映画「夫婦善哉」・「喜劇 夫婦善哉」  森繁久彌×淡島千景、藤山寛美×野川由美子

  森繁久彌×淡島千景の「夫婦善哉」と、藤山寛美×野川由美子の「喜劇 夫婦善哉」を並べてみた。
  「夫婦善哉」は豊田四郎監督(1955年)、「喜劇 夫婦善哉」は土居通芳監督(1968年)だ。どちらも、実力ありの映画だ。

  話は昭和7年の大阪。
  曽根崎新地の芸者蝶子(淡島/野川)は誰が見てもいい女。性格もいい。結構天然。そこが可愛くて、旦那衆誰もが言い寄る。そんな蝶子が惚れたのが、よりによって維康柳吉(森繁/藤山)。大店の薬問屋の長男。ドラ息子放蕩の限り。維康家(これやす)の家庭や教育の問題もあろうが、柳吉は精神的に大人になることを避けて来たきらいがある。逃げの一手、嫌なものから逃げる。易きに流れる、芸者遊び。女にめっぽう弱い。ついに勘当!そんな柳吉が不憫でならない蝶子。私の力で、なんとか一人前の男に仕立てたい一心。苦労はいとわない。
  父親は決断した。柳吉の妹の筆子に婿養子をとって、維康商店の跡継ぎができる。柳吉と蝶子は二人だけで、飛田遊廓の中に「蝶柳」という関東だき屋(おでん屋)をひっそりと始める。そのうち柳吉は賢臓が結核になる腎結核を患い片方の賢臓を摘出する手術を受ける。手術後、有馬温泉へ養生に。その後も、あれやこれや、次から次へ、ひと悶着ふた悶着あって、でも柳吉と蝶子の二人は、だいぶ回り道しながらも自分達の道を歩むことになる。どちらも原作は織田作之助。


善哉ages夫婦善哉
  正統派。製作予算もあったようだ。一分の隙も無い仕上がり。映像の奥行き感も充分。森繁&淡島のなんとも言いようのない品があって、綺麗で、しっとり、控えめで、ひとなつこい演技。相性。文句の付け所が無い。
  淡島千景を、もっと再評価しよう。
  森繁はあと10年ほど経つと、自信満々さをおもてに見せるような演技をする俳優になって残念だが、この頃はとてもいい。
  同じく森繁&淡島の「新・夫婦善哉」は別な機会にあげてみたい。

路地_53858247_0  監督:豊田四郎|1955年|東宝|121分|モノクロ|
  原作:織田作之助|脚色:八住利雄|撮影:三浦光雄|
  出演:森繁久彌 (維康柳吉)|淡島千景 (蝶子)|
  浪花千栄子 (おきん)|小堀誠 (柳吉の父・維康伊兵衛)|司葉子 (柳吉の妹・維康筆子)|森川佳子 (柳吉の娘・維康みつ子)|田村楽太 (種吉)|三好栄子 (お辰)|万代峰子 (金八)|山茶花究 (婿養子、筆子の夫・京一)|志賀廼家弁慶 (駒七)|田中春男 (長助)|春江ふかみ (鳩子)|二条雅子 (里枝)|梶川武利 (新聞記者)|丘寵児 (新聞記者)|大村千吉 (客A)|三條利喜江 (薬屋のお内儀さん)|上田吉二郎 (客一)|吉田新 (客二)|広瀬正一 (客A)|谷晃 (巳之吉)|本間文子 (おふさ)|出雲八重子 (ヤトナA)|江幡秀子 (ヤトナB)|登山晴子 (料亭の女中)|宮田芳子 (熱海の宿の女中)|沢村宗之助 (儀平)|若宮忠三郎 (おきんの亭主)|河崎堅男 (通りのコック)|

淡島千景が出演の映画をここにまとめています
これ


喜劇2222   feo喜劇 夫婦善哉
  題名に「喜劇」と付いているが、アチャラカしていない。
  地元ナニワで夫婦善哉をやりたかった、という藤山寛美の意気込みを感じる映画。舞台での演技よりアクを抜いている。この映画からみると豊田四郎監督「夫婦善哉」は気取った作り、文学的。
  製作予算に制限があったのだろうと思う。テレビドラマ風な映像になっている。がしかし、そんなこと承知の助で、藤山寛美、野川由美子が大熱演。間髪入れず丁々発止、ねちねち逡巡なんかしない。ふたりの掛け合いに味とエネルギーがある。
  森繁×淡島の柳吉&蝶子と比べて、こちらの方が計算高く、世間を知ってる柳吉&蝶子になっている。また、こちらの方が正調大阪弁で大阪色が色濃く出ていて、物語の座りがいい。    
  柳吉の悪友として長門裕之がチョイ役でビリヤード場のシーンに出てくる。いやいや、長門裕之かっこいい!
  また、通りで蝶子が八掛見に手相を見てもらうシーンがある。この八掛見が桂米朝だ。

たいこuzenzaiura  監督:土居通芳|1968年|松竹|89分|カラー|
  原作:織田作之助|脚色:土井行夫・森崎東|撮影:平瀬静雄|
  原題:The Love Birds
  藤山寛美 (維康柳吉)|野川由美子 (蝶子)|
  松本染升 (柳吉の父・維康柳平)|御陵多栄子 (やす江)|河村有紀 (柳吉の妹・筆子)|平山謹子 (柳吉の娘・久子)|中村是好 (種吉)|初音礼子 (お辰)|萬代峰子 (おきん)|南田洋子 (金八)|北村英三 (儀平)|財津一郎 (婿養子、筆子の夫・太市)|大泉滉 (弥助)|曽我廼家一二三 (安吉)|曽我廼家鶴蝶 (おかね)|長門裕之 (隅田)|小島慶四郎 (借金取り)|桂米朝 (八掛見)|華かおる (キヌ子)|柳沢真一 (ラッキョ)|白川淳子 (末子)|花村美津子 (寄宿舎の舎監)|石島康代 (宿屋の女中)|


柳吉の父親は、変わり行く時代に対応するために、薬問屋の維康商店を今後どうすればいいのか、その解決策を持てなかったのだろう。もちろん息子柳吉じゃ無理。だから外部から人材を採用するしかなかった。採用の仕方は、柳吉の妹に婿養子。この婿養子が社長になる。旧来の経営法から法人経営にしていかないと、銀行も振り向いてくれない。薬問屋街での競争に置いて行かれることになってしまう。昭和7年とは、そんな時代だったのでしょう。
※維康商店は薬問屋ではないというご指摘を頂戴いたしました。詳しくは下記のCommentsをご覧ください。


大阪を舞台にした映画をここに集めました。
大阪
(兵庫・和歌山・奈良も含めました)


豊田四郎 監督の映画
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豊田四郎


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やまなか
Posted byやまなか

Comments 2

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山中  

白い猫様
ご指摘ありがとうございます。
床屋に入ると決まってプーンと臭ってきた事思い出しました。

2012/03/17 (Sat) 21:08

白い猫  

惟康商店は“薬問屋”ではなく「安化粧品問屋」です。(“安化粧品”とは床屋パーマ屋へ卸す安物の化粧品。)
豊田「夫婦善哉」では船場の大店ということになっている(柳吉のせりふにも“船場”の語あり)が、原作は梅田新道。オダサクは格式を考え敢えて船場にしなかった。豊田八住はこういうところがわかっていない。
柳吉の言葉使いは船場の若旦那にしては汚な過ぎる。柄が悪いという大衆のイメージに迎合している。
柳吉が財産分けを求めて店に乗り込み店頭で入り婿番頭などに悪態をつくシーンは原作にない。これはいくら放蕩息子の行状にしても常識を欠く。こんなシーンがあると、大阪を知る者なら柳吉に感情移入できなくなる。
豊田四郎の限界か。無論脚本の八住にも責任あり。

2012/03/17 (Sat) 13:04

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