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映画「はじまりのうた」 監督:ジョン・カーニー

上

 今年に入って3か月間に観た映画のうちで、一番のいい映画。良く出来ている。
 ニューヨークを背景にしたラブロマンス映画として観ていいのですが・・。

1-0_2018032013400674e.jpg この映画の一番の魅力は、ソングライターを目指すグレタ(キーラ・ナイトレイ)が自作曲を歌うシーン。
 キーラ・ナイトレイが歌う、そのかすれ声の歌が朴訥で儚げで、なかなかいいのだ。
 そういうシーンはいくつもあるが、特に、
 映画冒頭、小さなライブハウスに客として座っていたグレタが、突然ステージで歌う羽目になるシーンの曲「ア・ステップ・ユー・キャント・テイク・バック」(1)(上の画像)と、
 別れた彼氏デイブに電話で聴かせる曲「ライク・ア・フール」(2)と、
 そして学生の頃にデイブの前で歌った曲「「ロスト・スターズ」(3)が良い。
 まず聴いてほしい。
 本作のオリジナル・サウンドトラック(HMV&BOOKS onlineの試聴こちら)の中の12曲目が(1)、7曲目が(2)で、5曲目が(3)です。

 作った歌が、まだ自分の中だけにいる時のガラス細工のような至福感((1)の曲)や、あたかも天からの啓示で歌が生れて輝くその一瞬の時の((2)の曲)や((3)の曲)に、思いを馳せて欲しい。(監督は歌作りを知っている人間だな)
 この3曲を聴いてグッと来なきゃ、この映画の良さの半分しか楽しめない。(と思う)

2-0_20180320134334f6b.jpg 次いでこの映画に、「ビジネスの成功に走る音楽業界」が「歌自身が持つ本来の魅力」を軽んじることへの苦言が、本作に織り込まれていることに注目したい。
 それは、音楽プロデューサーのダンと、ダンが創設したレーベル会社の社長サウルとの確執で表現されている。(これでダンはついに首になる)
 また監督は、音楽業界への苦言を、グレタと彼氏デイブとの恋愛関係にも影響させている。

 さてグレタとデイブとの関係だが、それは大学時代からの付き合い。ともに歌を作り歌うことが好きな軽音楽サークルの一員だった。
 グレタの作詞作曲の才能に嫉妬するデイブだったが、歌唱力はデイブの方が断然巧い。
 卒業後デイブはミュージシャンの道を歩み、ついにメジャーデビューを果たす。レコード会社はふたりが住む広いアパートも用意した。
 だがこの頃からグレタとデイブの間に亀裂が生じ始める。きっかけはデイブの浮気。デイブはグレタから去った。
 そして水面下でのもうひとつの亀裂は、売上至上志向の音楽業界がするサウンドプロデュースに対するふたりの意見の違い。

 デイブが去ったのちに、グレタは苦しい胸の内をその場で作った自作曲「ライク・ア・フール」(2)に託し電話でデイブに聴かせた。
 この事で、デイブは我に返り、結局グレタの元に舞い戻るのである。(改めてグレタの作る歌に惚れもした)
 そして我に返ったデイブは自身の新作アルバムに、学生時代にグレタが作った「ロスト・スターズ」(3)を入れた。

3-0_20180320140809341.jpg ふたりの再会時に、その曲をグレタに聴かせるのだが、グレタはそのアレンジが気に入らない。「この売れ線アレンジは私の歌に合わない」と。二人の関係は戻りそうにない。
 グレタ:「制作段階で曲の良さが消えちゃってる。この曲バラードなのにポップスになってるわ」
 「でもヒットさせたいだろ」「なぜ?」「君の作った曲が売れたらすごい」「だけど曲の良さが失われたら意味ないわ、曲は繊細よ」「でもライブでは盛り上がるんだ、一気にヒートアップする」「・・・・・」
 ラスト近く、デイブは女性ファンで満席のライブコンサートにグレタを招待し、「ロスト・スターズ」をグレタ風にギター弾き語りで歌って見せてみせた。観客は大いに感激している。
 グレタはこれをステージの袖で聴いたあと、会場を出、夜の街を自転車で走る、微笑みを浮かべて。

 ストーリーの構成が面白い。
 グレタがライブハウスで突然用意もなく歌う羽目になるシーン、映画はこの同じシーンをストーリーが進むなかで3度繰り返す。
 1度目は映画冒頭にあって、このシーンでグレタが無名のソングライターだと分かる。
4-0_20180320140943a52.jpg 2度目はグレタがいるライブハウスに、音楽プロデューサーのダンが偶然に居合わせ、グレタの自作曲に惚れるシーンとなる。
 この出会いは、ダンがグレタをシンガーソングライターとしてプロデュースすることへと発展し、また、歌に対するふたりのセンスが一致して、いつしか歳の差のある「淡い恋らしきもの」へと進む。
 3度目は次にいう話の帰着シーンとして出てくる。
 彼氏デイブと別れ、悲しみに沈むグレタを、学生時代からの音楽仲間で現在ストリートミュージシャンのスティーヴに救われるが、グレタは引きこもりがち。
 そこで、スティーヴが自分が出演するライブハウスにグレタを連れ出したことで3度目のシーンとなる。つまりスティーヴが突然、客にグレタを紹介し、座って聴いてい彼女を無理やりステージに上げたのだった。(上記画像のシーン)

5-0_20180320141057a4a.jpg そして映画はもうひとつのストーリーを用意している。
 グレタと音楽プロデューサーのダンは意気投合し、ダンのもとでアルバムのレコーディングが始まる。
 だが、そのデモテープは、ダンが創設したレーベルの社長サウルに否定されるが、グレタとダンはネットでアルバムを発表し、絶大なフォロー数と多くのダウンロード数を得ることになった。(ラストのエンディングまで観てね)
 そして次回のアルバムはヨーロッパで野外録音しようとか話は進むのです。



 ちなみに、グレタとデイブとダン、この三人の関係はどうなるか、気になるところ。
 デイブのコンサートのあとグレタは、ダンと一緒に好きな歌を聴き合った‎iPhone二股ケーブルを郵送でダンに送り返した。(巧い脚本!)
6-0_20180320141217c2d.jpg ついでに、グレタを助けるスティーヴにも注目してあげよう。いい男だよ。

 なにしろこの映画、多くのことを語っているので、例えばダンの家族の家庭不和に視線が行き過ぎると、映画の良さが見えてこなかったりする。
 とは言え、その家庭不和によって家を出たダンは精神的に参ってしまい、プロデューサーの仕事に専念できず、ヒット曲を産み出せないスランプにいた。そんな中で、酔っ払って街をうろついて、ふと入った店でダンはグレタと出会えたのであった。
 スランプ以前のダンはラップ・ミュージシャンをスターダムに押し上げたりと、著名なプロデューサーであった。そのラッパーはダンへの感謝の気持ちで、グレタのアルバムを制作する資金を援助するのである。
オリジナルタイトル:BEGIN AGAIN
監督:ジョン・カーニー|アメリカ|2013年|104分|
脚本:ジョン・カーニー|撮影:ヤーロン・オーバック|
出演:グレタ(キーラ・ナイトレイ)|音楽プロデューサーのダン(マーク・ラファロ)|グレタの彼氏デイブ・コール(アダム・レビーン)|グレタの学生時代からの友人スティーヴ(ジェームズ・コーデン)|ダンが創設したレーベルの社長サウル(ヤシーン・ベイ)|ダンの娘バイオレット(ヘイリー・スタインフェルド)|ダンの妻ミリアム・ハート(キャサリン・キーナー)|ダンがスターダムに押し上げたラップ・ミュージシャンのトラブルガム(シーロー・グリーン)|ほか


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