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洋画評だけ見る 直近50作 Archive

映画 「アナザー プラネット」  監督:マイク・ケイヒル

上

 過去か未来の自分を客観視するタイムトラベル。
 そうじゃないアイデアが、「もうひとつの地球」、原題がAnother Earthという、この映画。

 ある時から、空にもうひとつの地球が出現し、学者たちの見解がニュースとなって報道される。
 どうも、「あの」地球上には、我々とまったく同じ人類が、同じような自然環境、社会環境で生活しているらしい。
 どちらがコピーなのか、さえ言えぬくらいに、同じらしい。

1-0_20170522194049638.jpg そんなある日、主人公のローダが夜空を見上げて、よそ見運転したその直後、一台の車と正面衝突。
 ローダは命に別状はなかったが、相手の車の家族は即死であった。
 この事件でローダは刑務所入り。彼女は17歳でMITに合格した才女であったが、人生を棒に振った。

 出所したローダは、学校の清掃係として働き始めた。単純労働は彼女の心を慰めた。
 そしてある時彼女は、相手の車の父親ジョンが生存していることを知る。
 彼女はそのジョンの家をつきとめる。ジョンは一人住まいで、荒れた生活を送っていた。

 ローダは、家事代行サービス会社の派遣社員を装って、ジョンと接触を持ち始める。
 何回かの訪問の末、ジョンは徐々に派遣社員ローダに心を開くようになる。
 しかし、ローダは自分が加害者であることが言えない。そう言うがために、ジョンに近寄ったのに。

 ローダは宇宙のことが好きな少女であった。自分の部屋には天体写真がたくさん貼ってある。
 第二の地球への宇宙旅行、これに応募、当選した1名は民間人として、あの地球へ行ける。ローダはこれに応募し、彼女が書いた応募動機が称賛され、ロケットに乗れることになる。

 そんなある日、ローダとジョンはついに結ばれる。ふたりに愛が芽生えたのだった。
 ローダはジョンの家に赴き、宇宙旅行の事を言った。ジョンは、危険だから行かないでくれと言う。
 そしてそんな言い合いの中で、ついにローダはジョンに、自分が加害者だと言った。もちろん、ジョンはローダを追い出した。

 その数日後、ローダはジョンの家へ行き、宇宙旅行の当選資格のすべてをジョンに譲るべく、書類を置いて帰った。あの地球には、あなたの家族が生きているかもしれないと・・。
2-0_20170522194357f09.jpg なぜなら、あの事故の少し前から、この地球とあの地球が同じじゃなくなっているらしいと学者たちが述べている。あの事故も、あの地球ではなかったかもしれない。

 宇宙旅行を控えて、ジョンが宇宙飛行訓練を受けている映像がテレビで放映されている。
 それを学校の清掃員控室でローダは眺めている。

 ラスト。ローダが仕事を終え自宅に帰って来た。
 すると、玄関近くに、ひとりの女性が立っていて、ローダを見つめている。


 なんだ、SF映画か、と嫌う向きもいるかと思うが、つまらぬSF映画の棚に並べておくには、もったいない作。
 でも、謎がある。あちらの地球へ行ったジョンは、家族が生きている事が確認できれば、この地球へ戻る気は当初からなかったろう。
 しかし、そうなら、あちらの地球で、父親ジョンはふたりになる・・。

 そしてジョンは、帰りのロケットに、あちらのローダ、事故を起こさなかったローダを搭乗させたようだ。(ローダの家の玄関先にいた女性)
 あちらのローダは、これを望んだのだろう。なぜ?

オリジナルタイトル:Another Earth
監督・撮影:マイク・ケイヒル|アメリカ| 2011年|93分|
脚本:マイク・ケイヒル、ブリット・マーリング|
出演:ローダ(ブリット・マーリング)|ジョン(ウィリアム・メイポーザー)|ほか

【 SF映画 】
 これまでに取り上げたSF映画です。題名をクリックしてお読みください。

ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」  「宇宙人王(ワン)さんとの遭遇」  「宇宙人ポール

レポマン」  「南東から来た男」  「光の旅人 K-PAX 」  「ダフト・パンク エレクトロマ

12モンキーズ」   「ラ・ジュテ」  「ロスト・チルドレン

不思議惑星キン・ザ・ザ」  「ミュージアム・ヴィジター」  「マルコヴィッチの穴

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映画 「マイ・ファニー・レディ」  監督:ピーター・ボグダノヴィッチ  当初の題名「シーズ・ファニー・ザット・ウェイ」

上

 いやぁ、楽しい喜劇映画です。いいです、笑えます。
 これは、脚本の勝利! 手練れの技。
 気分を変えたい時、明るくなりたい時、娯楽にどうぞ。

 他人に言えない「秘密」がバレたら・・。
 登場人物それぞれが持つ秘密が、知り合いの繋がりの中で、思わぬ所から、次々にあからさまになって行きます。
 観客はたぶん、ドミノ倒しを見るような快感と、スピーディな話の展開を楽しめます。

1-0_20170519223540cc6.jpg 映画は基本、女優になりたい主人公イザベラ(イモージェン・プーツ)の「シンデレラ・ストーリー」という筋書きで話を進めますが、内容は登場人物各人のエピソードの集合体です。
 でも、そのエピソードのひとつひとつは、言っちゃなんですが、物語としては使い古された、よくある話です。でも、これが可笑しい!のです。
 それは脚本が、よくある話に、素敵な魔法をかけてるんですね。ここが見どころです。

 いきなり有名女優になった、シンデレラガールのイザベラが芸能インタビューを受け、過去を語る話が、映像化されてお話は展開されます。
 映画の冒頭は、ニューヨークで高級コールガールをしていたイザベラ(ビジネスネーム:イジ―)が、呼ばれてホテルの一室へ行く所から始まります。
 その客はアーノルドといって、実はブロードウェイの舞台監督だった。(もちろんその時、彼はイジ―に身分を明かさなかった)

 その数日後、アーノルド監督は、妻で女優のデルタ、アーノルドとは長い付き合いの男優・セス、そして脚本家のジョシュとともに、次期公開作品の主演女優を選び出すオーディション会場に集まります。(主演女優の役柄はコールガール)
 そして、あの客の男がオーディション会場にいる、そんな事とは知らず、女優になりたいイザベラは、オーディション会場に来た。
 そして彼女は迫真の演技をみせました。(それもそのはず、イザベラは本物のコールガールですから)

 ここら辺から話が、幾つものエピソードに枝分かれし出し、その枝々が各所で交わり、その時、誰かの秘密がばれていく。
 一見、話は複雑そうだが、観ている分には、まったく難しくない。ここが、この映画のミソ。手練れの技。
 さてさて、以下のあれやこれやを、映画はどう観せるのか!
 監督(兼脚本)の冴えた腕前を楽しみましょう。

 コールガールのイザベラとアーノルドの密会を、同じホテルにいたセスが目撃していた。それで、オーディション会場に現れたイザベラ、そして何やら慌てている様子のアーノルド、このふたりをセスはじっと見つめていた。
 オーディションでのイザベラの演技は素晴らしく、妻のデルタも脚本家のジョシュも、アーノルドがイザベラを採用することに、何故、躊躇しているのか不思議だった。
 一方、脚本家のジョシュには、セラピスト(心理療法)をしている彼女ジェーンがいるが、関係は冷え切っていた。
 このジェーンの施す心理療法を受けに通っているのが、イザベラと年配の判事。
 ジョシュは、女優の卵イザベラに一目惚れ、夢中になってしまう。
 それより以前から、年配の判事もコールガールのイザベラを愛してしまっている。ところが、イザベラは女優修行のためコールガールを辞めたがために、判事の片思いは燃え上がる。
 判事はイザベラを捜すため、私立探偵を雇うが、これがジョシュの父親。父親は、コールガールと付き合う息子に悩むと同時に、雇主と息子の三角関係の中に飛び込んだ形。
 あることでイザベラとの密会が発覚し、夫アーノルドの女遊びを知った妻デルタは、情緒不安定になり、昔の(秘密の)恋人セスに近づく。
 ジョシュとイザベラの恋を知った、ジョシュの彼女ジェーンも怒り狂う。

下 そしてそもそもアーノルドは、このお話以前から、各所で女の子をひっかけていて、そのうちの何人かに、「君はきっと成功する」と分かれ際に言って、お金を渡していた。
 女優になりたいと言っていたイザベラも、有名デザイナーになりたいと言った女性も、アパレルの仕事で成功したいと言った女性も、そののちそうなった。エピソードの中で、アーノルドはそういう女性から感謝されるシーンがある。アーノルドは人を見る目があるのだろう。

 ちなみに、ラストで登場人物のその後が語られる。(ジョシュの彼女ジェーンは、セスと結ばれる)
 もうひとつ、ラストのラストで、インタビューを終えたイザベラを迎えに、今の彼氏役でクエンティン・タランティーノが登場する。
 ついでに、もうひとつ。セス役のリス・エヴァンスは、映画「ノッティングヒルの恋人」に出てくる。本屋の店主ヒュー・グラントと一緒に住んでいる、あのパンツ男で悪趣味なTシャツ男。



オリジナルタイトル:SHE'S FUNNY THAT WAY|
監督・脚本:ピーター・ボグダノヴィッチ(1939 - )|アメリカ|2014年|93分|
撮影:ヤーロン・オーバック|
出演:イザベラ・パターソン、別名イジ―(イモージェン・プーツ)|舞台監督のアーノルド・アルバートソン(オーウェン・ウィルソン)|その妻で女優のデルタ・シモンズ(キャスリン・ハーン)|男優のセス・ギルバート(リス・エヴァンス)|脚本家のジョシュ・フリート(ウィル・フォーテ)|ジョシュの恋人でセラピストのジェーン・クレアモンド(ジェニファー・アニストン)|コールガールの元締め女将のビッキー(デビー・マザール)|クエンティン・タランティーノ(クエンティン・タランティーノ)|ほか

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映画 「GO NOW」  監督:マイケル・ウィンターボトム

上


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カレンとニック


 スコットランドの、ある街に住み、地元で働く男女のラブ・ストーリー。
 苦難の壁をふたりして乗り越え、ようやっとハッピーエンドの結末を迎えます。
 スコットランドらしい雰囲気を味わえます。(行ったことはないですが)

 ニックは、歴史的な建築の外装修理の現場で、職人として働いています。
 休日は地元のアマチュア・サッカーチームで汗を流しています。
 チームのメンバーは、ニックの飲み友達であり悪友です。

 カレンは、小さなホテルのラウンジで働いています。
 ホテルの上司チャーリーは前々からカレンにお熱で、一方、カレンも上司が嫌いじゃないし、遅刻しても見逃してくれるとか融通を利かせてくれるのをいいことに、だらだら続く職場不倫。
 カレンの私生活は、ポーラという女性と部屋をシェアして住んでいます。

 そんなある日、ニックとカレンは出会います。
 ふたりは、すぐに好き同士になるのですが、ニックは、カレンが上司と付き合っていることを知っています。カレンはそれを認めるでもなく否定するでもなく、そんな態度でした。上司の男はニックよりもずっと高給取りです。

2-0_201705121441112e9.jpg
 そして、それでもニックとカレンは部屋を借りて一緒に住み始めます。
 幸せな日々が続くように見えた、その矢先、ニックの身体に自覚症状のある異変が生じます。
 それは、手のしびれから始まり、徐々に異変は広がり、モノが二重に見える複視、排尿障害、ついに歩行障害に至り、車椅子生活を余儀なくされます。多発性硬化症という難病でした。
 生活の一部であったサッカーは諦めざるを得ません。

 もちろん、その間、専門医へ通い、入院、リハビリをしました。
 カレンは、ニックの闘病を懸命に助けます。診察や検査やリハビリに立ち会い励まし、多発性硬化症の専門書を密かに読み、病床に付っきり、退院後はリハビリのためのランニングでも伴走しました。食事療法も彼に提案します。
 また、ニックのサッカー仲間たちも彼を見舞い見守ります。
 しかし、一時の小康状態はあったものの、病は治りません。車椅子生活です。

 ニックはカレン以上に悩みます。誰でも、難病の診断が下されては、平常心ではいられません。
 ニックは言います。もし、私が難病にならなかったら、お前はとうに私から離れて行ったよね。お前が、今も上司チャーリーと会っていることは、街のうわさで知ってるよ。それに、お前が私のあれこれ全部を仕切っているのに、うんざりだ。

 確かに、カレンは上司とホテルで会っていました。
 また、元ルームメイトのポーラに会った時、ポーラに「もう別れたら」と言われ、「結婚の約束をしたわけじゃないし・・・」ともカレンは言っていました。
 ニックに対する憐れみ(憐憫)の呪縛の中に、カレンはいるのでしょうか。カレンはカレンで葛藤しています。


3-0_2017051214533586d.png ついに、ニックは決断します。この部屋から出て行け!
 ニックは、カレンの服やなにもかもをタンスから出して、すべて放り投げます。
 カレンはニックのアパートの外で、雨の中、じっと立ちすくんでいます。それを窓越しにちらりと見るニック。
 ニックは外に出て、去れと追い打ちを掛けます。
 そしてそれから、どのくらい経ったのでしょうか、カレンはまだアパートの前にいます。またニックは外へよろよろと出て行きました。
 そしてニックは、カレンへ歩みより、カレンに寄りかかるようにして、言った。
 「愛してる」と。そう言ってふたりは抱きしめ合うのでした。



 難病をテーマにした、よく有り勝ちなドラマとは、数段違います。(ことさらに難病を売りにする売り文句はやめましょう。)
 ニックのサッカー仲間のトニーは、以前から誰彼かまわず、きつい冗談を言います。難病になったニックにも、彼の心を理解しないかのような冗談をトニーは言います。
 一方、ニックが振るえる身体で、何とかビリヤードをしているのを見て、親しいサッカー仲間は押し黙り、じっと見詰めます。
 映画は、時折、ニックに同情しません。カレンの浮気もそういう観点から描かれています。
 こういう辛口さが、本作の味でもあります。

下 しかし、映画はギャグも忘れません。映画に何回か挿入されるモノクロシーンは、静止画の連写(フリーズフレーム)手法で、笑いを提供します。
 加えて、各シーンに流れる音楽は、元気の出るソウルミュージック。アメリカのソウルシンガー、ジョー・テックスが、時にボブ・マーリーのレゲエも流れます。重苦しいシーンであっても、明るい活力を呼び起こすスパイスとして、音楽が効果的に使われています。
 地味な映画と言っちゃ、それまでですが、マイケル・ウィンターボトム監督の映画、いいです。
 

オリジナルタイトル:Go Now
監督:マイケル・ウィンターボトム|イギリス|1995年|83分|
脚本:マイケル・ウィンターボトム、ポール・ヘンリー・パウエル、ジミー・マクガヴァーン|
撮影:ダフ・ホブソン|
出演:ニック(ロバート・カーライル)|カレン(ジュリエット・オーブリー)|トニー(ジェームズ・ネスビット)|カレンのルームメイトでトニーと付き合う様になる女性・ポーラ(ソフィー・オコネド)|サミー(バーウィック・ケイラー)|デル(ダレン・タイ)|ジョージ(ショーン・マッケンジー)|ほか

【マイケル・ウィンターボトム監督の映画】
 これまでに記事にした作品から。以下のタイトル名をクリックしてお読みください。

バタフライ・キス」  「ひかりのまち」  「アイ ウォント ユー


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映画 「ブルース・ブラザース」  監督:ジョン・ランディス

上



上4













ツイン・ボーカルのブルース兄弟。弟分エルウッドと、兄貴のジェイク。


 ド派手なカー・アクション付きの喜劇映画です。
 音楽あふれる映画ですが、ミュージカルじゃありません。ミュージシャンが主人公の、ドタバタ・アクション・コメディです。
 さて、お話と音楽、これを分けて紹介して行きましょう。

1-0_201705112256109d5.jpg
 【お話】
 ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)と、エルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)、このブルース兄弟が主人公です。
 兄弟と言っても実の兄弟じゃない、ジェイクの弟分がエルウッド。ともに教会が運営する孤児院で育ったのです。

 ふたりは、かつて仲間と、“ブルース・ブラザース・バンド”という名のバンドを組んで、ファンキーなソウルナンバーを得意として酒場を回り、ライブ演奏して稼いでいました。
 しかしあることでジェイクは監獄へ。そして仮釈放の日、弟分エルウッドが刑務所に迎えに来た。ここから映画は始まります。

 兄弟は、兄ジェイクの出所を報告するため、まずは、孤児院の院長シスターに会いに行きます。
 そこで知った事。それは、教会が資金難で孤児院の税金が払えないでいること。そして数日以内に5000ドルを納税しないと、孤児院は閉院せざるを得ないという緊急事態。
 映画は、この数日間にブルース兄弟が、バンド仲間や、警察、ネオナチ団体、カントリー&ウェスタン・バンド、そして謎の女、果ては軍隊を巻き込んで展開する、慌ただしい波乱万丈を描きます。
 そして、ラスト。何台ものパトカーに追われる兄弟は、市中でのド派手なカーアクションの末、なんとか締切日ギリギリで、5000ドル耳をそろえて税務署へ納税します。え、どうやって5000ドルを? そして結末は?それは観てのお楽しみ。

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 【音楽】 
 幼い兄弟に音楽を教えたのは、孤児院の管理人の老人で、兄弟の養父といってもいい、カーティスじいさん(キャブ・キャロウェイ)でした。また、カーティスじいさんはジェイクの出所後も兄弟を心配し、陰で支えます。
 キャブ・キャロウェイ(1907 - 1994)は、1930~1940年代に活躍した著名なジャズのビッグバンド・リーダーで歌手でもありました。
3-0_20170511232211e7e.jpg 映画ラスト近くで、兄弟は5000ドルを一気に稼ぐため、大ホールでワンマンコンサートを開くのですが、二人は警察やらに追われて開演に遅れる。そこで時間稼ぎのため、カーティスじいさんは、ソウルバンドをバックに歌います。貴重なシーンです。
「ミニー・ザ・ムーチャー」という彼が登場し語る、ドキュメンタリー映画(1981年)があるので、気が向いたらそのうち掲載します。

 そのほかに、映画は3人のビッグスターのソウルシンガーを登場させます。
 その1人は、カーティスじいさんが「会って来い」と兄弟に言った、ジェームス牧師(ジェームス・ブラウン)。
 次は、散り散りになっていたバンド仲間を、兄弟が集めて向かった先の楽器店、そこの主人、 レイ・チャールズ。
 3人目は、バンド仲間のひとりが嫁の尻に敷かれて働いている食堂、その嫁で食堂の女主人のアレサ・フランクリン。
 ジェームス・ブラウンは教会内で牧師風ゴスペルを歌い、レイ・チャールズは楽器店内で楽しそうにエレクトリック・ピアノを弾きソウルを歌い、アレサ・フランクリンは食堂内で、旦那に向かって、「私をとるのかバンドをとるのか、どっち!」と怒りながらソウルを歌う。
 
 そしてバンド仲間に、ベースのドナルド・ダック・ダン、ギターのスティーヴ・クロッパーが実名で出演しています。
 このふたりは、かつてブッカー・T&ザ・MG'sというバンドのメンバーで、主にスタジオ・ミュージシャンとして、数多くの著名なソウルシンガーや名プロデューサーと共に、録音スタジオで名曲を作り上げました。
 
 ちなみに、ブルース兄弟のブルースとは、その名がジェイク・ブルースとエルウッド・ブルースだからの、ブルースです。
 確かに1曲、兄弟はステージでブルースを歌いますが、“ブルース・ブラザース・バンド”はソウルバンドです。
 正真正銘なブルースは、有名なブルース・ミュージシャンのジョン・リー・フッカーが登場し、路上で演奏するシーンがありますね。

オリジナルタイトル:The Blues Brothers
監督:ジョン・ランディス|アメリカ|1980年|133分|
脚本:ダン・エイクロイド、ジョン・ランディス|撮影:スティーブン・M・カッツ|
出演:ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)|エルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)|孤児院の管理人カーティスじいさん(キャブ・キャロウェイ)|ジェームス牧師(ジェームス・ブラウン)|レイ楽器店、盲目の店主(レイ・チャールズ)|バンドマンの嫁で食堂の女将(アレサ・フランクリン)|バンドのギター(スティーヴ・クロッパー)|同じくバンドのベース(ドナルド・ダック・ダン)|路上で歌うミュージシャン(ジョン・リー・フッカー)|イリノイ州カルメット市 聖ヘレン養護施設シスター(キャスリーン・フリーマン)|ジェイクを追う謎の女(キャリー・フィッシャー)|ナチ司令官(ヘンリー・ギブソン)|バートン刑事(ジョン・キャンディ)|エルウッドにGSでナンパされる女(ツイッギー)|納税課職員(スティーヴン・スピルバーグ)|聖歌隊メンバーのひとり(チャカ・カーン)?|そのほかのバンドのメンバー6人:マーフィ・ダン、ウィリー・ホール、トム・マローン、ルー・マリーニ、マット“ギター”マーフィ、アラン・ルービン|ほか

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映画 「ションヤンの酒家 (みせ)」 中国映画 監督:フォ・ジェンチイ

上

1-0_2017050122192760c.jpg
 お話の舞台は、市街地再開発が盛んな頃の、中国の大都市、重慶市です。
 この重慶の片隅にある下町、吉慶街(チーチンジェ)という所は、10数年前に出来た小さな飲食街ですが、店内で調理して、道にテーブルと椅子を出して客をもてなす、昔ながらの雰囲気を残す飲食街です。
 独身で美人の女主人ションヤンは、長年、ここで鴨の首(鴨肉)を「売り」にする、酒家を営んでいます。
 ですが、この吉慶街の一画については、今まで幾度も再開発の噂がありました。そして、また、新たな計画の話が噂され始めました。

 映画は、ともに苦労人の男女のラブストーリーに、この再開発の一件を絡ませます。
 ただし、この映画、登場人物の説明が、いろんな場面のセリフの中でなされるため、字幕を見過ごすと、身分差がある単純な恋愛ものにしか見えないかもしれません。(過去を振り返るなど説明のために挿入するシーンはありません。)

 さて、主人公の女主人ションヤンについての話を始めましょう。
 長年、吉慶街で店を営んでいると言いましたが、それにしてはションヤンは若くみえます。でもたぶん、30代前半でしょう。
 ションヤンは10代の頃、切羽詰まってこの商売を始めたようです。
 彼女の母親は、彼女の弟を産んで他界し、そして父親は愛人が出来て、家を出て行きました。
 ションヤンは生きて行かねばなりませんでした。そのうえ弟のジュウジュウを母親代わりに育てなくてはなりません。彼女は、何ごとも自分のやり方で問題解決する、勝ち気さを身につけて行きました。
 実はこの映画、ションヤンの恋物語以外に、たくさんの事を語りかけます。以下、ションヤンという女性の背景です。

2-0_20170501223714464.png
 ションヤンの弟ジュウジュウが、この2年前から麻薬に手を出してしまいます。ミュージシャンになれなかったからでしょうか。
 中毒症状が激しくなって、ションヤンはジュウジュウを、重慶にある薬物中毒の更生施設に密かに入れました。
 
 ションヤンの店には、住込みの女の子が働いています。アメイといいます。働き者です。ションヤンも頼りにしています。
 アメイはジュウジュウが好きです。でも、この愛は一方通行のようです。まして施設内で禁断症状のジュウジュウは、それどころではありません。ですが、ションヤンはジュウジュウとアメイを一緒にさせようと思っています。
 また、田舎に住むアメイの親が、我が娘をションヤンに預ける時に、「都市の戸籍が欲しい」とションヤンに頼んだことも、彼女は忘れてはいませんでした。

 かつて、ションヤンの父親が家を出た後、父親は住んでいたアパートを人に貸したのですが、その後、今の住人(その甥)は、部屋を明け渡してくれません。ションヤンは、この部屋をジュウジュウとアメイが住む部屋にあてたいと前から考えていました。
 そこでションヤンは、実家のこの権利問題を何とか解決したいと、何度も役所(住宅管理所)に通っては、その所長に相談していました。

 その所長には、ウツ症状の大学生の息子がいることを、ある時ションヤンは知ります。
 実家を取り戻したいションヤンは、所長にうまく取り計らってもらいたいために、彼の息子とアメイを一緒にさせようと画策します。天秤に掛けたのです。
 アメイにジュウジュウをあきらめさせ、同時に実父にも働きかけて、実家はションヤンの名義となりました。
 のちにションヤンは、高層マンションに住まう裕福なアメイを訪問します。(重慶の戸籍を取得しました)

 そして、もうひとつのサイドストーリー。
 ションヤンには、影の薄い兄がいます。株に熱をあげる女房の尻に敷かれています。
 兄夫婦にはトアルという一人っ子がいます。出産時、この女房は母乳が出ず、流産したばかりのションヤンが母親代わり(乳母)をしました。そして今も、ションヤンは小学生のトアルを預かっています。
 これまで、恋多きションヤンですが、どれも長続きしませんでした。そして、まだ若きションヤンですが、弟のジュウジュウとトアルを我が子のように育ててきました。
 なのに、兄嫁はションヤンに辛く当たります。将来、トアルが住むべき部屋を、勝手に名義変更したと。

3-0_201705020846100cd.jpg
  さて、こうした面倒な事の真っ最中に、ションヤンは恋をしました。
 相手は中年の客、卓さん。当初、彼は足しげく店に通って来ては、いつも離れた席から遠目にションヤンを眺めていました。
 彼は高級車に乗っています。ふたりの噂は吉慶街で広まって行きます。
 しかし、実は彼は吉慶街地区の再開発プランを推進する民間側のボスだということが、郊外に出たデートの帰りに発覚します。ションヤンは怒りを抑えることができませんでした。
 さらには、彼はションヤンの今後については、十分面倒見ようと言いますが、結婚する気はありませんでした。
 ションヤンは激しく降る雨の中、卓さんの車を降りて、ひとり立ち去って行きました。
 
 この話、小説という方法ではうまく表現できても、映画にするには難しい題材です。
 映画は、込み入った多くの事を、ていねいに語るには向いてないかもしれません。
 でも、ションヤン役の女優・タオ・ホンを起用し、一点突破したようです。
 ただ、少し残念なのは、ションヤンに対する態度を急変させる卓さんの唐突さ、及びアメイのその後が、十分に描き切れていないこと。

オリジナルタイトル:生活秀
監督:フォ・ジェンチイ|中国|2002年|106分|
原作:チ・リ|脚本:チウ・シー|撮影:スン・ミン|
出演:ションヤン(タオ・ホン)|卓さん(タオ・ザール)|弟ジュウジュウ(パン・ユエミン)|兄(チャン・シーホン)|兄嫁(ウー・ルイシュエ)|兄の息子トアル(リー・ショウチェン)|アメイ(ヤン・イー)|住宅管理所所長(ロ・ドーユァン)|所長の息子(リュウ・ミン)|ションヤンの父(ジャン・ミンショウ)|ションヤンの義母(ズン・メイズウ)|

【 一夜一話の 歩き方 】下1

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映画 「真夏の素肌」 ロシア映画 監督:ニギーナ・サイフルラーエワ

上
手前がセルゲイ、奥がサーシャ、右がオーリャ。オーリャの実父が、このセルゲイ。

 娘と父をテーマにする佳作。一見、青春映画らしい爽やかな表現をとっているが、少々トゲがある。

 モスクワに住むオーリャとサーシャは共に17歳で、卒業間近な女の子。
 このふたりの女の子が、真夏の黒海の海辺で過ごした、数日を描く物語。

1-0_20170428144553f3b.jpg オーリャは父親を知らず、母親と義父に育てられた。サーシャも父親が無くて育った。
 頭はいいがいつも控えめなオーリャ、一方サーシャは特に男性に対して奔放な子、ふたりは親友だが性格は正反対。

 黒海へ行く旅のプランは、実は、オーリャが実の父親に会ってみたい、と言い出したことが発端だった。
 しかし、行くことに決心したものの、初めて会う父親はどんな男なのか、会って何を話せばいいのか、そんなことに悩むオーリャに、サーシャは「ふたりが入れ替わろう」と提案する。つまり、オーリャがサーシャに、サーシャがまだ見ぬ父親の娘に、成りすます。

 そうして、ふたりはオーリャの父親セルゲイを訪ねた。彼は、黒海の海辺に建つ、粗末な一軒家にひとり住んでいた。
 事前に知らせはしたようだが、セルゲイはふたりを拒否するでもなく歓迎するでもなく、黙って家に招き入れ、そしてそれから、この三人の、数日の物語が始まる。

 セルゲイも、娘のオーリャを一度も見たことは無い。
 かつて、黒海のこの地に住むセルゲイと、モスクワから来たオーリャの母親はここで愛が芽生えた。
 しかし、何があったのか、彼女はその後ひとりモスクワへ帰ってしまった。それ以来、セルゲイはオーリャの母親に会っていない。そして母親はモスクワでオーリャを出産したのだった。

 “父と娘の初めての出会い”を演ずるサーシャを、そばで見守るオーリャは、恥ずかしさも不安も無く、父親を客観的に見ることができた。
 片や、父親がいないで育ったサーシャは、セルゲイに父親的な存在感を感じてうれしい、そして、ちょっといい男。
 でも、セルゲイは娘に対して、いい感情を抱けないでいる。露出度の多い蓮っ葉なファッション、村の男キリルに積極的に迫って行く娘。(実はサーシャだが) 

 だが、そんなセルゲイ自身も、若い女性とその一時を楽しんでいることがわかる。
 オーリャは思う。こんな粗野な男をなぜ母親は好きになったのか。おまけに、セルゲイの稼ぎは夜間の密漁のようだ。

2-0_20170428145316252.png そんなこんなを見たオーリャは、実父に嫌悪感を抱き始める。
 「私が実の娘です」と言う気も無くなり、行き詰ったオーリャは自暴自棄に陥る。オーリャはその夜、サーシャが付き合いだしたキリルとドラッグパーティで一夜を明かした。
 そしてまた、その夜は、サーシャがセルゲイや密漁仲間と一緒に漁へ出かけた夜だった。このことがきっかけで、サーシャとセルゲイの距離は縮まった。

 オールナイトのドラッグパーティが終わったその朝、砂浜で下着姿で目を覚ましたオーリャは、実父に(嫌悪感を抱きつつも)涙ながらに、私が娘だと告白の電話をした。
 セルゲイはこれを聞いて、漁から帰ったサーシャを家から追い出した。しかし、サーシャは夜になって密かにセルゲイの納屋に入り込むのであった。

 ラストシーン。オーリャとサーシャが、海の見えるバス停でバスを待っている。
 オーリャは二つ目の告白をサーシャにする。「私、あなたの彼キリルと寝たわ。」
 それを聞いたサーシャは、「そう」と言いながらオーリャに背を向け、海の方を見ながら、ひとりそっと微笑んだ。そう、それは言わぬ方がいい。

 さて、ふたりがやってきた黒海のこの海辺は、ウクライナの東、黒海に突き出たクリミア半島です。
 この映画製作の2014年、この地域はクリミア自治共和国としてロシア連邦に編入されました。ただし、ウクライナ政府およびアメリカ、欧州連合(EU)、そして日本などは、ロシアへの編入を認めていません。

オリジナルタイトル:Kak menya zovut|
英語タイトル:NAME ME
監督:ニギーナ・サイフルラーエワ|ロシア|2014年|91分|
脚本:リュボーフィ・ムリメンコ|ニギーナ・サイフルラーエワ|
出演:サーシャ(アレクサンドラ・ボルティチ)|オーリャ(マリーナ・ヴァシリエヴァ)|セルゲイ(コンスタンチン・ラヴロネンコ)|キリル(キリル・カガノヴィッチ)|スヴェタ(アンナ・コトヴァ)|

【 一夜一話の 歩き方 】下4
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映画 「夢のバスにのって」 ペルー映画  監督:フェルナンド・エスピノーサ、アレハンドロ・レガスピ

上
 3人の右端が、フリアナ。(男の子に成り済ましている)
 路線バスの車中で、歌って、空缶のパーカッションをたたいて、
 乗客から小銭をもらい稼ぐ。


 南アメリカの、ブラジルの西、太平洋に面する国、ペルー共和国の映画です。
 その首都リマの街で、明るく、たくましく、貧しくも、親に頼らず「自立して生きる」子供たちが、主役です。

1-0_20170419150549297.jpg 映画製作の1988年当時、ペルーは大変な経済危機とインフレにさらされていて失業率は60%以上、国は国家破産状態に陥る、1990年を目前にしていました。

 マリの街のスラム街に住む、12歳の女の子フリアナが主人公です。気立てのいい子です。
 彼女の母親は優しいですが、働きもしない継父はフリアナに乱暴です。
 母親は屋台の店を出して稼ぎますが、生活は苦しい。だからフリアナも、近くの大きな墓地で墓の清掃をして稼いでいます。

 フリアナの弟のクラビートは、すでに家を出ていて、近所の建物で暮らしています。
 そこには、クラビートのほかに8人の少年たちが同居しています。リマの街の子もいれば、ジャングルの奥地から来た子もいる。肌の色の黒い子も白い子もその中間の子もいます。

 彼らはリマの街でストリートチルドレンだったところを、ドン・ペドロという男が彼らを救い、そこは窓のない倉庫のような大部屋ですが、子たちに寝る場所と食事を与えています。
 そして、ドン・ペドロは子たちを使って金儲けをしています。街を走る路線バスの車内で、彼らに楽しい歌を歌わせ、乗客から投げ銭をもらう、そんな商売です。
 
 もちろん、ドン・ペドロは胴元としてピンハネをしますが、墓の清掃よりも、いい稼ぎになるのです。
 フリアナは、クラビートを頼って、ドン・ペドロの元で働き始めます。ただし、ここは男の子だけしか雇いません。
 そこでフリアナは髪を短く切って、男の子のような話しぶりで、働きました。
 もちろん、母親と離れて生活しなければならないのは辛かったようです。

 映画はストリートチルドレンすれすれの彼らの様子を、例えば少年たちの団結や仲間割れ、ドン・ペドロに対する反抗などを、明るく描いて行きます。

 ラスト近く、フリアナや弟クラビートをはじめ、ドン・ペドロに反抗したグループの少年たちは、胴元の家を出て、海岸の廃船に住み始めます。フリアナは、女の子の姿に戻っていて、女友達もいて、少年たちの世話役をしています。

 そして、ラスト。
 リマの夜、街を行くバスには、少年たちが乗っています。
 乗客の姿は無く、彼らだけです。車内では、みな歌い踊り、空缶をたたいてリズムをとっています。
 あれは「夢のバス」です。

下オリジナルタイトル:Juliana
監督:フェルナンド・エスピノーサ、アレハンドロ・レガスピ|ペルー共和国|1988年|98分|
脚本:レネ・ウェーバー|撮影:ダニー・ガヴィディア|
出演:フリアナ(ロサ・イザベル・モルフィーノ)|その弟クラビート(エドバル・センテーノ)|ドン・ペドロ(フリオ・ヴェガ)|他
【 ペルーの映画 】
 一夜一話で、これまでにとりあげた作品から。

 「悲しみのミルク」(2009年)
 映画タイトル名をクリックしてお読みください。

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映画 「エリン・ブロコビッチ」  監督:スティーヴン・ソダーバーグ

上


1-0_20170416161214c86.jpg
 この映画は、エリン・ブロコビッチという名の実在の女性の活躍を、実話を基に脚色したドラマです。
 基本、公害訴訟をまじめに扱ったストーリーですが、話は決して重くはありません。巧い作りです。

 エリン役を演ずるジュリア・ロバーツと、老弁護士エド(アルバート・フィニー)との絡みはコミカルですし、隣りに引っ越してきたジョージとエリンとのラブストーリーも楽しめます。かつ、訴訟の推移もラブストーリーもハッピーエンドで終わります。
 そのうえ、当初、八方ふさがりの境遇であったエリン、その彼女の、胸のすくサクセス・ストーリーでもあります。

 さらには、こうした事柄と、片や、6価クロム公害で健康被害に苦しむ多くの原告団をかかえることになった公害訴訟、この両方を巧みにバランスをとって映画化されていて、違和感なく、とてもいい娯楽映画に仕上げています。

 高卒のエリンは美人ですが、2回の離婚、3人の子持ちのシングルマザー、おまけに職が見つからない。(実在のエリンは大卒)
 職探しに奔走している最中に、エリンは交通事故にあい、弁護士エドと出会う。
 被害者であるエリンですが、彼女の蓮っ葉な身なり、品の無い言動(しかし直言!)が、陪審員たちには印象悪く作用して、エリンは賠償金をもらい損ねます。

 その後も職が見つからず生活に窮したエリンは、強引にもエドの弁護士事務所に入り込んで居座り、勝手に事務の仕事を始めます。人の好いエドは、ついにエリンを許し、彼女を雇うこととなる。物語は、ここから始まります。

 ある日、事務所で書類整理をしていたエリンは、公害の実態を知るきっかけをつかみます。そして、彼女独自の現地調査を経て、エドと共に実態解明に奔走することになります。

 こうしてエリンとエドは、1993年にカリフォルニア州の大手企業PG&Eを相手取って訴訟を起こし、3億3300万ドルの和解金を勝ち取ることになります。この金額は、アメリカ史上最高額の和解金でした。
 その後も、エリンはエドの弁護士事務所で働くこととなり、破格の金額のボーナスももらえることになります。そして、ジョージとの関係も回復してハッピーエンドでお話は終わります。

オリジナルタイトル:Erin Brockovich
監督:スティーヴン・ソダーバーグ|アメリカ|2000年|131分|
脚本:スザンナ・グラント|撮影:エド・ラッハマン|
出演:エリン・ブロコビッチ(ジュリア・ロバーツ)|エドワード・L・マスリー(アルバート・フィニー)|ジョージ(アーロン・エッカート)|ドナ・ジェンセン(マージ・ヘルゲンバーカー)|チャールズ・エンブリー(トレイシー・ウォルター)|カート・ポッター(ピーター・コヨーテ)|パメラ・ダンカン(チェリー・ジョーンズ)|

【スティーヴン・ソダーバーグ監督の映画】
 一夜一話でこれまでに取り上げた作品から。(タイトル名をクリックしてお読みください)
 「Bubble/バブル」  「フル・フロンタル」  「ガールフレンド・エクスペリエンス

下
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映画 「あの子を探して」  監督:チャン・イーモウ

上

1-0_20170413152946032.jpg

 中国河北省の田舎、チェンニンパという村にある、先生ひとり教室ひとつの小さな小さな小学校がお話の舞台。
 起承転結がしっかりしていて、結はハッピーエンドで、良く出来たお話です。

 ですが、シーンを感動的印象的にするため、話を少々誇張しています。よって、写実的(リアル)なお話というよりも、現代のおとぎ話として観ると、ちょうどいいでしょう。
 とは言え、素人の子たちを生徒に仕立てた教室のシーンは、自然で、とてもいきいきとしていて、リアルで、この映画の要であり、見どころです。

 そして、主役の、13歳の代理先生役のウェイ・ミンジも、素人俳優。
 大胆な起用ですね。演技や表情の起伏がみてとれないウェイ・ミンジ、観てのとおりですが、話が進むにつれて徐々に、代理先生という役柄に魂が入り、物語の中でいきいきと立ち現れる。観終わったころには、ウェイ・ミンジは素晴らしい主人公だと思うことでしょう。これが、この映画、一番の見どころです。

 村の学校には、大ベテランのカオ先生がいましたが、家庭の事情で一カ月間、村を離れることとなった。
 そこでチャン村長は、その間、先生の代理になれる人を探して、村や近隣のあちこちを巡った末に、やっと、13歳のウェイ・ミンジを見つけ出した。(教職免許など気にしていない)
 カオ先生は、こんな子供のウェイ・ミンジに教室を任せられないと、村長に言うが、村長は無理と思いながらもウェイ・ミンジを推した。なぜなら、このところ、学校から生徒が退学して生徒数が減っているのだ。村長はこの流れを止めたい。先生が不在になれば、さらに生徒が辞めていくかもしれない。カオ先生は仕方なく、ウェイ・ミンジに教室を任せることにした。

 とは言え、ウェイ・ミンジに何を教えられるのだろう。カオ先生はウェイ・ミンジにこう言った。この教科書のこのページを黒板に板書しなさい、そして、それをノート(紙の束)に写させなさい。
 ウェイ・ミンジは、この仕事を50元で請け負っていた。そしてもし、一カ月の間に、生徒が減らなかったなら、さらに10元だそうと言われた。
 ところが、学校一のわんぱくホエクーがある日から姿を消した。ウェイ・ミンジが彼の家を訪ねると、家は母子家庭で母親は病になっていた。ホエクーは町へ出稼ぎに行ったのだった。
 さて、ここから物語は大きく動き出す。13歳のウェイ・ミンジは、どう行動するのだろうか ・・・。それは観てのお楽しみ。
 「あの子を探して」のあの子は、ホエクーです。

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オリジナルタイトル:一個都不能少 Not One Less
監督:チャン・イーモウ|中国|1999年|106分|
原作・脚本:シー・シアンション|撮影:ホウ・ヨン|
出演:代理の先生ウェイ・ミンジ:魏敏芝(ウェイ・ミンジ)|カオ先生:高恩満(カオ・エンマン)|生徒ホエクー:張慧科(チャン・ホエクー)|チャン村長:田正達(チャン・ジェンダ)|ほか

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映画 「チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢」 監督:マルジャン・サトラピ , バンサン・パロノー

上

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 ノスタルジックな大人のおとぎ話。たまにはこういう映画もいいでしょう。
 原作がコミックなので、ところどころアニメーションが入るが、違和感なし。ほんわかした雰囲気を盛り上げます。
 また、時々、コミカルになります。お楽しみください。

 1958年のテヘランから、お話は始まる。
 ヴァイオリニストを目指すナセル・アリ(マチュー・アマルリック)は、テクニックはあるが、演奏する音楽に魂が込められず、大きな壁に突き当たっていた。
 そんなある日、ナセル・アリは素晴らしい女性イラーヌを知った。いつしか、ふたりは愛を誓い合うようになり、イラーヌの父親に結婚の許しを乞うこととなった。しかし、父親はがんとして結婚を許さなかった。生活が不安定な芸術家に娘はやれないと。仕方なく、ふたりは別れた。

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 しかし、皮肉なことにイラーヌへの思いが、ナセル・アリの演奏を素晴らしいものに仕立て上げた。ヴァイオリンの師匠は彼を完璧だとほめた。そして師匠の師匠から伝授されて来たヴァイオリンの名器を、ナセル・アリは譲り受けた。

 その後、ナセル・アリは世に認められるヴァイオリニストとなり、コンサートで世界中を駆け巡った。40歳過ぎても彼は独身であった。イラーヌを忘れることができなかったのだ。

 だがついに、ナセル・アリの独身にピリオドが打たれることになった。、母親の強い勧めで、ナセル・アリは仕方なく、ファランギースという数学の教師と結婚することとなった。愛無き結婚であった。子どもは二人生まれたが、夫婦に愛は育たなかった。
 その日、夫婦げんかのさ中、妻は激怒して名器のヴァイオリンを床にたたきつけた。名器は修復不可能なくらいに哀れな姿となってしまう。

 自身の分身であった名器を失ったナセル・アリは、これと替わる優れたヴァイオリンを探し求めたが、分身となり得る楽器は見つからなかった。そして、彼は緩慢な自殺を試みる。8日目には、死の天使アズラエルが彼のベッドサイドに現れる。
 その一日目から死までの8日間、ベッドに横たわるナセル・アリのこれまでを、彼の走馬灯のような回想で綴るのが、実はこの映画のストーリー。

 よって現在のシーンと、様々な時点での過去シーンが「語りにあわせて」入れ替りに立ち現れる。このことや、アニメの挿入や、時々ファンタジックな味付けがあったり、時にコミカルであったり、と、総じて何か一貫性を、もし感じえなかったとしたら、本作は散漫な作品と思うでしょう。
 フランス映画「アメリ」に出てくる八百屋のあるじに虐められる、知的障害のある小僧役であった俳優ジャメル・ドゥブーズが、本作で骨董屋と物乞いの二役で登場し、味のある演技を見せます。

オリジナルタイトル:Poulet aux prunes|
監督:マルジャン・サトラピ、バンサン・パロノー|フランス・ドイツ・ベルギー|2011年|92分|
原作:マルジャン・サトラピ - コミック作品『鶏のプラム煮』|脚本:マルジャン・サトラピ,バンサン・パロノー|
撮影:クリストフ・ボーカルヌ|
出演:ナセル・アリ(マチュー・アマルリック)|死の天使アズラエル/ナレーション(エドゥアール・ベール)|ナセル・アリの妻ファランギース( マリア・デ・メデイロス)|ナセル・アリのかつての恋人イラーヌ(ゴルシフテ・ファラハニ)|ナセル・アリの弟アブディ(エリック・カラヴァカ)|ナセル・アリの娘リリ(キアラ・マストロヤンニ)|バイオリンの師匠(ディディエ・フラマン)|イラーヌの父・時計屋(セルジュ・アヴェディキアン)|弟アブディの妻(ローナ・ハートナー)|古物商フーシャング/物乞い(ジャメル・ドゥブーズ)|ナセル・アリの母親パルヴィーン(イザベラ・ロッセリーニ)|

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映画 「甘い生活」  監督:フェデリコ・フェリーニ

上

上2


 この映画は「フェデリコ・フェリーニの代表作なんだから」なんて思って、固く構えて観てはいけません。
 何しろ、素晴らしい映像です。これを楽しみましょう。

 ただし、話の筋はほとんど無く、様々なシーンが取っ散らかった状態です。つまり、ストーリー展開で物語ることを放棄しています。
 映画でこういうことをやること自体が、60年近く前の当時、とても斬新でかっこ良かったのでしょう。
 よって、映画が与えてくれる物語に、心地良く揺られることを期待するなら、この映画は難解な作品と言っていいでしょう。

 映像が素晴らしいと思うのは、シーンのある一瞬を切り取ると、それがそのまま、一枚の優れた写真作品になる位のクオリティが、映画のあちこちにあるからなのです。(これって案外、そうあることでは無いです)

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 つまり具体的には、俳優たちのそれぞれの向き・身振り・人物群配置の計算や、会員制キャバレー・地下室・トレヴィの泉・病院・古城など映画の舞台装置のバリエーションある選択や、郊外の新築アパート群・道路・海辺などの野外ロケ地選択の、そうした演出の総体と、それらの画面の構図の組み立てが、何でもないようでいて、実は緻密になされている。

 加えて例えば、カメラを構えてばらばらと走るパパラッチ軍団の荒っぽい突撃や、トレヴィの泉に入っちゃうシーンや、ものすごい数のエキストラの登場や、聖母マリア出現の地の広く開けたシーン、そして極めつけが突然の豪雨が、ともすれば、緻密に組み上げたからこそ、静的になりがちな映像に、動きと驚きのドラマ効果を与えている。

3-0_201704011434076d2.png
 そしてさらに観ると、その演出・構図に、二通りある。
 そのひとつは例えば、多くの人物がいるキャバレー店内シーンなどの屋内シーンや、トレヴィの泉の周りのパーティなど比較的狭い範囲で撮影するシーンに注目してみると、俳優たちはてんでに動いているようだが、その動きが前もって計算されていて、なるほど、いい構図(絵)になっている。(そう見える)
 もうひとつは、病院ロビーや聖母マリア出現の地やラストの海辺など、開けた画角と遠近のあるシーンでは、大きなステージ上で展開される「舞台演劇演出」の手法が駆使されて、俳優達の、うまい具合な構図配置がなされている。
 素晴らしい映像です。楽しみましょう。

 あと、登場人物にも注目したい。
 過去の栄光にすがる年配の貴族たち、その空気に反発するも退廃的にしか振る舞えない若い貴族。
 そんな貴族だけれども、彼らの特権・財産である「上流階級」、そこへ加わった新興ビジネスの富裕層。
 そんなイタリアに来て、売れっ子美人女優という華やかな風を送り込む米国映画芸能界。
 そんな上流階級や映画女優のスキャンダルを狙う、芸能記者とパパラッチ軍団という庶民。
 そんな騒がしいローマとはまったく無縁の庶民が、ローマの娼婦であり、郊外に住む貧しい庶民は救いを求めて聖母マリア出現の地に集う。
 
 これまでに記事にしたフェリーニの作品は、1963年製作の「8 1/2」です。こちらから、お読みください。

オリジナルタイトル:La Dolce Vita
監督:フェデリコ・フェリーニ|イタリア|1960年|174分|
原案:フェデリコ・フェリーニ、トゥリオ・ピネリ、エンニオ・フライアーノ|
脚色:フェデリコ・フェリーニ、エンニオ・フライアーノ、トゥリオ・ピネリ、ブルネロ・ロンディ|
撮影:オテロ・マルテリ|音楽:ニーノ・ロータ|
出演:マルチェロ・マストロヤンニ(マルチェロ)|アニタ・エクバーグ(シルヴィア)|アヌーク・エーメ(マダレーナ)|アラン・キュニー(ステイナー)|イヴォンヌ・フルノー(エマ)|マガリ・ノエル(ファニー)|レックス・バーカー(ロバート)|ジャック・セルナス(セルナス)|ウォルター・サンテッソ(パパラッツォ)|ニコ(ニコ)|


【 一夜一話の 歩き方 】4-0_20170401153331773.png

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映画 「トレヴィの泉で二度目の恋を」  監督:マイケル・ラドフォード

上2



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 老人の恋というテーマのこの映画は、お若い方には敬遠されるだろうけど、1934年生まれの女優シャーリー・マクレーン演ずるエルサの恋は、瑞々しい。
 一方、 エルサのお相手、1929年生まれの俳優クリストファー・プラマー演ずるフレッドは、最近妻を亡くし、住み慣れた家からエルサが住むアパートの隣室に越してきた。この喜劇は、ここらへんから始まります。

 仮に、同じ脚本を日本の俳優が演じたら、たぶん、誰が演じても、観てられないかもしれない。

 エルサとフレッドの二人だけで、話は推し進められるのですが、二人の息子・娘や孫を登場させて、エルサとフレッドの人柄を描きます。
 また映画は、エルサの長男と、フレッドの娘の旦那を対比させて、ほんの少し、2014年のアメリカ社会を描きます。
 なお、女優シャーリー・マクレーン26歳の時の主演映画「アパートの鍵貸します」(監督:ビリー・ワイルダー)の記事はこちらから、どうぞ。

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オリジナルタイトル:ELSA&FRED
監督:マイケル・ラドフォード|アメリカ、フランス|2014年|97分|
脚本:マイケル・ラドフォード、アンナ・パヴィニャーノ|撮影:マイケル・マクドノー|
出演:エルサ・ヘイズ(シャーリー・マクレーン)|フレッド・バークロフト(クリストファー・プラマー)|フレッドの娘リディア・バークロフト(マーシャ・ゲイ・ハーデン)|ジャック(クリス・ノス)|フレッドの孫Michael(ジャレッド・ギルマン)|レイモンド・ヘイズ(スコット・バクラ)|ジョン(ジョージ・シーガル)|マックス・ヘイズ(ジェームズ・ブローリン)|アレック・ヘイズ(レグ・ロジャース)|水道修理位の男アルマンド(ウェンデル・ピアース)|


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映画 「第三の男」  映画音楽に魅せられて  監督:キャロル・リード

上

 ご存じ、有名な英国サスペンスドラマ「第三の男」。舞台となるのは、1949年のオーストリアの都市ウィーン。

1-0_20170312161622d88.jpg 映画は観る者を焦らせます。話が進む中、事態は少しずつ見えては来るのですが、依然としてその先が謎に包まれたままの、モドカシイ前半。
 そして後半、その見えてきたはずの事態が、死んだはずのハリー(オーソン・ウェルズ)の出現によって、一気に崩れ去り、話が大きく展開する、その面白さが見どころです。
 かつ、注目のシーンは、ハリーを探す親友ホリー(ジョゼフ・コットン)の前に、闇の中から忽然と浮かび上がる、ハリーの何とも言えぬ不敵な表情。これがこの映画の要ですね。
 そして、ウィーンの街の下にある巨大な大下水渠のシーンは、観る者の心をとりこにして、物語後半の展開を加速させています。

 さて、アントン・カラス作曲・演奏のテーマ曲。いいですね。
 物悲しいようでダンサブルな曲です。

オリジナルタイトル:The Third Man
監督:キャロル・リード|イギリス|1949年|104分|
原作・脚色 グレアム・グリーン|撮影:ロバート・クラスカー|作曲・演奏:アントン・カラス|
出演:ホリー・マーチンス(ジョゼフ・コットン)|アンナ・シュミット(アリダ・ヴァリ)|“第三の男”ハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)|キャロウェイ少佐(トレヴァー・ハワード)|ペイン軍曹(バーナード・リー)|門衛(パウル・ヘルビガー)|クルツ男爵(エルンスト・ドイッチュ)|ポペスク(ジークフリート・ブロイアー )|ビンケル医師(エリッヒ・ポント)|クラビン(ウィルフリッド・ハイド=ホワイト)|

【 映画音楽に魅せられて 】
 これまでに取り上げた映画です。
 タイトルをクリックして過去記事をお読みください。

 「オズの魔法使」 「三文オペラ」 

 「死刑台のエレベーター」 「風の又三郎

 「リオ、アイラブユー」 「110番街交差点


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映画 「卵の番人」  ノルウェー映画  監督:ベント・ハーメル

上1

 とてもゆっくりしたテンポの話です。ほのぼのしていて、しかし、奥深い所に苦く鋭いトゲがある。

 ノルウェーの片田舎に、仲睦まじく住む、年老いた兄弟、ファーとモーのふたりがおりました。
1-0_201703101408215a8.png 人里離れた彼らの一軒家は、なだらかな丘を背にぽつんと建っています。近所に人家は見当たりません。雪が積もれば、辺りはは白一色の静寂の世界です。
 ただ、人里離れたとはいえ、地域の幹線道路が家の近くを通っていて、冬には除雪トラックが走りますし、疎らに住む住民たちは、このトラックをまるで乗り合いバスのように利用しています。

 ファーとモーは一年中、家から外出しません。車も持っていませんし町に出ようとも思いません。
 孤独な生活のようにみえますが、彼らは不自由とも思ってませんし不満もありません。
 ふたりの日々は簡素です。自分たちがつくる簡単な食事とコーヒー、石炭ストーブとラジオ、カード遊びとパイプとクロスワードパズル、それだけです。それで十分幸せと思っています。
 外部との接点は、電話、食料配達の男達、ハウスクリーニングの若い女性くらい。

 ある日、珍しく電話が鳴りました。それは兄のファー宛の電話でした。
 電話で連絡してきた事は、ファーがかつて、隣国スウェーデンにいた時に結ばれた女性が重病になったという知らせでした。そして、ついては息子のコンラードの世話をして欲しいということでした。
 ファーに子供がいたのです。このことは弟のモーも知っていたことなので、ふたりはコンラードを受け入れます。

 この時から、ファーとモーのふたりだけの生活リズムに、変化が見え始めるのでした。
 コンラードは車椅子の生活です。年は二十歳代でしょうか。一日中、押し黙っていて話しません。時折、クーとかカーとか鳥のような声を出すだけです。何か障害があるようにも見えます。食事はバナナミルクセーキしか受け付けません。世話は父親であるファーがやります。

 そんな日々が続くある日、モーは旅支度をし、納屋からバイクを静かに押して、密かに寝静まった家を抜け出しました。
 街道に出たところで運よく、除雪トラックが来て、モーはトラックの運転席に乗り込みます。
 除雪トラックは、夜明け前の、わずかに明るい一本道をスピードを上げて走り去って行きました。

 モーが家を出て行く様子を家からじっと見ている人影が見えました。それはコンラードでした。
 映画はコンラードをカッコウのヒナに例えています。カッコウは他種の鳥の巣に卵を産み付けますね。(托卵)
 産み付けられた鳥の親は、カッコウの卵と自分の卵と一緒に育てますが、孵化すると、カッコウのヒナは他のヒナを巣から蹴落とします。モーはコンラードによって追い出されたのです。
 ただし、モーは遅まきながら、自分の青春を始めたのかもしれません。
 それは兄の(スウェーデンでの)青春を目の当たりにして、触発されたのかもしれませんね。

下3オリジナルタイトル:Eggs
監督・脚本:ベント・ハーメル|ノルウェー|1995年|86分|
撮影 エリック・ポッペ|
出演:弟モー(スヴェレ・ハンセン)|兄ファー(ヒュルストルモーン)|ファーの息子コンラード(レイフ・アンドレ)|ほか
【 ベント・ハーメル監督の映画 】
これまでに一夜一話で取り上げた作品から。
タイトルをクリックして記事をお読みください。

キッチン・ストーリー」  「ホルテンさんのはじめての冒険


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映画 「GUMMO ガンモ」  監督:ハーモニー・コリン

上

  巨大な竜巻被害にあった地域に住む子供たちを、ドキュメンタリータッチで描く映画。刺激的です。
 場所はアメリカのオハイオ州にある小さな町。 
 なにしろ被害は甚大で、竜巻に巻き上げられた人間や家や地上にあるモノすべては、ものすごい速度で上空高く舞いあがり落下した。
1-0_20170304192143903.jpg 人々は、身体がちぎれた家族の遺体に直面し、家屋や車は壊され、犬は電柱の上で死んでいた。(映画の冒頭で示される)
 加えて竜巻で破壊されたのは、人の精神と善悪の感覚と向上心だった。徹底的に崩れた。
 まるで第三次世界大戦が起きたあとの、荒廃した世界を描くSF映画のような世界だ。
 ただし、竜巻被害の範囲はハリケーンのように広範囲ではなく局地的。竜巻が通過した所だけだ。よって、まわりの世間一般は、何の被害も無く、世の中は平常だ。それだけに、被災地域は妙に孤立している。(映画はここを舞台とする)

 さらに追い打ちをかけたのは、ここに住む住人の生活レベルがもともと低いことから、金銭的な立ち直りが出来ない事、また水道などライフラインの復旧も十分には進んでいないようだ。
 人々は壊れた家に住んでいる。家の中は、片づけをする意欲もなく、ゴミ屋敷のようになった家もある。大人は働くことをせず、怠惰な日々、子供は通学もせず毎日遊んでいる。被災者たちに明日は見えない。

 映画は、これらの状況(物語の設定)によって、健全な社会通念、つまり「良い子ちゃん」市民と言う束縛から、人々の精神が「もし」解放されたとしたら、人はどんな行動をとるのだろうか、それを子供達の行動を中心にして描いて見せている。
 社会通念的に言っちゃいけない事、やっちゃいけない事が、これでもかと出てくる。それがどんなことかは、観てください。

 これに加えて映画は、身体障害や精神障害の人も登場させている。つまり本作は、映画製作にあたっての、言っちゃいけない事、やっちゃいけない事を、気にしないで製作すると、どんな映画になるかに、敢えて挑戦しているとも言える。

 本作を観てすぐ思い浮かべたのは、アレクセイ・ゲルマン監督のロシア映画「神々のたそがれ」。本作と通底している。
 物語に身を任せる映画の対極にある映画です。

オリジナルタイトル:Gummo
監督・脚本:ハーモニー・コリン|アメリカ|1997年|89分|
撮影:ジャン・イヴ・エスコフィエ|
出演:ソロモン(ジェイコブ・レイノルズ)|タムラー(ニック・サットン)|バニーボーイ(ジェイコブ・シーウェル)|ドット(クロエ・セヴィニー)|ソロモンの母(リンダ・マンズ)|Helen(キャリサ・グラックスマン)|Darby(ダービー・ドグハーティー)|Cole(マックス・パーリッチ)|

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映画 「ブロンドの恋」   監督:ミロス・フォアマン

上0

 地味ですが、なかなかいい喜劇映画です。
 とは言え、ストーリーというほどのストーリーは無いですし、喜劇というほどの喜劇性もあまり無く、あっさりしたドラマです。
 でも、いいのです。映画全体からじんわりと、何とも言えぬ可笑しさが伝わってきます。監督の魔術でしょう。
1-0_201702282100569dc.jpg 中年兵士3人の、何ともモドカシイ、若い女性3人への「誘い」の駆け引きと、その女の子達のひとり、アンドゥラの恋の冒険という2話構成の話。アンドゥラは右のこの娘 。

 たくさんの人が集う広いダンスパーティ会場。ステージには楽団もいて華やか。 
 ただし会場にいる人々は、工場の女性従業員と軍隊の予備兵の、このふたつの団体だけ。
 実はこれ、軍の協力を得て、製靴工場が考え出した苦肉の作のダンスパーティーだったのです。

 田舎の小さな町にある、この製靴工場には2000人もの女性従業員が勤めている。多くは寮生活をしている。
 町は小さく店もなく、かつこの地に住む男性はほんの少し、だから女性従業員の日常は味気ない。
 工場側は、これでは従業員の元気も出ない、工場を辞めてプラハなどの都会へ行ってしまう、なんとかしなきゃと悩んでいた。

 そこで工場は軍と相談して、予備兵を一時この地に駐屯させて、町の男性人口を増やすことにしたわけ。
 予備兵は、おおかた中年で妻帯者、だから兵士と愛が芽生えて工場を辞めると言い出す女性従業員も少ないだろう。

2-0_20170228211056d5f.jpg さて、その夜、開催されたダンスパーティでは、多くの男女が楽しげに踊っている。工場側の作戦は大成功。
 しかし、女性従業員アンドゥラとその友人の3人は、3人とも、「中年男ばっかりジャン」と、むっつりしてテーブルにいた。

 一方、そこから離れたテーブルには、中年兵士3人が、アンドゥラ達に目星をつけている。(ここからのシーンが笑える面白い見どころ)
 兵士たちはまず、彼女たちのテーブルへワインのボトル1本をウェイターに届けさせ、そのあと、誰が彼女たちの所へ行き、突破口を開くかの相談をしている。そして、呑みが終われば近くの森へ誘おう。
 おじさん兵士3人は、基本、乗り気なのだが、ぎこちなく腰が引けていて話がまとまらない。帰ると言い出すのもいる。

 やっとひとりが彼女達の所へ行って話をつけ、おじさん達と女の子達との輪ができる。そして、パーティーが終わる頃、今度は女の子達が女子トイレへ行ってヒソヒソ相談。
 結局、おじさん達は待ちぼうけを食ったに終わる。彼女達は女子寮へ引き上げる。

3-0_2017022822010950a.jpg ただし、アンドゥラだけはホールの2階へ。(ここから第2話が始まる)
 3人そろってトイレへ相談しに行く途中、アンドゥラは楽団の若いピアノ弾きと出会ったのだ。彼女は、彼の誘いに乗って、彼が宿泊している部屋へ行く。
 数日経って、アンドゥラはスーツケースにいっぱい詰め込んで、ピアノ弾きが住むプラハへ旅立った。
 その夜、アンドゥラは彼の実家に到着したが、彼はいない。彼はプラハのどこかで、女の子とデート中。まさかアンドゥラが訪ねて来るとは彼はまったく予期していない。
 結局、アンドゥラは彼の両親に招かれ家に入るが、親はアンドゥラのことなど何も聞いていない。(ここからが第2の見どころ)
 この娘は何?、大きなカバンを抱えてと、彼女をいぶかる母親と、寛容的な態度の父親。そのうち、一人息子をめぐって親同士の言い争いになる。
 夜更け、口紅の跡を拭きながら彼が帰って来て、驚く。アンドゥラが自分のベッドに寝ている。そのベッドに潜り込もうとする彼を制するのは母親。こっちで寝なさいと、親子3人川の字になって朝となる。
 アンドゥラは寮へ帰り、相部屋の同僚たちに、プラハの恋の冒険を、創作交えてちょっと自慢げに話するのでした。
 

オリジナルタイトル:LASKY JEDNE PLAVOVLASKY
英語タイトル:THE LOVES OF A BLONDE
監督:ミロス・フォアマン|チェコスロヴァキア|1965年|88分|
脚本:ミロス・フォアマン、ヤロスラフ・パプーシェク、イヴァン・パッサー、ヴァツラフ・シャシェク|
撮影:ミロスラフ・オンドリチェク|
出演:アンドゥラ Andula(ハナ・ブレイショーヴァ)|Milda(ウラジミール・プショルト)|Vacovský(ウラジミール・メンシーク)|ほか

4-0【 ミロス・フォアマン監督の映画 】
一夜一話で、これまでに記事にした映画から2作です。
タイトル名をクリックして、お読みください。

 「カッコーの巣の上で

 「火事だよ!カワイ子ちゃん


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映画 「タクシードライバー」   監督:マーティン・スコセッシ

上

 話の舞台はニューヨーク、マンハッタン。
1-00_20170224184413844.jpg 1973年に海兵隊を除隊して3年が経つ、トラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)という26歳の孤独な男の話。

 重度の不眠症に悩む、無職のトラヴィスは部屋にいても仕方がなくて、夜間夜通し、街を歩いたり地下鉄やバスに乗って、ひたすら時間をつぶしていた。そうしてトラヴィスは、深夜の街、ニューヨークの裏側の醜さを、いらだたしく感じ取っていた。
 「夜の街は、売春婦、街娼、ヤクザ、ホモ、オカマ、麻薬売人といった人間のクズが歩き回っている。奴らを根こそぎ洗い流す雨は、いつ降るんだ。」トラヴィスはそう思い続けている。

 ある日トラヴィスは、食うためにタクシー運転手になった。勤務は夕方6時から朝の6時まで、休日は週一。
 タクシーのフロントガラス越しのネオンや、窓からの風や街の匂いに、トラヴィスの塞ぐ心は、少しは癒やされ静かに開放されるようだ。
 一方、深夜、街を流していれば、否が応にも売春婦やらが目に付くし、男が売春婦を同伴し騒ぎながらタクシーに乗り込んでくる。
 そんな毎日のなかで、トラヴィスの妄想は膨らんで行く。この先いつまでもタクシー運転手じゃだめだ、何かしてみたい。   

 ある夜、次期大統領候補の議員が偶然にも彼のタクシーに乗って来た。その時トラヴィスが知ったことは、社会階層の高みで世直ししようとする特権階級がいること、そしてその大統領候補はトラヴィスが考えるニューヨークの夜の街の浄化に無関心であったこと。
 つぎに、トラヴィスの心のどこかを動かすことになったもうひとつのことは、その大統領候補の選挙事務所にいる女性に恋したことだった。しかし、彼女はトラヴィスが住む世界とは違い過ぎた。

2-0_20170224184746e21.jpg それからのトラヴィスは、より深く考え始める。
 「俺の人生に必要なのは、きっかけだ。自分の殻だけに閉じこもり一生過ごすのはバカげている。」
 トラヴィスの妄想は、社会に対しての正義、世直しへと進んで行く。

 だが、彼に社会的地位も力もない、また世に認められる正義の思想や活動も持たないトラヴィスにとって、自身の正義をひとり貫くには、世間より、クズの相手より、優位な高みにいなければならない。
 トラヴィスは銃を手にし射撃訓練をはじめる。肉体も鍛えた。いつしか、トラヴィスは鏡の前で英雄になって行く。
 その結果、手ごたえがあった。行きつけの店が強盗にあっている場に居合せたトラヴィスは、その黒人青年を射殺。店のあるじは喜んだ。頭をモヒカン刈りにして大統領候補の街頭演説に出向いたが、ボディーガードに疑われてうまく行かなかった。

 そして、「俺の人生に必要なのは、きっかけだ。」と言う、そのきっかけになったのが、ひとりの娼婦だった。
 その娘はアイリス、まだ少女だ。それを知ったトラヴィスは、アイリスと話し、その稼業から救うと誓った。
 そののちトラヴィスは売春婦宿に押し入り、撃たれはしたが、ポン引きの男(ハーヴェイ・カイテル)やボスら3名を射殺した。

 後日、この事件はマスコミにとりあげられ、トラヴィスの正義と、アイリスの両親の感謝の言葉は、広く知れ渡ることとなった。
3-0_2017022418525549a.png しかし当のトラヴィスは、舞い上がることもなく、また淡々と、無数の無名のタクシードライバー達の中に戻って行った。
 ただし、ひとつ、トラヴィスは夢想した。それは、彼が一度は恋した選挙事務所の女性を、タクシーに乗せ彼女の家まで送る情景だった。

 公開から40年以上経ったこの映画をいま観て思うこと。
 ニューヨークの怖さや荒みを、当時、我々は今日思う以上に感じていて、この映画が描く世界をとてもすさんだ世界と思っていた。
 だから、トラヴィスをアクション映画のヒーローとして観る人がいたのかもしれない。
 でもいま観て思うに、この映画、案外、繊細な映画ですね。

オリジナルタイトル:Taxi Driver
監督:マーティン・スコセッシ|アメリカ|1976年|114分|
脚本:ポール・シュレイダー|台詞:ケイ・チャピン|撮影:マイケル・チャップマン|
出演:トラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)|選挙事務所の女ベッツィー(シビル・シェパード)|娼婦のアイリス(ジョディ・フォスター)|ポン引きのスポーツ(ハーヴェイ・カイテル)|ウィザード(ピーター・ボイル)|トム(アルバート・ブルックス)|大統領候補のパランタイン上院議員(レナード・ハリス)|タクシー会社の受付(ジョー・スピネル)|ポルノ映画館の売店の女(ダイアン・アボット)|銃のセールスマン(スティーヴン・プリンス)|ほか

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映画 「ガールフレンド・エクスペリエンス」   監督:スティーヴン・ソダーバーグ

上




1-0_20170222115445fa4.jpg








 話の舞台は、ニューヨーク、マンハッタン。
 二十歳そこそこの若い女性チェルシーは、マンハッタンで一二を争う最高級のデリヘル嬢。
 電話で依頼主の自宅や宿泊先ホテルへ呼び出されて売春に応じる出張ヘルス。

 何が最高級かと言えば、1時間2,000ドル。(20万~22万円くらい)
 レストランやバーで、あたかも彼女と、のようにデートする時間や、そのあとの一晩、朝までの時間、その合計が8時間とすれば、16,000ドル、ざっと160~180万円くらい。現金決済。封筒の中には、いつも分厚い札束。
 客層は、当然、ウォール街のビジネスエリートや、個人でなにやら金儲けしている連中。映画では30~40代くらいの男が多い。
 自宅に呼ばれる場合、その自宅とはマンハッタンの高級マンション、客は一人住まいだ。

 チェルシーは、客の居る場所へ運転手つきの高級車で出かける。
 売春斡旋組織に属さず、フリーでやっている。ウェブ上に自身のサイトを公開し、宣伝に抜かりはない。彼女はビジネスをしている。
 空いた時間は、高級ブティックで服や靴や下着を買う。隙のないファッションに身を包む。 
 そんなチェルシーが気を許せる相手は、一緒に暮らして2年足らずの彼氏クリスと、一人の女友達。

 この映画、チェルシーとその行動に注目しがちだが、実はもうひとつの側面も描いている。
 それは、マンハッタンのビジネスエリートな男たちの、ありのままの生態だ。チェルシーという鏡に映しだされる男たち。
 なかには疲れた風の男がいる、仕事の話を一方的に語る男がいる。そんな彼らはチェルシーと会って精神的な安定を得る。映画は、彼らに対して、少々、憐れみや愚かさを感じている。

 本作の語り口はドキュメンタリーっぽい。物語性はあまりない。5日間のチェルシーの行動を追うかたち。
 あるシーンの途中に他のシーンが挿入される、交互にシーンが入れ替わる、そんなシーン操作(インターカット)も多い。だから、余計にお話に入り込めないかもしれない。だが、監督は意識的にそうしている。ただし、実験映画じゃない。そこんところが本作の見どころです。
 お話、つまり、いかにもの「作り話」に付き合うのに飽いた観客にとっては、さらりとしたいい映画。
 例えだが、スルメは舐めたくらいじゃ味はしないが、噛んでるうちに美味を感じる。本作も、観たあとに、ジワーッとクールな味を感じ得はじめたなら、しめたもの。

 時は、リーマン・ショック直後、大統領選でオバマ氏が一般投票勝利の頃。あの時代を描写した映画でもあります。

オリジナルタイトル:The Girlfriend Experience
監督:スティーヴン・ソダーバーグ|アメリカ|2009年|77分|
脚本 ブライアン・コペルマン 、 デイヴィッド・レヴィーン|撮影 スティーヴン・ソダーバーグ|
出演:チェルシー (サーシャ・グレイ)|クリス(クリス・サントス)|インタビュアー(マーク・ジェイコブソン)|エロティック鑑定家(グレン・ケニー)|ティム(ティモシー・デイヴィス)|デヴィッド (デイヴィッド・レヴィーン)|フィリップ(フィリップ・アイタン)|

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映画 「セッション」   監督:デイミアン・チャゼル

上

 ジャズを教える音楽学校を舞台にする、鬼教師と学生たちとの学園ドラマ。
 そのスパルタ教育は教師のパワハラとも受け取れるが、しかし、鬼教師のテレンス・フレッチャー(J・K・シモンズ)が指導する学生ビッグバンドは抜群のジャズ演奏をする。

1-0_201702082152121b8.jpg アンドリューは幼い頃からドラムを叩いてきた。そして名門のシェイファー音楽学校に入学。
 この学校の授業(ゼミ、演習)は、ビッグバンド演奏の実習という形態をとっている。ゼミ毎にビッグバンドが組織され、担当教師それぞれが指導・指揮する。

 テレンス・フレッチャーは、シェイファー音楽学校きっての教師でスパルタ鬼先生だが、彼の授業(演奏実習)は学生の誰もが憧れる授業であった。そして、彼に認められて彼が指揮するビッグバンドの演奏メンバーになれれば、次に誰もが思うのは、レギュラーメンバーになりたい。
  ある日、アンドリューはテレンス・フレッチャーのバンド実習に呼ばれる。(つまりアンドリューの才能が「一応」認められたことになる。)

 アンドリューは呼ばれた初日から鬼教師のパワハラ洗礼を受ける。
 悔しいアンドリューはその日から、文字通り血の出る練習をする。そして、先輩を押しのけてドラムのレギュラーになれたかに思えた矢先、テレンス・フレッチャーはアンドリューのクラスメイトのライアンも授業に呼び出した。レギュラーの地位に向けてアンドリュー含めドラム演奏者3人の熾烈な競争となった。そして、ついにアンドリューはレギュラーを勝ち取った。
 しかし、これから先、まだいろんなことが起きますが・・・あとは観てください。

 そしてラスト。学校を追放されたテレンス・フレッチャーは、プロのメンバーを率いてカーネギーホールのコンサートに出演しますが、そのドラマーはアンドリューです。
 アンドリューはテレンス・フレッチャー教師のパワハラによって、ドラマーの道を諦めていましたが、彼の誘いで再度スティックを握ることになります。
 しかし、テレンス・フレッチャーの誘いには「裏」があったのです。それはアンドリューへの仕返しでした、しかし・・・・。
 
 シーンの多くは、学内の練習スタジオか、コンサートの演奏シーンです。
 ビッグバンドが演奏する音楽は、シャープな現代的なモダンジャズ。これが楽しめます。

 アンドリュー役のマイルズ・テラーという俳優は、ジャズドラムを本当に叩きます。ピアノやギターなら、俳優が演奏できなくても、映像で騙せるかもしれませんが、ドラムはそうはいかない。マイルズ・テラーは、ジャズをやって来た人なんでしょう。私なら、鬼教師役のJ・K・シモンズよりも、彼を褒めたい。
 パワハラのシーンは、ときに劇画的で興ざめですが、ビッグバンドのサウンドが良いので帳消しというところでしょうか。

2-0_20170208220321516.png 鬼教師が言うこのセリフが気に入りました。
 世の中、甘くなった。ジャズが死ぬわけだ。
 カフェあたりで売ってるジャズのCDが(それを)証明してる。
 (ジャズの世界で)もっとも危険な言葉は、「上出来だ(グッド・ジョブ)」という安易な言葉だよ。

オリジナル・タイトル:WHIPLASH
監督・脚本:デイミアン・チャゼル|アメリカ| 2014年|106分|
撮影:シャロン・メール|
出演:アンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)|テレンス・フレッチャー(J・K・シモンズ)|アンドリューの父親のジム・ニーマン(ポール・ライザー)|アンドリューの彼女のニコル(メリッサ・ブノワ)|ドラム専攻でクラスメイトのライアン・コノリー(オースティン・ストウェル)|ドラム専攻の先輩のカール・タナー(ネイト・ラング)|ほか

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映画 「パリ、テキサス」   監督:ヴィム・ヴェンダース

上2

 
 この映画は、お話がサンドイッチのように三つの階層から成っていて、相互に関連します。
 加えて、3つの舞台装置(仕掛け)が、つまり、テキサスの荒野にあるパリという所「パリ、テキサス」と、過去の幸せな日々を映した8ミリフィルム映像、そしてマジックミラー越しのテレフォンクラブが、現在過去を繫ぐ回廊として、象徴的に印象的に機能している映画です。

1-0_201701191435397cf.jpg お話の第1の層(幻視の世界)では、主人公トラヴィスがまるで夢遊病者のようにテキサスの荒れた大地を徘徊しています。この荒野や、あとで出てくる荒野の中にあるパリは、どうしようもない悲しみを抱えるトラヴィスの心象風景と言っていいでしょう。

 第2のお話の層(トラヴィスを取り巻く現実世界)への移行は、トラヴィスがぶっ倒れて荒野の中にある診療所に担ぎ込まれるところです。これがきっかけでトラヴィスは、弟ウォルトと再会し、現実の世界へと舞い戻ります。つまり、ウォルトは嫌がるトラヴィスをロサンゼルス郊外の自分の家に連れて帰り保護します。

 ウォルトの家には、トラヴィスとその妻ジェーンとの間にできた一人息子ハンターがいました。これまでウォルト夫妻は、幼かったハンターを養子のように育てていました。
 それはつまり、かつて、トラヴィスとジェーンの夫婦関係が破たんし、トラヴィスが家を出、続いてジェーンもハンターを置いて失踪した結果、ウォルト夫妻がハンターの世話をしなくてはならなくなったのでした。

 ハンターは7歳になりますが、両親のことは憶えていません。まだ赤ちゃんだった頃の8ミリフィルム映像で、自分の両親を知っているだけでした。
 徘徊の世界にいたトラヴィスは、徐々に我が子ハンターを認識し出し、父親として振る舞うようになります。同時にハンターは、8ミリ映像の中の父親と、目の前にいる男とを結びつけることが出来るようになります。

 そんなある日、トラヴィスは妻ジェーンを探しに行こうと決心します。ハンターも望んで父親に同行します。
 妻を探す見込みは、わずかですがありました。ジェーンはハンターの養育費として、毎月決まった日に、5ドル、10ドル、あるいは50ドルとその都度まちまちな金額でしたが、ウォルト家の口座に金を振り込んでいます。つまり、振込銀行の支店が分かっていました。トラヴィスとハンターは、振り込みするその日に、テキサスにあるその支店を目指して、車で向かいます。

2-0_201701191446193f5.png 第3のお話の層(トラヴィスの心の核心の世界)へのきっかけは、ハンターが母親を「直感」で見つけた事でした。
 トラヴィスとハンターは、銀行支店の前で母親が來るのを待ち伏せしていたのです。母親が運転しているとハンターが言う、赤い車はどんどん去って行きます。父子はその車を追います。高速道路に乗り、そして降りてあるビルで赤い車は止まりました。トラヴィスはハンターを車に置いて、そのビルに入ります。

 そこはテレフォンクラブで、店内の個室にあるマジックミラー越しに、店の女と電話でデートできる所でした。
 トラヴィスは、店でジェーン(ナスターシャ・キンスキー)らしき女を遠目に発見し、さっそく客を装ってその女を指名します。やがて個室内のマジックミラーの向こうに女が現れます。すぐにジェーンだと確認できました。(ただしジェーンの方からは彼の姿は見えません)

 翌日再度、来店し、ふたりはマジックミラー越しに対面します。
 トラヴィスは、当時言えなかった、言う機会が無かった自身の心境を、ジェーンに包み隠さず一方的に語りかけます。そして最後に、ハンターと一緒に泊っているホテルのルームナンバーを言って、トラヴィスはその場を去って行きます。トラヴィスは直に、妻とは会いませんでした。
 その夜、ジェーンはホテルの部屋で、我が子ハンターを抱きしめました。しかし、そこにはトラヴィスはいません。再び失踪したのです。つまり、彼はまた、第1のお話の世界へ帰って行ったのです。

 なぜ、ふたりの関係は破たんしたのでしょう。なぜ、トラヴィスはまた放浪の人生を歩むのでしょう。
 結婚した当時、トラヴィスは仕事探しに悩んでいました。地元に良い職がなく、家を出て出稼ぎしないと、一家を養えませんでした。しかし、トラヴィスは溺愛するジェーンと、一時でも離れていることは心的な苦痛でした。朴訥なトラヴィスと、歳の差が大きくある二十歳前のジェーンでした。

 出稼ぎ先のトラヴィスは、ジェーンが浮気しているという妄想を次第に抱き始めます。そして妄想は日を追うごとに大きくなって行きました。自身で自分を追い詰めているのに気付かぬトラヴィスは、家に戻り妄想を元にジェーンを罵ります。
 そんな中、ジェーンが妊娠。辛い思いをするジェーンも彼を罵ります。夫婦の関係は、どんどん、ささくれ立って行きました。
 しかし、それでも、トラヴィスは苦しみながらもジェーンをこよなく愛していたのでした。
 (このトラヴィスの心の核心は、テレフォンクラブでトラヴィスがジェーンに、電話でつぶやくように語るそのシーンで明らかになります。これを見逃すと話が分からなくなる重要場面です) 
 トラヴィス自身のこの、愛と憎の合い入れぬ感情は、彼の精神を蝕みました。そして失踪。残された若いジェーンは、まともに相談する相手もなく、やはり心を病み、幼いハンターを置いて、続いてその行方をくらましました。(映画はここら辺りの事情を、映像にしていないので、難解に感じるかも知れません) 

 トラヴィスとジェーンとの関係はすさみ切っていて、ふたりはまるで荒野の中にいるようでした。ですが、愛はあったのです。それはテキサスの荒野の中にある、はかない場所「パリ」が象徴しています。そこはフランスのパリではないが、彼にとっては甘い香りの愛の街のように思える所。トラヴィスは、今もそう思っています。

 さて折角3人が一緒になれるはずだったのに、なぜトラヴィスは妻子を置いて、また放浪の人生を歩むのか。
 すべて俺が悪いのだ。トラヴィスはちゃんと理解しています。つまりは、愛と一家の生計とが両立しないのです。
 下層の一家がひとつ屋根の下に住みながら、地元で働いて妻子を養うに足る仕事が、今も地元には無い。よって、やはりかつてのように家を出て出稼ぎせざるを得ない。そうなれば、トラヴィスはまた荒れます。だから下層の男トラヴィスは、ジェーンへの愛と、一緒に住むことの両方を諦めざるを得ないのです。(この頃からアメリカ国内は、低所得労働者にとって、とても厳しい時代になって行きました)

3-0_20170119151503bd1.jpg トラヴィスは几帳面な男でした。荒野での映画冒頭シーンで、飲料水を飲み干した空のポリタンクを捨てる時、ポリタンクのキャップをきちんと閉めてから捨てる男。弟の家に居候して、弟夫婦やハンターの靴をすべて磨き、家の外できちんと並べて日干しする男。
 妻との日常も、毎日、互いの歯車がきちんとかみ合うことが、トラヴィスの心の安らぎとなっていたのだろう。それがトラヴィスが感じたい愛の実感だったのかもしれない。

 余談だが、弟ウォルトの人生も気になるところ。この兄弟は貧しい一家に生まれたらしい。
 兄は良い仕事にありつけない低所得者層のままだったが、ウォルトは妻と共に広告看板制作会社を営み、それなりの収益があるらしく、借金をして、ロサンゼルス郊外に、空港の傍とは言え、小さな一軒家を新築している。ウォルトは中流に這い上がったようだった。
 今、この映画を観て感じるのは、その後、アメリカがさらなる格差社会となって、中流階級が消滅して行ったこと。
 ウォルトの家は、丘を切り開いた新しい住宅造成地の端にあって、丘の上。そこから空港を見下ろすシーンは、何か心にきりきりと来るようで、印象的でした。

オリジナルタイトル:Paris, Texas
監督:ヴィム・ヴェンダース|西ドイツ フランス|1984年|147分|
脚本:サム・シェパード|脚色:L・M・キット・カーソン|撮影:ロビー・ミュラー|
出演: トラヴィス・ヘンダースン(ハリー・ディーン・スタントン)|その妻ジェーン・ヘンダースン(ナスターシャ・キンスキー)|その子ハンター・ヘンダースン(ハンター・カーソン)|トラヴィスの実弟ウォルト・ヘンダースン(ディーン・ストックウェル)|その妻アン・ヘンダースン(オーロール・クレマン)|

【ヴィム・ヴェンダースの映画】
これまでに記事にした作品です。それぞれの題名をクリックしてお読みください。
都市の夏」(1970)     「ゴールキーパーの不安」(1972)
都会のアリス」(1973)     「さすらい」(1975) ←お薦め
ベルリン・天使の詩」(1987)     「ミリオンダラー・ホテル」(2000)     「パレルモ・シューティング」(2008)

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映画 「天使の涙」   監督:ウォン・カーウァイ(王家衛)

上0

 二人の男と、三人の女の話。舞台は、夜の香港です。
 このお話は、実は、話の底に、たっぷりのコミカルさをたたえながらも、それをシャープな映像で覆い隠して、ニヒルに冷たく自虐的に、明日に希望ない人々を描こうとしています。
 久々に観ましたが、今もって新鮮。賞味期限は、まだまだ先。

1-0_201701131244473d4.png 殺しのエージェント(ミシェール・リー)と、殺し屋(レオン・ライ)の二人は、タッグを組んで完璧な仕事をして来た。
 仕事をする上で、二人は決して顔を合わさない。エージェントの女は現場を下見しお膳立てして、ドライに指示を出す。殺し屋も女の指示通りドライに仕事をこなす。しかし、エージェントの女は密かに、殺し屋の男に気がある。片や殺し屋は、そろそろこの商売から足を洗おうとしている。

2-0_20170113124630322.jpg 口がきけないモウ(金城武)は、真夜中にあちこちのいろんな店で商売をしている。
 例えば、ある日は散髪屋、ある時はアイスクリーム移動販売車、次の日は屋台の豚肉屋、そして、ある夜はハンバーガーショップ。
 つまり、夜中に勝手に他人の店舗をこじ開けて、その店に入り込み、通りがかりの人間に、無理やり押し売りしている。時に腕力も使う。だが、モウはいたって善人だ。もっと言えば、幼い心のままに大人になってしまった男。

 その女(チャーリー・ヤン)は、愛する彼に電話していたが、その電話で彼が結婚することを知り、突如失恋した。そして、偶然その場にモウがいた。
 その後、なりゆきでモウは、逆上する失恋娘が彼の結婚相手に殴り込みをかけるのに付き合うことになる。でもなぜ?、それはモウの一方的な初恋だった。

3-0_2017011312594148c.jpg 殺し屋商売から足を洗おうとしているロンリーな殺し屋は、雨降る夜のマクドナルドで、いつになく人恋しかった。
 人けのない夜のマクドナルドに、もうひとりの客がいた。客の女は、殺し屋に近づき彼の気を引こうとする。その客は、金髪の女(カレン・モク)。結局、金髪の女は自分の部屋に殺し屋を引き入れて、夜が明ける。

 密かに殺し屋の男に気がある例のエージェントの女は、情緒不安定だった。
 ある夜、それは偶然だった。エージェントの女が金髪の女とすれ違った。そして互いにハッとする。互いに殺し屋の男との関係を嗅ぎ取ったのだ。
 その後エージェントの女は、引き際を探っている殺し屋に最後の仕事を出すが・・・。

 その夜、モウは勝手にこじ開けたハンバーガーショップにいた。
 ふと気付くと店の前に、あの失恋娘がキャビンアテンダントの制服で立っている。人待ちの様子。口のきけないモウは、女の気を引こうとするが、彼氏が現れ二人は去って行った。


4-0_2017011313204129c.jpg エージェント役のミシェール・リー、失恋娘役のチャーリー・ヤン、金髪の女役のカレン・モク、この三女優の演技の競い合い、これが見どころです。
 この映画、台詞は少ない。エージェントの女とモウの、独り言のようなナレーションが、それぞれの登場シーンに入る。これがうるさく感じないところが良い。

 登場人物五人のそれぞれの様子にも注目したい。
 ベストマッチングであった、エージェントの女と殺し屋の関係はご破算となり、完璧だった殺し屋は相手に撃たれてしまう。
 これに比べ失恋娘は、初恋するモウの助けを借りて、自身の失恋を克服し、新しい彼氏をさっさと見つけ、かつ航空会社に就職する。この現実的な失恋娘の、明日への行動力は素晴らしい。
 一方、金髪の女は、あいかわらず成り行き任せに、ひとり気ままに世間を浮遊する。
 残るモウは、いつまで経っても、子供の心。お人好しで失恋娘にいいようにされ、これまた、たまたまだったが、エージェントの女の面倒もみることになる。
 そうしてモウ自身は、焼き鳥屋でやっとまともな仕事を得るが店が閉店となり、また夜中の勝手な商売に逆戻り。おまけに、二人暮らしだった父親が他界し、モウはひとりになる。

 製作時の1995年当時、とうとう二年後に迫った香港返還は、香港の誰もが考えざるを得ないことだった。そう思うと、(映画は香港返還を語らないが)、この登場人物五人それぞれの生きざまは、不安を抱えて返還を迎える人びとの、対応の比喩だとみると、意味深長に思えて来る。

 最後になるが、同じくウォン・カーウァイ監督の映画「恋する惑星」(1994年)と本作、混同しないように。
 なお、本作の美しいビジュアル表現は、イギリス映画「ひかりのまち」(1999年、監督:マイケル・ウィンターボトム)に受け継がれているとも思える。(この二つの映画の記事は、題名をクリックしてお読みください)

5-0_20170113134827646.pngオリジナルタイトル:堕落天使
監督・脚本:ウォン・カーウァイ(王家衛)|香港|1995年|96分|
撮影 クリストファー・ドイル
出演:殺し屋(レオン・ライ)|エージェント(ミシェール・リー)|モウ(金城武)|失恋娘(チャーリー・ヤン)|金髪の女(カレン・モク)|

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映画 「歌うつぐみがおりました」   監督:オタール・イオセリアーニ

上

1-0_20170108204603078.jpg 南コーカサスにある国、ジョージア(旧名グルジア)の首都トビリシでの、可笑しなお話です。
 主人公のギア・アグラゼという男は、劇場専属オーケストラの打楽器奏者。
 舞台の幕が開き演奏が始まると、ヴァイオリンや管楽器の奏者は忙しいが、ティンパニーという楽器は概して暇。下手すると、曲の最初と最後の数小節しかティンパニーは登場しない。そうするとその間、ずっと座っているだけ、なのだが、ギア・アグラゼの場合は違う。

 とにかく、ギア・アグラゼは忙しい。
 幸い、ティンパニーの位置は、舞台下のオーケストラボックスの出入り口付近にある。それをいいことにギアは、オーケストラが演奏中に劇場を抜け出して外出し、最後の数小節を迎える直前に、危機一髪のタイミングでティンパニーの前に帰ってくる。

 その間、ギアが何をしているかと言えば、ある所へ行きある約束を済ませ、次に女の子に会いに行き、その後またちょっとした用を済ませに出かけ、その次に別の女の子に会いに行く。かつ、その移動中の路上で、ワル仲間から儲け話に誘われたり、出会う女の子に挨拶したり。そして、あわてて劇場に向かうのだ。

 何しろ、彼は顔が広く人気者でお調子者。そしていつもせわしない。絶えず、何か(複数の事を)していないと落ち着かない性分らしい。
 つまり、あらゆる案件がギアの中で同時並行に推移しつつあり、それらをつまみ食いする格好で、事をさばいて行こうとする。ポジティブシンキングだが、勝手に楽観過ぎて詰めが甘い。結局、何もかもが中途半端で、その場限りになりがち。
 かつ、約束をすっぽかしたり規則を破るものだから、ギアをよく思わない女の子や、彼を辞めさせたい劇場のお偉いサンがいる。しかし、それは一部の人で、おおかたの人々にとっては、ギアは憎めない存在の人気者なのだ。

 そんなギアを客観的に眺める人々が、映画の中に登場する。それは、ある女の子や図書館にいるメガネのおじさんや、とりわけ、ギアの友人の外科医である。その外科医は、ギアの精神的な面を心配する。しかし、その後ギアは呆気なく死んでしまうのだ。

 この映画を観て思うこと。
 人をひとつの歯車に例えるならば、世間は多くの歯車が互いに噛み合って動いている。この映画が言いたい事のひとつは、そんな事のような気がする。
 ただし歯車と言ったそれは、組織の一歯車といった負のイメージじゃなく、プラスのイメージ、協働あるいは恩義の貸し借りという意味合いだ。
 加えて、歯車にはいろんな種類がある。特にギアみたいな人間は、「遊び歯車」かもしれない。世の中、役にたたないようで役にたつギアみたいな人が必要なんだ。
 なぜ、ここで歯車を持ち出したかと言えば、ギアが交通事故で死亡した直後、映画の最後のシーンで、ギアの友人の時計修理職人が、動かなくなった懐中時計を修理する。修理が終わると時計のメカニズムがたくさんの歯車が一斉に動き出すところを、カメラはアップで見せるのだ。監督のメッセージだよね。

 もうひとつ、思うこと。ギアが絶えずふらふら浮遊しているように見えるのは、実はギアを取り巻く状況や関係性を「早回し」して見せているからだ、という見方。アレクセイ・ゲルマン監督のロシア映画「フルスタリョフ、車を!」と通底する感じがする。

 さらに思うこと。映画冒頭で、ギアは丘の上から、自分の住む街を見下ろしている。これは、ギア自身やギアに関わる全てを客観視するもう一人のギアを表わしているのだと思います。オタール・イオセリアーニ監督の「月曜日に乾杯!」にも同様なシーンがありました。
 (「フルスタリョフ、車を!」、「月曜日に乾杯!」の記事は、それぞれ題名をクリックしてお読みください)

下

オリジナルタイトル:Iko shashvi mgalobeli
英語タイトル:LIVED ONCE A SONG-THRUSH
監督:オタール・イオセリアーニ|ジョージア(グルジア)|1970年|82分|
脚本:オタール・イオセリアーニ、ディミトリ・エリスタービ、オタール・メフリシビリ、イリヤ・ヌシノフ、シェルマザン・カキチャシビリ、シモン・ルンギン|
撮影:アベサロム・マイスラーゼ|
出演:ゲラ・カンデラキ(ギア・アグラゼ)|ジャンスグ・カヒーゼ(指揮者)|マリーナ・カルツィヴァーゼ(マリナ)|ほか


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映画 「大人は判ってくれない」   監督:フランソワ・トリュフォー

上

 例えば、ミュージシャンのファーストアルバムの中には、「えも言われぬ素晴らしさ」を、今も維持し続けるものがある。
 フランソワ・トリュフォーの長編第一作、この「大人は判ってくれない」は、そんな魅力がある、いい映画。

0_20161224112719755.png それにしても、この映画を観て感じるこの新鮮さは、何だろうか。
 ファーストアルバムで名を揚げ、以後、技量を磨き経験を重ね、ビッグネームになるわけだが、大抵の場合、その第一作の魅力は、消えていく。映画についても、そうかもしれない。
 敢えて言えば、第一作の魅力は、(その時点で)才能を秘めた「素人」が、失敗を恐れずに作るからこそ生み出せる。若さかも知れない。とりわけ若い感性、これは、どうあがいてもベテランには出せない味。だから光る。

 物語は、子供の養育を嫌う両親と、その子の話を、子の視点で描こうとする。
 母親は再婚で、その子・アントワーヌ12歳 (ジャン=ピエール・レオ)は、母親の連れ子。共働きの両親は不仲で、母親には恋人がいる。家は中流の下レベル。

 アントワーヌが学校から家に帰っても、いつも親は居ず、日曜日も親は彼を構わない。しかし、アントワーヌは家事手伝いはすなおにしている。一方、学校では教師に反抗的で、要注意の悪い生徒。

 アントワーヌは悪友・ルネとつるんで、パリの街をぶらつく、学校を無断欠席し映画館に行く。世間的には不良予備軍。
 そしてアントワーヌはついに家出する。家を出て、ルネの叔父の印刷工場の片隅で一夜をあかし、さらにはルネの家に密かに居候。
 ルネの家はマンション最上階の金持ちだが、年老いてくたびれた風の父親(と若い母親?)はルネに対し、とても放任主義。

 アントワーヌは父親が勤務するオフィスから、タイプライターを盗み出し、ついに警察に保護される。そして、この機会を逃さぬ両親は、アントワーヌの養育を放棄する。つまり、親は警察にアントワーヌを少年院に入れてくれと願うのであった。これは、まさにネグレクトだ。(養育すべき者が子供の世話を怠り放置すること。)

 なんとも殺伐とした話にみえるが、そうでもない場面もある。
 アントワーヌに対する両親の(気まぐれな)愛情も描いているのだ。(例えば母親が息子をバスタオルで包んでやったり、一家で映画館に行ったり) この辺りは、話があまりに殺伐になり過ぎないようにとする、監督のバランス感覚か。
 また、ネグレクトに軸足を置いて観るのじゃなく、アントワーヌ少年の反抗期の話という見方もある。
 さらには漠然とだが、カウンターカルチャーの文脈で観る見方もある。(保守的な教師像や官憲や親の表現など)

 巨匠フランソワ・トリュフォーの映画ということで、大いに持ち上げられる作品だが、正直、お話の作りは平凡。
 しかし一方、これまでに、どれだけ多くの作り手が、この映画からいろいろの事を学んだことだろうか。それはたぶん、映像表現の素晴らしいセンスだろう。
 ま、しかし、ひたらく言ってしまえば、結局のところ、アントワーヌ12歳 (ジャン=ピエール・レオも当時12歳)のさりげない爽やかさが、この映画の最大の魅力、ということに落ち着く。

オリジナル・タイトル:Les Quatre Cents Coups|
英語タイトル:THE 400 BLOWS|
監督:フランソワ・トリュフォー|フランス|1959年|99分|
脚色:マルセル・ムーシー、フランソワ・トリュフォー|
撮影:アンリ・ドカエ|
出演:アントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レオ )|その親友・ルネ・ビジェー(パトリック・オーフェー)|母親・ジルベルト(クレール・モーリエ)|父親・ジュリアン(アルベール・レミー)|ほか
下

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第17回東京フィルメックス上映作品の「まとめ」です。

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、これまで12回シリーズで書いて来ました。
 今日は、そのまとめです。

2016_FILMEX.jpg 今年は、欲張って合計18本の映画を観ました。(各作品についての記事は、下記の題名をクリックしてお読みください)
 私が、いい映画だと思うものに印、アキマヘンと思ったものには×印を、下記映画につけました。無印は、悪くはない映画、か、う~んまあそうーね的な映画です。(通常、一夜一話では×印映画は掲載しません)
 
 映画祭というものは水物で、漁師の仕事のようだ。上映作品捜しにおいて、いい漁になるか、そうでないかは、(つまり作品の量と質は)、結局、網を入れてみないとわからない。
 総じて上映作品数は昨年より多いので、これは期待できるぞと、思ってたんですが、×印が多い。特別招待作品には、がっかりです。どうしてこんな映画を呼ぶんでしょう。
 最優秀作品賞受賞が「よみがえりの樹」(中国)とは驚いた、かつ同時に納得。憶測ですが、たぶん、作品集めにジャ・ジャンクーの協力が要るのでしょうね。
 コンペティション審査員のひとりが、「仁光の受難」を推したのは、とても同感です。
 まあ、しかし、◎印の映画に出会えて嬉しいです。来年のフィルメックスも今から楽しみにしています。
 
【コンペティション部門】 および東京フィルメックスの受賞

 ×よみがえりの樹(中国) 最優秀作品賞受賞、  バーニング・バード(スリランカ) 審査員特別賞受賞
 「私たち」仮題(韓国) スペシャル・メンションと観客賞、  普通の家族(フィリピン) 学生審査員賞
 オリーブの山(イスラエル)、  マンダレーへの道(台湾)、  ×神水の中のナイフ( 中国 )、
 恋物語(韓国)、  ぼくらの亡命(日本)、  仁光の受難(日本)

 (※「私たち」仮題は、見逃しました。来年に公開されるそうですから、その時に観ます。)

【特集上映 イスラエル映画の現在】

 山のかなたに(イスラエル)、  ティクン~世界の修復(イスラエル)

【特別招待作品】

 ×The NET 網に囚われた男 監督:キム・ギドク(韓国)、  ×大樹は風を招く 監督:フランク・ホイ他(香港)、
 ×山<モンテ> 監督:アミール・ナデリ(イタリア)、  ×エグジール 監督:リティ・パン(カンボジア)、
 苦い銭 監督:ワン・ビン(中国)

【特別招待作品 フィルメックス・クラシック】

 ザーヤンデルードの夜 監督:モフセン・マフマルバフ(イラン)、  タイペイ・ストーリー 監督:エドワード・ヤン(台湾)
 そのほかの3作は観ませんでした。

【これまでの東京フィルメックスに関する記事】

 ◆「第16回東京フィルメックス、まとめ。」の記事は、こちらから
 ◆「第15回東京フィルメックス」からは、「さよなら歌舞伎町」(監督:廣木隆一)、「扉の少女」(韓国)と「生きる」(韓国) ・・・題名をクリックしてお読みください。
 ◆「第14回東京フィルメックスのまとめ」の記事は、こちらから、ご覧ください。

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中国映画 「苦い銭」 監督:ワン・ビン ~第17回東京フィルメックス上映作品(特別招待作品)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第11回です。
 本作品はフィルメックスの招待作品です。
 この映画は香港製作ですが、ワン・ビン監督の作品ですので、便宜上、中国映画とします。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「苦い銭」  Bitter Money|苦钱|香港、フランス|2016|163分|
 監督:ワン・ビン  (WANG Bing|王 兵)
1_20161201130525456.jpg
 いいドキュメンタリー映画ですね。
 舞台は、中国浙江省湖州。上海市に近い。
 ここら一帯には、たくさんの縫製工場がある。大きな仕事を一手に引き受ける郊外の大きな工場から、そんな工場の下請けをする町工場まであって、また小さいながらも直で受注する町工場もあるようだ。

 この「苦い銭」では、街中で働く人々を描きます。ですが、監督作品特有の武骨な感触、包み隠さぬ現実描写、登場人物の剥き出しの感情は健在です。

 映画は、ベテラン従業員6人ほどを抱える、ある子供服の縫製工場の様子を描いて行きます。
 登場人物の従業員は、リンリンという女性以外は皆、地方から湖州に単身で来た出稼ぎの人たち。彼らは工場の階上にある共同宿舎に住込みで働いている。
 雲南省からはるばる来たばかりの15歳・新人の男の子と女の子(都会に来れてウキウキ)。工場近くの店で夫が商売をしている女性従業員のリンリン(写真の人)。もう一人の女性は子供を故郷に置いて出稼ぎに来た。
 そのほか、温和で無口な中年男性のベテラン従業員や、飲むと手が付けられない不満分子の年配従業員、作業の手が遅いのを悩む若手男性もいる。(時給ではなく、何着仕上げたかなのだ)

 シーンの様子は例えば、こんなだ。夫によるDV一歩手前のリンリン夫婦の激しい夫婦喧嘩にカメラが入り、延々と撮る。
 昼間の作業風景はもちろんだが、突然に急ぎの仕事が入り、夜中に起こされ仕事を始める様子も撮る。
 宿舎の部屋で自分に閉じこもる人の、心の中にもカメラは入り、つぶやきが聞こえる。(ここは街だが遊ぶ金がないのだ)
 社長は従業員に意外と優しいそんなやり取りもあるし、出荷の荷造り共同作業では働く場の絆が浮かび上がる。

 彼らの仕事はしんどいが、ミシン相手に座ってする屋内仕事。監督のほかの作品に出てくる、例えば炭坑製鉄所などの野外の肉体重労働じゃない。けれど、縫製の仕事に携わる彼らの様子からは、監督作品特有の武骨な感触、包み隠さぬ現実描写、登場人物の剥き出しの感情が、とても生々しく感じられる。言い換えると、NHKテレビ番組「鶴瓶の家族に乾杯」のような取材者と取材対象者との、表層的な慣れないは一切見られない。

 この作品は、市井の人々のありのままを、それも広大な国土の極一点の様子を描いたドキュメンタリーだが、でも、「中国の今」をしっかりと感じとれるのは、何と言ってもワン・ビン監督の魅力。
 ドキュメンタリーの対象となる事象をあまたの中から探し出し、その場を特定する力、出演を依頼する交渉力。そして取材撮影中に起こる予期せぬことも、見られたくない内面が剥き出しになる時も、それを許す出演者と、遠慮なく撮影する監督との人間関係。ワン・ビン監督の魅力だ。

【ワン・ビン監督の映画】  これまでに記事にした作品です。題名をクリックしてお読みください。

 「石炭、金」(2009年)、「無言歌」(2010年)

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韓国映画 「恋物語」  ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第10回目です。
 いい映画です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「恋物語」  Our Love Story|韓国|2015|99分|
 監督:イ・ヒョンジュ (LEE Hyun-ju)

ユンジュと、右がジス
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ユンジュと、男友達
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 今年のフィルメックス上映作の中で、とても良い印象が残る、いい映画。
 「Our Love Story」とは、女性同士のLove Story。だから不快に思う向きは、この時点で脱落してしまうが、とてもうまく描けているLove Storyです。女性監督ならではの、心のこもった きめ細やかな描写。しかも、監督の長編第1作なのだから驚く。
 
 ユンジュと言う名の美大生と、ジスという女性とが、ソウルの街で出会い、恋をする。
 ユンジュにとって、これは初恋であり同時に初めての女性との関係であった。かつ、愛することの喜びを初めて知る。

 ユンジュは人付き合いのいい子で、大学の同僚男子にも、以前からの知り合いの男子にも好かれている。この以前からの男子は小説家の卵で、彼が結婚する前からの知り合い。彼は、プサンで相手と離婚しソウルに舞い戻り、ユンジュに会いに来る。だがユンジュはこれまで、男子から「好かれている」それ以上のことに発展したことはなかった。
 もちろん、ユンジュはジスとの愛を周囲に話すことはないが、唯一、小説家の卵の彼には、すなおに話せた。

 ジスが遠い田舎に帰郷することとなった。母を亡くして、父親をひとりにして置けなくなったからだ。
 娘を待ちわびていた父親は、中断していたいいなずけの男との交際を再度ジスに勧める。しかし、ジスは本音を言えない。
 
 ユンジュはジスが帰郷したあと、彼女の事がひと時も頭から離れず、卒業制作のオブジェ創作は進まないどころか、制作を放棄してしまう。よって、キャンパスにも行かなくなる。ジスへの思いが募るユンジュは、ついにジスの実家へ行くことにした。
 しかし、ジスはユンジュを冷たく扱う。それは、父親の前だから、実家の周囲の目を気にするから、さらには父親が願う結婚のことも考えるからか・・・。

 いつしか、ふたりは疎遠になって行く。距離の問題もある、それぞれ自身の抱える問題もある。愛の炎は消えかかっている。
 その後、ジスがソウルに出てきてユンジュに会いに来る。今度はユンジュの態度が冷たくみえる。平静を装おうとするジスは、ユンジュにしがみつく。
 さあ、これからのふたりに、どんな明日があるのだろうか・・・。
 映画は、陰のあるハッピーエンドを迎えます。

 なかなか言葉にできないような細やかさが、この映画にあります。イ・ヒョンジュ監督の素晴らしさです。ユンジュとジスの揺らぐ心の機微を上手にすくい上げています。また、脚本への緻密な配慮もうかがえます。是非、公開してほしい映画です。

【若手女性監督の、いい映画】  これまでに記事にした作品からです。 
 次のどちらの映画も、繊細で美しい。この「恋物語」と通底するテイストがあります。題名をクリックしてお読みください。 

 記憶が私を見る」 監督:ソン・ファン[製作:ジャ・ジャンクー] (2012年中国映画)
 理髪店の娘」  監督:シャーロット・リム (2009年マレーシア映画)
 

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イラン映画 「ザーヤンデルードの夜」 監督:モフセン・マフマルバフ  ~第17回東京フィルメックス上映作品(特別招待作品 フィルメックス・クラシック)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその9回目です。
 本作品は1990年に発表されたもので、フィルメックスの招待作品です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「ザーヤンデルードの夜」  The Nights of Zayandehrood|イラン|2016|63分|
 監督:モフセン・マフマルバフ(Mohsen MAKHMALBAF)
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 1979年のイラン革命(イスラム革命)の直前直後を描く映画。
 革命は、他国勢力の影響下ではなく、イラン人民による革命で、かつ、結果イスラムの力によるものであった。
 その後、イスラム政権による国家運営となって、イスラム教下での女性差別、自由主義者や左翼、非イスラム教者への弾圧が行われた。
 
 映画に登場する大学教授は自由主義思想の人で、慎重に言葉を選びながらも、聴く者によってはラディカルな講義をしていて、学生からは一定の支持があった。しかし、革命が始まる前夜の頃から、彼をあからさまに非難する学生が増えて行った。そしてついに、彼らによって講義は妨害される。
 ある夜、教授は妻と連れだって歩いている所へ一台の車が突っ込み、走り去った。妻は死亡し、教授は車椅子の生活となってしまう。あれは事故だったのだろうか。
 教授にはひとり娘がいて、彼女は救急病棟で看護師として働いている。運ばれてくる患者の多くは、薬による自殺未遂だ。その中の一人の男が彼女を好きになる。映画は、この男を登場させて、革命前後ころの社会的弱者を描いている。
 一方、かつて彼女から離れて行った元彼が離婚し、彼女の前に再び現れる。二人の男からの求愛に彼女は悩むのであった。(この結婚相手のことに教授は父親として娘に介入する。) 革命後、教授は大学に復帰し、あらたに講義を始めるのであった。

 監督は当時、革命に加わったとのことだが、その後の経緯と現状の中で、監督は大きな戸惑いを感じ続けているのだろう。
 この映画は本来、100分の尺があったらしいが、25分の検閲カットののち、1990年にテヘランで初上映。その後、上映禁止、ネガ没収となった。近年失われていたネガの一部が発見、修復され今に至る(2016年に修復版公開)。本作の上映時間は63分だから、100分のうち37分が消えてしまった作品。だから、映画の語ることが、正直イマイチ分からない。
 消えてしまったシーンが語る内容は、この映画の中の教授が、革命前に講義した内容と重なっているように思える。

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イスラエル映画 「オリーブの山」、中国映画 「よみがえりの樹」、イタリア映画 「山<モンテ>」 ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第8回です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「オリーブの山」  Mountain|イスラエル、デンマーク|2015|83分|
 監督:ヤエレ・カヤム  (Yaelle KAYAM)
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 若い監督のデビュー作には、時に不思議へ誘うかのような、言葉にしようのない魅力を持つものがある。
 それは、自分勝手に素晴らしいと思う、若さゆえの独り善がりが生み出す新鮮さ、ベテランには無い原動力。
 その不思議さは、芸術というフィルター越しの風景なのか。いや、単に妙チクリンなだけのか。うむ、なかなかそうとは言いきれないのが、このミステリアスな映画。

 舞台はイスラエルにあるオリーブ山という丘陵。旧約および新約聖書にたびたび出てくる所らしい。そこに墓地がある。世界最古でかつ最大のユダヤ人のためだけの墓地。

100.jpg この墓地の中に住む若夫婦の妻・ツヴィアが主人公。つつましい一家で、子がいて、夫はユダヤ教正統派の学者のようだ。
 何不自由ない家だが、夫は最近過労気味。精神的に参っている。そのせいか、夫は妻の夜の要求に応えられないでいる。夫婦仲もギクシャクしている。

 朝、夫や子を送り出したあと、ツヴィアは台所でタバコを吸う。家は丘の中腹だから、台所の窓から見える風景がいいのだ。
 気晴らしに外へ出て、墓地の階段を上がり、見晴らしの良い場所でたたずむのが彼女のお気に入り。時たま通りすがる、墓掘りのアラブ人の男は、たたずむ彼女の前で立ち止まり、決まってタバコの火を求める。そしていつも、取りとめのないつかの間の会話が始まる。なぜかお互い、癒やされる。

 そのうちツヴィアは、家族が寝静まった夜に墓地に出るようになる。タバコを吸う辺りからは、遠くの街の灯が見える。
 ある夜、墓地の中で喘ぎ声が聞こえた。売春婦とその客だ。ツヴィアはその様子をじっと見ている。彼女が何かを落とした。その物音を聞き付けた売春斡旋の男たちが、ツヴィアを追いかける。彼女は間一髪で難を逃れた。

 その日から、ツヴィアは彼らのために料理を作るようになる。作った料理を鍋のまま、真夜中に墓地へ持って行き、恐々ながらも彼らに提供するのだ。何と言う とち狂った女だと思っていた彼らだったが、そのうちツヴィアの料理を心待ちにするようになった。

 その日ツヴィアは、まったく同じ料理を同時に二つの鍋に作っている。ひとつの鍋は家族に、もうひとつの鍋は売春グループたちのため。そしてツヴィアはおもむろに、殺鼠剤(ネズミ駆除薬剤)を取り出し、片方の鍋に入れた。
 夜が更け、いつものように彼女は鍋を抱えて墓地の中を行く。売春グループたちは美味しそうにその料理を食っている。そして彼女は帰る。墓地の階段を降りて行くその途中で、ツヴィアは立ち止まった。彼女は我が家をじっと見下ろしている。
 
 まだ若いゆえの解釈も見受けるが、映画が映しだす丘陵(オリーブ山)からの拡がりある風景が、観る者の心をも澄ます。そして、拡がりある風景に対比されるツヴィアの受け身で縮こまった心、不可解な心境。ミステリアス。 

「よみがえりの樹」  Life After Life (枝繁葉茂)|中国|2016|85分|
 監督:チャン・ハンイ (ZHANG Hanyi)
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 霊魂がとりつく憑依憑霊の話に、輪廻転生にまつわるエピソードを添えた物語。監督にとって、これが長編映画第一作目。
 ここは中国、黄土高原が広がる陜西省の辺鄙な村落。古くからの家は、崖(がけ)に横穴を掘って造った土の中の家(横穴式住居ヤオトン)だ。しかし今では、そのヤオトンの家々も、そうでない家も、みな空き家。もうこの村落に留まる人は極わずかになってしまった。
 村はこれまで炭坑で食って来たが、坑道崩落で閉鎖となる。地域住民はみな、新築の高層アパート一棟に集約されるらしい。これを嫌がる人もいる。

 そんな村に、妻を亡くした男と、その息子がいる。息子の名はレイレイ、小学校低学年くらい。ヤオトンの家に住んでいる。
 ある日、ふたりして近隣の林に入り、焚き木ひろいをしていた。その時、突如レイレイの身に、母親の霊魂が取り着いた。
 母親・シュウインは息子の声を借りて、夫に言った。我が家の前に植わっていた木を、何処か良いところへ移植したい。あの木は私が嫁いできた時の、唯一の嫁入りの品だった。
 ここから夫と、亡き妻シュウイン(レイレイの身に取り着いた母の霊魂)のふたりが、木の移植に苦労する話となる。三輪オートバイに乗って、ふたりは移植を手伝ってくれそうな人をあちこち訪ねるが、誰も相手にしてくれない。そんな中、ふたりはシュウインの実家を訪ね、シュウインは老いた両親に、自分が戻って来たことを密かに伝えたりもする。
 結局、ふたりだけの移植作業となり、レイレイの子供の身では力仕事がはかどらず苦労する。そして、荒野にその木を植え替えた。

 憑依憑霊の話は、拍子抜けの感あり。
 映画は、妻が憑霊したのちの些細な話を、必要最小限のセリフとともに、村落周辺の風景映像を延々と流して表現しようとする。
 監督は撮影されたこの地で生まれ育ったとのこと。だから、観客がなんとなく観ている映像は、監督にとっては特別な景色なのだ、その景色に監督の記憶や愛着が重なるのだろうが、観客にそれが伝わってこない。
 見方を変えれば、この物語は短編小説にはなるが、話を絵(映像)に当てはめるのは難しい。

 この映画のプロデュースは、ジャ・ジャンクー。彼が主催する「添翼計画」(若手監督育成プロジェクト)からの出品作。
 以前の出品作では、ソン・ファン監督の「記憶が私を見る」(2012年)が、抜群に良い。(この記事は、こちらからお読みください)

「山<モンテ>」  Monte|イタリア、フランス、アメリカ|2016|105分|
 監督:アミール・ナデリ  (Amir NADERI)
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 監督のアミール・ナデリは、イランの映画監督。この映画は、全編をイタリアで撮影された。
 時代は中世末期。巨大な岩があちこちに露出している山の中腹に住む一家三人。
 家の周囲は、山くずれで、がけになった急斜面、岩がガラガラしている所。そんな山あいの狭い土地に畑を耕すが、石が混じる土地は山陰で陽も当らない。
 こんな荒れた土地を離れれば良いものをと思うが、彼らは町に住めない。蔑視されている人びとなのだ。
 一家のあるじアゴスティーノは、ある日からゲンノウ(大型ハンマー)で巨岩を打ち砕こうとし始める。しかし、力しても岩は硬い、ゲンノウは跳ね返されるばかりだ。そんなシーンが延々と続く。しかしラストは、思わぬことに・・。
 ヴェネチア映画祭で「監督・ばんざい!賞」が授与されたらしいが、延々と続く岩を打ち砕こうとするシーンが、この先いつまで続くのか、はやく終わって欲しい!と願った、久々の映画でした。
 

台湾映画 「台北ストーリー」(旧題名:幼なじみ) 監督:エドワード・ヤン  ~第17回東京フィルメックス上映作品 (特別招待作品 フィルメックス・クラシック)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその7回目。 
 今回の映画 「タイペイ・ストーリー」は、1985年製作のエドワード・ヤン監督による映画で、フィルメックスの招待作品です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「台北ストーリー」 (幼なじみ)  Taipei Story|青梅竹馬|台湾|1985|120分|
 監督:エドワード・ヤン  (Edward YANG|楊德昌)
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 1985年ごろの台北の街での話。
 その頃、台北では新しい経営がビジネスチャンスを求めて競い合い、また大きな資本を持つ企業は企業買収を進めていた。
 もちろん一方で、家業を継いで昔ながらの商売を続ける人々も多くいた。

 チン(ツァイ・チン)と、ロン(ホウ・シャオシェン)は台北の街中で育った幼なじみ。
 チンは、ビルを手掛ける建築設計事務所にいて、設計技師の社長のもとで、秘書兼マネジャ的な仕事をしている。
 有能なチンは高収入でオシャレな身なりで、独身。実家を離れてマンションで一人住まいをしている。社長はチンに好意を抱いていて、彼女もまんざらではない。
 しかし、ある会社がこの事務所を買収することになる。この会社はチンに継続雇用の意向を示し、新たに秘書の仕事を勧めたが、チンはきっぱり断った。

 一方、ロンは古くからの問屋街にある布問屋の息子。最近までアメリカに行っていた。向こうの台湾人コミュニティでの商談だったのだろう。ロンは若い頃、野球をやっていた。小柄で大人しそうに見えるが腕力がある。ワルな連中とも付き合っている。

 この間、互いにさしたる連絡も取っていなかったふたりが、久方ぶりに会った。幼なじみではあるが、これまで別々の世界に生きて来たふたり、ではあったのだが・・。
 急な失職と、いい勤め先も見つからないチンは情緒不安定で、とりあえず一時、実家に戻っていた。ロンはロンで商売がうまく行かない様子。そして、ふたりは結ばれる。しかし翌日には、互いにそんな仲ではなくなっている。チンとロンのこんな宙ぶらりんな関係がその後も続く。

 自暴自棄気味なチンは、暴走族の若い子たちに交じって遊ぶようになる。そんな折、建築事務所の元社長から、離婚したからという連絡が来た。

 ある夜遅く、チンがマンションに帰ってくると、マンション前に暴走族の1人が彼女の帰宅を待っている。男はチンが好きになったらしい。チンは怖がって帰れず、ロンに助けを求める。
 タクシーで駆けつけたロンは、その男を脅し殴って退散させ、チンは無事に部屋に戻れた。ところが、ロンがタクシーに乗車し帰ろうとすると、暴走族の男がバイクでタクシーについて来る。山間部の暗い道までも、男はまだ執拗について来る。
 ロンはタクシーを降り、その男と取っ組み合うが、ロンは男のナイフで腹部を刺されてしまう。

 深夜、ロンは人けの全くない山の夜道をふらふら歩きだすが、結局、出血多量で意識不明となってしまう。翌朝、ロンは警察に発見され救急車も来たが、救急隊員に急ぐ様子はない。既に死亡しているのだろうか。
 チンに電話が来た。彼女が以前から頼りにしている年配女性からで、あなたに相応しい仕事があるとのこと。チンは言われた場所に行ったが、そこは内装前のビルの広い一画だった。
 「ここが新しく立ち上げる会社のオフィスになるのよ。」 その会社とは、そう言うその女性が社長となって起業する、IT系の会社だそうだ。そんな話を聞き流しながら、チンは窓の外をぼんやり眺めているのであった。

 この映画に出てくる幾つかのエピソードも含め、どのストーリーもメリハリがない。中途半端さを拭えない。時代の変わり目の、真っただ中に生きるとは、案外そういうことなのかもしれない。

 上映時間:110分|
 脚本:エドワード・ヤン、チュー・ティエンウェン、ホウ・シャオシェン|撮影:ヤン・ウェイハン|
 出演:ホウ・シャオシエン|ツァイ・チン|ウー・ニェンツェン|クー・イーチェン|ほか

 【エドワード・ヤン監督の映画】 これまでに取り上げた作品です。タイトル名をクリックして記事をお読みください。

 「牯嶺街少年殺人事件」(クーリンチェ少年殺人事件)(1991年)、 「ヤンヤン 夏の想い出」(2000年)

 【ホウ・シャオシェン監督の映画】

 「憂鬱な楽園」(1996年)、 「童年往事 時の流れ」(1985年)、 「冬冬の夏休み」(1984年)、 「風櫃の少年」(1984年) 

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イスラエル映画の 「ティクン ~ 世界の修復」、「山のかなたに」 ~第17回東京フィルメックス上映作品(特集上映:イスラエル映画の現在)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第5回。
 両作品はともにイスラエル製作の映画です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「ティクン ~ 世界の修復」  Tikkun|イスラエル|2015|120分|
  監督:アヴィシャイ・シヴァン  (Avishai SIVAN)
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 この映画は、ユダヤ教の「超正統派」に属する一家の話である。
 よって、映画を観るには少々予備知識がいる。
 それはユダヤ教についてだ。ユダヤ教にはいくつもの教派があって、そのなかの正統派という教派の中にさらに「超正統派」という教派がある。ユダヤ教の最右派でイスラエル人口の10%近くが信仰しているらしい。
 この超正統派の人々は、同じ教派の狭いコミュニティーの中だけで厳格な人生を送る。例えば、結婚相手は必ずコミュニティー内といった風で、教派外部や俗世との接触をことさら避ける。テレビも見ないし映画館にも行かないらしい。また、男性女性の性の分離を厳格に実施している。

13_20161127192539240.jpg さて、テルアビブの街に住むこの一家の長男・ハイム・アロンは、超正統派の神学校に通う青年。他の多くの学生に比べて、彼はあまりにも熱心過ぎる学びの姿勢であった。朝は誰よりも早く登校し、深夜になってもひとり神学校の教室に残っていた。(彼はとても神経質で、他人と交わらず、そして年齢の割にはいささか幼い)

 しかしそんな毎日は体力的に続かない。勉学に疲れ、ついに精神までもが摩耗しきってしまった彼は、ある日、家庭内事故で意識不明の重体となる。彼の家に駆けつけた救急隊員は懸命な救急救命処置を行うが、悲しいかな、その場で死亡の宣告がおりる。これを見守っていた父親は、息子の死を受け入れられず、自ら救命処置を続けた。その結果、奇跡的に彼は蘇生した。そしてその後、彼は入院し快復する。

 しかし、快復した彼は神学の勉強をサボりだす。人が変わったようだった。ひとつの身体に二つ目の魂が宿ったのだ。真夜中にふらりと家を出て、ヒッチハイクで遠出したり、売春宿にも入った。(しかし、裸の女性を見て逃げだす) ついに神学校から追放される。
 屠殺場で働く父親は、この頃から悪夢を見るようになる。寝ている息子を包丁で刺し殺す悪夢だ。なぜなら、夢の中で、神は父親に言ったのだ。「息子の死は私の意志なのに、お前は彼を生き返らせた。私の意志にお前は刃向かうのか!」と。

 一方、信仰を捨てたかにみえる息子はまたしても、精神が摩耗して行く。深夜に外出し、濃霧の中を夢遊病者のように徘徊し、実に奇妙な出来事に遭遇する。(映画は幻想的シーンを描く) 俗世は彼にとってあまりにも不可解で厳しい別世界であったのか。
 ユダヤ教に縁のない私には理解に苦しむ映画であった。

「山のかなたに」  Beyond the Mountains and Hills|イスラエル、ベルギー、ドイツ|2016|90分|
  監督:エラン・コリリン  (Eran KOLIRIN)
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 何をどれほど認識しているのかよく分からないが、何かと反体制的な行動をとる、若いユダヤ人女性・イファットが、登場人物の1人。
 イファットはイスラエルで差別されるアラブ人に対し漠然とだが心情的な好意を持っている。あることがきっかけで、イファットは、山の向こう側の人里離れた所にある、アラブ人労働者の貧しい集落の青年と、怖いながらも少し親しくなった。悪い人じゃなさそう。イファットにとって、これは世間知らずの向こう見ずな冒険か、非日常的な愛なのか。(人口の75%がユダヤ人、アラブ人は20%。宗教別ではユダヤ教徒が75%、ムスリムが16%)

 もう1人の登場人物は高校の教師をしているユダヤ人中年女性。彼女の授業に熱心なひとりの男子生徒に、彼女はいつしか好意を寄せ始める。そして、ある日、教師と生徒の一線を越えてしまう。
 さらにもう1人の登場人物は、長年勤めあげた軍隊を退役したばかりの退役軍人のダヴィド。これから第二の人生だ。まずはマルチ商法の商品販売員になるが、うまく行かない。憂さ晴らしに、夜間、人けのない暗い夜道に車を止めて、山のすそ野に向けて拳銃を乱射する。

 翌朝、ダヴィドが拳銃を撃った辺りでアラブ人男性の死体が発見される。銃で撃たれたらしい。警察が現場検証をしている。その夜、ダヴィドは密かに現場に向かい、自分の銃の薬きょうを路上で拾う。
 もうひとりの翌朝。女性教師の下着姿の画像がネットに公開され、学校では生徒たちが騒ぐ。これを知った教師の息子は、母親の相手をした男子生徒を襲い、握った大きな石で生徒の頭部を一撃する。

 さて、実は、この4人の登場人物は、何不自由ないユダヤ人一家の親子4人なのだ。(う~ん、設定に無理があり過ぎ)
 ダヴィドが警察に呼び出される。彼が出向いて分かったことは、呼び出したのは警察ではなく、国家警察だった。ダヴィドは夜間の乱射を告白したが、彼らはそれを問題にしない。(たぶんアラブ人の死とは関係なかったのだろう) 彼らはダヴィドに協力してくれと言う。テロ犯罪者を追っている。あなたの娘・イファットが会っているアラブ人だ。娘のスマホに、あるアプリを密かに入れ込んでくれ。
 一方、教師の妻は自身の行為を、夫・ダヴィドに告白しようとするが、ダヴィドはそれを制した。そして言った。私たちは、これからも夫婦だ。
 ところで、イファットが会っていたアラブ人だが、その後、逮捕された。イファットはそのニュースを見て驚く。

 この映画の監督は、エラン・コリリン。彼の「迷子の警察音楽隊」(2007)は、コミカルで奇妙で少し悲しいドラマが良かった。映画製作にあたっての監督のテーマは、ユダヤ人・アラブ人、あるいはイスラエルとパレスチナやエジプトといった関係性を問うものだ。それにしても、この映画「山のかなたに」はアカン。
 映画 「迷子の警察音楽隊」の記事は、こちらからご覧ください。

 その他のイスラエル映画 ~ これまでに記事にした作品です。 映画タイトルをクリックして、ご覧ください。

 「ジェリーフィッシュ」   監督:エトガー・ケレット、シーラ・ゲフェン 2007年
   3つのエピソードを追う映画。イスラエルのリゾート地でもあるテルアビブの街での話。
   海から来た不思議な女の子、黒いドレスの詩人の女性、フィリピンからイスラエルに出稼ぎに来たジョイ。
   この3人の女性がキーで話は展開します。 

 「若さ」   監督:トム・ショヴァル 2013年  第14回東京フィルメックス上映作品でした。

   イスラエルのテルアビブ近郊が舞台。アパートに住む両親と兄弟。
   長男18歳は、徴兵されて来週には家を出る。しかし兵役に就く前に、兄弟にはやることがあった・・・。   
   (リンク先のページの下の方に「若さ」の記事があります) 

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フィリピン映画 「普通の家族」  ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第4回です。
 今回はフィリピン映画です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「普通の家族」  Ordinary People|フィリピン|2016|107分|
 監督:エドゥアルド・ロイ・Jr  (Eduardo ROY Jr.)
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 実に すなおな、いい映画です。
 マニラの街中で、ストリートチルドレンとして育った16歳のジェーンと17歳のアリエスの物語。
 専ら、ひったくりで稼いでいるアリエス。窃盗仲間には幼い子たちもいる。

0_20161127150452c9b.jpg ふたりの間に赤ちゃんが生まれた。現在、生後一カ月。赤ちゃんが生まれてからは、夫婦の間でジェーンの方が強くなった。母は強しである。(こういう時、男は誠に情けない)
 寝起きする場所は日々転々としているふたりだが、ベビーハンモックを買った。ふたりは相変わらず段ボールを敷いて寝る。

 そんなある日、赤ちゃんが誘拐されてしまう。ジェーンが一時、ちょっと知り合いの人に騙されて赤ちゃんを預けた隙に、その人が誘拐したのだ。
 慌てたジェーンは辺りを探すが、預けた人は消えていた。アリエスを携帯電話で呼び付けて、ふたりで街中を探すが見つからない。仲間も加わって探すが駄目だった。赤ちゃんを預けた場所はスーパーの店内で、店の警備員が店内防犯カメラを再生すると、確かに預けた人が赤ちゃんを抱いて去って行く姿が映っていた。だが、店は何もしてくれない。
 ジェーンは警察に出向いた。(アリエスは職業柄、警察に行けない) だが、担当官は彼女を性的にもてあそぶだけであった。

 地元ラジオ局の番組に、相談お助け番組があった。人に勧められ この番組に出たふたりは、赤ちゃん捜しの助けを乞うた。
 さっそくジェーンの携帯宛に反応のメールが来たが、どれもが路上生活者への罵倒や嫌がらせのメールであった。
 そんな中、赤ちゃんの居場所を言うメールもあった。アリエスはそのメールを信用しなかったが、藁にもすがる思いのジェーンはアリエスの反対を押し切り、ふたりしてそこへ出かけた。赤ちゃんを養子として買ったであろう人の名と住所がメールにあったのだ。

 そこは、高級住宅街で、その街全体が塀に囲まれていて門には警備員がいた。やはり、門前払いであった。
 アリエスは塀を乗り越え、その家に忍び込み、赤ちゃんを発見する。しかしだ、アリエスはこれが我が子か、はっきりしない。悩んだ末、この子を抱きかかえ、塀の外で待っていたジェーンと一緒に急いで逃げた。そして、少し離れて落ち着いたジェーンが、その子の顔を見て愕然とした。我が子じゃない! メールは嘘であった。
 このまま逃げようとするアリエスをまたもや押し切って、ジェーンは子を帰しに行くと言って、ふたりしてその家へと戻る。家の前にはすでに警備員たちや近所の人が集まっていた。子をその家近くの道路上に置いて、ふたりは一目散に逃げるのであった。

 ストリートチルドレンの、このふたりも、Ordinary Peopleなのです。子の親なのです。映画はそう言っている。
 監督の育った近辺には身近にストリートチルドレンがいたらしいし、その中には友人もいたとのこと。監督のそういう実体験が、話を写実的にかつ生き生きとしたものにしています。マニラの街の騒々しさもよく伝わってきます。この映画、公開されるといいですね。
 昨年、第16回東京フィルメックスで上映され、のちに公開された作品に、ピーター・チャン監督の中国映画 「最愛の子」がありました。3歳の一人息子が誘拐された夫婦の話でした。はやり、あちこちから偽の情報がこの夫婦に来ます。「最愛の子」の記事は、こちらからお読みください。
 また、「普通の家族」のふたりと同じ境遇のカップルに、やはり赤ちゃんが誕生するという映画に、ダルデンヌ兄弟によるベルギー映画 「ある子供」があります。こちらはベビーカーを買いました。この「ある子供」の記事は、こちらからご覧ください。

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カンボジア映画 「エグジール」、香港映画 「大樹は風を招く」 ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第3回目。
 両作品ともに、東京フィルメックス特別招待作品です。 
 「エグジール」はフランス製作ですが、監督はカンボジア出身で祖国のことを描く作品ですので、便宜上、カンボジア映画とします。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「エグジール」  Exile|フランス、カンボジア|2016|78分|
 監督:リティ・パン  (Rithy PANH)
1_20161201091651e31.jpg
 監督のリティ・パン(リティ・パニュ)[1964~]は、カンボジアの人。
 監督は、クメール・ルージュ(ポル・ポト派:カンボジアの政治勢力で武装組織)による悲劇苦難をテーマとして創作活動をしている、主にドキュメンタリー製作の監督。

 創作映像部分は、男優一人と小屋のセットを使っただけの映像で、頂けない。加えて各所に、クメール・ルージュ時代の当時のモノクロ映像が挿入されている。そして、それらの全体を長編の詩(ナレーション)で包んでいる。

 監督のドキュメンタリー映画を既に観ている人にとっては、この「エグジール」に意味深いものを感じるのかもしれないが、監督作品に初めて接する者が、この作品だけを観る時、あまりにも取っ付きにくい。


「大樹は風を招く」  Trivisa|樹大招風|香港|2016|97分|
 監督:フランク・ホイ、ジェヴォンズ・アウ、ヴィッキー・ウォン (Frank HUI、Jevons AU、Vicky WONG)
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 1997年の香港返還直前の頃に、香港に実在した3人のギャング。
 彼らの実話をヒントに製作された映画。
 つまらいないね。







台湾映画 「マンダレーへの道」  ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第2回。
 本作は台湾製作の映画ですが、内容は漢民族系ミャンマー人の話です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「マンダレーへの道」  再見瓦城|The Road to Mandalay|台湾、ミャンマー、フランス、ドイツ|2016|108分|
 監督:ミディ・ジー (Midi Z)
1_201611270951485b4.jpg
 ミャンマー連邦共和国(旧ビルマ連邦)には漢民族もいる。監督もその1人で、このストーリーは、彼の兄姉がかつて隣国タイへ違法に入国し、不法滞在し働いた(不法就労)経験をもとに描かれている。(監督は現在台湾で映画製作をしている)

 ミャンマーからタイに来た男女のラブストーリーと別れを描く作品。
 映画は主人公の女性・リャンチンが、不法入国を斡旋する人びとの案内で、密かにタイへ越境するところから始まる。
 そしてリャンチンは、バンコクで働いている知り合いの女性達が住むアパートへ転がり込む。不法入国した彼女たちは、パスポートも労働許可証も持ってはいない。許可証を持っていないと基本、どこも雇ってはくれない。
 知り合いの女性が越境した頃には、労働許可証が無くても、比較的いい職場(企業)で働けたが、その後、タイ政府は近隣諸国からの不法入国者の不法就労に対する規制を厳しくした。リャンチンは、その知り合いの女性の紹介で幾つかの就職先を回ったが、結局、リャンチンは街場の食堂で皿洗いのくちを得た。働ける職場は限られている。当然、労働条件や給料のことを言っても始まらない。少額でも、親へ送金できる。実家はそれでも大いに助かるのである。

0_20161127130458e5e.jpg その頃、グオがリャンチンを訪ねて来た。彼は、リャンチンが幾人かと共に越境した時のひとりであった。彼はその時からリャンチンに好意を寄せていた。グオにはタイで生活している姉がいて、だから彼のタイでの生活基盤は安定しているし、また就労に関する知恵もあった。
 そんなことでグオは既に郊外の大きな工場で働いている。彼はリャンチンに、「工場は、こんな食堂より給料がいい、残業代も出るし労働許可証が無くても大丈夫」と言って、半ば嫌がるリャンチンを説得した。(彼女は都会で働きたい)
 その工場では多くの不法滞在者が働いていた。確かに不法滞在者が働く先としては良いとは言え、長時間労働を強いられる厳しい職場であった。

 リャンチンは不満であった。それは労働の厳しさではなく、リャンチンはやはり都会の企業で働きたいという思いが消えなかった。今度はリャンチンが彼を説得し、不法滞在の仲間から聞いた労働許可証発行のブローカーの話に乗った。しかし、発行された許可書はどこにも通用しないまったくのニセモノだった。

 この頃からリャンチンとグオは疎遠になって行く。グオは工場で貯めた金を持ってミャンマーに帰国し故郷で商売をしたい。一緒に帰って結婚しようと言う。一方、リャンチンは台湾で働く夢を抱き始めていた。
 彼女は今度はパスポート発行ブローカーと接触し、パスポートを得る。盗まれたパスポートをもとに、パスポート再発行という役所での手続きで、他人に成りすましパスポートを得る手法。当然、ブローカーは担当役人と組んでの仕事だ。
 しかし、パスポート発行には大金が要る。彼女は高級ホテルで身を売り金を得る。
 そしてラスト。彼女が寝ている部屋にグオが忍び込む。思い詰めた彼は、リャンチンの前で自殺してしまう。
 
 ラストがいささか突飛。総じて悪くはないのですが、話を次へ次へと展開させようとする脚本が消化不良気味で人物描写が弱いのが残念。
 アピチャッポン・ウィーラセタクン監督のタイ映画 「ブリスフリー・ユアーズ」 (2002年)に、不法にミャンマーから越境してきた男とタイ女性とのラブストーリーがある。ここでも労働許可証を得るために苦労する話が出てくる。
 「ブリスフリー・ユアーズ」の記事はこちらからお読みください。

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スリランカ映画 「バーニング・バード」、韓国映画 「THE NET 網に囚われた男」、中国映画「神水の中のナイフ」  ~第17回東京フィルメックス上映作品

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第一回です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「バーニング・バード」  Burning Birds|フランス、スリランカ|2016|84分|
 監督:サンジーワ・プシュパクマーラ (Sanjeewa PUSHPAKUMARA)
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 泥沼の内戦が長く続いたスリランカの悲劇。
 スリランカの人口の7割を占めるシンハラ人は、仏教を準国教化するなどして、少数派のタミル人(ヒンドゥー教徒が多い)に対して、1965年ごろから反タミル人・キャンペーン、選挙権はく奪、民族浄化などを進めていました。これがお話の背景です。

 本作は1989年ごろのことで、反体制派の活動家狩りが公然と横行していました。さて、話の舞台となる村には、8人の子を持つ貧しいが幸せな一家が住んでいます。
 ある日、その父親が何の理由もなく、民兵(地元自警団)に殺害されてしまいます。それは子たちが通う小学校の校長が、彼を反体制活動家だとして、民兵に密告したためでした。
 そしてそののち、一家は悲しみの奈落へと突き進むこととなります。稼ぎ手を亡くした母親は仕事に出ますが、男社会の中で差別され暴行を受け仕事を失います。長女はコロンボに働きに出る、あるいは結婚するなどと母親に申し出ますが、勉強していい生活をつかみとってくれ、子たちの面倒をみてくれと言い納めます。母親として当然でした。
 しかし、マシな働き口が見つからず、食うものにも困る状況が続き、母親はついにお金のため売春婦となってしまいます。さらには、夫を殺した民兵が客として来店し、母親を暴行します。また、警察による査察が店に入り、店の全員が連行され刑務所送り。義母が自殺。小学校ではいじめがはじまり、子たちは校長によって学校から追放されてしまいます。
 刑務所にいる母親から、子たちを託された長女は、幼い弟妹たちと共に村を出、コロンボの縫製工場で働き始めます。
 一方、やがて出所した母親は校長宅に忍び入り、寝ていた彼をナタで殺したのち、空になった自宅に火をつけます。家は一塊の大きな炎となって激しく燃え上がって行くのでした。
 まったくもってストレートに表現される、怒りの映画です。しかし、もう一味、欲しい。

「The NET 網に囚われた男」  The Net|韓国|2016|112分|
 監督:キム・ギドク (KIM Ki-duk)
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 朝鮮半島の主権を巡っての朝鮮戦争は、1950年に始まり1953年に「休戦」となって今に至っています。
 この間、共産圏の政治体制を維持し、自由陣営と対立しているように見える北朝鮮では、実は世襲君主崇拝と社会の階級化が進んでいます。つまり北朝鮮の共産主義政治思想は東西冷戦時に比べ希薄になっていますが、人権問題、核開発の問題においては今も自由陣営と激しく対立していると言えるでしょう。
 特に昨今、核問題において両国の関係が、急に悪化していることに監督は危機感を抱いていて、これが本作の底辺にあるようです。

 38度線を挟んで対峙する両国。その国境で毎日、漁をする男がいました。ある日、舟のスクリューに網が絡みつき、懸命にこれを外そうとしている間に、水上の国境を越えてしまいます。男は韓国の国境警備隊に捕らわれて、スパイ容疑で、激しい尋問を受けることになります。そして、亡命を強要されますが、男は北に帰りたい。妻子が待っているわけです。結局、スパイ容疑は晴れ、男は北に帰されます。
 ですが今度は、北の機密情報を韓国に提供した売国奴と決めつけられ、また激しい尋問を受けることになります。
 しかし、男に同情的であった韓国の取調官の一人から受け取っていたドルが、結局、男を助けることになります。つまり、北朝鮮の取調官はこの金と引き換えに、男を開放します。
 苦難の末、男はやっと日常を取り戻したかにみえましたが、ある日漁に出ようとすると、そこは禁漁区となっていました。しかし、男は警備隊員の制止を振り切り、舟を出しますが・・・。
 ストーリーの練り込みがイマイチで半煮え感を拭えない。かつ登場人物、特に南北の取調官の人物描写が劇画的で薄っぺらで、ステレオタイプ。映画途中でラストシーンは、きっとああだろうと見当がついてしまうのも残念。

「神水の中のナイフ」  Knife in the Clear Water|中国|2016|93分|
 監督:ワン・シュエボー(WANG Xuebo)
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 中国の西北部、寧夏回族自治区というところにある村、つまり中国のイスラムの村のお話。北部はもう、内モンゴル自治区に接している地域。
 荒涼とした大きな風景と、村人の寡黙な日々が映し出されて行きます。しかし、そこには彼らの人生ドラマがあるわけです。
 小説を原作にしているとのことですが、その小説を読んでいない者には、ほとんどセリフもなく、ドラマに奥行きを感じにくい。映画が発信する微細な周波数をそれぞれが感じ取り、増幅して観ることになります。映画というより、遠い彼方の映像を眺める感じ。






<カ行> の洋画  これまでに記事にした洋画から。 2016.11.15 現在

 これまでに記事にした洋画から、<カ行> の映画を並べてみました。

 下の「画像」をクリックして、その映画記事をご覧ください。
 五十音順に並べています。
 
 <カ行>以外の映画は、こちらからどうぞ。 (洋画の五十音一覧リストです)

1カー・ウォッシュ 2海上伝奇 3鏡 4過去のない男 5火事だよ!カワイ子ちゃん 6カジノ 7火車 HELPLESS 8家政婦ラケルの反乱 9風吹く良き日 10家族の庭 11カッコーの巣の上で 12勝手にしやがれ 13悲しみのミルク 14彼女を見ればわかること 15神々のたそがれ 16カラオケ・ガール 17カラスの飼育 18カラマリ・ユニオン 19カリガリ博士 20カリフォルニア・ドールズ 21カンバセーション…盗聴… 22記憶が私を見る 23記憶の棘 24キス・キス・バン・バン 25キッチン・ストーリー 26北の橋 27ギフト・トゥ・スターリン 28君とボクの虹色の世界 29キムチを売る女 30ギムリ・ホスピタル 31キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語 32キャラメル 33京義線 34きらめきの季節 美麗時光 35銀河 36キング・コング 1933 37キングス・オブ・クレズマー 38牯嶺街少年殺人事件 (クーリンチェ 39鯨とり ナドヤカンダ 40グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち 41グッド・ハーブ 42靴に恋して 43グッバイ・ファーストラブ 44雲が出るまで 45グランド・ブダペスト・ホテル 46クリチバ 0℃ 47グリフィス 48クレールの刺繍 49黒い神と白い悪魔 50黒いジャガー 51黒い眼のオペラ 52クロッシング・ザ・ブリッジ ~サウンド・オブ・イスタンブール 53黒猫・白猫 54クワイエット・ファミリー 55ゲート・トゥ・ヘヴン 56夏至 57ケス 58月曜日に乾杯! 59幻影師アイゼンハイム 60幻影は市電に乗って旅をする 61ゲンスブールと女たち 62恋する惑星 63恋の邪魔者 64コインロッカーの女 2 65GO!GO!L.A. 66ゴーストワールド 67コード・アンノウン 68コーヒーをめぐる冒険 69ゴールキーパーの不安 70呼吸 715時から7時までのクレオ2 72コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って 73孤独な声 74子猫をお願い 75この森で、天使はバスを降りた 76誤発弾 77コロッサル・ユース 78コントロール 79コンフェッション

映画 「橋の上の娘」 (フランス映画) 監督:パトリス・ルコント

上

 ラブロマンスのようで、そうでもないラブロマンス。
 キュートで不細工で美人の、ハスキーヴォイスが可愛い女優、ヴァネッサ・パラディでもってる映画です。
 この映画、基本ベースは喜劇仕立てです。(お笑い映画という意味ではないです)
1-0_20161107104933d51.jpg 久々に観ましたが、ストーリーは雑な組み立てです。ですが、見どころ(台詞)は、冒頭のアデル(ヴァネッサ・パラディ)に対するインタビューシーンと、ナイフ投げの曲芸師・ガボール(ダニエル・オートゥイユ)との、橋の上での会話シーンです。(2回あります)

 落ちぶれたナイフ投げの曲芸師・ガボールが、的になる(なれる)女を求めています。
 的になるには、どうともなれという捨て鉢な心境の女がよいわけです。
 そしてガボールにとっては、もうひとつ大事な要件がありました。それは、(恋愛関係ということではなく) 的になる相方と「気」が通じ合うこと、かつペアになることで互いに幸運とツキを招き寄せることができるようになれること。
 なんたって、本当に目隠しして、あるいは的の相方を回転させながらナイフを投げるのですから、突き刺さることがあってもおかしくないわけ。出演のたびに、「運」が必要なのです。
 なぜ、そこまでしてかと言うと、ナイフ投げという種目が時代遅れになった今、そして売れない曲芸師は、危険な興奮でもって、なんとしても興行主にウンと言わせなければ、仕事にありつけないからです。当然、ショウは成功で観客は大喜びです。(ただしバンドエイドは欠かせません)
 さらには、互いに「気」が通じ合い、運とツキを招き寄せたことで、ふたりはカジノで大儲けし、街場の抽選くじでスポーツカーを当てました。

 さて、ガボールがこれ以上は無いという相方・アデルとの出会いは橋の上でした。
 ある夜、彼女はパリはセーヌ川にかかる橋の欄干の外にいました。一方、ガボールはこういう自殺願望の女を求めて、いたるところの橋をチェックしていました。こうしてふたりは出会いました。あとは観てください。

 ちなみに後半部で気になった事。ふたりが別れる原因はギリシャ人の男で、そのあとイスタンブールの街のシーンがあります。映画はフランス目線で語るためか、ギリシャやイスタンブールをエキゾチックに、かつ、いささか蔑視の視線で描いています。


オリジナルタイトル:La fille sur le pont
監督:パトリス・ルコント|フランス|1999年|90分|
脚本・台詞:セルジュ・フリードマン|撮影:ジャン=マリー・ドルージュ|
出演:アデル(ヴァネッサ・パラディ)|ナイフ投げのガボール(ダニエル・オートゥイユ)|

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映画 「エル・スール」 (スペイン映画)  監督:ビクトル・エリセ

上
1957年の秋の、ある朝。映画はこのシーンから始まる。エストレーリャ、15歳。
枕元に父親が残していった、クサリの入った丸い小箱をじっと握りしめる。絵画のような映像。



 1950年代のスペインでの話。エストレーリャという女の子の目を通して映画は語ります。

1-0_201611011955162e2.png フランシスコ・フランコ総統によるファシズム独裁体制下、体制側、反体制側と、政治思想を異にした父と、その息子・アグスティン。
 そんな状況の中、アグスティンは意を決してスペイン南部(エル・スールの意)の故郷を離れ、同志である妻・フリアと共にスペイン各地を転々とした。
 やがて、娘・エストレーリャが生まれ、娘が8歳になったころ(1950年)、一家は、スペイン北部、城壁に囲まれた町のはずれにある一軒家に越してきた。アグスティンは医師で、この町の病院に職を見つけたのでありました。

 一家は、なんの不自由もないように見えました。(映画は一家三人の日々の7年間を描いて行きます。エストレーリャは8歳から、恋もする15歳に成長します。)
 だが、アグスティンには奇妙な行動がありました。屋根裏の部屋にひとり閉じこもり、重りの付いたクサリを静かに垂らし、その時をじっと待つ。そうしてクサリが振り子のように動き出す。その動きを見据えるアグスティン。
 妻は娘に、これは夫の霊力の実験だという。(このほかにも彼は、何も言わず突然、家を空けたり、教会には決して行かないというように、分かりにくい男だった)
 娘のエストレーリャは、そんな謎があるミステリアスな父が大好きだった。もちろん父はエストレーリャを可愛がった。
 しかし、妻としては理解しがたい夫であった。(話が進むうちに、夫婦の間に見えぬ断層があることが分かり出します)

 ある日、父が不在の折、エストレーリャは父親の部屋で一枚のメモを見つけ、「イレーネ・リオス」という女性の存在を知ります。さらにエストレーリャは、その女性が出演する映画を観た父親を、上映館前で見かけるのでした。

 イレーネ・リオスとは、実はアグスティンが若い頃、愛した女性であった。映画は言わないが、アグスティンがかつて反体制活動に加わっていた頃、このふたりの愛は烈しく燃えたのだろう。だが、なぜか、ふたりは結ばれず、アグスティンは妻のフリアと結婚した。
 スクリーン越しにイレーネ・リオスに再会したことがきっかけになり、アグスティンはイレーネ・リオスへ、一通の手紙を書いた。
 そしてイレーネ・リオスから返信が来た。手紙には、長い時が経ち忘れかけていた愛が突然に呼び起こされ、今さらの思いと戸惑いが苦しい感情で書かれていました。
 しかしアグスティンは、躊躇しながらも彼女への思いを募らせていった。
 彼は彼女の元へ旅立とうと、朝一番の切符を買い、前日からステーション・ホテルに泊まっていたが、翌朝、思いとどまった。もちろん、妻には何も言わずに家を空けてのことだった。

 映画はラスト近くに冒頭シーンに戻る。それは1957年の秋のある早朝。
 妻は目をさまし、夫がいないことに気付き異変を感じた。家中を見回り、窓から夫の名を叫んだ。そして、アグスティンが密かに家を出たことを知る。妻は、こんな朝が来るかもしれないことを以前から案じていた。
 エストレーリャ15歳は、おぼろげだが、こんなことを予見していた。

 その日、アグスティンが川岸で倒れているのが発見される。自殺だった。
 しかし自殺は、妻にもエストレーリャにも、思いもよらぬことだった。


 ミステリアスな男アグスティンを巡って話は進みます。
 そのミステリアスさと、絵画のような美しい映像に静謐なシーンと、エストレーリャの愛らしい心とが相まって、この映画、名作に思えるかもしれません。しかし突然の自殺は、観る者の心にしっくりと収まりませんね。
 それもそのはずで、Wikipediaによると、製作完成時の尺(上映時間)は本来3時間あったが、後半部の90分がプロデューサーの意によってカットされた(らしいです)。
 映画のラストシーンは、エストレーリャがスペイン南部にある父親の実家へ旅立つところで終わっています。よってカットされた後半部では、たぶん、エストレーリャが祖父母に会い、父親の若い頃のことを知るのでしょう。つまり、祖父と父との確執の真相や、イレーネ・リオスや母親・フリアとの出会いを。
 かのプロデューサーは謎を謎で終わらせることを選んだのでしょう。監督をよく説得させましたね。

下オリジナルタイトル:El Sur|英語タイトル:The South|
監督・脚本:ビクトル・エリセ|スペイン、フランス|1983年|95分|
原作:アデライダ・ガルシア・モラレス|撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ|
出演:8歳のエストレーリャ(ソンソーレス・アラングレン)|15歳のエストレーリャ(イシアル・ボリャイン)|エストレーリャの父親・アグスティン (オメロ・アントヌッティ)|アグスティンの妻・フリア(ローラ・カルドナ)|ミラグロス(ラファエラ・アパリシオ)|イレーネ・リオス、ラウラ(オーロール・クレマン)|イレーネ・リオスの共演者(フランシスコ・メリーノ)|アグスティンの家の家政婦・カシルダ(マリア・カーロ)|グランドホテルのバーテンダー(ホセ・ビボ)|ロサリオ夫人(ヘルマイネ・モンテーロ)|



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映画 「ある過去の行方」  監督:アスガー・ファルハディ

上
 マリー


 登場人物の心の機微が、うまく描かれています。
 パリを舞台に、マリーとその恋人、別居していたマリーの夫、マリーの前夫との娘たち、恋人の連れ子らが織りなす物語。
 話が進むにつれ、事は徐々に明らかに。殺人なんか起きないが、スリリングなドラマです。

1‐0 ひとりテヘランに帰国し別居していたマリーの夫・アフマドは、妻のマリーに乞われてパリに来た。それはふたりの離婚手続きのため。
 4年前までふたりが住んでいたパリの家に今、マリーとマリーの恋人と、子供が3人住んでいる。

 マリーはアフマドに、離婚手続きのほかにもうひとつお願いをした。それは、長女リュシーが最近グレた態度でマリーの言うことを聞かない。あなたはリュシーに優しかったから、彼女の本心を聞き出せると思うの。

 アフマドがリュシーから話を聞き出すと、こんなことだった。「マリーの恋人サミールが現れて、私は3人目の父親と付き合わなきゃならない。私の居場所はもうない。」 (この一言で観客は、アフマドはマリーの2人目の夫で、長女リュシーとその妹は、マリーの最初の男との間の子だと分かる。)

 続けてリュシーは話し出す。
 「サミールには奥さんがいて自殺未遂で入院中。意識が戻らない植物状態なの。それはマリーとの浮気が原因。なのにマリーとサミールは同居生活を始めたの。」 (アフマドは、マリーと別れてテヘランへ帰国した後のことを理解し始める。)

 ひとり沈みこむリュシーは、それからのちにアフマドに苦しい告白をした。「マリーとサミールとのメールを、私、マリーの携帯からサミールの奥さんに転送したの。だから、奥さんは自殺したのだと思う。取り返しのつかないことをしてしまった。」 
 アフマドは慎重に、マリーにこの事の顛末を話したがマリーは激怒した。しかし、この話をマリーから聞いた恋人サミールは腑に落ちなかった。リュシーは妻のメアドをどうして知ったんだろうか。

 このように、マリー、サミール、その妻・セリーヌ、リュシー、そしてサミールが雇う従業員の女・ナイマが絡んで、物語は次へ次へと進む。そうして、徐々に真相が明らかになって行く。なぜ、サミールの妻は自殺しようとしたのか、が。
 さらには、マリーとサミールの、それぞれの心の内の本当が、露わになって行く。

 いいサスペンスになっています。アフマドは、この映画の狂言回し(話の進行を担う重要な役)を担っています。
 ドロドロした人間関係にはならないよう、さっぱりと描いています。
 リュシーがアフマドに言う台詞に注目して欲しい。わけても、「サミールは、あなたに似ている男よ。」 マリーの揺れる心を読み解いて行きましょう。
 サミールと自殺未遂の妻との子・フアッドの演技もお見逃しなく。

 この映画は、アスガー・ファルハディ監督がイランを出て、フランスで製作した映画です。
 以前に記事にしたアスガー・ファルハディ監督の映画 「別離」は、こちらからお読みください。

 
オリジナルタイトル:Le passé|英語タイトル:The Past
監督・脚本:アスガー・ファルハディ|フランス、イタリア、イラン| 2013年| 130分|
撮影マームード・カラリ|
出演:マリー(ベレニス・ベジョ)|サミール(タハール・ラヒム)|アフマド(アリ・モッサファ)|リュシー(ポリーヌ・ビュルレ)|サミールと自殺未遂の妻との息子・フアッド(ジャンヌ・ジェスタン)|リュシーの妹・レア(エリエス・アギス)|サミールが雇う従業員の女・ナイマ(サブリナ・ウアザニ)|サミールが親しくしているシャーリヤル(ババク・カリミ)|その妻・ヴァレリア(バレリア・カバッリ)|

2‐0
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映画 「110番街交差点」 “Across 110th Street” 1972年のソウルフルな映画 ~映画音楽に魅せられて  監督:バリー・シアー 

上
部長刑事フランク・マテリ (アンソニー・クイン)と、黒人警部ポープ


 ソウルフルな映画といえば、1970年代がいい。それもニューヨークが舞台のもの。
 1971年の「黒いジャガー」(Shaft)や、1972年の「スーパーフライ」(Super Fly)も、そうだった。 

1‐0 で、何がソウルフルかと言えば、映画で流れるソウルサウンドが、かっこいいから。
 ま、単に、それだけのことかもしれない。(ソウル好きは、ワクワクする)
 付け加えるなら、1970年代初めの、少々荒っぽいザラザラした時代の感触が楽しめる。
 しかし、この手の映画は、ストーリーや人物描写は単純粗雑だ。でも、ソウルフル!


 この「110番街交差点」も1972年製作。ニューヨークの話。
 マフィアのいくつかの組が、互いにハーレムでの利権の取り合いをしている。対するハーレム側では、マフィアに上納金を取られる悔しさを押し殺しながらも、彼らの傘下に入っている。
 しかし、ハーレムの街中では、白人のマフィアは全くのよそ者だ。ハーレムは黒人が支配する黒人の街。
 110th Streetから北がハーレム。つまり、黒人と(マフィア含めて)白人との境界線が110th Street。

 ハーレムの汚いビルの一室で、マフィアと手下の黒人が、たくさんの札束を慣れた手つきで数えて束にしていた。
 そこへ、突然、警官を装った黒人グループが現れ、その現金を強奪する。マフィアたちは、マシンガンで即死。

 金を素人に、まんまと奪われたマフィアは、メンツ丸つぶれ。マフィアは、黒人グループ3人に対し報復に出るが、彼らの身元がなかなか分からない。
 一方、殺人事件として、警察が捜査を開始する。50歳過ぎの現場たたき上げの老刑事(アンソニー・クイン)と、大学出の2年目若手の黒人刑事が、動き始めるのであった。あとは、観てください。
 
 さて、この映画のソウルミュージックは、ボビー・ウーマックとJ・J・ジョンソン。いいですね。
Soundtrack
"Across 110th Street" (performed by Bobby Womack and Peace) (US #56, R&B #19)
"Harlem Clavinette" (performed by J.J.Johnson and his Orchestra)
"If You Don't Want My Love" (performed by Bobby Womack and Peace)
"Hang On In There (instrumental)" (performed by J.J.Johnson and his Orchestra)
"Quicksand" (performed by Bobby Womack and Peace)
"Harlem Love Theme" (performed by J.J.Johnson and his Orchestra)
"Across 110th Street (instrumental)" (performed by J.J.Johnson and his Orchestra)
"Do It Right" (performed by Bobby Womack and Peace)
"Hang On In There" (performed by Bobby Womack and Peace)
"If You Don't Want My Love (instrumental)" (performed J.J.Johnson and his Orchestra)
"Across 110th Street – Part II" (performed by Bobby Womack and Peace)


オリジナルタイトル:ACROSS 110TH STREET
監督:バリー・シアー|アメリカ|1972年|102分|
原作:ウォリー・フェリス|脚本:ルーサー・デイビス|
撮影:ジャック・プリーストリー|音楽:ボビー・ウーマック、J・J・ジョンソン
出演:アンソニー・クイン|ヤフェット・コットー|アンソニー・フランシオサ|リチャード・ウォード |ポール・ベンジャミン|エド・バーナード|アントニオ・ファーガス|バート・ヤング|ティム・オコナー|

【 ソウルフルなブラック・シネマのお誘い 】
これまでに記事にした映画から。 (タイトルをクリックしてお読みください)

3‐2   3‐1
スーパーフライ」      「黒いジャガー
3-3_20161021124319fe8.jpg   3-4.jpg
スウィート・スウィートバック」  「ハーダー・ゼイ・カム

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映画 「セントラル・ステーション」 (ブラジル映画)   監督:ウォルター・サレス  

上
ジョズエとドーラ。(セントラル・ステーションにて)


 幼い少年・ジョズエと、ドーラおばさんのロードムービーです。

1-0_20161018121129493.png たくさんの乗降客が行き交う、リオデジャネイロ のセントラル・ステーション駅構内で、ドーラは代筆屋(手紙文の執筆代行サービス)をしている。(読み書きができない人が多いのです) 手紙の内容は、ラブレターや、しばらく会えないでいる人へのメッセージ。
 ドーラはお客が語る言葉を、その場で手紙にしたためます、お客がうまく言えないことは、ドーラが的確な表現を提案し手紙文にしています。

 ある日、少年・ジョズエは母親に連れられてドーラの前に現れます。母親は夫と遠く離れ、ジョズエと共にここリオに住んでいるようです。
 ジョズエは父親に会いたいようですが、母親は渋っています。せめて手紙をということで、ジョズエにせがまれて母親は、ドーラの代筆屋に来たのでした。
 しかし、その直後、母親は駅前で交通事故にあい即死。ジョズエはその日から、駅構内でストリートチルドレンの生活を余儀なくされます。(警察を含め生活保護のセーフティネット不足を映画は言っています)

 これまでドーラは、気ままな一人身の生活を続けて来ました。構内にいるジョズエの様子を、ドーラは目の端に見てはいますが、彼を面倒見る気は無い。むしろ、関わりたくなかった。しかし、日が経つにつれ、またドーラの友人・イレーヌに言われて、ドーラはジョズエの事が気になりはじめる。

 そこで、ドーラがとった行動とは、養子縁組の組織にジョズエを引き渡し、ドーラは組織から得た代金で大型テレビを買ったのです。
 だが、その組織は臓器売買が商売だと、またもやイレーヌに言われて、ドーラは勇敢にもジョズエの身柄を組織から奪還します。
 そして、ドーラは手紙の宛先を頼りに、ジョズエを連れて列車でバスでトラックの荷台に乗って、父親探しの旅に出る。

 旅の途中でいろんなことに遭遇して、ふたりの間に行き交う感情が、時間とともに変化していく様が見どころです。
 話は、けれん味がなくストレートで分かりやすいです。
 映画はラスト近くでも、読み書きができないことからの不幸を描きますが、話の結末は淡いハッピーエンドで終わります。

 ちなみに映画の最後に、サンバの作曲家で歌手のカルトーラが、しみじみと歌います。
 ドーラ役の女優・フェルナンダ・モンテネグロが、映画 「リオ、アイラブユー」(リオ、エウ・チ・アモ)に出演していたのを観て、私はこの「セントラル・ステーション」を思い出しました。(先日書いた「リオ、アイラブユー」の記事は題名をクリックしてお読みください)

オリジナルタイトル:Central do Brasil
英語タイトル:Central Station
監督:ウォルター・サレス|ブラジル|1998年|111分|
脚本 ジョアン・エマヌエル・カルネイロ 、 マルコス・ベルンステイン|
撮影 ヴェルテル・カルバーリョ
出演:ドーラ(フェルナンダ・モンテネグロ)|ジョズエ(ヴィニシウス・デ・オリヴェイラ)|イレーヌ(マリリア・ペラ)|ジョズエの母親・アナ(ソイア・リラ)|ほか


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下



映画 「リオ、アイラブユー」(リオ、エウ・チ・アモ) ~映画音楽に魅せられて (ブラジル映画)

1-0_201610131145301ce.jpg

 リオ・デ・ジャネイロの人びとを描く、群像劇。
 群像劇とはいっても、はっきりしたストーリーはない。取っ散らかした、たくさんのエピソードを、映画は気ままに映し出す。
 登場人物は、映画スター、バレエダンサー、片腕のボクサー、タクシードライバー、語学学校教師、浜の砂像アーティストなど。その階層は、路上生活の人から富豪の人までと様々。果ては吸血鬼も出てくる。
 この映画に、リオ上空からのシーンがよくある。それで思い出すのは、1956年の映画 「リオ40度」 (監督:ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス)。この映画は、「リオ、アイラブユー」の大先輩にあたる映画と言える。(「リオ40度」の記事はタイトル名をクリックしてご覧ください)

 さて、音楽。ボサノバとサンバ。ああ、いいですね!
 「リオ、アイラブユー」は、音楽も重要な登場人物です。エンディングロールの終わりまで聴きましょう。

 Rio, Eu Te AmoWritten and performed by Gilberto Gil
 Copo VazioWritten by Gilberto Gil|Performed by Gilberto Gil and Chico Buarque
 O Fole RoncouWritten by Nelson Valença and Luiz Gonzaga|Performed by Luiz Gonzaga
 Preciso Dizer Que te AmoWritten by Cazuza, Bebel Gilberto & Dé Palmeira|Performed by Bebel Gilberto
 Plus D'amourWritten and performed by Vanessa Paradis ・・・ヴァネッサ・パラディも歌ってます。
 Mandando BroncaPerformed by Pavilhão 9
 Your LightPerformed by Lauren Thalia
 O Canto do Cisne NegroPerformed by Antônio Menezes and Cristina Ortiz
 O Endereço dos BailesPerformed by MC Junior and MC Leonardo
 Corra e Olhe o Céu|Performed by Cartola ・・・カルトーラが好き!
 Slow Motion Bossa NovaPerformed by Celso Fonseca
 Like NicePerformed by Celso Fonseca
 Inútil PaisagemPerformed by Maucha Adnet


オリジナルタイトル:Rio, Eu Te Amo
英語タイトル:RIO, I LOVE YOU
監督:下記|ブラジル・アメリカ合作|2013年| 109分|
監督:ステファン・エリオット|パオロ・ソレンティーノ|イム・サンス|ナディーン・ラバキー|ギジェルモ・アリアガ|ジョン・タトゥーロ|カルロス・サルダーニャ|ジョゼ・パジーリャ|アンドルーチャ・ワディントン|フェルナンド・メイレレス|
出演:フェルナンダ・モンテネグロ|エミリー・モーティマー|ベイジル・ホフマン|バンサン・カッセル|ライアン・クワンテン|バネッサ・パラディ|ジョン・タトゥーロ|ジェイソン・アイザックス|ロドリゴ・サントロ|ナディーン・ラバキー|ハーベイ・カイテル|クラウディア・アブレウ|

【 映画音楽に魅せられて 】 このテーマでこれまでに記事にした映画 (タイトル名をクリックしてご覧ください)

 「オズの魔法使」  「三文オペラ」  「死刑台のエレベーター」  「風の又三郎

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映画 「フル・フロンタル」   出演:ジュリア・ロバーツ  監督:スティーヴン・ソダーバーグ

上
(上段) 雑誌記者・キャサリン、TV俳優・ニコラス、人事部長のリー、
(下段) 映画プロデューサーのガス、マッサージ師・リンダ、脚本家のカール(リーの夫)



 この映画の売り文句、「 Discover what really happens behind closed doors in Hollywood. 」
 頭が冴えてる時に観ると、いい映画。 話のスピードについて行ければ、刺激的ないい映画だと思える。

 ハリウッドの業界裏話。超人気映画プロデューサーと、その周辺の人々による群像劇です。
 登場人物それぞれのシーンは、次から次に入れ替わって現れ、群像劇全体がアップテンポで展開、モザイク模様を呈します。
 時間経過と共に、それぞれの人の、少し悲しい、うまく行かぬシーンとシーンとが、思わぬ関係を見せはじめ、同時に、それぞれの人々の生きざまが分かりだすころ、次第に佳境へ。(話に引き込まれていきます)
 ラスト近く、群像劇の人々は、映画プロデューサーの誕生パーティに招待されて集まります。このパーティ・シーンは、言わば話の踊り場で、そこから意外なハッピーエンドが待ち構えています。

1‐0 情報量が多くややこしい群像劇をひも解くには、まずは一組の夫婦の話から始めましょう。
 カール(42歳)は内気な映画脚本家だが、これまでに数本は成功している。だが脚本だけでは食えないので、出版社に勤務し雑誌編集の仕事をしているが、まあ、彼は勤め人には向かない。
 妻のリー(41歳)は、カールと対照的な性格で、高層ビルにある大手企業の人事部長の職にあり上昇志向、そして過剰な敵対心や不信を抱く女。
 だが、最近の業務は、会社の事業整理に伴う首切り。該当者を1人ずつ人事部長室に呼び出しては、個人面談とクビの宣告。
 この面談シーンが滑稽。(該当社員から見れば人格否定の酷い仕打ち) リーのあんな捻じれた行動は、少女時代の悲しい体験に由来している(らしい)と同時に、カールと離婚したい暗い気持ちと、愛人との関係がうまく行っていないことの、ミックスから生じている。

 その日、つまりハリウッドの人気映画プロデューサー、ガスの誕生パーティがある日の朝。リーは、離婚したい旨の手紙を、テーブルの朝刊の下にそっと差し入れ、夫より先に出勤した。(夫婦はパーティに招待されている)

 リーの不倫相手とは、映画俳優の黒人・カルヴィン。だがカルヴィンには好きな女性がいる。彼にとってリーとは、ホテルの部屋を用意しての遊び相手でしかなかった。(あとで分かる)

2‐0 そのカルヴィン(36歳)、職業・映画俳優について。
 映画は、カルヴィンが 「TV俳優・ニコラス」の役を演じているシーンを観せる。(それは劇中劇のシーンなのだが、それまでの現実シーンと区別なく観せるので観客は混乱する。これが監督の狙い!というお茶目で意地悪な映画です)

 さて、劇中劇シーンのお相手(競演者)は、「ニコラス」に密着取材する「雑誌記者・キャサリン」。
 「キャサリン」は空港ロビーで「ニコラス」と待ち合わせて、彼がロケ地へ行く機内では隣同士の席、そしてロケ現場まで同行してインタビューする。(この間に「ニコラス」は「キャサリン」が好きになる)
中 その「キャサリン」役の女優とは、人気の有名映画女優のフランチェスカ(33歳)、これをジュリア・ロバーツが演じています。 (撮影が終わり「キャサリン」役のカツラを取って、一息つくフランチェスカ →)

 ついでに言うと、劇中劇の中でのロケ現場にブラッド・ピットがブラッド・ピット本人役として現れ、撮影が始まり刑事役を演じる。「ニコラス」はブラッド・ピットの相棒役をする。(このロケ撮影シーンは短いです)

 ちなみに「ニコラス」を演じたカルヴィン、「キャサリン」を演じたフランチェスカ(ジュリア・ロバーツ)も、映画プロデューサー、ガスの誕生パーティに招待されている。だからパーティ会場で、カルヴィンと愛人・リーが派手な痴話喧嘩をする。(以上4人の人間関係は、下記の相関図を見てください)

 ここで、リーの夫、内気なカールの話。
 妻が離婚したい旨の手紙を置いて出勤したその日。(ガスの誕生パーティに招待されている日)
 出版社に出勤したカールは、編集長から前触れもなく、解雇を言い渡される。「家の冷蔵庫に冷えたビールがあるとする。君ならビールをカップに入れて飲む、直接ビンから呑む、どっち?」と聞かれ、カップで、と回答して、「そうなんだよね、だから君は当社に向かない!」という解雇宣告だった。カールは極度に落ち込み、パーティなんか行く気も起こらず、帰宅。
 帰宅して気がついたことは、愛犬がぐったり倒れている。異なもの※を食べてしまったらしい。あわてて獣医に往診を依頼する。(※キッチンに置いてあったハシシ入りチョコレートケーキ)

5-0 リーの妹・リンダ(36歳)も登場人物の1人。職業はマッサージ師。
 高級ホテルの客室を訪ねて、マッサージだけをサービスする仕事をしている。
 リンダもパーティ出席者。姉のリーから「プロデューサーのガスを紹介してあげるから」と言って、パーティに誘われていた。
 パーティのあるその日、ホテル客室で、ある客のオーダーでマッサージをしていると、性処理も頼まれる。拒絶したが、強引さに負けて請け負ってしまう。その直後、手を洗いにバスルームへ駆け込んだリンダは、客の名を知る。その客とは、なんとガスその人だった。

 実はこのホテルが、ガス誕生パーティの会場だ。
 招待客が大勢集まり、時間は経ったが、当のガスがまだ現れない。(かつ、カールも来ない)
 唯一、ガスの居場所を知っているリンダが、ガスの客室に行き部屋に入ると、素っ裸のガスがベッドで自殺していた!
 リンダは、助けを求めて(パーティ会場でカルヴィンと痴話喧嘩中の)リーに電話した。リーもガスの部屋に現れる。リーは10歳の時、父親の自殺現場を発見し、それ以来トラウマを抱えている。リーは、ガスの死よりも自身のトラウマ再発で泣いた。

 さて、この映画にハッピーエンドは二つある。
 ①カールの自宅では、獣医が来て診察し、犬は大丈夫とのこと。カールは親しい獣医に、妻を愛している、関係を修復したい、てなことをボソボソ言っている。そこへ、リーがしょんぼり帰宅。カール、獣医の話をふたりの後ろでじっと聞いていたリーは、嬉し泣きし、夫婦は抱き合う。(幸いにも、離婚するを書いたあの手紙を、カールはまだ読んでなかった) カールは教師の職を見つけるつもり。
 ②リンダは、ネットのやりとりで好きな彼を見つけていた。まだ見ぬこの相手は、実はアーサーというミニシアターの座付劇作家。二人はネットで約束し、初めて出会うことにした。
 顔を知らない二人は同じ飛行機で座席も隣り。そんな二人は、(互いにネット上の相手だとは露知らず)、機内の出会いで一瞬に愛が芽生える。・・・そんなシーンの次に、カメラは二人から遠のき、機内セット全体が映し出される、というお茶目な作りの映画でありました。


 この映画を観るお目当てが、ジュリア・ロバーツやブラピだったりしてもいいのですが、ストーリーを楽しみたいなら、カールとリーの夫婦を軸に据えて観ると、映画が分かりやすくなると思います。あとは、フランチェスカ役を演ずる時のジュリア・ロバーツは金髪ロング、雑誌記者・キャサリン役の時は栗色、これを目印に観ると、いま観てるシーンが劇中劇か否かが分かりやすいです。


図オリジナルタイトル: Full Frontal
監督:スティーヴン・ソダーバーグ|アメリカ|2002年|101分|
脚本:コールマン・ハフ|撮影:スティーヴン・ソダーバーグ|
出演:下記
フランチェスカ(ジュリア・ロバーツ):人気映画女優/劇中劇では雑誌取材記者・キャサリン
カルヴィン(ブレア・アンダーウッド):黒人映画俳優でカールの妻・リーの不倫相手/劇中劇では記者キャサリンやブラッド・ピットの相棒として共演のTV俳優・ニコラス
カール(デヴィッド・ハイド・ピアース):映画脚本家だが、出版社に勤務し雑誌編集員
リー(キャサリン・キーナー):カールの妻で大手企業の人事部長
リンダ(メアリー・マコーマック):リーの妹でマッサージ師
ガス(デイヴィッド・ドゥカヴニー):ハリウッドの人気映画プロデューサー
アーサー(エンリコ・コラントーニ):劇作家
ヒトラー役の舞台俳優(ニッキー・カット)
本人役(ブラッド・ピット)、 本人役(スティーブン・ソダーバーグ) ほか



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映画 「森浦(サンポ)への道」    監督: イ・マニ

上
ノ・ヨンダルとペッカとチョン


 男と男と女のロードムービー。映画はこの3人の道中を喜劇タッチで描きます。

1-0_20161005124115d6d.jpg この登場人物たちは、それぞれに言いたくない重い過去を背負いながらも、その日暮らしの風来坊。
 金は無くても、人と群れなくても、なんとかひとりで生きていける。そんな3人がたまたま出会い、互いの人となりを知るに至り、気ままな旅を共にする。だが、所詮一時の出会い。行きずりの出会いは、まもなく終わりを告げる。
  
 韓国の北の田舎からシーンは始まる。
 道も畑も見分けがつかぬくらいに雪が積もっている。そんな中をノ・ヨンダルという若い男が歩いている。
 そこへ、チョンという中年の男が通りかかる。チョンは、長年帰郷していない森浦へ帰る途中だと言う。ノ・ヨンダルは、金を持っていそうなチョンを頼ろうと彼の後をついて行く。
 とりあえず金が欲しいノ・ヨンダルは、飯屋(兼呑み屋)の女将から聞いた話に乗る。それは、借金を踏み倒して逃げた店の女の子・ペッカを見つけて連れ戻して来れば金を出すと言う。そんなことで、ノ・ヨンダルとチョンはペッカと出会う。
2-0_20161005134202f05.jpg ペッカは自由奔放な女だが、気立てはいい。女将の話はあきらめて、ここから3人の道連れが始まる。

 旅の途中で、村の祭りや葬式にちん入したり、そんなシーンはコミカル。
 あばら家で一夜を過ごす、かがり火の前では、いささかシリアスな展開。
 そのうち、ペッカはノ・ヨンダルを好きになっていく。それを温かく見守るチョン。
 だが、ノ・ヨンダルはペッカの気持ちを知ってうれしいが、いま自分の食い扶持も無いことが、男として情けない。男のメンツがペッカの愛を受け入れない。

 ラストシーン。
 駅に着いた。チョンは森浦への切符を買う。チョンについてとりあえず森浦へ行こうとするノ・ヨンダルだが、躊躇している。
 そこへ、ペッカが現れる。ノ・ヨンダルはソウル行きの切符をペッカに買って渡し、有り金全部を彼女に渡す。ソウルへ行け。
 別れを知ったペッカは、ソウル行きの列車に乗る。

 列車が駅を出たあと、チョンはノ・ヨンダルに森浦行きの切符を渡した。
 2人が乗った列車が去ったあと、ホームの端に立つペッカは、そっとノ・ヨンダルを見送った。ペッカは列車に乗らなかったのだ。

 一方、列車からバスに乗り継いだ、チョンとノ・ヨンダル。
 バスに乗り合わせた男達はこれから港湾に行く出稼ぎだ。ノ・ヨンダルは彼らとともに途中下車して、港へ行くことにした。チョンは故郷の島へ向かうのであった。

 男2人と女1人の韓国ロードムービーに、「鯨とり ナドヤカンダ」がある。この映画でも、向かう故郷は島であった。
 (「鯨とり ナドヤカンダ」の記事は題名をクリックしてお読みください)

  
オリジナルタイトル:삼포가는 길
英語タイトル:The Road to Sampo
監督:イ・マニ|韓国|1975年|95分|
原作:ファン・ソギョン|脚本:ユ・ドンフン|撮影:キム・ドクジン|
出演:ノ・ヨンダル(ペク・イルソプ)|チョン(キム・ジンギュ)|ペッカ・本名:イ・チョムスン(ムン・スク)|



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映画 「ベニスで恋して」   監督:シルビオ・ソルディーニ

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  上2












1‐0 その時、観光バスがパーキングエリアを出て行くのを、ロザルバは見送るしかなかった・・・。

 もし、ロザルバが、パーキングエリアのトイレで、ピアスを便器に落とさなければ、これから始まるこの話はなかった。(ドジ!)
 もし、彼女が携帯電話を持ってたなら、夫から「おいバスが出るぞ、早く戻れ」と電話が入ったろうに。(普及率がそう高くない2000年製作)
 しかし、バスツアー客を、そう待たせるわけにはいかない。夫は発車してくれと言ったのだろう。
 
 それは、ロザルバと夫と次男との、ギリシャ・バスツアーの最中だった。
 おまけに、夫は携帯を替えたばかりで、彼女はその電話番号をまだ知らない。
 彼女は夫の母親にでも連絡をとったのだろう、番号を聞いて、車中の夫に電話した。苛立つ夫は、「そこで待ってろ」

 だがロザルバは、こうなったら夫や息子に残る旅行日程を楽しんでもらい、自分は旅行を諦めて自宅に帰り、仕残した家事をしようかと、その時は思ったのだ。
 でも、ここはギリシャ。所持金は少ない。ヒッチハイクだ。パーキングエリアで知り合った女性の車で途中まで、そして次の車に乗り継いで・・・。だが、彼女は家には帰らず、帰途途中で高速を降り、夜更けのベニスにたどり着く。(夫の指示を無視してちょっと冒険)
 それはベニスに行ってみたいという、ふとした思い。私も楽しみたいという思い。一泊なら。そしてそれは、最初に車に乗せてもらった女性の自由奔放な生き方に、少し影響されたのかもしれない。

 ロザルバの家庭はそれなりに裕福だ。夫はバストイレの施工・販売の会社社長。家族は4人。長男は成人していて次男は学生。ロザルバはこれまで、良き妻良き母として夫や息子たちに尽くしてきたようだ。一見、不都合ない家。ただし実は、夫には愛人がいて5年の付き合いをしているが。

 映画は、夫の性格や妻に対する態度を、話の合間に時折見せるが、それはイタリア人の目には、妻に対し専制的な夫、にみえるんだろうな。つまり、イタリア人の観客は、「ロザルバがベニスで恋に落ち、ベニスで生活し始めた」ことは、しょうがないが許される結果だと。そして素晴らしい恋をしたじゃない! だから、この映画ストーリーは成り立つ。
 しかし、日本人には夫婦の亀裂の度合いがあまり分からない。夫は偉そうで子供っぽく、家庭でも社長目線だが、まあ普通に見える。だから、なぜ、ロザルバが家を捨てるのか、悪い女、家庭崩壊じゃん、となる。

 一方では、この映画が好きな人は、ロザルバの恋の行方に注目して、情熱的なイタリアのロマンスを楽しむのでしょう。
 お相手は、トラットリア(大衆食堂)のあるじ・フェルナンド(ブルーノ・ガンツ)。しかし、なぜか彼は自殺しようとしている。

2‐0 さて、ともあれロザルバは、夜のベニスにたどり着き、一軒のトラットリアに入った。
 夜更け、店に現れたロザルバを、フェルナンドはあわれに思った。宿代も無く、彼のアパートの一室に泊めてあげることにした。

 その日から、フェルナンドはロザルバの優しい気心にふれ、彼女に関心を抱くようになる。
 片や、ロザルバは一泊の予定が、ずるずると延びる。言い換えるとワクワクする非日常が始まった。もちろん、家に電話したし手紙も書いた。

 ロザルバは、部屋にあったアコーディオンが弾ける、フェルナンドは昔、船上のラウンジ歌手だった。フェルモじいさんの花屋の仕事は面白い。エステシャンのグラツィアとは女同士で親しく話せるようになった。

 そして、夫が差し向けた探偵がベニスの街を歩き回り始め、ついにロザルバを探し出したが・・・。(探偵のシーンはコミカルです)
 さらには、次男ニコラが麻薬に溺れはじめた、という一報を聞き、ロザルバはペスカーラの自宅へ帰る。しかし、それは麻薬じゃなくてマリファナだった。ニコラは多感な子、バストイレの家業は継ぎたくない、だが自分の道は見つからない。

 ある日、ロザルバは次男ニコラとショッピングセンターの駐車場にいた。そこへなんと、花束を持ったフェルナンドが現れた。そしてニコラの前で、ロザルバに愛の告白をした。後ろにはエステシャンのグラツィアや彼女の彼氏になったあの探偵がいる。みんな笑顔だ。

 後日、ベニスでは、ロザルバとフェルナンドを祝うパーティの真っ最中。花屋のフェルモじいさん、グラツィア、探偵、ニコラはじめ多くの客が踊っている。そしてステージではロザルバのアコーディオンでフェルナンドが歌っている。


オリジナルタイトル:Pane e Tulipani (パンとチューリップ)
英語タイトル:BREAD AND TULIPS
監督:シルビオ・ソルディーニ|イタリア、スイス|2000年|115分|
脚本:ドリアーナ・レオンデフ、シルビオ・ソルディーニ|撮影:ルカ・ビガッツィ|美術:パオラ・ビガッジ|
出演:ロザルバ(リーチャ・マリェッタ)|フェルナンド(ブルーノ・ガンツ)|エステティシャンのグラツィア(マリーナ・マッシローニ)|にわか私立探偵・コスタンティーノ(ジュゼッペ・バッティストン)|ロザルバの夫Mimmo(アントニオ・カターニア)|ロザルバの義理の姉・ケティ(ヴィタルバ・アンドレア)|花屋のフェルモ(フェリーチェ・アンドレアージ)|Adele(タティアーナ・レポレ)|

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映画 「永遠と一日」   監督:テオ・アンゲロプロス

上
老作家・アレクサンドレと少年。 (アルバニアとの国境にて)

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 ギリシャの北にある港町、テッサロニキに住むアレクサンドレ(ブルーノ・ガンツ)は、重い病を抱えている。明日、入院する予定だ。 
 アレクサンドレを担当する中年の医師が言うに、「私の年代は、あなたの詩と小説で育った世代です。」というように、アレクサンドレは著名な作家。だが近年、創作活動は停滞している。

 アレクサンドレは一人住まい。妻を亡くし、母親は介護入院中、ひとり娘は結婚して家を出ている。
 一人取り残された孤独な生活は、若き妻と幸せだった過去へと、アレクサンドレを誘うのである。

 (映画は、アレクサンドレが見る、過ぎ去りし日々の回顧シーンを幾度も観せるのです。それは、かつてアレクサンドレが住んだテッサロニキの海辺の美しい洋館、妻や母親や生まれたばかりの娘、そして彼を取り巻く人々との幸せの時代でした。)

 そんな悶々とした日々を送っていたアレクサンドレが、1人の少年と出会う。それは入院の前日だった。
 少年は、他の少年たちと共に、ギリシャの隣国アルバニアから不法入国し、路上生活を送っていた。稼ぎは、テッサロニキの街頭で赤信号で止まっている車の窓ガラス拭きだ。
 その日、アレクサンドレが、再度その少年を見たのは、彼が大人たちに誘拐される現場だった。闇で暗躍する一団は、不法入国の子供を誘拐しては、養子を求む富裕層に子を売る商売をしていた。
 その少年を、なんともかわいそうに思ったアレクサンドレは、誘拐犯の後を追い、勇敢にも一団から少年を救った。

 そして、少年を母国に返してやろうと、アレクサンドレは彼を車に乗せ、霧がかかるアルバニア国境線まで行くが、結局引き返してしまう。
 それは少年が単独での帰国を嫌がり恐れていること、またアレクサンドレが見てもアルバニアはあまりに荒んでいたからであった。この時から、アレクサンドレと少年に、親子に近い感情が生まれ始める。

 (映画は、アルバニア国境への旅を、こうした2人のロードムービーとして観せながら、同時にアレクサンドレが夢想する幻想的な旅をも、織り込んで行きます。とりわけ、バス車中での夜間の幻想シーンを観て思うに、テオ・アンゲロプロス監督は、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」に出てくる乗客の様子を意識しています。)

 しかしともあれ、2人の時は一時であった。
 翌朝、まだ陽が登らぬ頃、少年は他の少年たちと一緒に、トラックの荷台に身を潜め母国へと戻って行く。アレクサンドレは、埠頭で少年を見送ったのち、早朝のテッサロニキの街を車を走らせ帰宅するのであった・・・。


 「永遠と一日」は、現在と過去と幻想シーンのパッチワークから成り立っていて、かつ、それぞれの境目は曖昧としています。不思議な世界を垣間見ることができますが、難解に感じるかも知れません。でも、これがテオ・アンゲロプロス監督独特の手法です。

 ちなみに、この映画のキーワードは、かつてはマケドニアという国の都市だった「テッサロニキ」と、そこで生まれ育った作家アレクサンドレのセリフにある「よそ者」という言葉です。
 1920年代くらいに生まれただろうアレクサンドレはじめ、遠い昔からテッサロニキに住む多くのギリシャ人にとって、母国とはギリシャの隣国・マケドニアでした。つまり彼らはギリシャ人ですが、マケドニアにアイデンティティがある人びとでした。
 それが、1913年にマケドニアの一部とテッサロニキが、ギリシャの侵略によって一方的にギリシャに併合され、無理やり、ギリシャ国民となりました。その時からテッサロニキの人々は「よそ者」になりました。人々は今も、良き時代のテッサロニキを忘れません。

 そんな不安定な出自を、歳を重ねるにつれて自覚するアレクサンドレの強いアイデンティティと郷愁は、病に侵され孤独で作家活動も振るわない自身の境遇と重なり合い、アレクサンドレの心境はスパイラルの様相を呈して行きます。
 そこへ、やはりギリシャの隣国、アルバニアの政変を逃れてギリシャに不法入国して来た少年と出会いました。
 少年は異国でなんとか生きようとしています。アレクサンドレは少年の心に共感しました。たぶん、幼い少年から学ぶことがあったでしょう。だから、アレクサンドレは少年を危機から救ったのです。
 テオ・アンゲロプロス監督の映画は、ギリシャの歴史、いや、オスマン帝国領時代からのバルカン半島の歴史が絡むので、難しいです。学ぶきっかけになるでしょう。
 (ギリシャの領土拡張、右地図をクリックで拡大・・・「近現代ギリシャの歴史」中公新書より)
地図


2-0_20160925214408a1b.png さて最後に、本作に思うことが3つ。(この映画が好きな方は、以下を読むべからず。)
 この映画は、とてもフォトジェニックな作品です。 
 主要登場人物の背後で、多くの出演者が一様に黒っぽい服装で登場します。(監督の他作品同様に)
 そんなシーンでは、人々が画面内で絶妙に配置されていて、素晴らしい構図を観せます。また、大きな建造物を画面に取り込んで、それに人々を配置して、画面は構造化されます。また、回顧シーンで、作家と若き妻、夫妻を取り巻く人々が浜辺で遊ぶシーンがありますが、これは日本の写真家・植田正治を踏襲しています。(植田正治(1913-2000)は鳥取砂丘での人物写真が有名)

 しかし、監督の作意(計算)が気になりだすと、少々げんなりします。作意が透けて見えるのです。
 例えば、向こうへと続く道を、作家と少年が乗る車が去って行く。しばらくして、「間」が計算されていて、「だろうな、頃合いだな」と思う、その時、道を横切る車が現れる。ギリシャ正教の坊さんが横切って行く。同様なことが他のシーンでも出てくる。海を背にして作家が立っていると、ちょうどいいタイミングに沖合を船が横切って行く。
 特に、登場人物の動きです。動きが予測できてしまう。
 例えば、長い廊下を遠近法の構図で見せ、その構図の奥にある出口へ向かって作家が去って行く。ドアを開け放った出口からはまぶしい陽射しが見えていて、その出口の明るい輪郭の中に、作家の黒い影が入って、ちょうどフォトジェニック的にいい今だ、という時に、作家は歩みを止める。ああ、やっぱりそこだ。

 加えて、これもこの監督の特徴ですが、たぶんに舞台演劇的です。(監督の他作品も同様)
 例えば、背を見せていた人が、「2歩、後ずさり」してから、振り返りこちらに向かって歩き出す。いかにも不自然ですが、これはこれで動作の型を指示しているのです。舞台演技に見えます。
 また、舞台は、映画ほどに自由に場所場面を変えられない。だから舞台上では、脚本が次の場面へ主人公を伴って移りたい時、(場の空気を変えたいため)、突然突拍子もないところで、いきなり人が出て来て、前後脈絡のないセリフを主人公と話しだす。これで場面を変えたとする舞台の表現技術。これが、映画に出てくる。う~ん。 
 
 ですが、映画音楽を担当する作曲家・エレニ・カラインドルーのサウンドは好きです。


オリジナル・タイトル:Μιά αιωνιότητα και μιά μέρα
英語タイトル:Eternity and a Day
監督・脚本:テオ・アンゲロプロス|ギリシャ、フランス、イタリア|1998年|124分|
脚本協力:トニーノ・グエッラ 、ペトロス・マルカリス 、ジョルジオ・シルヴァーニ|
撮影:ジョルゴス・アルヴァニティス 、アンドレアス・シナノス|音楽:エレニ・カラインドルー|
出演:アレクサンドレ(ブルーノ・ガンツ)|少年(アキレアス・スケヴィス)|妻・アンナ(イザベル・ルノー)|母(デスピナ・ベベデリ)|娘・カテリーナ(イリス・ハジアントニウ)|娘婿・ニコス(ヴァシリス・シメニス)|家政婦・ウラニア(エレニ・ゲラシミドゥ)|詩人・ソロモス(ファブリツィオ・ベンティヴォリオ)|ほか

【テオ・アンゲロプロス監督の映画】  これまでに記事にした作品です。題名をクリックしてお読みください。

旅芸人の記録」(1975年)   「シテール島への船出」(1984年)



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映画 「シュトロツェクの不思議な旅」  西ドイツ映画  監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

上




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 男と女と老人の話。
 シュトロツェク役のブルーノ・Sという男優の存在感が、この映画を制しています。
 私たちは、映画の中のシュトロツェクをみているのか、それともブルーノ・Sという男の生きざまをみているのか。混同してしまいます。
 つまり、映画というお芝居を観ているつもりが、ブルーノ・Sという憐れな男についてのドキュメンタリーを観ているように感じてしまうのです。この映画は、そんな映画です。

 ベルリンの壁があった時代の話です。そのころ、ベルリン(西ベルリン)は東ドイツのなかにポツンとあって、「赤い海(共産主義諸国)に浮かぶ自由の島」と言われていました。
 しかし、シュトロツェクにとって、ベルリンは自由の島ではなかった。酒乱のあげくに何の罪を犯したのか、彼はやっと刑務所から出てきます。話はここから始まります。

 出所して、その足で最初に向かった先が、飲み屋。そこで、顔見知りの街のワルに出会い、そして、ワルにいたぶられているエーファーという、これも顔見知りの女を、シュトロツェクは慰めます。行くところがないなら、私の家に来れば。

 そんなことで、シュトロツェクとエーファーの奇妙な同居生活が始まります。しかし、この同居を良く思わないワルな男ふたりから、シュトロツェクとエーファーは虐待を受けます。そしていつしか、ふたりの間に愛が生まれます。普通なら、ダサくてとろい変人のシュトロツェクが、派手でワルで要領のいいエーファーと、くっつくことはなかったでしょう。

2‐0 さて、ふたりの知り合いの老人シャイツは、甥を頼ってアメリカに行くことにしていました。これを知ったシュトロツェクとエーファーは、老人について一緒にアメリカへ渡ることになります。脱ベルリン。
 自由なアメリカ! 不幸から這い上がれるチャンスが転がってるアメリカへ!

 ニューヨークに着いた三人は、ここでアメリカの息吹きを感じ嬉しそうでした。そして甥が住むウィスコンシン州に到着。そこは、もうすぐカナダというアメリカ北部の地。人口希薄な田舎の大地。

 シュトロツェクは、シャイツ老人の甥が営む自動車修理を手伝います。エーファーは近くのレストランでウェイトレス。しかし稼げる金は僅かです。
3-0_201609192042500b3.png せっかくアメリカまで来たのに、ふたりの生活は豊かになりません。思い切ってトレーラーハウスや家電を買いましたが、たちまちローンの返済が滞る。これまで、いささか幻想的な風味をみせていた映画は、ここでは、やけに現実的な様相をみせます。

 エーファーは、いつまで経っても世間ずれしないシュトロツェクを姉のように守ります。もっと稼ぎを増やすため、彼女はレストランに来る客に身を売りはじめます。

 しかし、こんな生活は長続きしませんでした。エーファーは、長距離トラックのドライバーと、どこかへ行ってしまいます。トレーラーハウスや家電は競売にかけられ、シュトロツェクはすべてを失います。

 ひとり残されたシュトロツェクは、シュトロツェク以上に浮世離れのシャイツ老人と、ライフル銃を持って銀行強盗を仕掛けます。
 ですが狙った町の銀行は閉まっていて、銀行の隣りの店で僅かな金を盗むに終わります。ケチな強盗でした。
 警察はシャイツ老人を逮捕、シュトロツェクは逃げおおせました。そして、ライフル銃を携え逃走するシュトロツェクは、・・・・。
 映画はラスト近くになって、ふたたび幻想味を色濃くして行きます。

 自由と解放を期待したシュトロツェクですが、そもそも彼は、人並みに生きる術を持てない不自由な男でした。
 ストーリーの力量は拙いくらいで、シュトロツェク役のブルーノ・Sなくしては成立しえなかった映画です。あるいは、初めから彼の出演を見込んで、敢えてこんな脚本にしたのかもしれません。
 ブルーノ・Sの演技は、怪演というほどの派手さは無く、地味でジワッとモッサリですが、それがかえってリアリティを生みます。
 どこまでが演技で、どこまでが「素」なのか、判然としない俳優、奇妙な魅力のある演技というと、私は2014年の日本映画 「川下さんは何度もやってくる」の主演俳優・佐藤宏を思い浮かべます。ブルーノ・Sに負けず劣らずの演技を観てください。(「川下さんは何度もやってくる」の記事を読むには、題名をクリック)
 

オリジナル・タイトル:Stroszek
監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク|西ドイツ|1977年|110分|
撮影:トーマス・マウフ 、 エド・ラッハマン|
出演:シュトロツェク(ブルーノ・S)|エーファー(エヴァ)(エーファ・マッテス)|シャイツ老人(クレメンス・シャイツ)|ほか

【 刑務所を出た、それからの話 】  これまでに記事にした映画から (それぞれ題名をクリックしてご覧ください)

バッファロー'66」  監督:ヴィンセント・ギャロ
街の元締めに呼ばれ、他人の罪(刑期5年)を肩代わりすれば許すと言われ、言われるまま人知れず刑務所へ。そして出所。映画はここから始まる。刑務所5年の間・・・。
都市の夏」  監督:ヴィム・ヴェンダース
ミュンヘンの朝。門を潜り抜けたハンスは刑務所前の道路に出る。道の向こう側に一台の車が停車しているのに気付く。迎えは来るはずではなかったが、勧められるままに後部座席に乗り込んだ・・・。
この森で、天使はバスを降りた」  監督:リー・デイヴィッド・ズロートフ
そもそも、パーシーはなぜこの町に来たのか・・・。そのワケは誰にも言わないが、彼女は大きな苦悩を背負っていた・・・。
呼吸」  監督:カール・マルコヴィックス
冷たいけれど新鮮なそよ風が吹く、爽やかな映画だ。舞台はウィーン。ローマン・コグラー19歳は、少年院に服役して5年になる。現在は保護観察官が付いて仮釈放の身となって・・・。
仁義」  監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
5年の刑期を終えても、この男は懲りない。コーレイ(アラン・ドロン)は、出所の前日に看守から、うまい話を聞いた。この看守の義兄が勤める高級宝石店が・・・。
いぬ」   監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
4年の刑期を終えても、この男は懲りない。2人で組んだ前回の案件は話がうますぎた。モーリス(セルジュ・レジアニ)は刑務所へ。罪滅ぼしのつもりだろう、出所時ジルベールが迎えに来た。そしてまもなく・・・。
無宿」  監督: 斉藤耕一
それぞれに望みを抱いて、晴れて刑務所を出た男ふたりの物語。玄造(勝新太郎)は、ぼくとつなヤクザ錠吉(高倉健)と刑務所で知り合った。やんちゃで人懐っこく ひょうきんな玄造は、錠吉のその凛とした様子に魅かれ、またなぜか自分と相通ずるものを感じた。
雲の上」  監督:富田克也
いい映画だ。8ミリで撮影された。そのワイルド感と録音ノイズ、その場一発撮り的な、生なライブ感が織りなす映像は観客をとりこにする。
ナイン・ソウルズ」  監督:豊田利晃
刑務所を脱走した9人の男たちの顛末を描く、コメディ映画です。

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映画 「人生スイッチ」  アルゼンチン・スペイン合作   監督:ダミアン・ジフロン

上00


 ユーモアたっぷり、かつブラックな風味の小話6つから成る、いい娯楽映画。
 どれも監督自身の脚本で、どの話も外れが無く、シャキッと締まった展開です。一気に観れます。
1-0_2016091621131291e.jpg
 一話目の「おかえし」は短い話だが、驚きの展開で、映画冒頭から観客の心をしっかりつかむ趣向が憎い。
 積年の恨み、といっても一方的なようだが、その恨みを一気に晴らそうとする話。

 二話は、「おもてなし」。
 ここでも恨みを持つ不幸なウェイトレスが登場。そこへ、なんと長年恨んできた男が店にやって来た。千載一遇のチャンスだが、ウェイトレスは何もできないでいる。それを見かねて料理人の女が・・・。

 三話は「エンスト」という題。パンクなんですが・・・。
 誰でも、ドライブ中にムカッとする車に遭遇するものだ。観客のそんなムカッと経験をスカッとさせてくれる話と思いきや、ちゃうちゃう。サスペンスです。6話中、一番ブラックな結末が控えています。笑えます。

 四話目は、「ヒーローになるために」という話。
 ヒーローといっても中年男の話だ。勤め人で、仕事は多忙だが働き甲斐はある男。だが、家庭をかえりみない。(観る人によっては身につまされる、大人の話)
 その日は、娘の誕生日。いつになく仕事を早く切り上げ、バースデーケーキを買うが、駐車違反で車をレッカー車に持って行かれ陸運局で金を払いそして凄い渋滞に巻き込まれる。パーティーは終わる寸前だった。妻の怒りがジワッと爆発。駐禁箇所ではなかったのに罰金をとられる不条理に男は怒り、さらには、こういう時、ことはすべてうまく行かず、不幸はいくつも重なり、夫婦は離婚へ。男は陸運局の窓口で器物破損、刑務所へ。だが、ことは思わぬ展開になるのでした。
 アルゼンチンの人は、警察とレッカー車運営会社との深い関係に苛立っているらしく、この四話で溜飲を下げるんだろう。
 ちなみに、男の仕事はビル爆破解体業。アルゼンチン映画の「ラテンアメリカ 光と影の詩」でもビル爆破シーンがある。好きなんだろうか、この国の人は。(「ラテンアメリカ 光と影の詩」の記事は題名をクリックしてご覧ください)

 五話は、「愚息」。
 大金持ちの愚息が、妊婦をはねる交通事故を起し、母子は死亡する。このひき逃げ事件を、マスコミは大々的に報道し始め、捜査が始まる。
 父親は、長年世話になっている弁護士と庭師に助けを求め、その上、検察官までも巻き込んで、「愚息の罪」を金で解決しようとするが、弁護士と庭師に足元を見られはじめる。(この推移に緊張感あり)
 だがさすがだ、大金持ちに成り上がっただけはある。父親の損得勘定と問題解決力に脱帽。

 六話は、「HAPPY WEDDING」。
 晴れの結婚式の最中に、新郎の浮気がばれる。浮気の相手も招待されていたのだ。突然の悲しみにくれる花嫁は、徐々に怒り狂いはじめ壮絶の域を超える。彼女は浮気相手の女と格闘の末、ウェディングドレスには血が飛び散り、式場は大混乱でウェディングケーキも滅茶苦茶。新郎はショック状態。医者も駆けつけた。しかし、意外や意外、新郎新婦は地獄から這い上がりパッピーエンドに。
 それにしても、両家の親たちや招待客は、呆れて帰らずに、ふたりを見守るのは偉いが、興味津々の傍観者とも言える。
 式場で演奏する楽隊の音が、ロマのブラスバンドのように聴こえて、グッド!


オリジナル・タイトル:Relatos salvajes
監督・脚本:ダミアン・ジフロン|アルゼンチン・スペイン合作|2014年|122分|
撮影:ハヴィエル・ジュリア
出演:一話:飛行機の乗客・イサベル(マリーア・マルル)|飛行機の乗客で音楽評論家・サルガド(ダリオ・グランディネッティ)|二話:ウェイトレス(フリエタ・ジルベルベルグ)|女料理人(リタ・コルテセ)|レストランの客・クエンカ(セサル・ボルドン)|三話:新車で飛ばしていた男・ディエゴ(レオナルド・スバラーリャ)|ディエゴにちょっかいを掛けたのはこの男・マリオ(ワルテル・ドナード)|四話:ビル爆破解体職人・シモン(リカルド・ダリン)|その妻・ビクトリア・マラムド(ナンシー・ドゥプラア)|五話:大金持ちの父親・マウリシオ(オスカル・マルティネス)|マウリシオ付きの弁護士(オスマル・ヌニェス)|マウリシオ家の庭師・ホセ(ヘルマン・デ・シルバ)|検察官(ディエゴ・ベラスケス)|六話:花嫁・ロミーナ(エリカ・リバス)|花婿・アリエル(ディエゴ・ヘンティレ)|


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映画 「その怪物」   監督:ファン・イノ

上




1‐0











 韓国風味の滑稽さを含んだサスペンス・スリラーで、ちょっとバイオレンス。

 ストーリー自体は特に何か言うほどではないが、一気に観終えてしまえる娯楽性があり、また日本映画にない「力強く太い感触」が魅力。
 それは、サスペンスシーンやバイオレンスシーンが力強いのではなくて、映画の語り口がなんとも力強く太いのだ。同じ肉でも、薄切りと厚切りじゃ味わいが違う、そんな感じとでも言おうか。観てのお楽しみ。

 主役3人のひとり・女優キム・ゴウンが、実はこの「力強く太い感触」のエンジンです。
 一見、さらっとしていて華奢で、何でもない風に見える、この人の女優力、存在感に注目したい。
 本作と同じく「力強く太い感触」がある、2015年の韓国映画 「コインロッカーの女」 では、キム・ゴウンの魅力が全開している。(題名をクリックして「コインロッカーの女」の記事をご覧ください)
 ちなみに、主役3人のうちの2人、殺人鬼テス役のイ・ミンギや、子役のアン・ソヒョンもがんばってはいるが、この2人の魅力に寄り添う視点だけで、この映画を観ると、平凡なサスペンス・スリラーにしかみえないと思われる。

 
 知的障害を持つポクスン(キム・ゴウン)とその妹は、韓国の田舎で仲良く暮らしている。 
 両親はいない、祖母に育てられた姉妹だが、その祖母は他界した。ポクスンは10歳から露店で野菜を売って生活してきた。妹は頭がよく、ソウル大学に入学予定。貧しいが幸せな姉妹。

 イクサンという男は、自分の道を失い、チンピラになっている。金に困っていて、親戚筋の社長に相談に行くが、逆に社長から頼まれごとを引き受けることになる。その頼まれごととは、社長の会社の女性社員が、社長の弱みを握り、社長をゆすっているらしい、それでイクサンが、女が要求する金をその家へ届け、引き換えに社長の弱みを撮ったスマホを回収することになった。

 イクサンという男は、自分の手を汚さない。彼は、疎遠にしていた義弟のテス(イ・ミンギ)を呼び出し、頼まれごとを代行させようとした。このテスという男は、実は殺人鬼である。それはイクサンと母親以外は知らない。
 テスは、女性社員をその家で殺してしまうがスマホは見つからない。テスは、社員の幼い妹・ナリ(アン・ソヒョン)を拉致して、自身が住む田舎の一軒家へ帰る。この一軒家が、ポクスンの家に近いことから、物語は頭をもたげてくる。

 ナリがポクスンの家に逃げ込み、これが元でポクスンの妹は殺される。姉を殺されたナリ、妹を殺されたポクスン。いつしかふたりは実の姉妹のようになっていく。そして、そのふたりを追い、殺そうとする執拗なテス。
 イクサンは、テスが指示に従わず、スマホも回収できていないことに苛立っていた。そして、テスを殺そうとするがうまく行かない。そこでイクサンは、母親(テスにとっては義母)を利用して、テスをソウルにある母親の店に呼び出す。店には客を装った殺し屋たちがいる。
 テスはナリを再び拉致し、コインロッカーに隠していたスマホを回収し、車で義母の店へと向かう。それを追うポクスン。ここで本格的にバイオレンスのスイッチがオンになります。さて、このあと、どうなりますやら。

 ポクスン役のキム・ゴウンの血まみれシーンは迫力ありますが、疾走するシーンも、いいですね。「コインロッカーの女」でも同様なシーンがありました。

中オリジナル・タイトル:몬스터
映画タイトル:Monster
監督・脚本:ファン・イノ|韓国|2014年|114分|
撮影:キム・ギテ|
出演:テス(イ・ミンギ)|ポクスン(キム・ゴウン)|テスの兄・イクサン(キム・ルェハ)|ケ(キェ)・ナリ(アン・ソヒョン)|ポクスンの妹・ウンジョン(キム・ボラ)|ほか

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映画 「世界」   監督:ジャ・ジャンクー

無題2

 北京にある、広大なテーマパーク「北京世界公園」というところが、話の舞台です。

1‐0 このテーマパークはいわゆるミニチュアパークで、世界各地の有名な観光名所(建造物)が、大きな模型として野外のあちこちに展示されています。ただし、パリのエッフェル塔はエレベーターで昇る大きなものですし、日本庭園は実物大のようです。

 主人公のタオ(チャオ・タオ)は、このテーマパークの専属ダンサーで、多くの同僚ダンサーと共に、パーク内の寮に住んでいます。タオ達ダンサーは、テーマパークにある大きな劇場で踊り、また、世界各地の名所展示では、それぞれの民族衣装で踊ります。

 タオの彼氏は、タイシェンといって、テーマパークの主任警備員。若い警備員を束ねています。
 タイシェンは、タオを求めますが、彼女はまだ許してません。

 映画は、この2人を話の軸としながらも、たくさんのエピソードを語ります。そのエピソードは例えば、ダンサーたちの私生活のアレコレ、タイシェンの血縁が北京に出稼ぎに来たことで始まる話、タイシェンの兄貴分(闇商売が生業)から請け負った仕事がきっかけで、タイシェンが浮気する話などです。
 これらのエピソードは、タオとタイシェンの話に添えられるのではなく、ふたりの話とほぼ同列で語られます。しかし結局、ラストはタオとタイシェンの話で終わりますので、主人公はやはりこの2人なんだと感じることになります。

 タオのダンサー仲間が結婚し、それで彼女も結婚を意識し始めます。タオはそして、タイシェンに身体を許します。そんな折、偶然タオは、タイシェンの浮気を知ってしまいます。
 タオはダンサーという仕事に不満はなかったのですが、テーマパーク内だけで成り立つ自分の生活に、徐々に閉塞感を感じ始め、タイシェンの浮気発覚がきっかけになって、ついに息苦しくなって行きます。そして、ラスト。
 息苦しさを紛らわすため、タオは同僚が新婚旅行へ出かけた間、その部屋(パークの外にある)を借りて、ひとり居候しています。
 そこへタイシェンが呼ばれてやって来ます。塞ぎこむタオをタイシェンは責めますが、彼女は一言も言いません。
 そして、翌朝、2人の部屋がガス臭いので、近隣が騒ぎ始めます。救急車が呼ばれます。ふたりは毛布にくるまれ、近所の人によって外に運び出されて、道端に置かれます。ふたりとも、まったく身動きしません。季節は小雪が降り始めるころのようでした。
 
 
 2004年製作のこの映画をいま観て、改めて気づくこと。
 それは、「北京世界公園」(中国の中の世界)を珍しがることから、中国は文字通り「世界の中国」へと大きく変わり、人々誰もが競って海外旅行へ出かけるようになりました。上海ディズニーランドも呼び寄せました。

2-0_20160903140652c37.jpg もうひとつ、気づくこと。
 北京世界公園の向こうに北京の市街が見えます。高層ビルが建ち並んでいます。映画にたびたび出てくる遠景です。
 その遠景が意味することは、(皮肉めいた言い方ですが、北京世界公園が世界中から珍しいものを集めたように)、いま中国が、世界中から、技術や経済やブランドやら欲しいものを旺盛に国内に集め、栄えている様子と言えます。
 これと対比して語られるエピソードが、タイシェンの血縁が田舎から出稼ぎに来て、北京市街にある建設工事現場であえなく事故死してしまうというエピソードです。北京の街が繁栄していても、多くの底辺は相変らず貧しい、映画はそう言っています。

 同僚が新婚旅行に行っている間、タオが借りたあのアパート(新婚のマイホーム?)は、工場の裏手にある薄汚れたところです。
 北京世界公園は華やかな夢の世界を見せてくれます。しかし、世界公園から一歩出ると、一般庶民は貧しい現実を抱えています。繁栄を誇る北京市街も現実ですけれども、庶民にとっては所詮、北京の現実は、世界公園のイミテーションと差異が無いのです。映画はそう言っています。
 
 しかし一方、行き詰まった状況を打ち破って、次へと歩もうとする人びとの様子も描かれています。
 タオの同僚ダンサーは、北京世界公園の経営者(登場人物中、一番の金持ち)に取り入って、現場マネジャーの地位を得ます。
 タイシェンの浮気相手の女性。彼女の夫は、パリの中華街にいます。彼女はパスポートを得て旅立ちます。タオの元彼氏も、パスポートを取得してモンゴルへ行くようです。(このように、この映画では出国手段であるパスポートがよく出てきます。)
 ちなみに、行き詰まったタオの心が、自由に飛翔したいと夢想する様子は、映画に挿入されるアニメシーンで、うまく表現されています。
 そしてラスト、タオとタイシェン。 俺たち、死んだのか?  いいえ、これから始まるの。 


 総じてこの映画は、当時の中国の人々が感じていた、漠然とした閉塞感や息苦しい現実、そしてそこから脱したい気持ちを代弁しているように思えます。

オリジナル・タイトル:The World
監督・脚本:ジャ・ジャンクー|日本、フランス、中国|2004年|133分|
撮影:ユー・リクウァイ
出演:タオ(チャオ・タオ)|タイシェン(チェン・タイシェン)|サンライ(ワン・ホンウェイ)|ウェイ (ジン・ジュエ)|ニュウ(チャン・チョンウェイ)|ヨウヨウ(シャン・ワン)|ほか

【 ジャ・ジャンクー監督の映画 】  これまでに記事にした作品です。題名をクリックしてお読みください。

一瞬の夢」 (1997年)   「プラットホーム」 (2000年)   「青の稲妻」 (2002年)   「世界」 (2004年)
海上伝奇」 (2010年)   「記憶が私を見る」 (2012年) 製作:ジャ・ジャンクー (監督:ソン・ファン)
罪の手ざわり」 (2013年)
「山河ノスタルジア」 (2015年) ←これは観ない方がいい 

【 一夜一話の 歩き方 】

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映画 「ドリンキング・バディーズ 飲み友以上、恋人未満の甘い方程式」   監督ジョー・スワンバーグ

ここ下Drinking-Bddies


 「飲み友以上、恋人未満」、つまり 「友達以上 恋人未満」 はあり得ますと、映画は言っている。
 一組の、そんな男女を中心に、それぞれの恋人、計4人のお話がはじまります。

1-0_201608291334038f4.jpg 台本が無い(らしい)自然な演技に、小気味よい愉快な演出、そして 「友達以上 恋人未満」 越えの微妙な恋愛事情が楽しめます。

ケイトとルークは職場の同僚
1 0 ケイト (オリヴィア・ワイルド)と ルーク (ジェイク・ジョンソン)は、共にクラフトビールの醸造所で働く同僚だ。
 ケイトの仕事は、営業/宣伝で醸造所内イベントなんかも担当していて、なかなかのやり手。
 醸造所の従業員数は10人ちょっとで多くない。社長はじめ、ケイト以外みな男性で、みな醸造の現場仕事をしている。

 ケイトは人付き合いがうまく、職場の誰とも親しいが、とりわけルークとは「友達以上 恋人未満」の関係。お昼のランチも、仕事が終わっての同僚らとの呑み会でも、いつも一緒、じゃれ合っている。

 醸造所内でケイトが主催するパーティがあって、ルークとその彼女、ケイトとその彼氏の4人が集まった。

 ルークの彼女は、ジル (アナ・ケンドリック)という小柄でかわいい子。ケイトは既にジルを知っている。
 ルークとジルは結婚の約束している。愛し合ってるし、何の障害もないが、なんだか互いに次の一歩が踏み出せないでいる、成り行き任せの状態。あるいは一時的なエアーポケットにいて躊躇している、そんな時期のルークとジル。

ケイトと、彼氏のクリス
1-00_2016083016115825f.jpg ケイトの彼氏は、クリスといって音楽(ロック)業界でプロデューサーをしている。真面目過ぎて、ちょっと場の空気が読めない冗談が通じない感じで、大人しい無口な男。ケイトは今回初めて、クリスを皆に紹介した。(この時ジルはちょっとクリスに好印象を持つ)


 この4人が湖畔の別荘へ出かけることになります。(こんな時、人は開放的になる)
 森を歩くというクリスについて行ったジル。
 早くに寝てしまったクリスを置いて、ベッドルームから出て来たケイトを深夜、湖畔に誘ったルークは、火を焚いてふたりで一夜を明かす。(まるで学生の合宿時にありそうなアバンチュール) 
 結局、夜明けに帰って来たケイトにクリスは怒る。結果、帰り道、別れ際にクリスから、別れると言われた。


 ふられたケイトは、その後ヤケッパチになり、同僚とのいつもの飲み会で、いつもより羽目を外し、ルーク以外の男にも馴れ馴れしい。
4-00.png それをよく思わないルーク。翌日も、不機嫌なルークに、ケイトは気遣う。
 気遣ってもらったルークは機嫌が直り、今度はそんな様子を見てケイトは安堵し、そこで気持ちが通じたのか、互いに恋人のよう。
 
 さて次に、脚本は2つのシチュエーションを用意します。
 ジルが短い海外旅行へ行くことになります。
 行くわけは、ルークとの結婚に向けて、自分の気持ちを整えようという理由。そしてジルは、ルークにも同じことをお願いする。帰って来るまでにね、と言ってジルは旅立つ。
 旅立つが、ジルは最近のルークの様子にちょっと異変を感じている(女の六感?)。
 そして一方、ジル自身は、別荘へ行った時、森の中での「クリスとのキス」で自責の念にかられている。ルークの異変は、ひょっとしたら自分がクリスと一緒だったことを良く思っていないからかも、とも思う。

 フリーとなったケイトは、気持ちを切り替えるため転居することになります。
 これを(ひとりで)手伝おうと言うルークも、今、フリーの身。
 さて当日、ふたりは楽しく引っ越し作業を進めるつもりであったが・・・、ふたりの距離が、いつもより、近づき過ぎた。
 ケイトの部屋に着いたルークは感じた。オオ、部屋があまりに散らかってる。ソファーを運び出す時、ルークが手に怪我をするが、ケイトはその血がソファーに着いたことを先に心配した。エエッ。血がこんなに出てんだぜ。
 ケイトは、ルークの怪我で引っ越し戦力が落ちたので、急きょ、職場の男子を呼び出す。その男は、フリーのケイト目当てに気安く喜んでやって来た。会社内ならいざしらず、そんな態度の「職場」同僚が来たことで、ケイトはハッと我に返った。自分の「私的空間」に、ルークと2人だけでいることに、急にとても違和感を感じてしまった。
 そしてケイトは、別人になったような冷たい態度で、追い払うようにルークを帰した。だが、その直後、私はなんてことしたの! ケイトは後悔し自己嫌悪に陥った。

ルークとジル
5-1_2016083015473972a.jpg さて、このあと、ジルは計画より早くに帰国して来ます。なぜ?
 そして、職場でケイトはルークを呼び止めますが・・・・。あとは映画観てください。

ケイトとルーク                  
下 人前でおどける陽気なルークは、実は繊細です。そんなルークの心の様子を、俳優ジェイク・ジョンソンは、おさえの効いた演技で演じます。これが映画を支えます。見どころです。
 ともあれ、ケイトとルークの心の機微(心の変化と推移)を、うまく読み取れると、この映画、いい映画になります。
 
オリジナル・タイトル:Drinking Buddies
監督:ジョー・スワンバーグ|アメリカ|2013年|90分|
脚本:ジョー・スワンバーグ|撮影:ベン・リチャードソン|
出演:ケイト(オリヴィア・ワイルド)|ルーク(ジェイク・ジョンソン)|ジル(アナ・ケンドリック)|クリス(ロン・リヴィングストン)|ほか
【 ジョー・スワンバーグ監督の映画 】 これまでに記事にした作品から。
 (タイトル名をクリックして記事をお読みください)

 「ハッピー・クリスマス
 子育てに多忙な主婦ケリーと、家に転がり込んで来た傷心状態ヤケッパチな義妹ジェニーとの葛藤、そして親しくなって行くお話です。上記「ドリンキング・バディーズ」で、ジル役のアナ・ケンドリックが主役です。
 ジョー・スワンバーグ監督は、マンブルコアの最重要人物のひとりということらしいです。
 マンブルコアとは、アメリカのインディペンデント映画におけるジャンルの1つ。低予算でアマチュア俳優を使い、現代口語的で明瞭に発音されない(普段の会話のような)セリフ、若者の日常をそのまま描く内容が特徴。ゼロ年代を代表する映画ムーブメントとされる。(wikipediaより引用) だそうです。


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やまなか

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 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めて8年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

<一話一夜の方針かな>
 1)古今東西の映画を分け隔てなく並べて、気に入った映画を選びます。
     
 2)以前に観た映画でも、もう一度あらためて観てます。むかし感じた印象と大きく異なることも多いからです。

 3)「素」な気持ちで、「映画作品そのもの」に向き合うことが、私の遊びです。
 作品自体が語りかけてくること以外の額縁情報、つまり宣伝文句、その受け売り文章、受賞実績、監督発言、出演俳優がどうしたとか、そして映画評論本やらは、はなから無視して、自分の眼で観るようにしています。

 4)観て気に入らない映画、つまんない映画は、基本掲載しません。
 だから、観たけど掲載しない映画は多いです。巨匠の名作と言われる映画も、気に入らなければ掲載しません。また、名物にうまいモノなし、ということも実感します。

 ただし、まだ観てない映画は、たくさんあります。こんな一夜一話ですが、今後も、見に来てください。   
 美術や音楽、書籍や温泉の記事も増やしたいと思っています。よろしく。  

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