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映画「下町の太陽」 監督:山田洋次 主演:倍賞千恵子

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 お話は、昭和30年代後半の東京。(1962~63年ごろ)
 主人公は、寺島町子(倍賞千恵子)、年のころは二十三、四歳、独身。

1-0_2015111416190324f.png 家は東京の下町、荒川の土手が近い。木造の家々が密集する街の、入り組んだ奥にある。一家は、トラック運送会社に勤める父親とその母(祖母)、そして町子の二人の弟たちの、五人家族。
 町子は電車通勤して、工場街にある石けんの製造工場で女工さんをしている。父の月給は2万8千円で、町子のと合わせればどうにか4万円か。これで五人の世帯をまかなう。中流には届かないかもしれないが、倹約すればテレビは買える。上の弟は高3で大学受験を目指している。せっせと貯金もしているんだろう。家の中の様子や食事は質素だが、一家に生活の不満はない。もっとも・・・、上を見ればキリがない。

2-1_20151114162344b14.png 町子には彼氏がいる。同じ工場に勤める道男(早川保)だ。彼は、社内で実施される正社員登用試験を受けるため、猛勉強をしている。2名採用の枠に50名の応募があるという。合格すれば、大手町のオフィス街にある本社に勤務することになる。月給もずいぶん上がる。そしたら、町子と結婚して、東京の西の、どこか明るい郊外に住みたいと思っている。町子も以前からこの話を聞いていて、彼を応援している。
 デートの帰り、ふたりが乗る電車が、浅草駅を発車して直ぐの鉄橋を渡る時、道男は町子に言う。「ほら隅田川を越えると、ぐっと空が暗くなるだろ。」 これが道男が抱く東京の東、墨田区葛飾区あたりの印象だ。東京の東側は、工場の煙の臭いがするという時代。

3-1_2015111416373482d.png さて、試験の結果は残念ながら不合格。次点だった。道男は事の次第をストレートに受け入れられなくて、子供のように町子にあれこれ愚痴る。正社員となって、甲斐性を持つことにきりきりしている道男は、女にこの気持ちは分からないと言う。もちろん町子も無念だが、道男の情けない様子がどうも気に入らないし、お互いが愛し合っているだけじゃ結婚できないの? そう思いながら、道男の一人暮らしの四畳半を、町子はいまさらながらに見回す。本や炊事道具や何もかもが、独身の男の所帯にしては、きれいに整っている。

4-0 町子が職場の同僚らと一緒の通勤途中、電車内でよく見かける男たちがいる。ちょっと不良っぽい。その中の一人が、ある日突然、町子に交際を求めてきた。男は良介(勝呂誉)と言った。
 偶然だったが、彼は町子の下の弟をよく知っていた。家の近くにある国鉄の機関庫で、弟は良介に遊んでもらっていたのだ。子供好きらしい。まだ小学生の弟は、家族と歳の差があってか、家では無口で、特に口やかましい年老いた父には反抗的だった。町子はそんな弟に手を焼いていたが、良介に「君の弟はとても素直ないい子だよ。」と言われ、町子は弟の知らない側面を知った。そして、そういえばと、ふと思った。道男に弟のことで相談したが、彼は大した関心も無く、適当な受け答えであったなと。
 良介は鉄工所で働いていて、溶鉱炉の作業員。炉の高熱に負けず力強く働く青年であった。彼は言う。俺はこの仕事が性に合う。

5-1_20151114165435e13.png 町子の同僚の結婚式。お相手はサラリーマンだ。新居は光が丘団地。幸運にも高い倍率の抽選にあたったらしい。
 式に出た同僚たちの会話。「結局、結婚する相手はサラリーマンがいいわよね。月給は3万はとってもらわないと、団地にも入れない。女の幸せって男次第ね。」 女は結婚して家に入ることが当たり前。同僚のそんな会話が、町子にはどうも気に入らない。
 後日、同僚らと連れ添って、町子は新妻の新居を訪れる。団地のアパートの一室で、新妻は意外にも楽しそうではなかった。そのことが町子の心に残った。 

6-0.png ある日、正社員登用試験に見事受かった道男の同僚が、社車で老人をはねてしまう事故を起こした。これが会社に知れて、彼は正社員登用がならず、結果、次点の道男が登用されることとなった!
 実は、老人が運び込まれた病院に道男も駆けつけていた。事故を起こした同僚は道男に、会社には内密にと言ったが、道男は社へ事故の電話をしたのであった。この話を喜々として町子に話す道男。そんな道男に大きな違和感を感じる町子だった。

8-1.png 数日後、道男は町子に会ってさっそく、いや、やっと、結婚しようと正式に言った。
 しかし、町子は彼の求婚を受け入れなかった。町子は、これまでずっと悩み考え込んできたのだ。あなたは、この街を出て行く人。私は、ずっとこの街で生きて行きたい。道男の前で町子はきっぱりと断った。


 町子は、巷の女性の生き方に、いつしか、ぼんやりではあるが疑問を抱くようになっていた。この映画はそういうお話。
 そして、町子は自分が生まれたこの古臭い下町で暮らしたい。ちょっとしたことがすぐ噂になって知れ渡る街。好奇心旺盛な近隣の人たち。おせっかい。でも気落ちした様子をみて温かく接してくれる人たち。年配者も幼い子たちも、障害ある人も、分け隔てなく包み込む包容力ある街。町子はこんな街が好きなのだ。離れがたいのだ。
 一方、明るい郊外の新しい街に行きたい道男。世に習い、世に沿って、サラリーマンはこういうもの、結婚は、女とは、こういうもの、それに何の疑問もない道男。いささか、こじんまりした器。これに対し、良介は現場の男。これまで家族に恵まれなかった男。町子に友達になって欲しいと言う実直な男。さて、町子の心は、良介へと揺らぐのか。

 電車内でのラストシーン。良介が、居合わせた町子に、付き合ってくれともう一度言う。そう言われて、驚く町子はちょっと微笑んで、そののち顔を窓へむけて、ぼんやり外を眺めるのであった。(終)

 若き山田洋次のきめ細やかな感性が活きる作品。
 ちなみに、ラストシーンを観ていて、町子のあの微笑みが、ちと引っかかる。冷笑にもみえる。そうみえません?

 これまでに掲載した同監督の映画。
 「二階の他人」、「馬鹿が戦車でやって来る」、「霧の旗」 それぞれ題名をクリックして記事をお読みください。

下監督:山田洋次|1963年|86分|
脚本 山田洋次 、 不破三雄 、 熊谷勲|撮影 堂脇博|
出演:寺島町子(倍賞千恵子)|北良介(勝呂誉)|毛利道男(早川保)|鈴木左衛門(石川進)|町子の祖母・寺島とめ(武智豊子)|父親・寺島平八郎(藤原釜足)|町子の弟・寺島国夫(鈴木寿雄)|町子の弟・寺島健二(柳沢譲二)|近隣に住む源吉 (東野英治郎)|近隣に住むのぶ江(菅井きん)|近隣盗む善助(左卜全)|ほか


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