映画「渋滞」  監督:黒土三男  出演:萩原健一、黒木瞳、清水美砂

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  他人の不幸は笑えます。
  年末に、千葉の浦安から、瀬戸内海に浮かぶ真鍋島という離島まで、つまり夫の実家へ車で帰省しようとする一家4人の話。

組1-0  家電販売店に勤める夫・林蔵(萩原健一)は、5年ぶりに帰省しようと思い立った。なぜなら、上期の売上成績が良かったせいか、今年は正月休みがもらえたからだ。働き盛りのこの5年、正直 結構多忙で、帰省なんて皆目 頭に無く、あっという間に5年の歳月が過ぎていた。
  島で漁師をする父親が、認知症になったという知らせは、母から聞いてはいた。それに、里美と大介は、真鍋島を知らない。当初は新幹線で行くつもりだった。だが、里美と大介を連れての帰省は、夫婦二人っきりの身軽さというわけにはいかないし、また旅費がばかにならない。
  結局、車で行こうと言い出したのは、夫・林蔵だった。12月30日の早朝に浦安を出発した。 そして、渋滞して遅くなっても、なんとか その日中には着けると考えていたが、甘かった。そう、映画タイトルから想像できるとおり、年末帰省の大渋滞。

  里美:「ここはどこ?」  母・春恵(黒木瞳):「川崎・・・」  里美:「えっ!まだ川崎なの」  これは、序の口であった。
  日が落ちて、夫・林蔵が実家の母に電話したのは、沼津のサービスエリアからであった。気持ちを入れ替え、じゃ豪華にホテルで一泊!と、はしゃいだものの、ホテル・旅館はどこも満室。結局、港に面した空き地で車中泊になってしまう。そうと決まって、夫は言う。「近くに自販機がないな。缶ビールでも買っときゃ良かった。」というと、おもむろに妻が袋から缶ビールを差し出した。にんまり笑い合う夫婦。(上の写真) だが、実家の食卓では、ぷりぷりの大きな寒ブリの刺身と、ちらし寿司に一升瓶が一家を待っていた。

  沼津を出発。妻が道路地図帳でナビゲートするが、慣れないことだし、知らない土地。どなる夫。一家は、迷ってしまう。おまけに雪道で、速度出し過ぎ&居眠りでスリップして1回転、惨事一歩手前であった。結局12月31日、その夜、実家に電話したのは、滋賀県の米原あたりの旅館から。
  部屋の階下では、地元の男たちがどんちゃん騒ぎ。外では、雪がしんしんと降っている。この日は夫婦の気持ちも迷走した。一日中、バカ呼ばわりされて、不機嫌に黙り込む妻。夫はぷいと旅館を出て大晦日の暗い町を歩き、開けている唯一の店に入った。お通しは数の子だった。
  気を持ち直して旅館に帰った夫を、暗い廊下で待っていたのは、帰って来ないかも、と思った妻であった。そのころ、実家では、重箱に入ったおせちが待っていた。

  元日の朝、新たなスタートを切った一家4人は、一般道を気持ちよく走っていた。だが、姫路あたりで今度は大介が大熱を出した。そしてガス欠。でも、なんとか病院へ。診断は病気じゃなかった。幼い子に疲れが溜まっていた。そんなわけで、大介の身体を休めるために、夕方早々にホテルにチェックインした。同時に、実家の母に訳を話し、今回は帰省せず、明日、ここから千葉へ引き返すと伝えた。

  翌日1月2日、一家は食堂で朝食をとっていた。そこへテレビから、帰省帰りの高速道路大渋滞130キロのニュースが流れる。思わずテレビを見上げた4人。食事を済ませ、車に乗り込んだところで、夫婦は顔を見合わせた。そして車はUターンして、岡山県へと向かった。

組3-0  真鍋島への小さな連絡船。船が島に近づくと、たくさんの船影。島の漁船が総出で大漁旗をなびかせ林蔵一家を迎えにきた。思わぬ出来事に感激して大きく手を振る夫。実家の母には、一泊できない、連絡船が島に停泊している間だけの帰省で、その便でとんぼ返りだ、と伝えていた。
  親戚や顔見知りの人々も、一家をあたたかく迎えてくれて、即席の酒盛りは港で始まった。だが、認知症の父親の表情は硬いまま。さて、時はまたたくまに経って、見送りのなか、連絡船が出港する。
  出港しばらくして、一隻の漁船が追ってきた。それは父親の船で、父親は漁船から連絡船へ向けて、大きなブリを投げ入れた。見つめ合う父子。手を振って別れる家族。

  具体的には帰省の物語だが、その実は、このくらいの子を持つ若夫婦の人生のあやを描いている。
  萩原健一と黒木瞳の夫婦ふたりだけの映画と言っていいが、萩原健一が地味に光る。最後までみせる映画。
  帰省途中で、一家に出くわす若い男女二人のうち、彼女役の清水美砂のひょうひょうとした可憐な味も印象に残る。

監督:黒土三男|1991年|108分|
脚本:佐藤峰世、黒土三男|撮影:高間賢治|
出演:萩原健一:藤 林蔵|黒木瞳:藤 春恵|宝田絢子:藤 里美|湯澤真吾:藤 大介|岡田英次:藤 市松|東恵美子:藤 セツ|清水美砂:芦川夏美|緒形幹太:稲葉翔太|中村嘉葎雄:坂本源内|犬塚弘:連絡船船長・遠藤|浜村純:実おじさん|小林亜星:医師・八田頼近|かたせ梨乃:遠野千花|正司花江:仲居・珠江|桜金造:警察官・山田|
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