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映画 「有りがたうさん」 (ありがとうさん)  監督:清水宏

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 伊豆を舞台に、路線バスの運転手(上原謙)の、ほんわかロードムービー。そして、街道筋を行きかう人々が紡ぎ出す群像劇。
 映画はおっとりした喜劇仕立てだが、伊豆の人々の喜怒哀楽、人生の浮き沈みをていねいに描いている。

 下田を発ったバスは、二つの峠を越え三島に至る天城街道20里を走る。下田の街を出てしばらくは右手に海を見るが、山あいに入ると、道の片側は崖、深い谷が続く。見上げると、向こうに天城峠の山並み。
 時は昭和の10年頃だから、街道に自動車の姿は未だ見当たらない。もちろん道は未舗装だ。道沿いの農家の人々や行商や旅の僧など、街道を行く人々のほとんどは徒歩。そうでなきゃ荷車を引いているか荷馬車だ。主人公の運転手はそんな人々に、「(バスが通るので道を開けてください) ありがとー!」と声をかけるので、彼はいつしか「有りがたうさん」と呼ばれるようになった。

 映画は下田三島間往復のさまざまを描くが、話の9割が往路でのお話。それは、三島へ向かう道すがらや時間経過を縦糸に、そしてバス車中の人間模様や街道を行く人々の生きざまを横糸にして織りなすお話。
 有りがたうさんは思いやりがあって特に女性たちの人気者。バスに乗るなら、有りがたうさんが運転するバスに乗りたいと言われる。街道を歩く旅の一座とすれ違えば、顔見知りの座長から、遅れて歩く三味(線)を抱えた女たちへ言付けを頼まれる。停留所で待ってた農家の娘からは、「また三島でレコードを買ってきて」と小遣いを貯めた金を笑顔で渡されたり。

2-0_20160217152129262.jpg さて、バスにはいろんな客が乗り込んでくる。田舎のことだから互いに顔見知りも多い。車中は出会いと別れの場。
 結婚式や葬儀に出席するためバスに乗ってくる客。かたや、妊婦の家に向かう医者が降りて行く。学校が終わって下校する子供たちがバス後部にぶら下がって無賃乗車。下田で乗り込んだ女(桑野通子)は、またどこかの街へ流れて行こうとしている。金鉱ブームで山を買ったが当てが外れた男が山間部でひとり寂しく降りて行く。
 
 生活が立ち行かなくなったのだろう、東京へ奉公に出ることを納得した娘(築地まゆみ)が母親(二葉かほる)に付き添われ三島へ行こうとしている。だが有りがたうさんは思う。峠を越えて出て行く娘は帰って来たためしがない。なぜか彼は今日、奉公に出ようとするその娘が気になっている。
 さて、天城峠のトンネルを抜け、ひたすら走るバスは三島に近づいた。有りがたうさんの様子をずっと見ていた流れ者の女は、そのじれったさに耐えきれず、彼の耳元でささやいた。「あの娘と一緒になんなよ。」
 翌朝、三島で一泊したバスは、折り返して下田へ向かっている。そして運転席そばのシートに、奉公へ行くはずの娘とその母が座っている。

 登場人物のすべてが、行きずり通りすがりである。乗客の誰もがそのうちバスを降りていく。道を行きかう人々も、挨拶交わしてすぐに車窓から消えていく。刹那の出会い、時に一期一会の出会いを映画は淡々と描く。感情移入しない。同時に人物描写はラフスケッチのように簡素で簡潔。
 だから、かえって話に深みが増す。有りがたうさんと娘の愛さえ、淡泊に描いている。いい映画だ。私のお気に入りの一本。


 
タイヤを点検した有りがたうさん
下監督・脚本:清水宏|1936年|76分|
原作:川端康成『有難う』|撮影:青木勇|
出演:有りがたうさん…上原謙|髭の紳士…石山隆嗣|行商人…仲英之助|黒襟の女…桑野通子|売られゆく?娘…築地まゆみ|その母親…二葉かほる|東京帰りの村人…河村黎吉|その娘…忍節子|行商人A…堺一二|行商人B…山田長正|猟帰りの男…河原侃二|田舎の老人…青野清|村の老人…金井光義|医者…谷麗光|新婚の夫…小倉繁|新婚の妻…河井君枝|うらぶれた紳士…如月輝夫|田舎のアンちゃん…利根川彰|祝言の夫婦…桂木志郎|祝言の夫婦…水上清子|お通夜の人…県秀介|茶店の婆さん…高松栄子|朝鮮の女…久原良子|旅役者…浪花友子|旅役者…三上文江|旅役者…小池政江|旅役者…爆弾小僧|村の娘…小牧和子|酌婦…雲井つる子|酌婦…和田登志子|旅芸人…長尾寛|旅芸人…京谷智恵子|旅芸人…水戸光子|旅芸人…末松孝行|薬屋…池部鶴彦|小学生…飯島善太郎|小学生…藤松正太郎|小学生…葉山正雄|
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【清水宏監督の映画】 ~これまでに記事にした作品

 「按摩と女」 (1938年) イチオシ
 「歌女おぼえ書」 (1941年)、「踊子」 (1957年)


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