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映画「エリザのために」 ルーマニア映画 監督:クリスティアン・ムンジウ

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 ルーマニアの、父と高校生の娘の物語。
 そして、切り開くべき人生の扉を、娘が開けるに至るお話。(ラストシーンが一番の見所です)
 さらには、ルーマニアという国を憂い語る映画です。

 この家族の役柄設定は、こんな感じです。
0-1_20190625124745212.jpg 父親ロメオは医師、妻との関係は冷え切っていて、ロメオは密かに若い女性といい関係を持っている。
 妻マグダは図書館員、ウツ気味で塞ぎ込んでいて、何事も受け身、消極的な日々。
0-2_201906251251147a1.jpg 一人娘のエリザは高3、社会人の彼氏がいる。家庭では父親の教育パパぶりの影響下にあって、イギリスの大学へ留学すべく勉強している。
 ちなみに父親の愛人サンドラは、エリザの家庭教師だった女性、障害のある子と二人暮らし。

 そして物語はある朝、エリザが暴漢に襲われレイプされてしまう事件で始まります。(映画は事件後のエリザや警察捜査も描いていきます)
 一方、近日、試験が予定されていて、この試験でいい成績をとらないと留学資格が得られない。ですがエリザは精神的に参っていて試験どころじゃない。
 しかし、「エリザのために」と娘の教育にこれまで努めて来たロメオは、ここで何とかしないと、娘の将来と、今までの娘への投資がおじゃんになる。そう思いつめたロメオは、しかるべき手を打つのですが‥。

 映画はこうしたロメオ一家の話を語る傍ら、、警察や学校などルーマニア行政機関の腐敗を描きます。つまり横行する賄賂と、そこへ至る人脈探し。何事につけ、これがルーマニアの社会通念としてあるようです。
2-1_2019062512585427e.jpg ちなみにロメオが打った手とは、知り合いの警察署長を通じて、ある実力者を紹介され、その人物の伝手から高校の理事に、娘の点数の底上げを依頼したのです。
 そして医師ロメオが見返りとして署長から言われたことは、その実力者が順番待ちしている臓器移植の順位に手をまわして一位にして欲しいこと。

 さて話の筋書きはおよそ以上ですが、本作を読み解くには、もう少し、視野を広げておくのがいいでしょう。(本作のもうひとつのメッセージはここでしょうから) 
 ロメオは、かつて社会主義国家であったルーマニアに生まれ、(親に連れられ)国外へ出て西欧にいたが、その後、民主化をうたったルーマニア革命の後の1991年に帰国。(映画でそう言ってる)
 だが希望を持っての帰国は裏切られる。なぜなら、民主化健全化にみえた革命の後も、政治の腐敗ぶりはまったく変わらなかったからだ。(国民経済も回復しない)
 だからロメオは、娘にだけはルーマニアを出て西欧社会で人生を送ってほしい、そういう切なる願いでエリザの教育に力を入れて来たのでした。

 さらに映画は、革命以前から続く腐敗する社会に順応して生きるか、否、清く生きるか、の二択を登場人物に突き付けています。
 ロメオの妻マグダは、旧の世代ですが後者を選ぶ人間です。賄賂横行の世を嫌います。
 そんなマグダですから、娘には、賄賂による人生の門出を望んでいない。
 ですが、やりきれない気持ちも抱いています。それは、マグダにはきっと高い才能があるんでしょうが、図書館員の単純作業の職に長年甘んじて来たからです。
 一方ロメオは、少なからずがそうであるように腐敗社会に順応して生きる男。ですが後ろ髪を引かれる思いも抱いています。
3-1_201906251304120b5.jpg そんな両親のもとで育った新世代のエリザは、試験のさ中、彼女ができうる行動を試みるのです。それは小さなことでしたが、エリザにとっては大きなこと。自分の生きる道筋を模索する第一歩だったのでした。
 それにしても、彼氏と一緒にいたいから留学しないと、以前に言ったエリザは、今どう考えているのでしょうか、そこを映画は語りません。
 しかし監督は、新世代の若者に期待を抱いているように感じます。この気持ちがあのラストシーンを作ったのでしょう。

 ちなみに映画は、ロメオの不倫の行方のほうは語ります。
 そして、ロメオが頼みにした例の実力者の、過去に犯した犯罪が明るみになります。警察の捜査が始まり、実力者とロメオとの電話盗聴記録から、ロメオ自身も捜査対象になり、警察はエリザへの尋問も考えると脅されます。
 これらのサブストーリーも、観てのお楽しみ。
 複雑な話をよくまとめ上げた映画です。

 最後に、エリザのレイプ事件についてのあれこれは、以下の予告編で補ってください。
 ただし、この予告編は、ドラマチックなシーンを、作意を無視してつなぎ合わせ、あまりにエキサイティングに描き過ぎです、これじゃ、よくありがちな刑事ドラマかと思ってしまう。ご注意ください。 




オリジナルタイトル:BACALAUREAT
監督・脚本:クリスティアン・ムンジウ|ルーマニア=フランス=ベルギー|2016年|128分|
撮影:トゥドル・ヴラディミール・パンドゥル|
出演:ロメオ(アドリアン・ティティエニ)|エリザ(マリア・ドラグシ)|マグダ(リア・ブグナル)|サンドラ(マリナ・マノヴィッチ)|警察署長(ヴラド・イヴァノフ)|試験委員会の委員長(ジェル・コルチャグ)|ロメオの母(アレクサンドラ・ダビデスク)|検察官(エマヌエル・パーヴ)|検察官(ルチアン・イフリム)|ほか
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やまなか
Posted byやまなか