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映画 「煉瓦女工」  監督:千葉泰樹

上岸辺で子守りする、みさ。

いつも明るい みさ。
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 時は戦前の日本、物語はスラム街に生きる底辺の人々を描いた群像劇です。
 そのタッチは淡々としていて、むやみに悲惨さを振り回さず、時にコミカルさも交えています。この冷静な表現スタンスがこの映画の魅力を支えています。

2‐0
 横浜の鶴見の海べり、運河岸近くのここら辺りに住む人々の様子はこんなです。
 長屋は、まるで時代劇に出てくるように安普請ですし、周りの家々も相当にくたびれています。
 大工や釣舟屋といった定職に就く者も、その稼ぎは少なく、妻や娘がメリヤス工場の女工をしていたり、家で手内職をしている。夫が浪曲(浪花節)、妻は三味線という大道芸(辻芸)を生業にする者もいます。
 家庭をかえりみず家を出て行ったきりの夫もいる。残された妻はヨイトマケ(建設現場の日雇い)に出て僅かな稼ぎを得る。
 しかし、もうどうしようもなくて夜逃げする一家、病弱な体で無理をし亡くなる者もいる。また新たに、この街に転がり込んでくる者もいます。

 この映画は群像劇だが、どちらかと言うと、大人達より子供達に重心を置いて描いている。
 大工の父親、手内職する母親を両親に持つ みさ(矢口陽子)は子守りと家事を手伝う娘。みさは夜間小学校に通っている。大道芸の家の娘・千代と、釣舟屋の娘・菊子は、夜間小学校の、みさの級友だ。

 千代は大人になったら芸者になると言う。病弱な菊子は、姉たちが勤める工場の身体検査に不合格とされ、家族からは冷たいあしらいを受けている。結局、小さな工場で雇ってもらえることになり学校を退学する。夜勤もあるのだろう。千代の一家は夜逃げした。
 一方、朝鮮人のチュイが入学してきた。チュイの一家は日本に来てまもないらしい。みさはチュイと親しくなった。だが、そのチュイも学校をやめた。なんと結婚するのだという。チュイ一家が住む朝鮮人たちの家々は川向うにあって、みさの住むスラム街より、さらに貧しい。

 この映画が持つドキュメンタリー性に注目したい。
 下記の夜間小学校に関する論文は、この映画の背景を理解するのに役立つ。



3-0_20160531234418ea0.jpg 夜間小学校 (国民夜学校)
 こういう小学校が昭和20年まであった。基本的に12歳以上の児童が対象だが、特例として10歳以上でも対象とした。児童労働との関係で出来た学校だ。表 だが実際には、12歳未満の児童も通学していたし、上は20歳前後の例も決して稀ではなかったようだ。また、朝鮮人の子供らも多数入学していた。
 この映画の教室シーンで、みさや千代やチュイが役柄とは言え、どう見ても小学校児童にはみえないのが気になったが、そういうわけがあった。右記の参考資料の表(クリックして拡大)は、夜間小学校の在籍生徒の年齢構成、生徒の職業、朝鮮人の生徒数状況を示しています。
 (参考文献:首都大学東京 機関リポジトリ 「東京における夜間小学校の成立と展開」)
 http://www.repository.lib.tmu.ac.jp/dspace/bitstream/10748/2917/1/20009-8-003.pdf

チュイの結婚式はチュイの家でおこなわれた。
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監督:千葉泰樹|1940年製作(公開は1946年)|63分|
原作:野澤富美子|脚本:八田尚之|撮影:中井朝一|
出演:みさ:矢口陽子|みさの父:三島雅夫|みさの母:三好久子|みさの弟:小高たかし|浪曲師の春風亭梅風:徳川夢声|梅風の妻:水町庸子|その娘・千代:悦ちゃん|家を出て消息不明だったが妻を亡くし、映画ラストでは子供たちを育てる決心をした林造:小沢栄太郎|ヨイトマケに出る林造の妻お兼:赤木蘭子|林造の長男一郎:小高まさる|夜学の先生:信欣三|引っ越してきた4人家族・おきん:藤間寿子|同・政吉:松本克平|同・政吉の妻お作:清川虹子|同・音松:宇野重吉|釣舟屋:中村栄二|釣舟屋の妻:小峯ちよ子(小峰千代子)|釣舟屋の娘康江:志賀夏江|釣舟屋の娘幸子:戸川弓子|釣舟屋の娘菊子:草島競子|チュイ:椿澄枝|チュイの父:滝沢修|チュイの母:原泉|張さん:大町文夫|

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