町は、町と言えるほどの町じゃない。
 広い道路の両側にところどころに店があるだけ。
 ハンバーガーにコーヒー等わずかなメニューしかないレストラン、いや食堂、小さなビリヤードの店、そのほかに開いている店舗はガソリンスタンドに薬局くらい。閉館を迎えそうな映画館はある。

 この町で、高校生ソニーが相当にくたびれたボロ車に乗り込んで映画は始まる。
 町の広い道路の真ん中で、無心にホウキで道を掃くビリーは、知的障害のある少年で、ソニーは何かと彼の面倒を見てやっている。
 中年の男サムは食堂とビリヤード場のあるじ、この辺りじゃ皆から一目置かれる男で、気が合うのか、ソニーとビリーの世話を親代わりのようにしている。
 食堂を一人で切り盛りする中年女性は、後で分かるがサムの昔の恋人、彼女に町の情報が集まる。

2-0_20171009135925594.jpg 映画館は、唯一の娯楽の場で、高校生たちは友達同士やデートに使っている。ビリーも常連だ。
 そして、この地域には油田があって掘り当てた人間は金持ちだ。人々の間に貧富の差がある。

 映画はこんな設定を背景に、ソニーとその同級生たちの様子を語ります。
 ソニーの友達デュアンは高校一の美人ジェイシーと付き合っている。
 ジェイシーの家は油田で裕福。母親は娘の彼氏が誰かを気にする。貧乏な家のデュアンじゃなく、油田開発で当てた家の、金持ちの彼氏にしなさいと言う。
 この母親は結構さばけた女で、あからさまに娘に注意忠告する内容が、娘の行動を左右し、結果、物語の先行きを変えていく。そして、デュアンの未練は後を引く。

 ジェイシーに突然ふられたデュアンは、高校卒業後、町を離れ油田の現場で働く。貯めた金で車を買う。それはジェイシーの気を引こうとするかのようだった。

3-0 ソニーは高校時代の彼女と別れ、サムのビリヤード場で働いている。町を離れたデュアンは、ジェイシーがソニーと付き合いださないか気にしているようだ。
 だが、ソニーはふとした切っ掛けで中年の女と関係を持つようになる。
 そんな頃、気まぐれなジェイシーはソニーに近づき始めるが・・。

 小さな町の男女の関係を映画は見せていくが、どこかうら悲しい。
 そして、サムの突然の死。彼の遺言でソニーはビリヤード店をもらうことになる。
 ジェイシーは朝鮮戦争の戦線へ。ビリーは交通事故死。


 印象に残るのは、高校生の青春よりも、ジェイシーの気まぐれを繰るかのようなジェイシーの母親、ソニーが付き合う年上の女、サムの昔の恋人で食堂の女の3人かもしれない。
 
4-0






オリジナルタイトル:The Last Picture Show|
監督:ピーター・ボグダノヴィッチ|アメリカ|1971年|118分|
原作:ラリー・マクマートリー|脚色:ラリー・マクマートリー 、 ピーター・ボグダノヴィッチ|撮影:ロバート・サーティース|
出演:ソニー(ティモシー・ボトムズ)|デュアン(ジェフ・ブリッジス)|ジェイシー(シビル・シェパード)|サム(ベン・ジョンソン)|ルース(クロリス・リーチマン)|ビリー(サム・ボトムズ)|ジェイシーの母・ロイス(エレン・バースティン)|ほか




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下
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映画「ひつじ村の兄弟」 アイスランド映画 監督:グリームル・ハゥコーナルソン

上


 アイスランドの草原でヒツジを飼育する、仲の悪い兄弟の話。
 映画は、この兄弟の生きざまを、雄大な風景と寒冷地の気候で包み込む。

1-0_20171002092727d46.jpg 兄弟はともに独身で、親から譲り受けた広大な土地に建つ、二軒の家に別れて住んでいる。
 ヒツジ小屋も牧草地も牧羊犬も車も、そのすべてが別々。牧草地の境界線には有刺鉄線の柵がある。

 映画はこの兄弟の弟を中心に話をすすめる。
 それにしても、なぜ40年も、互いにまともな会話をしないで過ごしてきたのか。
 それはどうも相続問題のようだ。
 親は、ヒツジと所有地のすべてを弟に譲ったらしい。そこで優しい弟は、兄のための牧草地とヒツジ、そして古いほうの家を、兄に無償で貸すことにした。
 だが、こういうことのすべてが兄を怒らせ、弟を憎むようになり、よって弟も兄を憎むことになった。


 そんなある日、重大事件が起きる。
 ヒツジの疫病が発覚し、兄弟のヒツジ含め近隣の牧畜農家のヒツジの全部が殺処分の対象となった。
 この地域の人々はみなヒツジの飼育で生活しているのだ。みな困惑した。悩みに悩んで土地を離れる一家も現れる。この先のローンの返済ができないからだ。
 
 強情っ張りの性格は、兄だけでなく大人しそうな弟にも、その血を引いているようだ。
 弟は100頭以上の殺処分を当局に任さず自ら行った。
 なぜなら、殺処分しなかった9頭のヒツジを、獣医当局の監視の目をくぐって家の地下室に隠したのだ。先祖代々のヒツジの血統を守りたいのだ。(このヒツジたちには疫病の様子はないようだ)

 これに気づいた兄は弟に近づいた。兄も、血統を守りたいのだった。
 しかし全頭殺処分の方針を決めた当局がこれを嗅ぎつけた。
 兄弟は9頭のヒツジと牧羊犬を連れて、誰も近づかない冬の山へと向かった。兄弟は初めて力を合わすことになった。
 だが、吹雪のなか、二人はヒツジを見失う。吹雪は容赦なく激しさを増す。
 兄弟は雪穴を掘って中に横たわり、互いに身体を暖め合い、吹雪をやり過ごそうとするのであった。

下

オリジナルタイトル:HRÚTAR|
監督・脚本:グリームル・ハゥコーナルソン|アイスランド、デンマーク|2015年|93分|
撮影:ストゥルラ・ブラント・グロヴレン
出演:グミー(シグルヅル・シグルヨンソン)|キディー(テオドル・ユーリウソン)|当局の獣医カトリン(シャーロッテ・ボーヴィング)|ほか

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映画「マダム・マロリーと魔法のスパイス」 監督:ラッセ・ハルストレム

上2
開店の夜


 気楽に観れる娯楽映画です。
 インド料理を生業とする移民の一家が、フランスの片田舎でレストランを開業する話。二つの愛が芽生えます。

1-0_20170925200941f73.jpg インドで一家は料理屋を営んでいた。
 店は母親が料理し、父親がマネジメントする繁盛店だったが、地元の選挙陣営対立の中、反対陣営を支援する人々によって店が焼き打ちに合い、不幸なことにこの時、一家は母親を亡くし、その地を追われた。
 故国を捨てた一家(父と息子、娘夫婦に2人の子供)は、旧宗主国イギリスへ渡ったが商売がうまく行かず、またイギリスでは良い食材が手に入らずこの地を諦めた。そののちレストラン開業の新たな場所を求めて、一家は今度はヨーロッパ大陸へと向かった。
 
 祖国を離れ西欧のどこかの国でインド料理レストランを開業したいという父親の思いは、父親が息子のハッサンの料理に一目も二目も置いているからこそであった。
 なぜなら、ハッサンは母親の血を受け継いで味覚が鋭く、子供のころから母親に料理を教わっていた。ハッサンも母の教えのすべてを吸収していたのだった。

 一家六人を乗せて車は開業する適地を求め諸国を走った。そしてある日、フランスのある片田舎の町を通りかかる。
 ここで父親は、廃屋に近い一軒の家の前でひらめいた。ここで始めよう。そこは元レストランであった。

 開店の準備が進む中、発覚したことは、道向かいのフランス料理レストランがミシュラン一つ星の店であること。(お話は都合よくできています)
 このレストランのあるじは、マダム・マロリー(ヘレン・ミレン)といい、夫を亡くし自らが女将となって、毎年一つ星を勝ち取っている女性。

2-0_20170925201118f82.jpg さていよいよ開店。100フィートしかはなれていない、道のこっちと向こうだから、一つ星の店にカレーの匂いが流れていく。
 (原題はTHE HUNDRED-FOOT JOURNEY(100フィートの旅))

 マダム・マロリーは勝気のうえにイケズな女。向かいの店の邪魔をする。ハッサンの父も対抗意識を燃やす。
 そんなうちに、インド料理レストランにやっと客が付き始める。
 美味しいのだ!

 ハッサンはマダム・マロリーの店の女性マルグリットと仲良くなっていた。ともに料理人だ。
 ハッサンに貸したフランス料理本をもとに、ハッサンが初めて作ったソースにマルグリットは唸った。そして愛は深まる。

 マダム・マロリーの店のシェフが、深夜、ハッサンの店の石垣に大きな落書きをした。このシェフは移民を蔑視する男であった。
 これにマダム・マロリーが怒り、即座に彼を首にした。
 そして、後釜になんとハッサンを起用する。実はハッサンが素晴らしい料理人であることをマダムは見抜いていたのだ。

 もちろん、短いが修行(下働き)期間を経て、ハッサンは正式にシェフとなる。そうしてその年、店はミシュラン二つ星を獲得するに至る。 
 このころになって、マダムとハッサンの父親の距離が縮まっていった。

 さて、フランスの飲食業界で名をはせたハッサンは、パリの三ツ星高級レストランに引き抜かれる。
 ハッサンは、新進気鋭の若手シェフとしてパリで最新のメニューを次々に編み出し、有名人となった。
 しかし時が経つうちに、ハッサンの心に空洞ができていく。私はインド人、母から教えられたインド料理のその先を極めたい。
 ハッサンは父親の店に帰り、マルグリットとよりを戻し、ふたりで新たなレストランを開業することにした。
 私はここで三ツ星を狙うと・・。
 
オリジナルタイトル:THE HUNDRED-FOOT JOURNEY(100フィートの旅)|
監督:ラッセ・ハルストレム|アメリカ|2014年|122分|
原作:リチャード・C.モライス|脚本:スティーヴン・ナイト|撮影:リヌス・サンドグレン|
出演:マダム・マロリー(ヘレン・ミレン)|パパ(オム・プリ)|ハッサン(マニッシュ・ダヤル)|マルグリット(シャルロット・ルボン)|市長(ミシェル・ブラン)|マンスール(アミット・シャー)|ジャン=ピエール(クレマン・シボニー)|ポール(ヴァンサン・エルバズ)|トーマス(アントワン・ブランクエフォート)|

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映画「クスクス粒の秘密」 フランス映画 監督:アブデラティフ・ケシシュ

上2










 「クスクス粒の秘密」という題名から、印象としてファンタジックな映画に思われるかもしれないが、そうじゃない。
 フランス南部の港町(セット Sète)に住むチュニジア系移民一世とその子たちの話です。

 総じて、話のタッチは重くなく、比較的軽いですが、「人生、そうそう上手くは行かない」と映画は言っています。しかし、人々はそんな人生をなんとか受け入れ、日々を過ごしています。

 そして、彼らのそんな様子は(傍から見る人には)、時に滑稽じみた様にみえることもあると映画は言っています。


1-0_20170918141944b2f.jpg
 冒頭のいくつかのシーンで映画は、主な登場人物の境遇と人間関係をみせます。
 それは同時に、この港町の現状を語っています。(中小造船業の斜陽、港の漁業の衰退、観光業へのシフト。)

 港のドックで働くスリマーヌは小型船の造船・修理のベテラン、御年60歳でチュニジア系移民一世。実直で無口な男。
 彼の子は4人いて、息子が2人に娘が2人、みな二世。長男長女は既婚。しかし、チュニジア系移民一世の妻スアドとは離婚している。 

 スアドは、チュニジアの伝統料理クスクス((粒状のパスタ))が得意なBIG MAMA。
 子たちとその伴侶や孫たちは母親の家に集って、おふくろの味・クスクスを食べることを楽しみにしている。
 子たちの伴侶はフランス人とロシア人ですが、みな、とても美味しいクスクスが好き。
 しかし、その席にスリマーヌはいない。

2-0_20170918143612705.jpg スリマーヌは愛人ラティファと暮らしている。ラティファもチュニジア系一世だ。
 彼女は小さなホテルと付随するバーを買い取って生計を立てている。そして、ラティファの一人娘リムが母親を手伝っている。リムは20歳で二世。

 スリマーヌはホテルの狭い空き部屋に住んでいる。居候だ。
 ラティファとリムの母娘もホテルの一室を住居としている。
 くわえて、チュニジアの民族音楽バンドの老メンバーも住んでいる。彼らはバーで演奏し生活している。


 さて、こんなシチュエーションをもとに、物語は展開します。
 長年勤めた職場をリストラで追われたスリマーヌは、廃船間際の船を買って船上レストランを始めようと考えます。
 世事に疎いスリマーヌは、リムの助けを借り、資金の手配や役所への諸手続きを始めます。しかし、レストラン経験もなく手元資金もなく、よって信用がありません。でも、船の修理技術はあるスリマーヌは、船の改装だけは済ませました。

 ちなみにこのレストランの売りは、クスクス。
 そうです、スリマーヌは元妻のスアドをコック長にしようという算段。この段で、愛人ラティファはソッポを向きっぱなし。

 信用が容易に得られないと分かったスリマーヌとリムは、お役人や仲間を呼んで、とても美味しいクスクスの船上パーティを企てます。
 バンドのメンバーは、ギャラは出世払いでいいとして、演奏を買って出ます。
 そして彼の息子・娘4人とその伴侶も、このパーティ準備を手伝います。もちろん、前菜やクスクス料理はスアドが作ります。(船にはまだ厨房がありません、スアドは自宅で料理しました)
 彼女はこれまでも、誰かの結婚パーティなどで大量の料理経験はあるのです。準備万端。

 いよいよ、客が船に集まります。酒が出て前菜が出て演奏が始まり、パーティは賑やかに盛り上がります。
 時間を見計らい、スリマーヌの長男次男が車で自宅に戻り、スアドが作った各種のクスクス料理を取りに行きます。そして、いくつかの大鍋を船上に持ち込みました。

 だが、ここで問題が起きます。
 何が問題かというと、長男の浮気相手の女性がパーティに来ていたのを長男が気づき、やばいということで、彼は密かに会場を抜け出し、車でどこかに逃げてしまいます。
 ですが、肝心要のクスクス(粒状のパスタ)を蒸した鍋が、まだ長男の車のトランクの中! これだけを運び出し忘れていたのです。

 事態を知ったスリマーヌはじめ皆は顔面蒼白、もう呆然としています。一方、客たちは、クスクス料理が出てこないことにいら立ち始めます。
 そこへ、ラティファとリムの母娘が客として遅れてやってきました。リムは嫌がる母親を説き伏せてやっとのことで連れて来たのです。なにしろ愛人ですから、この場にそぐわない。(一方、スアドも会場には来ていません)

 お話はここに来て頂点に差し掛かります。急いで話の先を言えば結果的に、ラティファとリムは救世主でした。大活躍!
 かたや、要のスリマーヌはというと、会場を後にして長男を探しに行きますが、彼の混乱ぶりは悪夢のシーンにありがちな展開に・・。(このシーンは冗長ですがご愛敬でみてください)

tunisia-map1.jpg 映画の中で聴こえて来るチュニジア民族音楽バンドが奏でる魅惑的なサウンド、これが流れることで、このフランス映画がチュニジア映画風に観えてきます。お楽しみください。(監督の出自はチュニジアとのこと)

 映画の出来具合については、2013年製作作品「アデル、ブルーは熱い色」の方が、エッジが効いていて、ずっと良い。 

オリジナルタイトル:La graine et le mulet|
監督・脚本:アブデラティフ・ケシシュ|フランス|2007年|135分|
出演:スリマーヌ(アビブ・ブファール)|リム(アフシア・エルジ)|上の娘カリマ(ファリダ・バンケタッシュ)|愛人ラティファ(アティカ・カラウイ)|長男の嫁でロシア人のジュリア(アリス・ユーリ)|下の娘オルファ(サブリナ・オアザニ)|元妻スアド(ブラウイア・マルズーク)|ほか

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映画「夏をゆく人々」 イタリア映画 監督:アリーチェ・ロルヴァケル

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長女ジェルソミーナ、多感な年ごろ


 イタリア半島の中ほどにある大きな湖、この湖畔に住む家族のお話。

1-0_201709151404336b7.jpg 湖周辺の広々とした草原、ここで一家7人は養蜂で生計を立てている。
 でも、男手は父さんだけで、母さんとその子4人姉妹と居候のおばさんの、女6人の家。
 そのうえ、長女ジェルソミーナの下の娘たちは、まだ幼い。

 ミツバチの箱を運んだり、遠心分離機で蜂蜜を抽出したり、バケツに一杯になった蜂蜜を運んだりと、力仕事はたくさんある。
 だから、父さんは女手しかいないことで、いつもイライラしている。(そして家族に対して、しょっちゅうワンマンなふるまい)

 そんな父親をみて、ジェルソミーナは懸命に養蜂の仕事をこなしている。口にこそ出さないが、父親も長女のそんな様子を力強く思っている。

 ある日、無口な少年が少年院からこの家にやって来た。父親は、少年の更生のためのプログラムを利用して男手を手に入れたのだ。家に住み込みで仕事を手伝うことになった。

 自然に優しい農業・畜産・養蜂家などを対象にしたコンクールがテレビ局の主催で開催されるという。
 このことを知ったジェルソミーナは密かにコンクールに応募した。よそ者を嫌う父親は、こういうことには絶対反対することを彼女は知っていました。

 さあ、さて、ここら辺りから物語は思わぬ展開をし始めます。
 話の筋のその先を急いで追う姿勢では、この映画は楽しめません。ゆったりした気分で観ましょう。
 主人公のジェルソミーナ役の女性の、楚々とした雰囲気がいいです。プロの俳優じゃないようです。映画はこのジェルソミーナの存在感で成り立っています。

 父親は家族の中ではワンマンですが、世間に対しては自閉的な男です。
 そんな彼ですが、男手が欲しいがためによそ者の少年を家に迎え入れました。
 一方、ジェルソミーナはそろそろ大人の女になろうとしています。自分の意志でコンクールに応募したように、ジェルソミーナの意識は田舎の一軒家から世間に出ていこうとしています。そんな彼女と彼女の恋を母親も叔母も応援します。

 
 映画の後半ぐらいから、「エトルリア」「エトルリア人」という言葉が出てきます。
 この一家の住む地域は、エトルリアという、紀元前8世紀~紀元前1世紀ごろにイタリア半島中部にあった都市国家群があった場所。
 映画は、そんな歴史の謎めいた不思議さをバックグラウンドに秘めているようです。(それは例えば、この一家の家のそばにロケに来た女優さんの姿を借りて・・)
 

オリジナルタイトル:LE MERAVIGLIE|
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル|イタリア スイス ドイツ|2014年|111分|
撮影:エレーヌ・ルヴァール|
出演:ジェルソミーナ(マリア・アレクサンドラ・ルング)|アンジェリカ(アルバ・ロルヴァケル)|ウルフガング(サム・ルーウィック)|ココ(ザビーネ・ティモテオ)|ミリーカテナ(モニカ・ベルッチ)|アドリアン(アンドレ・M・ヘンニック)|少年更生係イルデ(マルガレーテ・ティーゼル)|ほか

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映画「青いドレスの女」 監督:カール・フランクリン

上
 映画冒頭は、こんなイラストと、T-ボーン・ウォーカーの歌うブルースで始まる。


1-0_201709071744482a8.jpg 原作は推理小説。(黒人の私立探偵小説「イージー・ローリンズ」シリーズの第1作を映画化)
 最近は少なくなってしまった、黒人が主体の映画。(1995年制作)

 時代は1948年、場所はロサンゼルス。
 黒人差別は当然の時代。(公民権運動が本格的に動き出すのは1950年代半ば頃から)

 第二次世界大戦で欧州戦線(黒人部隊)を経験した主人公の黒人青年イージーは、戦後、兵役経験を活かし機械工として造船所や航空機メンテ工場で働いていた。
 イージーは真面目な青年だ。勤め先では社員として勤務。それ故に、黒人ではあるが一定の社会的信頼を得ていた。
 つまり住宅ローンが組めて、(黒人だけの)戸建住宅街に一軒家を持ち、粋な車も持っていた。優雅な独身生活であった。

 しかし、突然の解雇。職探しを始めるが、まともな勤め先がみつからない。ローン返済が滞る。
 そんな折、行きつけのバーのあるじジョッピーから、オルブライトという怪しげな白人の男を紹介される。
 オルブライトはイージーに、ある白人女を探してほしいと札束をちらつかせる。切羽詰まっていたイージーはこの話に乗った。

 話は、市長選挙が絡む。
 ロスの富豪トッド・カーターと、対抗馬のマシュー・テレルという二人の白人が立候補を表明していた。
 ところがカーターは突然、自ら立候補を取り下げた。
 カーターが愛し婚約者となった女性に、「ある問題」があることが発覚し、彼の周囲はカーターに婚約破棄を迫った。その結果、カーターは出馬の意欲も無くなり、失意に沈んでしまったのだった。
 一方のマシュー・テレルは押しの強い男だが、密かなある弱点を持っていた。
  
 イージーは、白人女探しに、市長選挙が絡むこんな背景があるとは知る由も無かった。
 いざイージーが動き始めると、彼の行く先々で殺人現場に遭遇する。警察に連行される。
 そして、彼が探す白人女性、(青いドレスの女)ダフネがイージーの前に現れた。
 彼女はマシュー・テレルの弱みを握っているらしい・・なぜ。
 イージーが足で知り得た事柄が、次の謎を解き明かすことになり、イージーの身の危険は増していく。
 そもそも、カーターの婚約者の「ある問題」とは何?、婚約者は誰?、マシュー・テレルの弱みとは?
 
 昨今のアメリカをみていると、こんな黒人主体の映画はもう製作されないかもしれない。

 総じて、描き切れていない大雑把さのある映画だが、娯楽映画ですからね。
 でも挿入音楽がいいです。
 映画冒頭、のっけからT-ボーンのブルースが流れて、私はノックアウト。
 この映画に取りあげられた主なミュージシャンは、往年のモダンブルースシンガーのT-ボーン・ウォーカー、ピー・ウィー・クレイトンや、ビッグバンドをバックにして歌うジャンプブルースシンガーのジミー・ウィザースプーン、ロイ・ブラウンなどなど、そしてデューク・エリントンも。
 サウンドトラック情報:http://www.allmusic.com/album/devil-in-a-blue-dress-sony-mw0000176104

オリジナルタイトル:Devil in a Blue Dress|
監督・脚本:カール・フランクリン|アメリカ|1995年|102分|
原作:ウォルター・モズレイ|撮影:タク・フジモト|
出演:イージーこと、エゼキエル・ローリンズ(デンゼル・ワシントン)|青いドレスの女・ダフネ・モネ(ジェニファー・ビールス)|イージーの親友で殺人が得意なケンカの助っ人・マウス・アレクサンダー(ドン・チードル)|バーのオヤジでイージーの友人・ジョッピー(メル・ウィンクラー)|ロス一番の富豪の白人、ダフネを愛するトッド・カーター(テリー・キニー)|カーターと市長選挙を争う白人、他人に言えない秘密を持つ男マシュー・テレル(モーリー・チェイキン)|ジョッピーがイージーに紹介した白人でマシュー・テレルに雇われる男ドウィット・オルブライト(トム・サイズモア)|ダフネの親友・コレッタ・ジェームズ( リサ・ニコル・カールソン)|コレッタの彼氏、イージーの知り合いデュプリー・ブロチャード(ジャーナード・バークス)|ほか

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映画「ヴィンセントが教えてくれたこと」 監督:セオドア・メルフィ

上


1-0_201709061020036f5.jpg 70歳の頑固ジジイと、12歳の孤独な少年のお話。
 この映画、若い方には少年モノ映画に観えるかも知れないが、年配にはいささかビターな喜劇映画に観えるかも知れない。 

 頑固で人の話を聞かない人嫌いなジジイ、ヴィンセント(ビル・マーレイ)は、二十歳代の頃にはベトナム戦線を経験した世代。
 今は、白人中産階級(中の下)が住む住宅街の中の、小さな一軒家で一人暮らしだ。(子はいないようだ)

 ヴィンセントの楽しみは、安酒とタバコとTVそして、行きつけの店の踊り子・ダカと時々の有料セックス。
 暮らしは決して豊かじゃない、いや苦しい。無職の上に、自宅を抵当に入れての生活資金は底をつき、借りちゃいけない所から金を借りている。
 彼のお金はどこへ消えるのか? それは、今も最愛の妻サンディを預けている上等な介護施設。妻は重度の認知症なのだ。そして、この施設への払いが滞っている。

 そんなある日、ヴィンセントの隣家にマギーとその1人息子オリバーが越してきた。
 マギーは病院のMRI検査技師。夫は弁護士だが、この夫の度重なる浮気が原因で夫婦関係は破たん、今、オリバーの親権をめぐって離婚調停中。子供の奪い合いを避け、マギーはオリバーを連れて越してきた。(子は養子らしい)

 オリバーは12歳にしちゃ小柄。転校生への学内いじめ、母親の長時間勤務やらで、オリバーは一人ぼっち。
 「結果的に」これを救ったのが、人嫌いな隣人ヴィンセント。いいウチの子に育ったひ弱なオリバーは、おやじの塊みたいなジジイに世間を教わることになる。(競馬場、バー、娼婦、ケンカの仕方、悪い言葉など)

 これは、ヴィンセントから見れば、転がり込んで来たベビーシッターという時給稼ぎだった。
 マギーから見ればヴィンセントは、隣家のベビーシッターで便利な反面、ウチの子をワルに染め上げるジジイ。
 オリバーにとっては、初めは近寄りがたい偏屈ジジイだったが、いつの間にか仲良くなり、最後には「St.VINCENT」と褒め称える。

 話は、脳溢血によるヴィンセントの緊急入院・リハビリや、妻のいる介護施設からの料金不払いによる退去勧告や妻の死、オリバーの親権騒動の結末、踊り子のダカの嬉しい出産などのエピソードが絡んで行く。

 オリバーが学内発表で、ヴィンセントを聖人と褒めるシーンは、あまりにもアメリカ映画的感動シーンに仕立て上げられていて白けるが、これは、映画の結末のヴィンセントのうら悲しい境遇を考えると、プラスマイナスのバランスをとっての配慮とみておこう。
オリジナルタイトル:St.VINCENT|
監督・脚本:セオドア・メルフィ|アメリカ|2014年|102分|
撮影:ジョン・リンドレイ
出演:ヴィンセント(ビル・マーレイ)|オリバー(ジェイデン・リーベラー)|その母親マギー(メリッサ・マッカーシー)|ヴィンセントの有料彼女・ダカ(ナオミ・ワッツ)|ヴィンセントの妻サンディ(ドナ・ミッチェル)|ほか

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映画「カフェ・ブダペスト」 ハンガリー映画 監督:フェテケ・イボヤ

上
歌とギターのユーラと、サックス吹きのワジム。ブダペストの街角にて。

1-0_20170901122232caf.png
 時は1990年、ソ連崩壊(1991年)の前年。
 祖国ソ連を離れ、開かれた東欧ハンガリーへと旅立ったロシア人の男たちの物語。

  映画冒頭のナレーションより…(本作は1995年製作)
  当時の気分を語るのは難しい。あり得ないことが突如 起きたのだ。
  ハンガリーが西側に扉を開いたのを契機に、すべてが急速に進行した。
  東欧が幸福に酔ったあの日々、忘れ得ぬ時代。
  そしてついにハンガリーからソ連軍撤退。
  (ところが)今度は別のロシア人がやって来た。西側を目指し、その入り口、ハンガリーに人々が押し寄せたのだ。
 (下記|1989年の出来事)
 
 2人のロシア人ミュージシャン、歌とギターのユーラと、サックス吹きのワジムが、ハンガリーのブダペストへたどり着く。(※※下記|2人の経路)

2‐0 (ユーラが歌う)
  ♪さあ 旅立とう 歌を道連れに
  ステンカ・ラージンは もう十分歌われた
  新時代の俺たちは そんなの歌わない。
  直立不動で大声で 一体何を歌ってる
  共産主義の歌なんて もう うんざり …
 (ユーラ役の俳優は、ロシア出身のシンガーソングライター)

 機械工をしていた若いロシア人のセルゲイも、西側諸国を目指して、まずはブダペストにたどり着く。
 このようにして当時、既にブダペストには、祖国ソ連を脱出した人々の他に、少々危ない商売をする出稼ぎ組や、自身の人生を捨てた破滅型の放浪人など、様々なロシア人たちが滞留していた。
 また、そんなロシア人を相手に宿を提供するブダペストの人、フリーマーケットでロシア人を鴨にする人など、様々なハンガリー人がいた。
 加えて、東方諸国の解放とソ連国内の混乱に乗じて、ロシア系犯罪組織がブダペストへも進出して来て、表のフリーマーケットや裏のヤミ市で、恐喝とブローカーの動きを見せ始めていた。

下


 一方、こんな東欧に対し、冒険心とある種のロマンを抱いてブダペストに来る西側の人々もいて、映画は2人の女性を登場させて、恋を語り物語を彩る。
 それはイギリス人のマギーと、アメリカ人のスーザンだ。
 ひょうきんで明るいユーラはマギーと出会い、サックスのメロディがかっこいいワジムはスーザンと出会う。
 真面目な青年セルゲイは、泊まった宿のハンガリー人の女将(年上の独身女性)の世話になる。



 この映画、誰が主人公かと言えば、ユーラが歌うメロディとその歌詞だろう。
 ユーラ役のロシア出身のシンガーソングライター、ユーリ・フォミチェフという人の歌が、映画の各所で流れる。これが素晴らしい。
 ロシア由来かな、独特のうら悲しさと、その反面の楽しさを合わせ持つ音楽だ。西側のブルース音楽の領域とは別世界。

 映画は、当時のブダペストを活写し、時代の変わり目を、重くせずにすっきりと饒舌に語っている。いい映画だ。  

 このお話の時代のあと、ロシアは西側諸国と共に生きていくはずだったが、いつの間にかプーチンの国となっている。
 また、東欧の人々は職を求めて西側に移って行く。東欧諸国も我先にEUに加盟した。そして今、今度はEU離脱を考えている国がある。
1989年の東欧の出来事
 1989年5月2日 - ハンガリー政府がオーストリアとの国境にある鉄条網の撤去に着手。鉄のカーテンが破られる。
 同年6月 - ポーランドで、自由選挙実施。非労働党政党「連帯」が上院過半数を占める。東欧革命のさきがけ。
 同年8月19日 - ハンガリーで汎ヨーロッパ・ピクニックが開催、約600人の東ドイツ市民がオーストリア経由で西ドイツへ亡命。
 同年10月7日 - ハンガリー社会主義労働者党、ハンガリー社会党への改組を決定し、一党独裁政党としての歴史に終止符を打つ。
 同年10月17日 - 東ドイツで強権的な政治を行っていたエーリッヒ・ホーネッカー・ドイツ社会主義統一党書記長の書記長解任が党政治局で決議され、ホーネッカーが失脚。
 同年11月9日 - 東ドイツがベルリンの壁の通行を自由化。
 同年11月10日 - ベルリンの壁崩壊。
        ブルガリアで共産党書記長のトドル・ジフコフが失脚。これを機にブルガリアでも民主化が始まる。
 同年11月24日 - チェコスロバキアビロード革命。共産党政権が崩壊。
 同年12月1日 - 東ドイツで憲法が改正され、ドイツ社会主義統一党(SED)による国家の指導条項が削除される。SEDの一党独裁制が終焉。
 同年12月22日 - ルーマニアのニコラエ・チャウシェスク政権崩壊(ルーマニア革命)。

3-1_20170901123010e01.png※※2人の経路
 時は1990年。ユーラとワジムは、ロシア人バンドのメンバーで、ユーゴで行われるコンサート会場へ、バンド専用バスで向かっていた。このバンドのバスの経路に注目。
 当初、ソ連・ハンガリー国境に到着するが、検問で拒否され越境できず迂回することになる。
 まずはソ連・チェコ国境を通過、次にチェコ・ハンガリー国境を通過し、ハンガリー・ユーゴ国境を越えようとした。(リアルな描写)
 ところがここで、2人はバスを降り、バンド仲間から分かれてブダペストにたどり着く。
オリジナルタイトル:BOLSE VITA|
監督・脚本:フェテケ・イボヤ|ハンガリー、ドイツ|1995年|101分|
撮影:サライ・アンドラーシュ|
出演:ギター弾きのユーラ(ユーリ・フォミチェフ)|サックス吹きのワジム(イーゴリ・チェルニエヴィッチ)|機械工のセルゲイ(アレクセイ・セレブリャコフ)|イギリス女性・マギー(ヘレン・バクセンデール)|米国人女性・スーザン(キャロリン・リンケ)|外人向けの宿の女将・エルジ(マール・アーグネシュ)|ほか

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映画「抵抗(レジスタンス) 死刑囚の手記より」 監督:ロベール・ブレッソン

上






1-0_201708271317238f3.jpg













 フランス軍人の手記をもとに監督自ら脚本を書いた、脱獄する男の一部始終を描くサスペンス映画。

 舞台はリヨンにあるモントリュック監獄の独房、時は1943年。

 その前年、ナチスドイツは南フランスへ進軍し地域を占領、リヨンはドイツ軍やその治安部隊の街となっていた。
 翌1943年6月、レジスタンス運動の中心人物が逮捕、虐殺されるなど、ナチスドイツによるレジスタンス撲滅が一気に進んで行った。

 その頃だろう、映画の主人公フォンテーヌ中尉も逮捕され拷問を受け、独房に入れられた。
 監獄の中庭では、毎日のように銃殺刑の執行が進む。
 中尉は入獄後、時を置かず脱獄を決意し、獄中のレジスタンスらによる密かな協力を得て、獄中で得られるわずかなもので脱獄のための準備を始める。
 そんなある日、獄中のレジスタンスの一人が脱獄を試みたが失敗し処刑されてしまう。しかし中尉にとっては、彼の失敗が自分の脱獄手法の改善を図るきっかけとなった。
 そして、中尉も死刑の判決を受ける。これで脱獄の決意はより固まった。

 準備が整い、いつ脱獄するかという時に、中尉の独房に一人の青年が押し込まれて来た。
 当初、中尉は彼をドイツの回し者かと疑ったがそうではなかった。そして、行きがかり上、この青年とともに脱獄するしかない。
 ついに、その夜、中尉はふたりで脱獄するのであった。


 映画のタイトルが「脱獄」ではなく「抵抗」であるのは、中尉のレジスタンス活動を褒め称えているからだろう。
 映像の多くはフォンテーヌ中尉の独房の中。台詞は極わずか。音楽も入れない。だが、シーンに緊張感があり、スリリング。

 一方、脱獄実行シーンは屋外である。それゆえに、閉ざされた空間におけるそれまでの高い緊張が、屋外に出て拡散してしまう。そのせいか、あるいは脱獄シーンそのものが有り触れているせいか、残念ながら脱獄実行シーンは凡庸だ。

 独房シーンを飽きさせないのは撮影の技と、なんと言っても中尉役のフランソワ・ルテリエという人が醸し出す雰囲気。これが至って素晴らしい。
 この映画の登場人物の多くはプロ俳優を使っていないらしい。中尉役の彼は普通の学生であった。

 最後に。フォンテーヌ中尉の脱獄の翌年1944年に、リヨンはドイツ軍から解放される。


オリジナルタイトル:UN CONDAMNE A MORT S'EST ECHAPPE OU LE VENT SOUFFLE OU IL VEUT|
英語タイトル:A MAN ESCAPED|
監督・脚本・脚色・台詞:ロベール・ブレッソン|フランス|1956年|100分|
原案:アンリ・ドヴィニ|
出演:フォンテーヌ中尉(フランソワ・ルテリエ)|青年ジョスト(シャルル・ル・クランシュ)|ほか

【ロベール・ブレッソンの映画】 これまでに記事にした映画から。

スリ」(1960年)  「バルタザールどこへ行く」(1964年) 

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映画 「ナック」 監督:リチャード・レスター

上
 天然のナンシー


1-0_20170826084019135.jpg 1965年のロンドン。流行りはじめた若者文化、カウンターカルチャーの、ブームの部分をすくい上げて作ったドタバタ喜劇。
 当時のティーンエイジの子たちを観客対象にした映画だ。
 「最近の若いもんは…」とブツブツ言う街の大人たちをスナップした、ドキュメンタリーっぽいシーンが各所に幾つもあって、世間にチョイ逆らいたいティーンエイジの笑いを誘ったんだろう。

2-0_20170826084408f36.jpg そんな古臭い大人たちの批判をよそに、若いもん3人のお話が進みます。
 やたら女にもてる(努力もしている)きざなドラマーのトーレン、もてたいがもてない要領の悪いコリン、天然系おのぼりさんの女の子ナンシー、この3人が主人公。

 そのほかに、たくさんの美人の女の子たちが入れ替わり立ち替わり登場する。
 それはトーレンの彼女達や、トーレンの持て過ぎをひがむコリンの妄想シーンに出てくる女の子たち。
 案外、ここが見どころかも知れない。(ただしヌードもセックスもない健全映画、だが男尊女卑)

 ちなみに、この女の子の中に、ハイティーンだったジェーン・バーキンやシャーロット・ランプリングが出演しているらしい。(捜してください)

 筋は言うほどのものではないが、モノクロ映像がきれいです。
 1965年のロンドンの風景やファッションが何やらアンティークです。

 監督は本作「ナック」製作の前年(1964年)に、「ビートルズがやってくる ヤァ!ヤァ!ヤァ!」を、「ナック」製作の同年1965年に「ヘルプ!4人はアイドル」を撮っている。

 ボブ・ディランの英国ツアーに追ったドキュメンタリー映画「ドント・ルック・バック」(1967年)に出てくるティーンエイジの子たちも、この「ナック」やビートルズ映画を見たんだろうな。    

 1969年ごろのロンドンに住む青年を描いた映画「ウィズネイルと僕」(1987年)の二人は、この「ナック」の主人公たちと同世代の数年後なのでしょう。 (下線部をクリックして、その過去記事にお進みください)

 時代はいつも多面的です。
 その時代をどんなスタンスで見るか、見たかで、時代の色合いは違って見えます。
 例えば、ポップカルチャーに焦点を当てて見る、カウンターカルチャーの視点で見る、政治が人に与えた影響の文脈で見る。
 ひとりの人の中でも、時とともに見方は移ろって行きます。


オリジナルタイトル:The Knack ...and How to Get It|
監督:リチャード・レスター|イギリス|1965年|85分|
原作戯曲:アン・ジェリコー|脚色:チャールズ・ウッド|撮影:デイヴィッド・ワトキン|
出演:ナンシー(リタ・トゥシンハム)|コリン(マイケル・クロフォード)|トーレン(レイ・ブルックス)|ジェーン・バーキン|ジャクリーン・ビセット|シャーロット・ランプリング|

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映画 「ギャラリー 欲望の画廊」  監督:ダンカン・ウォード

上

 香辛料をうんと効かせた辛辣なコメディ。その分、脂っこくなくサラリと仕上げた映画。映像もきれいだ。

1-0_2017081816335729d.jpg どこまで真実かは知らないが、イギリスの現代アートシーンの狂った裏側を強烈に風刺している。(のかな)
 好色だが、やり手の美術商アート・スピンドルと、現代美術コレクターのボブ・マクルストン、この二人の中年男が悪役主人公と言っていい。
 (アメリカの現代アート作家だったバスキア(1960 - 1988)に、若い頃に接したという人物設定で、1980年代から現代アートで生きて来た40歳半ばの中年だ)

 とにかく、その絵画やオブジェは、世の中にその一点しかない。
 だから、これがビジネスかと思わせるほどに、売る買う両者の騙し合い。カネ、名声維持、見栄と猜疑心、精神的摩耗・・・。

 一方、成功したい魂胆丸だしの、現代アートの駆け出しアーティストたち。独立してギャラリーのオーナーになりたい賢い女。そして、アートシーンの末端にすがり続けたが、芽が出ない男の自殺。

 そんな世界に男と女が生きている。不倫、チョッカイに、パトロンという利害関係。登場人物の相関図は錯綜する。それにゲイとレズ、果ては離婚と財産分与騒動。話は盛りだくさんだ。

2-0_20170818163902513.jpg 逸話のひとつとして、画家モンドリアン(1872 - 1944)の「Boogie Woogie」を、その昔、画家本人から買った老富豪が出てくる。
 画商のアートも、美術コレクターのボブも、そしてその他の画商・個人コレクターもこの絵を狙う。(きっとサザビーズや美術館も、か)
 しかし老富豪は売りたくない。だが夫人は召使の男と組んで、値を吊りあげ売ろうとする。その結末は・・。

 もうひとつ。アートの所で5年働いていたが、ボブをパトロンに据えて、ギャラリーのオーナーになった女性ベスは、赤裸々なビデオアート作品を手掛ける女性アーティストをピックアップし、第一回目の個展を開く。
 アートやボブは、この作品が映像という複製芸術なので、値が付く芸術とは思わない様子が面白い。

 ついでに。ベスの替わりに画商アートに雇われた女性ペイジが、生まれながらの不具合で手術を受ける。その時、摘出された臓器を、ボブはホルムアルデヒド漬け作品にしてペイジに送るのだ。
 ひどい話だが、これは、イギリスの現代アート・アーティスト、ダミアン・ハーストを連想させる。この作家は、鮫、牛、羊の全身を、そのまま、ホルムアルデヒドを満たした大きなガラス箱に保存した作品で有名。

 とにかく、カネと名声を求めて、人々がうごめく現代アートシーン。
 ベスに出し抜かれた画商アート・スピンドルも、離婚と財産分与を切り抜けたコレクターのボブ・マクルストンも、性懲りもなく、したたかに明日へと向かうのである。

オリジナルタイトル:Boogie Woogie|
監督:ダンカン・ウォード|イギリス|2009年|94分|
原作:ダニー・モイニハン 小説『Boogie Woogie』|脚本:ダニー・モイニハン|撮影:ジョン・マシソン|
出演:ロンドン屈指の美術商・アート・スピンドル(ダニー・ヒューストン)|美術収集家で、アートの元で働くベスを引き抜きパトロンになる・ボブ・マクルストン(ステラン・スカルスガルド)|アートの元で働く女性で、ボブの協力を得て独立してギャラリーを持つことになる賢い女・ベス(ヘザー・グラハム)|新進気鋭の若手アーティストでベスの恋人ジョー(ジャック・ヒューストン)|ジョーと不倫する、ボブの妻・ジーン・マクルストン(ジリアン・アンダーソン)|ベスに替わってアートの元で働くローラースケートの女・ペイジ(アマンダ・サイフリッド)|モンドリアンの名画Boogie Woogieの第一作を所有している老富豪アルフレッド・ラインゴールド(クリストファー・リー: ピエト)|その妻でその絵を売りたいアルフリーダ(ジョアンナ・ラムレイ)|その召使いでアルフリーダと一緒になるロバート・フレイン(サイモン・マクバーニー)|アートシーンで食えない男・デューイ(アラン・カミング)|ジーンの友人エミール(シャーロット・ランプリング)|ほか

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映画 「ラブゴーゴー」 台湾映画 監督:チェン・ユーシュン

写真
初恋のひと、リーファ










写真
パン屋のアシェン


 コテコテの台湾製コメディかと思いきや、案外、すっきりとした爽やかさ。

1-0_20170805151418f33.jpg パン屋のおばさんが貸してる部屋に、3人の男女が住んでいる。
 アシェン(チェン・ジンシン)は、おばさんの甥。長年、パンとケーキの職人として真面目に働き続けて、今じゃ店を任されている。
 シュウは田舎から出て来た青年で、音楽で食って行きたいが芽が出ない。金がなく、店の売れ残りのパンで、日々何とか、しのいでいる。
 OLのリリー(リャオ・ホェイチェン)は、大食漢で甘いモノ好き。恋人が欲しい。

 さて、ここから三話構成の第一話が始まります。
 ある日、店にレモンケーキを買いに来た女性がいた。美人だ。アシェンは、その女性が、小学校6年の同級生で、初恋のひと、リーファだと、すぐに気付いた。
 忘れていた初恋のひとは、その日から毎日来店するが、アシェンはドキドキするだけで、声もかけられない。手紙に託そうともしたが渡せない。
 そこでアシェンは考えた。彼にとって得意なコミュニケーション・ツールは、ケーキだ。店のケーキのネーミングを、「リーファへの想いの言葉」に替えはじめる。(リーファはアシェンに気付いていないが、ケーキの名前を面白がったようだ)
 さらには、テレビ放送を通して歌の歌詞で彼女に想いを伝えよう! 音痴のアシェンは、素人のど自慢に応募し、同時にシュウから歌の特訓を受ける。
 しかし、テレビ番組を見てくれなきゃ。だが放送日時を書いた手紙が渡せない。その時、業を煮やした店の女の子が、アシェンの書いた手紙をさっと奪い、リーファを追いかけ手渡した。

 第二話。
 OLのリリーが、街でポケベルを拾った。(携帯電話がまだ無い時代の話です)
 ポケベルをいじり回しているうちに、持ち主の電話番号が分かって、恐るおそる電話をかけてみると、留守番電話のメッセージが若い男のいい声! リリーはこの声に惚れてしまうが・・・。

 第三話。
 訪問セールスのアソン(シー・イーナン)が、痴漢撃退グッズを売り歩いているが、売れない。(第一話では、パン屋のおばさんに売ろうとした)
 高層ビルに迷い込むように入り込んだアソンは、高級な美容室を見つけ、客のフリして入った。ここは女性ばかりだ、セールスできるぞと、アソンは踏んだのだ。
 彼を担当したのは、リーファであった。リーファはこの店を経営している。アソンは彼女に一目惚れ。
 しかし、当のリーファは、愛しい彼との別れ話の時であった。
 
 三話とも、程よいコメディ性を保ちながら、爽やかなテイストです。
 第一話でアシェンがリーファに宛てた手紙文には、ジーンと来ますね。
 第一話のラストは第三話のラストになってつながります。
 第二話は話としては弱いのですが、可笑しい増量剤を加えていて、悪くない。2003年の邦画「茶の味」に出てくる巨大な少女は、本作のリリーの映像表現を真似ています。
 第三話はちょっと頂けない。

 総じて言うと、第一話の話で全編を描いてもらいたかった、というのが私の気持ちです。

オリジナルタイトル:愛情来了 Love Go Go|
監督・脚本:チェン・ユーシュン|台湾|1997年|113分|
撮影:ツァイ・チェンタイ|
出演:パン屋のアシェン(チェン・ジンシン)|アシェンの同級生で初恋の相手・リーファ(タン・ナ)|音楽で食って行きたいシュウ(マニェン・シェン)|OLのリリー(リャオ・ホェイチェン)|訪問セールスのアソン(シー・イーナン)|パン屋のおばさん(チウ・ショウミン)|パンにガムを入れた男(ホアン・ツジャオ)|

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映画 「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」 監督:ジム・ジャームッシュ

上

 何世紀も生きて来たヴァンパイア夫婦の話。

1-0_201708041043400af.jpg その昔、人間の首筋に噛みついて生血を吸った彼らも、21世紀では、それはもう蛮行で、節度あるヴァンパイアはドリンクとして血を飲んでいる。

 夫のアダムは、病院の血液検査室の男に大金を渡し、輸血用の新鮮な血を横流ししてもらっている。
2-0_20170804105034de4.jpg 妻のイヴは、ヴァンパイアの老作家(ジョン・ハート)がどこかから仕入れてくる信頼度の高い血を分けてもらっている。

 なにせ近年、人の血の多くは汚染されていてヴァンパイアにとっては危険である。汚染されていない清い血の継続的供給はヴァンパイアにとって死活問題であった。

 アダムは何世紀も前から作曲家で、今ではクラシックの作曲家となってしまった人々とも活動してきた。
 ただしアダムはヴァンパイアなので、「人間」の歴史の表舞台には出て来れず、自身の曲を他の(人間の)作曲家に託したりしてきた。アダムは控えめな男であったが、そのことが不満と言えば不満であった。

 そして、20世紀半ばからは作曲するロックミュージシャンとして生きて来た。
 彼の部屋は、1960~70年代のエレキギターの名器や、1905年製のギブソンのアコースティックギター、エフェクター類やドラムセット、ヴァイオリンやリュートなどなど、様々な楽器がグチャグチャ無造作にそこらじゅう。そして、自宅録音のために、スタジオ録音用の往年の機器類が所狭しと並んでいる。
 イヴの部屋には、あらゆる国のあらゆるジャンルの書物がそこらじゅうに積まれている。(日本の文庫本もある)
 夫婦とも、実にマニアックな方々である。監督の理想の部屋なんだろうか。

 さて、お話の方はというと、大したこともないので割愛。観てのお楽しみ。(123分、一応飽きずに見通しました)
 敢えて言えば、ストーリーのスジよりも、ストーリー設定に重きがある映画といえましょう。
 あるいは、監督の世界観を覗き見ることができる作品なのかもしれない。

 気に入った台詞が2つありました。
 イヴが、鬱になりかけのアダムに言う。「自分の心にとらわれるのは、生きる時間の無駄づかいよ」
 もうひとつは、モロッコの港町のライブハウスで夫婦して聴いた、素晴らしい若手歌手を指して、アダムがイヴに言う台詞。「有名になるには、もったいない才能だ」 (確かに素晴らしい歌手です!伴奏は控えめなギターと不思議なパーカッションだけ)
 有名になったが故に才能が消えていくミュージシャンを、何世紀に渡ってたくさん見て来たアダムの言葉。(監督の名言か)

 とても驚いたことがありました。
 映画の半ばあたりで、突然、ある曲が流れます。
 その曲は、女性ソウル歌手のデニス・ラサールが歌う「TRAPPED BY A THING CALLED LOVE」(デニス・ラサール作詩作曲)
 この曲は、デニス・ラサールのアルバムのA面1曲目に収録されてる曲で、私が好きなソウルのベストに入るLPなのです。 (Westbound Records ‎– 1972年)
 いや、ビックリ!
 イヴはこの曲をかけて、元気のない旦那とダンスします。

 つっこみを3つ。
 アダムが病院で輸血用血液を分けてもらうシーン。
 病院の男(人間)がアダムに言う。アダムが首にかけている聴診器を見て、「それ、古いね、70年代のモノかい?」
 私がアダムなら、こう言いかえす。「あんたの座ってる、その椅子、古いね、70年代の椅子だろ」
 男が座ってる椅子は、スチール製、キャスター付のねずみ色のくたびれたオフィス家具なんです。
 ちなみに、監督は1953年生まれ。70年代が懐かしいのでしょうかね。

 アダムの手足となっている男(人間)が、アダムが欲しがった貴重なエレキギターを探しだして納品しに来たシーン。
 ケースからおもむろにギターを取り出して、アダムが試奏する。しかし、だ!
 何か、気の利いたリードのフレーズを弾くのかと思いきや、たどたどしく2フレットで指3本のAしか押さえない・・・、それだけ。オイオイ、これ失笑でした。(楽器店で恐るおそる試奏する中学生みたい)

 3つ目は、本作の題名です。英語タイトルをまんまカタカナにしただけ。ハナから売る気がない素振りが素晴らしい。

 最後に、これまでに記事にした映画で、ヴァンパイアの映画「SUCK サック」、これもロックがらみでした。

下 
オリジナルタイトル:Only Lovers Left Alive|
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ|アメリカ イギリス ドイツ|2013年|123分|
撮影監督:ヨリック・ルソー|音楽:ジョセフ・ヴァン・ヴィセム|
出演:アダム(トム・ヒドルストン)|イヴ(ティルダ・スウィントン)|イヴの妹のエヴァ(ミア・ワシコウスカ)|老作家マーロー(通称キット)(ジョン・ハート)|アダムの手先として動くイアン(人間)(アントン・イェルチン)|ワトソン医師(人間)(ジェフリー・ライト)|


【ジム・ジャームッシュ監督の作品】 ~これまでに記事にした映画から
(題名をクリックしてご覧ください)

パーマネントバケーション」「ナイト・オン・ザ・プラネット」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」

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映画 「大統領の理髪師」 韓国映画  監督:イム・チャンサン

上
左から、理髪師のソン、大統領、側近。

 
 社会的にとてもシリアスな題材を、敢えてコミカルなタッチで映画化にするには、勇気が要ると思います。

 大企業による公害被害とその訴訟勝利という実話を扱った、ジュリア・ロバーツ主演映画「エリン・ブロコビッチ」が、まさしくそうした映画でした。(この記事はこちらからどうぞ)

1-0_201708011416255d3.jpg 本作の「大統領の理髪師」も、基本こうしたコミカルタッチな映画です。
 ここでのシリアスな題材とは、1960年代、韓国大統領の独裁政治によって犠牲となった一般市民の悲劇です。
 でも、観てみるとわかりますが、意外に軽い仕立てに作られています。

 「大統領の理髪師」で終始一貫、固有名詞なしで登場する「大統領」とは、実は第5代大統領の朴正煕です。(1917-1979)
 (その娘は第18代大統領のパク・クネ(朴槿恵)ですね。)
 ただし、理髪師のお話は創作です。つまり創作のお話を語ることで、映画は朴正煕の独裁政権を批判しています。

 「エリン・ブロコビッチ」は、ジュリア・ロバーツ演ずる普通一般の女性が、ある偶然の機会で、弁護士代行として公害訴訟に立ち向かうコミカルな話でしたが、本作「大統領の理髪師」は、ソン・ガンホ演ずる理髪店の男が、ある日、無理やり、大統領の専属理髪師にされてしまいます。このことから喜劇と悲劇が始まります。

 ジュリア・ロバーツ演ずる女性は高卒で、弁護士として求められるハイレベルな専門知識からは、ほど遠い人物でした。一方、ソン・ガンホ演ずる理髪師は文盲で世事に疎い男です。両作品ともに、この知識ギャップが喜劇設定になっています。
 
 さて、ソン・ハンモは定期的に官邸(青瓦台)に呼ばれ、官邸内に新設した理髪室で、国で一番偉い男(独裁者)の、髪を切りヒゲを剃ることになります。こりゃ、誰でもビビります。しかし名誉でもあるわけです。

 ここで事件が起きます。
 細菌性の下痢症状を抱えた北朝鮮の兵士(スパイ)が、ソウルに侵入して来ます。そしてソウル市内にこの細菌が拡がりはじめます。
 韓国当局はこの細菌をマルクス病菌と名付け、下痢をした人間は北朝鮮と接触したヤツだと断定し検挙し始めます。
 また同時に当局は、急に下痢の症状になった市民は、「スパイと接触したヤツ」に接触して、下痢になった人間だと断定し、尋問をし密告を促します。
 ソン・ハンモの理髪店がある町内では、彼の知り合い幼なじみ数人が疑われ、尋問を受け拷問を受け処刑されてしまいました。

 そんなある日、ソン・ハンモの店に、大統領側近の偉いサンが散髪に来ていました。(店は官邸のお膝元の街にあります)
 そして運命です。その時、ソン・ハンモの息子ナガンが、お腹が痛いと父親に訴えました。偉いサンはギロッと睨みます。
 大統領から寵愛を受けているソン・ハンモですから、国の民としてもっとも模範的態度を示さねばなりません。

2-0_201708011423262e7.jpg 彼は息子を連れて近くの交番に出頭します。交番は町内にあって警官とは親しい間柄です。まさか、息子を当局に渡すことはなかろうと踏んだのですが、ナガンは当局に送られ電気拷問を受けます。
 しかし、ナガンの身体は電気を通されても、なぜかただ、ムズガユイだけでした。

 数日後、送り返されてきたナガンは半身不随になっていました。
 ソン・ハンモは体制に対し煮えたぎる怒りを覚えますが、大統領や側近の前では平静を装います。
 一方で、ソン・ハンモは息子を背負い、息子の足を治せる民間医療の医者や仙人を訪ね歩きました。そして、韓国一の仙人に会うことができました。

 映画のラスト近く、大統領が側近によって暗殺されてしまいます。
 ソン・ハンモのその後は、いかに。彼の息子の足は一体どうなるのか! 観てのお楽しみ。

 ちなみに、映画はクーデターで政権を掌握した朴政権についてだけではなく、ベトナム戦争で負傷した韓国軍兵士の心、朴大統領の前任の不正選挙についても語っています。


オリジナルタイトル:孝子洞理髪師|효자동 이발사|
監督・脚本:イム・チャンサン|韓国|2004年|116分|
撮影 チョ・ヨンギュ|
出演:ソン・ハンモ(ソン・ガンホ)|その妻のキム(ムン・ソリ)|その子ナガン(イ・ジェウン)|大統領(チョ・ヨンジン)|警護室長チャン・ヒョクス(ソン・ビョンホ)|中央情報部長パク・ジョンマン(パク・ヨンス)|ほか

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映画 「初恋のアルバム 人魚姫のいた島」 韓国映画  監督:パク・フンシク

2_20170723103949f09.jpg




写真


写真

 甘口の映画だが、そう悪くはない。
 それは、若き日の母親とその娘ナヨンを、一人二役で演ずる、チョン・ドヨンが光っているからです。

 ナヨンは失踪した父親を探して、母親が生まれ育った島へ旅立ちました。
 ですが、島に着いた途端、ナヨンは、母親が娘であった頃へ、タイムスリップしてしまう。
 タイムスリップしたその先では、島も、そして周りの海も、まだまだ開発の手が及んでないのどかな風土、光りに満ち溢れた風景でした。

1-0_20170721103413879.jpg 若き日の母・ヨンスンは幼い弟と二人住まい。親はいません。ヨンスンは島の女たちと一緒に、海女をして生活しています。
 島には小さな郵便局があって、ヨンスンはそこの若い配達夫・ジングクと恋仲になっていました。
 学校へ通えず文盲のままに過ぎて来たヨンスンに、ジングクは優しく読み書きを教えています。

 映画はその大部分の時間を使って、このヨンスンとジングク、若い二人の、たどたどしい愛を瑞々しく描いて行きます。これが本作の見どころでしょう。

 さて、そののちジングクは転勤で島を離れることになりますが、結局、その後二人はめでたく結ばれました。
 そう、この郵便局の男ジングクがナヨンの父親になるのです。

 しかし、いつからなのでしょうか、両親の夫婦仲がうまく行かないようになってしまいました。(映画は、夫婦仲が悪い事や以下の事については、少ししか時間を割きません)

2-0_2017072110361922a.jpg 勝ち気な母親は、事あるごとに、がなり声で父親を容赦なく、なじる毎日。父親は言われるまま、ただ黙っている。
 ナヨンはそんな母親が嫌いだ。こんな、女尊男卑な家庭に生まれたくなかった。

 どうやら父親は借金を背負っているようです。人の好い父親は、誰かの連帯保証人になったらしく、返済義務が生じている。
 父親の郵便局勤めの稼ぎだけでは賄えない。その分、家計を補うためにも、母親は銭湯でマッサージ/垢すりをして働いています。(ナヨンも郵便局に勤めています)

 そのうえ、近年、父親は体調が悪い。病院の検査でも良くないらしい。だが父親は、このことを誰にも話していません。
 父親は妻に債務に病魔に疲れてしまい、失踪。
 そこで、娘ナヨンが、父親探しに島へ向かうのでした。

 そして映画冒頭。父親の葬儀の席で、借金を残したまま他界したことを、母親は大声でなじり、大泣きするのです。

 タイムスリップから帰ったナヨンは思います。
 あんなに、ねじ曲がってしまった母親の心に、夫にも見せない秘めた愛、若き日の愛が、あるのだろうと。
 そして、父親については、純粋に優しいということは、かえって周りを傷つけることになると・・・。

 残念なのは、若い頃の両親と現在の両親の、その様相の格差があまりにあまりなので、別の人の話に思えてしまいます。
 いやいや往往にして、こうなってしまうものですよ、と映画は言っているのでしょうか。


下
オリジナルタイトル:人魚姫|인어공주 |
監督:パク・フンシク|韓国|2004年|111分|
原案:キョン・ヒェウォン|脚本:パク・フンシク 、 ソン・ヒェジン|撮影:チェ・ヨンテク|
出演:娘のナヨン、若き日のナヨンの母・チョ・ヨンスン、一人二役(チョン・ドヨン)|現在の母・キム・ヨンスン(コ・ドゥシム)|若き日の父・キム・ジングク(パク・ヘイル)|現在の父・キム・ジングク(キム・ボングン)|ナヨンの彼氏・ドヒョン(イ・ソンギュン)|ほか

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映画 「アデル、ブルーは熱い色」  監督:アブデラティフ・ケシシュ

上
 アデルとエマ
1-0_20170713094955213.jpg


 オリジナルの題名は「アデルの人生:第1章と第2章」。
 高校生のアデルが同じ学校の先輩男子より、街で見かけたブルーの髪の女性に魅かれていく話。
 主人公のアデル役のアデル・エグザルコプロスの自然体の熱演に脱帽だ、素晴らしい。

 宣伝では、衝撃の愛の7分間、史上最高のラブシーンにカンヌが大喝采!と、レスビアンの性描写をことさらに言うが、蓮っ葉な売り文句だな、それがこの映画の売りなのかい?

 ブルーの髪の女性エマは画家、その彼女が映画の中で、自身の作品に言及するキュレーター(美術評論家)に対して言っている。「作品に敬意を払うべきよ」と。このセリフをそのまま、本作の配給会社に言いたいね。
 観るほうも、エロいの観たけりゃ、他のにすれば。

 売りのラブシーンよりも、アデルがクラブで街頭デモでパーティで幼稚園で踊るダンスシーンの方が長い。映画の各所で出てくる。監督は愛と踊り両方のシーンをもって、作品のいしずえ(礎)と考えている風に思える。

 映画に使われる音楽の選定にセンスを感じる、いいね。

 あと、アデルの家庭は中の下か、労働者階級で、人生において特に職業選択は手堅くというに対して、エマの家庭は自由奔放な上流階級。お父さんは二人目で、著名なシェフ。エマの家庭はレスビアンを許容する。

 話のスジはいたって単純だが、「アデルの人生:第1章と第2章」を丁寧に描いて行く。179分の大作。
 演技輝くアデルに注目。じっくり観てみよう。

 ちなみに、アデルに対して恋愛感情なしに、親身になってくれる男子が登場する。
 2015年の韓国映画「恋物語」にも同様な男子が主人公のレスビアンな女子を慰める。(「恋物語」の記事はこちらから。)


オリジナルタイトル:La Vie d'Adèle : Chapitres 1 et 2|
英語タイトル:BLUE IS THE WARMEST COLOR|
監督:アブデラティフ・ケシシュ|フランス|2013年|179分|
原作:ジュリー・マロ|脚本:アブデラティフ・ケシシュ 、 ガリア・ラクロワ|
撮影監督:ソフィアン・エル・ファニ|音楽:ジャン=ポール・ユリエ|音楽監修:エリーゼ・ルーゲン|
出演:アデル(アデル・エグザルコプロス)|エマ(レア・セドゥー)|サミール(サリム・ケシュシュ)|リーズ(モナ・バルラベン)|トマ(ジェレミー・ラユルト)|ベアトリス(アルマ・ホドロフスキー)|アントワーヌ(バンジャマン・シクスー)|ほか

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映画 「チャップリンからの贈りもの」  監督:グザヴィエ・ボーヴォワ

上
左から、娘のサミラ、父親のオスマン、そして風来坊のエディ。
 

 話の舞台はスイス、レマン湖の辺り。
 生真面目なアルジェリア人と楽天家のベルギー人、この二人の男がトンデモナイことを仕出かす話。

1-0_20170708220906035.jpg 北アフリカはアルジェリアからの(不法?)移民の男オスマンは、テレビも無い粗末な小屋に妻子と住んでいる。
 最近、妻が重い腰痛で緊急入院し、オスマンは娘のサミラと二人っきり。  
 そこへ風来坊のベルギー人エディが訪ねて来た。エディはオスマンの命の恩人で、義理堅いオスマンはエディの居候を歓迎した。
 だが、病院でこのことを知ったオスマンの妻は、「エディはやっかい者」と渋い顔。以前に良くない事があった様子。

 オスマンは問題を抱えていた。
 妻の医療費が払えない。だから妻は手術が受けられない。
 病院からは、オスマンの妻であることを証明する家族証明を提示すれば、低所得者向けに、手術代などの医療費が割安になる。
 しかしオスマン夫婦は結婚の際、スイスの役所の手続きをしていない、だから証明するものが無い、よって高額医療費の全額負担となってしまう。
 そのうえ、妻が働けないでいるので、家族の収入はがた減り。銀行に金を借りる相談に行ったが相手にしてもらえない。
 手立てがないオスマンは頭を抱えている。おまけに娘のサミラは母親が家にいないので情緒不安定。

2-0_20170708215635248.jpg こんなオスマン一家の困った様子を見ていた居候のエディに、アイデアが浮かんだ。
 最近、他界したチャップリンの遺体を一時、盗んで、身代金を頂こう!
 晩年、レマン湖のほとりの別荘に住んでいたチャップリンは、近くの墓地に埋葬されていたのだ。

 エディの突飛な言動に慣れているオスマンだったが、これには呆れた。呆れたが魅力的でもあった。なにしろオスマンに打つ手がなかった。
 ついにある夜、二人は闇に紛れて、墓荒らしを決行し、人目につかない別の場所に棺を埋めた。
 次に、チャップリン家に対して、電話で犯行声明と身代金要求。電話はエディが担当、オスマンは英語が話せない。
 しかしエディの電話は、思うように話が進まず相手に怒鳴りだしたり、オスマンに相談なく身代金を半額にしたりと、横にいるオスマンはハラハラし通し。
 (シーンは喜劇とまでは行きませんが、ともに貧しい男の凸凹コンビの様相。)

 さてさて話は、このあと、どうなるのでしょう。でも映画は、一応、ハッピーエンドを迎えます。
 脚本は、スイスで1977年に実際にあった事件を基にしているようです。
 チャールズ・チャップリンは、1977年12月25日に死去、映画の日本語タイトル名は12月25日クリスマスの日にかけているのでしょうか。
 ちなみにですが、スイスでは、全住民の24.6%の外国人を抱えているらしい。(2015年現在)


オリジナルタイトル:La Rançon de la Gloire|
英語タイトル:THE PRICE OF FAME|
監督:グザヴィエ・ボーヴォワ|フランス|2014年|115分|
脚本:エティエンヌ・コメ 、 グザヴィエ・ボーヴォワ|撮影監督:カロリーヌ・シャンプティエ|
出演:エディ(ブノワ・ポールヴールド)|オスマン(ロシュディ・ゼム)|サーカスの女・ローサ(キアラ・マストロヤンニ)|チャップリンの秘書・ジョン・クルーカー(ピーター・コヨーテ)|オスマンの娘・サミラ(セリ・グマシュ)|オスマンの妻・ヌールNoor(ナディーン・ラバキー)|チャップリンの娘(ドロレス・チャップリン)|

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映画 「フローズン・リバー」  監督:コートニー・ハント

上


 お話は、アメリカ東北部、カナダとの国境近く。
 ニューヨーク州の北辺を流れるセントローレンス川、この川を国境線にして向こうはカナダだ。

 生活に窮する白人中年女性と、アメリカ先住民族の若い女性との、母親同士の思わぬ出会いと人種の壁と、凍った川を車で渡る密入国者輸送の共犯と、友情を描く。

1-0_20170703141232ab2.jpg この国境付近でトレーラーハウス※(下記)に住み、二人の息子を抱える白人女性レイには、もう小銭しかない。レンタルで借りてるテレビ(受像機)の支払いも滞っている。下の子はまだ4歳位、ディズニーのアニメが楽しみなのに。
 レイは1ドルショップで働くが非正規雇用、給料日はまだ先。
 ある日、コツコツ貯えた金を持って、夫は姿を消した。その金は、一家四人が暖かく楽しく住める新しいトレーラーハウスを買うための金だった。

 夫はギャンブルに溺れていた。それを激しく責めるレイだったらしい。そんな両親をこれまで見て来た15歳の長男は父親を擁護する。
 レイは夫を探しに、いや、持って逃げた金を取り返すべく、夫がよく行くモホーク・ビンゴ・パレスへ車で出かけた。
 そこはインディアン・カジノのビンゴ会場、北アメリカ先住民族のモホーク族の保留地のなかにある。

 夫の姿はなかった。車は駐車場にあった。夫はここからバスで行方をくらましたようだ。
 モホーク族の女ライラが会場から飛び出してきて、夫が乗って来た車で走り去る。何! あとを追うレイ。
 たどりついたところは、保留地の中のライラの家、レイのハウスより小さくて、キャンピング用のトレーラーの様。一人住まいだ。
 ライラはレイに言う、「この車を売らない?」 (トランクルームが大きいこの車は、人を入れて運ぶのに役に立つのだ。)

 ライラはこんな車が欲しかった。車があれば、兄の商売を手伝って金が入る。その金を貧しい義母に渡せる。
 出産直後に赤ちゃんを義母に奪われたままのライラは、赤ちゃんのために金を渡したい。(ライラの夫はすでに世を去っていた)

 ライラの兄たちの商売は、カナダからアメリカへの密入国斡旋だった。
 冬はセントローレンス川が凍り、車で川を渡れる。(フローズン・リバー)
 そして、川の両岸つまりカナダ側もモホーク族の保留地。保留地の中にはアメリカ・カナダの国境はない。このことを逆手に取った密入国。
 車のトランクルームに密入国者を入れて密かに川を渡るのだ。部族の闇収入源なのか。

 結局、ライラの話を聞いてレイも密入国者輸送を手伝うことになる。稼いだ金は折半だ。
 レイはレイでまとまった金が近々に欲しかった。あと数日以内にトレーラーハウスの残金を納めないと、頭金が消えてしまう。

 さて、レイの無謀な冒険、ライラの土地勘、そして意外にも沈着冷静なレイの判断。
 カナダ側から川を渡りアメリカ側の保留地を出ると、州警察の目が光るが、白人のレイは怪しまれないし、警官とは見知った間柄でもあった。

 3回目の密入国ほう助のある夜、レイとライラは窮地に追い込まれる。
 州警察と彼女らの間に、モホーク族の部族議会が入って事を丸く収めることになる。要するにトカゲのシッポ切り。
 会議の結論はレイかライラのどちらかが自首する。
 はじめ、ライラが自首すると言った。なぜならレイには帰りを待つ二人の息子がいる。レイは一瞬躊躇しながらも、家へ帰ろうとしたが、引き返した。
 そしてレイはライラに言った。あなたは赤ちゃんを義母から奪い返して、そして私の家に住み、息子二人の面倒をみて。刑期は4か月らしいから。


※トレーラーハウスとは
  キャンピング・トレーラーの形態だが、特定の場所に定住するを目的とした移動可能住宅。タイヤがついたプレハブ住宅。トラックで牽引する。
※インディアン・カジノとは
  保留地内でインディアン部族が経営する各種カジノ。アメリカ連邦政府との連邦条約規定に基づくインディアン部族の権利となっている。
 参考サイト https://ja.wikipedia.org/wiki/イロコイ連邦のインディアン・カジノの項。保留地についても解説あり。
※モホーク族とは
  https://ja.wikipedia.org/wiki/モホーク族
 
下
オリジナルタイトル:Frozen River|
監督・脚本:コートニー・ハント|アメリカ|2008年|97分|
撮影監督:リード・モラノ|
出演:レイ(メリッサ・レオ)|ライラ(ミスティ・アップハム)|レイの長男ティー・ジェイ(チャーリー・マクダーモット)|ジャック・ブルーノ(マーク・ブーン・Jr)|フィナーティ警官(マイケル・オキーフ)|ジミー(ディラン・カルソナ)|リッキー(ジェイムズ・ライリー)|ビリー・スリー・リヴァーズ(マイケル・スカイ)|チェン・リー (ナンシー・ウー)|ガイ・ベルサイユ(ジェイ・クレイツ)|






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映画 「ウィスキー」 ウルグアイ映画  監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール

上
事業主のハコボと従業員のマルタ、ともに独身だ。


01- 人生を十分味わって来た年配者たち3人の機微を描く映画です。
 
 南米ウルグアイの街中にある、朴訥な事業主と無口な女性従業員3人の、靴下製造の小さな町工場。
 古い製造機械を相手に黙々と、決まりきった単純労働をこなす日々。
 明るい期待は無いが、月々決まった生活の糧は得る。
 出社退社時の判で押したような毎日の挨拶、朝夕の表のシャッターの開閉、機械の騒音と蛍光灯の光、就業中最低限の会話、沈み込む感受性。

 その一方で映画は、真面目な市井の人が時に見せる、作られていない、じんわりとした可笑しさを提供する。
 しかし、これを喜劇と言い切るには、いささか重苦しい。

 心を閉じてしまった年配者たちの、思ってもみなかった恩返し。それは彼らの誠実さが擦り切れていなかった証。
 映画は喜劇を求めず、無口な人の実直さをすなおに描いている。

2-0 靴下工場の事業主ハコボと、長年従業員頭を務める独身女性マルタの二人は、わずかな会話で意志が通じ合う。
 そんなある日、ハコボの母親の墓石建立式に出席するために、ブラジルに住むハコボの弟エルマンがやって来た。(兄弟はユダヤ人)

 この兄弟は仲が悪く長年会っていない。面と向かっても、話す話題もない。
 それは独身のハコボが、介護も含め母親の世話を最後まで面倒みたからだった。実母でありながら弟エルマンはまったく兄任せであった。

 そのエルマンは昔、父親が始めた靴下製造の、稼業の古臭さを嫌がり、家を飛び出してブラジルで新式の靴下工場を始め、商売はうまく成功した。兄弟の造る靴下の品質やデザインの違いは鮮明だ。兄より弟に才覚があったと言える。
 ちなみに、エルマンの家族は幸せそうで、娘のひとりは近く医者になると言う。

 弟の、兄と母に対する不義理。兄の、弟に対する漠然とした嫉妬。
 そんな中で、ハコボは弟に対するメンツか、自分は結婚したと嘘を伝えていた。
 映画はここから始まる。
 ハコボはマルタに、弟が滞在している間だけ(仮の)妻になってくれと頼みこんだ。意外にもマルタはすなおに受け入れた。長年雇ってもらえている日ごろの恩を返すつもりだったのか。
 さっそくマルタはハコボの家に行き、シングルベッドをくっ付けてダブルベッドに見立てたり室内を小ぎれいにして、なんとか夫婦の家に見えるようにした。しかしハコボはこれを嫌がり、ベッドを離し、自身はソファで寝た。

 また、エルマンは不機嫌な兄と話ができないために、マルタに語りかけることが多くなる。マルタはマルタで、日ごろ、男性と話す機会がないためか、いつになく笑顔と饒舌さを世慣れたエルマンに見せる。そしてそんな二人を見て、ハコボはうっすら焼きもちを焼く。

 この三人が一泊旅行をする。
 ホテルのクラブで三人がショウを見ている時、マルタは出し抜けに、紙に包んだ札束をテーブルに乗せてハコボに差し出す。
 不義理を金で埋め合わせしようとするのかという気持ちでそれを一旦押し返したハコボだが、結局紙包みを懐に仕舞い込んだ。
 次に映画はふたつを語る。
 ホテルの夜、マルタは約束の時間に密かにエルマンの部屋へ行きベッドを共にした。
 同じころ、ハコボはホテルのカジノへ行き、紙包みの全額を両替しルーレットに賭けた。

 翌朝、ホテルのチェックアウト前に、ハコボはマルタに、綺麗な包装紙に包んだ「モノ」をプレゼントした。
 そして次の日、これまで一度も遅刻すらしなかったマルタは、ついに工場に現れなかった。

下


オリジナルタイトル:Whisky|
監督:フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール|ウルグアイ・アルゼンチン・ドイツ・スペイン| 2004年|94分|
脚本フアン・パブロ・レベージャ、パブロ・ストール、ゴンサロ・デルガド・ガリアーナ|
撮影バルバラ・アルバレス|
出演:ハコボ・コレル(アンドレス・パソス)|マルタ・アクーニャ(ミレージャ・パスクアル)|エルマン・コレル(ホルヘ・ボラーニ)|マーティン(ダニエル・エンドレール)|グラシェラ(アナ・カッツ)|カルロス(アルフォンソ・トール)|

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映画 「ブーベの恋人」  監督:ルイジ・コメンチーニ

上

 マーラ役の女優クラウディア・カルディナーレ当時25歳を愛でる映画です。

 時は第二次世界大戦末期、舞台はイタリア北部。
 当時、イタリア北部はナチスドイツの占領下にあって、ナチスドイツは、ムッソリーニが率いたファシズム体制の残党を傀儡にし、共和国を建国していた。
 お話は、これに抵抗するパルチザン(レジスタンス)の父と兄を持つ娘マーラと、そしてその二人を知る、やはりパルチザンの男ブーベ(ジョージ・チャキリス)との恋物語。

1-0_201706231114141a2.png 出会いは、1944年のある日、ブーベがマーラの父親を訪ねて来たことに始まる。
 ふたりは互いに、会ったその時から意識し合うことになる。
 しかしブーベは、イタリア人ファシストである憲兵とその息子を殺害し逃走中の身であった。
 片やマーラは普通の田舎の娘であった。父親や兄が彼女にパルチザンについて語ることもなく、彼女にはブーベの活動は遠い世界であった。

 その後、時を置いてブーベはマーラを訪ね、幾度かの短い逢瀬があり、そしていつしか、二人は行動を共にすることになる。身を隠しての日々であった。
 しかし、ブーベに危機が迫り、パルチザン幹部の計らいで彼は単身、国外に逃れることとなった。
 
 1945年、イタリア北部がパルチザン勢力によって奪還される。
 そののち、しばらくしてブーベが帰国。時代はもう、レジスタンス闘争の時を終え、イタリア全土は共和制の時代になっていた。
 ブーベは今や、ファシスト体制下で反体制分子として追われる身ではなく、殺人犯として裁判にかけられることになった。

 映画ラスト近く。マーラは列車に乗って、ブーベのいる刑務所へ面会に向かおうとしている。彼が収監されて7年の月日が経つ。
 出所までは、この先さらに7年。マーラはひたすらブーベの出所を待っている。

 時代背景。
 ムッソリーニ率いるファシズム政権崩壊の1943年以降、イタリア北部は、ナチスドイツとファシズム体制時の残党(傀儡)の支配下となり、一方、連合軍が侵攻したイタリア南部は、連合軍と国王政府との支配地域となって、イタリアは大きく二分されてしまう。
 この時から、北部各地でレジスタンス運動が起こり、ドイツ軍およびイタリア人ファシストを相手に、パルチザン勢力による国土解放に向けた戦いの時代に突入することになった。
 そして1945年4月にようやく北部地域の解放を果たし、イタリアは同年12月に共和制の時代になった。

 ブーベの苦難。
 北部が解放されてのち、ファシスト体制下で罪人となった人々に恩赦が出た。しかし、ブーベの帰国はそのあとであったために恩赦を受けることは出来なかった。ブーベはパルチザン幹部の命令に従ったために恩赦のチャンスを逃してしまった。

 マーラのふたつの愛。
 ブーベが国外逃亡した後、彼女はステファーノとの恋に落ちる。しかし、彼女は彼に「でも私はブーベの恋人よ、わかって。」と言いマーラを待つ身であることを告げた。そして、裁判時にマーラはブーベへの愛を、改めて強く感じたのであった。
 ブーベはマーラに言った。今までもこれからもお前が支えだ。もしお前がいなかったなら、俺は自殺していたかもしれない、と。


オリジナルタイトル;La Ragazza di Bube|
監督:ルイジ・コメンチーニ|イタリア・フランス|1963年|112分|
原作:カルロ・カッソーラ|脚色:ルイジ・コメンチーニ 、 マルチェロ・フォンダート|
撮影:ジャンニ・ディ・ヴェナンツォ|
出演:マーラ(クラウディア・カルディナーレ)|ブーベ(ジョージ・チャキリス)|マーラの彼氏ステファーノ(マルク・ミシェル)|リリアーナ(ダニー・パリス)|イネス(モニク・ヴィータ)|マーラの母(カルラ・カーロ)|マーラの父(エミリオ・エスポジート)|

下

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映画 「フェリーニのアマルコルド」  監督:フェデリコ・フェリーニ

上
少年チッタの家族。

 フェリーニ監督(1920-1993)が少年時代のある年、特別に印象深く彼の心に残る、その1年を題材にしたといわれる喜劇&ファンタジー映画です。

2-0_20170616122321fff.jpg 時は1935年の春。
 映画のバックグラウンドは、ファシスト党のムッソリーニが首相となり、一党独裁政治をはじめて13年経った頃。
 そしてファシスト党指揮下の秘密警察が設立されてから5年経った春。圧政の時代。
 少年チッタは15歳。異性に目覚める頃、大人として世間に出て行く準備の時。

1-0_20170616121821de5.jpg
 映画の舞台は、イタリア北部の小都市。
 1930年代とはいえ、まだまだ19世紀のおおらかさと、男尊女卑と、泥臭い人の営みが残る街。

 お話は、分かりやすく起承転結を語るものではなく、映画は映像を体感させようとする。
 たくさんのアイデアを詰め込んだ押しの強いシーンの連射と、突拍子な切り返し、おふざけも紛れ込む。
 監督の創る喜びが伝わってくる。


 「フェリーニのアマルコルド」の路線を、よりストーリー性を重んじ楽しくドタバタにすると、エミール・クストリッツァ監督の、例えば奇人変人続出の「黒猫・白猫」(1998)に行き当る。

 そのドタバタを抑えて、悲しく屈折した喜劇性とアイロニーに重心を置くとすると、ロイ・アンダーソン監督の例えば「愛おしき隣人」(2007)が思い浮かぶ。
 また、多数の人物を登場させるだけで、その場面に可笑しみが加わる技法もフェリーニ由来のように思う。

 「永遠と一日」(1998)のテオ・アンゲロプロス監督も映像で語って行く監督で、フェリーニの映像力のうちの、大人数の登場と大舞台の演劇性、そして人生における祝祭の喜びを取り込んでいるように思える。

 これらの監督は、本作の様々なシーンを観ていて、「あッ、あの監督は、このシーンに影響されたんじゃないか」と思ったので書いてみた。 

 文中の下線部をクリックして当該記事をお読みください。


オリジナルタイトル:Federico Fellini Amarcord|
監督:フェデリコ・フェリーニ|イタリア、フランス|1974年|124分|
脚本:フェデリコ・フェリーニ 、 トニーノ・グエッラ|
撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ|
出演:チッタ(ブルーノ・ザニン)|チッタの父(アルマンド・ブランチャ)|チッタの母(プペラ・マッジオ)|グラディスカ(マガリ・ノエル)|ほか

◆これまでに記事にしたフェデリコ・フェリーニ監督の映画
 
 「8 1/2」(1963年)  「甘い生活」(1960年)


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映画 「ミニー&モスコウィッツ」  監督:ジョン・カサヴェテス

上

 1970年代、特にその前半に製作された映画のなかに、独特の風合いのリアリティを持つ映画がある。

1-0_201706091309353ff.png 本作もそうだ。
 登場人物はみな、臆面も無く自我丸出しで、愚かで、そして圧倒的に、人として強い。
 そして同時に弱い。
 その、人の弱み、つたなさを表わすにあたって映画は、飾らず盛らず、ためらいなくありのままに弱みを表わそうとする。
 愚直に生きようとする人々を、映画は応援する。
 加えて、観る者が感じる、映画のざらついた手触り感は、1970年代はモノに重さがある、アナログ全盛の時代だからだ。

 話はミニー(ジーナ・ローランズ)と、モスコウィッツ(シーモア・カッセル)のラブストーリー。
 ロサンゼルス郡立美術館に勤めるミニー(ジーナ・ローランズ)は、独身で一人住まい。
 人付き合いが下手で、何でも話せる話し相手は、職場の年配女性。彼女も独身だ。
 ミニーはひとりでいると心が乱れる。愛が欲しい。
 不倫相手の彼はいるが、愛はもう終わっている。

 モスコウィッツはレストランの駐車場付きのサービス係り。
 最低限の収入だが、そんなことを気にしない気楽に生きる男。
 そんな彼が、ミニーに一目惚れ。
 だが、ふたりの愛は、そう簡単には進まない。住む世界が違い過ぎる。

 ふたりの愚直さが、喜劇になって行く。
 監督自身の結婚経験を盛り込んだ作品とのこと。
 
オリジナルタイトル:Minnie and Moskowitz|
監督・脚本:ジョン・カサヴェテス|アメリカ|1971年|114分|
撮影 アーサー・J・オニッツ、アルリック・エデンス、マイケル・ディー・マルグリーズ|
出演:ミニー(ジーナ・ローランズ)|モスコウィッツ(シーモア・カッセル)|ヴァル・エイヴァリー|キャサリン・カサヴェテス|エルジー・エイムス|レディ・ローランズ|ジョン・カサヴェテス|

◆これまでに記事にした映画から。

【ジーナ・ローランズ出演の映画】
グロリア」(監督:ジョン・カサヴェテス)、「ナイト・オン・ザ・プラネット」(監督:ジム・ジャームッシュ)

【シーモア・カッセル出演の映画】
イン・ザ・スープ」(監督:アレクサンダー・ロックウェル)


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映画 「紅の翼」1954年 主演:ジョン・ウェイン 監督:ウィリアム・A・ウェルマン

上
ホノルルを発った旅客機(プロペラ4発機)、搭乗数総勢21名。 

 1954年製作の旅客機パニックもの。

1-0_20170528124954547.png ジョン・ウェイン演じる副操縦士ダンは、1917年からの超ベテラン飛行機乗り。(職歴37年)
 彼は、長年民間航空の機長として活躍し、また二回の世界大戦と朝鮮戦争で空軍パイロットを勤めた男。
 今は別の、この航空会社で、機長を若手に譲り、自身は副操縦士の座にいる。しかしながら若手からは煙たがられている様子。

 さて、ダンが副操縦士として乗り込んだホノルル発サンフランシスコ行きの便が、晴天の中、空港を飛び立った。予定所要時間12時間16分。
 ハワイ、サンフランシスコ間は、どこまで行っても太平洋上である。
 夜になり、帰還不能点(ホノルルへ引き返す燃料がなくなる限界点)を過ぎたあたりで、旅客機の第1エンジンが突如、火を噴いた。
 さらにはこの爆発で、燃料タンクから燃料が漏れだした。機は揺れ出す。

 慌てる機長、第3操縦士、ステュワーデスの3名は、みな若い。もちろん搭乗客たちも騒ぎ出す。
 これを冷静に見るダンも、本当は怖い。だが、彼は状況を判断し的確な行動をとる。
 ダンは自ら進んで、若い機長に代わり、客たちに状況説明をした。
 「事実を過不足なく、正確に伝えることに徹します」と冒頭に述べ、まずは客の信頼感を得る努力をし、次に客の心を和らげながら、水面着陸への対処を説明した。

 しかし結局、旅客機はダンの機転のきいた操縦で、水面着陸せずに、何とか夜更けのサンフランシスコ空港にたどりつけた。(着陸後の燃料残量は、わずか114リットルだった)

 映画は、乗客それぞれの人物背景や心理描写を描くが、いささか喜劇的である。これはパニックドラマの怖さをやわらげるためだろう。(1954年当時の観客は怖かったと思う) 搭乗客の人物像は下記

 ちなみに、ダンには辛い過去があった。ダンが機長として搭乗した便が、南米コロンビアで墜落。ダンは墜落の衝撃で操縦席の窓から投げ出され、ひとり奇跡的に助かったが、ほかの搭乗者は全員が死亡した。そして悲しいことに、この搭乗者の中に、ダンの妻子がいたのだった。


下 さて、この映画を取りあげたのは、先に書いたジョン・ウェイン演じる副操縦士ダンの次のセリフ、「事実を過不足なく、正確に伝えることに徹します」が印象に残ったからだ。
 そのセリフは、「説明責任ある人の説明責任」を副操縦士ダンが、ちゃんと認識している証だ。これがかっこいい。見識ある男。

 昨今、世界中で、物事を、責任ある説明をせずに、ただ、「まったく問題ない」と言い切る人が多いと感じている。
 こういう人こそ、一番、「問題がある」し、信頼感を失う言動だ。


オリジナルタイトル:The High and the Mighty|
監督:ウィリアム・A・ウェルマン|アメリカ|1954年|147分|
原作・脚本:アーネスト・K・ガン|撮影:アーチー・スタウト|
出演:搭乗員5名:副操縦士ダン・ローマン(ジョン・ウェイン)|機長のサリヴァン(ロバート・スタック)|第3操縦士ホビー(ウィリアム・キャンベル)|ステュワーデスのスポールディング(ドー・アヴドン)|航空士ウィルビー(ウォーリー・ブラウン)|
搭乗客16名:ハワイにある核ミサイル開発プロジェクトにいた世界的な原子科学者フラハティ(ポール・ケリー)|文通相手とサンフランシスコで初めて会う予定の元・美人コンクール受賞者サリー(ジャン・スターリング)|富裕層の勝ち気な女性リディア・ライス(ラレイン・デイ)|その夫で尻に敷かれているハワード・ライス(ジョン・ハワード)|サンフランシスコの母親の許へひとりで搭乗した5歳の少年トビー(マイケル・ウエルマン)|サンフランシスコの漁師ホセ・ロコタ(ジョン・クォーレン)|満洲生まれの朝鮮人女性ドロシー・チェン(ジョイ・キム)|ブロードウェイのプロデューサ―のギュスターヴ・パーディ(ロバート・ニュートン)|その妻で人気女優リリアン(ジュリー・ビショップ)|ハワイ旅行帰りの夫エド・ジョゼフ(フィル・ハリス)|その妻(アン・ドーラン)|新婚旅行帰りの夫婦(カレン・シャープ、ジョン・スミス)|搭乗客メイ・ホルト(クレア・トレヴァ)|搭乗客ケン・チャイルド(デイヴィッド・ブライアン)|搭乗客ハムフリー・アグニュー(シドニー・ブラックマー)|その他、船員、航空会社地上職ほか

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映画 「ゴモラ」  イタリア映画 監督:マッテオ・ガローネ

上4

 ナポリを拠点とする犯罪組織の素顔を描く群像ドラマ。
 映画は、この犯罪組織の実態を暴露した原作「死都ゴモラ」をしっかり把握しながら、出色の脚本と演出で見事な仕上がりをみせます。
 実に、よくできた映画です。

1-0_20170525142457506.jpg
 映画は5つの話を語ります。
 犯罪組織の街に住むトトという子供が、ごく自然に組織の一員となって行く話。
 やはり同じ街に育った不良少年マルコとチーロの無知で向こう見ずな行動と悲しい結末の話。 
 組織からファミリーに支給される手当金の、会計と訪問支給を担う男ドン・チーロの話。
 組織が一般社会から資金を調達するために経営する、産業廃棄物処理会社の不法投棄の話。
 同じく、組織が経営する高級オートクチュールの縫製工場のベテラン職人パスクワーレの話。

 この5つの話の展開は、シーンを切り替えながら、徐々にかつ、ほぼ同時進行的な描き方で進んで行きます。
 しかしながら観客は、思うほど複雑な映画には感じないでしょう。これもこの映画の魅力のひとつです。

 ただ、ドン・チーロとパスクワーレの様相が、ちょっと似てるため、紛らわしいのが注意点。

 この犯罪組織はカモッラといい、イタリア4大マフィアのひとつ。
 著者は、この作品を執筆したことにより2006年からマフィアに殺害を予告されており、常に警察の保護下での生活を余儀なくされている。また2008年10月には度重なる脅迫により遂にイタリアを出国、海外移住せざるを得ない状況に追い込まれている。(らしい)ウィキペディアにより。


オリジナル・タイトル:GOMORRA|
監督:マッテオ・ガローネ|イタリア|2008年|135分|
原作:ロベルト・サヴィアーノ『死都ゴモラ』|
脚本:マルリツィオ・ブラウッチ 、 ウーゴ・キーティ 、 ジャンニ・ディ・グレゴリオ 、 マッテオ・ガローネ 、 マッシモ・ガウディオーゾ 、 ロベルト・サヴィアーノ|
撮影:マルコ・オノラート|
出演:少年トト(サルヴァトーレ・アブルツェーゼ)|少年シモーネ(シモーネ・サケッティーノ)|ドン・チーロ(ジャンフェリーチェ・インパラート)|少年シモーネの母親マリア(マリア・ナツィオナーレ)|産業廃棄物処理会社社長フランコ(トニ・セルヴィッロ)|フランコに雇われたロベルト(カルミネ・パテルノステ)ル|高級オートクチュールの腕のいい仕立て職人パスクワーレ(サルヴァトーレ・カンタルーポ)|高級オートクチュールの縫製工場社長ヤヴァローネ(ジージョ・モッラ)|不良少年マルコ(マルコ・マコール)|不良少年チーロ(チーロ・ペトローネ)|

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映画 「アナザー プラネット」  監督:マイク・ケイヒル

上

 過去か未来の自分を客観視するタイムトラベル。
 そうじゃないアイデアが、「もうひとつの地球」、原題がAnother Earthという、この映画。

 ある時から、空にもうひとつの地球が出現し、学者たちの見解がニュースとなって報道される。
 どうも、「あの」地球上には、我々とまったく同じ人類が、同じような自然環境、社会環境で生活しているらしい。
 どちらがコピーなのか、さえ言えぬくらいに、同じらしい。

1-0_20170522194049638.jpg そんなある日、主人公のローダが夜空を見上げて、よそ見運転したその直後、一台の車と正面衝突。
 ローダは命に別状はなかったが、相手の車の家族は即死であった。
 この事件でローダは刑務所入り。彼女は17歳でMITに合格した才女であったが、人生を棒に振った。

 出所したローダは、学校の清掃係として働き始めた。単純労働は彼女の心を慰めた。
 そしてある時彼女は、相手の車の父親ジョンが生存していることを知る。
 彼女はそのジョンの家をつきとめる。ジョンは一人住まいで、荒れた生活を送っていた。

 ローダは、家事代行サービス会社の派遣社員を装って、ジョンと接触を持ち始める。
 何回かの訪問の末、ジョンは徐々に派遣社員ローダに心を開くようになる。
 しかし、ローダは自分が加害者であることが言えない。そう言うがために、ジョンに近寄ったのに。

 ローダは宇宙のことが好きな少女であった。自分の部屋には天体写真がたくさん貼ってある。
 第二の地球への宇宙旅行、これに応募、当選した1名は民間人として、あの地球へ行ける。ローダはこれに応募し、彼女が書いた応募動機が称賛され、ロケットに乗れることになる。

 そんなある日、ローダとジョンはついに結ばれる。ふたりに愛が芽生えたのだった。
 ローダはジョンの家に赴き、宇宙旅行の事を言った。ジョンは、危険だから行かないでくれと言う。
 そしてそんな言い合いの中で、ついにローダはジョンに、自分が加害者だと言った。もちろん、ジョンはローダを追い出した。

 その数日後、ローダはジョンの家へ行き、宇宙旅行の当選資格のすべてをジョンに譲るべく、書類を置いて帰った。あの地球には、あなたの家族が生きているかもしれないと・・。
2-0_20170522194357f09.jpg なぜなら、あの事故の少し前から、この地球とあの地球が同じじゃなくなっているらしいと学者たちが述べている。あの事故も、あの地球ではなかったかもしれない。

 宇宙旅行を控えて、ジョンが宇宙飛行訓練を受けている映像がテレビで放映されている。
 それを学校の清掃員控室でローダは眺めている。

 ラスト。ローダが仕事を終え自宅に帰って来た。
 すると、玄関近くに、ひとりの女性が立っていて、ローダを見つめている。


 なんだ、SF映画か、と嫌う向きもいるかと思うが、つまらぬSF映画の棚に並べておくには、もったいない作。
 でも、謎がある。あちらの地球へ行ったジョンは、家族が生きている事が確認できれば、この地球へ戻る気は当初からなかったろう。
 しかし、そうなら、あちらの地球で、父親ジョンはふたりになる・・。

 そしてジョンは、帰りのロケットに、あちらのローダ、事故を起こさなかったローダを搭乗させたようだ。(ローダの家の玄関先にいた女性)
 あちらのローダは、これを望んだのだろう。なぜ?

オリジナルタイトル:Another Earth
監督・撮影:マイク・ケイヒル|アメリカ| 2011年|93分|
脚本:マイク・ケイヒル、ブリット・マーリング|
出演:ローダ(ブリット・マーリング)|ジョン(ウィリアム・メイポーザー)|ほか

【 SF映画 】
 これまでに取り上げたSF映画です。題名をクリックしてお読みください。

ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」  「宇宙人王(ワン)さんとの遭遇」  「宇宙人ポール

レポマン」  「南東から来た男」  「光の旅人 K-PAX 」  「ダフト・パンク エレクトロマ

12モンキーズ」   「ラ・ジュテ」  「ロスト・チルドレン

不思議惑星キン・ザ・ザ」  「ミュージアム・ヴィジター」  「マルコヴィッチの穴

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映画 「マイ・ファニー・レディ」  監督:ピーター・ボグダノヴィッチ  当初の題名「シーズ・ファニー・ザット・ウェイ」

上

 いやぁ、楽しい喜劇映画です。いいです、笑えます。
 これは、脚本の勝利! 手練れの技。
 気分を変えたい時、明るくなりたい時、娯楽にどうぞ。

 他人に言えない「秘密」がバレたら・・。
 登場人物それぞれが持つ秘密が、知り合いの繋がりの中で、思わぬ所から、次々にあからさまになって行きます。
 観客はたぶん、ドミノ倒しを見るような快感と、スピーディな話の展開を楽しめます。

1-0_20170519223540cc6.jpg 映画は基本、女優になりたい主人公イザベラ(イモージェン・プーツ)の「シンデレラ・ストーリー」という筋書きで話を進めますが、内容は登場人物各人のエピソードの集合体です。
 でも、そのエピソードのひとつひとつは、言っちゃなんですが、物語としては使い古された、よくある話です。でも、これが可笑しい!のです。
 それは脚本が、よくある話に、素敵な魔法をかけてるんですね。ここが見どころです。

 いきなり有名女優になった、シンデレラガールのイザベラが芸能インタビューを受け、過去を語る話が、映像化されてお話は展開されます。
 映画の冒頭は、ニューヨークで高級コールガールをしていたイザベラ(ビジネスネーム:イジ―)が、呼ばれてホテルの一室へ行く所から始まります。
 その客はアーノルドといって、実はブロードウェイの舞台監督だった。(もちろんその時、彼はイジ―に身分を明かさなかった)

 その数日後、アーノルド監督は、妻で女優のデルタ、アーノルドとは長い付き合いの男優・セス、そして脚本家のジョシュとともに、次期公開作品の主演女優を選び出すオーディション会場に集まります。(主演女優の役柄はコールガール)
 そして、あの客の男がオーディション会場にいる、そんな事とは知らず、女優になりたいイザベラは、オーディション会場に来た。
 そして彼女は迫真の演技をみせました。(それもそのはず、イザベラは本物のコールガールですから)

 ここら辺から話が、幾つものエピソードに枝分かれし出し、その枝々が各所で交わり、その時、誰かの秘密がばれていく。
 一見、話は複雑そうだが、観ている分には、まったく難しくない。ここが、この映画のミソ。手練れの技。
 さてさて、以下のあれやこれやを、映画はどう観せるのか!
 監督(兼脚本)の冴えた腕前を楽しみましょう。

 コールガールのイザベラとアーノルドの密会を、同じホテルにいたセスが目撃していた。それで、オーディション会場に現れたイザベラ、そして何やら慌てている様子のアーノルド、このふたりをセスはじっと見つめていた。
 オーディションでのイザベラの演技は素晴らしく、妻のデルタも脚本家のジョシュも、アーノルドがイザベラを採用することに、何故、躊躇しているのか不思議だった。
 一方、脚本家のジョシュには、セラピスト(心理療法)をしている彼女ジェーンがいるが、関係は冷え切っていた。
 このジェーンの施す心理療法を受けに通っているのが、イザベラと年配の判事。
 ジョシュは、女優の卵イザベラに一目惚れ、夢中になってしまう。
 それより以前から、年配の判事もコールガールのイザベラを愛してしまっている。ところが、イザベラは女優修行のためコールガールを辞めたがために、判事の片思いは燃え上がる。
 判事はイザベラを捜すため、私立探偵を雇うが、これがジョシュの父親。父親は、コールガールと付き合う息子に悩むと同時に、雇主と息子の三角関係の中に飛び込んだ形。
 あることでイザベラとの密会が発覚し、夫アーノルドの女遊びを知った妻デルタは、情緒不安定になり、昔の(秘密の)恋人セスに近づく。
 ジョシュとイザベラの恋を知った、ジョシュの彼女ジェーンも怒り狂う。

下 そしてそもそもアーノルドは、このお話以前から、各所で女の子をひっかけていて、そのうちの何人かに、「君はきっと成功する」と分かれ際に言って、お金を渡していた。
 女優になりたいと言っていたイザベラも、有名デザイナーになりたいと言った女性も、アパレルの仕事で成功したいと言った女性も、そののちそうなった。エピソードの中で、アーノルドはそういう女性から感謝されるシーンがある。アーノルドは人を見る目があるのだろう。

 ちなみに、ラストで登場人物のその後が語られる。(ジョシュの彼女ジェーンは、セスと結ばれる)
 もうひとつ、ラストのラストで、インタビューを終えたイザベラを迎えに、今の彼氏役でクエンティン・タランティーノが登場する。
 ついでに、もうひとつ。セス役のリス・エヴァンスは、映画「ノッティングヒルの恋人」に出てくる。本屋の店主ヒュー・グラントと一緒に住んでいる、あのパンツ男で悪趣味なTシャツ男。



オリジナルタイトル:SHE'S FUNNY THAT WAY|
監督・脚本:ピーター・ボグダノヴィッチ(1939 - )|アメリカ|2014年|93分|
撮影:ヤーロン・オーバック|
出演:イザベラ・パターソン、別名イジ―(イモージェン・プーツ)|舞台監督のアーノルド・アルバートソン(オーウェン・ウィルソン)|その妻で女優のデルタ・シモンズ(キャスリン・ハーン)|男優のセス・ギルバート(リス・エヴァンス)|脚本家のジョシュ・フリート(ウィル・フォーテ)|ジョシュの恋人でセラピストのジェーン・クレアモンド(ジェニファー・アニストン)|コールガールの元締め女将のビッキー(デビー・マザール)|クエンティン・タランティーノ(クエンティン・タランティーノ)|ほか

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映画 「GO NOW」  監督:マイケル・ウィンターボトム

上


1-0_20170512142734ff2.png








カレンとニック


 スコットランドの、ある街に住み、地元で働く男女のラブ・ストーリー。
 苦難の壁をふたりして乗り越え、ようやっとハッピーエンドの結末を迎えます。
 スコットランドらしい雰囲気を味わえます。(行ったことはないですが)

 ニックは、歴史的な建築の外装修理の現場で、職人として働いています。
 休日は地元のアマチュア・サッカーチームで汗を流しています。
 チームのメンバーは、ニックの飲み友達であり悪友です。

 カレンは、小さなホテルのラウンジで働いています。
 ホテルの上司チャーリーは前々からカレンにお熱で、一方、カレンも上司が嫌いじゃないし、遅刻しても見逃してくれるとか融通を利かせてくれるのをいいことに、だらだら続く職場不倫。
 カレンの私生活は、ポーラという女性と部屋をシェアして住んでいます。

 そんなある日、ニックとカレンは出会います。
 ふたりは、すぐに好き同士になるのですが、ニックは、カレンが上司と付き合っていることを知っています。カレンはそれを認めるでもなく否定するでもなく、そんな態度でした。上司の男はニックよりもずっと高給取りです。

2-0_201705121441112e9.jpg
 そして、それでもニックとカレンは部屋を借りて一緒に住み始めます。
 幸せな日々が続くように見えた、その矢先、ニックの身体に自覚症状のある異変が生じます。
 それは、手のしびれから始まり、徐々に異変は広がり、モノが二重に見える複視、排尿障害、ついに歩行障害に至り、車椅子生活を余儀なくされます。多発性硬化症という難病でした。
 生活の一部であったサッカーは諦めざるを得ません。

 もちろん、その間、専門医へ通い、入院、リハビリをしました。
 カレンは、ニックの闘病を懸命に助けます。診察や検査やリハビリに立ち会い励まし、多発性硬化症の専門書を密かに読み、病床に付っきり、退院後はリハビリのためのランニングでも伴走しました。食事療法も彼に提案します。
 また、ニックのサッカー仲間たちも彼を見舞い見守ります。
 しかし、一時の小康状態はあったものの、病は治りません。車椅子生活です。

 ニックはカレン以上に悩みます。誰でも、難病の診断が下されては、平常心ではいられません。
 ニックは言います。もし、私が難病にならなかったら、お前はとうに私から離れて行ったよね。お前が、今も上司チャーリーと会っていることは、街のうわさで知ってるよ。それに、お前が私のあれこれ全部を仕切っているのに、うんざりだ。

 確かに、カレンは上司とホテルで会っていました。
 また、元ルームメイトのポーラに会った時、ポーラに「もう別れたら」と言われ、「結婚の約束をしたわけじゃないし・・・」ともカレンは言っていました。
 ニックに対する憐れみ(憐憫)の呪縛の中に、カレンはいるのでしょうか。カレンはカレンで葛藤しています。


3-0_2017051214533586d.png ついに、ニックは決断します。この部屋から出て行け!
 ニックは、カレンの服やなにもかもをタンスから出して、すべて放り投げます。
 カレンはニックのアパートの外で、雨の中、じっと立ちすくんでいます。それを窓越しにちらりと見るニック。
 ニックは外に出て、去れと追い打ちを掛けます。
 そしてそれから、どのくらい経ったのでしょうか、カレンはまだアパートの前にいます。またニックは外へよろよろと出て行きました。
 そしてニックは、カレンへ歩みより、カレンに寄りかかるようにして、言った。
 「愛してる」と。そう言ってふたりは抱きしめ合うのでした。



 難病をテーマにした、よく有り勝ちなドラマとは、数段違います。(ことさらに難病を売りにする売り文句はやめましょう。)
 ニックのサッカー仲間のトニーは、以前から誰彼かまわず、きつい冗談を言います。難病になったニックにも、彼の心を理解しないかのような冗談をトニーは言います。
 一方、ニックが振るえる身体で、何とかビリヤードをしているのを見て、親しいサッカー仲間は押し黙り、じっと見詰めます。
 映画は、時折、ニックに同情しません。カレンの浮気もそういう観点から描かれています。
 こういう辛口さが、本作の味でもあります。

下 しかし、映画はギャグも忘れません。映画に何回か挿入されるモノクロシーンは、静止画の連写(フリーズフレーム)手法で、笑いを提供します。
 加えて、各シーンに流れる音楽は、元気の出るソウルミュージック。アメリカのソウルシンガー、ジョー・テックスが、時にボブ・マーリーのレゲエも流れます。重苦しいシーンであっても、明るい活力を呼び起こすスパイスとして、音楽が効果的に使われています。
 地味な映画と言っちゃ、それまでですが、マイケル・ウィンターボトム監督の映画、いいです。
 

オリジナルタイトル:Go Now
監督:マイケル・ウィンターボトム|イギリス|1995年|83分|
脚本:マイケル・ウィンターボトム、ポール・ヘンリー・パウエル、ジミー・マクガヴァーン|
撮影:ダフ・ホブソン|
出演:ニック(ロバート・カーライル)|カレン(ジュリエット・オーブリー)|トニー(ジェームズ・ネスビット)|カレンのルームメイトでトニーと付き合う様になる女性・ポーラ(ソフィー・オコネド)|サミー(バーウィック・ケイラー)|デル(ダレン・タイ)|ジョージ(ショーン・マッケンジー)|ほか

【マイケル・ウィンターボトム監督の映画】
 これまでに記事にした作品から。以下のタイトル名をクリックしてお読みください。

バタフライ・キス」  「ひかりのまち」  「アイ ウォント ユー


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映画 「ブルース・ブラザース」  監督:ジョン・ランディス

上



上4













ツイン・ボーカルのブルース兄弟。弟分エルウッドと、兄貴のジェイク。


 ド派手なカー・アクション付きの喜劇映画です。
 音楽あふれる映画ですが、ミュージカルじゃありません。ミュージシャンが主人公の、ドタバタ・アクション・コメディです。
 さて、お話と音楽、これを分けて紹介して行きましょう。

1-0_201705112256109d5.jpg
 【お話】
 ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)と、エルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)、このブルース兄弟が主人公です。
 兄弟と言っても実の兄弟じゃない、ジェイクの弟分がエルウッド。ともに教会が運営する孤児院で育ったのです。

 ふたりは、かつて仲間と、“ブルース・ブラザース・バンド”という名のバンドを組んで、ファンキーなソウルナンバーを得意として酒場を回り、ライブ演奏して稼いでいました。
 しかしあることでジェイクは監獄へ。そして仮釈放の日、弟分エルウッドが刑務所に迎えに来た。ここから映画は始まります。

 兄弟は、兄ジェイクの出所を報告するため、まずは、孤児院の院長シスターに会いに行きます。
 そこで知った事。それは、教会が資金難で孤児院の税金が払えないでいること。そして数日以内に5000ドルを納税しないと、孤児院は閉院せざるを得ないという緊急事態。
 映画は、この数日間にブルース兄弟が、バンド仲間や、警察、ネオナチ団体、カントリー&ウェスタン・バンド、そして謎の女、果ては軍隊を巻き込んで展開する、慌ただしい波乱万丈を描きます。
 そして、ラスト。何台ものパトカーに追われる兄弟は、市中でのド派手なカーアクションの末、なんとか締切日ギリギリで、5000ドル耳をそろえて税務署へ納税します。え、どうやって5000ドルを? そして結末は?それは観てのお楽しみ。

2-0_201705112318587be.jpg
 【音楽】 
 幼い兄弟に音楽を教えたのは、孤児院の管理人の老人で、兄弟の養父といってもいい、カーティスじいさん(キャブ・キャロウェイ)でした。また、カーティスじいさんはジェイクの出所後も兄弟を心配し、陰で支えます。
 キャブ・キャロウェイ(1907 - 1994)は、1930~1940年代に活躍した著名なジャズのビッグバンド・リーダーで歌手でもありました。
3-0_20170511232211e7e.jpg 映画ラスト近くで、兄弟は5000ドルを一気に稼ぐため、大ホールでワンマンコンサートを開くのですが、二人は警察やらに追われて開演に遅れる。そこで時間稼ぎのため、カーティスじいさんは、ソウルバンドをバックに歌います。貴重なシーンです。
「ミニー・ザ・ムーチャー」という彼が登場し語る、ドキュメンタリー映画(1981年)があるので、気が向いたらそのうち掲載します。

 そのほかに、映画は3人のビッグスターのソウルシンガーを登場させます。
 その1人は、カーティスじいさんが「会って来い」と兄弟に言った、ジェームス牧師(ジェームス・ブラウン)。
 次は、散り散りになっていたバンド仲間を、兄弟が集めて向かった先の楽器店、そこの主人、 レイ・チャールズ。
 3人目は、バンド仲間のひとりが嫁の尻に敷かれて働いている食堂、その嫁で食堂の女主人のアレサ・フランクリン。
 ジェームス・ブラウンは教会内で牧師風ゴスペルを歌い、レイ・チャールズは楽器店内で楽しそうにエレクトリック・ピアノを弾きソウルを歌い、アレサ・フランクリンは食堂内で、旦那に向かって、「私をとるのかバンドをとるのか、どっち!」と怒りながらソウルを歌う。
 
 そしてバンド仲間に、ベースのドナルド・ダック・ダン、ギターのスティーヴ・クロッパーが実名で出演しています。
 このふたりは、かつてブッカー・T&ザ・MG'sというバンドのメンバーで、主にスタジオ・ミュージシャンとして、数多くの著名なソウルシンガーや名プロデューサーと共に、録音スタジオで名曲を作り上げました。
 
 ちなみに、ブルース兄弟のブルースとは、その名がジェイク・ブルースとエルウッド・ブルースだからの、ブルースです。
 確かに1曲、兄弟はステージでブルースを歌いますが、“ブルース・ブラザース・バンド”はソウルバンドです。
 正真正銘なブルースは、有名なブルース・ミュージシャンのジョン・リー・フッカーが登場し、路上で演奏するシーンがありますね。

オリジナルタイトル:The Blues Brothers
監督:ジョン・ランディス|アメリカ|1980年|133分|
脚本:ダン・エイクロイド、ジョン・ランディス|撮影:スティーブン・M・カッツ|
出演:ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)|エルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)|孤児院の管理人カーティスじいさん(キャブ・キャロウェイ)|ジェームス牧師(ジェームス・ブラウン)|レイ楽器店、盲目の店主(レイ・チャールズ)|バンドマンの嫁で食堂の女将(アレサ・フランクリン)|バンドのギター(スティーヴ・クロッパー)|同じくバンドのベース(ドナルド・ダック・ダン)|路上で歌うミュージシャン(ジョン・リー・フッカー)|イリノイ州カルメット市 聖ヘレン養護施設シスター(キャスリーン・フリーマン)|ジェイクを追う謎の女(キャリー・フィッシャー)|ナチ司令官(ヘンリー・ギブソン)|バートン刑事(ジョン・キャンディ)|エルウッドにGSでナンパされる女(ツイッギー)|納税課職員(スティーヴン・スピルバーグ)|聖歌隊メンバーのひとり(チャカ・カーン)?|そのほかのバンドのメンバー6人:マーフィ・ダン、ウィリー・ホール、トム・マローン、ルー・マリーニ、マット“ギター”マーフィ、アラン・ルービン|ほか

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映画 「ションヤンの酒家 (みせ)」 中国映画 監督:フォ・ジェンチイ

上

1-0_2017050122192760c.jpg
 お話の舞台は、市街地再開発が盛んな頃の、中国の大都市、重慶市です。
 この重慶の片隅にある下町、吉慶街(チーチンジェ)という所は、10数年前に出来た小さな飲食街ですが、店内で調理して、道にテーブルと椅子を出して客をもてなす、昔ながらの雰囲気を残す飲食街です。
 独身で美人の女主人ションヤンは、長年、ここで鴨の首(鴨肉)を「売り」にする、酒家を営んでいます。
 ですが、この吉慶街の一画については、今まで幾度も再開発の噂がありました。そして、また、新たな計画の話が噂され始めました。

 映画は、ともに苦労人の男女のラブストーリーに、この再開発の一件を絡ませます。
 ただし、この映画、登場人物の説明が、いろんな場面のセリフの中でなされるため、字幕を見過ごすと、身分差がある単純な恋愛ものにしか見えないかもしれません。(過去を振り返るなど説明のために挿入するシーンはありません。)

 さて、主人公の女主人ションヤンについての話を始めましょう。
 長年、吉慶街で店を営んでいると言いましたが、それにしてはションヤンは若くみえます。でもたぶん、30代前半でしょう。
 ションヤンは10代の頃、切羽詰まってこの商売を始めたようです。
 彼女の母親は、彼女の弟を産んで他界し、そして父親は愛人が出来て、家を出て行きました。
 ションヤンは生きて行かねばなりませんでした。そのうえ弟のジュウジュウを母親代わりに育てなくてはなりません。彼女は、何ごとも自分のやり方で問題解決する、勝ち気さを身につけて行きました。
 実はこの映画、ションヤンの恋物語以外に、たくさんの事を語りかけます。以下、ションヤンという女性の背景です。

2-0_20170501223714464.png
 ションヤンの弟ジュウジュウが、この2年前から麻薬に手を出してしまいます。ミュージシャンになれなかったからでしょうか。
 中毒症状が激しくなって、ションヤンはジュウジュウを、重慶にある薬物中毒の更生施設に密かに入れました。
 
 ションヤンの店には、住込みの女の子が働いています。アメイといいます。働き者です。ションヤンも頼りにしています。
 アメイはジュウジュウが好きです。でも、この愛は一方通行のようです。まして施設内で禁断症状のジュウジュウは、それどころではありません。ですが、ションヤンはジュウジュウとアメイを一緒にさせようと思っています。
 また、田舎に住むアメイの親が、我が娘をションヤンに預ける時に、「都市の戸籍が欲しい」とションヤンに頼んだことも、彼女は忘れてはいませんでした。

 かつて、ションヤンの父親が家を出た後、父親は住んでいたアパートを人に貸したのですが、その後、今の住人(その甥)は、部屋を明け渡してくれません。ションヤンは、この部屋をジュウジュウとアメイが住む部屋にあてたいと前から考えていました。
 そこでションヤンは、実家のこの権利問題を何とか解決したいと、何度も役所(住宅管理所)に通っては、その所長に相談していました。

 その所長には、ウツ症状の大学生の息子がいることを、ある時ションヤンは知ります。
 実家を取り戻したいションヤンは、所長にうまく取り計らってもらいたいために、彼の息子とアメイを一緒にさせようと画策します。天秤に掛けたのです。
 アメイにジュウジュウをあきらめさせ、同時に実父にも働きかけて、実家はションヤンの名義となりました。
 のちにションヤンは、高層マンションに住まう裕福なアメイを訪問します。(重慶の戸籍を取得しました)

 そして、もうひとつのサイドストーリー。
 ションヤンには、影の薄い兄がいます。株に熱をあげる女房の尻に敷かれています。
 兄夫婦にはトアルという一人っ子がいます。出産時、この女房は母乳が出ず、流産したばかりのションヤンが母親代わり(乳母)をしました。そして今も、ションヤンは小学生のトアルを預かっています。
 これまで、恋多きションヤンですが、どれも長続きしませんでした。そして、まだ若きションヤンですが、弟のジュウジュウとトアルを我が子のように育ててきました。
 なのに、兄嫁はションヤンに辛く当たります。将来、トアルが住むべき部屋を、勝手に名義変更したと。

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  さて、こうした面倒な事の真っ最中に、ションヤンは恋をしました。
 相手は中年の客、卓さん。当初、彼は足しげく店に通って来ては、いつも離れた席から遠目にションヤンを眺めていました。
 彼は高級車に乗っています。ふたりの噂は吉慶街で広まって行きます。
 しかし、実は彼は吉慶街地区の再開発プランを推進する民間側のボスだということが、郊外に出たデートの帰りに発覚します。ションヤンは怒りを抑えることができませんでした。
 さらには、彼はションヤンの今後については、十分面倒見ようと言いますが、結婚する気はありませんでした。
 ションヤンは激しく降る雨の中、卓さんの車を降りて、ひとり立ち去って行きました。
 
 この話、小説という方法ではうまく表現できても、映画にするには難しい題材です。
 映画は、込み入った多くの事を、ていねいに語るには向いてないかもしれません。
 でも、ションヤン役の女優・タオ・ホンを起用し、一点突破したようです。
 ただ、少し残念なのは、ションヤンに対する態度を急変させる卓さんの唐突さ、及びアメイのその後が、十分に描き切れていないこと。

オリジナルタイトル:生活秀
監督:フォ・ジェンチイ|中国|2002年|106分|
原作:チ・リ|脚本:チウ・シー|撮影:スン・ミン|
出演:ションヤン(タオ・ホン)|卓さん(タオ・ザール)|弟ジュウジュウ(パン・ユエミン)|兄(チャン・シーホン)|兄嫁(ウー・ルイシュエ)|兄の息子トアル(リー・ショウチェン)|アメイ(ヤン・イー)|住宅管理所所長(ロ・ドーユァン)|所長の息子(リュウ・ミン)|ションヤンの父(ジャン・ミンショウ)|ションヤンの義母(ズン・メイズウ)|

【 一夜一話の 歩き方 】下1

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映画 「真夏の素肌」 ロシア映画 監督:ニギーナ・サイフルラーエワ

上
手前がセルゲイ、奥がサーシャ、右がオーリャ。オーリャの実父が、このセルゲイ。

 娘と父をテーマにする佳作。一見、青春映画らしい爽やかな表現をとっているが、少々トゲがある。

 モスクワに住むオーリャとサーシャは共に17歳で、卒業間近な女の子。
 このふたりの女の子が、真夏の黒海の海辺で過ごした、数日を描く物語。

1-0_20170428144553f3b.jpg オーリャは父親を知らず、母親と義父に育てられた。サーシャも父親が無くて育った。
 頭はいいがいつも控えめなオーリャ、一方サーシャは特に男性に対して奔放な子、ふたりは親友だが性格は正反対。

 黒海へ行く旅のプランは、実は、オーリャが実の父親に会ってみたい、と言い出したことが発端だった。
 しかし、行くことに決心したものの、初めて会う父親はどんな男なのか、会って何を話せばいいのか、そんなことに悩むオーリャに、サーシャは「ふたりが入れ替わろう」と提案する。つまり、オーリャがサーシャに、サーシャがまだ見ぬ父親の娘に、成りすます。

 そうして、ふたりはオーリャの父親セルゲイを訪ねた。彼は、黒海の海辺に建つ、粗末な一軒家にひとり住んでいた。
 事前に知らせはしたようだが、セルゲイはふたりを拒否するでもなく歓迎するでもなく、黙って家に招き入れ、そしてそれから、この三人の、数日の物語が始まる。

 セルゲイも、娘のオーリャを一度も見たことは無い。
 かつて、黒海のこの地に住むセルゲイと、モスクワから来たオーリャの母親はここで愛が芽生えた。
 しかし、何があったのか、彼女はその後ひとりモスクワへ帰ってしまった。それ以来、セルゲイはオーリャの母親に会っていない。そして母親はモスクワでオーリャを出産したのだった。

 “父と娘の初めての出会い”を演ずるサーシャを、そばで見守るオーリャは、恥ずかしさも不安も無く、父親を客観的に見ることができた。
 片や、父親がいないで育ったサーシャは、セルゲイに父親的な存在感を感じてうれしい、そして、ちょっといい男。
 でも、セルゲイは娘に対して、いい感情を抱けないでいる。露出度の多い蓮っ葉なファッション、村の男キリルに積極的に迫って行く娘。(実はサーシャだが) 

 だが、そんなセルゲイ自身も、若い女性とその一時を楽しんでいることがわかる。
 オーリャは思う。こんな粗野な男をなぜ母親は好きになったのか。おまけに、セルゲイの稼ぎは夜間の密漁のようだ。

2-0_20170428145316252.png そんなこんなを見たオーリャは、実父に嫌悪感を抱き始める。
 「私が実の娘です」と言う気も無くなり、行き詰ったオーリャは自暴自棄に陥る。オーリャはその夜、サーシャが付き合いだしたキリルとドラッグパーティで一夜を明かした。
 そしてまた、その夜は、サーシャがセルゲイや密漁仲間と一緒に漁へ出かけた夜だった。このことがきっかけで、サーシャとセルゲイの距離は縮まった。

 オールナイトのドラッグパーティが終わったその朝、砂浜で下着姿で目を覚ましたオーリャは、実父に(嫌悪感を抱きつつも)涙ながらに、私が娘だと告白の電話をした。
 セルゲイはこれを聞いて、漁から帰ったサーシャを家から追い出した。しかし、サーシャは夜になって密かにセルゲイの納屋に入り込むのであった。

 ラストシーン。オーリャとサーシャが、海の見えるバス停でバスを待っている。
 オーリャは二つ目の告白をサーシャにする。「私、あなたの彼キリルと寝たわ。」
 それを聞いたサーシャは、「そう」と言いながらオーリャに背を向け、海の方を見ながら、ひとりそっと微笑んだ。そう、それは言わぬ方がいい。

 さて、ふたりがやってきた黒海のこの海辺は、ウクライナの東、黒海に突き出たクリミア半島です。
 この映画製作の2014年、この地域はクリミア自治共和国としてロシア連邦に編入されました。ただし、ウクライナ政府およびアメリカ、欧州連合(EU)、そして日本などは、ロシアへの編入を認めていません。

オリジナルタイトル:Kak menya zovut|
英語タイトル:NAME ME
監督:ニギーナ・サイフルラーエワ|ロシア|2014年|91分|
脚本:リュボーフィ・ムリメンコ|ニギーナ・サイフルラーエワ|
出演:サーシャ(アレクサンドラ・ボルティチ)|オーリャ(マリーナ・ヴァシリエヴァ)|セルゲイ(コンスタンチン・ラヴロネンコ)|キリル(キリル・カガノヴィッチ)|スヴェタ(アンナ・コトヴァ)|

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映画 「夢のバスにのって」 ペルー映画  監督:フェルナンド・エスピノーサ、アレハンドロ・レガスピ

上
 3人の右端が、フリアナ。(男の子に成り済ましている)
 路線バスの車中で、歌って、空缶のパーカッションをたたいて、
 乗客から小銭をもらい稼ぐ。


 南アメリカの、ブラジルの西、太平洋に面する国、ペルー共和国の映画です。
 その首都リマの街で、明るく、たくましく、貧しくも、親に頼らず「自立して生きる」子供たちが、主役です。

1-0_20170419150549297.jpg 映画製作の1988年当時、ペルーは大変な経済危機とインフレにさらされていて失業率は60%以上、国は国家破産状態に陥る、1990年を目前にしていました。

 マリの街のスラム街に住む、12歳の女の子フリアナが主人公です。気立てのいい子です。
 彼女の母親は優しいですが、働きもしない継父はフリアナに乱暴です。
 母親は屋台の店を出して稼ぎますが、生活は苦しい。だからフリアナも、近くの大きな墓地で墓の清掃をして稼いでいます。

 フリアナの弟のクラビートは、すでに家を出ていて、近所の建物で暮らしています。
 そこには、クラビートのほかに8人の少年たちが同居しています。リマの街の子もいれば、ジャングルの奥地から来た子もいる。肌の色の黒い子も白い子もその中間の子もいます。

 彼らはリマの街でストリートチルドレンだったところを、ドン・ペドロという男が彼らを救い、そこは窓のない倉庫のような大部屋ですが、子たちに寝る場所と食事を与えています。
 そして、ドン・ペドロは子たちを使って金儲けをしています。街を走る路線バスの車内で、彼らに楽しい歌を歌わせ、乗客から投げ銭をもらう、そんな商売です。
 
 もちろん、ドン・ペドロは胴元としてピンハネをしますが、墓の清掃よりも、いい稼ぎになるのです。
 フリアナは、クラビートを頼って、ドン・ペドロの元で働き始めます。ただし、ここは男の子だけしか雇いません。
 そこでフリアナは髪を短く切って、男の子のような話しぶりで、働きました。
 もちろん、母親と離れて生活しなければならないのは辛かったようです。

 映画はストリートチルドレンすれすれの彼らの様子を、例えば少年たちの団結や仲間割れ、ドン・ペドロに対する反抗などを、明るく描いて行きます。

 ラスト近く、フリアナや弟クラビートをはじめ、ドン・ペドロに反抗したグループの少年たちは、胴元の家を出て、海岸の廃船に住み始めます。フリアナは、女の子の姿に戻っていて、女友達もいて、少年たちの世話役をしています。

 そして、ラスト。
 リマの夜、街を行くバスには、少年たちが乗っています。
 乗客の姿は無く、彼らだけです。車内では、みな歌い踊り、空缶をたたいてリズムをとっています。
 あれは「夢のバス」です。

下オリジナルタイトル:Juliana
監督:フェルナンド・エスピノーサ、アレハンドロ・レガスピ|ペルー共和国|1988年|98分|
脚本:レネ・ウェーバー|撮影:ダニー・ガヴィディア|
出演:フリアナ(ロサ・イザベル・モルフィーノ)|その弟クラビート(エドバル・センテーノ)|ドン・ペドロ(フリオ・ヴェガ)|他
【 ペルーの映画 】
 一夜一話で、これまでにとりあげた作品から。

 「悲しみのミルク」(2009年)
 映画タイトル名をクリックしてお読みください。

【 一夜一話の 歩き方 】

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映画 「エリン・ブロコビッチ」  監督:スティーヴン・ソダーバーグ

上


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 この映画は、エリン・ブロコビッチという名の実在の女性の活躍を、実話を基に脚色したドラマです。
 基本、公害訴訟をまじめに扱ったストーリーですが、話は決して重くはありません。巧い作りです。

 エリン役を演ずるジュリア・ロバーツと、老弁護士エド(アルバート・フィニー)との絡みはコミカルですし、隣りに引っ越してきたジョージとエリンとのラブストーリーも楽しめます。かつ、訴訟の推移もラブストーリーもハッピーエンドで終わります。
 そのうえ、当初、八方ふさがりの境遇であったエリン、その彼女の、胸のすくサクセス・ストーリーでもあります。

 さらには、こうした事柄と、片や、6価クロム公害で健康被害に苦しむ多くの原告団をかかえることになった公害訴訟、この両方を巧みにバランスをとって映画化されていて、違和感なく、とてもいい娯楽映画に仕上げています。

 高卒のエリンは美人ですが、2回の離婚、3人の子持ちのシングルマザー、おまけに職が見つからない。(実在のエリンは大卒)
 職探しに奔走している最中に、エリンは交通事故にあい、弁護士エドと出会う。
 被害者であるエリンですが、彼女の蓮っ葉な身なり、品の無い言動(しかし直言!)が、陪審員たちには印象悪く作用して、エリンは賠償金をもらい損ねます。

 その後も職が見つからず生活に窮したエリンは、強引にもエドの弁護士事務所に入り込んで居座り、勝手に事務の仕事を始めます。人の好いエドは、ついにエリンを許し、彼女を雇うこととなる。物語は、ここから始まります。

 ある日、事務所で書類整理をしていたエリンは、公害の実態を知るきっかけをつかみます。そして、彼女独自の現地調査を経て、エドと共に実態解明に奔走することになります。

 こうしてエリンとエドは、1993年にカリフォルニア州の大手企業PG&Eを相手取って訴訟を起こし、3億3300万ドルの和解金を勝ち取ることになります。この金額は、アメリカ史上最高額の和解金でした。
 その後も、エリンはエドの弁護士事務所で働くこととなり、破格の金額のボーナスももらえることになります。そして、ジョージとの関係も回復してハッピーエンドでお話は終わります。

オリジナルタイトル:Erin Brockovich
監督:スティーヴン・ソダーバーグ|アメリカ|2000年|131分|
脚本:スザンナ・グラント|撮影:エド・ラッハマン|
出演:エリン・ブロコビッチ(ジュリア・ロバーツ)|エドワード・L・マスリー(アルバート・フィニー)|ジョージ(アーロン・エッカート)|ドナ・ジェンセン(マージ・ヘルゲンバーカー)|チャールズ・エンブリー(トレイシー・ウォルター)|カート・ポッター(ピーター・コヨーテ)|パメラ・ダンカン(チェリー・ジョーンズ)|

【スティーヴン・ソダーバーグ監督の映画】
 一夜一話でこれまでに取り上げた作品から。(タイトル名をクリックしてお読みください)
 「Bubble/バブル」  「フル・フロンタル」  「ガールフレンド・エクスペリエンス

下
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映画 「あの子を探して」  監督:チャン・イーモウ

上

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 中国河北省の田舎、チェンニンパという村にある、先生ひとり教室ひとつの小さな小さな小学校がお話の舞台。
 起承転結がしっかりしていて、結はハッピーエンドで、良く出来たお話です。

 ですが、シーンを感動的印象的にするため、話を少々誇張しています。よって、写実的(リアル)なお話というよりも、現代のおとぎ話として観ると、ちょうどいいでしょう。
 とは言え、素人の子たちを生徒に仕立てた教室のシーンは、自然で、とてもいきいきとしていて、リアルで、この映画の要であり、見どころです。

 そして、主役の、13歳の代理先生役のウェイ・ミンジも、素人俳優。
 大胆な起用ですね。演技や表情の起伏がみてとれないウェイ・ミンジ、観てのとおりですが、話が進むにつれて徐々に、代理先生という役柄に魂が入り、物語の中でいきいきと立ち現れる。観終わったころには、ウェイ・ミンジは素晴らしい主人公だと思うことでしょう。これが、この映画、一番の見どころです。

 村の学校には、大ベテランのカオ先生がいましたが、家庭の事情で一カ月間、村を離れることとなった。
 そこでチャン村長は、その間、先生の代理になれる人を探して、村や近隣のあちこちを巡った末に、やっと、13歳のウェイ・ミンジを見つけ出した。(教職免許など気にしていない)
 カオ先生は、こんな子供のウェイ・ミンジに教室を任せられないと、村長に言うが、村長は無理と思いながらもウェイ・ミンジを推した。なぜなら、このところ、学校から生徒が退学して生徒数が減っているのだ。村長はこの流れを止めたい。先生が不在になれば、さらに生徒が辞めていくかもしれない。カオ先生は仕方なく、ウェイ・ミンジに教室を任せることにした。

 とは言え、ウェイ・ミンジに何を教えられるのだろう。カオ先生はウェイ・ミンジにこう言った。この教科書のこのページを黒板に板書しなさい、そして、それをノート(紙の束)に写させなさい。
 ウェイ・ミンジは、この仕事を50元で請け負っていた。そしてもし、一カ月の間に、生徒が減らなかったなら、さらに10元だそうと言われた。
 ところが、学校一のわんぱくホエクーがある日から姿を消した。ウェイ・ミンジが彼の家を訪ねると、家は母子家庭で母親は病になっていた。ホエクーは町へ出稼ぎに行ったのだった。
 さて、ここから物語は大きく動き出す。13歳のウェイ・ミンジは、どう行動するのだろうか ・・・。それは観てのお楽しみ。
 「あの子を探して」のあの子は、ホエクーです。

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オリジナルタイトル:一個都不能少 Not One Less
監督:チャン・イーモウ|中国|1999年|106分|
原作・脚本:シー・シアンション|撮影:ホウ・ヨン|
出演:代理の先生ウェイ・ミンジ:魏敏芝(ウェイ・ミンジ)|カオ先生:高恩満(カオ・エンマン)|生徒ホエクー:張慧科(チャン・ホエクー)|チャン村長:田正達(チャン・ジェンダ)|ほか

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映画 「チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢」 監督:マルジャン・サトラピ , バンサン・パロノー

上

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 ノスタルジックな大人のおとぎ話。たまにはこういう映画もいいでしょう。
 原作がコミックなので、ところどころアニメーションが入るが、違和感なし。ほんわかした雰囲気を盛り上げます。
 また、時々、コミカルになります。お楽しみください。

 1958年のテヘランから、お話は始まる。
 ヴァイオリニストを目指すナセル・アリ(マチュー・アマルリック)は、テクニックはあるが、演奏する音楽に魂が込められず、大きな壁に突き当たっていた。
 そんなある日、ナセル・アリは素晴らしい女性イラーヌを知った。いつしか、ふたりは愛を誓い合うようになり、イラーヌの父親に結婚の許しを乞うこととなった。しかし、父親はがんとして結婚を許さなかった。生活が不安定な芸術家に娘はやれないと。仕方なく、ふたりは別れた。

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 しかし、皮肉なことにイラーヌへの思いが、ナセル・アリの演奏を素晴らしいものに仕立て上げた。ヴァイオリンの師匠は彼を完璧だとほめた。そして師匠の師匠から伝授されて来たヴァイオリンの名器を、ナセル・アリは譲り受けた。

 その後、ナセル・アリは世に認められるヴァイオリニストとなり、コンサートで世界中を駆け巡った。40歳過ぎても彼は独身であった。イラーヌを忘れることができなかったのだ。

 だがついに、ナセル・アリの独身にピリオドが打たれることになった。、母親の強い勧めで、ナセル・アリは仕方なく、ファランギースという数学の教師と結婚することとなった。愛無き結婚であった。子どもは二人生まれたが、夫婦に愛は育たなかった。
 その日、夫婦げんかのさ中、妻は激怒して名器のヴァイオリンを床にたたきつけた。名器は修復不可能なくらいに哀れな姿となってしまう。

 自身の分身であった名器を失ったナセル・アリは、これと替わる優れたヴァイオリンを探し求めたが、分身となり得る楽器は見つからなかった。そして、彼は緩慢な自殺を試みる。8日目には、死の天使アズラエルが彼のベッドサイドに現れる。
 その一日目から死までの8日間、ベッドに横たわるナセル・アリのこれまでを、彼の走馬灯のような回想で綴るのが、実はこの映画のストーリー。

 よって現在のシーンと、様々な時点での過去シーンが「語りにあわせて」入れ替りに立ち現れる。このことや、アニメの挿入や、時々ファンタジックな味付けがあったり、時にコミカルであったり、と、総じて何か一貫性を、もし感じえなかったとしたら、本作は散漫な作品と思うでしょう。
 フランス映画「アメリ」に出てくる八百屋のあるじに虐められる、知的障害のある小僧役であった俳優ジャメル・ドゥブーズが、本作で骨董屋と物乞いの二役で登場し、味のある演技を見せます。

オリジナルタイトル:Poulet aux prunes|
監督:マルジャン・サトラピ、バンサン・パロノー|フランス・ドイツ・ベルギー|2011年|92分|
原作:マルジャン・サトラピ - コミック作品『鶏のプラム煮』|脚本:マルジャン・サトラピ,バンサン・パロノー|
撮影:クリストフ・ボーカルヌ|
出演:ナセル・アリ(マチュー・アマルリック)|死の天使アズラエル/ナレーション(エドゥアール・ベール)|ナセル・アリの妻ファランギース( マリア・デ・メデイロス)|ナセル・アリのかつての恋人イラーヌ(ゴルシフテ・ファラハニ)|ナセル・アリの弟アブディ(エリック・カラヴァカ)|ナセル・アリの娘リリ(キアラ・マストロヤンニ)|バイオリンの師匠(ディディエ・フラマン)|イラーヌの父・時計屋(セルジュ・アヴェディキアン)|弟アブディの妻(ローナ・ハートナー)|古物商フーシャング/物乞い(ジャメル・ドゥブーズ)|ナセル・アリの母親パルヴィーン(イザベラ・ロッセリーニ)|

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映画 「甘い生活」  監督:フェデリコ・フェリーニ

上

上2


 この映画は「フェデリコ・フェリーニの代表作なんだから」なんて思って、固く構えて観てはいけません。
 何しろ、素晴らしい映像です。これを楽しみましょう。

 ただし、話の筋はほとんど無く、様々なシーンが取っ散らかった状態です。つまり、ストーリー展開で物語ることを放棄しています。
 映画でこういうことをやること自体が、60年近く前の当時、とても斬新でかっこ良かったのでしょう。
 よって、映画が与えてくれる物語に、心地良く揺られることを期待するなら、この映画は難解な作品と言っていいでしょう。

 映像が素晴らしいと思うのは、シーンのある一瞬を切り取ると、それがそのまま、一枚の優れた写真作品になる位のクオリティが、映画のあちこちにあるからなのです。(これって案外、そうあることでは無いです)

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 つまり具体的には、俳優たちのそれぞれの向き・身振り・人物群配置の計算や、会員制キャバレー・地下室・トレヴィの泉・病院・古城など映画の舞台装置のバリエーションある選択や、郊外の新築アパート群・道路・海辺などの野外ロケ地選択の、そうした演出の総体と、それらの画面の構図の組み立てが、何でもないようでいて、実は緻密になされている。

 加えて例えば、カメラを構えてばらばらと走るパパラッチ軍団の荒っぽい突撃や、トレヴィの泉に入っちゃうシーンや、ものすごい数のエキストラの登場や、聖母マリア出現の地の広く開けたシーン、そして極めつけが突然の豪雨が、ともすれば、緻密に組み上げたからこそ、静的になりがちな映像に、動きと驚きのドラマ効果を与えている。

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 そしてさらに観ると、その演出・構図に、二通りある。
 そのひとつは例えば、多くの人物がいるキャバレー店内シーンなどの屋内シーンや、トレヴィの泉の周りのパーティなど比較的狭い範囲で撮影するシーンに注目してみると、俳優たちはてんでに動いているようだが、その動きが前もって計算されていて、なるほど、いい構図(絵)になっている。(そう見える)
 もうひとつは、病院ロビーや聖母マリア出現の地やラストの海辺など、開けた画角と遠近のあるシーンでは、大きなステージ上で展開される「舞台演劇演出」の手法が駆使されて、俳優達の、うまい具合な構図配置がなされている。
 素晴らしい映像です。楽しみましょう。

 あと、登場人物にも注目したい。
 過去の栄光にすがる年配の貴族たち、その空気に反発するも退廃的にしか振る舞えない若い貴族。
 そんな貴族だけれども、彼らの特権・財産である「上流階級」、そこへ加わった新興ビジネスの富裕層。
 そんなイタリアに来て、売れっ子美人女優という華やかな風を送り込む米国映画芸能界。
 そんな上流階級や映画女優のスキャンダルを狙う、芸能記者とパパラッチ軍団という庶民。
 そんな騒がしいローマとはまったく無縁の庶民が、ローマの娼婦であり、郊外に住む貧しい庶民は救いを求めて聖母マリア出現の地に集う。
 
 これまでに記事にしたフェリーニの作品は、1963年製作の「8 1/2」です。こちらから、お読みください。

オリジナルタイトル:La Dolce Vita
監督:フェデリコ・フェリーニ|イタリア|1960年|174分|
原案:フェデリコ・フェリーニ、トゥリオ・ピネリ、エンニオ・フライアーノ|
脚色:フェデリコ・フェリーニ、エンニオ・フライアーノ、トゥリオ・ピネリ、ブルネロ・ロンディ|
撮影:オテロ・マルテリ|音楽:ニーノ・ロータ|
出演:マルチェロ・マストロヤンニ(マルチェロ)|アニタ・エクバーグ(シルヴィア)|アヌーク・エーメ(マダレーナ)|アラン・キュニー(ステイナー)|イヴォンヌ・フルノー(エマ)|マガリ・ノエル(ファニー)|レックス・バーカー(ロバート)|ジャック・セルナス(セルナス)|ウォルター・サンテッソ(パパラッツォ)|ニコ(ニコ)|


【 一夜一話の 歩き方 】4-0_20170401153331773.png

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プロフィール

やまなか

Author:やまなか
 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めて8年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

<一話一夜の方針かな>
 1)古今東西の映画を分け隔てなく並べて、気に入った映画を選びます。
     
 2)以前に観た映画でも、もう一度あらためて観てます。むかし感じた印象と大きく異なることも多いからです。

 3)「素」な気持ちで、「映画作品そのもの」に向き合うことが、私の遊びです。
 作品自体が語りかけてくること以外の額縁情報、つまり宣伝文句、その受け売り文章、受賞実績、監督発言、出演俳優がどうしたとか、そして映画評論本やらは、はなから無視して、自分の眼で観るようにしています。

 4)観て気に入らない映画、つまんない映画は、基本掲載しません。
 だから、観たけど掲載しない映画は多いです。巨匠の名作と言われる映画も、気に入らなければ掲載しません。また、名物にうまいモノなし、ということも実感します。

 ただし、まだ観てない映画は、たくさんあります。こんな一夜一話ですが、今後も、見に来てください。   
 美術や音楽、書籍や温泉の記事も増やしたいと思っています。よろしく。  

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