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イスラエル映画の 「ティクン ~ 世界の修復」、「山のかなたに」 ~第17回東京フィルメックス上映作品(特集上映:イスラエル映画の現在)

 第17回東京フィルメックスで上映された作品について、順次書いて行きます。今日はその第5回。
 両作品はともにイスラエル製作の映画です。
 なお、上映作品の「まとめ」記事は、こちらです。

「ティクン ~ 世界の修復」  Tikkun|イスラエル|2015|120分|
  監督:アヴィシャイ・シヴァン  (Avishai SIVAN)
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 この映画は、ユダヤ教の「超正統派」に属する一家の話である。
 よって、映画を観るには少々予備知識がいる。
 それはユダヤ教についてだ。ユダヤ教にはいくつもの教派があって、そのなかの正統派という教派の中にさらに「超正統派」という教派がある。ユダヤ教の最右派でイスラエル人口の10%近くが信仰しているらしい。
 この超正統派の人々は、同じ教派の狭いコミュニティーの中だけで厳格な人生を送る。例えば、結婚相手は必ずコミュニティー内といった風で、教派外部や俗世との接触をことさら避ける。テレビも見ないし映画館にも行かないらしい。また、男性女性の性の分離を厳格に実施している。

13_20161127192539240.jpg さて、テルアビブの街に住むこの一家の長男・ハイム・アロンは、超正統派の神学校に通う青年。他の多くの学生に比べて、彼はあまりにも熱心過ぎる学びの姿勢であった。朝は誰よりも早く登校し、深夜になってもひとり神学校の教室に残っていた。(彼はとても神経質で、他人と交わらず、そして年齢の割にはいささか幼い)

 しかしそんな毎日は体力的に続かない。勉学に疲れ、ついに精神までもが摩耗しきってしまった彼は、ある日、家庭内事故で意識不明の重体となる。彼の家に駆けつけた救急隊員は懸命な救急救命処置を行うが、悲しいかな、その場で死亡の宣告がおりる。これを見守っていた父親は、息子の死を受け入れられず、自ら救命処置を続けた。その結果、奇跡的に彼は蘇生した。そしてその後、彼は入院し快復する。

 しかし、快復した彼は神学の勉強をサボりだす。人が変わったようだった。ひとつの身体に二つ目の魂が宿ったのだ。真夜中にふらりと家を出て、ヒッチハイクで遠出したり、売春宿にも入った。(しかし、裸の女性を見て逃げだす) ついに神学校から追放される。
 屠殺場で働く父親は、この頃から悪夢を見るようになる。寝ている息子を包丁で刺し殺す悪夢だ。なぜなら、夢の中で、神は父親に言ったのだ。「息子の死は私の意志なのに、お前は彼を生き返らせた。私の意志にお前は刃向かうのか!」と。

 一方、信仰を捨てたかにみえる息子はまたしても、精神が摩耗して行く。深夜に外出し、濃霧の中を夢遊病者のように徘徊し、実に奇妙な出来事に遭遇する。(映画は幻想的シーンを描く) 俗世は彼にとってあまりにも不可解で厳しい別世界であったのか。
 ユダヤ教に縁のない私には理解に苦しむ映画であった。

「山のかなたに」  Beyond the Mountains and Hills|イスラエル、ベルギー、ドイツ|2016|90分|
  監督:エラン・コリリン  (Eran KOLIRIN)
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 何をどれほど認識しているのかよく分からないが、何かと反体制的な行動をとる、若いユダヤ人女性・イファットが、登場人物の1人。
 イファットはイスラエルで差別されるアラブ人に対し漠然とだが心情的な好意を持っている。あることがきっかけで、イファットは、山の向こう側の人里離れた所にある、アラブ人労働者の貧しい集落の青年と、怖いながらも少し親しくなった。悪い人じゃなさそう。イファットにとって、これは世間知らずの向こう見ずな冒険か、非日常的な愛なのか。(人口の75%がユダヤ人、アラブ人は20%。宗教別ではユダヤ教徒が75%、ムスリムが16%)

 もう1人の登場人物は高校の教師をしているユダヤ人中年女性。彼女の授業に熱心なひとりの男子生徒に、彼女はいつしか好意を寄せ始める。そして、ある日、教師と生徒の一線を越えてしまう。
 さらにもう1人の登場人物は、長年勤めあげた軍隊を退役したばかりの退役軍人のダヴィド。これから第二の人生だ。まずはマルチ商法の商品販売員になるが、うまく行かない。憂さ晴らしに、夜間、人けのない暗い夜道に車を止めて、山のすそ野に向けて拳銃を乱射する。

 翌朝、ダヴィドが拳銃を撃った辺りでアラブ人男性の死体が発見される。銃で撃たれたらしい。警察が現場検証をしている。その夜、ダヴィドは密かに現場に向かい、自分の銃の薬きょうを路上で拾う。
 もうひとりの翌朝。女性教師の下着姿の画像がネットに公開され、学校では生徒たちが騒ぐ。これを知った教師の息子は、母親の相手をした男子生徒を襲い、握った大きな石で生徒の頭部を一撃する。

 さて、実は、この4人の登場人物は、何不自由ないユダヤ人一家の親子4人なのだ。(う~ん、設定に無理があり過ぎ)
 ダヴィドが警察に呼び出される。彼が出向いて分かったことは、呼び出したのは警察ではなく、国家警察だった。ダヴィドは夜間の乱射を告白したが、彼らはそれを問題にしない。(たぶんアラブ人の死とは関係なかったのだろう) 彼らはダヴィドに協力してくれと言う。テロ犯罪者を追っている。あなたの娘・イファットが会っているアラブ人だ。娘のスマホに、あるアプリを密かに入れ込んでくれ。
 一方、教師の妻は自身の行為を、夫・ダヴィドに告白しようとするが、ダヴィドはそれを制した。そして言った。私たちは、これからも夫婦だ。
 ところで、イファットが会っていたアラブ人だが、その後、逮捕された。イファットはそのニュースを見て驚く。

 この映画の監督は、エラン・コリリン。彼の「迷子の警察音楽隊」(2007)は、コミカルで奇妙で少し悲しいドラマが良かった。映画製作にあたっての監督のテーマは、ユダヤ人・アラブ人、あるいはイスラエルとパレスチナやエジプトといった関係性を問うものだ。それにしても、この映画「山のかなたに」はアカン。
 映画 「迷子の警察音楽隊」の記事は、こちらからご覧ください。

 その他のイスラエル映画 ~ これまでに記事にした作品です。 映画タイトルをクリックして、ご覧ください。

 「ジェリーフィッシュ」   監督:エトガー・ケレット、シーラ・ゲフェン 2007年
   3つのエピソードを追う映画。イスラエルのリゾート地でもあるテルアビブの街での話。
   海から来た不思議な女の子、黒いドレスの詩人の女性、フィリピンからイスラエルに出稼ぎに来たジョイ。
   この3人の女性がキーで話は展開します。 

 「若さ」   監督:トム・ショヴァル 2013年  第14回東京フィルメックス上映作品でした。

   イスラエルのテルアビブ近郊が舞台。アパートに住む両親と兄弟。
   長男18歳は、徴兵されて来週には家を出る。しかし兵役に就く前に、兄弟にはやることがあった・・・。   
   (リンク先のページの下の方に「若さ」の記事があります) 

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 日ごろのアクセス、本当にありがとうございます。気づけば、ブログを始めて8年目に入りました。一夜一話に掲載したい映画、まだまだあります。気の向くまま、その時の気分でやってます。遊び半分じゃなく、「全部遊び」です。

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