映画「みれん」 監督:千葉泰樹 主演:池内淳子、仲谷昇、仲代達矢
2014年07月18日 公開


知子(池内淳子)は、小杉(仲谷昇)と愛人の関係になって、かれこれ8年になる。
その8年前、小杉は妻子を抱え生活苦にあり、かつ自分の才能と人生を諦めていた。そんな負け犬の男に、知子は無性に魅かれて行った。ある年ふたりは、知子の金で汽車に乗り 秋保温泉へ向かい、雪の温泉宿で心中を図ったが、死にきれなかった。
それからというもの、小杉は、家庭がある江ノ島近くの自宅と、友子がひとり住む文京区森川町(本郷6丁目)を行き来する生活を送っている。もちろん、知子は小杉の家内・ゆきと面識はないが、この三角関係は、小杉という優しい男を、互いにシェアする微妙な関係の上に成り立っていた。それはそれで、三人にとってそれなりに幸せな日々であったのかもしれない。
知子は、ろうけつ染めの着物の図案を描くテキスタイル・デザイナーで、女がひとり食っていくには困らない収入があって、経済的には小杉から自立して生きて来た。だから、彼女は世間から妾や情婦と言われることを嫌った。一方、小杉は作家になりたかったが、夢は果て、今は社史、創業者一代記を書くライター稼業。小杉の家内は、ミシン仕立てお受けしますという小さな看板を玄関に出して、洋裁をしている。

話はこの辺りから展開し出す。そもそも、知子は佐山知子といい、夫は佐山勇一という男。知子の故郷では名士であった。この元軍医で医院経営の夫が、選挙に出ることになり、選挙運動のアルバイトをしていた青年が、木下涼太であった。
知子は佐山と戦前に結婚し子もいたが、夫婦仲はうまく行っていなかった。そしてある日、若かった知子は、年下の木下涼太を連れて駆け落ちした。12年前のことである。だが、あとさき無い生活は続かず、二人の関係は破たんした。たぶん、別れを切り出したのは知子の方であったろう。

しばらくすると、知子の支援の甲斐があり、木下涼太は身も心も、本来の彼に復帰し始めた。その様子を見て、償いは終わったと感じた知子はもう会わないと言ったが、結局のところ、ふたりのこころは、あらためて通じ合うことになってしまう。
知子は混乱し出す。木下をただかわいそうに思う気持ち、木下への愛、そして小杉との落ち着いた生活、さらには冷静な自分。彼女の心は、これら四つの間を行き来するようになる。
やがて木下は、結婚しよう、小杉と別れてくれと せがむようになる。それを聞いて知子は、またしても、木下涼太を傷つけてしまったと後悔し出す。そして、彼に別れを言った。

その一時のち、小杉がいつものように、ふらりと知子の家に帰って来た。
この日のことが、知子をうろたえさせた。木下涼太との愛もさることながら、8年続く小杉との関係なくして知子は、今を生きていけないことを思い知る。そして、今まで気に留めなかった、小杉の妻・ゆきに嫉妬を抱くようになる。
ある日、畳表を新しくした知子の家で、小杉は寝転んでいる。そばにはべる知子が言い出す。「昔、あなた言ったでしょ、子供が欲しいって。」 「そんな事言ったっけ?」 「あなたがやっと、生きる元気が出てきた頃よ。」 「そうだった。」 「あたし、こうして畳のいい匂いを嗅いでいると、ふと家庭を持ちたいって思うわ。」

後日、知子は小杉に木下のことを告白する。静かに聞いた小杉は既に悟っていた。そして別れも悟った。
小杉と木下の人物表現に彫りの深さが無いし、あまりに不甲斐なく、特に木下がベタつく。もう少しカラッとせい!
この辺り、男の機微を上手に表現できていれば、この映画、もっと良くなる。残念。
これに引き替え、小杉の妻の人物像はうまく表現できていた。配役は岸田今日子だが、岸田の出演はなく、電話の音声と手紙の朗読だけである。つまり、知子の家にかかって来た電話の音声と、夫宛の手紙を知子が盗み読む時の手紙文朗読だ。岸田今日子の語りが、味わい深い。 さらに、知子が小杉の自宅を訪ねた時に、部屋にワンピースが揺れていた。妻がミシンで作ったものだろう。 小杉の妻を表現する、これらのシーンは観る者に多くを語りかけている。

監督:千葉泰樹|1963年|99分|
原作:瀬戸内寂聴・著「夏の終り」|脚色:松山善三|撮影:西垣六郎|
出演:佐山知子(旧姓相沢):池内淳子(1933年 - 2010年)|小杉慎吾:仲谷昇|妻ゆき:岸田今日子|木下涼太:仲代達矢|知子の図案を贔屓にする着物専門店・世喜弥の主人:加東大介|広告代理店社員・青島:名古屋章|同・由起子:山岡久乃|知子の元夫・佐山勇一:浜田寅彦|知子が住む貸家の家主・柿沼はつ:乙羽信子|居酒屋・三っ田のおかみ:沢村貞子|秋保温泉の女中:日塔智子|旅館の女中:矢野陽子|ホテル従業員:中山豊|たたみ職人:広瀬正一|菓子屋の主人:田辺元|靴屋の店員:伊藤正博|お茶漬屋の店員:川久保とし子|茶店の青年:青木君雄|洋品店の女店員:輝山恵子|世喜弥の女店員:歌川千恵|
千葉泰樹 監督の映画
【 一夜一話の歩き方 】
下記、クリックしてお読みください。
- 関連記事
-
-
映画「水の声を聞く」 監督:山本政志 主演:玄里 2014年製作・公開 2014/09/08
-
映画「ミスター・ミセス・ミス・ロンリー」 監督:神代辰巳 主演:原田美枝子、宇崎竜童、原田芳雄 2014/09/04
-
映画「東京五人男」 演出:斎藤寅次郎 2014/08/19
-
映画「極道ペテン師」 監督:千野皓司 主演:フランキー堺 2014/08/13
-
映画「時代屋の女房」 監督:森崎東 主演:夏目雅子、渡瀬恒彦 2014/08/05
-
映画「雁の寺 (がんのてら)」 監督:川島雄三 主演:若尾文子 2014/07/28
-
映画「NINIFUNI (ににふに)」 監督:真利子哲也 2014/07/22
-
映画「みれん」 監督:千葉泰樹 主演:池内淳子、仲谷昇、仲代達矢 2014/07/18
-
映画「濡れた赫い糸」 監督:望月六郎 2014/07/10
-
映画「渋滞」 監督:黒土三男 出演:萩原健一、黒木瞳、清水美砂 2014/07/04
-
映画「凶気の桜」 監督:薗田賢次 2014/06/22
-
映画「地獄」 監督:中川信夫 1960年 2014/06/18
-
映画「雨月物語」 監督:溝口健二 主演:京マチ子、田中絹代、森雅之 2014/06/12
-
映画「BU・SU」 監督:市川準 主演:富田靖子 2014/06/08
-
映画「孤独なツバメたち デカセギの子どもに生まれて」 ドキュメンタリー映画 2014/06/04
-