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映画 「エル・スール」 (スペイン映画)  監督:ビクトル・エリセ

上
1957年の秋の、ある朝。映画はこのシーンから始まる。エストレーリャ、15歳。
枕元に父親が残していった、クサリの入った丸い小箱をじっと握りしめる。絵画のような映像。



 1950年代のスペインでの話。エストレーリャという女の子の目を通して映画は語ります。

1-0_201611011955162e2.png フランシスコ・フランコ総統によるファシズム独裁体制下、体制側、反体制側と、政治思想を異にした父と、その息子・アグスティン。
 そんな状況の中、アグスティンは意を決してスペイン南部(エル・スールの意)の故郷を離れ、同志である妻・フリアと共にスペイン各地を転々とした。
 やがて、娘・エストレーリャが生まれ、娘が8歳になったころ(1950年)、一家は、スペイン北部、城壁に囲まれた町のはずれにある一軒家に越してきた。アグスティンは医師で、この町の病院に職を見つけたのでありました。

 一家は、なんの不自由もないように見えました。(映画は一家三人の日々の7年間を描いて行きます。エストレーリャは8歳から、恋もする15歳に成長します。)
 だが、アグスティンには奇妙な行動がありました。屋根裏の部屋にひとり閉じこもり、重りの付いたクサリを静かに垂らし、その時をじっと待つ。そうしてクサリが振り子のように動き出す。その動きを見据えるアグスティン。
 妻は娘に、これは夫の霊力の実験だという。(このほかにも彼は、何も言わず突然、家を空けたり、教会には決して行かないというように、分かりにくい男だった)
 娘のエストレーリャは、そんな謎があるミステリアスな父が大好きだった。もちろん父はエストレーリャを可愛がった。
 しかし、妻としては理解しがたい夫であった。(話が進むうちに、夫婦の間に見えぬ断層があることが分かり出します)

 ある日、父が不在の折、エストレーリャは父親の部屋で一枚のメモを見つけ、「イレーネ・リオス」という女性の存在を知ります。さらにエストレーリャは、その女性が出演する映画を観た父親を、上映館前で見かけるのでした。

 イレーネ・リオスとは、実はアグスティンが若い頃、愛した女性であった。映画は言わないが、アグスティンがかつて反体制活動に加わっていた頃、このふたりの愛は烈しく燃えたのだろう。だが、なぜか、ふたりは結ばれず、アグスティンは妻のフリアと結婚した。
 スクリーン越しにイレーネ・リオスに再会したことがきっかけになり、アグスティンはイレーネ・リオスへ、一通の手紙を書いた。
 そしてイレーネ・リオスから返信が来た。手紙には、長い時が経ち忘れかけていた愛が突然に呼び起こされ、今さらの思いと戸惑いが苦しい感情で書かれていました。
 しかしアグスティンは、躊躇しながらも彼女への思いを募らせていった。
 彼は彼女の元へ旅立とうと、朝一番の切符を買い、前日からステーション・ホテルに泊まっていたが、翌朝、思いとどまった。もちろん、妻には何も言わずに家を空けてのことだった。

 映画はラスト近くに冒頭シーンに戻る。それは1957年の秋のある早朝。
 妻は目をさまし、夫がいないことに気付き異変を感じた。家中を見回り、窓から夫の名を叫んだ。そして、アグスティンが密かに家を出たことを知る。妻は、こんな朝が来るかもしれないことを以前から案じていた。
 エストレーリャ15歳は、おぼろげだが、こんなことを予見していた。

 その日、アグスティンが川岸で倒れているのが発見される。自殺だった。
 しかし自殺は、妻にもエストレーリャにも、思いもよらぬことだった。


 ミステリアスな男アグスティンを巡って話は進みます。
 そのミステリアスさと、絵画のような美しい映像に静謐なシーンと、エストレーリャの愛らしい心とが相まって、この映画、名作に思えるかもしれません。しかし突然の自殺は、観る者の心にしっくりと収まりませんね。
 それもそのはずで、Wikipediaによると、製作完成時の尺(上映時間)は本来3時間あったが、後半部の90分がプロデューサーの意によってカットされた(らしいです)。
 映画のラストシーンは、エストレーリャがスペイン南部にある父親の実家へ旅立つところで終わっています。よってカットされた後半部では、たぶん、エストレーリャが祖父母に会い、父親の若い頃のことを知るのでしょう。つまり、祖父と父との確執の真相や、イレーネ・リオスや母親・フリアとの出会いを。
 かのプロデューサーは謎を謎で終わらせることを選んだのでしょう。監督をよく説得させましたね。

下オリジナルタイトル:El Sur|英語タイトル:The South|
監督・脚本:ビクトル・エリセ|スペイン、フランス|1983年|95分|
原作:アデライダ・ガルシア・モラレス|撮影:ホセ・ルイス・アルカイネ|
出演:8歳のエストレーリャ(ソンソーレス・アラングレン)|15歳のエストレーリャ(イシアル・ボリャイン)|エストレーリャの父親・アグスティン (オメロ・アントヌッティ)|アグスティンの妻・フリア(ローラ・カルドナ)|ミラグロス(ラファエラ・アパリシオ)|イレーネ・リオス、ラウラ(オーロール・クレマン)|イレーネ・リオスの共演者(フランシスコ・メリーノ)|アグスティンの家の家政婦・カシルダ(マリア・カーロ)|グランドホテルのバーテンダー(ホセ・ビボ)|ロサリオ夫人(ヘルマイネ・モンテーロ)|



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