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映画 「歌うつぐみがおりました」   監督:オタール・イオセリアーニ

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1-0_20170108204603078.jpg 南コーカサスにある国、ジョージア(旧名グルジア)の首都トビリシでの、可笑しなお話です。
 主人公のギア・アグラゼという男は、劇場専属オーケストラの打楽器奏者。
 舞台の幕が開き演奏が始まると、ヴァイオリンや管楽器の奏者は忙しいが、ティンパニーという楽器は概して暇。下手すると、曲の最初と最後の数小節しかティンパニーは登場しない。そうするとその間、ずっと座っているだけ、なのだが、ギア・アグラゼの場合は違う。

 とにかく、ギア・アグラゼは忙しい。
 幸い、ティンパニーの位置は、舞台下のオーケストラボックスの出入り口付近にある。それをいいことにギアは、オーケストラが演奏中に劇場を抜け出して外出し、最後の数小節を迎える直前に、危機一髪のタイミングでティンパニーの前に帰ってくる。

 その間、ギアが何をしているかと言えば、ある所へ行きある約束を済ませ、次に女の子に会いに行き、その後またちょっとした用を済ませに出かけ、その次に別の女の子に会いに行く。かつ、その移動中の路上で、ワル仲間から儲け話に誘われたり、出会う女の子に挨拶したり。そして、あわてて劇場に向かうのだ。

 何しろ、彼は顔が広く人気者でお調子者。そしていつもせわしない。絶えず、何か(複数の事を)していないと落ち着かない性分らしい。
 つまり、あらゆる案件がギアの中で同時並行に推移しつつあり、それらをつまみ食いする格好で、事をさばいて行こうとする。ポジティブシンキングだが、勝手に楽観過ぎて詰めが甘い。結局、何もかもが中途半端で、その場限りになりがち。
 かつ、約束をすっぽかしたり規則を破るものだから、ギアをよく思わない女の子や、彼を辞めさせたい劇場のお偉いサンがいる。しかし、それは一部の人で、おおかたの人々にとっては、ギアは憎めない存在の人気者なのだ。

 そんなギアを客観的に眺める人々が、映画の中に登場する。それは、ある女の子や図書館にいるメガネのおじさんや、とりわけ、ギアの友人の外科医である。その外科医は、ギアの精神的な面を心配する。しかし、その後ギアは呆気なく死んでしまうのだ。

 この映画を観て思うこと。
 人をひとつの歯車に例えるならば、世間は多くの歯車が互いに噛み合って動いている。この映画が言いたい事のひとつは、そんな事のような気がする。
 ただし歯車と言ったそれは、組織の一歯車といった負のイメージじゃなく、プラスのイメージ、協働あるいは恩義の貸し借りという意味合いだ。
 加えて、歯車にはいろんな種類がある。特にギアみたいな人間は、「遊び歯車」かもしれない。世の中、役にたたないようで役にたつギアみたいな人が必要なんだ。
 なぜ、ここで歯車を持ち出したかと言えば、ギアが交通事故で死亡した直後、映画の最後のシーンで、ギアの友人の時計修理職人が、動かなくなった懐中時計を修理する。修理が終わると時計のメカニズムがたくさんの歯車が一斉に動き出すところを、カメラはアップで見せるのだ。監督のメッセージだよね。

 もうひとつ、思うこと。ギアが絶えずふらふら浮遊しているように見えるのは、実はギアを取り巻く状況や関係性を「早回し」して見せているからだ、という見方。アレクセイ・ゲルマン監督のロシア映画「フルスタリョフ、車を!」と通底する感じがする。

 さらに思うこと。映画冒頭で、ギアは丘の上から、自分の住む街を見下ろしている。これは、ギア自身やギアに関わる全てを客観視するもう一人のギアを表わしているのだと思います。オタール・イオセリアーニ監督の「月曜日に乾杯!」にも同様なシーンがありました。
 (「フルスタリョフ、車を!」、「月曜日に乾杯!」の記事は、それぞれ題名をクリックしてお読みください)

下

オリジナルタイトル:Iko shashvi mgalobeli
英語タイトル:LIVED ONCE A SONG-THRUSH
監督:オタール・イオセリアーニ|ジョージア(グルジア)|1970年|82分|
脚本:オタール・イオセリアーニ、ディミトリ・エリスタービ、オタール・メフリシビリ、イリヤ・ヌシノフ、シェルマザン・カキチャシビリ、シモン・ルンギン|
撮影:アベサロム・マイスラーゼ|
出演:ゲラ・カンデラキ(ギア・アグラゼ)|ジャンスグ・カヒーゼ(指揮者)|マリーナ・カルツィヴァーゼ(マリナ)|ほか


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