映画「雁の寺 (がんのてら)」  監督:川島雄三  主演:若尾文子

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  若尾文子29歳の映画。
  愛人として生きることを選択した女、愛欲に目覚める禅寺住職と、多感な寺の小僧。この三人の、生きるに執着する生きざまが、哀れでもあり滑稽でもあり、賢くもある、京都のお話。(原作:水上勉)

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  著名な日本画家・岸本南嶽(中村鴈治郎)の愛人であった里子(若尾文子)の実家は、京都市近郊の農家ようだが、貧しい。
  京のどこかの街で芸者だったんだろう。岸本画伯に拾われて愛人となり、京都画壇のハイソな風に多少は吹かれてきた。
  しかし、岸本の急死で里子の生活は一変する。岸本が息を引きとる間際、岸本が襖絵を描いていた禅寺の住職・北見慈海(三島雅夫)に里子を譲る、「面倒みたってくれ。」 と言い残した。岸本に付いて度々、寺に訪れる蝶のような里子に、住職は密かに惚れていたのだ。中1

  住職の寺は、洛北・衣笠山のふもと、灯全寺派の孤峯庵という子院。禅僧だから、これまで独身を通してきた。下働きに小僧が一人の質素な生活。だが、住職の友人で、やはり禅寺源光寺の住職・雪州(山茶花究)は、若い女と寺で同棲している。雪州はモダンアートな写真撮影に熱心で、京都のアートシーンに顔を出し、この女と出会った模様。
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  こんなことを横目に住職は、小僧の慈念に厳しい。
  料理、洗濯・掃除、風呂焚き、肥汲みと身の回りのすべてをさせて、細かいことまで小言を言う毎日。そこへ里子が加わった。
  ねっとりした住職の愛欲に里子は初め戸惑うが、日が経つうちに いつしか寺の女房となって行く。
  寺の事務も、卒塔婆の準備も板につく。

中2
  小僧の慈念(高見国一)は若狭の出。家は里子の実家より貧しい。
  口減らし、この寺に預けられた。娘なら売られていただろう。慈念は、極端に無口だ。
  住職の執拗な小言に刃向かわない。感情を露わにしない、内にこもるが、頭はいい。学校に通わせてもらっている、成績優秀。そこへ、里子が加わった。
  貧困のなかで育った者どうし、何か通じ合うものはあった。里子は面倒をみようとする。
  一方、慈念は、男女の情交を間近に見ることになる。


中5  その夜、住職は雪州らと酒の席であった。酔った住職は、遅くなって寺に帰った、はずだった。翌日、檀家の老人が息を引きとった。寺で通夜と葬儀をしたいという旨の連絡が寺に入る。しかし、住職の所在が不明だ。困って雪州と相談し、住職に替って雪州が葬儀を行うこととなった。葬儀が終わり、出棺の時。
中3  棺がやけに重い。死んだ老人は小柄であった。棺を担ぐ親戚たちは不審に思った。思ったが、哀しみと緊張、そして慈念の手慣れた段取りが、その場で思うことなど相手にせず、葬式の列を先へ先へと進ませるのであった。
  土葬、埋葬である。棺に土がかかり、その時、誰よりも安堵したのは、小僧の慈念であった。

  禅宗の戒律をうんぬんする映画ではない。
  里子の女の生きざま、住職と里子の生活、住職と小僧の慈念との葛藤、慈念の青春。映画は、どれをも描くが、どれも彫りが浅く中途半端な感じを受ける。殺人のトリックだけが印象に残る。
  若尾文子の映画と言いたいところだが、これはという良いシーンがない。その分、住職役の三島雅夫の、あのねっとり感が前面に出てくる。三島雅夫という俳優、こういうぬるっとした好色ものがうまい。
  加えて、雪州役の山茶花究。この俳優、表面はひょうひょうさらりと上手に世間を受け流しながら、実は・・・といった役どころで光る。
中4  おまけは、小沢昭一。映画ラストになって出てくる。(ラストだけカラー)
  のちに、寺が襖絵で有名になり「雁の寺」として観光名所になっているシーン。いい加減な英語で外人観光客たちをガイドしている。このひと、たまりませんね!
  最後に、岸本南嶽が描いた雁の襖絵と映画のストーリー、無理にこじつけた感じしかしませんが、映画を楽しむには特に影響ありません。


下監督:川島雄三|1962年|98分|
原作:水上勉|脚色:舟橋和郎、川島雄三|撮影:村井博|
出演:若尾文子(桐原里子)|木村功(宇田竺道)|高見国一(堀之内慈念)|三島雅夫(北見慈海)|山茶花究(雪州)|中村鴈治郎(2代目)(岸本南嶽)|萬代峰子(桐原たつ)|菅井きん(おかん)|金剛麗子(岸本秀子)|荒木忍(独石)|寺島雄作(桐原伊三郎)|石原須磨(男喜七)|西村晃(木田黙堂)|高見王国(堀之内捨吉)|北野拓也(徳全)|天野一郎(助三)|伊達三郎(久間平吉)|藤川準(兄平三郎)|


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しっとり京の街並み、その匂い。
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