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洋画評だけ見る 直近50作 Archive

映画「天使の分け前」  監督:ケン・ローチ

写真
皆、有罪判決で、裁判所の命令により、刑罰として社会奉仕の無償労働を強いられた、ワルな若者たち。
先頭を歩くのが、主人公のロビー。
その左、ロビーと並んで歩く太っちょが、保護観察所の指導員ハリー。
                  

0-1_20181210102032cfc.png ケン・ローチ監督による娯楽映画です。
 イギリスの下層の青年たちの非行を描く、ケン・ローチ風の物語設定ですが、本作「天使の分け前」は、 ハッピーエンドで終わるハートフルなコメディ作品となっています。

 仕事に就かず(就けず)、無為な日々を送るワルな青年7人が、裁判所からそれぞれ有罪判決を言い渡され、刑罰として40時間以上300時間以内の社会奉仕(ペンキ塗り作業などの無償労働)をすることが決まった。
 彼らの犯罪内容はそれぞれだ。繰り返す暴力沙汰や、アルコール/薬物依存による万引き常習、歴史的記念碑(銅像)への悪戯、列車運行の妨げなど、だった。

 そんな彼らの奉仕活動を現場でまとめ監督するのが、保護観察所の指導員ハリー。
 ハリーは彼らに寄り添う気持ちがある優しい男であった。
 特にハリーの心を引いた青年は、ロビーだった。
 なぜならロビーの彼女レオニーが出産間近であったからだ。暴力沙汰を繰り返すロビーが「父親になる」ことは、ロビーが悪から更生する絶好の機会だと、ハリーが考えたからだった。

0-2_20181210102455571.jpg しかし、これを妨げるのは、ロビーとレオニーそれぞれの父親同士の、古くからの憎しみ合いの因縁であった。

 つまり、正式に夫となるロビーを排斥しようとする、レオニーの家族側の暴力にロビーはさらされるが、これにロビーが暴力で応えれば、もう奉仕活動の刑罰では済まされない。
 レオニーとハリーは、いらつき憤るロビーを制した。そして男の赤ちゃんが生まれる。二人はルークと名付けた。

 ここに来てついに、レオニーの父親がロビーに相談を持ち込んだ。
 お前との喧嘩はお前がいればこれからも続く、5000ポンド渡すから、レオニーと別れ、赤ちゃんを置いて、黙ってこの街を去れと。
 そう、この街にいても、しょうがない、そうロビーも思った。(できれば三人でこの街を出たい・・)

 そんなある日、ハリーは自身の休日を利用して、ロビーら社会奉仕のメンバーを、ウィスキー工場見学やテイスティング会へ連れ出した。(その時のシーンが上の画像)
 ハリーはスコッチウィスキー愛好家で、皆も試飲を楽しんだ。

 話はここから急展開しだす!
 ロビーを幸運に導いたのは、結果的には、社会奉仕活動メンバーの中の一人の女の子だった。
 彼女は万引き常習犯で、何を盗んだことがロビーを幸せに導くことになったのか。
 それは、(1)にスコッチウィスキー工場の売店で、ウィスキーのミニボトルを多量に盗んだこと、(2)に世界的に貴重なスコッチウィスキーを貯蔵樽ごと、競りに出された競売会場で、そのウィスキー貯蔵庫を紹介したオークション資料を盗んだこと。
 もちろん万引きの彼女は、ロビーのためにとは、さらさら思ってのことではなかった。

 ロビーは、持ち帰ったミニボトルを皆であれこれ試飲するうちに、それぞれのスコッチウィスキーの味と香りに魅了された。そう、ロビーは、その違いが分かる自分自身に気付いたのだ。
 そして彼は、図書館まで出かけてスコッチウィスキーのテイスティングの本を読みあさった。
 さあ、ここからは観てのお楽しみ。
 ロビーが思い浮かんだ「ある計画」に乗った3人は、大金を得て、ロビーは職も得た。
 そして、ロビー、レオニーと赤ちゃんの3人は、意気揚々と街を去っていったのでした。
 その時、レオニーはロビーに、にこやかに言った。
 「そんなヤンチャな、あんたが好きよ!」 (終)

オリジナルタイトル:THE ANGELS' SHARE
監督:ケン・ローチ|イギリス= フランス= ベルギー= イタリア|2012年|101分|
脚本:ポール・ラヴァティ|撮影:ロビー・ライアン|音楽:ジョージ・フェントン|
出演:ロビー(ポール・ブラニガン)|ハリー(ジョン・ヘンショウ)|アルバート(ガリー・メイトランド)|ライノ(ウィリアム・ルアン)|モー(ジャスミン・リギンズ)|タデウス(ロジャー・アラム)|レオニー(シボーン・ライリー)|ロリー・マカリスター(チャーリー・マクリーン)|

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ロシア映画「アイカ」(原題) ~第19回東京フィルメックス上映作品

『アイカ 』(公開時邦題未定)  Ayka 【コンペティション作品】 
ロシア、ドイツ、ポーランド、カザフスタン、中国|2018|100分|監督:セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ (Sergei DVORTSEVOY)|2019年公開予定
アイカ



 季節は冬、大雪のモスクワが話の舞台。
 天山山脈の北、キルギス共和国(旧国名キルギスタン)から出稼ぎに来ている若い女性、その名はアイカ。 
 モスクワ市内の病院で出産しその直後に、子を院内に置き去りにして、アイカは病院を去った。

 アイカが持つ、外国人労働者の労働許可証の期限は、すでに切れている。
 もとより、彼女のような中央アジアからの出稼ぎに、まともな扱いを受けるまともな収入の仕事はない。

 病院を去ったアイカは、その足で、それまで働いていた職場へ急ぐ。
 そこは、人目を避けた薄汚い地下室、鶏肉処理に女たちが働いている。アイカも加わる。
 しかし怪しげな雇い主は、彼女たちにここ数日分の賃金支払いをせず、姿をくらました。

 アイカは苦しそうだ。
 出産直後の医療手当を受けずに病院を出たのだから当然だ、出血が止まらない。
 アイカの住処は、不法滞在の人間たちが集まり住むホテル、と持ち主が呼ぶタコ部屋のような所。窓はすべて塞がれ当局の目を避けている。一人分のスペースは畳一畳分あるかないか、仕切りはカーテン1枚。アイカは家賃を滞らせている。

 スマホに、アイカの姉からたびたび電話がかかる。
 良からぬ者に脅されているらしい。
 アイカは、実はその連中からまとまった金を借りたが、まだ多額の残金を返せずにいる。その脅しが始まった。あと2日で返せ、さもなくば姉の指を切り落とすと脅す。
 アイカが出産すぐに働こうとするのは、この返済にため。時間は無い。
 何故に彼女は多額の借金をしたのだろう、それは彼女の夢、起業だったが・・。

 アイカの乳房が張る。服に乳が染み出る。体調も思うようには戻らない。
 それでも、働き口を探して街をさまよう。雪かきの仕事は無理だった。
 そんななか偶然にも同郷の女性に出会い、代理で臨時の仕事を得た。

 しかしアイカはついに返済は無理だと観念した。
 残す最後の手、それは・・・。(公開を待って、観てください、アイカ役の女優が大熱演です)

              

 ロシアでも、やはり移民差別の問題があります。
 下記は、ロシアの「出稼ぎ労働者ガイド」に侮辱的表記、というグローバル・ボイスの記事。(外部リンク)
 https://jp.globalvoices.org/2013/01/10/19745/ (グローバル・ボイス)
 出稼ぎ労働者向けのガイドブックに、出稼ぎ者を表すイラストの、その顔の部分が道具(塗装用ローラー、ほうき、コテ)に描かれている。
 私のブログでは、出稼ぎ労働を主題に据えた映画を2つ取り上げています。
 スペイン映画「BIUTIFUL ビューティフル」とベルギー映画「イゴールの約束」です。クリックしてご覧になってみてください。
 
 なお、「アイカ(仮題)」の監督、セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督は、2008年に「トルパン」という映画を撮っています。(カンヌ映画祭「ある視点」賞を受賞)
 この映画はすでに私のブログで記事にしています、こちらからお読みください。
 「アイカ」主演女優も出演していました。

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中国映画「轢き殺された羊」(ひきころされたひつじ) ~第19回東京フィルメックス上映作品

『轢き殺された羊』 Jinpa 【コンペティション作品】
中国|2018|86分|監督:ペマ ツェテン(Pema Tseden)|
1_20181121183430f89.jpg


 まず冒頭から感じるのは、スタンダードサイズの映像構図がとても良いのです。
 観ているだけで気持ち良い。


 話のステージは、高度5000メートル級のチベット高原。
 草木生えぬ広大な大地の、ひたすら続く一本道を、一台のトラックが走る。
 ガタガタ道と、おんぼろトラックの走行音と、虚無的な無人の大地、このシーンが続くうちに、いつしか観客は虚空な気持ちになっていく。
 これがこの映画の重要な前奏曲。


0-0_20181124121839d24.jpg
 
 その一瞬だった。迷い羊だろうか、トラックは一頭の羊を轢いてしまった。
 ドライバーのジンパという男、顔はいかついが心は優しいのだろう。羊の供養が頭に浮かび、羊を助手席シートに担ぎ上げた。
 そののち、しばらく走ったジンパは、無心に歩く巡礼者のような薄汚い姿の男を情けで乗せてやった。この男も名をジンパと言った。親の仇討ちに向かうと言う。

 話はこの先、ドライバーのジンパの孤独な日常を描きながらも、もう一人のジンパの事が、何故か気にかかるドライバーのジンパは、途中で降ろした彼のあとを追うことになる。
 そしてドライバーのジンパは、幻想の中で、もう一人のジンパの過去の、その一瞬に立ち現れるのであった。

 彼の地の、今の風俗が味わえるのも、この映画の魅力のひとつです。


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韓国映画「川沿いのホテル」,「草の葉」 ~第19回東京フィルメックス上映作品

『川沿いのホテル』 Hotel By The River 【特別招待作品】
韓国|2018|96分|監督:ホン・サンス (HONG Sang Soo)|
1_2018111911531692a.jpg
 冬、漢江の川岸に建つ、宿泊客の少ないホテルを舞台に、著名な詩人と、彼がホテルに呼び寄せた息子兄弟との話。
 そしてもうひとつは、悲恋に打ちひしがれ、ホテルの一室に籠もる後輩を、慰めるため先輩が訪ねた、という設定の女性2人の話。
 
 この二つの話は並行して語られ、時にちょっと交わります。
 また映画は、作らない静かな演技・撮影と、極々自然な会話シーンだけで成り立っていて、かつロケはホテルの館内外だけの、簡素なつくり。


1-0_20181121141905e46.jpg ですが、そんなシーンの中に、早くに離婚した詩人と息子との疎遠な親子関係の、そして有名人の次男と妻に逃げられたショボい兄といった兄弟関係の、それぞれの微妙な距離感とちぐはぐさ、それを乗り越えようとする歩み寄りを浮き彫りにします。 

 一方、女性2人の会話からは、後輩と相手の男との状況が見え出し、酷い仕打ちなのに、ふと相手を思う気持ちが湧き上がる後輩の話を真摯に優しく聞く先輩、そして先輩も何か悲しみを持っている様が浮かび上がります。

 脚本を書くホン・サンス監督は、ロケ当日の朝に脚本を書き上げ、よって俳優は当日に脚本を渡されたようです。
 即座の反応が求められる俳優は懸命でしょうが、そうした即興性で俳優を刺激して出てくる演技は、監督にとって新鮮採れたてに感じるのでしょう。それを求めるのでしょう。
 もっとも、監督は事前に俳優と十分にコミュニケーションをとり、俳優個人の身の回り情報も得て、脚本や役柄に反映しているとのこと。だから、俳優にとっては無理なく演技に入れるそうです。
 ただし、いささか冗長なシーンはありますね。


『草の葉』 Grass 【特別招待作品】
韓国|2018|66分|監督:ホン・サンス (HONG Sang Soo)|
2_20181119115903d1e.jpg
 こちらは、ソウル(?)の街中の路地裏にある喫茶店。
 冒頭、映画は、時を別にして来店した2人客4組の、それぞれの会話シーンだけを連ねます。

 本作は、このように店内での会話シーンをいくつも反復することで、年齢職業さまざまな立場の人々の生きざまや思いを、同時多発的にあるいは現在を面的に描こうとしています。




3-0_201811211700364cc.jpg 知り合いが自殺したことを共有する男女の言い争いの会話や、演劇界では知れたベテランだが意見をたがえて劇団を抜けたが故に生活困窮する老人と心配する中年女優との会話や、店先外のテーブルではもう一人の男優と友人の若い女性との会話を、観客は聞きます。
 加えて、これらの会話をずっと、店内の隅でいわば盗み聞きして、Macになにやら書き込んでいる、物書き志望の、淑やかな女性(この人が主役か)がいます。
 さらには、この女性が店外にいた男優に厚かましくされたり・・。

66.jpg 続いて、シーンは他の店に移ります。 
 物書き志望の女性が、その弟とその彼女にずけずけ物言いするシーン、厚かましい男優の知り合いの女性は、ある男と深刻な悲しい会話をするシーン。

 そして場面はもとの喫茶店に戻ります、夜です。
 そこでは、劇団を抜けた老人と中年女優、厚かましいい男優とその知り合い女性の計4人が和やかにし、これに物書き志望の女性が座に加わるようでした。(終)
 
 もちろんこの間に、知り合いが自殺したことを共有する男女の関係が、喫茶店内で意外な展開をし、物書き志望の女性の弟カップルには、ちょっとした異変が起きたのかもしれません。
 
 他人の会話は、大概、たわいなく聞こえるかもしれないが、本人にとってはそうではない。
 そこにドラマを作って見せてくれます。かつ人の連鎖もテーマのようです。
 また、要所要所にナレーションが入り、シーンを締めています。
 作品の出来は、上の「川沿いのホテル」の方が良いと感じます。

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気に入ってる、最近の映画。(アジアの映画編)

写真
「花嫁と角砂糖」
結婚式に集まった一族郎党の群像劇。
人々が各々に人生を背負い、ここに集
う様をうまく描いている。これでイラ
ンの家庭料理の匂いがすれば最高。
イラン
監督:レザ・ミルキャリミ
写真
「スタンリーのお弁当箱」
ムンバイの小学校がお話の舞台。クラ
スの中に貧富の差がある。その度合い
を示すのがお弁当の内容と量。でも待
ちに待ったお昼時になると、みな夢中!
インド
監督:アモール・グプテ
写真
「ハーモニー・レッスン」
やくざの世界に通じる18歳の生徒が全
校を支配する中、低学年が公然と虐め
に会い、さらには13歳の少年が殺人事
件に巻き込まれ自白を迫られるが…。
カザフスタン
監督:エミール・バイガジン
写真
「コインロッカーの女」
バイオレンスな裏の世界と短く儚い初
恋を描くアクション映画。最後まで飽
きさせない娯楽作品。しっかりした構
成よく書き込まれた脚本。パワフル!
韓国
監督:ハン・ジュニ
写真
「恋物語」
女性同士のLove Story。女性監督なら
ではの心細やかな描写。ユンジュとジ
スの揺らぐ心の機微を上手にすくい上
げる。脚本への緻密な配慮も伺える。
韓国
監督:イ・ヒョンジュ
写真
「ブンミおじさんの森」
おじさんが住む一軒家は精霊たちが住
む深い森。日が暮れると闇の中に浮か
ぶ舟の様。森のすべての生死・輪廻転
生を包み込んでいるのはアジア的風土。
タイ
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
写真
「光りの墓」
突然の発作後ひたすら眠り続ける不可
思議な難病。この患者が何人も収容さ
れる病院。光る医療機器の不思議感。
患者や死者と交信する女。古代と現代。
タイ
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
写真
「マンダレーへの道」
ミャンマーからタイへ不法入国した男
女のラブストーリーと別れを描く。不
法滞在者が得るのは長時間労働を強い
られる厳しい職場。芽生える恋、だが。
台湾、ミャンマー
監督:ミディ・ジー
写真
「昔々、アナトリアで」
トルコ東部の果てしなく続く丘陵風景
の中で語られる荒涼としたロードムー
ビー、そして関係者たちの群像劇。映
像の文筆力が飛びぬけて素晴らしい。
トルコ
監督:ヌリ・ビルゲ・ジェイラン
写真
「記憶が私を見る」
観る者の感性が試される映画かも。何
んでもない日常の奥にひっそり佇む精
神の有り様、感情の細やかさを僅かな
台詞で静かに描いて映画にしている!
中国|製作:ジャ・ジャンクー
監督・主演:ソン・ファン
写真
「最愛の子」
実話が基の話。3歳の一人息子の誘拐
事件。中国では子供の誘拐、売買が多
発、年20万人もの子供が行方不明にな
る。この世情を背景に親たちを描く作。
中国
監督:ピーター・チャン
写真
「妻の愛、娘の時」(相愛相親)
母の遺骨を父親が眠る故郷の墓に埋葬
しようとするが故郷に住む父の先妻に
断固反対される喜劇的な話。場面の切
り返しに独特のリズムがあって好印象。 
中国
監督・主演:シルヴィア・チャン
写真
「苦い銭」
市井の人々のありのままを、それも広
大な国土の極一点の様子を描いたドキ
ュメンタリーだが「中国の今」をしっ
かりと感じとれるのはこの監督の魅力。
中国
監督:ワン・ビン
写真
「普通の家族」
マニラの街中でストリートチルドレン
として育った16歳のジェーンと17歳の
アリエスの物語。二人の間に子が生ま
れ、母は強しの苦労の日々。
フィリピン
監督:エドゥアルド・ロイ・Jr




映画「イン・ハー・シューズ」  監督:カーティス・ハンソン

上
妹のマギー、祖母のエラ、姉のローズ


 性格と才能がまったく違う姉妹と、その祖母、女3人のそれぞれの幸せを見つける物語。
 アメリカンテイストな娯楽映画をお楽しみください。
 
0-1.jpg ローズとマギーは、仲が良い。そして共に、独身。
 二人の母は二人が幼い頃、交通事故死したらしい。父親は再婚し姉妹を育て姉は自立し今に至る。

 30歳を過ぎた姉のローズ(トニ・コレット)は、フィラデルフィアの大手法律事務所に勤める弁護士。
 仕事に没頭の毎日は、ある種の現実逃避。
 恋愛に縁が無いらしい、寂しい私生活とエッチな恋愛小説。
 買った上等なマンションの、ウォークインクローゼットには高価な靴がズラリ。ローズにとって慰みの靴たち。
 しかし最近、上司といい関係になったが・・。

 かたや、30歳を前にした妹のマギー(キャメロン・ディアス)は、美貌とナイスバディで男に不自由なし。
 結果、日々、夜遊び度重なる外泊と世間を浮遊する遊び人、ついに継母に実家から追い出される。
 性格は大雑把で楽天家。ファッションセンスは優れてる。
 だが発達障害※があって、店員やレジの仕事もできず、いつも金欠。
 (※読むこと暗算することがとても遅い、学校では特別支援学級だった)

0-2_20181111093116cf7.jpg 姉妹の(母方の)祖母、エラ(シャーリー・マクレーン)は、フロリダにいる。リゾートホテルのような高級な老人ホームに住んでいる。
 エラは今も、娘(姉妹の母親)のことで悔い続けているようだ。(姉妹の母親は映画に登場しない)
 実は姉妹の母親は交通事故死ではなく自殺だった
 エラはあの頃を振り返り、もっと何かしてあげていれば自殺には至らなかったと悔いているのだ。



 姉妹の母親は奇行の人であったらしい。(長女のローズは母親のそんな様子を少しだけ覚えている。マギーは赤ちゃんだった)
 幼い姉妹にとって、母のおかしな振る舞いは楽しかったが、父親にとっては耐え難かったのだろう。
 そんな母親を懸命にかばったのがエラだった。だから、エラと姉妹の父親はいがみ合っていた。

 母の死後、父親はすぐに姉妹からエラを遠ざけた。その後は姉妹は祖母と会うことはなかった。
 だから、幼い姉妹は、祖母はとうに死去したと思っていたのだ。

 さて、お話はどう進んで行くかは観てのお楽しみ。

オリジナルタイトル:In Her Shoes
監督:カーティス・ハンソン|アメリカ|2005年|131分|
原作:ジェニファー・ウェイナー|脚本:スザンナ・グラント|撮影:テリー・ステイシー|
出演:マギー・フェラー(キャメロン・ディアス)|ローズ・フェラー(トニ・コレット)|エラ・ハーシュ(シャーリー・マクレーン)|サイモン・スタイン(マーク・フォイアスタイン)|エイミー(ブルック・スミス)|トッド(アンソン・マウント)|ジム・ダンヴァーズ(リチャード・バージ)|サイデル・フェラー(キャンディス・アザラ)|マイケル・フェラー(ケン・ハワード)|グラント(エリック・バルフォー)|

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映画「オンディーヌ 海辺の恋人」  アイルランド映画  監督:ニール・ジョーダン

上

 大人の世界と、子供の世界との境目から生まれた、人魚と漁師のラブストーリー。
 ハッピーエンドな話です。

1-0_201811071706266fe.jpg 漁師のシラキュースがある日、漁船の巻き上げ機で網を引き上げていると、魚と共に、なんと「女」が網にかかった。
 水死体だと思ったが、生きている。慌てて網から出した。
 ずぶ濡れの怯える女は、意識が戻り、オンディーヌと名乗った。(オンディーヌとは水を司る精霊、とっさの機転が利く女のようだ)

 シラキュースは女を病院に連れて行こうと、急ぎ港へ向かおうとしたが、女はそれを制して、誰にも会いたくないと言った。
 そこで一瞬考えたシラキュースは、彼女を世間からかくまうため、亡母が住んだ家のある、小さな入り江へ向かった。
 その家は、海べりに一軒ぽつんと建った、隠れ家のような粗末な あばら屋。
 シラキュースは、ずぶ濡れのオンディーヌをその家に置いてとりあえず去った。(家には亡母が残した衣服がある)
 この日から彼は頻繁にこの家を訪ねることになる。
 ある日、シラキュースはオンディーヌを乗せて漁に出る。するといつも不漁のロブスターが捕れ、刺し網ではないのにサケがたくさん捕れる、その不思議。


 シラキュースは港町に独りで住んでいる。
 妻とは別れた。同じ港町に妻は別な男と住んでいる。
 シラキュースの一人娘アニーは、その家にいる。

2-0_201811071715385bc.jpg だがアニーは実父シラキュースが大好き。
 二人が一緒の時、シラキュースはアニーに即興のおとぎ話をする。アニーはいつもそれを聞きたがる。
 そしてオンディーヌとの出会いののち、シラキュースはアニーに、人魚の話をした。

 聡いアニーは、その話をするシラキュースに何か変、と感じた。
 後日、好奇心旺盛なアニーはひとりで、あばら屋に行き、オンディーヌに会った。
 アニーはオンディーヌを人魚だと思い始める。

 さて、そのオンディーヌだが。
 実はヨアナというルーマニアの女で、なぜ、海で溺れかけていたのか?、それは観てのお楽しみ。

 話は、シラキュースの優しさと世渡りの疎さ、彼に芽生えたオンディーヌへの恋心、そして、それらにほだされ始める謎の女オンディーヌ。
 ですがオンディーヌはこの地に根を下ろす気は無かったようです。
 しかし結果的には、アニーがオンディーヌを人魚だと思う、その心の清らかさが、荒んだオンディーヌの心を打ったのでしょうか。オンディーヌはシラキュースのもとに留まろうとします。


 脚本は登場人物にリアルな色付けしています。
 シラキュースは2年前まではアル中で、港町に知れ渡ったアル中阿呆な男でした。
 その後、酒を断ったものの世を捨てていました。唯一の楽しみは娘のアニーといる時。
 そのアニーは、人工透析が必要な娘。車いすの生活です。
 シラキュースの妻はあばずれな女です。
 オンディーヌことヨアナは、ヤクの密輸にかかわる女。表に出しませんが世慣れした一面がある女のようです。
 そのほか例えば・・神父。シラキュースは信仰心は無いですが、教会の懺悔室は利用します、それを聞く神父がピリッと味を出しています。
 総じて、この映画、人物描写はおおげさでなく、地味。でも、その人となりが、さりげなく伝わってきます。巧い。
 加えて、映像の構図も素敵です。

 ちなみに、ヨアナの仲間があばら屋に押しかけます。ヨアナがブツを隠していると・・。
 これを回避できたのは結果的に、アニーとヨアナとが育んだ世界、人魚にまつわるファンタジーのおかげでした。
 そして、ヨアナの仲間の死が、幸いなことにアニーの腎臓移植につながりました。
 さらには、シラキュースとオンディーヌの心は再び通じ合うことになります。

オリジナルタイトル:Ondine
監督・脚本:ニール・ジョーダン|アイルランド、アメリカ|2009年|111分|
撮影:クリストファー・ドイル|
出演:オンディーヌ(アリシア・バックレーダ)|シラキュース(コリン・ファレル)|娘のアニー(アリソン・バリー)|ほか

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気に入ってる、最近の映画。(ヨーロッパ・ロシアの映画編)

写真
「パラダイス 愛」
オーストリアの普通のおばさんがアフ
リカのリゾート地へ軽く遊びに行く話。
アフリカの男とのセックスなど白人の
おばさん達の愛のパラダイスを描く。
オーストリア
監督:ウルリッヒ・ザイドル
写真
「パラダイス 神」
宗教をテーマにする、かなりビターな
喜劇。コミカルな語り口を忘れず人の
業をえぐり出す。このコミカルさの妙
味にピンと来てほしい。
オーストリア
監督:ウルリッヒ・ザイドル
写真
「呼吸」
冷たいけれど新鮮なそよ風が吹く再出
発の話。孤児院で育ち親知らず。院内
の喧嘩で相手が死亡。それ以来、少年
院で服役5年。初めて仕事に就いた。
オーストリア
監督:カール・マルコヴィックス
写真
「さよなら、人類」
ロイ・アンダーソン監督のファンなだ
けに言いたくないのですが、残念な作。
映像の魔術に「冴え」が無くなりまし
たが、しかし他に類のない貴重な映画。
スウェーデン
監督:ロイ・アンダーソン
写真
「BIUTIFUL ビューティフル」
重い映画です。部隊はスペイン・バル
セロナ。映像は闇の中で妖しく押し黙
り、雨に濡れて、にじむ光のように美
しい。奥行きがある映画です。
スペイン
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
写真
犯罪「幸運」
東欧の羊飼いの娘とベルリンのホーム
レス青年との純なラブストーリー。
女性監督らしい繊細さも気持ち良い。
適度な緊張がラストまで。
ドイツ
監督:ドリス・デリエ
写真
「アデル、ブルーは熱い色」
高校生のアデルが同じ学校の先輩男子
より、街で見かけたブルーの髪の女性
に魅かれていく話。アデル役女優の自
然体の熱演に脱帽だ、素晴らしい。
フランス
監督:アブデラティフ・ケシシュ
写真
「ゲンスブールと女たち」
しっかり作られたいい映画。主人公は
フランスの著名なミュージシャン、ゲ
ンスブール。恋多き波乱万丈の生涯を
楽しく不思議に描きます。
フランス
監督:ジョアン・スファール
写真
「さすらいの女神(ディーバ)たち」
米国ヌードショー一座がフランスを興
行中。ユーモアたっぷりの楽しい舞台。
映画はダンサーたちの存在感と明るさ
飾らない演技で成り立っている。
フランス
監督:マチュー・アマルリック
写真
「ちいさな哲学者たち」
幼稚園の先生が哲学の授業をする様子
を継続的にドキュメンタリーした映画。
個の独立、自己主張を早くから言われ
る国フランス。日本はどうなんでしょ。
フランス
監督:ジャン=P・ポッジ、P・バルシェ
写真
「幸せのありか」
ポーランドに住む脳性麻痺の男の子が
青年に成長するまでの苦難のお話を、
あたたかな眼差しで、時にコミカルに
明るく描いた映画。
ポーランド
監督:マチェイ・ピェプシツァ
写真
「エレナの惑い」
静かな静かなサスペンス・ドラマ。 
遺産配分は人の心を激しく揺り動かす。
そして揺れる心は愛をもねじ伏せ、良
心さえも易々と乗り越える。
ロシア
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ





映画「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」 イタリア映画  監督:ガブリエーレ・マイネッティ

上

 イタリア味のスーパーヒーロー、SFクライム・アクション映画。
 なんだか最後まで観てしまった。
 スーパーな肉体を得た主人公エンツォとアレッシアとの男女関係が、アクション映画にしちゃ繊細に描かれている。

0_20181011124325779.jpg 主人公エンツォは少年の頃には既にワルだったが、それなりに楽しかったらしい。
 だが、今じゃ生きる意欲も無い一匹狼、ギャングの下働きで何とか生きている。

 凶暴な男ジンガロは数人の手下を抱えて麻薬を扱うギャング。
 その手下の1人セルジョに連れ添ってエンツォは、ヤクの小袋を飲みこんだ運び屋の黒人の体内から、袋を排出させる現場に居た。
 ところがセルジョは奪われた拳銃で黒人に撃たれ即死、エンツォも肩を撃たれて高いビルから落下。
 しかし、地面にたたき付けられたエンツォは、しばらくののち意識が戻り、何ごとも無かった様子でひとりその場を立ち去った。
 部屋に帰り、肩を貫通した傷を手当てしたが、翌日には傷跡も無かった。
 エンツォは気がついた。あの時、不死と怪力を得たのだと。(あの時とは?は、もちろん観てのお楽しみ)

 その頃、ジンガロは苛立っていた。ヤクを持って帰るはずのセルジョが行方不明。
 手下を連れたジンガロはセルジョの家に押し入り、そこに居た娘のアレッシアを手荒く扱い父親の行方を詰問していた。
 そこへエンツォが飛び込んで手下を投げ飛ばしアレッシアを救う。
 エンツォの部屋の階下がセルジョと娘の部屋で、アレッシアとは“一応”、顔見知り。

 アレッシアは精神障害があって、退院後は「鋼鉄ジーグ」※のアニメの世界に浸ることで、心の安定を得ている女性。(※日本のアニメ)
 彼女はエンツォに問いただす、父親はどこ? 彼女は不安なのです。
 そしてアレッシアは、エンツォを「鋼鉄ジーグ」のヒーローと同一視し始めます。
 ですが、エンツォはいつものように、変な女アレッシアが、うざい。

 さあ、この辺から、エンツォ、アレッシアの微妙な関係がスタートします。
 一方エンツォは、セルジョが隠し持っていた、ジンガロ一味の現金強奪計画のメモをもとに、エンツォひとりで現金輸送車を襲撃してしまいます。

 その単独襲撃をまのあたりにしたジンガロは、エンツォがどこでどうして、あのスーパー能力を得たかに執心しだし、アレッシアを人質にし、ついに事の次第を聞きだします。だが、お前本当か? ジンガロは信用しません。ところが・・(それは観てのお楽しみ)

 話は進んで、超能力を得た目立ちたがり屋のジンガロは、世界中のツイッタ―で騒がれるような巨悪なテロへと単独で突き進みます。
 そして、エンツォの登場です。
 エンツォが正義に目覚めたのは、交通事故で炎上する車から、女の子を救ったことがきっかけでした。周りの多くの人々がエンツォの行為と勇気を称賛しました。エンツォにとってそれは、生きる糧を得た事でありました。

オリジナル・タイトル:LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT
監督:ガブリエーレ・マイネッティ|イタリア|2015年|119分|
脚本:ニコラ・グアッリャノーネ|撮影:ミケーレ・ダッタナジオ|
出演:エンツォ(クラウディオ・サンタマリア)|ジンガロ(ルカ・マリネッリ)|アレッシア(イレニア・パストレッリ)|セルジョ(ステファノ・アンブロジ)|ほか

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映画「熱帯魚」 台湾映画  監督:チェン・ユーシュン

上






 のんびりした可笑しさと、生きるペーソスと、力強い生きざまが織りなす台湾の庶民のお話。
 主人公を立てていますが、群像劇でもあります。
 各所のシーンでクスクス笑ってください。

 台北のある中学校の、中三のその教室。高校入試 間近である。
 「400点以上とれる自信の無い人、手を挙げて」と教師が言ったら、ほぼ全員が手を挙げた。
 (台湾の高校入試は統一試験、400点以上が求められるらしい)

 その手を挙げた中に、主人公ツーチャン、その悪友ウェイリーがいる。
 この期に及んでも、ツーチャンは入試に意欲がわかない。ワルじゃないが、親から見ればいい子じゃない。
 毎日バス停で会う純情そうな女の子に片思い。


1_20181002175502309.gif ある日、ツーチャンが小学生の誘拐事件に巻き込まれ、ツーチャンも身柄を拘束された。
 主犯格は元刑事で、事業を起こしたがうまくいかない男、誘拐で一儲けを画策する。
 小学生の子は、日頃から親が息子を見放していて身代金を得られないらしい事が分かり、よって急遽、ツーチャンにお鉢が回る。
 男はツーチャンの親に身代金を要求する。警察が動き出す。金の受け渡しの場で、主犯格は元同僚の刑事に出くわし、シドロモドロ。身代金を得ずに退散。
 ところがこの男が敢え無くも交通事故死、も一人の気の優しい男アケンが誘拐を引き継ぐなりゆき展開となる。


 アケンは二人の口にガムテープを貼って、海岸沿いのアケンの故郷へ向かう。
 今度はこのアケンの一族郎党がツーチャン誘拐で一儲けを狙う。テレビ報道がこの事件を追い始める。ツーチャンの両親がカメラの前で犯人に訴える様子が放映される。
2-1_20181002175715e76.jpg ところが、アケンの一族郎党が間抜けで、したたかで可笑しい。
 そしてアケンらはツーチャンと小学生を優しく扱う。ご飯時は、あたかも家族の一員のよう。のんびりした潮風が吹く日々。
 アケンは、ツーチャンに受験勉強しろと参考書を買って与える。分からないところは近所の物知りに聞きに行くサービス。
 しかし日はまたたく間に経ち、入試日がどんどん迫る。
 テレビの討論特番では、入試の諸問題とツーチャンの試験免除の特例が叫ばれる。
 そうこうするうちに、警察が海岸沿いのこの一帯に目をつけだす。警官の間抜けさも可笑しさを誘う。


 そして・・。
3_20181002175857fdf.jpg そんなさ中、ツーチャンは一人の女の子に恋をする。
 ツーチャンが海で泳いだ時(入試間近なのにそんな余裕はないだろ!)、台北の海に熱帯魚を見た確かに見た。(熱帯魚は台湾のもっと南にしか生息してないはずだが・・)
 ツーチャンが警察に保護される時、その女の子は熱帯魚が一尾入ったビンをツーチャンに渡した。幻じゃない、私も熱帯魚を見たと。

 チェン・ユーシュン監督作品「ラブゴーゴー」の記事はこちらから
 この映画もなかなか良いです。

オリジナルタイトル:熱蔕魚/Tropical Fish
監督・脚本:チェン・ユーシュン|台湾|1995年|108分|
撮影:リャオ・ペンロン|
出演:ツーチャン(リン・ジャーホン)|好きな女の子(ファン・シャオファン)|ツーチャンの親友ウェイリー(リャン・ティンユァン)|小学生タウナン(シー・チンルン)|誘拐主犯格の手下アケン(リン・チェンシン)|その叔母アイー(ウェン・イン)|その夫ヒョン(リェン・ピートン)|ほか多数

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映画 「さらば青春の光」  映画音楽に魅せられて  監督:フランク・ロダム

上
モッズ(族)。仲間と薬、スクーターとアメリカン・ポップスとモッズファッションと。
主人公ジミーもモッズだ。


1-0_201809241554136ff.jpg ザ・フーやモッズ、パンク、スティングに思い入れがあるわけじゃないが、この映画、1960年代のイギリスの若いのに愛された音楽が出てきます。
 ですがロックファンじゃなくとも楽しめる映画です。

 お話の方は、1960年代半ばを舞台にして、労働者層の息子ジミー・クーパーという青年を中心に、労働者階級の若者達の切ない群像を描いています。

 それは、青春のときめきと悲恋や、ブリティッシュ・ロック(The Who)にアメリカンポップスにアンフェタミン(薬物)と乱痴気パーティ、そして若者同士の乱闘や、階級社会への漠とした反抗、為す術の無さ、階級への従順であり、そうした日々に浸るジミーの疑問と離脱への物語です。
 (辛いのは、モッズの彼らも、ロッカーズの彼らも、ともに労働者階級の若者達なんです)

 ただし、映画はいささか青臭い、感傷的な語り口で展開します。そこがいいわけですが。
 また、海浜リゾート地のブライトンの市街や海岸での、モッズとロッカーズそして警察交えた大規模な乱闘シーンは迫力があります。
(1964年に実際に起きた「ブライトンの暴動」)

 本作オリジナルタイトルの「Quadrophenia」(四重人格)は、ブリティッシュ・ロックバンドのザ・フーの、ロックオペラ仕立てのレコードアルバム名(1973年リリース)であり、この映画の原作にあたります。

2-0_20180924155759b18.jpg 挿入曲は当然、The Whoのが多いのですが、1960年当時、実際にイギリスの若者に受けていた音楽となるとアメリカンポップスです。
 シーンに挿入される曲は次のとおりです。

The High Numbers:ZOOT SUIT|Cross Section:HI HEEL SNEAKERS|James Brown:NIGHT TRAIN |The Kingsmen:LOUIE LOUIE |Booker T and The MG’s:GREEN ONIONS|ザ・カスケーズ:悲しき雨音|The Chiffons:HE’S SO FINE |ザ・ロネッツ:ビー・マイ・ベイビー|The Crystals:DA DOO RON RON |The High Numbers:I’M THE FACE

 ザ・ロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」なんか、聞き覚えありますか。いい曲です。次から聴けます。
 https://www.youtube.com/watch?v=jrVbawRPO7I

 The Who大好きな方はこちらですね。映画挿入曲です。
The Who:I AM THE SEA|THE REAL ME |I’M ONE |5’15 |LOVE, REIGN O’ER ME |BELL BOY |I’VE HAD ENOUGH |HELPLESS DANCER |DOCTOR JIMMY |GET OUT AND STAY OUT |FOUR FACES|JOKER JAMES|THE PUNK AND THE GODFATHER |


オリジナルタイトル:Quadrophenia
監督:フランク・ロダム|イギリス|1979年|117分|
脚本:デイヴ・ハンフェリーズ 、 マーティン・スチルマン 、 フランク・ロダム|撮影:ブライアン・テュファノ|
出演:Jimmy:フィル・ダニエルス|Steph:レスリー・アッシュ|Ace:スティング|Chalky:フィリップ・デイヴィス|Dave:マーク・ウィンゲット|ほか多数

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映画「フランコフォニア ルーヴルの記憶」  監督:アレクサンドル・ソクーロフ

上2

1-0_20180910132348269.jpg



 この映画は、ルーヴル美術館についての作品ですが、収蔵品に関して芸術うんぬんを語るのではなく、時の王室・政府や第二次世界大戦を主題に据え、ルーヴル美術館の遍歴を(大河小説のように)描こうとします。

 映画は、昔のモノクロ映像や、絵画に描かれた館内のかつての様子、そしてもちろん、「モナ・リザ」、「サモトラケのニケ」やエジプト・コレクションなど著名な絵画彫像の映像を取り入れたドキュメンタリー形式ではありますが、俳優も登場します。

 そのうちの2人は、ヨーロッパやエジプトなど遠征先からの美術品略奪収集が旺盛だったナポレオン一世と、象徴的な位置づけの謎の女。
 ともに、ルーヴル美術館館内に居つく亡霊として、次の幾つかの絵画シーンに現れます。
 彼自身の肖像画や「皇帝ナポレオン一世と后妃ジョセフィーヌの戴冠式」や、フランス革命を描くドラクロワの「民衆を導く自由の女神」など。

2-1_20180910132910db7.png しかし登場人物の主たるは、第二次世界大戦中、ナチスドイツ軍によるパリ侵攻(パリ陥落)ののち、ルーヴル美術で面会する二人の男、ルーヴル美術館館長とナチス高官であります。(実話の再現)
 ちなみにナレーションは全て、アレクサンドル・ソクーロフ監督です。監督の思いがストレートに伝わってきます。


 映画はおおよそ、こんなことを語ります。
 ルーヴル美術館は、歴代フランス王の王宮(ルーヴル宮殿)でしたが、王宮がヴェルサイユ宮殿へ移って後、王室美術品コレクションの収蔵展示場所となった。
 そしてフランス革命後、フランスが有する優れた美術品を展示する美術館として1793年に開館。
 その後、ナポレオン一世によって所蔵点数は一気に増え、そして王政復古、フランス第二帝政時代、フランス第三共和政を経て収蔵点数はさらに増加。
 映画は、これら美術館の遍歴をたどりながら、第二次世界大戦の「直前」に至ります。

3-0_20180910133439c43.jpg 当時この時のルーヴル美術館館長がジャック・ジョジャール。
 彼は自身を役人だと言います。(フランス国立美術館総局副局長)
 第二次世界大戦中の、フランス第三共和政の終末期に、そしてドイツのパリ侵攻を避けフランス南部に構えたヴィシー政権に仕え、目まぐるしい時代を館長として役目を毅然として果たします。(このヴィシー政権はドイツとイタリアに対し休戦を申し入れます。つまりナチスドイツに屈しナチスに寄り添った政権)

 さて大戦の直前、彼は時をみて、「モナ・リザ」など最も重要な絵画多数をシャンボール城へ避難させ、大戦勃発後、「サモトラケのニケ」などこれも最も重要な彫像群をヴァランセ城へ移送しました。
 こうして主要な美術品の大方が ルーヴル美術館を去った後、ナチスドイツの美術品保護の責任者で高官の、メッテルニヒ伯爵がルーヴルに来館します。
 メッテルニヒの任務は、ルーヴル美術館からの略奪でした。所蔵品の中からナチスが欲する作品を選び出し、ナチスの美術館に移送するためでした、が・・。

 ここら辺を含め、観てのお楽しみ。
 ルーヴル美術館館長とナチス高官のこの二人、事実は奇なりであります。
 そして映画の最後のほうで分かるのですが、ジャック・ジョジャールは密かにパルチザンと通じていたそうです。(ヴィシー政権下で館長として仕えたジャック・ジョジャールは戦後、戦犯として裁かれることになりますが、パルチザンであったことが判明し裁かれずに済みました)

 以上をお読みになって、お勉強的な映画に思われるかもしれませんが、さにあらず、最後まできっちり観せます。

                 

 ルーヴル美術館そのものに関心を持たれた方は、下記からルーヴル美術館公式サイト日本語版を見てください。
 https://www.louvre.fr/jp
 このリンク先の上部に、「作品と宮殿」というのがあります。これをクリックし、さらに「ルーヴルの歴史」をクリックすると、美術館のこれまでが分かります。本作「フランコフォニア ルーヴルの記憶」の一番の参考資料になると思います。

 また、ルーヴル美術館の収蔵品の避難大作戦や、ジャック・ジョジャールとメッテルニヒ伯爵について焦点をあてたドキュメンタリーに、NHK BS世界のドキュメンタリー枠で放映された「ルーブル美術館を救った男」(フランス2014年制作)があります。これもなかなか面白いものです。
5 それにしても、長く続くかと思われたドイツのフランス制圧はたった4年で終わります。

 ちなみにヒトラー個人は、ルーヴル美術館やその収蔵品よりも、音楽に関心があったようです。
 フランス・ドイツの休戦開始の1940年6月23日午前0時。その日、ヒトラーは極秘でパリを視察します。
 彼が真っ先に訪れたのはオペラ座でした。オペラ座の中まで入り熱心に見学したそうです。(「国家と音楽家」中川右介著)

オリジナルタイトル:Francofonia
監督とナレーション:アレクサンドル・ソクーロフ|フランス・ドイツ・オランダ|2015年|88分|
撮影:ブリュノ・デルボネル|
出演:ジャック・ジョジャール(ルーヴル美術館長)/ルイ=ド・ドゥ・ランクザン|ヴォルフ・メッテルニヒ伯爵/ベンヤミン・ウッツェラート|ナポレオン1世/ヴィンセント・ネメス|マリアンヌ(フランス共和国の象徴)/ジョアンナ・コータルス・アルテ|アレクサンドル/アレクサンドル・ソクーロフ|

【 アレクサンドル・ソクーロフ監督の映画 】
 これまでに記事にした、アレクサンドル・ソクーロフ監督の作品です。
 画像をクリックしてお付き合い下さい。

写真
「孤独な声」
写真
「日陽はしづかに発酵し・・」
写真
「セカンド・サークル」
写真
「エルミタージュ幻想」
写真
「マリア」


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アニメ「話の話」  監督:ユーリー・ノルシュテイン


0_2018090516214582d.jpg
「話の話」は、4つのキャラクターデザインで話が構成されています。
 「話の話」は、物語の先へ先へと、急いでいるかのように語って行く流行のアニメとは、まったく違うスタンスです。そして、ザワザワした環境で観ないほうがいいです。

 例えば一枚の絵画をみて、その絵は何を語ってるのか、何が描かれているのか、絵の向こうで何が起ころうとしているのか、そういう「何」に正解はない、絵の横の説明パネルや展示会パンフレットを読むんじゃなく、まずその場でどう感じるかが、大切なのと同じで、「話の話」が語る物語の「何」に正解は無い。(と思う)

 それに、そもそも「話の話」は観てれば、どの国の人でもだいたい分かる。
 その、だいたいがだいたいとして素直に受け入れられないとなると、きっと正解があるんじゃないかと、解説を求めようとするのかもしれない。

 「話の話」を含むユーリー・ノルシュテインの作品群が次から総覧で覗けます。 
 ユーリー・ノルシュテイン監督特集「アニメーションの神様、その美しき世界」の予告編です。
 http://www.imagica-bs.com/norshteyn/
 最初に聴こえてくるアコーディオンの音楽は「話の話」で使われています。これもいいですね。

 この「話の話」を、ユーリー・ノルシュテインのアニメーションを初めて観たのは、確か、深夜の中央線沿線だった。
 仕事を終え、新宿の店で友人と何だったか、やけに意気投合、しこたま飲んで、終電が過ぎ、タクシーで東中野の彼のアパートへ行った。
 その部屋で、互いに目が冴えてしまい、友人は「これ知ってる?観る?」と言いながら、棚から取り出したのが「話の話」のレーザーディスクだった。
 ほどよい?酔いと深夜の静けさの中で観た、ユーリー・ノルシュテインのアニメは、詩的、幻想的で、ゆったりした奥行きと包容力ある世界が広がっていて、あまりに素晴らしく、すぐさま脳裏に焼き付いて、そののち爆睡した。
 その後、ずっとそのままだったが、何時だったかTV放映されたのを運よく録画し、今回改めて観たのです。
 今回観た印象は、その昔と変わらなかった。やはりいい。

オリジナルタイトル:Skazka skazok
監督:ユーリー・ノルシュテイン|ソ連|1979年|29分|
脚本:L・ペトルシェフスカヤ、ユーリー・ノルシュテイン|アニメーション:ユーリー・ノルシュテイン|撮影:I・スキダン=ボーシン|美術:F・ヤールブソワ|編集:N・アブラモバ|作曲:M・メエロビッチ|

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映画「10話」  監督:アッバス・キアロスタミ

上
アミンと母親


 この映画は、イランの首都テヘランに住む女性たちを登場させ、女性ならではの諸問題を、リアルに時にコミカルに描き出そうとする、素晴らしい作品です。
 特徴は、ドキュメンタリー風な、さらりとした描写と、斬新な映像表現です。
 特に、映画のすべてのシーンは、主人公が運転する自動車車内に限られ、かつ助手席に座る人との会話シーンだけで話は終始します。

【 登場人物と10の話 】 
 映画は、題名「10話」が示す通り、10章から成り立っています。

 主人公は、自家用車を運転する女性※。(※役名が無いので、演じている女優名マニア・アクバリを代用します)
 マニア・アクバリは全ての章で、運転席に座り、ドライバーを演じます。
 そのほかの登場人物は、この車の助手席に同乗する人々です。

0-1 その人たちとは、マニア・アクバリの息子アミン(小学生)、マニア・アクバリの妹、老女(敬虔なイスラム教徒)、売春婦(夜、客の車と間違えて乗車した女)、たまたまマニア・アクバリに拾われた女性(昔、信者ではなかった女)といった人たちです。(この5人はそれぞれの章に割り当てられ、一人で登場します)

 このうち映画は、マニア・アクバリの息子アミンのために、10章のうち4つの章を割いています。
 母親マニア・アクバリは、離婚して さほど時を経っていない様子です。
 今、息子アミンは母親の元で生活していますが、アミンの心は母親と父親の間を揺れ動いています。シーンの様子では、どうやらアミンは、父親の元に居たいらしいです。
 アミンは、運転する母親の隣りで、チョット大人びた物言いで母親を批判しながらも、母親にすねて、わめき、押し黙り、またわめきます。
 案外、的を得たアミンの物言いに、母親は真っ向から発言します。そして、ついにアミンはプイッと車を降りてしまいます。いつもこの繰り返しです。
 そしてアミンは父親の所へ泊まりに行くのですが、結局 最終章で母親の元に戻ってきます。
 こんな様子がとてもリアルです。それもそのはず、アミンはマニア・アクバリの実のお子さん。(離婚も実話でしょうね。この母子には申し訳ないが結構、可笑しいシーンです)

0-2.jpg 以上4つのアミンの章は、10章中に分散配置され、そのほかの章には、アミンに代わって助手席に座る大人の女性たち4人が交互に登場します。
 つまり、マニア・アクバリの妹と、たまたまマニア・アクバリに拾われた女性(それぞれ2つの章を割く)そして老女と売春婦です。
 映画はここで、マニア・アクバリと同乗女性との、ごく日常的な会話を通して、男女間の身近な難題や、宗教に関わる問題を語ります。(さらにはイランの現状をも考えさせます)

 これらの登場人物の演技は、マニア・アクバリと実の子アミンの「実際」と比べれば、演技なのですが、すべて素人俳優だそうです。そして台本は無く、全部アドリブだとか。よってセリフはごく自然で、ドキュメンタリー映画っぽく感じます。

 そしてマニア・アクバリの車は、登場人物を乗せテヘランの街中を走ります。
 登場人物の背後の、車窓から見える風景は、いろんな店やモスクやビル、行き交う車、それを縫って横断する人、舗道を行く人、クラクション、高速道路など、どれも今のテヘラン風景です。
 車窓からの風、街の匂いも感じ取れ、観客はテヘランにいる感じがしてきます。

【 斬新な映像表現 】
 映画を観ていて、一番に印象的なのは、カメラアングルです。

 撮影カメラは、運転席のマニア・アクバリだけを写すカメラ1台と、助手席だけ写す1台の、計2台のカメラだけで撮影されています。
 かつ、このカメラは、ボンネット上に据え付けられ、アングルが固定されています。
 つまり、全シーンにおいて、この2種類のアングルだけなのです。

 映画は、こうした2つの映像を、交互に淡々と見せることで、観客の気を、車内の会話に集中させようとします。
 一方でその淡々さは、車窓からの流れる風景、これに観客の目を向けさせようとします。
 ともすれば閉塞感を感じる車内映像ですが、車外が見えることで、広がり感解放感や街の生き生きとした様を、映像に呼び込むことができています。

 ちなみに可笑しいのは、アングル固定ですから、子供のアミンはいつも胸から上が映るのですが、大人は鼻から下しか映らないことも多い。これ結構、映画のお作法を逸脱していて、やってくれましたという感じがします。

オリジナルタイトル:Ten
監督・脚本・撮影:アッバス・キアロスタミ|フランス、イラン|2002年|94分|
出演:マニア・アクバリ|アミン・マヘル|ほか

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映画「ミツバチのささやき」  スペイン映画   監督:ビクトル・エリセ

上


0_201809031256086c7.jpg 主人公の少女、アナの愛くるしさと、1940年の静かな田園風景に浸るのもいいだろう。
 これが物語の土台であり、いにしえの良きスペインを表わそうとしているのだから。

 そのうえで、セリフ僅かなこの映画は、いくつかのシーンでいくつかの話をしようとします。
 例えば、まだ若いアナの母親が手紙を書いています。(老いた夫とは歳の開きがある)
 彼女が抱く密かな愛と、変わりゆく世の中への絶望感を、行方不明の愛しい人宛てへ、届くか分からぬ手紙に託します。

 村に映画「フランケンシュタイン」の巡業が来ます。
 上映されるフランケンシュタインの映像は我々観客に、内戦に勝利したファシズム陣営のフランシスコ・フランコを暗示させているのかもしれません。

 その一方で、映画「フランケンシュタイン」の1シーンにある、フランケンシュタインと少女との優しい出会い。
 これを観たアナは怖いながらも、このシーンに魅かれて行きます。(このテーマが映画後半の軸となっていきます)
 そしてある日、反ファシズム陣営に属す一人の男が、走る列車から飛び降り、この村の、畑の中の一軒家の廃屋に身を隠しました。
 巡業の映画を観てからというもの、この廃屋は、アナと姉のイザベルの姉妹にとって、フランケンシュタインのような姿の精霊の棲み家でありました。そして男とアナが出会うのでした。それからは・・。

 一番まっとうな予告編をあげておきます。(El espíritu de la colmena - Duch Roju - 1973 - trailer)
 https://www.youtube.com/watch?v=wR_mjiLGZkc

 「ミツバチのささやき」は、言葉少なに、映像で物語を語ろうとしています。
 よって一枚の絵画を見るように、静かにじっくり観てください。

 本作と同様の、静かな映画60作品を、「静かな映画 洋画編」で取り上げています。
  こちらから、見てみてください。
 本作のビクトル・エリセ監督の1983年作品「エル・スール」は既に記事にしました。
  こちらからお読みください。

オリジナルタイトル:El Espiritu de la Colmena
監督:ビクトル・エリセ|スペイン|1973年|99分|
原案:ビクトル・エリセ|脚本:アンヘル・フェルナンデス・サントス 、 ビクトル・エリセ|撮影:ルイス・カドラード|
出演:アナ(アナ・トレント)|姉イサベル(イサベル・テリェリア)|父親フェルナンド(フェルナンド・フェルナン・ゴメス)|母親テレサ(テレサ・ヒンペラ)|アナの家の家政婦ミラグロス(ケティ・デ・ラ・カマラ)|治安警察官(エスタニス・ゴンサレス)|精霊のフランケンシュタイン(ホセ・ビリャサンテ)|逃亡の男(ジュアン・マルガロ)|アナが通う学校の教師ドナ・ルシア(ラリー・ソルデビラ)|医者(ミゲル・ピカソ)|

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ポピュラー音楽!!  クラシック音楽





映画「歌っているのはだれ?」 ユーゴスラビア映画   監督:スロボダン・シャン

上
ロマ音楽の辻芸人と、おんぼろバス。

男は歌を歌いアコーディオンを弾く。子供はサイドボーカルとマウスハープを担当。
映画冒頭や各章の頭に登場し、シーンに沿った歌詞を歌い、本作の狂言回しを担う。
バスの乗客でもある。

【バスに乗った、そのほかの10人】
 映画はこれらの人物を登場させて、当時のユーゴスラビア王国セルビア地方の多様性と運命を描くのです。

写真
バスのオーナーで車掌
乗客に対し高圧的。
子豚を数頭、バスに乗せベオグ
ラードの市場で売る。バス商売
より豚売買の方が儲かるらしい
写真
バスの運転手
左の男の息子。ちと頭がポン。
目隠し運転をしてみせる。
河岸で王国軍にリクルートされ
意気揚々とバスを離れる。
写真
第一次世界大戦の元兵士
息子に会いに行くらしい頑固、
短気で古風な老人。
財布に金をたんまり持っている
が財布を落とす。
写真
ドイツびいきの紳士
ナチス信奉かは不明だが周囲の
人間を見下している。河に落ち
流されるが誰も助けない。のち
に下流岸に泳ぎ着き皆に加わる。
写真
田舎の猟師
乗客中、一番の喜劇を演じる役。
荒野の中、バス停でない理由で
乗せてもらえなかったり、猟銃
暴発で下車させられたりの男。
写真
肺結核の男
咳が多くハンカチを手放さない
乗客中一番に影が薄い男。
無口な弱者の代表か。
  
写真
駆け出しの歌手
オーディションのためオグラー
ドへ行く。女好きで色男ぶる。
花嫁に露骨にアプローチする。
  
写真
途中乗車の新婚夫婦
式後、白いベールのまま乗り込
んでくる。バス停に向かって荒
野を走る姿はエミール・クスト
リッツァ監督の映画を思い出す。
写真
新婚夫婦に付き添う坊主
セルビア正教会の僧だろう。
セリフは無い。
当地の宗教を考えさせるトリガ
ー役か。


0_20180826084408e00.jpg その日、セルビアの田舎の始発バス停から、7人の人々が、首都ベオグラードへ向かう一台のバスに乗ったのでありました。(よって本作はロードムービーであります)
 時は1941年、映画の舞台はユーゴスラビア王国(1918年~1941年)のセルビア。

 バスの乗客の客層はさまざまで、互いに知り合いはいませんでした。
 また、バスは個人経営のおんぼろバス(木炭ガスを燃料にして走る木炭自動車)で、オグラードへの道筋は、荒涼としたむき出しの大地をのろのろと抜け、次に緑豊かな河岸を走り、そしてベオグラードに近づく所でやっと石畳の舗装道路を走るのでした。
 それは一泊二日の、夕食付のバスの旅。(木炭ガスを作るドラム缶の釜で焼いたステーキと、パンと生のニラの夕食でした)
 映画は、ゆったりとした喜劇を、のろのろ走るバスに乗せて、乗客それぞれの可笑しさを珍道中として描きます。

 しかし、時は第二次世界大戦(1939年~1945年)最中の、1941年4月5日。
 そして、翌日4月6日は、ドイツ、イタリアを中心とする枢軸国軍とユーゴスラビアとの間で行われた戦争(ユーゴスラビア侵攻)が始まります。
 旅の二日目(4月6日)、ベオグラードに近づくころ、バスは避難する一台の馬車とすれ違います。
 その後、バスは何事もなくベオグラードに到着しましたが、その直後、街は激しい空襲を受けます。
 不幸にもバスは銃撃を受け、横転し激しく炎上してしまいます。
 それでも辛うじてロマ音楽の辻芸人2人が這い出してきましたが、ほかはたぶん全員焼死。
 バスの誰もが、セルビアの誰もが、このユーゴスラビア侵攻など思いもよらないことでありました。

 ロマの歌う辻音楽は、こちらから聴けます。
 https://www.youtube.com/watch?v=-CoL3VzunAc

 このふたりは唯一の生存者でありましたが、バス車中で乗客から差別的な扱いを受けました。
 それは第一次世界大戦の元兵士が財布を失くしたのですが、このふたりが盗んだ掏ったと暴行を受けます。
 ですが財布はバス昇降口の地面に落ちていました。これを拾ったのは、猟師でした。

オリジナルタイトル:Ko to Tamopeva|Who's Singin' Over There?|
監督:スロボダン・シャン|ユーゴスラビア|1980年|87分|
脚本:ドゥシャン・コバチェビッチ|撮影:ボジダル・ニコリッチ|音楽:ボイスラブ・コスティッチ|
出演:バスのオーナー(Pavle Vuisić)|駆け出しの歌手(Dragan Nikolić)|ドイツびいきの紳士(Danilo Stojković)|バス運転手(Aleksandar Berček)|花嫁(Neda Arnerić)|第一次世界大戦の元兵士(Mića Tomić)|田舎の猟師(Taško Načić)|結核おじさん(Boro Stjepanović)|花婿(Slavko Štimac)|ほか


下
















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ポピュラー音楽!!  クラシック音楽

映画「ソナチネ」(1984) カナダ映画   監督:ミシュリーヌ・ランクト

上2
地下鉄の座席に座るルイゼットとシャンタル。
2人の後ろに見える手作りボードには、「誰かが止めない限り、私達は死にます」と書いてある。
<カナダ、モントリオールの地下鉄車内にて>



 高校生の女の子ふたりの心情を、詩情あふれる映像に乗せて描く映画です。
 そのふたりとは、シャンタルとルイゼット。

0_20180821235424fce.jpg 映画は、まず、シャンタルのことから語り始めます。
 雨上がりの夜、赤いテールライトを、濡れた道路に映して走る路線バス。
 わずかな乗客、ガランとした車内にシャンタルがヘッドホーンで音楽を聴きながら座っている。
 そのバスは、いつもの時刻の通い慣れたバスだから、シャンタルは馴染みになった運転手の男と会話を少し。
 それは、ほんのわずかなことだが、思いのほか、孤独なシャンタルの心を慰めた。
 男は穏やかそうな中年の運転手だが、運転中に時々、ポケット瓶のウィスキーを飲む、いささかヤンチャな男。

 ルイゼットは、夜の港に停泊中の外国航路の船に忍び込んだ。密航しようとしている。
 だが、ひとりの船員に見つかってしまう。
 外国人の彼は、だんまりのルイゼットに何やら話すが話が通じない。(ちなみに本作はカナダの仏語圏の映画)
 しかし、互いにたどたどしい会話が進む中で、ルイゼットはこの中年の船員の、何とも言えぬ優しい包容力に触れる。
 結局、彼に促されルイゼットは下船。港には、潮風と夜のしじまを突いて、どこかの船の汽笛が響き渡っていた。


2-0_2018082208025001e.jpg シャンタル、ルイゼットは共に、ヘッドホーンを欠かさない女の子。
 それは、音楽好きというよりも、自身のまわりの現実を遮断するかのよう。
 その一方で、「自身のまわりの現実」以外(つまりアウトサイダー)から差し伸べられる、いわば救いの手を、彼女たちは待ち望んでいる。そして「ここではない何処かへ」を望むかのよう。映画はそう語る。

 さて、映画はここにエピソードとして、モントリオールのバス地下鉄乗務員のストライキを盛り込んでくる。
 そのことによる影響のひとつ。
 シャンタルと馴染みの運転手はストライキに加わらず、結果、シャンタルの前から姿を消した。シャンタルの、なんとか保っていた心の安定が崩れ始める。
 ストライキによる影響のもうひとつ。
 地下鉄ストライキの突入は、映画ラストで、シャンタルとルイゼットの運命に斧を振り下ろすことになるのでした。

 繊細な映画なので、取扱注意です。
 

オリジナルタイトル:Sonatine
監督・脚本:ミシュリーヌ・ランクト|カナダ|1984年|91分|
撮影:ギイ・デュフォー|
出演:シャンタル(パスカル・ブスィエール)|ルイゼット(マルシア・ピロト)|バス運転手(ピエール・フォトー)|船員(クリメント・デンチェヴ)|バス運転手の妻(ポウリーヌ・ラポワント)|ルイゼットの両親(ピエール・ジャール、テレーズ・モランジュ)|ほか

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映画「譜めくりの女」   監督:ドゥニ・デルクール

下
譜めくりの女メラニーと、ピアニストのアリアーヌ   (デボラ・フランソワ、カトリーヌ・フロ)


 女が女に、10年経って仕掛け始めた復讐。ドラマは、じわじわ進む。

1-0_2018081410432895a.jpg 10年ほど前、2人は、ピアノコンクールに参加した「少女」と、大勢を審査する審査員の筆頭、「著名ピアニスト」というかたちで出会った。
 その時、著名ピアニストのアリアーヌが犯した罪は、少女メラニーの演奏中に、その演奏を真摯に聴こうとしなかったこと。(審査中にも関わらず審査室に、付き人がアリアーヌのブロマイドを持って入って来て、それにアリアーヌはファンから頼まれたサインをした)
 それを見てしまったメラニーは演奏を中断してしまう。集中力と緊張の糸が切れてしまった。幼いながらも音楽家としての自尊心を傷つけられた。
 しかし、アリアーヌはまったくの無意識であり、なぜメラニーが演奏を中断したのかの疑問もなく、ましてや自身が加害者であることを微塵にも思いよることはなかった。
 よって、アリアーヌはメラニー個人を認識することはなく、このことはその後、忘却の彼方に消えていった。
 しかし、精肉店の娘メラニーはコンクールに向けて、どれだけ懸命であったことか。メラニーの落胆は激しかった。この日をもってメラニーは自宅の小さなアップライト・ピアノに鍵をかけ、ピアニストへの道を封印してしまった。
 これが、復讐の起点であった。

2-0_201808141048106c2.jpg そして10年後、メラニーは就職できる歳になった。
 アリアーヌは今もピアニストだが、ある時、交通事故が発端で精神的に病み始め、一時引退したのち、最近復帰したてであった。
 精神的な病みとは不安症、安心できる付き添いがないと落ち着かない。これがメラニーとアリアーヌをふたたび出合わせた。

3-0_20180814105533635.jpg メラニーは、アリアーヌが夫と共に過ごすバカンスの間、住み込みで、その息子のお守り役(兼家政婦)として雇われた。(アリアーヌの住む家は貴族の館の豪邸だ)
 その後アリアーヌは、言葉にうまく表現できないが、何とも言えぬ相性の良さをメラニーに感じ始める。
 何が好感を誘うのか、それはメラニーのキリリとした清楚な風貌と、仕事を任せられるしっかりした安定感。これがアリアーヌの心のよりどころとなりはじめる。
 そんな折、アリアーヌはメラニーが譜面を読めることを知り、(館に住み込みで)練習時も含め、専属の「譜めくり」になってくれと頼んだ。(譜めくりは演奏家との相性があり、それ如何によって演奏の出来が変わってしまうらしい)
 これを聞いてメラニーは、心の奥底で、ほくそ笑む!
 ここへ至るために、メラニーが計画的に行動してきたことは、アリアーヌの夫が営む著名法律事務所に一般事務として就職し、アリアーヌの夫から信頼を得る働きをしてきたのであった。その結果、息子のお守り役となれたのだった。
 

4-0_20180814110435935.jpg いわゆるサスペンス的緊張感は薄いが、この映画の売りは、別なテイストで引き込まれていくところ。
 それは、メラニーの際立つ清楚さと時に見せる優しさ、その一方で、終始保つ無表情と復讐へのゆるがぬ意志。この混在が観る者を惑わせる。
 かつ映画のその語り口が、復讐の手法を、話が進む前に明かしている様でいて、そうでもないところ。
 さらには、ふたりの女の間に生まれる「信頼と愛」をていねいに描いていく。
 だから観る者は、ドラマが進むにつれ、一体どうするんだ?、復讐するの?と、いろいろ想像させられる。エンターテインメント!


 結局、その信頼と愛こそが、実は復讐の武器だった。
 メラニーは信頼を得るように振る舞い、その先で想定外だったが、アリアーヌのメラニーに対する愛の芽生えに出会い、これも利用する。
 そしてアリアーヌへの復讐のため、アリアーヌの夫もその息子も、そしてアリアーヌが属すピアノトリオのチェリストの男も利用され、みな犠牲となる。 
 陰湿と言えば陰湿だが、観ればわかるが意外とあっさりしている。エンターテインメント!
 その、あっさりさは、メラニー演ずる女優、デボラ・フランソワの起用によるのかもしれない。
 あとは観てのお楽しみ。

オリジナルタイトル:La Tourneuse De Pages
監督・脚本:ドゥニ・デルクール|フランス|2006年|85分|
撮影:ジェローム・ペイルブリュンヌ|
5-0_201808141108209b3.jpg出演:メラニー・プルヴォスト(デボラ・フランソワ)|アリアーヌ・フシェクール(カトリーヌ・フロ)|その夫ジャン・フシェクール(パスカル・グレゴリー)|トリオのバイオリニストの女性ヴィルジニー(クロティルド・モレ)|チェリストの男性ローラン(グザヴィエ・ドゥ・ギユボン)|メラニーの一人息子トリスタン・フシェクール(アントワーヌ・マルティンシウ)|メラニーの父(ジャック・ボナフェ)|メラニーの母(クリスティーヌ・シティ)|メラニーの少女時代(ジュリー・リシャレ)|ほか

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映画「リフ・ラフ」   監督:ケン・ローチ

上
スーザンとスティーヴ


1-0_20180810110304e21.jpg 題名の「リフ・ラフ」とは、「くずのようなヤツ」「ろくでなし」という意味で、底辺生活者を見くだし、さげすむ言葉。
 話は、工事現場でわずかな稼ぎを得る男と、歌の下手な歌手希望の女との、リフ・ラフな愛の物語。

 舞台はロンドン。
 主たるシーンのひとつは、古風な病院ビルを、超高級マンションに再生しようとする工事現場。(マンションのモデルルーム訪問客は運転手付きリムジンで乗りつけたアラブの富豪。工事現場の人間たちとはあまりに済む世界が違う)

 リフ・ラフな連中の仕事は、窓枠の取り外し、配管など病院設備の撤去という単純な力作業だ。
 彼らは、実にリフ・ラフでいい加減な働きだが、陽気。アフリカからの出稼ぎもいる。
 その中で、スティーヴという男は寡黙で真面目。これが主人公。以前、刑務所に入っていたらしい。ゆくゆくは店を持ちたい。
 スティーヴはこの現場で女物のバッグを見つけ、これが縁で持ち主のスーザンと出会うことになる。

 映画は恋愛話を進める一方で、この工事現場のシーンに重きを置く。リフ・ラフな労働者の墜落事故死を含め、結構ドキュメンタリー的な意味合いが強い。
 その様子は、工事下請け会社は現場の安全や雇用を配慮しないし、現場監督は終始彼らを見下し、その作業指示は誠にいい加減。

2-0_20180810110306314.jpg さて、二つ目の主たるシーンは、スティーヴが住む、といっても、不法に立ち入って勝手に住むアパートの空き室。家具など無い。
 スティーヴはここにスーザンを呼んでふたりの生活が始まる。
 スーザンはそれまで殺風景だった部屋をきれいに飾った。それは貧しいながらも幸せな毎日であった。
 ところが、スーザンは歌手への道が開けず精神的に追い詰められ、アパートにたむろする連中からヤクを買う。
 これを知ったスティーヴはスーザンに改心させようとするが受け入れられず別れる。スティーヴはかつて兄がヤクで人生と健康をふいにしたことを知っていた。

 話の顛末とラストシーンは観てのお楽しみですが、起承転結の結が尻切れトンボに感じるかも知れないが、これは手法。小説や漫画の物語や、音楽にもある表現方法。
 それと、英語が苦手な私には、下記のETC英会話の『映画「リフ・ラフ」でイギリス英語』の記述が気に入りました。
 http://aoki.com/etc/recommend/post_11953.html
 これによると、主人公スティーヴの話す英語はスコットランド英語やリバプール英語、そしてロンドン下町英語らしい。(映画はその違いを物語のメッセージとして送って来るのですが、字幕じゃ分からない)
 また当時のイギリスの事情も分かるんで、物語の理解に厚みができるかもしれない。

下
オリジナルタイトル:Riff Raff
監督:ケン・ローチ|イギリス|1991年|94分|
脚本:ビル・ジェシー|撮影:バリー・アクロイド|
出演:スティーヴ(ロバート・カーライル)|スーザン(エマー・マッコート)|コジョ(リチャード・ベルグレイヴ)|ラリー(リッキー・トムリンソン)|ジェイク(ピーター・マラン)|ほか

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映画「雨上がりの駅で」  監督:ピーター・デルモンテ

上












 ローマに住む、人よりとても多感な女の子コラが、ある老人の気ままな外出(認知症による徘徊)を見守ることになり、これが2人の小旅行となったロードムービーな、お話。

 老人の名は、コジモ(ミシェル・ピコリ)といって元大学教授。とても真面目で無口な人。
 19歳のコラ(アーシア・アルジェント)は、以前からコジモの娘のアダ夫人に雇われて、犬の散歩のアルバイトをしていたが、ある日夫人から「父コジモの外出に付いて行って、そっと後ろから見守ってくれ」と頼まれ、携帯電話を渡された。(アダ夫妻は共稼ぎで父の面倒が見切れない)

 コラは夜は大きなバーでバイトをしていたが、多分バイト料がバーより良かったんだろう、次第にコラはアダ夫人からのバイトに専念しだし、ローマの街を歩き回るコジモ老人の後を追うことが日課となっていった。

1-0_201807252021574f8.jpg そんなある日の朝、コジモ老人は駅に向かい切符を買い列車に乗った。慌てたコラは無賃乗車。(手元に金がない)
 ここから、コラとコジモ老人との、付かず離れずの道中が始まる。
 コジモ老人は途中駅で列車を乗り換えローカル線へと進む。コラはアダ夫人へ携帯電話で連絡をとりつつ後を追う。
 今度は列車を降りて歩き出す。ホテルに宿泊するかと思ったら、その夜に出て行ってしまう。コラは振り回される。 

2-0_20180725202344ceb.jpg コジモ老人はある目的を持って行き先を決めているようだが、何かのタイミングでそれを忘れてしまい、また別の行動をとる。
 時をみてコラは無口な老人に少し話しかけ始めるが、老人はコラを忘れてしまう。
 それでも少しずつ、2人の間にあうんとでも言うべき意が通じ合い、そろって歩き始めるのだった。

 映画は老人とコラを対象的に描く。
 認知症のこの老人は、常識を逸脱はするが、何物にもとらわれない自由人。
 一方のコラは世間との関係を煩わしく思い、周りとの関係をぎすぎすさせている女の子。傷つきたくないと自分の心に厚いガードをかけている。
 だがコラは次第に、ほんの少しだがコジモ老人が発するオーラとでもいうべきものに影響されてか、心が穏やかになっていくようでありました。
 
 エピソードには、コラの突発的な入水自殺(未遂)や、何かの精神的ダメージから立ち直ろうとする田舎住まいのコラの兄(兄もコジモ老人に会い彼を見捨てておけなくなる)、それとアダ夫人の夫の浮気、この3つの話題が挿入されています。
 これまでに何回か観てますが、今回も最後まで観てしまいました。そういう映画です。

オリジナルタイトル:Compagna di Viaggio
監督:ピーター・デルモンテ|イタリア|1996年|104分|
原案:ピーター・デルモンテ、マリオ・フルツナート|脚本:ピーター・デルモンテ、グローリア・マラテスタ、クラウディア・スバリジャ|撮影:ジュゼッペ・ランチ|
出演:コラ(アーシア・アルジェント)|コジモ老人(ミシェル・ピッコリ)|アダ夫人(シルヴィア・コーエン)|ほか

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映画「アメリカン・ビューティー」  監督:サム・メンデス

上2
バーナム一家の朝の出勤通学。高校生の娘ジェーン、父親バーナム、母親キャロリン。


 アメリカの中流の人々の不幸せと、わずかな希望を描く映画。
 高校生の一人娘がいるバーナム家の家庭内不和を題材に、娘の女友達アンジェラと、バーナム家の隣に越して来た、さらに家族バラバラの一家とが、引き金になって始まる「愛と悲劇」を、喜劇風に描きます。

1-0_20180720135558bc5.jpg 主人公は、高校生の娘がいる中年夫婦の夫、レスター・バーナム。
 このレスターのモノローグで映画は始まる。

 僕はレスター、今年42歳。1年経たぬうちに僕は死ぬ。
 だが、今はそんなことを知らない。
 しかし、ある意味で僕はもう死んでいた。見てくれ、僕は朝からバスルームで(息子を)シゴいてる。これが一日で最高の時、あとは地獄へ一直線だ。
 庭でバラの花を切っている、あれが妻のキャロリン。彼女を見てるだけで疲れてくる。昔は幸せな夫婦だった
 これが一人娘のジェーン。典型的なティーンエージャー(高校生)。怒りに満ち情緒的不安と混乱の青春。(親と口をきかない)
 2人とも僕を人生の敗残者だと思っている。
 それは正しい。僕は何かを失った。何を?と聞かれると困るが、昔はこんなじゃなかった。
 とにかく、この脱力感から抜け出せないでいる。しかし今からでも元に戻れる・・。

2-0_20180720141847b86.jpg 家庭内不和がマンネリ化している、言い換えればそれぞれの不幸が均衡状態にあるバーナム家に、次々に出来事が起こる。

 レスターがクビになる。人員整理だ。開き直ったレスターは、幹部の不倫スキャンダルなどを盾に会社からまとまった金を手にした。
 同時進行で、レスターは娘の女友達アンジェラに一目惚れ。これを激しく嫌がる娘のジェーン。しかし、当のアンジェラはそうでもない。
 レスターの妻キャロリンは、勤め先の不動産販売の競合会社社長バディと恋仲に。バディは妻と離婚訴訟中。
 このふたりのデートの現場に、偶然にレスターは遭遇する。レスターがバイトを始めたハンバーガーショップ(ドライブイン店)に客としてきたのだった。


3-0_2018072014314654e.jpg 隣家に越して来たフィッツ家の主は、元海兵大佐の硬派。息子を愛するあまり虐待をしてきた。
 この息子のリッキーはジェーンを盗撮している。彼はジェーンやアンジェラが通う同じ高校の高校生。そして裏で麻薬・マリファナの売人をして稼いでいる。
 アンジェラは変人リッキーを毛嫌いするが、ジェーンはそうでもない。
 レスターは、リッキーが提供した最高級のマリファナが縁でお友達となった。

 この一見散らかったエピソードが徐々に一点に収束し始める。
 その一点を作ったのがフィッツ大佐だった。
 我が息子リッキーが、レスターの家でレスターと和んでいるのを窓越しに盗み見したフィッツ大佐は、ふたりがゲイの関係だと勘違いしてしまった。
 そこまではそれでよかった。がしかし、フィッツ大佐は長年隠し通して来た、その一線を越えてしまう。
 雨降る夜、フィッツ大佐はガレージにいるレスターにやおら近づき、不意にキスをした。驚くレスター。
 フィッツ大佐も驚きを隠せずに家に戻った。(レスターはゲイじゃなかった)
 そしてフィッツ大佐は自身の秘密を消すべく、即、行動に出た・・。

 銃声を聞いたレスターの妻キャロリンが駆け付けた。不倫をしてしまったキャロリンは悔いて、家に戻れず家の前に駐車した車の中にいたのだった。
 同時にジェーンとリッキーが駆け付けた。ふたりはジェーンの部屋にいた。この夜、ふたりは駆け落ちを決めていたのだった。

オリジナルタイトル:American Beauty
監督:サム・メンデス|アメリカ|1999年|122分|
脚本:アラン・ポール|撮影:コンラッド・L・ホール|
出演:レスター(ケヴィン・スペイシー)|その妻キャロリン(アネット・ベニング )|娘ジェーン(ゾーラ・バーチ)|娘の友達アンジェラ(ミーナ・スヴァーリ)| 隣りに越して来たフィッツ大佐(クリス・クーパー)|その息子リッキー(ウェス・ベントリー)|不動産会社社長バディ(ピーター・ギャラガー)|ほか

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映画「幸福(しあわせ)」   監督:アニエス・ヴァルダ

上2










 夫婦の幸せ、我が子がいる幸せ、そして、めぐりあわせが良い幸せを描く映画です。
 
 万が一、不幸に見舞われても、その悲しみの深みに沈みこまぬうちに、新たな幸せが向こうからやって来るという運の人がいる。
 言い換えれば、悲痛に生きる人がいる一方で、楽しくうまく生きる人がいる、そんな人の明るい幸せを描いていきます。
 あわせて、相手の幸せを壊さない寛大な心の持ちようが話をつなぎます。

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 フランソワとテレーズの若夫婦には可愛い子がふたりいる。
 町の木工所に務めるフランソワ、自宅でドレス縫製の注文を受けるテレーズ。
 豊かではないが何の不自由もない、絵に描いたような、幸せな家庭。

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 そんななのに、フランソワはエミリーと出会い、この2人は一瞬にして互いに一目惚れ、デートを重ねる。
 この愛人エミリーを前にしてフランソワは、愛妻テレーズとの幸せを語り、エミリーはそれを恨まず離婚してとも言わず、フランソワの家庭の今の幸せを十分承知している。



3-0_20180715142348044.jpg そんなある日、フランソワとテレーズは我が子を連れて、大きな池のある緑地にピクニックに出かけた。
 そこでフランソワは、愛人の事を打ち明けた。
 フランソワは妻の反撃を身構えたが、意外にも、「あなたが幸せならそれでいい」と、テレーズは言った。安心した“幸せフランソワ”は、妻の膝枕でちょっと昼寝をした。
 しばらくして目覚めたフランソワは妻の姿がないのを知る。子たちを連れて緑地のあちこちを探すが妻を見つけられない。

 そして池から妻の水死体が上がる。自殺だろうか、映画は池の水面に垂れ下がる木の枝にしがみつこうとする溺れるテレーズの映像を一瞬みせる。事故かもしれない。

 葬儀が終り、フランソワは残された幼い娘・息子との寂しい生活が始まる。
 しかし、親戚がこの父子を温かく見守り助けてくれる。

 そんな折、フランソワは子供を連れてのピクニックに、エミリーを誘った。
 そしていつしかエミリーは、フランソワの家の、一つ屋根の下で妻として母として暮らし始めるのであった。

 この映画は、まるで何事もなかったかのように「幸福」を享受する“幸せフランソワ”についての、寓話なのかもしれない。

オリジナルタイトル:Le Bonheur
監督・脚本・台詞:アニエス・ヴァルダ|フランス|1964年|80分|
撮影:ジャン・ラビエ、クロード・ボーソレイユ|挿入音楽作曲:モーツァルト|
出演:フランソワ(ジャン=クロード・ドルオー)|その妻テレーズ(クレール・ドルオー)|息子ピエロ(オリヴィエ・ドルオー)|娘ジズー(サンドリーヌ・ドルオー)|愛人エミリー(マリー=フランス・ボワイエ)|ポール(ポール・ヴェキアリ)|ほか

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ポピュラー音楽!!  クラシック音楽

映画「軽蔑」(1963) 監督:ジャン=リュック・ゴダール

上
イタリアの南、カプリ島にあるプロコシュの別荘にて。
左から、米国人映画プロデューサーのプロコシュ(ジャック・パランス)、通訳兼秘書嬢、カミーユ(ブリジット・バルドー)、その夫・劇作家のポール(ミシェル・ピッコリ)、名映画監督フリッツ・ラング(本人役で出演)。

             

1-0_20180623104949979.jpg ある日突然に妻から軽蔑され始めた夫の話。
 夫は劇作家のポール(ミシェル・ピッコリ)、妻のカミーユ(ブリジット・バルドー)は元タイピスト。

 ポールが劇作家として売れない頃に、ポールはカミーユと出会ったのだろう、貧しいながらも楽しい生活であった。(と思われる)
 その後、劇作家として飯が食えるようになる。何部屋もある高級マンションを買った。
 カミーユ曰く、「ホテル住まいより、ずっと豪華なマンション」に移り住むことができた。
 しかし、マンション購入にあたって一部の支払いは済ませたものの、残り全額支払うためには、荒稼ぎが必要だった。

 そこへ舞い込んだ美味しい話にポールは乗った。
 それは、アメリカ人の映画プロデューサー、プロコシュ(ジャック・パランス)が手掛ける映画「オデュッセイア」の脚本を、一般受けするように手直しする案件。監督フリッツ・ラング(本人役)が書いた脚本が硬く、プロコシュは気に入らない。撮影は一部すでに始まっているにもかかわらず、だ。
 プロコシュに呼び出されて、ポールはカミーユを連れて撮影所へ出向いた。
 そしてポールは撮影所の試写室に入り、テスト撮影を観る。監督が書いた脚本も渡される。
 映画の脚本は初めてだし、プロコシュのワンマン振りもいかがなものかと思ったが、ポールはやると返事した。プロコシュはその場でポールにギャラの小切手を切った。

02-_2018062310510525b.jpg そう、この日から、カミーユのポールに対する態度が一変する。
 そういえば、撮影所でのミーティングが終わってのち、プロコシュが自宅にポール夫妻を誘ったとき、プロコシュは赤いスポーツカーにカミーユだけ乗せようとした。あの時、カミーユは、これでいいの?という視線をポールへ送ったが、ポールはプロコシュに、どうぞ、自分はタクシーで行くと行った。あれがカミーユの気に障ったか・・とポールはそう軽く思っていた。

 そんなことだから、妻から軽蔑され始めたという事にポールはまったく気づかない。
 その後何日経っても、ポールはカミーユの態度が一変したわけがわからない。ポールには、さしたる心当たりがない。カミーユの心模様を探ろうと、カミーユに何度もわけを聞いたが何も言わない、話を逸らす。夫婦の、男と女の、ボタンの掛け違いの果てしない無限ループが続く。

 そして夫婦のそんな事情は、映画プロデューサーのプロコシュの別荘に持ち込まれる。
 結局、ポールはプロコシュからの誘いを辞退し、別荘をひとりあとにする。
 一方、この先タイピストとして働くと言うカミーユは、プロコシュの車に同乗し・・。
 そして結果的に、映画監督フリッツ・ラングは自作の脚本で映画を撮り続ける。


 たぶん、カミーユには、ポールに対する思いに、以前から徐々に変化があったに違いない。
 その身近な変容に気付かなかったポール。妻へのいとおしみ、観察力が何か欠けていたポール。

 映画は、製作当時の西欧映画業界の斜陽と、資金力あるハリウッドとの対比を物語に埋め込んでいる。
 また、男の思う成功と、女の思う幸せも対比してみせているように思う。

オリジナルタイトル:Le mepris
監督:ジャン=リュック・ゴダール|フランス・イタリア|1963年|102分|
原作:アルベルト・モラビア|脚本:ジャン=リュック・ゴダール|撮影:ラウール・クタール|
出演:カミーユ(ブリジット・バルドー)|ポール(ミシェル・ピコリ)|映画プロデューサーのジェレミー・プロコシュ(ジャック・パランス)|通訳のフランチェスカ・ヴァニーニ(ジョルジア・モル)|映画監督、本人役(フリッツ・ラング)|撮影監督(ラウール・クタール)|ラングの助監督(ジャン=リュック・ゴダール)|

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映画「北京好日」  監督:ニン・イン

上

 現在進行形の(1992年当時の)、北京の街中の人々をドキュメンタリー風に活写する映画。
 登場人物はみな、京劇が三度の飯より好きなおじいちゃん達。
 塀沿いの通りの傍らに集まって、京胡(胡弓のような擦弦楽器)や太鼓、月琴など楽器を奏でる人達、代わるがわる自慢の喉を聴かせる人達。
 文革の世を生きてきたじいちゃん達はみな様々な労働者だったが、今は隠居の身。時間だけはある。

2-0_20180621140001726.png こんな一群に登場するのが主人公の韓(ハン)じいさん65歳。
 韓さんは京劇の劇場で長年、守衛をしてきた。
 とは言っても守衛・宿直業務以外に、劇場の事務方雑用や、出番前の(端役の)役者へ注意をしたり、舞台で虎のぬいぐるみに入ることもあった。つまり劇場と劇団の、陰ながらではあるが世話役といった立ち位置。そのすべてが韓さんの生きがいであった。
 そして定年。本人はまだまだ仕事を続けたいが、代わりの人も既に採用された。すなおに辞めるしかない。

 韓さんは独り住まい。連れ合いは先に逝った。否応なく定年後の日々が始まったが、さて、することがない。
 毎日出勤時間に家を出て、街をあてもなくうろつく。そしてある日、京劇好きな一群に出会った。

 韓さん、正直なところ、京劇の真似をして楽しむ事にさほど興味がわかない、それよりも、京劇好きな男たちの一群に対して世話役を名乗り出たい。これができれば、韓さんの生きがいの継続になる。
 韓さんは洋風ダンス教室をやっている会館を偶然見つけ、役所に京劇教室の申請をし許可が降りる。

 京劇好きのじいちゃん達は、韓さんのおかげで、寒風吹きすさぶ寒空の下で集まることもなくなると、みな大喜び。
 韓さんは韓さんで、歌う順序や運営ルールを決めたり、茶を用意したりと楽しそう。

 街の京劇コンクールにも出た。おじいちゃん達の数も増え、仲も深まり、そして一年が経とうとしていた。
 そんなある日に、歌う順序にルール無視で割り込むといった些細なことから、その場にいたおじいちゃん達も巻き込んで、大人げない喧嘩沙汰になる。韓さんは世話役を辞めると出ていった。
 その夜、会館ではおじいちゃん達が集まっていた。これまでやって来れたのは韓さんのおかげだ、喧嘩をはじめたお前は韓さんに詫びを入れろなどと話している。これを外から盗み聞きしている韓さんの表情は悲しそう。

 会館の利用は、もとから一年限りであった。みな、決まりが悪い別れとなってしまった。
 ラストシーン。塀沿いの通りに以前のように集まって、おじいちゃん達数人が京劇の演奏と歌を楽しんでいる。
 韓さんが通りの角からそおっと、その様子をうかがっている。そして、意を決した韓さんが皆の方へ向かって歩みだす。

 地味な映画ですが、こういうの好きです。
 出演者の大かたは素人だそうです。おじいちゃん仲間の中で唯一の若者(練炭町工場の雇われ役)は、ダウン症の障害のある方ですが、この人の存在が映画になごみを添えています。
 それと、製作当時の1992年から26年経った中国の急速な経済発展にあらためて驚く。
 この映画に登場したじいさん達も、きっとあの世で目を丸くしているだろう。

オリジナルタイトル:For Fun 找楽
監督:ニン・イン|中国、香港|1992年|93分|
原作:チェン・チェンコン|脚本: ニン・イン、ニン・タイ|撮影:シアオ・フォン、ウー・テイー、ヤン・シアオウェン|
出演:韓(ハン)じいさん:ホワン・ツォンルオ|喬万有(チアオ・ワンヨウ):ホワン・ウェンチェ|何明(ハー・ミン):何明|楊(ヤン)先生:ヤン・ヨウタン|董(トン)じいさん:ハン・シャンシュイ|王(ワン)じいさん:ワン・シューマン|

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映画「モンディアリート」  監督:ニコラ・バディモフ

上
少年アブドゥを背負うアーメッドと、ルイザ。

 ストーリーはハッピーエンドで終わる心温まる話です。
 この映画、ユーモアがあってコミカルな映画ですが、これを喜劇映画と言ってしまうと、喜劇俳優やお笑い芸人が出てくる映画だと、誤解を生じるかもしれません。
 一方、話は、フランスの児童養護施設にいたサッカー大好きなアラブ人少年が、フランス人の里親のもとで生活していましたが、マルセイユで行われるワールドカップ・フランス大会に、何とかして行きたい!と、無一文で家出したことから始まります。(里親とは、うまくいっていなかったようです)
 よって、話の筋の方はまじめ(シリアス)なお話です。でもユーモアあるコミカルな映画です。甘辛と言いますか、塩あんの味。

0_20180614213714765.jpg アラブ人少年アブドゥは、アーメッドに出会います。アーメッドもアラブ人です。
 アーメッドは、少年がブラジルチームの大ファンであること、マルセイユのワールドカップ・フランス大会を是非観戦したいことを知ります。
 これが、子供好きでもないアーメッドが、少年アブドゥを連れてマルセイユへ行こうとしたきっかけでした。

 そして実は、アーメッドはマルセイユの地元チームのサッカー選手でした。黄金の腕と呼ばれた名ゴールキーパーでした。
 しかし、あることでチームオーナーの怒りを買い、リンチされチームから追い出されました。
 その後、10年間、アーメッドは母親や兄弟たちがいるマルセイユを離れ今日まで過ごしてきました。しかし、もうオーナーに対する罪滅ぼしはこの10年で終えた、終えたい、帰りたいと思い始めていた矢先に、アブドゥに出会ったのでした。
 だから、アーメッドが、少年アブドゥを連れてマルセイユへ行こうとした、本当のわけはアーメッドの方にありました。

 そしてマルセイユへの珍道中が始まります。
 道中いろんなことがありますが、アーメッドと少年アブドゥにとって、ルイザという若い女性に会ったっことは幸いでした。
 そしてお金のない三人は、アブドゥのためにワールドカップ・フランス大会のチケットを買わなければならないために四苦八苦するのですがうまくいかない。
 そんなうちにマルセイユに着いてしまう。
 そこで、アーメッドは決心し彼の古巣、あのチームオーナーに会いに行くのでした。
 結末は、オーナーからチケットを奪いアブドゥは観戦できました。そしてアーメッドとルイザは結ばれます。

 たわい無い話と言ってしまえばそれまでですが、いい映画です。
 ただし残念ながら今ではもう観られない映画です。(昔、NHKBSで放映された時に録画したのを観て書いています)

 はじめに、まじめ(シリアス)なお話ですが、ユーモアあるコミカルな映画です。甘辛と言いますか、塩あんの味、と言いました。
 シリアスな映画だと思いこんで、その視点だけから本作を観てしまうと、ユーモアあるシーンに、とても違和感を感じてしまうかも知れません。本作に限らず、こういった甘辛な映画を観る時には、柔軟な読解力で楽しみましょう。

オリジナルタイトル:MONDIALITO|CARTE D'IDENTITE|
監督:ニコラ・バディモフ|スイス/フランス|2000年|90分|
脚本: ニコラ・バディモフ、ムサ・マースクリ|撮影: トマ・ハードマイヤー|
出演: ムサ・マースクリ(アーメッド、別名ジョルジュ|エマ・ドゥ・コーヌ(ルイザ)|アントワーヌ・モリーニ(アブドゥ)|アントン・クズネゾフ(ロシア人行商・オレグ)

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映画「クラッシュ」  監督:ポール・ハギス

上

 白人と黒人の二項対立だけでなく、アメリカの様々な人種間のギクシャクを群像劇で観せる映画。
 ストーリーは、数多くのエピソードがパッチワークされ、それぞれに関連を持たせている。
 そこには、拳銃による殺人が3件、交通事故が3件、ハッピーエンドが2件、盛り込まれています。
 貧富による分断、車社会、銃社会のアメリカも映し出します。
 2時間足らずのこの映画で、いわばアメリカの縮図を観せようとするのだから大変。話は複雑を極める。またメッセージは細部に宿っています。

 そんな複雑なエピソード群の中から、4つの話を取り上げてみます。(エピソード間の関連性は、あとで述べるとしよう)
1_20180609143517838.jpg【エピソード1】・・リック地方検事とその妻ジーンの白人夫妻
 夫妻は、映画に出てくる登場人物中、一番の上流階級の人。
1-2_201806091447463f5.jpg 検事は黒人層からの支持をとても意識している。上から目線の妻は、いつもツンツンしていて、家政婦がいつかない。
 そんな夫婦がある日、街中で黒人の二人組に拳銃で脅され、目の前で自家用車を強奪される。
 車を強奪された事は、検事のメンツにかかわる事。それも黒人にだ、心境複雑。
 妻は恐怖心から自宅の玄関ドアのカギを丈夫なものに取り換えようとするが、修理に来たカギ屋のダニエルが黒人だったために、このカギ屋が、車を盗んだ二人組に合いカギを渡すのではと猜疑心に苛まれる。それを聞いていたカギ屋はスペアキーのすべてを夫人の前に置いて帰った。


2_20180609143644157.jpg【エピソード2】・・キャメロンとその妻クリスティンの黒人夫妻
 夫妻は、映画に出てくる登場人物中、二番目に上流の人。
 夫はTVディレクター。TV業界で黒人が生き抜くには、周りの白人たちとそれなりに同調しなければならないらしい。夫は周囲に目配りしながら穏やかに実を取る男。
 妻はそれを理解はするが、心の底では白人にオベッカ使ってと思っているようだ。
2-2_201806091451514e8.jpg そんな夫妻がある日、夫が何かの賞を受賞した夜、車で帰宅のところ、街中で白人のライアン巡査が乗るパトカーに停車させられる。
 夫妻が乗る車は、検事の盗まれた車と同車種、同じ色。
 パトカーに同乗する若い白人巡査ハンセンは、車のナンバーが違いますよと注意するが、ライアン巡査は停車させた。
 夫は妻に車外に出るなと制したが、妻は巡査の理由なき行動に怒りを抑え切れないで車外に出る。
 ライアン巡査は出てきた妻の身体を、身体検査よろしく、まさぐり始める。この屈辱に耐えられない妻は夫の方を見るが結局、夫は巡査に歯向かわなかった。
 それから、この夫婦の仲は崩れ始めた。


3-3_20180609143956208.jpg【エピソード3】・・ファハドとその娘のペルシャ人父娘、カギ屋のダニエルとその幼い娘の黒人の父娘
 ファハド父娘は中間層の下位、ダニエル父娘は下層の上位といった人たち。
3-6.jpg ペルシャ人店主のファハドは、店のドアを修理したくて、カギ屋のダニエルを呼んでカギを交換させたが、カギ屋は、ドアの扉も替えないと防犯にならないと言う。がしかし、ファハドは承知しない。互いに言い争った。
 翌日、誰かによって店はメチャメチャに荒らされた。店はファハドが長年にわたり丹精込めてきた店である。怒り心頭のファハドはダニエルの仕業と決めつけ、ダニエルの自宅前で拳銃を忍ばせ待ち伏せする。
 帰宅したダニエルに、ファハドは拳銃を突きつけ撃とうとしたその時、ダニエルにその娘が飛びついた。
 結果、ファハドはその幼い女の子の背中を至近距離で撃ってしまった。しかし、娘は怪我もなく生きていた。なぜなら空砲であった。
 以前、ファハドが銃砲店で銃弾を購入しようとした時、その店主の白人と揉め、結局、同伴したファハドの娘が、当てずっぽで指し示し買った銃弾が空砲弾だったのが、この奇跡を生んだ。



4_20180609144054954.jpg【エピソード4】・・アンソニーとピーターの黒人二人組
 職に就かず、盗みを働く黒人の男たち。しかしアンソニー曰く、俺たちは黒人からは盗まないと言っている。
 アンソニーとピーターは、【エピソード1】の車の強奪犯だ。
 そしてその夜、ふたりはこの盗んだ車で、前方不注意、アジア系の中年を轢いてしまう。処置に困った二人はある病院の玄関先にこの男を置いて逃げる。ひき逃げだ。



 さてさて、エピソードは相互に関連を持って、ますます広がっていく。
 アンソニーが、停車中の高級車に拳銃を突きつけて乗り込んだが、それは【エピソード2】のTVディレクターの黒人キャメロンの車だった。キャメロンは車を発車させながら、黒人同士2人は揉める。これを外から見ると車は変な運転をするように見える不審車。(かつ【エピソード1】の盗難車と同種同じ色)
 一台のパトカーがこれを追う。【エピソード2】に出てきた若い白人巡査ハンセンが運転するパトカーもあとを追う。追い詰められたキャメロンとアンソニーは銃を構えた巡査に包囲される。
8-0.jpg そこへ割り込んだのが、若い巡査ハンセン。「俺はこのキャメロンを知っている、悪い奴じゃない、大丈夫だ」と言いながら、他の巡査を制し、怒るキャメロンをなだめて、その場は事なきを得た。
 しかしキャメロンはアンソニーの銃を隠し持っていた。一触即発だった。

 一方、キャメロンの妻クリスティンは、夫婦仲が最悪になったことに傷心して精神不安定でいたためだろうか、交通事故で他車と接触し横転、車はひっくり返る。
 だが事態は差し迫る。相手の車からガソリンが漏れ出し、こちらに流れ来る。だが逆さになった車からクリスティンは出られない。シートベルトで宙づりになっている。
 そこへ駆けつけたのが、クリスティンを弄んだ巡査ライアン。初めクリスティンはライアンの救助を拒んだが、車に火が付く。結局彼女はライアンに助けられた。

 そして、若き白人巡査ハンセン。
 疲れての仕事の帰り道、車に乗るハンセンは、夜道でヒッチハイクする1人の黒人青年を拾います。街を出たいと言うその青年は、アンソニーの相棒のピーター。
 車内でのちょっとしたやり取りに、気分を害したハンセンは、降りろとピーターに言う。その時、ピーターがズボンのポケットに手を入れ出そうとしたモノが拳銃かと即断したハンセンは即座に、ピーターを射殺してしまう。そして道端の草むらに置いて逃げてしまった。

 さらには以上に書かなかった男、黒人刑事のグラハム。
 映画冒頭、夜のシーン。グラハムとその妻の乗る車が接触事故を起こす。グラハム刑事が安全運転だったとしたら、相手のアジア系の女が悪いんだろう。この女、やたら悪口雑言、グラハムの妻、ヒスパニック系(メキシコ)の妻に向かって罵っている。
 あとでわかるが、このアジア系の女は夫が緊急入院した病院へ向かう途中。【エピソード4】で、アンソニーとピーターの黒人二人組にひき逃げされた男の妻が、この女。
 そんな騒ぎを横に見て、グラハム刑事は見知った巡査たちに挨拶しながら、道端にいる同僚の刑事に近づいた。「どうした、事件発生か?」「そう、若い黒人の射殺死体だ」。(映画の観客はわかる、これはハンセン巡査が射殺したピーターだ)
 そして死体を確認したグラハム刑事は驚きを押し殺した。その男はグラハム刑事の弟だった。

 最後に言い残したエピソードふたつ。
 グラハム刑事の交通事故の日のその昼、グラハム刑事は【エピソード1】のリック地方検事の息がかかった刑事フラナガンに呼び出される。その呼び出しは、グラハム刑事が担当する事件についてだった。
 担当の事件とは、白人刑事による黒人刑事射殺事件。黒人刑事が乗る車を制しようとした白人刑事は、その黒人刑事から発砲を幾度も受ける。そして白人刑事が撃った一発が黒人刑事の致命傷になった事件。互いに刑事だと知っていたのか?
 翌日、黒人刑事の車から多量の札束が発見される。黒人刑事の汚職事件に発展する。
 これにリック地方検事がストップをかけた。黒人を悪者にしては支持者が減る。汚職の件は握りつぶして、白人刑事に罪を着せるようにしたい。そこでフラナガン刑事がグラハム刑事を呼び出したのだ。グラハムは実直な刑事、フラナガンが言う地方検事の意向を嫌う。だがフラナガンはここで、グラハムの弟ピーターの犯罪歴をほのめかす。ピーターの件を見逃す代わりに、地方検事の意向を飲めという。グラハムは承知した。

 しかし、折角の弟への思いが結果的にはグラハム刑事にとってみじめなことになった。
 まずは、その夜に弟の死体と対面したこと。そして死体の身元確認のために来院したグラハムの母がグラハムに対して示した態度。「お前より私は死んだ弟に寄り添うよ!」
 もとよりグラハムと母との関係は疎遠だった。多忙なグラハムは時々は母の部屋を訪ねたが母は終始無口だった。
 観客は思う。この黒人家庭の母子の間にも、出世した息子との貧富と正義による分断の思いがあることを。

 
 ちなみに、【エピソード4】のアンソニーとピーターの黒人二人組のひとりアンソニーは、ひき逃げしたアジア系男の乗っていたバンを盗むのだが、バンの後部ドアを開けると、アジア系男女難民の一団が閉じ込められていた。
 アンソニーは盗難車を売り買いする男にバンを売ろうとするが、店の男は難民たちだけを高額で買うぞと言われる。しかし、アンソニーはこれを無視して、中華街に車を走らせ、路上で彼らを解放した。(これはとってつけた話だ※)

 私たちはペルシャ人とアラブ人の区別がつくだろうか?
 【エピソード3】でファハドが銃砲店の店員と揉めたのは、店員が彼をアラブ人だと思い毛嫌いしたからだった。
 アンソニーは、ひき逃げした男を、難民の人々を一応に中国人と言う。人を理解することは難しい。
 観ごたえある映画でした。

 ※ライアン巡査は父親思いの息子で父子だけの家ではいい息子。父親の会社では黒人従業員に良い待遇で接していたとのこと。これも付けたり的というかこだわるねぇ。

オリジナルタイトル:Crash
監督:ポール・ハギス|アメリカ|2004年|112分|
原案:ポール・ハギス|脚本:ポール・ハギス、ボビー・モレスコ|撮影監督:マイケル・ミューロー|
出演:地方検事リック(ブレンダン・フレイザー)|その妻ジーン(サンドラ・ブロック)|TVディレクターのキャメロン(テレンス・ハワード)|その妻クリスティン(サンディ・ニュートン)|ライアン巡査(マット・ディロン)|ハンセン巡査(ライアン・フィリップ)|ペルシャ人店主ファハド(ショーン・トーブ)|カギ屋ダニエル(マイケル・ペーニャ)|アンソニー(クリス・“リュダクリス”ブリッジス)|ピーター(ラレンツ・テイル)|グラハム刑事(ドン・チードル)|グラハムの母(ビバリー・トッド)|フラナガン刑事(ウィリアム・フィクナー)|ほか

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映画「木靴の樹」  監督:エルマンノ・オルミ

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 時は20世紀一歩手前の19世紀末。
 イタリアの小作人たちの日常を群像劇として観せる。
 この映画、はるかな遠景を眺めるように、ゆったり構えて広い視野で観るといい。
 あるいはタイムスリップしたと思って観るのがいい。


 イタリアの北方、アルプス山脈に近い町、ベルガモ周辺に広がる農村地帯。
 広大な大地を所有する大地主と、地主につかえる管理人。
 そして小作人たちとその家族。老人、夫を亡くした妻と子沢山、恋する若い男女、働き遊ぶ子たち、生れたばかりの赤ん坊。
 種まき、とうもろこしの収穫。馬と荷車、干し草、牛の搾乳、解体される豚、水たまりのアヒル、うろつく犬、服地の行商人、放浪する乞食。
 そんな中にある、小作人たちの週一の寄り合い、結婚式、町のお祭りといったハレの時間。

3-0_20180528095043693.jpg しかし、そうした小作人たち農民の、一見、何の変化もない様に見える19世紀末の日常は、ゆるりと20世紀を迎えようとしている。
 そんな変化を映画は、小作人の子供の通学、工場勤めの娘たち、町(都会)の人々の新しさ、社会主義の芽生えなどのシーンで表現する。

 「木靴の樹」という題名に注目しすぎると、この映画の一部分しか見ないことになる。
 地主の領地内のすべては地主の物だから、領地内の道に沿って立ち並ぶ木を切り倒し、子供のための木靴を作った小作人一家は、この地を追われることになるのだが、地主と小作人という対立構図だけで本作を観てしまうと、本作の良さが半減してしまうだろう。

4_201805280952355b6.jpgオリジナルタイトル:L'albero degli Zoccoli
監督・脚本・撮影:エルマンノ・オルミ|イタリア|1978年|187分|
出演:ルイジ・オルナーギ(バティスティ)|フランチェスカ・モリッジ(バティスティーナ)|オマール・ブリニョッリ(ミネク)|ほか多数





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一話 (京都、旅行、美味など)  書評  美術


映画「大いなる休暇」  監督:ジャン=フランソワ・プリオ

上

1-0_20180519202308381.jpg カナダはケベック州の沖合にある、島民120人の小さな離島のお話。
 心温まるストーリーで、少しドタバタ喜劇です
 
 島民はかつて漁業で生計を立てていたが、今は皆、廃業して一様に生活保護を受けている。
 しかし支給金の月額では、2週間分の生活費しかまかなえない。
 働き甲斐を無くした島民は、ただただ、ぼんやりした毎日を過ごす。(なぜ漁業を辞めざるを得なかったかは映画は語らない)

 そんな折、ある会社がこの島に工場を建設したいという話が浮上した。
 工場が出来て島民が工場で働けるようになったら素晴らしい!
 しかし、それには条件があった。条件とは島に常勤の医師がいる事であった。
 この島には長らく医師はいないのだ。代理医者と称して精肉店のおやじが危なげな処置をしていた。
 工場進出という湧いて出た美味しい話があるのに、医師がいなくてはどうにもならない。
 クシの歯が欠けるように、少しずつ住民は島を離れ本土へ移住していく。

2-0_201805192017374da.jpg  こんな状況を打開すべく、村長のジェルマンはあれこれ策を考えていたその矢先に、いい話が来た。
 本土に移住していった男から、自然豊かな「へんぴな島」に住みたいという若い医師がいるという。
 そしてその医師クリストファー・ルイスがついに島へやって来る。

 村長ジェルマンは、田舎者であるがちょっとした策士であり、行動派である。
 医師が島に定住してもらうには、どうすればいいか。まず島の家々の外観をきれいにした。
 そして何よりも、医師が好きだというクリケットを、この島でも盛んにやっているというウソを、島民たちで装う。(実は島民はクリケットの「ク」の字も知らないのだ。このシーンは幾つもある可笑しいシーンのひとつ)
 次の策は、医師の家の電話盗聴だ。これは彼が好きな物事調査だ。
 彼の好きな料理が分かると、島でひとつのレストラン&バーのメニューに急遽追加するなど、医師向けのウソは増えていく。

 ま、そんな努力が実って医師は島を気に入りだし、島の娘を好きになるが、次の難題が発覚。
 工場進出の企業に、別の所から誘致話が持ち上がり、そこと競り合う形となった。企業の社長は基本的に島に工場を建てたいのだが・・・、別の誘致先からは工場が来るなら5万ドルの補助をするとのこと。 
 しかし、この島ではどうあがいても5万ドルは捻出できない。

 島には生活保護の支給金を支払うため「だけ」に、銀行の出張所がある。
 島民が彼をATMのような支店長と呼ぶその男に、村長は銀行融資を迫る。気弱なその男は、恐る恐る本店に融資の旨を伝えたが、折り返しの返事は、島の出張所の廃止とATMの設置だった。
 支店長は落胆し、かつ怒りがこみ上げ自暴自棄。勝手に銀行の金庫から5万ドルを出金し、村長に進呈した。

 金が用意できた村長たちは、ヘリで島に降り立った、工場進出の社長たち視察団を迎える。
 そこでまた難題。200人以上の住民の地に工場を作るのだと・・。
 しかし負けない村長は社長たちの前で、また島民を使って200人以上いることを演出した。(島民たちは大変だ!)

3-0_20180519202710a0c.jpg 契約一歩手前に来て、またもや苦難。
 医師に、あれもこれもウソをついてきたことが、好きになった娘の口からバレる。
 医師は、好きな彼女ができたことに後ろ髪を引かれながらも、島を離れると村長に言った。

 だが、契約に来る社長はじめのお偉方の日程は決まっていた。
 そこで村長、まだ負けない。島に物資を運んでくる小さな船の船長を説き伏せ医師に仕立てるが・・。

 村長はじめ島民たちは実にまじめに、生活と生きがいとを求めて、「ウソ」を医師と社長につくが、所詮ウソはウソ。ついに、どん詰まり。
 だが、これを救ったのは、なんと医師のクリストファー・ルイスだった。(終)
 真面目で可笑しいお話、観てのお楽しみ!

 余談1:同じく、離島の人々のコミカルな映画に「ウェイクアップ!ネッド」がありました。
     アイルランドにある離島で起きた出来事。宝くじで12億円を仕留めた独身の島民が当たったその日に死亡。それを島民全員で何とかして横取りしたい。そして宝くじ会社の調査員が島にヘリで降り立った・・・。 
 余談2:オドレイ・トトゥ主演の映画「アメリ」(2001)に出てくる同じようなシーンが、本作「大いなる休暇」の中に2回あります。 
 (下線部をクリックしてそれぞれの映画の記事をご覧ください)

オリジナルタイトル:La Grande seduction(SEDUCING DOCTOR LEWIS)
監督:ジャン=フランソワ・プリオ|カナダ|2003年|110分|
脚本:ケン・スコット|撮影:アレン・スミス|
出演:村長ジェルマン・ルサージュ(レイモン・ブシャール)|クリストファー・ルイス(デヴィッド・ブータン)|アンリ・ジルー(ブノワ・ブリエール)|イヴォン・ブルネ(ピエール・コラン)|エヴ・ボーシュマン(リュシー・ロリエ)|スティーヴ・ロラン(ブルーノ・ブランシェ)|エレーヌ・ルサージュ(リタ・ラフォンテーム)|クロティルド・ブルネ(クレモンス・デロシェ)|モンシュール・デュプレ(ドナルド・ピロン)|リチャード・オジェ(ケン・スコット)|

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映画「シンプルメン」  監督:ハル・ハートリー

写真
兄ビル、弟デニス、謎のエリナ、人妻ケイト

 とてもシンプルなお話。
 主要な登場人物から脇役に至るまで、誰もが実にシンプルな人々だ。

1-0_20180515120320323.png 彼らは単純な人。
 良く言えば、偽りや飾りのない、ありのままの感情で生きる、率直な人。
 それは我々の日常では、ありえないほどのシンプルさ。阿呆にみえるかもしれない。
 こういう設定だから自ずと、このお話は喜劇。
 喜劇でありながら、この映画は、我々が日ごろ、いかに自身の心を抑制して生きているかを「お前、それでいいの?」と我々に言っているようだ。

 そして、登場人物たち、自分の感情に正直な人たちを、監督ハル・ハートリーは優しく抱擁する。
 話は、ビルとその弟デニスが、長らく会わぬ父を探し、見つけ出すまでの間に出会った人々との、あれやこれや。
 話の引き金は父親が引いた。
 父は元は有名な野球選手、その後テロ容疑者とされ、家族を捨て逃亡の23年経った今、逮捕された男。ビルと弟デニスは、この父に面会しようとしたが、父親はすでに脱走した後だった。
 兄弟は、母親が持っていた父親の連絡先電話番号を頼りに父に会いに行こうと旅立った。
 そして出会う人々。服役した夫が帰宅するだろうことを嫌う妻ケイト、ケイトの家に居候する謎のルーマニア人の女エリナ、ケイトの夫と親友のマーティン、ビルを追う地元警察官、ガソリンスタンドの男ふたり。そしてちょい役の女子学生。みな個性あるシンプルな人間たち。

 父親はじめ、窃盗犯のビルなど登場人物それぞれに割り当てられるエピソードは、どれもいささか奇異。奇異だが、そこに登場人物に対する監督特有のこだわりが込められている。
 演技についてだが、一瞬だが一呼吸を置いてのセリフ回しや、ケイト、デニス、マーティン三人のダンスなど、これも監督のこだわりだ。これらを楽しみながら観てみよう。

オリジナルタイトル:SIMPLE MEN
監督・脚本:ハル・ハートリー|アメリカ|1992年|106分|
撮影:マイケル・スピラー|
出演:ビル・マッケイブ(ロバート・バーク)|デニス・マッケイブ(ウィリアム・セイジ)|ケイト(カレン・サイラス|ケイトの元夫ジャックの親友マーティン(マーティン・ドノヴァン)|ビル、デニスの父ウィリアム(ジョン・マッケイ)|ルーマニア人のエリナ(エリナ・レーヴェンソン)|女学生キム(ホリー・マリー・コームズ)|
下


【 ハル・ハートリー監督の映画 】
 これまでに取り上げた監督作品です。画像をクリックしてご覧ください。
 この監督の作品は、一度ハマるとクセになる魅力があります。
 上記「シンプルメン」に登場する俳優たちは下記の映画でも個性ある常連。ただし、「アンビリーバブル・トゥルース」と「トラスト・ミー」に出演のエイドリアン・シェリー(1966年-2006年)は監督業もする女優でした。
写真
「アンビリーバブル
    ・トゥルース」
1989年
写真
「トラスト・ミー」1991年
  
写真
「愛・アマチュア」1992年
  

写真
「ヘンリー・フール 」1997年
写真
「はなしかわって」2011年


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映画「ブリキの太鼓」  監督:フォルカー・シュレンドルフ

上

1-0_20180511163533957.jpg 3歳にして「大人の世界」を忌み嫌い、その後も幼児のように生きたオスカルという男の話です。
 この作品は、観る者の興味、視点の違いで、異なって見える映画かも知れない。そんな二面性いや三面性があります。

 そのうちの一面は、ストーリーのバックグランドとして配置されている、物語当時のポーランドの時代性、これを冷徹に語る側面。
 それは第二次世界大戦へ突き進むナチスドイツに対するポーランドの有り様と、そして当時のポーランド国内の民族的差別とを、庶民の目から生々しく描いている側面です。

 ふたつ目の面は、当時を生きる人々の赤裸々な性を、あからさまに描く側面。
 オスカルの両親と周辺の人々、およびオスカル自身のそれです。
 これがメインテーマのごとく映画は語ります。

 三つ目は、ダークなファンタジーの側面。
 オスカルは3歳にして二つの超能力を持っていました。
 まずは自身の身体的成長を止められること。
 もうひとつは、「ブリキの太鼓」を叩きながら、叫びとも聞こえる奇声を発すると、その衝撃波で標的としたガラス窓やグラスを、一瞬にして砕き散らす能力です。(コミカルなシーンとして描かれます)
 これは、オスカルがのちにサーカス団(慰問団)に加わり、芸として見せるシーンもありますが、大人の淫らな性や(たぶん本質的には)戦争や憎しみ合いも含め、「大人の世界」を嫌ったオスカルの叫びと警告であったのかもしれません。

2-0_20180511164649f27.jpg
 さて、この映画が語るお話をなぞってみましょう。
 1924年生れのオスカルは大人になることを避け、自らの意思で身体の成長を3歳で止めました。
 映画はこの、いつまでも幼児に見えるオスカルの顛末を軸に、ポーランドの都市ダンツィヒ(現在のグダニスク)周辺を舞台に、隣国ナチスドイツを歓迎しその思想に心酔し、ドイツの敗戦でこの悪夢から目覚めたポーランドの人々の、うつろな心模様を描きます。

 また映画は初めに、1899年から語り始め、ポーランドの少数民族カシューブ族(カシュバイ人)の出自であったオスカルの母方の祖母を登場させ、カシューブ族とポーランド人との民族的乖離を暗示します。(この話全体は、疎外されたカシューブ族の祖母の視点を基点にしているように思えます)
 さらに、ナチスに賛同する人々と、反ナチス・ポーランド人との内戦、またユダヤ人差別とシナゴーグ放火暴動など、ポーランドに住むユダヤ人を排斥する反ユダヤ主義のポーランド人の様子も描き出しています。


 そんなことを背景にして、さて、映画はオスカルと彼周辺の人々の話をどう語るのか。それは欲情の物語でありました。
 オスカルの奇麗な母親アグネスは同時に二人の男を愛していました。夫アルフレートと、アグネスのいとこ(従兄)で愛人のヤンです。
 アグネスは夫と生活を共にしながらも、ヤンとの間にできたであろう子・オスカルを育てています。(オスカルはヤンが実父だと思っている)
 そしてアグネスは再度ヤンの子を宿すが、これまた夫アルフレートはとても寛容でありました。しかしアグネスは体調不良と精神の混乱で自殺、あっけない死でありました。
 こんな日々の中、夫アルフレートは時と共に他の多くのポーランド人同様にナチスに心酔していく。
 独り身になって子育てと、自身が営む店のやりくりに苦労していたアルフレートは、ある日、アグネスの母親(オスカルの祖母)から一人の少女を住み込みの小間使いとして紹介されます。16歳のマリアです。オスカルと同い年。時は1940年。

3-0_20180511165213ff7.jpg この出会いはオスカルの初恋となりました。
 オスカルは、いまだに外見は幼児だが16歳の男です。マリアの肉体に魅かれます。
 そして、表向きの父親アルフレートもマリアを求めました。
 マリアが妊娠します。その子はクルトと名付けられます。その後もオスカルは、クルトを密かに自分の子だと思い続けました。

 オスカルのもうひとつの出会い。
 それはサーカス団の芸人たちでありました。とりわけ、10歳で成長を止めたと言う、小人症の団長ベブラじいさんとは息が合いました。
 そののちオスカルはサーカス団に加わり、慰問隊として(第二次世界大戦の)戦場を巡ります。
 この間、同じく団員のひとりで小人症の女性と恋に落ちます。短いでしたが幸せな日々を過ごすことができました。

 さあ、話は徐々にラストを迎え始めます。
 クルトが3歳になる日、オスカルは帰郷しクルトに新品のブリキの太鼓をプレゼントしました。そしてナチスドイツの敗戦。
 このドイツ敗戦によるポーランドの混乱の中、オスカルの父アルフレートは戦勝国ソ連軍兵隊に射殺されます。(射殺したソ連兵が能面づらの東洋系青年であったことが少し気になります)

 埋葬に参列したのは、オスカル、彼の祖母、マリア、クルト、墓守のユダヤ人でした。
 オスカルは3歳からずっと太鼓を手放しませんでしたが、父の埋葬時に、持っていたブリキの太鼓を墓穴に投げ入れます。それは、オスカルの決意表明でした。彼は止めていた自身の肉体的成長を開始することにしたのです。この時、オスカル21歳、1945年のことでした。

 ラストシーン、オスカルは祖母に言われます。「我々はポーランド人でもドイツ人でもない。お前はここにいてもしようがない、西へ旅立ちなさい」 
 そう言われてオスカルは列車に乗って旅立ちました。(終)

 ちなみに、1939年9月1日のドイツ軍によるポーランド侵攻が第二次世界大戦の始まりとされています。

オリジナルタイトル:Die Blechtrommel
監督:フォルカー・シュレンドルフ|西ドイツ、フランス|1979年|142分|
原作:ギュンター・グラス(1959年発表)|
脚色:ジャン・クロード・カリエール 、 フォルカー・シュレンドルフ 、 フランツ・ザイツ|撮影:イゴール・ルター|
出演:オスカル・マツェラート(ダーフィト・ベンネント)|父アルフレート・マツェラート(マリオ・アドルフ)|母アグネス・マツェラート(アンゲラ・ヴィンクラー)|若き後妻マリア・マツェラート(カタリーナ・タールバッハ)|母アグネスの従兄ヤン・ブロンスキ(ダニエル・オルブリフスキー)|母アグネスの母親アンナ・コリャイチェク(若年期:ティーナ・エンゲル、老年期:ベルタ・ドレーフス)|母アグネスの父親ヨーゼフ・コリャイチェク(ローラント・トイプナー)|ブリキの太鼓を供給し続けたユダヤ人の玩具店オーナー・ジグムンド・マルクス(シャルル・アズナヴール)|ほか
下2

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映画「エスケイプ・フロム・トゥモロー」  監督:ランディ・ムーア

上

 妻子を連れてディズニーランドに来た男ジムの不幸な顛末。

5-0_20180505144113878.png 家族四人、前日に、ディズニーランドを目の前にしたホテルに一泊しての、次の朝。
 さあ、これからディズニーランドへ!という時に、ジムの携帯が鳴った。(休暇中に会社から電話が来るのは嫌なものだ)

 この電話で、働き盛りのジムは、勤め先の友人から(会社の決定だと前置きされて)突然の解雇を言い渡された。
 だが、家族でこれから楽しい時を過ごそうという、この日、ジムはクビになったことを妻に言いそびれる。

4-0_20180505144520ab4.jpg 映画は、理由が思いつかない突然の解雇によって、幸せな日常から暗い非日常へ、一気に転落したジムの、苦しい心境を、同時にプレッシャーからの逃避を表現する。(ジムは幻影を見始める)
 加えて映画は、こんな時にも、妻子に対し「良きパパ」を演じようとするジムの(現実逃避との)格闘を表していく。
 
 次いで、この不幸をトリガーにして、「良きパパ」の限界線にいるジムの目線を借りて、映画はディズニーランドという、「楽しい虚構」を実態ある世界に作り上げた、その仕組まれた作りごとを突く。(とても嫌なことがあると、目の前の楽しいことに対し、一気に批判的になるものだ)

 さらに映画は、一度嫌なことに会うと嫌なことが続きがち、というよくある「いら立ちの連鎖」を、シーン各所にうまく織り込みながら、一方で、プレッシャーからの逃避から来る、見知らぬ若い女性へのチョッカイや酒の暴飲といった、「良きパパ」ジムの、いけない誘惑との葛藤を可笑しくしてみせる。

 以上のようなことを踏まえ、話は、始めは、ディズニーランドでありがちな家族の行動/感情を示しながら、話の進行につれてジムの心に「いら立ちの連鎖」が鬱積し、後半ついに、ジムはSFの世界に迷い込み、悪夢に取り込まれて精神が爆発する。
 ちょっと、映画「未来世紀ブラジル」のラストシーンが心をかすめた。

オリジナルタイトル:Escape from Tomorrow
監督・脚本:ランディ・ムーア|アメリカ|2013年|90分|
撮影:ルーカス・リー・グラハム|
出演:ジム(ロイ・アブラムソン)|エミリー(エレナ・シューバー)|サラ(ケイトリン・ロドリゲス)|ソフィー(ダニエル・サファディ)|イザベル(アネット・マヘンドリュ)|科学者(スタッス・クラッセン)|看護師(エイミー・ルーカス)|

2_20180506145539a30.png









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映画「パパは、出張中!」  監督:エミール・クストリッツァ

上
妻のセーナ、マリク、兄ミルザ、メーシャ

 マリク6歳の父、メーシャの浮気が引き起こした思わぬ展開は、不運にもマリク一家に苦難を与えることになります。(しかしラストは苦いですが、ハッピーエンドで終わります)

01-_20180427113923b92.jpg 思わぬ事態になった原因は、メーシャの浮気もさることながら、1950年のユーゴスラビアの政治情勢でした。 
 当時、独自の社会主義を目指すユーゴスラビアは、反ソ連(反スターリン)の姿勢でした。

 ある日、愛人と一緒にいたメーシャは、ソ連を批判するユーゴスラビアの新聞の挿絵を見て、「これはやりすぎだ」と、つぶやきました。(挿絵は下記)
 のちにこのことを、愛人はユーゴスラビア人民委員会のお偉方にふと漏らしました。
 お偉方は、メーシャのつぶやきを「親ソ連」的発言ととって、メーシャを国家反逆の罪で、強制労働させることになります。(裁判なんて開かれません)

 映画は、こんな時代のユーゴスラビアのサラエヴォを舞台に、主に6歳のマリク目線で、2年間の間に起った出来事を、語っていきます。(つまり柔らかい語り口です、ナレーションはマリクです)

 事の発端。
 メーシャが「これはやりすぎだ」とつぶやいた逢瀬の時、愛人は「奥さんといつ離婚してくれるの」とメーシャに強く迫っていました。
 その翌日、愛人は女性グライダー乗りとして、人民委員会主催のグライダー曲芸飛行ショーに出場しました。
 メーシャは奥さんと二人の息子(マリクと兄ミルザ)を連れ、多くの見学者が集まった飛行場にいました。

 そこには人民委員会のお偉方も参列しています。このお偉方がメーシャに近づいて来ました。
 そうです、このジーヨというお偉方は、メーシャの義理の兄、つまりメーシャの妻セーナの実の兄なのです。
 さてショーが終わり、メーシャの愛人はジーヨの車に乗ります。この時です、「これはやりすぎだ」発言を、愛人はジーヨに軽い気持ちで話してしまいます。(ジーヨがメーシャの義理の兄であることは、愛人も知っていましたから)

2-0_20180427115051598.jpg その夜すぐ、メーシャは人民委員会へ呼び出され、義兄ジーヨのオフィスで彼の口から、遠くの地での強制労働を告げられます。
 しかしその夜は、メーシャの息子マリクの、割礼の祝いの日でした。
 メーシャの家の食卓には、メーシャ、妻セーナ、二人の息子、同居のセーナの両親など、そしてジーヨがいます。
 ですが、皆沈みがち。メーシャもセーナもセーナの両親(つまりジーヨの両親)の誰もが、ジーヨに話しかけません。
 そしてセレモニーが終わるや否や、メーシャは強制労働の炭鉱へと家を出ました。(ジーヨは家の外に、連行するための車を待たせていました)

 この日から「パパは出張中」の日々が始まるわけです。(妻セーナは息子たちに父親は出張中ということにしたのです)
 なぜなら、日ごろからメーシャは仕事で家を空けることはたびたびでしたから。(ちなみに、実はこれまでメーシャの浮気は出張中のことでしたし、セーナは相手は知りませんが感づいていました)

 そののち、セーナは兄ジーヨの家を訪れます。セーナは夫へ送る荷物を持っていました。
 しかし兄は、メーシャがどこにいるのか、いつ帰れるのかの問いに答えません。このことは誰にも言うな、会いに来るな、と言うばかりでした。(ジーヨは独り身ですが、彼の家には女がいました)

 炭鉱での強制労働は厳しいものでしたが、一度だけ、セーナはマリクを連れて炭鉱を訪問できました。
 この時、セーナは夫に、どうしてこういう事になったのかと問いますが、「わからない、ジーヨに聞け」と言います。
 セーナは「ジーヨは何も言わない、そういえばジーヨの家にあのグライダー乗りの女性がいたけれど、あの人に聞こうか?」
 「やめとけ」と言い、メーシャは話題を変えました。
 後日、セーナはグライダー乗りに会いに行きます。女の勘は鋭いです。セーナはその女に襲い掛かりました。
 
 続いた強制労働もやっと終わり、メーシャは、今度はこれまたサラエヴォから遠い田舎ズヴォルニクという所へ移され、その地である上司の元で仕事を始めます。
 ここでは家族を呼び寄せることができました。家族4人はまたひとつになれました。

 ここでちょっと、メーシャの下の息子マリクのこと。
 父親が強制労働へ行ったあと、マリクは夢遊病になり、夜、家を出て出歩くようになります。ストレスです。
 日ごろの「パパは出張中」とは明らかに違うことを、幼いながらもマリクは感じ取っていました。(夢遊病のシーンは、監督の持ち味であるコミカルな仕立てです)
 ズヴォルニクに引っ越してからマリクは、あるロシア系の男の一人娘マーシャを好きになります。幼い恋、相思相愛でした。
 ですが、マーシャは不治の病におかされていました。幼い恋は長くは続きませんでした。

03-.jpg そんなある日、メーシャに恩赦がでました、やっとサラエヴォに帰れるのです。
 帰ってまもなく、メーシャの義弟(妻セーナの弟)の結婚式がありました。一族郎党が集まりました。
 3人目の子をお腹に宿すセーナは、兄ジーヨに近づきもしません。
 メーシャはジーヨに、すべて水に流そうと少し話しました。ジーヨはアル中のように酒に酔っています、重度の不眠症に陥っていました。

 そのジーヨの横に、メーシャの元愛人がいます。(この2人は公然の関係になったようです)
 そして、こともあろうに、メーシャは、式をよそに人気のない部屋に元愛人を連れ込み、「なぜジーヨに言ったのか」と問い詰めながらも、ふたりは激しく交わります。でも、この様子をマリクはじっと見つめていました。
 (このあと、元愛人はトイレで首吊り自殺を図ろうとしますが失敗しました)

 この時もうひとり、式をよそにして、そっと出て行く男がいました。彼は自らの意思で老人ホームに入所するため、いま旅立とうとしています。
 その男は、ジーヨ、新郎(次男)、セーナの父親ムザフェルでした。
 ムザフェルはマリクの兄ミルザにこう言いました。「やつらに言っておけ、政治なんてクソ食らえだと」

 ラスト。ラジオからはユーゴ対ソ連のサッカー試合の実況中継が流れます。
 ユーゴはソ連を負かし金メダルを取りました。人々はじっとこれを聴き喜んでいます。1952年のことでした。

オリジナルタイトル:Otac na sluzbenom putu(When Father Was Away on Business)
監督:エミール・クストリッツァ|ユーゴスラビア|1985年|136分|
脚本:アブドゥラフ・シドラン|撮影:ヴィルコ・フィラチ|
出演:マリク(モレノ・デバルトリ)|父メーシャ(ミキ・マノイロヴィッチ)|母セーナ(ミリャナ・カラノヴィッチ)|セーナの兄で人民委員会のジーヨ(ムスタファ・ナダレヴィチ)|グライダー乗りで体操教師のアンキッツァ(ミーラ・フルラン)|マリクの祖父ムザフェル(パヴレ・ヴイシッチ)|マリクの恋人マーシャ(シルヴィア・プハリッチ)|ほか
3下










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【 エミール・クストリッツァ監督の映画 】
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写真
「アンダーグラウンド」
写真
「ジプシーのとき」
写真
「黒猫・白猫」
写真
「ウェディング・ベルを鳴らせ!」




映画「ポエトリー アグネスの詩」  監督:イ・チャンドン

上3
1-00_20180419100150005.jpg





 女子中学生の水死体が川を流れ下るシーンを、映画は冒頭、いきなり観客に投げて寄越す。

 この話を語る前にまず、主人公ミジャ(ユン・ジョンヒ)の話から始めよう。
 ミジャは60歳半ばの温和なおばあちゃん、中3男子の孫と二人暮らし。
 その孫の母親(ミジャの娘)は別居していて、釜山に住んで働いている。ミジャは娘から仕送りを受けているんだろうが、孫との生活に余裕はない。
 それでミジャは、ある老人の介護で生活費を稼いでいる。その男は脳梗塞か何かの後遺症で障害があり、手足が不自由、口がきけない。
 孫のジョンウクは、おばあちゃんっ子。幼いころからミジャに育てられた様子で、中3にしては幼い大人しい子、ミジャに爪を切ってもらう始末。

 ミジャは最近、詩に興味がある。詩を書いてみたい。そこで詩の教室に通い始めた。
 さて、こんな平凡なおばあちゃんのミジャが、話が進むうちに、冒頭シーンの女子中学生の自殺事件に苦しめられることになる。

 ミジャがこの事件に遭遇したのは、病院の救急外来入口で、女子中学生の母親が泣き叫ぶのを見た時であった。
2-00_20180419100956b44.jpg そして次に、ミジャを苦しめることが発覚する。
 それは、孫のジョンウクはじめ彼の同級生6人が、自殺した女子中学生ヒジンを、生前、学校で数回にわたりレイプしていた事実。

 このことをミジャは、同級生6人のうちの1人、ギボムの父親から呼び出されて聞いた。
 ミジャは家に帰り、ヒジンの事をそれとなくジョンウクに聞くが、さしたる反応はない。
 一方、ギボムの父親ら、同級生5人の父親たちは密かに集まり、今後の対応を相談している。
 ここは息子たちの将来を考え、向こうの親と示談で納めたい。ほかに事の次第を知っているのは校長はじめそれぞれの担任だけ。だが、地元紙の記者が動き始めたらしい、秘密裏に進めたい。

 相談の結果、父親たちは示談の提示金額を3000万ウォンと決めた。1人頭500万ウォン、ミジャはこれをギボムの父親から知らされた。
 しかし、ミジャにそういう金は無い。ギボムの父親はミジャに向かって「釜山の娘に出してもらいなさい」と言う。だがミジャは、娘に事件も示談金のことも伝えない。(この家庭内事情を映画は語らない)

 相談相手もなく、追い詰められるミジャはある決断をする。
 ミジャは介護で通っている老人の男に身を許した。男は会長と呼ばれていて資産家のようだ、そして男はミジャが好き。(今までも迫られることがあった)
 そして後日、ミジャは男に500万ウォンを「くれ」と筆談で話す。(ミジャが筆談するわけは男の娘が傍にいるのだ)
 くれ、とは返済することができないからだと書き添える。男は脅迫かと筆談で返す。
 結局ミジャは身を挺して500万ウォンを手にし、ギボムの父親に渡すことができた。


下 60歳半ばのミジャを観客は、世知に疎い、認知症初期と診断された、詩作にあこがれる、頼りないおばあさんと思うかも知れない。(ミジャのセリフに、これまでの人生に苦労は絶えなかったとあるが、それを映画は語らない)
 一方、ギボムの父親はじめとする加害者の父親たちは、40歳前後の働き盛りの男たちだ。自ずとミジャと相いれない。
 加害者5人の父親の集まりにミジャも出るが、ミジャはすぐに退散してしまう。
 ミジャは父親たちから、示談の交渉役にされてしまうが、ミジャは自殺した女子ヒジンの母親と世間話をしただけで交渉の話はできなかった。
 また、孫のジョンウクに対し、問い詰めないし、怒らない。

 ミジャは優しい。人当たりがやわらかい。
 だがミジャは、ぼんやりしているわけじゃない。洞察力があり、よく考えているが、いかんせん問題解決に時間がかかる。決断が後手になる。
 ミジャは正義感が強い。
 孫の事より、自殺したヒジンやその母親に意識が行く。加害者の父親たちのやり方に懐疑的だ。

 ミジャは、考えがはっきりした時、想定したことが現実になる時、すでに覚悟はできている強い女性。
 ある日刑事が現れ、ミジャの前で孫のジョンウクが連行される。ミジャは少しも動じなかった。
 詩教室の最終日に提出の宿題、詩一編をミジャはきちんと提出した。それは美しい感動を呼ぶ詩であった。(映画中で示される)
 しかし、その教室にミジャの姿は無かった。(ミジャは前日に提出していた)
 ミジャはどこへいったのか?

 ラスト、映画は人影のない大きな橋上のシーンを観客に見せる。
 そこは女子中学生ヒジンの水死体が流れ行った川にかかる橋だった。

オリジナルタイトル:시 (詩)
監督・脚本:イ・チャンドン|韓国| 2010年|139分|
撮影:キム・ヒョンソク
出演:ミジャ(ユン・ジョンヒ)|ジョンウク(イ・デヴィッド)|ギボムの父(アン・ネサン)|ヒジンの母(パク・ミョンシン)|キム・ヨンタク・詩作教室の先生(キム・ヨンテク)|ほか

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映画「未来世紀ブラジル」  監督:テリー・ギリアム

上

 SFコメディだが、とてもシリアス。
 未来のどこかの国の話。(映画製作年1985年)
 この国では、国民のあらゆる個人情報が日々徹底的に掌握・管理され、国民は全体主義的に支配されている。

1-0_20180414110246946.jpg これをつかさどるのが情報省。(話の舞台となる組織)
 省というからには行政機関の一つのようだが、テロ対策に対応できる武力(警察機能)と、闇の裁き(公正な法なき裁判機能)を持ち、よって一省庁でありながら国家権力として絶大な力を持っている。(司法府・立法府は映画に出てこない)

 話は、日々膨大に発生する、行政手続き遂行に全力を注ぐ「役人」だけで事は終始する。彼らの視野に、国民や公正なんてハナから無い。これがこの映画の怖さの主因。

 ある日、その膨大な行政手続きのひとつに書類記載ミス(人名の間違い)が発生した。これがこの物語の発端だった。
 このミスによって、無実の男がある日突然、テロ容疑者として情報省情報はく奪局にて拘束され、彼らの手による拷問の末、男は死亡。
 この検挙時費用を、情報省は男の妻に過大請求したため、後日、省は払い戻ししなければならなくなった。(これもミス)
 ここで登場するのが主人公サム。サムは払い戻しのために男の妻に会いに行くことになった。
 サムは情報省記録局の役人。(省内では情報はく奪局が出世コースで、記録局の人材は落ちこぼれらしい)

2-0_20180414110435870.jpg サムは出世を望まない男。時折見る夢の世界に浸っている。その夢は、美しき女性が登場し、サムは背に翼があり、悠然と空を飛ぶスーパーマン。サムは夢が覚めても、夢の女性に恋してる。

 その女性にそっくりな女(トラックドライバー)が、記録局の入口カウンターに来ていた。サムはこれを目撃する。
 この出会いがサムの平凡な人生を一変させることになった。
 その女は、人名間違いで殺された男の部屋の階上に住んでいて、事の次第を知る女であった。女は残された妻に代わり情報省記録局に書類手続きに来ていたのだった。
3-0_20180414110832b25.jpg
 一方、はく奪局は、省のミスのすべてを隠すため、この女の逮捕に踏み切った。
 これを知ったサムは、この女の身を心配し、役人の職を投げ出し彼女に近づき、そして一緒に逃走する。サムは勇敢であった。

 もうひとつ、サムの人生を変える出会いがあった。
 その男の名はタトル。これぞ、はく奪局がミスなく書類に記載すべき名であった当のテロ容疑者である。
 タトルの容疑行為は、ビルマンションの不法な配線配管修理。なぜ不法か? この国ではこのサービスは国が直接提供するサービスであるから。(この国では、パイプ、チューブ、ダクトによって家々は通信回線、電気ガス上下水道、空調のサービスを受けているが、情報省が日々掌握すべき個人情報を得続けるには通信回線を管理下に置いておかねばならない。しかしパイプ、チューブ、ダクトがどこも、ぐちゃぐちゃに入り組んでいて、どれが通信回線かすら不明な状態。だから配線配管修理は一括して国営なのかな)
 このタトルがサムの部屋の配線配管修理に現れたのである。
 くわえてタトルは、高層ビルからワイヤーを使って地上に滑り降りる、スーパーマンのように謎の男。

4-0_2018041411120562f.jpg 結局、サムは情報省はく奪局に逮捕され拷問を受ける。
 その最中、サムはタトル率いる一群が彼を救いに来る幻想をみる。
 そして、ついに精神を破壊されたサムは、幸せな夢を見る。それは彼がこれまで見てきた夢物語の、そのハッピーエンドだった。

 ちなみに、この映画の製作年1985年とは、一般的にはオフィスにパソコン(社内LAN)があるかないかの時代、それも16ビットのパソコンであった。世はインターネットやコンピュータによる高度情報化社会への憧れがあった時代。(同時に不安もあったが、ネット上の個人情報についての目立った見識はなかった)
 当時、そんな新しい時代感覚を反映した本作に驚きと斬新さ(アナログ感覚も含め)を覚えたが、今観るとさすがに、その辺はあまり意識に上がらず、情報省の人権無視の横暴さが、行政手続きの中で淡々と行われる怖さを感じます。



オリジナルタイトル:Brazil
監督:テリー・ギリアム|イギリス|1985年|142分|
脚本:テリー・ギリアム 、 トム・ストッパード 、 チャールズ・マッケオン|
撮影:ロジャー・プラット|
出演:サム・ローリー(ジョナサン・プライス)|ジル・レイトン(キム・グライスト)|アーチボルド・ハリー・タトル(ロバート・デ・ニーロ)|ミスター・カーツマン(イアン・ホルム)|アイダ・ローリー(キャサリン・ヘルモンド)|スプー(ボブ・ホスキンス)|ジャック・リント(マイケル・パリン)|ミスター・ウォーレン(イアン・リチャードソン)|ミスター・ヘルプマン(ピーター・ヴォーン)|ドクター・ジャフェ(ジム・ブロードベント)|


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映画「トラスト・ミー」  監督:ハル・ハートリー

上

 高校生の女の子マリアと、30歳過ぎの独身マシューとの「純愛物語」風喜劇。

1-0_201804081006385b6.jpg かつ、マリアとマシューそれぞれの家の、子離れできないひとり親と、親離れできない子との、愛の絆の物語。
 とは言え、その絆とは時に、マリアの母のマリアへの、マシューの父のマシューへの、過度な介入であり、家庭内モラル・ハラスメントである。(マリアの父親は映画冒頭、死去。)
 それでも、マリアもマシューも、家では良い子であろうとしている。
 だが、そうそう子供ではない高校生と、かたや30過ぎの男。ともに、幼いと言えば実に幼い。

 この映画、賢者もスーパースターも出てこない。
 極々、普通の人の、その弱い所の内面を優しく可笑しくして見せる。
 ここら辺がハル・ハートリー監督の持ち味かな。

 マリアは、アメフト部の男の子と付き合っていて、妊娠してしまうが、それを聞いて若い彼は逃げた。
 母親に言わせれば、マリアはその方面の知識があまり無かったらしい。マリアは友人に相談して堕ろすか悩んでいる。

2-0_201804081008492c8.jpg マシューはと言えば、職を転々としている。(過去には刑務所にも入った)
 テレビ組み立ての小さな工場で、おばさん工員に交じって働いているが、マシューはテレビが嫌いで辞めてしまう。
 父親の紹介で今度はテレビ修理の店で働き始める。
 相変わらずテレビは嫌いだが、マリアに求婚した以上、今後の生活がかかっている。
 
 さてお話の顛末は観てのお楽しみ。
オリジナルタイトル:Trust
監督・脚本:ハル・ハートリー|アメリカ、イギリス|1991年|107分|
撮影:マイケル・スピラー|
出演:マリア(エイドリアン・シェリー)|マシュー(マーティン・ドノヴァン)|マリアの母ジーン(メリット・ネルソン)|マシューの父ジム(ジョン・マッカイ)|マリアの姉ペグ(イーディ・ファルコ)|

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映画「未知への飛行」  監督:シドニー・ルメット

上
米ソ間のホットラインと米国大統領

 1964年製作の米ソ冷戦時代のSF映画。
 話は緊迫感がラストまで続き、112分一気に観せます。 

1-0_20180328172332b89.jpg アメリカ空軍のB-58爆撃機がモスクワに核爆弾(水爆)を投下するまでの話を、ホワイトハウス、ペンタゴン、ネブラスカ州オマハの戦略空軍司令部、およびモスクワへ進撃するB-58爆撃機の4者間で行われる指示/連携を描く一方、ホワイトハウスとソ連側とのホットラインでのやりとりを映画は観せていく。

 しかし、これはアメリカがソ連に仕掛けた戦争(奇襲攻撃)ではなかった。
 空軍司令部にある軍事情報集中センターの、電子機器モジュールの誤作動が原因で、モスクワ核攻撃の司令信号が、洋上上空にいた核爆弾搭載のB-58爆撃機へ発信されてしまったのだ。
 モスクワへ進路を取ったB-58編隊へ、軍司令部は慌てて交信しようとしたが、ソ連の常設の電波妨害で交信不能。
 そこでしかたなく、軍はB-58編隊を自軍ジェット機で撃墜しようとしたが、ジェット機は燃料切れで相次いで海に墜落。
 そうこうするうちに、B-58はある一線を越えてしまう。
 ある一線とは、進撃ルート途中のある一線を越えてしまうと、例え大統領であろうが、攻撃司令の解除が出来なくなる地点。
 つまり交信で攻撃中止を伝えたとしても、それは敵の仕業(偽情報)だとして信じるなと、空軍兵士は徹底的に教え込まれている。

 ホワイトハウス(その地下室)には、アメリカ合衆国大統領(ヘンリー・フォンダ)と通訳のバック(ラリー・ハグマン)の2人だけ。そしてソ連とつながる電話(ホットライン)がひとつ。(ソ連側については、映画は電話音声でしか表現しない)
 ペンタゴンや空軍およびソ連高官とのやり取りの中で、大統領が出した苦渋の決断は、B-58編隊撃墜をソ連へ依頼したことであった。

 ソ連軍は、ジェット戦闘機や地対空ミサイルなどで、B-58、4機を撃墜したものの、その4機はいずれも核爆弾を積んでいない機体であった。
 ソ連軍の攻撃をかわした、編隊長グレイディ大佐が乗る核弾頭搭載のB-58一機は、モスクワへと突き進む。
 ソ連側はもう打つ手が無い。B-58はあと数分でモスクワ上空に達するのであった。
 そして、ここで大統領がとった二つ目の苦渋の決断とは、ソ連を納得させるための驚愕の司令であった・・・。

 観終えて思うのは、米国大統領のこの最後の決断は、果たしてソ連の納得を得られるのだろうか。
 大統領の意思に反して、ここから米ソの核戦争が始まるのではないだろうか。
 
 核爆発による電磁パルス(EMP)発生で起こる電子機器の誤作動について。
 1950年代、核実験が行われた際、近くの米軍軍事施設の電子機器に不具合が生じたらしい。また1962年、太平洋上空での核実験で1400キロ離れたハワイで警報機、信号機の誤作動がみられたらしい。そして現在も各国で電磁パルスの軍事研究が行われているらしい。(2018.3.25朝日新聞、想定外を考える「電磁パルスで機器誤作動」)
 こんなことを想定すると、誤作動による、あるいは意図的に起こす誤作動で、今後、紛争が起きる可能性は大だ。

 1959年、アメリカをはじめとする西側との平和共存路線を模索してのフルシチョフの訪米(雪解け)も、1960年のU2型機事件※で米ソの平和共存は暗礁に乗り上げた。(1961年ベルリンの壁構築、キューバ危機と米ソの平和共存が崩れる)
 U2型機事件の4年後の本作は、(シリアスなSF映画であるだけに)、話は牧歌的に思える。

 本作と同年製作の、似たテーマの映画に、スタンリー・キューブリックの「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」があるが、これは喜劇仕立てであったがために救われている。(下線部から記事をご覧いただけます)

 ※U-2撃墜事件とは、1960年にソ連を偵察飛行していたアメリカ合衆国の偵察機、ロッキードU-2が撃墜され、偵察の事実が発覚した事件。その後、予定されていたパリでの米ソ首脳会談が中止されるなど大きな影響があった。(wikipediaによる)

オリジナルタイトル:Fail Safe
監督:シドニー・ルメット|アメリカ|1964年|112分|
原作:ユージン・バーディック 、ハーヴェイ・ホイラー著「未確認原爆投下指令/フェイル・セイフ」
脚本:ウォルター・バーンスタイン|撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド
出演:アメリカ合衆国大統領(ヘンリー・フォンダ)|ブラック将軍(ダン・オハーリー)|グロテシェル教授(ウォルター・マッソー)|ボーガン将軍(フランク・オーヴァートン)|バック(ラリー・ハグマン)|グレイディ大佐(エドワード・ビンズ)|ラスコブ下院議員(ソレル・ブック)|カッシオ大佐(フリッツ・ウィーヴァー)|スウェンソン国防長官(ウィリアム・ハンセン)|コリンズ(ドム・デルイーズ)|フォスター(ダナ・エルカー)|ゴードン・ナップ(ラッセル・コリンズ)|

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映画「はじまりのうた」 監督:ジョン・カーニー

上

 今年に入って3か月間に観た映画のうちで、一番のいい映画。良く出来ている。
 ニューヨークを背景にしたラブロマンス映画として観ていいのですが・・。

1-0_2018032013400674e.jpg この映画の一番の魅力は、ソングライターを目指すグレタ(キーラ・ナイトレイ)が自作曲を歌うシーン。
 キーラ・ナイトレイが歌う、そのかすれ声の歌が朴訥で儚げで、なかなかいいのだ。
 そういうシーンはいくつもあるが、特に、
 映画冒頭、小さなライブハウスに客として座っていたグレタが、突然ステージで歌う羽目になるシーンの曲「ア・ステップ・ユー・キャント・テイク・バック」(1)(上の画像)と、
 別れた彼氏デイブに電話で聴かせる曲「ライク・ア・フール」(2)と、
 そして学生の頃にデイブの前で歌った曲「「ロスト・スターズ」(3)が良い。
 まず聴いてほしい。
 本作のオリジナル・サウンドトラック(HMV&BOOKS onlineの試聴こちら)の中の12曲目が(1)、7曲目が(2)で、5曲目が(3)です。

 作った歌が、まだ自分の中だけにいる時のガラス細工のような至福感((1)の曲)や、あたかも天からの啓示で歌が生れて輝くその一瞬の時の((2)の曲)や((3)の曲)に、思いを馳せて欲しい。(監督は歌作りを知っている人間だな)
 この3曲を聴いてグッと来なきゃ、この映画の良さの半分しか楽しめない。(と思う)

2-0_20180320134334f6b.jpg 次いでこの映画に、「ビジネスの成功に走る音楽業界」が「歌自身が持つ本来の魅力」を軽んじることへの苦言が、本作に織り込まれていることに注目したい。
 それは、音楽プロデューサーのダンと、ダンが創設したレーベル会社の社長サウルとの確執で表現されている。(これでダンはついに首になる)
 また監督は、音楽業界への苦言を、グレタと彼氏デイブとの恋愛関係にも影響させている。

 さてグレタとデイブとの関係だが、それは大学時代からの付き合い。ともに歌を作り歌うことが好きな軽音楽サークルの一員だった。
 グレタの作詞作曲の才能に嫉妬するデイブだったが、歌唱力はデイブの方が断然巧い。
 卒業後デイブはミュージシャンの道を歩み、ついにメジャーデビューを果たす。レコード会社はふたりが住む広いアパートも用意した。
 だがこの頃からグレタとデイブの間に亀裂が生じ始める。きっかけはデイブの浮気。デイブはグレタから去った。
 そして水面下でのもうひとつの亀裂は、売上至上志向の音楽業界がするサウンドプロデュースに対するふたりの意見の違い。

 デイブが去ったのちに、グレタは苦しい胸の内をその場で作った自作曲「ライク・ア・フール」(2)に託し電話でデイブに聴かせた。
 この事で、デイブは我に返り、結局グレタの元に舞い戻るのである。(改めてグレタの作る歌に惚れもした)
 そして我に返ったデイブは自身の新作アルバムに、学生時代にグレタが作った「ロスト・スターズ」(3)を入れた。

3-0_20180320140809341.jpg ふたりの再会時に、その曲をグレタに聴かせるのだが、グレタはそのアレンジが気に入らない。「この売れ線アレンジは私の歌に合わない」と。二人の関係は戻りそうにない。
 グレタ:「制作段階で曲の良さが消えちゃってる。この曲バラードなのにポップスになってるわ」
 「でもヒットさせたいだろ」「なぜ?」「君の作った曲が売れたらすごい」「だけど曲の良さが失われたら意味ないわ、曲は繊細よ」「でもライブでは盛り上がるんだ、一気にヒートアップする」「・・・・・」
 ラスト近く、デイブは女性ファンで満席のライブコンサートにグレタを招待し、「ロスト・スターズ」をグレタ風にギター弾き語りで歌って見せてみせた。観客は大いに感激している。
 グレタはこれをステージの袖で聴いたあと、会場を出、夜の街を自転車で走る、微笑みを浮かべて。

 ストーリーの構成が面白い。
 グレタがライブハウスで突然用意もなく歌う羽目になるシーン、映画はこの同じシーンをストーリーが進むなかで3度繰り返す。
 1度目は映画冒頭にあって、このシーンでグレタが無名のソングライターだと分かる。
4-0_20180320140943a52.jpg 2度目はグレタがいるライブハウスに、音楽プロデューサーのダンが偶然に居合わせ、グレタの自作曲に惚れるシーンとなる。
 この出会いは、ダンがグレタをシンガーソングライターとしてプロデュースすることへと発展し、また、歌に対するふたりのセンスが一致して、いつしか歳の差のある「淡い恋らしきもの」へと進む。
 3度目は次にいう話の帰着シーンとして出てくる。
 彼氏デイブと別れ、悲しみに沈むグレタを、学生時代からの音楽仲間で現在ストリートミュージシャンのスティーヴに救われるが、グレタは引きこもりがち。
 そこで、スティーヴが自分が出演するライブハウスにグレタを連れ出したことで3度目のシーンとなる。つまりスティーヴが突然、客にグレタを紹介し、座って聴いてい彼女を無理やりステージに上げたのだった。(上記画像のシーン)

5-0_20180320141057a4a.jpg そして映画はもうひとつのストーリーを用意している。
 グレタと音楽プロデューサーのダンは意気投合し、ダンのもとでアルバムのレコーディングが始まる。
 だが、そのデモテープは、ダンが創設したレーベルの社長サウルに否定されるが、グレタとダンはネットでアルバムを発表し、絶大なフォロー数と多くのダウンロード数を得ることになった。(ラストのエンディングまで観てね)
 そして次回のアルバムはヨーロッパで野外録音しようとか話は進むのです。



 ちなみに、グレタとデイブとダン、この三人の関係はどうなるか、気になるところ。
 デイブのコンサートのあとグレタは、ダンと一緒に好きな歌を聴き合った‎iPhone二股ケーブルを郵送でダンに送り返した。(巧い脚本!)
6-0_20180320141217c2d.jpg ついでに、グレタを助けるスティーヴにも注目してあげよう。いい男だよ。

 なにしろこの映画、多くのことを語っているので、例えばダンの家族の家庭不和に視線が行き過ぎると、映画の良さが見えてこなかったりする。
 とは言え、その家庭不和によって家を出たダンは精神的に参ってしまい、プロデューサーの仕事に専念できず、ヒット曲を産み出せないスランプにいた。そんな中で、酔っ払って街をうろついて、ふと入った店でダンはグレタと出会えたのであった。
 スランプ以前のダンはラップ・ミュージシャンをスターダムに押し上げたりと、著名なプロデューサーであった。そのラッパーはダンへの感謝の気持ちで、グレタのアルバムを制作する資金を援助するのである。
オリジナルタイトル:BEGIN AGAIN
監督:ジョン・カーニー|アメリカ|2013年|104分|
脚本:ジョン・カーニー|撮影:ヤーロン・オーバック|
出演:グレタ(キーラ・ナイトレイ)|音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)|グレタの彼氏デイブ・コール(アダム・レビーン)|グレタの学生時代からの友人スティーヴ(ジェームズ・コーデン)|ダンが創設したレーベルの社長サウル(ヤシーン・ベイ)|ダンの娘バイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)|ダンの妻ミリアム・ハート(キャサリン・キーナー)|ダンがスターダムに押し上げたラップ・ミュージシャンのトラブルガム(シーロー・グリーン)|ほか


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映画「幸せをつかむ歌」 主演:メリル・ストリープ  監督:ジョナサン・デミ

上

01-.png 女優メリル・ストリープが貧乏なロックミュージシャンを演じる映画。

 30歳代で離婚し、家庭を後にしたリッキー(メリル・ストリープ)が、その後20年間、家庭を一切顧みず、50歳半ばになって、ある事をきっかけに初めて家族と再会する話です。

 ある事とは、リッキーが産んだ娘ジュリー(メイミー・ガマー)が、ジュリーの夫の浮気が原因で精神的に参ってしまい出戻った事。
 ジュリーの引きこもりは激しく、元夫ピート(ケヴィン・クライン)や再婚の奥さんでは手におえず、ピートがリッキーにヘルプの電話をしたことから物語は始まる。

 あわせてこの映画、登場人物の設定を対極的に対比させ、階層社会の上と下や、成功者と敗者のコントラストをはっきりと見せます。
 ただし人生、幸せか不幸せかは、階層の上下ではないことも映画は語ります。

 その昔、リッキーはピートとの結婚後も3人の子を出産後もロックミュージシャンになる夢を抱き続けていた。かたや夫ピートはビジネスでの成功を目指していた。
 そして離婚後20年ほどが経ち、リッキーは貧乏バンド生活で格安モーテル住まいの独身。夫ピートはビジネスに成功し大邸宅住まい、富裕層の黒人女性を妻にし、妻はリッキーが産んだ子3人を育てあげた。

 もう少し、お話のことを言うと・・。 
 1970年から1980年代、ロックが一番輝きロックしていた頃、リッキーはピートと結婚した。
 リッキーはきっと育児や家事にも専念していたのだろう。(このころリッキーは白人中流以上の層にいた)
 しかしリッキーはロッカーになりたいという若いころからの夢を捨てきれず結局、夫婦の関係は崩れ、子たちを残して家を出た。
 
 その後、リッキーはアルバムを一枚出すまでには至ったが、あとが続かなかった。
02-.jpg そして今、ライブハウスでRICKI AND THE FLASHというバンドで歌っている。(演奏曲はこちら映画公式サイト、外部リンク)
 RICKI AND THE FLASHは、有名曲をカバーするしがないバンドだが、いい演奏をする。店の客も乗っている。
 リッキーは、バンドのギタリストのグレッグ(リック・スプリングフィールド)と、いい仲。互いにバツイチ似たような境遇。
 ライブハウスの客は、バンドメンバーたちと同じ50歳代、そして同じような下層生活レベル。また、バンドも客たちも、ごく普通に白人黒人が混じっている。

 一方、ピートはモーリーン(オードラ・マクドナルド)と再婚し、今や高級住宅街(ゲーテッドコミュニティ)に大きな家を構えている。
 ピート夫妻を取り巻く人々は上流階級の白人たちだけで、黒人は妻のモーリーンだけのようだ。
3-0_2018031821434115c.jpg リッキーが産んだ子たちは、出戻りのジュリー、ゲイのアダム、近々結婚するジョシュ。
 兄妹間の人間関係は悪いし、父親ピートとの関係も悪い。(継母モーリーンとの関係は描かれていない)
 そんななかにリッキーが20年のブランクののち急に現れたわけですから、ジュリーがリッキーを無視するのは当たり前。

 さてさて、お話はどう展開しますやら、それは観てのお楽しみ。ハッピーエンドで終わります。
 本作の監督ジョナサン・デミについて言えば、2008年の作「レイチェルの結婚」の方が出来がいい。題名下線部から記事をご覧ください。
オリジナルタイトル:RICKI AND THE FLASH
監督:ジョナサン・デミ|アメリカ|2015年|101分|
脚本:ディアブロ・コディ|撮影:デクラン・クイン|
出演:リッキー愛称リンダ(メリル・ストリープ)|元夫ピート(ケヴィン・クライン)|出戻った娘ジュリー (メイミー・ガマー)|リッキーの彼氏グレッグ(リック・スプリングフィールド)|ピートの妻モーリーン(オードラ・マクドナルド)|息子ジョシュ(セバスチャン・スタン)|ジョシュの結婚相手エミリー(ヘイリー・ゲイツ)|息子アダム(ニック・ウェストレイト)|

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映画「ボッカチオ'70」 監督:マリオ・モニチェリ、フェデリコ・フェリーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、ヴィットリオ・デ・シーカ

上







 イタリア喜劇映画です。
 4人の監督による4作品オムニバス。それぞれに主役の女優を立てて、その女性の奔放さを語ります。
 タイトル名「ボッカチオ'70」の「'70」は、本作製作年の8年後はこうなるかも、と語り、笑いを誘おうとしているのでしょうか。

 第1話「レンツォとルチアーナ」と第4話「くじ引き」は、イタリアの庶民層が主人公で、第2話「アントニオ博士の誘惑」は上流階級、第3話「仕事中」は貴族のお話。

1-0_20180310162557725.jpg いま観かえすと、第1話「レンツォとルチアーナ」が一番にいい出来だ。
 若い男女のレンツォとルチアーナのすなおさが清々しいし、1962年当時のイタリアのつつましい都市生活が垣間見れる。
 妊娠したと思い込んでの急ぐ結婚、親戚や職場に内緒で、会社帰りに立ち寄るようにして挙げるスピード略式結婚式と、この式を挙げる教会の要領いい対応。(ちなみに結婚行進曲は教会内にあるジュークボックスから流れる)

 式を挙げたその日から、新郎レンツォはルチアーナの狭い実家(アパートで5人家族)の一員となり、新婚を味わえないと嘆くレンツォ。結局、共稼ぎの2人が越した先は当時としては、未来をちょっと感じさせる新築高層のアパート。

 ふたりが勤務するビスケット工場、嫌な上司、退職金、転職、会計士資格試験準備、ローン返済計画、新婚旅行計画などのエピソードは、今も観る者の共感を呼ぶことでしょう。
 ふたりは引っ越し、転職し、レンツォは給料は少し上がったが夜勤の仕事。朝帰りの夫を待ってルチアーナは朝、出勤していきます。


20_20180310162707a53.jpg 第4話の「くじ引き」の主役はソフィア・ローレン。一般的にはこの第4話がお気に入りになるかもしれない。
 ソフィア・ローレン演ずるゾーエは、射的場の女。
 田舎のこの町で売られる闇くじで、これに当選するとゾーエとベッドを共にすることができる。だから町中の男たちはワクワク。
 今回のラッキー男は教会の童貞中年男、そしてゾーエの心を射抜いた男も現れる。イタリアの田舎の粗野を味わいましょう。

 第2話の「アントニオ博士の誘惑」は、初めて観ると意表を突いた話で、それなりに面白いかもしれないが、改めて観ると、社会的な道徳的な既成概念を単純化先鋭化していて(それで笑いを取ろうとしているが面白くない)、なかには偏見や差別につながる表現もあり、フェリーニ作だが駄作。
  
 第3話の「仕事中」は、ヴィスコンティの出自である貴族の「結婚」をテーマにした室内劇仕立ての話。
 まだ新婚の域なのに早や倦怠期中の夫婦、資金力ある貴族の親の庇護から抜け独立し、仕事をすると言い出した主人公プーペ夫人(ロミー・シュナイダー)のお嬢様的思いつき、娼婦と遊びそれが新聞ネタになった夫はプーペの親の金にすがる。
 そんな夫婦の駆け引きを描きます。
製作年:1962年|上映時間:165分|製作国:イタリア、フランス|
第1話レンツォとルチアーナ」 Renzo e Luciana
監督・脚本:マリオ・モニチェリ、共同脚本:ジョヴァンニ・アルピーノ、イタロ・カルヴィーノ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ、撮影:アルマンド・ナンヌッツィ、主演:マリサ・ソリナス、ジェルマーノ・ジリオーリ
第2話アントニオ博士の誘惑」 Le tentazioni del dottor Antonio
監督・脚本:フェデリコ・フェリーニ、共同脚本:エンニオ・フライアーノ、ゴッフレード・パリーゼ、トゥリオ・ピネリ、ブルネロ・ロンディ、撮影:オテッロ・マルテッリ、主演:ペッピーノ・デ・フィリッポ、アニタ・エクバーグ
第3話仕事中」 Il lavoro
監督・脚本:ルキノ・ヴィスコンティ、共同脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ、撮影:ジュゼッペ・ロトゥンノ、主演:ロミー・シュナイダー、トーマス・ミリアン、パオロ・ストッパ
第4話くじ引き」 La riffa
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ、脚本:チェーザレ・ザヴァッティーニ、撮影:オテッロ・マルテッリ、主演:ソフィア・ローレン

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一話 (京都、旅行、美味など)      書評   美術

映画「誘惑されて棄てられて」 イタリア映画  監督:ピエトロ・ジェルミ

上
ペッピーノとアニェーゼ

 「誘惑されて棄てられて」とは、なんとも悲しい題名ですが、これはビターなドタバタ・コメディです。
 お話は、シチリアに住む2人、16歳の娘アニェーゼとペッピーノが結婚に至るまでの、てんやわんやな物語。
 ただしラブロマンスではない。アニェーゼとペッピーノは互いに敵対しながらも、結婚してしまいます。なぜ?

1-0_2018030510014608b.jpg 脚本は監督自身の作。監督は本作の舞台、イタリアの離島シチリア島※の社会規範を喜劇仕立てで批判しています。(※シチリアはイタリアの自治州)

 そのシチリアの社会規範を体現する役回りが、アニェーゼの父親ヴィンチェンツォ。この喜劇の主人公です。
 家長であるヴィンチェンツォは、唯一の誇りである「名誉」を最優先にして生きる男。(シチリアの社会規範、その1)
 だから世間体を悪くすることには断固立ち向かうのです。

 さて、物語の切っ掛けは、アニェーゼの姉で太っちょのマティルドに、父が認める許婚(いいなずけ)のペッピーノがいるのですが、このペッピーノが美人のアニェーゼに手を出して妊娠させてしまったことでした。
 苦しむアニェーゼは教会で懺悔しますが、ことはどうにもなりません。
 ヴィンチェンツォにとっては、このことが世間に知れては、彼の名誉(家名、家長責任等)が大きく傷つきます。こうなったら、何としてもアニェーゼとペッピーノを結婚させなければ・・。

 一方、ペッピーノは開き直ります。婚約者マティルドをないがしろにして置きながら、婚前交渉を許したアニェーゼを尻軽女と罵り、俺はアニェーゼとは結婚しないと、彼の両親にわめきます。

 これを聞くに及んだヴィンチェンツォは怒り心頭、怒髪天をつく。アニェーゼも愛想が尽きました。
 姉のマティルドとの婚約は流れ、アニェーゼは今後誰とも結婚できないかもしれない。憎っくきペッピーノ!

 そこでヴィンチェンツォは、いとこの弁護士に極秘で相談します。
 弁護士は「これは未成年誘惑罪だ、ペッピーノはアニェーゼと結婚する以外に罪は免れない。しかし法の力で結婚させては噂の種になるだろ?」と言うと、「奴を殺す!」と怒鳴るヴィンチェンツォを制して「いや、それでは殺人罪で20年になる」
 しかしと、弁護士は刑法を読み上げる。
 「法には『自己の配偶者、娘、姉、妹が不法なる肉体関係を結ぶ時、これを発見し激昂の上殺害せる者は、3年以上7年の刑に処す』とある」と・・。
 つまり、シチリアでは「名誉を汚された」場合、殺人の罪はとても軽いのです。(シチリアの社会規範、その2)
2-0_20180305100559139.jpg
 ヴィンチェンツォは早速、気弱な長男アントニオに拳銃を持たせ、隠れ住むペッピーノを射殺しに行かせます。
 一方、これを知ったアニェーゼは警察に告げ、警察が現場に急行し二人を連行します。人殺しは回避できました。

 そして事件は殺人未遂事件として裁判になります。
 ペッピーノはアニェーゼはもとから淫乱な女だったと証言します。(そういうシーンが挿入されます)
 ま、とにかく、これは喜劇ですから、裁判シーンは可笑しく混乱します。何も解決しません。

 ヴィンチェンツォは、徐々に世間に漏れ出す不名誉にいら立ちを隠せません。
 そんななか、彼にひとつのアイデアが浮かび、ペッピーノ一家を巻き込んで、自力で解決しようとします。
 つまり、公権力に頼らず、自分の力で問題を解決しようとします。(シチリアの社会規範、その3)
 
 先に書いた通り、どの道、ペッピーノの未成年誘惑罪はアニェーゼと結婚する以外に罪を免れないのですが、しかし法の力で結婚したとなれば、ヴィンチェンツォは笑い者になってしまうわけです。
 これを切り抜けるアイデアは、ペッピーノによる強引な誘拐結婚という大芝居でした。衆目を集める狙いで、町の祭りのさ中に行われました。これでヴィンチェンツォに限らずペッピーノの両親も面目が立ったわけです。??
 その社会の人々にとって、正しく至極当たり前だとして、日々空気のように存在する「規範」が、おかしい事もあるわけです。
 それは本作のように、シチリア独特の風習や法律であったりします。広くみれば、その規範の範囲はひとつの国、あるいは、ある時代であったりします。

3_2018030510100064a.jpg ちなみに、姉のマティルドは父親から貧乏貴族の独身男性(→)を紹介されますが、ペッピーノ事件に翻弄されて貴族男は去りました。かわいそうにマティルドはその後、修道院に入ります。
 
 町の警察署で、壁に貼ってあるイタリア全土の地図を前にして、警部がシチリア島を手で隠しながら嘆くシーンが印象に残ります。
 もうひとつ印象に残るのは、アニェーゼ役の女優ステファニア・サンドレッリがとても妖艶。その後この女優は妖艶さが売りになったそうです。
オリジナルタイトル:Sedotta e Abbandonata
監督:ピエトロ・ジェルミ|イタリア|1963年|115分|
脚本:ピエトロ・ジェルミ 、ルチアーノ・ビンチェンツォーニ 、アージェ&スカルペッリ|
撮影:アイアーチェ・パロリン|
出演:アニェーゼ(ステファニア・サンドレッリ)|ペッピーノ(アルド・プリージ)|アニェーゼの父ヴィンチェンツォ(サーロ・ウルツィ)|アニェーゼの姉マティルド(パオラ・ビッジョ)|アニェーゼの兄アントニオ(ランド・ブッツァンカ)|ほか

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映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」  監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ

上


 これはなかなかいい映画、見ごたえもある。(ビターな喜劇です) 
 スーパーヒーローの賞味期限が過ぎ、ハリウッドから見放された映画俳優リーガンが、過去の栄光にさいなまれながらも、演劇の道で再起しようする話。

1-0_20180224204517a23.jpg 主人公リーガンの心模様がよく描かれています。
 そしてカメラが実に元気がよい。
 楽屋裏の狭い通路を行く俳優を、揺れずブレずに追いかけるシーンが幾度もある。
 またシーン遷移が途切れなく滑らか、この工夫が楽しい。
 さらには、VFX(特撮)でリーガンの超能力(?)が表現される。

 では、お話です。
 リーガン(マイケル・キートン)は、かつて、スーパーヒーロー映画「バードマン」シリーズで絶大な人気を得た映画俳優だったが、乗りに乗った波は消え去り、今は落ち目。
 落ち込むリーガンの耳には、何かとリーガンを批判するバードマンのささやき(幻聴)が、うるさく聞こえる始末。

 しかしリーガンは負けてはいない、再起を目指す。
 レイモンド・カーヴァーの小説を舞台化してブロードウェイで上演しようと準備は進む。
 自ら脚色・演出・主演を手がけ、不足の資金は自らねん出し、プロデューサーには、リーガンの弁護士で友人のジェイクがあたる。
 現場とプロデューサー間によくあることだが、懸命だが気分屋で感情爆発のリーガンと、冷静沈着なジェイク両者の口論は絶えない。

 この2人を取り巻く登場人物。(この映画は、ブロードウェイの劇場舞台裏に集う人々の群像劇でもあります)
 リーガンの娘サム(エマ・ストーン)は父親の付き人、薬物依存症で最近まで入院していた。父娘のコミュニケーションはうまくいっていない。
 リーガンの芝居に出演する女優レズリー(ナオミ・ワッツ)は、今回ブロードウェイ初出演で胸いっぱい。
 同じく出演女優ローラ(アンドレア・ライズボロー)は、リーガンの愛人。妊娠したと言われるが・・。
 楽屋を訪れるシルヴィア(エイミー・ライアン)は、リーガンの元妻でサムの母親。2人が会うと、良かった昔を思い優しく語らうが、次の瞬間には口喧嘩しシルヴィアは去るといった塩梅。

2-0_201802242047462d9.jpg さて、リーガンは相手役に最適の男優が見つからず壁にぶち当たっていた。
 そこへ舞い込んだうまい話。
 それは、ブロードウェイ初出演のレズリーが「私の恋人マイクはどう?」という提案だった。
 その恋人とは、なんとブロードウェイ舞台俳優として著名なマイク(エドワード・ノートン)だった。
 おまけにレズリーは台本の読み合わせを、自宅でマイク相手にやっていたので、マイクはすでにセリフを覚えていた。もちろんリーガンは喜んでマイクを起用した。

 プレビュー公演が始まる。(本公演開幕前に、2〜3週間の期間を設けておこなうリハーサル的な試験公演)
 ところがこのマイク、芝居は巧いが、あまりにも自由奔放な性格。
 リーガンに対し言いたい放題を言う。リーガンは痛いところを突かれ爆発する毎日、ついに取っ組み合いのけんかとなる。
 またマイクは、舞台の小道具であるジンを本物のジンにすり替え、公演中の舞台上で飲む。これに腹を立てたリーガンは、その日の公演を途中で終わらせた。
 さらにマイクは、リーガンの娘サムに言い寄り、いつしかサムもその気になる。(口も巧い)

 そしてもう一人、リーガンにとって大変手ごわい相手が、ニューヨーク・タイムズの辛辣な演劇批評家、タビサ・ディッキンソンという女性。
 プレビュー公演も観ず、ハナからリーガンを酷評するつもりだ。元・娯楽映画俳優ごときが、ブロードウェイの舞台に立つこと自体が許せないらしい。

 ともあれ、プレビュー公演は続く。
 そんなある日、公演中、下手(しもて、舞台左脇)に下がったリーガンは衣装を着替え、次の出番を待つ間に、ちょっとタバコが吸いたくなった。
 楽屋口のドアを開けタバコを吸っていると、ドアが急に締まり、衣装の裾がドアに挟まってしまう。裾を引くが抜けない。魔が差した。時間は無い。
3-0_2018022420542668d.jpg 挟まった衣装を脱ぎ捨てると、パンツ一枚の姿。仕方ない。この格好で劇場表玄関へと向かった。そこはニューヨークの街の中。人々は「あっ、バードマン!」と口々に叫ぶ。
 なんとか出番に間に合ったリーガンは客席後方から、パンツ一丁で登場する。
 芝居が終わり、今日はいつになく熱演だったと言われるが・・。
 翌朝の新聞はこれを記事にした。それよりも、街の通行人たちによる投稿動画の拡散でネットは大騒ぎ。
 
 こんなあり様のなか、さすがのリーガンも鬱(うつ)の一歩手前になる。  
 頭の中、真っ白状態のリーガンは、現実から解き放たれた浮遊感を感じるようになった。NYの空中をバードマンになって飛んでいるのだ。
 リーガンを批判し続けてきた、心の中のあのバードマンがこの時、リーガンに大きな勇気を与えているのだった。

 とにかく何回かのプレビュー公演は劇場を満席にできた。
 そして本公演が始まる。パンツ一枚の動画のおかげで、チケット前売りは完売。プレミアムまでつく。
 その初日、ついにあの辛辣な演劇批評家も客席に現れる。

4-0_20180224205647bf1.jpg しかし、この日、リーガンはある重大な決意を持って舞台に立った。(その決意とは、観てのお楽しみ)
 その翌朝、辛辣批評家による絶賛の記事がニューヨーク・タイムズに掲載されたのだが・・・。
 ちなみにラストシーンはさらに、観てのお楽しみ。

オリジナルタイトル:BIRDMAN OR (THE UNEXPECTED VIRTUE OF IGNORANCE)
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ|アメリカ|2014年|120分|
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ 、 ニコラス・ヒアコボーネ 、 アレクサンダー・ディネラリス・Jr. 、 アルマンド・ボー|
撮影監督:エマニュエル・ルベツキ|
出演:リーガン・トムソン(マイケル・キートン)|ジェイク(ザック・ガリフィアナキス)|マイク・シャイナー(エドワード・ノートン)|ローラ(アンドレア・ライズボロー)|シルヴィア(エイミー・ライアン)|サム(エマ・ストーン)|レズリー(ナオミ・ワッツ)|ほか

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映画「鶴は翔んでゆく」 旧題名「戦争と貞操」 (1957年)  監督:ミハイル・カラトーゾフ

上


1-0_201802230931043af.jpg


 ヴェロニカとボリスは結婚を誓い合ったものの、戦争が始まり志願兵となったボリスは戦場へ、しかし彼は行方不明となる。
 ヴェロニカは後ろ髪を引かれながらも、ボリスのいとこ・マルクと結婚してしまうのだが・・。

 よくあるストーリーだが、主役ヴェロニカを演ずる女優タチアナ・サモイロワの美貌と表情が、この映画を魅力あるものにしています。
 また、カメラがいい仕事をしている。
 雑踏の中を行くヴェロニカを、俯瞰気味に構えて追い続けるシーンなど観ると、他の映画のカメラは怠けているんじゃないかとさえ思えてくる。

2-0_2018022309451751d.png

 ところが残念なことに脚本がいささか粗雑。
 話の軸足は、戦場よりも銃後の話にあるんだが、エピソードを詰め込みすぎて、その一つひとつを十分にこなせずに次へと進むためか、何やら先を急いでいる感じが否めない。そしてラストシーンは強引なエンディングだね。

 ナチスドイツによるモスクワ空襲のさ中、ヴェロニカがマルクに襲われてしまう。そののち、ふたりは結婚することになるが、タチアナ・サモイロワの悲しい表情が印象に残る。

オリジナルタイトル:Летят журавли
英語タイトル:THE CRANES ARE FLYING

監督:ミハイル・カラトーゾフ|ソ連|1957年|97分|
脚本:ヴィクトル・ローゾフ|撮影:セルゲイ・ウルセフスキー|
出演:ヴェロニカ(タチアナ・サモイロワ)|ボリス(アレクセイ・バターロフ)|ボリスの父親ヒョードル(ワシリー・メルクーリエフ)|ボリスのいとこマルク(アレクサンドル・シュウォーリン)|ボリスの姉イリーナ(スベトラーナ・ハリトーノワ)|ボリスの友人ステパン(ヴァレンタイン・ズブコフ)|ヴォロヂャ(コンスタンチン・ニキーチン)|ボリスの祖母(アントニーナ・ボグダノワ)|チェルノフ(ボリス・ココーフキン)|アンナ(エカテリーナ・クプリヤノヴァ)

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映画「ウェイクアップ!ネッド」 監督:カーク・ジョーンズ

上

1-0_20180219205348cf6.jpg これはイギリスの隣国アイルランドにある離島で起きた出来事。
 この小さな島の住人の誰かが一枚の宝くじを買い、なんと12億円を当てたのです。(約700万アイルランドポンド)

 こんな時、誰しも私が当てましたなんて言わないもの。島民は新聞記事で知りました。
 さあいったい誰が当てたのか。ジャッキーとマイケルはその誰かをつきとめようと行動に出ます。
 島で一軒の呑み屋に出かけたり、目星をつけた人々を自宅に招待してパーティを開き様子を見ましたが、それと思しき奴がいない。
 しかしパーティが終わってはたと気づいた。招待客の一人ネッドが来なかったのだ。奴は感づいたか。

 ジャッキーがネッドの家に行くと、ネッドは家のソファに座った姿で死んでいた。片手に宝くじを持って。ネッドは一人住まいなのです。
 ここでジャッキーは、マイケルをネッドに仕立てて、ネッドの賞金を横取りしようと考えます。

 宝くじの社員がヘリに乗って島を訪れます。
 島に着陸し用意された車で、その社員はネッドの家へ向かおうとしますが道が分からず海べりに出た。
 ちょうどこの時、ジャッキーとマイケルが海水浴をしていた。
 ジャッキーは道案内をしようと言い、その社員の車に乗りネッドの家へ。マイケルは着替える時間もなく慌てて裸でバイクにまたがりネッドの家へ。
 なんとか間に合って、マイケルは宝くじの社員に対しネッドを演じた。

2_20180219205648e4a.jpg そおしてジャッキーとマイケルは12億円を折半したかって? いやいや、それは観てのお楽しみ。
 ← ちなみに、映画冒頭のこのシーンに騙されないようにね。

オリジナルタイトル:Waking Ned Devine
監督・脚本:カーク・ジョーンズ|イギリス|1998年|92分|
撮影:ヘンリー・ブラーム|
出演:ジャッキー(イアン・バネン)|マイケル(デイビット・ケリー)|アニー(フィオヌラ・フラナガン)|ネッド(ジミー・キーオ)|リジー(エイリーン・ドロミー)|ほか

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映画「ガッジョ・ディーロ」  監督:トニー・ガトリフ

上

 ルーマニアの辺境にあるロマ集落にたどり着いた一人のフランス人青年、ステファン(ロマン・デュリス)。
 ロマ語もルーマニア語も解さないステファンが、なぜここへ来たのか。

 ステファンの父親は世界を旅する男であった。ステファンは父親を慕っていたのだろう。父親が旅先で録音した、遺品のカセットテープをこれまで幾度も繰り返し聴いてきた。それは哀愁あるロマの女の歌声であった。
 ステファンはその歌声の向こうに、父親が抱いた旅路のロマンを夢想した。そして、いつしかステファンはロマ音楽の魅力に取り憑かれる。ステファンはテープレコーダーと幾本ものカセットテープを持ってルーマニアへ旅立った。

1-0_20180202124406cc2.png 映画のタイトル名「ガッジョ・ディーロ」とは、ロマ語で「愚かなよそ者」を意味する。
 地元のルーマニア人も近づかないロマ集落に、ある日突然、ステファンが現れる。集落は一斉に、にわとり泥棒だなどと、ざわめき始める。

2-0_20180202124549c25.jpg そんなロマ人のなかで、ステファンに好意を抱く老人がいた。イシドールだ。
 イシドールの一人息子が警察沙汰で遠くの刑務所へ連れ去られたその日に、ステファンが集落に現れた。イシドールはしばらく会えない息子への思いを、ステファンに投影することで気が安らぐのであった。
 そうしてイシドールはなにかとステファンの面倒をみてやった。ロマ語も教えた。

 もう一人、ステファンに好意を抱くロマが現れる。サビーナ(ローナ・ハートナー)だ。ローナ・ハートナーはルーマニアの女優、歌手、作曲家。(ウィキペディアによる)
 そのうち、ふたりに恋が芽生える。ステファンはイシドールやサビーナの助けで集落に受け入れられるようになる。
 そしてステファンは、ここへ来た目的だったロマ音楽の収録を始めた。

 映画は各シーンで、ロマの素晴らしい演奏をドキュメンタリー風に見せ、また人の心あたたかくも貧しい生活の様子を伝える。
 観客はいつしか、自身もこの集落に滞在するかのような気持ちになる。(そうなれば、本作が好きになるかもしれない)

 ラスト近くになって、映画はロマに対する差別を言う。
 刑期を終えてイシドールの息子が帰ってきた。父親はじめ集落の人々は彼の帰還を大いに喜んだが、息子は自分を警察に密告したルーマニア人を酒場で見つけ襲った。
 そののち、ロマの集落を多数のルーマニア人が襲撃し、あばら家のような家々を焼き払う。この時イシドールの息子は焼死した。

 ラストシーン。
 ステファンは車に乗り、集落をあとにした。だが何を思ったのか、荒野を走る一本道の途中で車を止めた。
 そしてステファンはそっとつぶやいた。「俺ってバカだな」
 車を降り立ったステファンは、おもむろに路肩に穴を掘り、録りためたカセットテープを次々に壊して埋めた。
 その壊す音で目を覚ました女が、後部座席からむっくりと起き上がった。サビーナであった。

 たぶんふたりは、ステファンの母が待つパリへ行くのだろう。
 ステファンは大人として目覚めたのだ。
 父親が抱いた旅路のロマンをなぞってロマの人々を慕う気持ちから、目の前にいるサビーナを一人の女として愛することへと。

 映画のなかで流れるロマ・ミュージックを楽しんでください。

 ※ご参考
 1991年にはブカレスト近郊のボランタン村でロマの家100軒が数百名の暴徒に襲われ、焼き討ちに遭う事件が起きている。
 伊藤千尋・著『「ジプシー」の幌馬車を追った』p.218、1999年発行(ウィキペディアによる)
オリジナルタイトル:Gadjo Dilo
監督・脚本・音楽:トニー・ガトリフ|フランス、ルーマニア|1997年|100分|
撮影:エリック・ギシャール|
出演:フランス人青年ステファン(ロマン・デュリス)|ロマの女性サビーナ(ローナ・ハートナー)|ロマの老人イシドール(イシドール・サーバン)|その他にイシドール・サーバンはじめ、多数のロマ人素人俳優が登場する。

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映画「スペースボール」 監督:メル・ブルックス

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1-0_20180131203116a7c.jpg 「スター・ウォーズ」のパロディ版です。
 とことん、おバカなSFコメディ。気分転換したい時にでもご覧ください。
 なにしろ徹底的に「スター・ウォーズ」をおちょくってます。さらにラスト近くで「エイリアン」も出てきます。

 ウィキペディアによると、パロディ版を作るにあたってジョージ・ルーカスが快諾したとのこと。だから、躊躇なく正面切って堂々と製作していて、それが本作をいい映画にしています。笑えます。

 話は、スペースボール星人が自身の星の大気を使い果たし、ドルイデア星から大気を奪おうとする。
 スペースボール星のスクルーブ大統領(メル・ブルックス監督)と、チビのダーク・ヘルメット(リック・モラニス)は、ドルイデア星の王女・ヴェスパ姫を拉致して、ヴェスパ姫の父親・ローランド王を脅し、大気を覆い囲むバリアを解除する「暗証番号」を聞き出そうとする。
2-0_20180131203252b79.jpg ローランド王から、100万宇宙ドルの賞金を出すから姫を取り返してくれと頼まれたローン・スターとバーフは、スペースボール星人と戦うのである。
 さらには、聖者ヨーグルト(メル・ブルックス監督が二役)は、ローン・スターに力シュワルツの力(フォース)を授ける。そしてローン・スターは、ダーク・ヘルメットとライトセイバーもどきで一戦を交える。
 さてさて、このあとは、観てのお楽しみ。
オリジナルタイトル:Spaceballs
監督:メル・ブルックス|アメリカ|1987年|96分|
脚本:メル・ブルックス、 トーマス・ミーハン 、ロニー・グラハム|
撮影:ニック・マクリーン|
出演:イーグル5号の船長ローン・スター(ビル・プルマン)|ローン・スターとタグを組む乗組員、人間と犬のミックスのバーフ(ジョン・キャンディ)|ドルイデア星のヴェスパ姫(ダフネ・ズニーガ)|スペースボール星のスクルーブ大統領/聖者ヨーグルト(メル・ブルックス)|ダーク・ヘルメット(リック・モラニス)|ヴェスパ姫の父親・ローランド王(ディック・バン・パテン)|ヴェスパ姫の結婚相手・アクビ王子(ジム・J・ブロック)|ヴェスパ姫の召使ロボットのドット(ロレーン・ヤーネル)|

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映画「断絶」(1971年) 監督:モンテ・ヘルマン

上3

1-0_20180124161343139.jpg
 The Driver(ジェームズ・テイラー)とThe Mechanic(デニス・ウィルソン)、この二人の男がアメリカの各州を放浪するアメリカン・ニューシネマ。
 オリジナルタイトルは「Two-Lane Blacktop」(アスファルト舗装道路)。

 彼ら二人が乗る車は、レース仕様に改造した1955年型シボレー。モンスターなエンジンを積んでいる。兎に角、速い!
 改造車マニアやスピード狂がどの州にもいて、直線コースでスピードを競うドラッグレースが各地で日常的に行われている。
 The DriverとThe Mechanicの二人は、そんなドラッグレースを渡り歩き、レースに勝って賭け金を得ては又、次のレースを求めて各地を巡るのだ。
 二人はレースに対しとてもストイックで、その生きざまはアウトサイダー。

 この話に華を添えるがThe Girl(ローリー・バード)という家出娘。ヒッチハイクで気の向くままに放浪している。
 ストーリーは、The Girlが1955年型シボレーに拾われて進んでいく。

2-0_20180124162908edf.jpg さらにはGM製マッスルカー、ポンティアック・GTOの新車に乗る中年男、G.T.O(ウォーレン・オーツ)が登場する。
 G.T.Oは何やら孤独を背負う中年。ヒッチハイクの人を乗せては、を繰り返しながら、行く当てもなくこいつも放浪している変人。
 The Driver、The Mechanic、The Girlの若いの3人が無口なのに対して、このおっさんはヒッチハイカーにその都度、有ること無いこと口から出まかせ、よくしゃべる。

 映画は、1955年型シボレー組とポンティアック・GTOの、一般道長距離レースを軸にゆっくり展開するが、話に起承転結はない。カーアクションを求める向きは肩透かしを食らう。(ただし、ラストシーンは意味深長だ)

 おそらく映画は、語られる話(=近景)の向こうにある、1971年のアメリカを感じ取ってくれと言っている。
 つまり、映画で表現される様々な中に、作者が思う1971年のアメリカが比喩的に表現されている。それをくみ取って観てみましょう。

 ちなみに、The Driver役のジェームズ・テイラー、The Mechanic役のデニス・ウィルソンは、ともに著名なミュージシャン。
 ついでに言うと、漫画家、大友克洋の作品「ハイウェイスター」は、この「断絶」にインスパイアされたと思う。1955年型シボレーは、1950年代のトヨペット・クラウンになっている。
オリジナルタイトル:Two-Lane Blacktop|
監督:モンテ・ヘルマン|アメリカ|1971年|102分|
原作:ウィル・コリー|脚本:ルディ・ワーリッツァー、ウィル・コリー|
撮影:ジャック・デールソン|
出演:The Driver:ジェームズ・テイラー|G.T.O:ウォーレン・オーツ|The Girl:ローリー・バード|The Mechanic:デニス・ウィルソン|

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映画「国際市場で逢いましょう」(2014年) 監督:ユン・ジェギュン

上1
上2
















 朝鮮半島に住む人々の親子親戚の強い絆と、生き抜くエネルギーを描く、結末はハッピーエンドなドラマ。
 コミカルなシーンもたくさんある娯楽映画ですが同時に、朝鮮民族が背負った苦難の歴史を通史として見せてくれます。

01-_20180112134526771.jpg 話は、南北の軍事境界線で半島が分断されることになる朝鮮戦争(1950-53)で、北側に住んでいた親子6人の一家が住む場所を追われ、無数の難民の波に飲まれるところから始まる。
 世界を二分する冷戦が朝鮮半島におよぼしたこの戦争は、たまたま北や南に住む庶民にとっては、外国が絡む、降ってわいたような内戦だったのかもしれません。

 とにかく、米軍の軍艦(難民引き揚げ救助船)に、間際で乗船できなかった父親と末の妹とに生き別れとなってしまった母親と子供3人は、釜山に住む父方の叔母の家に落ち着いた。(ここが国際市場と呼ばれる商店街)
02-.png そのころ、釜山の街は米軍兵士がたくさんいて、ちょうど日本の戦後直後の進駐軍によるギブミーチョコレートの様相そのものであった。そして、北から避難した人々は釜山の人々から「アカ」と呼ばれ始める。

 主人公となる、一家の幼い長男・ドクス(ファン・ジョンミン)は、生き別れとなる間際に、父親から「私にかわってお前が家長になるんだ。家長はどんな時でも自分よりも家族のことが優先だ」と、家族の団結と幸せを任されたのであった。

 青年となったドクスはお金を稼ぐため、政府の試験に合格し、西ドイツの炭鉱に炭鉱労働者として2年間派遣される。
 その稼ぎは、家族の生活費はもちろんだが、次男のソウル大学の学費のためでもあった。
 たしかに稼ぎは良かったけれども、ドクスが落盤事故に会うといった危険な仕事でもあった。
 しかし西ドイツの地でドクスにとって見返りもあった。それは、看護師として派遣されていた、のちに妻となる韓国人女性・ヨンジャ(キム・ユンジン)と出会えたことであった。

 (このあたりの史実は下記のKBS WORLD Radio のサイトに掲載の「コリア70年 西ドイツへ向かった韓国の青年たち」に詳しいようです)
 http://world.kbs.co.kr/japanese/program/program_kpanorama_detail.htm?No=10037233

 帰国後ドクスはヨンジャと結婚したが、国際市場で商いをする叔母の店を手伝うも、ドクス一家を養う金は生まれない。
 ドクスはベトナム戦争最中のベトナムへ兵隊としてではなく出稼ぎに行く。(韓国軍のベトナム派兵は1964-72)
 がしかし、現地でドクスは片足を負傷し義足となった。

3-1_201801121349260c0.png それからまた時が経ち、弟妹も結婚し孫達も生まれ一家は大人数となった。
 そんなころ、南北分断の結果、離散してしまった家族との再会の場として、テレビ番組が放送されていた。
 これに出演したドクスは、父親には会えなかったものの、幸運にも末の妹と再会できた。
 妹はアメリカ人の養子となってアメリカにいたのであった。

 余生を生きる今、ドクスは回想する。 父親から「私にかわってお前が家長になるんだ。家長はどんな時でも自分よりも家族のことが優先だ」と、家族の団結と幸せを任されたことが、なんとか成し遂げられたと・・。


下

オリジナルタイトル:국제시장
監督・脚本:ユン・ジェギュン|韓国|2014年|127分|
撮影:チェ・ヨンファン|
出演:ドクス(ファン・ジョンミン)|その妻ヨンジャ(キム・ユンジン)|ドクスの親友で西ドイツ、ベトナムにも一緒に行ったダルグ(オ・ダルス)|ドクスの父親(チョン・ジニョン)|ドクスの母親(チャン・ヨンナム)|ドクスの叔母(ラ・ミラン)|ドクスの上の妹クッスン(キム・スルギ)|ほか

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映画「希望のかなた」(2017年) 監督:アキ・カウリスマキ

上

1-0_2018010321382586f.jpg アキ・カウリスマキ監督「節」が楽しめます。
 フィンランドにたどり着いたシリア難民青年の話ですが、深刻さは余り感じ無い軽い作りです。
 加えて、監督独特の、いつものトボケた可笑しさも織り込まれています。でも、難民流入問題を軽んじているわけではありません。
 また、監督の映画が好きな方は、常連俳優たちの登場や、監督好みの音楽が楽しめます。
 
 青年カーリドは、戦乱のシリア北部の都市アレッポを離れ、トルコ、ギリシャ、ハンガリー、ポーランドを経てフィンランドのヘルシンキの港にたどり着く。
 カーリドは早速、警察に出向き難民申請を願い出て、難民の一時滞在収容施設に落ち着いた。
 施設にはシリア、イランやアフリカ諸国からの多くの申請者がいる。

 さて話は変わって、フィンランド人のヴィクストロムという男は、アル中の妻を置いて家を出、賭博で大金を得て、その金でレストランを買った。
 その頃、カーリドは難民申請が却下され、シリアへの強制送還の決定が出る。
 帰国したくないカーリドは施設を抜け出し街をさ迷い、ヴィクストロムのレストランの前の物陰に潜んでいた。
 ヴィクストロムはカーリドを見つけ、この店で彼を雇い、倉庫に住まわすことになる。

 映画はさらに、レストランの従業員たちとの可笑しなシーン、ヘルシンキのネオナチがカーリドをつけ狙う話、シリアを出てから生き別れとなったカーリドの妹との再会などの話を語ります。 
 そしてラスト、ネオナチに襲われたカーリドの運命は・・。 

オリジナルタイトル:TOIVON TUOLLA PUOLEN
監督・脚本:アキ・カウリスマキ|フィンランド|2017年|98分|
撮影:ティモ・サルミネン
出演:カーリド(シェルワン・ハジ)|ヴィクストロム(サカリ・クオスマネン)|カラムニウス(イルッカ・コイヴラ)|ニルヒネン(ヤンネ・ヒューティアイネン)|ミルヤ(ヌップ・コイブ)|ヴィクストロムの妻(カイヤ・パカリネン)|ミリアム(ニロズ・ハジ)|マズダク(サイモン・フセイン・アルバズーン)|洋品店の女店主(カティ・オウティネン)|収容施設の女性(マリヤ・ヤルヴェンヘルミ)|

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映画「黄金のアデーレ 名画の帰還」 主演:ヘレン・ミレン 監督:サイモン・カーティス

上
「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」

1-0_20171218161131722.jpg
 事実に基づいた映画ですが、ハラハラワクワクのエンターテイメントな仕上がりになっています。
 この有名な絵画の背景を知ることができる面白い映画です。
 映画は、絵画の所有権を巡って主人公が裁判で勝訴するストーリーですが、法廷内の論争シーンは多くなく簡潔。よって字幕を懸命に追わないと置いて行かれるという様なことはありません。

 オーストリアのユダヤ人実業家がクリムトに描かせた妻の肖像画(1907年完成)は、戦時中、ナチスドイツによって強奪され、戦後その絵は、オーストリア政府の美術館にて所有されていたました。(ウィーンのベルヴェデーレ宮殿内にあるオーストリア・ギャラリーという美術館)

2-0_201712181613257fe.jpg しかし、肖像画に描かれた女性アデーレの姪にあたるマリア・アルトマン(アメリカ在住)は、この肖像画の所有権をめぐってオーストリア政府を相手取り裁判を起こし、2006年にやっとオーストリア政府から取り戻しました。
 映画はこのマリア・アルトマンを主人公(ヘレン・ミレン)にして、ことの顛末を物語にしています。

 事実はこうでした。
 実業家のフェルディナント・ブロッホ=バウアーの妻アデーレ(1881- 1925)は、自分の肖像画をオーストリア・ギャラリーに寄贈するようにと遺言を残し、1925年に死去しました。
 しかしその後、夫のフェルディナント(1864- 1945)は、肖像画の所有権はもともと自分にあるとして、絵画をオーストリア政府へ寄贈せず、遺言で甥姪に相続するとして1945年に死去しました。(芸術愛好家フェルディナントはクリムトへの発注主でありクリムトのパトロンでした)

 つまりオーストリア政府はアデーレの遺言に基づき肖像画を所有してきました。
 一方、相続人の一人、マリア・アルトマンは弁護士とともに、叔父のフェルディナントの遺言書を資料館から発見し、オーストリア政府を相手取り訴訟を起こします。

 この有能な若き弁護士は、マリア・アルトマンの友人の息子ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)でした。
 ランディの祖父は、オーストリアの作曲家アルノルト・シェーンベルクというのも興味深い話です。
 
 肖像画は、138 x 138 cm 、油彩で描かれその上に金彩を施した絵画。
 勝訴までは「黄金のアデーレ」と呼ばれた肖像画は、その後「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」という名に変わりました。
 マリア・アルトマンは勝訴したのち、絵は家に置かず、美術館で公開展示していました。
 そこへ、ナチスがユダヤ人から強奪した美術品を収集することを使命とする人※が、この絵を買い取りました。
 買取額は156億円(1億3500万ドル)で、現在ニューヨークのノイエ・ガレリエに展示されているそうです。

 ※ロナルド・ローダー
 ノイエ・ガレリエは、かつてナチスがユダヤ人から収奪した美術品を現代の所有者から取り戻し、所蔵。
 ローダーは自身が駐オーストリア米国大使だったころからこの問題に取り組んでおり、「ユダヤ人損害賠償世界機構(World Jewish Restitution Organization)」の一員であり、クリントン政権時代にはナチスの略奪事件の査問委員会にも属していた。
 ローダーは本作の獲得について「これは我々にとってのモナ・リザである」とコメントしている。(なるほど)
 (wikipediaの「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」から引用)
 ノイエ・ガレリエの公式サイト:http://www.neuegalerie.org/

 ちなみに、20世紀初頭、画家クリムトは上流階級の婦人たちの肖像画を多く手がけていたようです。

オリジナルタイトル:WOMAN IN GOLD
監督:サイモン・カーティス|アメリカ、イギリス|2015年|109分|
脚本 アレクシ・ケイ・キャンベル
出演:マリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)|弁護士ランドル・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)|ほか

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映画「影」(1956年) ポーランド  監督:イェジー・カワレロウィッチ

上2



1-0_20171209174005071.jpg
















 ポーランド人民共和国、時は1950年代、共産主義時代初期のころの話。
 (ポーランドの共産主義時代1945~1989年)

 炭坑労働者ミクラは、ビスクピックというボスに頼まれて、密かに男たちを坑内に入れたのであった。
 しかし男たちは、坑道内で爆薬を仕掛けたテロを実行し、多くの犠牲者が出る大事件となった。
 ミクラは驚いた。そして俺が疑われると感じたミクラは、実行犯の侵入を依頼した男を急いで探し、事の次第を問いただしたかった。

 男が乗ったという列車が、まさに駅を発車しようとしていた。
 ミクラは、その列車に飛び乗り、男を探して車内を巡った。男はいた。男はミクラを見て車内通路を逃げる。そして男はついに、走る列車から飛び降りた。だが即死であった。

 その飛び降り現場を若い男女が偶然に目撃し警察へ連絡した。
 男の死体はさっそく警察に運ばれ、医師クニシンによる検死が始まった。

 一方、男が飛び降りたそのあと、ミクラは次の駅で降りたところで、駅員に無賃乗車で捕まった。
 そののち警察はミクラの供述から、この列車飛び降り事故の真相を知ることとなった。

 映画はこの話を語る中で、2つの回想シーンを挿入する。
 その1つは、飛び降り死した男を検死する医師クニシンの語る話。

 回想は第二次世界大戦中の1943年にクニシンが体験した事件。
 当時、ポーランドはナチスドイツの占領下にあった。若きクニシンはレジスタンスとして活動していた。
 ある日、クニシンらレジスタンスは、活動資金を得るため、あるドイツ人高利貸しの店を襲い金を奪おうとしていた。
 そこへ別の男たちが店に来て銃撃戦となった。だが、相手はドイツ軍ではなかった。
 あとで分かった事だが、撃ち合った双方は組織こそ違え、ともにレジスタンスの男たちであった。
 これは明らかに意図的にレジスタンス組織間の争いを誘う誰かの企てであった。
 双方のレジスタンス組織に、店襲撃計画と襲撃時間を勧めたのは一体誰なのだろうか。だが当時、ことは謎に終わった。

 今にしてクニシンは振り返る。銃撃戦のあと、負傷した男を抱きかかえ、通りに出ると、ちょうどビスクピックが荷台付自転車に乗ってそこを通りかかった。クニシンは負傷した男をその荷台に乗せて現場を去ることができたのだ。
 それにしてもビスクピックの出現は偶然だったのか。ちなみに、ビスクピックという男は、クニシンらレジスタンスの活動拠点を提供していた男であった。

2-0_20171209175457979.jpg もう1つの回想は、列車飛び降り事件の捜査を総指揮する老刑事カルボウスキーが、ビスクピックという名を部下から聞いて思い出した話だった。
 それは終戦直後の混乱時期(1946年)に、カルボウスキーが政府軍兵士として体験した襲撃作戦であった。
 当時、「小隊」と呼ばれる武装集団がいて、村々で略奪を繰り返し、村人たちを虐待し恐れられていた。
 しかし、この「小隊」の戦闘能力は優れていて、政府軍はいまだ彼らを鎮圧できずにいた。
 そこでカルボウスキーら志願兵は、その身分を偽り、武装集団の本陣に入り込み、隠し持った手りゅう弾で首領ら幹部を亡き者にした。
 この襲撃作戦で判明したことは、「小隊」が政府軍兵士の中に、スパイたちを潜り込ませていたことだった。これを画策した人物は、ビスクピックという名の男だったと、当時、カルボウスキーは聞かされた、ということであった。

 以上、映画は、3つの出来事に謎の男を登場させる。
 これが「影」である。それぞれのビスクピックという名の男は同一人物なのか。

 映画は、謎の「影」を登場させたスリラー仕立ての作品である。
 だが、なぜ、「影」を悪者とするのだろうか。
 「影」とは、たぶん、1939年以来、ソ連に刃向かい続けたポーランド亡命政府なのだろう。

 映画のテーマは学ぶべき重要なことだが、映画の作りは、総じて巧くない。傑作とはとても言い難い。 

オリジナルタイトル:CIEN|The Shadow|
監督:イェジー・カワレロウィッチ|ポーランド|1956年|98分|
脚本:アレクサンドル・シチボル・リルスキ|撮影:イェジー・リップマン|
出演:医師クニシン(ズィグムント・ケンストウィッチ)|ビスクピック(イグナチー・マホフスキー)|ミクラ(タデウシュ・ユラシュ)|カルボウスキー(アドルフ・フロニッキー)|ヤシチカ(エミール・カレウィッチ)|ほか

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やまなか

Author:やまなか
 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めてはや9年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

<一話一夜の方針かな>
 1)古今東西の映画を分け隔てなく並べて、気に入った映画を選びます。
     
 2)以前に観た映画でも、もう一度あらためて観てます。むかし感じた印象と大きく異なることも多いからです。

 3)「素」な気持ちで、「映画作品そのもの」に向き合うことが、私の遊びです。
 作品自体が語りかけてくること以外の額縁情報、つまり宣伝文句、その受け売り文章、受賞実績、監督発言、出演俳優がどうしたとか、そして映画評論本やらは、はなから無視して、自分の眼で観るようにしています。

 4)観て気に入らない映画、つまんない映画は、基本掲載しません。
 だから、観たけど掲載しない映画は多いです。巨匠の名作と言われる映画も、気に入らなければ掲載しません。また、名物にうまいモノなし、ということも実感します。

 ただし、まだ観てない映画は、たくさんあります。こんな一夜一話ですが、今後も、見に来てください。   
 美術や音楽、書籍や温泉の記事も増やしたいと思っています。よろしく。  

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