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ドキュメンタリー映画「100,000年後の安全」 監督:マイケル・マドセン

 すごい映画です。
 なにしろ、ガツン!と頭を殴られた感じ。わやな考え、甘ったるい考えは状況を悪くするだけだ。
 ぜひ!みんなに観て欲しいです。
 お近くに上映館がない方へ、映画のインターネット配信も始めているようです。(このページの一番下)

 現在、世界中に25万トンの放射能廃棄物があるらしい。被爆の恐ろしさ。徹底的に議論し冷静に判断する科学者たちや政治家の視野の広さ深さは、10万年後の未来を見ようとしている。そして適切な情報公開。その、なにもかもが、今の日本にはない不幸。
 アップリンク、偉い。いい映画です!

 (社)スウェーデン社会研究所所長 須永昌博氏がお書きになって、アップリンクで配布された以下のテキストが、この映画を的確に語っているので、映画評はこのテキストに譲ります。ただ、テキスト中のカッコ内は、出しゃばりな私の補足コメントです。
 また、テキストにおいて、核や人類文明についての科学的、技術的記述は、映画内で科学者たちが述べていることを、須永氏が丁寧に要約なさったものです。長文ですが、是非、読んでください。
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マッチ000_01 監督:マイケル・マドセン|デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イタリア|
 2009年|79分|公式サイトはこちらから
 原題:INTO ETERNITY
 出演:T・アイカス|C・R・ブロケンハイム|M・イェンセン|B・ルンドクヴィスト|W・パイレ|E・ロウコラ|S・サヴォリンネ|T・セッパラ|P・ヴィキベリ|



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 以下アップリンクにて配布されたテキストです。須永氏およびアップリンク様、転載をお許しください。

 『100,000万年後の安全』   (社)スウェーデン社会研究所 所長 須永昌博

内部100000_sub03 このドキュメンタリー映画は原子力発電所(原発)で使用したウラン燃料を捨てるゴミ捨て場の話です。
 世界で最初にフィンランドが本格的な建設を始めました。この施設を、フィンランド語で「隠れた場所」を意味するオンカロと呼んでいます。なぜ、「隠れた場所」なのでしょう、なぜ、原発大国御三家(アメリカ、フランス、日本)ではなく北欧の小国フィンランドなのでしょう。
 マイケル・マドセン監督はまるで静かな風景を撮るように淡々とカメラを回しながら、人類についての大きなテーマを投げかけてきます。10万年後の人類に私たちはどうしたら、この意志を伝達できるだろうか。そんな想像をもたらす世界でもあります。

 この映画が提示するテーマを補足してみましょう。

1.放射能廃棄物とは何か。なぜ処理が必要なのか。オンカロとは。
2.なぜ、フィンランドなのか。
3.原子力発電に賛成、反対の人々とどう調整するのか。
4.持続可能社会とはなにか。将来の人類とコミュニケーションはとれるのか。
5.日本ではどうなのか。

1.放射能廃棄物とは何か。なぜ処理が必要なのか。オンカロとは。
 放射性廃棄物とは放射能物質を含む廃棄物の総称のことで、原子力発電所や核関連物質を使用する施設から排出されます。寿命の尽きた原子炉も廃棄物になります。放射能物質が生物にとって無害になるには気の遠くなる年月が必要で、この映画では10万年としています。
 放射能は無味、無臭の「死の光線」で人間の五感では感知できません。しかし放射能を浴びると2週間で発熱、次第に体の細胞が破壊され死に至ります。広島、長崎の経験を持つ日本人にとってはわかりやすい恐怖です。

地底into_eternity フィンランドはこの放射能廃棄物を貯蔵しておく地下施設の建設を始めました。「オンカロ」と呼ぶプロジェクトで、フィンランド語で「隠れた場所」という意味です。ヘルシンキから西に240kmの島、オルキルトという場所にあります。岩盤を地下深く500m掘って、そこに想像を絶する広大な貯蔵施設を作ります。オンカロが完成するのは100年後の22世紀になります。
 放射性廃棄物を処理するには、太陽に飛ばすか (ロケットの発射事故の可能性ありで危険)、海底に埋めるか (海洋はあらゆる生物にとって母なる海なので万が一はあってはならない)、(地上は地震・気象現象・戦争などと最も不安定な場所)、結局、人類にとって最も安全な処理方法は地下に埋めるしかないと分かりました。
 完成したオンカロは(最終的にはコンクリートで厳重に密閉され、土で埋め戻され、もとの森林になり)永遠に封じられ誰も入ることができません。生命に危害を与える高レベルの放射能から人間を遮断するためです。永久に隠れた場所になります。今だからこそ見ることができる、見せておかなければならないと、映像は訴えます。
 でもこの施設は10万年後の年月を耐えねばなりません。放射性廃棄物が生命にとって無害になるには10万年(放射能の半減期)かかります。耐用年数が10万年という機械や設備を人類は作ったことがあったでしょうか。

2.なぜ、フィンランドなのか。 (この2項では、筆者の考えが書かれています。映画にはない内容です)
作業000_img05 なぜ、フィンランドが世界に先駆けてオンカロを建設するのでしょう。そこにはフィンランド人がものごとに取り組む基本的な姿勢が見られます。将来起きそうな色々な問題を予見して、事前に処理する、その方が起こってしまったあとで対策を講じるより遥かにコストが安く済むという「予防すること」「未病を治す」ことです。世界に確たる教育制度も福祉制度もこの発想から来ています。放射性残留物が起こす問題を先取りして万全の対策を講じることも他なりません。

 もうひとつ考えなければならないのはフィンランドの地理上、地政上の理由です。フィンランドは国土を占領されたり、奪われたりと旧ソ連に随分苛められて来ました。ロシアの恐怖がトラウマとして潜在的にあります。今でも電力や天然ガスをロシアに依存しています。ロシアがパイプラインの栓を締めたら、フィンランド人は凍死してしまいます。ロシアのくびきから開放されて、エネルギー源を確保することはフィンランドにとっては最大の安全保障なのです。
 隣国のスウェーデンと同様に1986年のチェルノブイリの事故により、一時期フィンランドでも原子力に反対する機運が盛り上がりました。しかしながら、国の安全保障という観点から現在は原子力発電に積極的で今、5基目を建設中です。電力の3分の1は原子力になります。

3.原子力発電に賛成、反対の人々とどう調整するのか。
水 ternity-30128_1 原発の問題には常に推進か反対かの話題がつきまといます。この映画はその点を明確にしています。放射性廃棄物を原子力発電の問題とリンクすれば、既に発生している廃棄物から目をそらすことになる。賛成、反対を問わずに今の問題を処理しない限り、将来の世代に害を与えることになると警告しています。
 さらに大切なのは、情報公開です。世界中から人道国家№1と認められているスウェーデンと同じくフィンランド国民が原子力発電を容認している大きな要因は、徹底した情報公開にあります。情報公開が人々の不安を除く不可欠のシステムで、パブリックアクセプタンスのもとになります。




4.持続可能社会とはなにか。将来の人類とコミュニケーションはとれるのか。
 人類の祖先ネアンデルタール人の時代からこれまで1万年しか経っていません。その昔、人間はピラミッドや万里の長城や東大寺大仏殿を作りました。歴史的な建造物です。しかしたかだか5000年も経っていません。
 今、地球は気候変動の問題を抱えて、持続可能社会の構築がスローガンになっています。持続とはいつまでのことを指すのでしょうか。永久にと言います。でもこの映画にも出てきますが、地球は6万年ごとに大氷河期に襲われています。その時にすべて人類の記録が失われてしまいます。その後の断絶した世代と、文字とか記録とかで私たちは交流ができるのでしょうか。できないのではないかと監督は疑問を投げかけています。

 フィンランド当局がオンカロに心血を注いでいるのは、ここをいかにして人間社会、人間の好奇心から遮断するかです。これまで人類の遺産は後世の人の脚光を浴びることで価値が生まれました。オンカロはまったく逆です。どうしたら人間がそれを忘れてくれるか、無視してくれるだろうか。最良のあり方は永遠に忘れ去られることなのです。存在の否定がすべての価値であるとオンカロは訴えます。そうしなければ、また(被爆という)人類の悲劇が始まると予言しているようです。
田練るtaneruinto_eternity.jpg ピラミッドを設営したファラオは栄光を夢見ました。外敵を防ぐために万里の長城を建造した中国の皇帝は生命の永遠を願いました。しかしオンカロには降り注ぐ太陽もなければ栄華もありません。聞こえる音もなく、流れる水のせせらぎもない、針山に覆われて静寂な永遠の死の場所です。



5.日本ではどうなのか。 (この5項では、筆者の考えが書かれています。映画にはない内容です)
移動100000_img071 今世界には30ヵ国、435基の原子炉が稼動しています。日本には54基でアメリカ、フランスについで世界第三位です。そこから出る放射性のゴミを何とかしなければいけないことは、皆なんとなくわかっています。でも処理場をどうするかとなると、どの国もフィンランドほど熱心ではありません。

 日本で原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物の最終処分を行う事業母体は原子力発電環境整備機構です。処分場の選定は地方自治体に最大90億円の交付金を提示して公募する方法をとっています。しかしながら、2007年に高知県の東洋町が応募したにもかかわらず、町長や住民のゴタゴタで白紙撤回になりました。原子力問題の核となる「徹底した情報公開」が未熟なためと思われます。情報公開をどう進めるかが今後の日本の問題でしょう。

 もうひとつ放射性廃棄物、使用済み核燃料の処理には再利用があり、日本原燃が青森県六ヶ所村に核燃料サイクル工場を試験運転中で、最終的にはウランとプルトニウムを取り出して再利用する計画です。フィンランドのオンカロの考えとはまったく異なります。フィンランド(スウェーデンも同じ)が地下貯蔵のみで再利用しないのは、プルトニウムが核爆弾の原料になるからです。国際的なテロ組織が核爆弾を手にする脅威を避けるためです。同じ理由から原子力発電施設の輸出もしません。

 人類を核の脅威から守るというフィンランドの毅然としたグローバルな姿勢には、今さらながら敬意を払わざるを得ません。
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アップリンクからのインターネット配信情報
 全国上映中の『100,000年後の安全』のインターネット配信を開始いたしました。上映館数も続々と増えておりますが、より多くの方にこの映画を観ていただくために、 インターネットによる映画配給のシステムを利用いたします。

配信業者は下記の通り、視聴方法は各社異なりますので、
各配信サイトにてご確認ください。


◆配信業者一覧(2011年6月16日 現在)

「アクトビラ」(アクトビラ) 6月1日(水)~
http://actvila.jp/

「ひかりTV」(NTTぷらら)  6月10日(金)~
http://www.hikaritv.net/services/

「DMM.com」(DMM.com) 6 月10日(金)~
http://www.dmm.com/

「U-NEXT」(U-NEXT) 6月13日(月)~
http://unext.jp/

「ビデックスJP」(ビデックス) 6月16日(木)~
http://www.videx.jp/

「J:COM オン デマンド」(ジュピターテレコム) 6月19日(日)~
http://www.jcomondemand.jp/

「LISMO Video Store」(KDDI) 6月19日(日)~
http://www.lismovideo.jp/

「MOVIE SPLASH VOD」(KDDIと提携するCATV26局) 6月19日(日)~
http://catvvod.jp/sakuhin/osusume/

「Gyao!ストア」(Gyao) 6月23日(木)~
http://streaming.yahoo.co.jp/

「ショウタイム」(ショウタイム) 6月24日(金)~
http://www.showtime.jp/

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