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映画 「トロピカル・マラディ」  監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン

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 タイの映画監督、アピチャッポン・ウィーラセタクンの四作目になる映画です。

 まずは、映画の冒頭シーン。
 深い森の外れに続く開けた草原を、森林警備隊員たちが歩いている。
 トランシーバーからは、警備センター女性職員の明るい声がして、隊員たちがその女性と戯言を交わしながら、みんな楽しげ。
 そして、その時、彼らは草原の中に男の死体を発見した。そして現場状況の記録写真を撮り、布で包んで回収した。
 夜になった。森のそばのある家では晩御飯。外のテラスで食べている。そのひとりが言う。「あの死体は今夜、動き出すよ。」※1
 その家の庭先では、死体を回収した隊員たちが野営している。そして、布にくるまれた死体がそこに置いてある。

3-0_2016012612065732a.jpg この冒頭で、映画は観客に三つの世界(観)を示している。
 それは、人がうかがい知れないマジカルな深い森、警備センターの若い女性職員がいる都会(人の世界)、そしてその中間領域(まばらに人家もある、森のそばの草原)。

 冒頭のあと、映画は都会へと視線を移す。(これが二部構成になっている本作の第一部)
 第一部で映画は、現代社会の様々な場面をこまごまと映し出すが、わけても次のようなシーンに注目したい。
 都会で働く青年と、森林警備のために奥地へこれから派遣される友人とが偶然に出会うシーン(都会と森の世界の暗示)。
 その青年が飼っている老犬が末期がんと診断され、消沈している青年と元気ない犬が、ペット病院のロビーにいるシーン※2 (人と動物とが共有する間柄、この世とあの世の存在)。
 また、その青年がプロの女性歌手とデュエットするシーン(歌の根底にある何かの響き。監督は歌に一種のマジカル性を感じるらしい)。※3
 このようなシーンは、(漠然とだが) 人の世界とマジカルな世界との接触が、都会でも、ごく日常的にあるよ、と言っているように思う。


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 次に、この青年と森林警備隊員との同性愛。
 映画は、都会で生まれた二人の愛が、森に近い田舎で、自由に翼を広げ育つ様子を描いている。※4
 また、ここでも、二人が入る深い洞窟でもマジカルな空間を描く。
 さらには、立小便をしたあとの手の臭いを嗅ぐシーンでは、人に内在する動物的な本能すら生々しく感じさせる。

森を眺める2人の青年
0-0-1.jpg

10-0.jpg そして、第二部。
 森のそばの村では、家畜の牛が突然いなくなる事件が頻発していた。村人は森の魔物の仕業だと言って恐れている。
 そこで、森林警備隊員の男がひとり、散弾銃を背負って森へ調査に入った。
 森に分け入って奥へ奥へと進む隊員は、鳥の声・虫の音の中に、ある気配を感じた。※5 (観客には、茂みの中に全身刺青の裸の男がわずかに見えるが、隊員には見えないのかもしれない) 
 そのうちに足跡を発見する。気配と足跡を追って男は、今まで踏み入れたことのない森の奥へ至った。夜になった。男はひとり野営する。
 闇の中、森のざわめきだけが聴こえる。死んだ牛が霊となって森に帰って行くシーン、無数の精霊たちがホタルのように一本の木に群がるシーンがある。

 そして、男は虎と遭遇する。虎は木の上にいた。男を見下ろしている。恐怖を感じはしたが、驚くほどに驚かない。なぜなら、その虎は虎であるが、動物でも人でもない、「彼」と言うしか言いようのない何かを、男は感じ取ったのだ。そして一瞬、「彼」と交信したような気がした。
 翌朝になって隊員は、昨日から追いかけていた気配が裸の男であることが分かった。その男に追いついて取っ組み合いになる。隊員は森の端から崖を転げ落ちて、草原に出た。取っ組み合いは草原でも続いたが、まもなく草原はまた静寂につつまれた。


11-0.jpg ※1のシーンなどは、「ブンミおじさんの森」に出てくるシーンを思い出します。
 ※2では、犬の腹部のレントゲン写真や超音波検査映像を医師や見習いが見るシーンがあります。監督は病院好きで、「世紀の光」では、この趣向が全開します。
 ※3で使われる「対比で見せていく発想」やコンサートシーンは、「世紀の光」へ、手法として引き継がれて行くようです。
 ※4の見せ方は、「ブリスフリー・ユアーズ」の中に出てくる、自然の中で交し合う男女の愛の様子を思い出します。
 同性愛については「世紀の光」の中でも、それとなく表現しています。
 ※5では、自然に囲まれ眠気を誘うように気持ちの良いシーンが、延々と続きます。この表現は「ブリスフリー・ユアーズ」でも使われた監督独特の手法です。ウトウトしてください、自然の中にいる疑似体験をしてくださいという事だと思います。

 以上、以下、リンクがある映画は、これまでに記事にした映画です。題名をクリックしてお読みください。

【アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画】
 「真昼の不思議な物体」  (2000年)
 「ブリスフリー・ユアーズ」  (2002年)
 「アイアン・プッシーの大冒険」  (2003年)
 「トロピカル・マラディ」   (2004年)
 「世紀の光」   (2006年、日本公開は2016年)
 「ブンミおじさんの森」  (2010年)
 「メコンホテル」  (2012年)
 「光りの墓」  (2015年、日本公開は2016年)
 
 【タイの森林警備隊の映像】 
 タイの国立公園における隊員の活動紹介の映像のようです。野生のトラが出てきます。
 「CameraTraps: Eyes in the Forest」 URL https://youtu.be/dDiwdyxZ24Q
 (これは外部へのリンクですので、今後リンク切れの可能性があります)


オリジナル・タイトル: สัตว์ประหลาด
英語タイトル:Tropical Malady
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン|タイ・フランス・イタリア・ドイツ|2004年|118分|
撮影::ジャリン・ペンパーニット、ヴィシット・タナバニット、ジャン=ルイ・ヴィアラール| 
出演:ジェンジラー・ポンパット|バンロップ・ロームノーイ|サクダー・ゲオブアディー|シリベート・チャルーンチョン|

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 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めて8年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

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