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映画 「泥の河」   監督:小栗康平

上
左がうどん屋の信雄、奥が宿舟の銀子、そして弟の喜一。(もやった宿舟の上で)
信雄と喜一は仲良し。

1‐0


 いい映画です。観たあと、じんわりします。
 暗い話だと言って切り捨てるには、あまりにもったいない。

 映画は、大阪の市中を流れる川の岸で、うどん屋を営む親子3人と、舟(宿舟)を住まいとして生きる母子3人との、あたたかい交流を描いています。
 うどん屋の店(兼住居)は、川の岸といっても、コンクリート階段を降りた堤防の内側にあって、また、舟を住まいとする一家は川伝いに転々としていて、ちまたでは廓舟と呼ばれているのです。そんな舟が、たまたまうどん屋の向こう岸に停泊したことから、話は始まります。

 どちらも川の家ですが、貧富の差があります。しかし、それぞれの家の子ども達は、毎日を一生懸命生きています。貧しい境遇の子たちの愛らしさを描きながらも、映画は話の底では、大人の哀愁を語っています。

 「もはや戦後ではない」という新聞の見出しが、映画に出てきます。
 この映画は昭和31年の話ですが、この年、時の政府は経済白書の結びで、そう言いました。一様に貧しかった終戦直後から10年が経って、人びとが幾ばくかの余裕を感じ始める頃でもあったのでしょう。しかしその一方で、相変わらず貧しく、世間から取り残されたようにして暮らす人々がいたことを、映画は語ります。

 戦場で、何度も死を覚悟する場面に出くわしながらも、生きて帰るんだと踏ん張って生き抜いた男たち。
 そんな男たちが、復員し、焼け野原のゼロベースから、なんとか生活の糧を得るようになったその矢先に、不幸にも呆気なく死んでいく。
 馬に荷車を引かせて、やっと貯まった金で、中古のトラックを買った男(うどん屋の客・芦屋雁之助)が不慮の事故で死んでしまう(映画冒頭で)。また、宿舟の亭主は、はしけの現場でいい仕事をしていたそうだが、妻子を残して事故死したという。
 こんな出来事を身近にして、戦場を生き抜いた、うどん屋のあるじ・晋平(田村高廣)は、そんな男達にやるせなさを抱きます。
 だから晋平は、息子の信雄と親しくなった宿舟の子・喜一とその姉の銀子に優しくします。また晋平と妻・(藤田弓子)の人柄は、うどん屋を、貧しいが懸命に働く男達の集う店にしています。
 
 晋平の息子・信雄は、ある日、ひょいと現れた宿舟の子・喜一とすぐに友達になりました。天神祭の時には、晋平から50円ずつ小遣いをもらってふたりは出かけます。喜一はお金を持って祭りに行くのは初めてや!と言います。
 喜一は学校に行っていません。信雄の友達が、喜一をあからさまに避ける様子を映画は映しています。他の場面では、宿舟を悪く言う客を晋平は店から追い出しました。

 喜一の母親(加賀まりこ)は、夜間、宿舟へ客を入れて収入を得ています。うどん屋の客の噂では、ほかの場所では喜一が客引きをしていると言っています。そんな姉弟ですが、ふたりは決してぐれたりはしていません。母親の言うことは聞き、喜一は近くの公園から水道水をバケツで運んだり、銀子は炊事洗濯をしています。信雄の母親が、銀子に洋服をあげようとするのですが、銀子はていねいに断ります。
 喜一の母親は、夫を亡くして以来、舟に閉じこもったままです。でも少しの間は働きに出たようですが、また舟に引きこもりました。たぶん、急に夫を亡くしたことから、精神的に快復できないでいるのでしょう。

 信雄は喜一とすぐ親しくなりましたが、しかし、ふいに現れた廓舟という存在は、まだ子供の信雄にとっても、やはり違和感は拭えなかったようです。それは売春に対する先入観ではなく、漠然と怖いという感情でした。喜一の母親と会った信雄は、その時そう感じたようです。
 ある夜、喜一に招かれて宿舟に入った信雄は、喜一から「秘密」を見せられます。灯火ランプ用のアルコールを浴びた川蟹に火をつけるのです。火をつけられた蟹は闇夜の舟べりを這いまわり、やがて動かなくなる。
 不思議だが何か嫌なものを見たという、いささかねっとりした感触を信雄は感じます。親しい喜一との距離が開く瞬間でした。
 
 その日、何の前触れもなく、宿舟はもやい綱を解き、曳き船に曳かれて静かに去って行きます。
 驚いた信雄は川岸を走って舟を追いかけます。舟上には誰の姿も見えません。舟はどんどんと、どこかへ行ってしまいます。(映画はここでエンドを迎えます。) 


2-0_201609221442388ea.jpg ちなみに、信雄はもうひとつ、不思議なものを見ています。
 幻想的なシーンです。まだ薄暗い早朝、家の窓からぼんやり川面を見ていると、釣り餌のゴカイ採りのじいさんが小舟の中にいるのですが、次の瞬間、じいさんは川に落ちて、川面に浮かんでいるのが遠目に黒い影になって見え、そして音も無く漂っている。しかし、そのうち姿は消えてしまいます。

 父親に付き添われて信雄は、近所の交番に出向きますが、要領の得ない証言を繰り返すばかり。結局、死体は発見できません。うどん屋の客が言うに、川の底は泥が2メートルは積もっているだろうと。
 この川には、さまざまな人びとの、さまざまな思いも沈んでいるのしょう。


監督:小栗康平|1981年|105分|
原作:宮本輝(1977年『文芸展望』18号初出)|脚本:重森孝子|撮影:安藤庄平|
出演:板倉晋平(田村高廣)|その妻・貞子(藤田弓子)|その息子・信雄(朝原靖貴)|宿舟の女・松本笙子(加賀まりこ)|その長女・銀子(柴田真生子)|その長男で信雄の友・喜一(桜井稔)|タバコ屋(初音礼子)|倉庫番(西山嘉孝)|釣り餌のゴカイ採りのじいさんが川に落ちたのを信雄が目撃して警察に尋問をうける、その巡査(蟹江敬三)|橋の上にいる信雄にスイカをあげるため橋下を通過する舟からスイカを放り上げた・屋形舟の男(殿山泰司)|佐々木房子(八木昌子)|中古トラックを買ったんだと言いながら信雄の店でかき氷を食い、そのあと対向車に馬が驚きそのはずみで荷車の下敷きになって死んだ・荷車の男(芦屋雁之助)|



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