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映画 「バニシング・ポイント」 1971年  監督:リチャード・C・サラフィアン

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  ウルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  
  心地よい この排気音を永遠に聞いていたい。
  それ以外、何も聞こえない。何も聞きたくない。これが静寂というものだ。 
  コロラドのデンバーから、ひたすら西へ、時速200キロ。 
  このまま、いつまでも走り続けていたい。デンバーとシスコを行き来する度にそう思う。
  飲み食いは面倒だ。適量の覚せい剤で、意識はまさに覚醒している。
  この今が一番、心穏やか。静寂の中をただただ疾走する。

組1-0  州をまたぐ度に、バトンタッチで次の州警察のパトカーが追ってくる。彼らの追跡を振り切るカーチェイスは、俺にとってはアドレナリン的気分転換。
  こっちはいつもの速度違反、制止無視なんだが、今回はどの州警察も執拗に俺を追いかける。
  コロラド州では初め、白バイ2台程度だったが、これにパトカーが加わり、ネバダ州に入るとパトカーの台数が増え道路を封鎖する構えになって来た。だから、封鎖を避けてハイウェイを離れ、砂漠の中も走った。
  加えてKOWというラジオ局のDJも、俺にまとわりつく。これが騒ぎに油を注ぐ。
  ラジオ局では警察無線を傍受していて、その情報を都度、俺に向けて放送してくる。うるせえ。局の前には人が集まっているらしい。もちろん警察もラジオを聞いている。
  世間のゴタゴタは耳にしたくない。ハイウェイを突っ走る俺の静寂を邪魔するな。

中3  彼の名は、コワルスキー。元バイクレーサーで元ストックカーのレーサー。 レース中の事故も経験した。ドライヴィング・テクニックは十分ある。
  ベトナム戦争で負傷。冬の海辺で最愛の彼女を死なせた。警官もしていた。その職にあった当時、ある事件でマスコミにヒーロー扱いされ、挙句の果てには法廷前で逮捕された。
  以後、デンバーの会社でチューンナップ車の陸送ドライバーをしている。だがそれは彼にとって単なる身過ぎ世過ぎで、日々が過ぎるのをただ眺めるようにひっそりと暮らしている。

組2-0  砂漠をなんとか脱出し、カリフォルニア州に近づくころには、事態はちょっとした社会現象になっていた。
  警察はハイウェイ・ヘリを飛ばし始め、TV局の取材がデンバーの会社にも及ぶ。またしてもヒーロー扱いされている。 
  官憲に負けないコワルスキーを応援しようという心情的な気運がじんわり広がる一方、犯罪者のレッテルを貼られた彼の側に付く人間に、制裁を加えようとする自警団。彼らは、DJらを半殺しにしてラジオ局を乗っ取り、コワルスキーに嘘の情報を流したり。
中5  こんな構図を背景に、警察のコワルスキーに対する過度な取り締まりが進む。だが、当の彼の心中は静かであった。 
 
  カリフォルニアの州境あたりでは、2台のブルドーザーが道を塞ぐように並んで止まった。警官たちは態勢を整えて、その時を待っている。
  コワルスキーを「バニシング・ポイント」へと追い詰めるヘリ。
  そして、彼はブルドーザーめがけ全速力で突っ込んで行く・・・。   
  (vanish=消失する)

  
  ま、これは自殺です。
  この映画は、反体制的なカーアクション話を語ろうとはしていない。ひとりの男の空虚な心を表現しようとしている。
組3-0  見た目は派手なカーアクションが続くが、もう一歩スクリーンに踏み込めば、実は静かな映画だ。
  猛スピードでパトカーを出し抜く様子は、野次馬やマスコミの好奇心をそそるし日ごろの鬱憤を晴らすが、彼には警察権力に刃向かう気はサラサラない。終始、受け身だ。生きがいを失い、空っぽの心を抱えた彼が一番望んだのは、ハイウェイを突っ走る時の静寂だった。
  警察無線を傍受しラジオ局から情報提供するDJは、「オイ、聞いているか」と放送を通してコワルスキーに問いかける。しかし、いつしか、このDJの問いかけにコワルスキーが答えるようになる。ラジオを介して互いに話す、こんな夢想のシーンもある。途中で出会う奇妙な人々も、彼の心の中の話なのかも知れない。
  彼は、自分の「バニシング・ポイント」を以前から探していたのだ。
  映画冒頭のシーンは、ラストシーン一歩手前の様子だ。それはブルの前でUターンし、もと来た道を走る。そして自殺を決意し引き返した所からラストシーンになる。 

  疾走する車、警察にひとりで立ち向かう男、カーアクション、突然のエンディングといった かっこ好さだけを観てると、なにやら理解不能な映画。そうかと言って、(今だに言い続けてる)1971年公開当時の同時代意識を盛り込んだ売り文句や評論に乗せられて観ると、’60~’70年代の時代背景を知らないから・・・なんてことでイマイチ理解不能な映画、となるが・・・。そんなこといいじゃないか。同時代意識なんて、その時の風潮です。リアルタイムで観てたオジサンおばさんも、映画の中の野次馬たちと同じだった。
  それより、コワルスキーという男のことを考えて欲しい。その方が映画を味わえると思う。

  どうでもいいことだが、コワルスキー(Kowalski)の綴りの頭3文字が、ラジオ局名のKOW。
  流れる音楽は、アメリカンロックがアメリカのルーツを吸収して開花し始めた頃の初々しいサウンドだ。

下オリジナル・タイトル:VANISHING POINT
監督:リチャード・C・サラフィアン|アメリカ|1971年|106分|
原案:マルコム・ハート|脚本:ギレルモ・ケイン|撮影:ジョン・A・アロンゾ|
出演:バリー・ニューマン(コワルスキー)|クリーヴォン・リトル(スーパー・ソウル)|ディーン・ジャガー(砂漠の老人)|ポール・コスロ(若い警官チャーリー)|ボブ・ドナー(中年の警官コリンズ)|ティモシー・スコット(バイカーのエンジェル)|ギルダ・テクスター(裸の女ライダー)|アンソニー・ジェームズ、アーサー・マレット(二人連れヒッチハイカー)|ビクトリア・メドリン(コワルスキーの恋人だったベラ)|カール・スウェンソン(陸送屋のサンディ)|リー・ウィーバー(ヤクの売人で賭けの相手ジェイク)|スティーブン・ダーデン(砂漠にいた宗教団体助祭のフーバー)|

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