Home > 邦画評だけ見る 直近50作 > 映画 「花ちりぬ」  監督:石田民三  1938年

映画 「花ちりぬ」  監督:石田民三  1938年

上

  戦前の時代劇か などと、侮ってはいけない。
  実に現代的な感性で作られた映画だ。
  祇園の艶やかさを期待する向きには向きません。

  幕末の京都。ここは、祇園のお茶屋。
  昨夜の大文字がまだ目に残る、8月17日。(旧暦の七月)
  「む~ぎちゃ~、はったい粉~」と、物売り女ののんびりした売り声。
  お茶屋の二階の大屋根にある物干し台では、女将に隠れて舞妓たちがキャアキャア言って遊んでいる。

  だが、その年は1864年、元治元年。 (明治まであと4年)
  去秋、長州藩を主とする尊皇攘夷派が、文久の政変で京都を追放され、今年に入ってつい先月の7月8日(旧暦六月)、三条木屋町で池田屋事件が勃発。京の街は不安に慄いていた。

  映画は、お茶屋の女将に舞妓や芸妓たち、祇園の女たちの群像劇。
  主人公の舞妓・あきら(花井蘭子)の母は、この茶屋のとみ子という気丈な女将。
  あきらには、恋文をもらう仲の男がいる。長州藩の客であった。もう、一年以上会っていない。音信不通。あきらは、その男の安否がとても心配だ。
60.jpg  この母娘に加えて、旦那とそりが合わず、再び女将の世話になりたいと相談に来た元・芸妓、江戸から流れてきた影のある江戸っ子芸者・種八(水上怜子)、そして娘盛りの舞妓たち。映画は、そんな女たちの、8月の17日から翌18日にかけての喜怒哀楽を、繊細に描いている。

  その日、突然、女将が尋問のため新撰組に連れて行かれた。
  あきらは、自分の彼氏が長州藩藩士であることが発覚したかと、娘心にひとり動揺する。
  しかし、茶屋にいた女たちは、長州藩がふたたび、都に押し寄せて来たという噂に動揺する。逃げ惑う人々が鴨川沿いにあふれているとも・・・。女たちは、籍を置くそれぞれの置屋から指示された避難場所へと去って行く。出戻りの女は、仲たがいしたはずの旦那のもとへと急いだ。

中2  さて、誰もいなくなりガランとした茶屋、その中で取り残されたように佇むあきら。
  足音がした。母が帰って来たかと思いきや、泥酔した種八であった。
  大砲の轟が、京の空に響き渡る。半鐘が鳴りやまない。
  暗くなって、母が帰されてきた。物干し台に上がり見渡すと、西の夜空に赤々と大きな火の手が上がっている。
  映画では語らないが、2日後の8月20日、禁門の変が起こる。これによる戦火で、京の街がなんと3万戸焼失する。

  男が出て来ないこの映画は、敢えて女にスポットを当てて、幕末を描いてみせようとする意欲作。だから、お茶屋の舞台裏が舞台となっている。本作の製作年が、昭和13年(皇紀2598年)であることを併せ持って観れば、映画の幅が増すかもしれない。DVDの発売を求む。

  寺田屋事件を題材に、伏見に住む庶民のつつましやかな生活を描いた秀作に、淡島千景主演の 「蛍火」 がある。(監督:五所平之助(1958年)。また、池田屋近くで宿屋を営む家族と、新撰組・浪人たちとの思わぬ巡り合わせを描く 「その前夜」 は、山中貞雄原案、監督が萩原遼であった。これは「花ちりぬ」の翌年1939年の製作だ。 (それぞれ、映画題名をクリックして記事をご覧ください。)
  私は、さして時代劇ファンではないが、いい映画はいい。
  

「花ちりぬ」の時代背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
※ 1863年9月30日 (文久三年八月十八日)・・・・・文久の政変 (八月十八日の政変)
  会津藩・薩摩藩を中心とした公武合体派が、長州藩を主とする尊皇攘夷派を京都から追放したクーデター事件。
※ 1864年7月8日 (元治元年六月五日)・・・・・・・・池田屋事件
  京都三条木屋町(三条小橋)の旅館・池田屋に潜伏していた長州藩・土佐藩などの尊王攘夷派を、京都守護職配下の治安維持組織である新選組が襲撃した事件。
※ 同 年 8月16日 (元治元年七月)・・・・・・・・・・・五山送り火 (大文字)
  盆行事は古来(旧暦)七月に行われていた。1873年(明治6年)に太陽暦に切り替わる際、京都では「勝手に変えたらご先祖さんが困らはる」からということで、旧暦七月にほぼ相当する8月に、送り火を行うことにした。
 同 年 8月20日 (元治元年七月十九日)・・・・・禁門の変 (蛤御門の変)
  前年の文久の政変で京都から追放されていた長州藩勢力が、会津藩主・京都守護職松平容保らの排除を目指して挙兵し、京都市中において市街戦を繰り広げた事件。これによる戦火で京の街、約3万戸が焼失。

監督:石田民三|1938年|74分|
原作:森本薫|脚本:山本紫郎|撮影:町井春美|
出演:花井蘭子(あきら)|三條利喜枝(とみ子)|水上怜子(種八)|一の瀬綾子(まつ葉)|堀越節子(吉弥)|ほか

一夜一話の歩き方・ガイド
◆TOPページ (総合案内) ここから見る
   掲載映画人気ランキング・新着映画紹介・お薦め映画ピックアップを随時、掲載中。

◆ふつうに見る。 こちらから、どうぞ。 (ブログの最新記事が読めます。)

邦画評だけ見る。(直近掲載50作) こちらから、どうぞ。 ◆洋画評だけ見る。(直近掲載50作) こちらから、どうぞ。

 邦画の題名から探す。   監督名から探す。          洋画の題名から探す。   国名から探す。

 女優名から探す。 
         
◆ 記事全リスト (All Archives)
   
関連記事
スポンサーサイト

Comments: 0

Comment Form
Only inform the site author.

Trackback+Pingback: 0

TrackBack URL for this entry
http://odakyuensen.blog.fc2.com/tb.php/1157-b1a9595f
Listed below are links to weblogs that reference
映画 「花ちりぬ」  監督:石田民三  1938年 from 一夜一話

Home > 邦画評だけ見る 直近50作 > 映画 「花ちりぬ」  監督:石田民三  1938年

タグクラウド
プロフィール

やまなか

Author:やまなか
 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めて8年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

<一話一夜の方針かな>
 1)古今東西の映画を分け隔てなく並べて、気に入った映画を選びます。
     
 2)以前に観た映画でも、もう一度あらためて観てます。むかし感じた印象と大きく異なることも多いからです。

 3)「素」な気持ちで、「映画作品そのもの」に向き合うことが、私の遊びです。
 作品自体が語りかけてくること以外の額縁情報、つまり宣伝文句、その受け売り文章、受賞実績、監督発言、出演俳優がどうしたとか、そして映画評論本やらは、はなから無視して、自分の眼で観るようにしています。

 4)観て気に入らない映画、つまんない映画は、基本掲載しません。
 だから、観たけど掲載しない映画は多いです。巨匠の名作と言われる映画も、気に入らなければ掲載しません。また、名物にうまいモノなし、ということも実感します。

 ただし、まだ観てない映画は、たくさんあります。こんな一夜一話ですが、今後も、見に来てください。   
 美術や音楽、書籍や温泉の記事も増やしたいと思っています。よろしく。  

RSSリンクの表示
Tree-CATEGORY

Return to page top