Home > 洋画評だけ見る 直近50作 > 映画 「世界」   監督:ジャ・ジャンクー

映画 「世界」   監督:ジャ・ジャンクー

無題2

 北京にある、広大なテーマパーク「北京世界公園」というところが、話の舞台です。

1‐0 このテーマパークはいわゆるミニチュアパークで、世界各地の有名な観光名所(建造物)が、大きな模型として野外のあちこちに展示されています。ただし、パリのエッフェル塔はエレベーターで昇る大きなものですし、日本庭園は実物大のようです。

 主人公のタオ(チャオ・タオ)は、このテーマパークの専属ダンサーで、多くの同僚ダンサーと共に、パーク内の寮に住んでいます。タオ達ダンサーは、テーマパークにある大きな劇場で踊り、また、世界各地の名所展示では、それぞれの民族衣装で踊ります。

 タオの彼氏は、タイシェンといって、テーマパークの主任警備員。若い警備員を束ねています。
 タイシェンは、タオを求めますが、彼女はまだ許してません。

 映画は、この2人を話の軸としながらも、たくさんのエピソードを語ります。そのエピソードは例えば、ダンサーたちの私生活のアレコレ、タイシェンの血縁が北京に出稼ぎに来たことで始まる話、タイシェンの兄貴分(闇商売が生業)から請け負った仕事がきっかけで、タイシェンが浮気する話などです。
 これらのエピソードは、タオとタイシェンの話に添えられるのではなく、ふたりの話とほぼ同列で語られます。しかし結局、ラストはタオとタイシェンの話で終わりますので、主人公はやはりこの2人なんだと感じることになります。

 タオのダンサー仲間が結婚し、それで彼女も結婚を意識し始めます。タオはそして、タイシェンに身体を許します。そんな折、偶然タオは、タイシェンの浮気を知ってしまいます。
 タオはダンサーという仕事に不満はなかったのですが、テーマパーク内だけで成り立つ自分の生活に、徐々に閉塞感を感じ始め、タイシェンの浮気発覚がきっかけになって、ついに息苦しくなって行きます。そして、ラスト。
 息苦しさを紛らわすため、タオは同僚が新婚旅行へ出かけた間、その部屋(パークの外にある)を借りて、ひとり居候しています。
 そこへタイシェンが呼ばれてやって来ます。塞ぎこむタオをタイシェンは責めますが、彼女は一言も言いません。
 そして、翌朝、2人の部屋がガス臭いので、近隣が騒ぎ始めます。救急車が呼ばれます。ふたりは毛布にくるまれ、近所の人によって外に運び出されて、道端に置かれます。ふたりとも、まったく身動きしません。季節は小雪が降り始めるころのようでした。
 
 
 2004年製作のこの映画をいま観て、改めて気づくこと。
 それは、「北京世界公園」(中国の中の世界)を珍しがることから、中国は文字通り「世界の中国」へと大きく変わり、人々誰もが競って海外旅行へ出かけるようになりました。上海ディズニーランドも呼び寄せました。

2-0_20160903140652c37.jpg もうひとつ、気づくこと。
 北京世界公園の向こうに北京の市街が見えます。高層ビルが建ち並んでいます。映画にたびたび出てくる遠景です。
 その遠景が意味することは、(皮肉めいた言い方ですが、北京世界公園が世界中から珍しいものを集めたように)、いま中国が、世界中から、技術や経済やブランドやら欲しいものを旺盛に国内に集め、栄えている様子と言えます。
 これと対比して語られるエピソードが、タイシェンの血縁が田舎から出稼ぎに来て、北京市街にある建設工事現場であえなく事故死してしまうというエピソードです。北京の街が繁栄していても、多くの底辺は相変らず貧しい、映画はそう言っています。

 同僚が新婚旅行に行っている間、タオが借りたあのアパート(新婚のマイホーム?)は、工場の裏手にある薄汚れたところです。
 北京世界公園は華やかな夢の世界を見せてくれます。しかし、世界公園から一歩出ると、一般庶民は貧しい現実を抱えています。繁栄を誇る北京市街も現実ですけれども、庶民にとっては所詮、北京の現実は、世界公園のイミテーションと差異が無いのです。映画はそう言っています。
 
 しかし一方、行き詰まった状況を打ち破って、次へと歩もうとする人びとの様子も描かれています。
 タオの同僚ダンサーは、北京世界公園の経営者(登場人物中、一番の金持ち)に取り入って、現場マネジャーの地位を得ます。
 タイシェンの浮気相手の女性。彼女の夫は、パリの中華街にいます。彼女はパスポートを得て旅立ちます。タオの元彼氏も、パスポートを取得してモンゴルへ行くようです。(このように、この映画では出国手段であるパスポートがよく出てきます。)
 ちなみに、行き詰まったタオの心が、自由に飛翔したいと夢想する様子は、映画に挿入されるアニメシーンで、うまく表現されています。
 そしてラスト、タオとタイシェン。 俺たち、死んだのか?  いいえ、これから始まるの。 


 総じてこの映画は、当時の中国の人々が感じていた、漠然とした閉塞感や息苦しい現実、そしてそこから脱したい気持ちを代弁しているように思えます。

オリジナル・タイトル:The World
監督・脚本:ジャ・ジャンクー|日本、フランス、中国|2004年|133分|
撮影:ユー・リクウァイ
出演:タオ(チャオ・タオ)|タイシェン(チェン・タイシェン)|サンライ(ワン・ホンウェイ)|ウェイ (ジン・ジュエ)|ニュウ(チャン・チョンウェイ)|ヨウヨウ(シャン・ワン)|ほか

【 ジャ・ジャンクー監督の映画 】  これまでに記事にした作品です。題名をクリックしてお読みください。

一瞬の夢」 (1997年)   「プラットホーム」 (2000年)   「青の稲妻」 (2002年)   「世界」 (2004年)
海上伝奇」 (2010年)   「記憶が私を見る」 (2012年) 製作:ジャ・ジャンクー (監督:ソン・ファン)
罪の手ざわり」 (2013年)
「山河ノスタルジア」 (2015年) ←これは観ない方がいい 

【 一夜一話の 歩き方 】

下最新の記事はこちら。      直近の記事100 リストは、こちらから (All Archives)

邦画評だけ見る (直近掲載の50作品)   洋画評だけ見る (直近掲載の50作品)  

TOPページ (映画記事の人気ランキング、新作映画みました、映画の特集)

邦画の題名リスト    ◆洋画の題名リスト

邦画の監督名リストから記事を探す   ◆洋画の国別リストから記事を探す

一話 (京都、旅行、美味など)      書評   美術

クラシック音楽    ポピュラー音楽              




関連記事
スポンサーサイト

Comments: 0

Comment Form
Only inform the site author.

Trackback+Pingback: 0

TrackBack URL for this entry
http://odakyuensen.blog.fc2.com/tb.php/1472-5a7f9979
Listed below are links to weblogs that reference
映画 「世界」   監督:ジャ・ジャンクー from 一夜一話

Home > 洋画評だけ見る 直近50作 > 映画 「世界」   監督:ジャ・ジャンクー

タグクラウド
プロフィール

やまなか

Author:やまなか
 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めて8年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

<一話一夜の方針かな>
 1)古今東西の映画を分け隔てなく並べて、気に入った映画を選びます。
     
 2)以前に観た映画でも、もう一度あらためて観てます。むかし感じた印象と大きく異なることも多いからです。

 3)「素」な気持ちで、「映画作品そのもの」に向き合うことが、私の遊びです。
 作品自体が語りかけてくること以外の額縁情報、つまり宣伝文句、その受け売り文章、受賞実績、監督発言、出演俳優がどうしたとか、そして映画評論本やらは、はなから無視して、自分の眼で観るようにしています。

 4)観て気に入らない映画、つまんない映画は、基本掲載しません。
 だから、観たけど掲載しない映画は多いです。巨匠の名作と言われる映画も、気に入らなければ掲載しません。また、名物にうまいモノなし、ということも実感します。

 ただし、まだ観てない映画は、たくさんあります。こんな一夜一話ですが、今後も、見に来てください。   
 美術や音楽、書籍や温泉の記事も増やしたいと思っています。よろしく。  

RSSリンクの表示
Tree-CATEGORY

Return to page top