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映画「イーダ」  監督:パベウ・パブリコフスキ  2013年 ポーランド映画

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  実に静謐な映画だ。
  加えて、観る者の想像力と鑑賞能力が問われるほどに、作品は無口。
  そして、なによりイーダ役のアガタ・チュシェブホフスカを愛でる映画だ。技巧をこらさない素の演技が生きる!
  いい映画です。 ただし、観る側は、映画の行間を読みに行かねばならない。

  舞台はポーランドの田園地帯、時代は1962年。
  見習い修道女のマリア18歳(1944年生まれ)は、孤児として修道院で育った。そして修道女となるべく誓願の儀式を目前に控えていた。
  そんなある日、マリアは修道院長に呼び出され、「誓願の前に、あなたの唯一の親戚である叔母に会っておきなさい。」と言われた。マリアは、これまでその叔母の存在すら知らず、また叔母という人も修道院を一度も訪ねたことはなかった。だが、修道院長の示唆を受けたマリアは、叔母を訪ねることになる。

組1-0  一方、ユダヤ人である叔母ヴァンダにとって、マリアの訪問は驚きであった。消し去りたくも かき消せない過去を、不意に突きつけられた驚きをヴァンダは露わにした。
  まず最初に、ヴァンダがマリアに告げたこと。それは、マリアの本名はイーダ・レベンシュタインと言い ユダヤ人であること。両親は戦時中に虐殺され、赤ん坊のイーダは修道院に預けられたこと、であった。
  これを聞いたイーダは両親の墓参りに行きたいと言い、ヴァンダは熟慮の末に、車で出かけようと応えた。予期しなかったマリアの出現を機に、これまで避けてきた過去を振り返る旅を、ヴァンダは躊躇しながらも決心たのだ。
  加えてヴァンダは言う。「あらかじめ言っておくけれど、墓などはなく、どこかの林に埋められているだろう」と告げ、神なき現実もあることを言い添えた。マリアにとって墓参りは、自身の出自を知る旅となった。

組2-0  映画が進むうちに、徐々にヴァンダの素性が分かってくる。
  男勝りの性格で、独身の彼女は現在裁判官であるが、10年前の1952年に成立したポーランド人民共和国の元で、当時ヴァンダは検察官の職にあった。
  高々と掲げる共産主義の強権を背景に、ユダヤ人の彼女は、隠ぺいされたポーランド人によるユダヤ人虐殺事件を裁く検察官として、ポーランドの人々の間では「赤いヴァンダ」と呼ばれ恐れられる存在であった。
  しかし、その後のスターリン批判の影響や政府の失策と人民の暴動など、激動する時代の流れの中で彼女は翻弄され、歴史的な葛藤を抱え込んで、自らが歩む道を失い自暴自棄になって行った。
  そしてもうひとつの過去、彼女の私生活では、思いを遂げられなかった恋や、割礼した彼女の子供の死のいきさつが映画で語られる。さらに、話の先を言ってしまうと、イーダとの旅が終わり使命を終えた彼女は、もうこう世に未練はなくなっていた。

  さて、二人はイーダが生まれた家に着く。家は残っていた。
  この家にいま住むポーランド人のあるじの不安と困惑は、家をイーダに返す事態になるのかということ、そしてイーダの両親殺害についての追及であった。
  あるじとヴァンダの間で交渉成立したことは、家は取り戻さない代わりに両親を埋めた場所を教えること、であった。しかし、あるじは当時のいきさつを知らなかった。そこでヴァンダとイーダは、余命わずかなあるじの父を病院に訪ね、虫の息で答える父親から、イーダの両親の最期のいきさつを聞き出した。
  二人は、このことをあるじに伝えて、三人は近くの林へと向かった。
  シャベルで掘り返される様子を傍らで凝視する二人。掘り出された二つの頭蓋骨と遺品を布で包んだヴァンダとイーダは、イーダの先祖が眠るユダヤ人墓地へと向かった。そこは、誰も訪れることのない荒れ果てた墓地ではあったが、二人は骨と遺品をここに埋葬した。


組3-0  修道院長の示唆は、まさしく示唆であった。イーダは自身の出自を知ることができたこと、叔母の生きざまを通して世の中が見えだしたこと、そして、淡い恋に巡り合えたこと。
  叔母の車で走る田舎道で、ヒッチハイクの男を乗せた。名をリスと言いサキソフォンを抱えていた。彼は、ヴァンダとイーダが宿泊するホテルのホールで演奏するジャズバンドの一員であった。
  リスがサキソフォンで奏でるコルトレーンのバラード・ナンバーは、イーダの心を揺さぶった。二人は瞬く間に愛を交わし、瞬く間に別れることになる。つまり、やはり、イーダは修道院に戻って行くのであった。

中  この映画、イーダの物語であると同時に、ヴァンダの物語でもある。
  イーダの物語は分かりやすいが、ヴァンダの物語をスクリーンから読み取って行かないと、この作品の厚みが見えてこない。
  例えば、イーダとの旅の途中、ヴァンダは飲酒運転でハンドルを誤り 林に突っ込む事故を起こして、地元警察のやっかいになる。このシーンで、ポーランド人の刑事や警察官たちが、「赤いヴァンダ」だったヴァンダを今も恐れる様子や、ユダヤ人への差別感情が依然として彼らに存在することなどを読み取りたい。
  ま、要するにこの映画は、イーダという白いキャンバスに、ヴァンダが在ポーランドのユダヤ人物語を描くといった構造で展開される。
  それにしても、イーダ役のアガタ・チュシェブホフスカが、素朴に輝いている映画だ。ジャズマンのリスに恋するイーダがひとり鏡の前で、ヴェールを脱ぎ、長い髪をおろすシーンは必見。



下オリジナル・タイトル:IDA
監督・脚本:パベウ・パブリコフスキ|ポーランド、デンマーク|2013年|80分|
出演:イーダ(=アンナ):アガタ・チュシェブホフスカ|叔母ヴァンダ:アガタ・クレシャ|ジャズサックス・プレイヤーの青年リス:ダヴィド・オグロドニク|







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