映画「レイチェルの結婚」  監督:ジョナサン・デミ

上
レイチェルの妹・キム

  ある姉妹の話。
  姉・レイチェルは、自身の結婚式準備に追われていた。
組1-0  米国東部・コネティカット州にある彼女の実家・バックマン家は裕福だ。家は大きい、庭は緑豊かでとても広い。
  レイチェルは、この家で、その何もかも手作りの、心こもったおもてなし、納得のいく結婚式&パーティをしようと、新郎・シドニーと共に、挙式の方法や、ウエディングドレスやケーキ、料理や余興のコンサートに至るまで、アイディアを出し合い、親しい人達の助けを得て、今日まで楽しく計画を練って来た。さあ、その日は、あさって。
  料理の準備、屋外の設営やらに余念のない友人たちが、家や庭のあちこちにいる。父親・ポールも、後妻のキャロルも、なにかと手伝いをしている。
  庭に、白い大きなテントが立ち上がった。ここでライブコンサートが行われる。新郎・シドニーは音楽業界の人らしい。親しいプロのミュージシャンがたくさん来ている。レゲエ、サンバ、ロック、ソウル、フリージャズ、ヒップホップ、クレズマーと音楽のジャンルは多彩で、どれもすごくセンスがいいサウンド。バックマン家は、エスニックでカラフルな色合いに染まり始めていた。

組2-1  そんな、家中の大わらわをかいくぐって、両親は車を走らせ、娘のキムを迎えに行く。
  キムはレイチェルの妹だ。 迎えに行く先は、依存症・回復施設。一時帰宅の許可を得てキムは、実に久々に実家に帰って来た。

  たぶん、あの頃、キムは16歳だったんだろう。(映画は多くを語らない)  
  その日キムは、年が離れた弟・イーサンを車に乗せ、ふたりだけでドライブに出た。キムは麻薬でラリッていた。運転を誤り、車が川に落ち、チャイルドシートのイーサンは溺死してしまった。事件は当時大きなニュースとなって、街の人々の記憶に残った。
  そののち、キムの依存症はエスカレートしたんだろう。家はゴタゴタが絶えなかった。父親とうまくいかなくなった母親が、家を出て行った。残された父親は、キムの扱いに手こずり続けた。姉のレイチェルも、キムには手を焼いた。そして、どうかすると、父親の愛情がキムひとりへ注がれているように、感じ始めたレイチェル。だが賢明なレイチェルは、その感情を表にしなかった。
  一方キムは、精神的にどん底にいて何もかも振り乱していたが、でも、時々は本来の繊細なキムでもあった。彼女は姉のそれを感じていた。感じていたが、感じた分だけ反作用して、キムは自己中心の女王様的態度を父親の前でする。父親はさらにキムに対して、そして、レイチェルはさらに・・・。父娘3人の、そんなマイナス・スパイラルの末に、キムは依存症・回復施設に入ったのだった。(以上のことは映画の途中で徐々に分かってくる。)
組3-0
  姉妹の久々の再会。
  ふたりは、すなおに嬉しかったが、同時にどう接すればいいか、互いに手探りであった。キムは知らない人々が家に大勢いることで、すでに心を硬くしていた。タバコを離せない。
組5-00  結婚式の前々夜祭として、身内のパーティが始まった。総勢30人ほどもいる。新郎の家族や親戚も来ている。新郎新婦の友人に父親の友人もいる。順繰りに出席者のスピーチが始まる。父親の親友が、ついイーサンの名を口にした。急に顔色が変わったキム、レイチェル、父親・・・。(このスピーチ場面で映画は、新郎新婦や両家の人々の、これまでの様子や社会的地位を描写、紹介している。このシーンを理解しないと映画の奥行きが見えてこない) 

  そのさなか、実の母親アビーが夫とともに、予定より一日早く、突然に現れた。ウソ!と喜び、母に駆け寄る姉妹、それとは対照的に急に立ち上がって身構える父親と後妻。だが、場の緊張は、みなの祝福の雰囲気にかき消される。
  スピーチが、キムの番に来た。その内容に、レイチェルはむかついた。あたしが作り上げた、あたしの結婚式よ。何よ、あんたの相変らずの自己中なスピーチ。パーティを壊さないで。
  たぶん、イーサン事件以前から、明るく行動的で頭のいい姉と、劣等感に苛まれる妹という構図があったと想像できる。

  翌朝、つまり式の前日は、大変なことが起こる。
  姉妹がそろって美容院に行く。そこでキムは、依存症・回復施設で一緒だった男に偶然遭遇。レイチェルがその場にいるとは知らずに、その男は当時キムから聞いた「レイチェルについての話(※)」をし出した。それは明らかに、姉の真実ではなかった。憤慨するレイチェル。
  キムは美容院を飛び出し、姉が運転してきた車に飛び乗り、何処へ行くでもなく猛スピードで走り去った。そして事故。
  車は林に突っ込んで止まったが、キムは警察官に起こされるまで車内で寝込んでいた。


組4-1  事故で顔にアザを作って帰宅したキムを、温かく迎えたのはレイチェルであった。
  その夜、実の母アビーとキムが激しく言い争った。それは、亡くした弟・イーサンのことであった。「なぜ、あの日、イーサンを私に任せたの?」というキムの、母への問いから始まった。 

  そして、挙式当日。
  家は招待客であふれ、たくさんの祝福のもと、式とパーティは計画通りに、盛大にとり行われた。そして朝から深夜まで途絶えることなく、次々に多彩なサウンドが家と庭を包み、みなダンスに興じた。
  夕方に実の母夫婦が、別れを告げた。翌朝、誰も起きてこない早朝に、依存症回復施設から迎えの車が来て、キムが去ろうとしていた。朝日の中、ただひとり、レイチェルがキムを抱きしめていた。中


  いい映画。大人の映画。キムの、3泊4日の物語。
  多くの人々の感情が重なり合う話を、うまく描き分けている。
  この作品に関心ある方は、下記のも、お薦めです。
  ※キムはウソをついていない、かもしれない。何年も精神カウンセリングを受けるうちに、患者の心のなかで、事実でないことが、いつのまにか「事実の記憶」となってしまう事があるらしい。 「バグる脳」 ディーン・ブオノマーノ著・河出書房新社・2012年

新郎の母と、姉妹の実母・アビー
下1-000

オリジナル・タイトル:Rachel Getting Married
監督:ジョナサン・デミ|アメリカ|2008年|112分|
脚本:ジェニー・ルメット|撮影:デクラン・クイン|
出演:キム:アン・ハサウェイ|姉・レイチェル:ローズマリー・デウィット|父親・ポール:ビル・アーウィン|実の母親:アビー:デブラ・ウィンガー|姉の夫になる男・シドニー:トゥンデ・アデビンペ|後妻:キャロル:アンナ・ディーヴァー・スミス|




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