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映画「バーバー」  監督:ジョエル・コーエン

上

  おもてなしに腐心する映画じゃない。 
  起伏に乏しいサスペンスに見えます。主人公は、はっきりしない凡人で目立たない男です。

  エドの人生における選択は自ら選ぶでなく、その時の風向きに委ねる。あるいは他人が決めたことに従う。つまり、それに逆らわず成り行きに任せて生きて来た。そんな無気力な彼が、自らの意思で行動した三つのことが事件となって行く。

  時は1949年、事件の舞台はサンフランシスコの北にあるサンタ・ローザという地方都市。
  エドは、昔も今も、まったく無口な男だ。(つまり台詞が少ない。)
1-0_201506092058466da.jpg  その昔、エドは同じ街に住む理髪店の娘ドリスと、さしたる高揚感もなく成り行きで結婚。それ以来、その店の店員として、エドは黙々と人々の髪を刈ってきた。店のあるじはドリスの兄だ。
  一方、ドリスは外交的な女で、街にある小さな百貨店で経理をしている。夫婦の関係は冷め切っていて、ドリスは百貨店の社長デイヴと肉体関係を続けている。エドとドリスに子はいない。

  さて、事件の発端はこうだった。
  ある日、ある男が散髪に来た。この男は、当時まだ世に普及していなかったドライクリーニング店の事業主募集と開業支援の仕事をしているセールスマンだった。その後、どうしたことか、エドはドライクリーニングの店を店主としてやってみたくなった。ドリスの兄のもとで長年、従業員として働いて来たが、エドはもう飽き飽きしていたのだ。
  しかし、開業資金は10,000ドル。そんな金はどこにもない。そこで彼は行動に出た。彼の人生でたぶん初めて自らの意志で行動した。それは恐喝。妻ドリスの不倫相手デイヴに脅迫状を送った。不倫を公表されたくなかったら10,000ドルをよこせ。もちろん偽名でだ。エドはこともなく10,000ドルを得て、セールスマンと契約した。
  だが事後、デイブは恐喝犯がエドではないかと感づいた。何故なら、セールスマンはデイヴにも同額の話を持ちかけていたし、ある男が契約したという話をデイヴはセールスマンから聞いたのだ。しかし10,000ドルを支払ったデイヴは窮地に陥った。工面した金は百貨店の金。それもデイブとドリスが共謀で作った裏金だった。かつ百貨店オーナーはデイヴの妻。彼は横領で解雇、不倫がばれて離婚となった。

  そんなこととは知らず、エドはある夜、デイブに呼び出された。もちろん恐喝のことなど知らぬ存ぜずを通したが、二人は揉み合いになり、ついにエドはデイブを刺しデイブは死亡する。これはエドのはっきりした殺意、エド自らの意志による二つめの行動だった。
  しかし、翌日ドリスが逮捕される。不倫男女の揉め事の結末だと噂され、エドに街の同情が集まる。だが彼はやはり無口無表情、そして動じない。自分の人生の成り行きを、ただただ傍観するエドであった。
  裁判が始まる。エドは、街の弁護士の推薦で、サンフランシスコの辣腕弁護士を雇うこととなった。さすがの辣腕。エドにまったく嫌疑がかからずに裁判は終わった。またエドは、自分の人生の成り行きを傍観していた。

2-0_20150609210809965.jpg  もうひとつ、エドの意志で行動したことがある。
  それは、街の弁護士の娘バーディに正規の音楽教育を受けさせたくて、、エドがバーディを連れてサンフランシスコに出向いた事。それは、あるパーティ会場でバーディのピアノ演奏に惚れたのがきっかけだった。その後、しばしばエドは彼女の家に出かけ、演奏を聴く。癒やされるのだ。エドにクラシックの素養は無いが、彼女に才能を感じる。プロになれる、なって欲しい。エドは、彼女を入門させたい優れた先生を自ら探し出し、その先生がいるサンフランシスコへ二人して出かけた。だが、先生の前で演奏したバーディは、才能が無いと入門を断られた。
3-0_20150609211122915.jpg  無念の帰りの車中、バーディはエドにお礼のキスをした。そして次に、こともあろうにエドの股間に顔を埋めようとするバーディ。これに慌てたエドは、対向車を避けようとしてハンドルを切り過ぎて、ふたりは車もろとも崖から転落。

  エドは病院で意識が戻った。ベッドサイドに刑事がいて彼を覗き込む。エドはその場で逮捕された。
  例の10,000ドルを渡し契約したあのセールスマン殺害の容疑だという。かれが水死体で発見されたのだ。セールスマンのカバンには、エドのサインがある契約書とエドが10,000ドルを支払ったことの記述があった。検察の組み立ては、エドが妻ドリスを使って百貨店から金を奪い、契約金支払い後にセールスマンを殺し、契約金を奪い返した、と言う。
  エドは自宅を担保に、再度辣腕弁護士を雇った。弁護士の優れた話術で陪審員をケムに巻き、エドの嫌疑が晴れようとしていたその矢先、弁護士費用が尽き、公選弁護人にバトンタッチされる。その途端、エドは不利になり、ついに電気椅子に送られることとなった・・・。それでも、エドは冷静さを失なっていないように見える。やはりまた、エドは自分の人生の成り行きを傍観していた。

  エドという男の、人生に対する無気力さ、自分を見るにあたっての恐ろしいほどの客観性がとても印象に残る。また、映画はエドに思いを込めずに突き放して描写している。この2点から、観た後の感触は淡麗辛口。喜劇的とまでは言わないが、悲劇的ではない映画です。この素敵な立ち位置が、この映画をいいものにしている。
  
  最後に。タイトル名の「バーバー」は、あまりに間抜けだな。原題はThe Man Who Wasn't There。

下オリジナル・タイトル:The Man Who Wasn't There
監督:ジョエル・コーエン|アメリカ|2001年|116分|
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン|撮影:ロジャー・ディーキンス|
出演:エド・クレイン(ビリー・ボブ・ソーントン)|その妻ドリス(フランシス・マクドーマンド)|フランク(マイケル・バダルコ)|街のローカルなデパートの雇われ社長・デイヴ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)|アン・ナードリンガー・ブリュースター(キャサリン・ボロウィッツ)|自称セールスマンの詐欺師・トリヴァー(ジョン・ポリト)|弁護士フレディ・リーデンシュナイダー(トニー・シャルーブ :TVドラマ名探偵モンクの人)|街の弁護士の娘・バーディ(スカーレット・ヨハンソン)|ウォルター・アバンダス(リチャード・ジェンキンス)|セールスマン(クリストファー・マクドナルド)|

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