映画「セカンド・サークル」 監督:アレクサンドル・ソクーロフ
2013年03月29日 公開

ベッドに横たわる父をベッドサイドから見守る息子(右)。
難しい映画。
監督は、作品メッセージをダイレクトに観客に伝えない。
抽象的なシーンを配置して、観客にある事を連想してもらおうとしたらしい。 ある事とは、エリツィン支持派の思いだ。その思いとは、ソ連が崩壊し、ロシア連邦が成立する直前の、行き詰るソ連に対するエリツィン支持派の思いだ。 (1990年、本作公開。1991年、エリツィンはロシア連邦の初代大統領になる。)
だから、その辺の事情を知らないで映画を観ると、確実に眠くなる。
例えば、動かず表情変えずの人物アップシーンが、フィルムが切れるまで続くのか・・・と思うほどに、長回しで続くのである。

この父親は独居老人で孤独死し、知らせを受けて息子が吹雪の中、駆けつけるところから映画は始まる。別居している息子は、父親の住むこの家に、久しぶりか、あるいは初めての訪問のようだ。そして父親自身も近所づきあいが薄いようだ、死後、発見まで時間があった。息子は、親の死に戸惑い、葬儀に向けての役所手続きに戸惑い、その幼い言動や鈍感な気づき対応から、未成年のよう。

死亡証明のため医療機関に出向く、町内の責任者との死亡確認対応、役所との葬儀段取り、防腐処理、死化粧等々、それぞれ細かに縦割りされた役所の部署担当者が代わる代わる、ずかずかと家に訪れ、事務的に作業しては去っていく。例えば、一連のこんなシーンが、形骸化するソ連の官僚組織弊害みたいなことを言っているのだろうかと、連想を求められている、のかもしれない・・・。
それにしても、この父親の家は水が出ずトイレや台所が悲惨で、部屋もあまりに散らかっていてひどい。これも隠喩なんだろう。父親はミイラ化が進んでいたようだ。
人間の死を尊厳を持って接する社会は、生をも尊厳を持って接する社会であるはずだ。ということかもしれない。そうだとすれば、この映画が言いたいことは、案外やさしいじゃん、と思えればラッキーか。
ただ、父親がどうしてこのような辺鄙な場所の丸太小屋にいるのかなど、そのキャリアや父子の背景は、観ていてわからなかった。なにしろ、93分の映画だが、字幕の総・文字数は、おそらく400字詰め原稿用紙で4枚くらいしかない映画。
現在、わが国でも、孤独死や家屋内事故死があった場合、事件の可能性があるために死体は一旦、強制的に警察の手に委ねられる。検死だ、解剖もあり得る。書類にサインしたりの一連ののち、遺族は死体が安置されている警察署か病院の安置室に出向く事になる。この安置室では、その遺体はステンレス製の台の上に寒々と置かれている。

英語タイトル:THE SECOND CIRCLE
監督:アレクサンドル・ソクーロフ|1990年|ロシア|93分|
脚本:ユーリ・アラボフ|撮影:アレクサンドル・ブーロフ|
出演:青年(ピョートル・アレクサンドル)|葬儀を執り行う役所部門の女性担当者(ナデージダ・ロドノヴァ)|タマーラ・チモフェーエヴァ|アレクサンドル・ブィストリャコフ|
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◆ アレクサンドル・ソクーロフ監督の映画 ~ 一夜一話より
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映画史上初!!驚異の90分ワンカットの映像という売り文句(全長は96分)
宮廷時代のホールや廊下まで、元宮城・エルミタージュ美術館全体を使って、各時代の宮廷内での歴史的シーンをスケッチ風に再現した劇映画。ロシア近世近代300年の歴史がジェットコースターのようなスピードで駆け抜けるように映像化されたと言われる映画。
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この映画、夢の中をさまようような悪夢的ストーリーです。
何となくあのことを言いたいんだなと連想させる幾つかのエピソードとその苦悩を、幻想的な心象風景で描く映像叙事詩というのでしょうか?
あのこととは、ソ連とその属国(中央アジアのトルクメニスタン)の政治的関係。ロシア人と中央アジア諸国人の民族的宗教的関係。さらに中央アジア諸国は強制移住の地、流刑地、核実験地であり、ユダヤ人、ドイツ人、ロシア政治犯が点在して住む荒涼とした砂漠地域・・・。
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ドキュメンタリーの主人公マリアは、夫とともに広大な集団農場で働いている。人手が足りないらしくマリアは、大型トラクターに乗り組むといった男の仕事もこなす働き者。そういった労働風景の映像だけが続く。これが第1部。
第2部。9年後にあらためてこの農場を訪れて、以前に撮影した映像を村の公民館で上映するさまが映し出される。 ◆ 「マリア」へは、こちらから。
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