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映画「神々のたそがれ」 監督:アレクセイ・ゲルマン

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 ソ連の時代が終わって、暗雲に晴れ間を見た人もいただろう。
 だがロシアになっても快晴の日は訪れない。そりゃそうだろう。ロシアに限らず世界は良い方向へは向かっていない。
 そんな絶望感を、この映画は(ストルガツキー兄弟の原作SFを借りて)語っているように思う。

 加えて長期にみれば、文明は必ずしも右肩上がりに発展はしない、今後は退化していく可能性もある。「100,000年後の安全」というドキュメンタリー映画があった。それはフィンランドの地下深くにある放射能廃棄物貯蔵施設だが、未来の人類文明がいつしか退化し、現代の文字が読めなくなってしまう可能性を想定して、施設の入り口に、放射能の危険性を絵文字でも記したと映画は語っていた。SFのような話だ。

1-0_2015110919534831d.jpg 「神々のたそがれ」を観て、前作の「フルスタリョフ、車を!」を思い起こす。
 圧倒される絵の作り方、話の進め方が前作で得た手法を踏襲しているのだ。
 つまり、さほど広くない空間に登場人物が大勢いて、カメラの前で人々はめまぐるしく入れ替わり、通り過ぎる。そして、その人々の間で交わされるその場しのぎ的な会話や寸劇のシーンは極々短く、そんなシーンが次へ次へ直列して展開される。かつ本作はそんな状況が前作に比べ、より刹那的であり、だからか、登場人物間の距離はより接近し肉感的なまでに密接している。

 前作「フルスタリョフ、車を!」の主人公はモスクワの大病院の脳外科医ユーリー・クレンスキー将軍であった。人一倍体格がよく、いつも軍服で急ぎ足そして横暴。家庭でも病院でも我が物顔に君臨する。自分が人生の頂点にいることを自覚していて日々楽しんでいる。(1953年のソ連)
 これに対し「神々のたそがれ」の主人公・ドン・ルマータは、横暴ではあるが権力を背にしていないし傍観者であり、だらりと疲労し落ち込んでいる。

 彼は、地球から遠く離れたこの惑星へ、調査のため派遣された地球人のリーダーらしい。この星の住人は見た目、地球人と変わりないしロシア語を話すが、彼らの文明は地球より800年遅れているとのことだ。(いや、800年後のロシアなのかもしれない)
 星の人々は、泥沼的な戦争や権力闘争に明け暮れ、書物は焼かれ知識人と目された者たちはみな虐殺されている。
 だが、ストーリーは映画を観ている限りでは無いに等しい。ストーリーを言うには、原作を読むか、誰かの記述を見るかである。

 シーンに映し出される光景は、中世のような城壁に囲まれた集落。雨がよく降るようで地面は大変にぬかるんでいる。糞尿や内臓のシーンは言われるほどには出て来ない。これに驚いてばかりいると、本作を観る重心がずれてしまうだろう。
 また、登場人物は、ところ構わず唾を吐く、物は投げられあたりは散らかり放題、衣服は泥で汚れ食べ物は食器もなく手づかみで食う。盗みは横行し殴る蹴るは日常茶飯事。つまり、この映画にはやっちゃいけないことがものすごく多く描かれている。このことだけをとらえれば、映画「ひなぎく」の汚い版のようで、アレクセイ・ゲルマンの秘められた幼児性がみられる。また、800年前の人々が、こうであったとは必ずしも言えない。(史実的には、例えば14世紀の中世の城壁都市を描いた映画「ブック・オブ・デイズ」があった。) 

 結局、この映画は一般向けではない。177分を観終えるには、決心と忍耐力がいるかもしれない。監督はあまりにも商業化していく映画界に背を向けた人だったらしいが、それにしても、このような非商業的映画への徹底した製作姿勢は凄い。コストや時間も相当なものだったんだろう。宣伝文句は「空前絶後、21世紀最高傑作」。でも、そうかえ?
 総じて怪作ではあるが、傑作ではない。残念だが、空前絶後の大いなる愚作にみえる。

 上記文中の映画タイトル名から、当ブログの記事がご覧になれます。
 また、「フルスタリョフ、車を!」以外のアレクセイ・ゲルマン監督の映画は、これまでに次の3本を記事にしています。
 「戦争のない20日間」、「道中の点検」、「わが友イワン・ラプシン」 クリックしてご覧ください。


 
下オリジナル・タイトル:ТРУДНО БЫТЬ БОГОМ
英文タイトル:Hard to Be a God
監督:アレクセイ・ゲルマン (1938 - 2013)|ロシア|2013年|177分|
原作:アルカージー・ストルガツキー、ボリス・ストルガツキー|
脚本:アレクセイ・ゲルマン、スベトラーナ・カルマリータ|
撮影:ウラジミール・イリイン、ユーリー・クリメンコ|
出演:ドン・ルマータ(レオニド・ヤルモルニク)|ドン・レバ(アレクサンドル・チュトゥコ)|パムパ(ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリロ)|医師ブダフ(エフゲニー・ゲルチャコフ)|アリ(ナタリア・マテーワ)|





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