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映画「隣の八重ちゃん」 監督:島津保次郎

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  昭和9年の東京郊外。
  多摩川に近いこのあたりは新興住宅地で、家がまだ疎らに建っていて空き地が目立つ。
  学生の八重子の家は、両親と三人住まい。姉は結婚し嫁ぎ先にいる。
  大学生の恵太郎のほうは、両親と弟・精二の四人暮らし。どちらも核家族だ。

  隣り合う両家は、親戚のように親しく付き合っている。父親同士はどちらかの居間で酒を呑む。八重子は恵太郎や精二に対し兄弟のように接している。それから、両家の母親はこの三人を我が子のように扱ってきた。
  そして、八重子は恵太郎が好き。なにかと恵太郎の世話をやく。恵太郎のほうも、まんざらでもない。互いの両親も、二人をあたたかくみている。

  そこへ、ある日、八重子の姉・京子が出戻りで帰って来た。旦那は相当の女道楽らしく、京子はもう耐えきれなくなったらしい。もっとも、実家に帰って来たからといって、どうにかなることではない。彼女は気晴らしに、八重子と恵太郎兄弟を誘って街に出た。映画を観て食事をして。だが、八重子の心は穏やかではない。姉の恵太郎への目線や、恵太郎の隣りに座る姉が気になってしょうがない。やきもちだ。八重子は恵太郎とデートしたこともない。
  そののち、京子は恵太郎を誘って、多摩川岸を歩いた。何の気なしに彼女の誘いに乗った恵太郎だったが、年上の女の粘っこい視線にたじろぎ、途中で帰ってしまう。それからしばらくして、京子は実家を出て行方知れずとなる。

  八重子の父親が朝鮮へ転勤と決まった。母親は転勤先に付いて行く。八重子は恵太郎の家で下宿することとなった。この転勤の話で一番に喜んだのは、もちろん八重子であった。

  80年前の映画だ。
  この映画は当時としては、きわめて自然体で演技されていた。だから、それまでケレン味たっぷりのスクリーンを観て来た観客の目には、俳優の様子やその台詞が、あまりにも自分たちの普段と同じで、普通過ぎて肩透かしを食らったんじゃないかなと思う。そう思うと、「隣の八重ちゃん」という題名には、観客の反応を見越してそう名付けた監督の意志がみえる。
  
  ただ、自然体が過ぎて、八重子役の逢初夢子の何でもない仕草に、素人が写った8ミリを観てる感じのシーンがある。つまり、映画俳優的なスタイリッシュさが欠けていて、その仕草や姿勢がいささか不格好。一方、八重子の姉・京子役の岡田嘉子の演技は、終始、自然体じゃない。いかにも映画女優という旧来の演技を踏襲している。それだから、映画全体の雰囲気の中で、京子だけが異質な感じだ。それが出戻り京子を、なにやら妖しくしている風でもある。
  
  ちなみに、80年前の当時、人はどんな日本語を話していたんだろうか、それが分かる。大正生まれの隣りの八重ちゃんは今100歳近いが、八重子や恵太郎ら、当時の若者の日常会話は今とそう変わりないのが、ちょっと不思議。片や、明治20年代生まれらしい親の世代の日常会話は、やはり時代を感じさせてくれる。  

  最後に、助監督に豊田四郎、吉村公三郎の名がある。また、木下恵介が撮影助手に名を連ねている。(木下恵介:1933年(昭和8年)に松竹蒲田撮影所現像部に入社) なるほど。

監督:島津保次郎|1934年|79分|
原作・脚本:島津保次郎|撮影:桑原昴|
助監督:豊田四郎、吉村公三郎、清舗彰 、佐藤武|
撮影助手:木下恵介、寺尾清、蟹文雄、小峰正夫|
出演:逢初夢子(八重子)|岩田祐吉(八重子の父・服部昌作)|飯田蝶子(八重子の母・浜子)|岡田嘉子(八重子の姉・京子)|大日方伝(恵太郎)|水島亮太郎(恵太郎の父・新海幾造)|葛城文子(恵太郎の母・杉子)|磯野秋雄(恵太郎の弟・精二)|高杉早苗(真鍋悦子)|阿部正三郎(ガラス屋)|


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Comments: 1

やまなか URL 2016-06-22 Wed 14:19:08

一夜一話にお出でいただきありがとうございます。アンテナの張り方ですが、映画館で観る、ビデオでも良いで二手に分かれますね。映画館で観る方が良いなら、モノクロ映画をよく上映する映画館の予定をチェックするしかないですね。東京なら京橋フィルムセンター、神保町シアター、シネマヴェーラ渋谷、ラピュタ阿佐ヶ谷、アテネ・フランセ文化センターとか。但し、見逃すと次まで数年かかるかもしれません。ビデオでも良いなら幾つかあげられます。NHKのBS放送でも時にいい映画を流しています。CATVがご覧になれるのであれば映画専門チャネル。地元図書館でビデオを置いてあれば、中には良いのが見つかるかもしれません。あとはレンタルです。渋谷のツタヤがたくさん置いてあってお勧めです。返却は宅急便が使えます。こんなところでしょうか。(やまなか)

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