映画「時代屋の女房」 監督:森崎東 主演:夏目雅子、渡瀬恒彦
2014年08月05日 公開


なんと言っても、夏目雅子がすばらしい。彼女の巧まざる魅力が溢れている。これを愛でる映画。
話自体は、どうということはない。
東京の下町、品川区大井の商店街周辺の街。
アンティークショップというよりも、古道具屋 「時代屋」のあるじ・ヤス(渡瀬恒彦)の店に、身ひとつでふらりと現れ、その日からヤスの女房風になる真弓(夏目雅子)。ヤスと真弓は、その一瞬から愛し合うこととなった。
真弓は店の手伝いや家事、また東北への古道具買い付けの旅と、いつもヤスと一緒に過ごした。だが時折、何処かへ行ってしまうこと数回。ふらりと来たんだから、またどこかへ行ってしまう。その度にヤスは、一喜一憂気もそぞろ、仮想の相手に嫉妬したり、失恋事態に陥ったり。だが、真弓はケロッとして帰って来て、ふたりはまた日常に戻るのであった。

つまり、時代屋のヤス(渡瀬恒彦)や、近所の喫茶店のマスター(津川雅彦)の、生きる中途半端さは、過ぎ去った’60~’70年代の同時代的な空気への、漠とした愛着と憂いを、未だに引きずっているが故。明日を模索する、その一歩手前で踏みとどまっている男の生きざまだ。
物語はさらに、どこからともなくやって来て、一つ所にとどまらない風来坊な女を主役に据える。自らの出自や過去を語らず、何の前触れなく街に現れる女。そんな女の素敵に魅かれる風の時代がある。1960~70年代がそうだったような気がする。
だから要するに、’60~’70年代に培われた同時代観に共鳴できないと、この映画、夏目雅子を除いては、味もそっけもない映画にしかみえないだろう。また、風来坊な女を、蓮っ葉な女、よそ者というように良く思わない向きにも、不向きな映画だろう。
今は、ファッションインテリアとして普通になってしまったアンティークだが、’60年代後半くらいからかな、若いのが集まってライブをやったり、ブルースのレコード聴かせたり、詩人が来たり政治を語ったりの喫茶店や飲み屋に、それまで誰も見向きもしなかったアンティークな品々がドライフラワーと共に店内に置かれるようになっていた。こんなことも、時代屋という店の背景にある。
(※)ヤスの出自と喫茶店のマスター
実は、この映画、幾つものエピソードが散らかっているため、ぼーっと観てると、話がよく分からない。
なので、ヤスと喫茶店のマスター、この二人の男に注目して観るといい。
ヤスの父親は業界の重鎮か政治家なのか? 死亡記事が朝刊に載った。病死であった。父親がまだ入院中のある日、後妻の菊池松江(朝丘雪路)がヤスを訪ねて来て、余命わずかであることを告げる。この女は、ヤスの乳母であった。なるほど、いい家の子なのだ。そのヤスは長い間、父親と会っていなかった。そして父は逝った。ヤスの反抗の青春に寄り添ったのは、’60~’70年代の抵抗の時代の風であった。
近所で喫茶店をやっている、好色なマスター(津川雅彦)は、今もって独身でふらりふらりの身過ぎ世過ぎ、ヤスとは飲み友達だ。若いころは60年安保闘争に燃えていた。少年期は、闇市の中で育ったらしい。

監督:森崎東|1983年|97分|
原作:村松友視|脚本:荒井晴彦、長尾啓司、森崎東|撮影:竹村博|
出演:名のある人物の倅。生来、骨董好き、時代屋のあるじ・ヤス(渡瀬恒彦)|主人公の真弓(夏目雅子)1957 - 1985|高卒で東京に出て来て化粧品会社に就職し6年目。結婚を控え明日実家に帰る、美郷(夏目雅子・・・一人二役)|少年時代は闇市で育った喫茶のマスター、60年安保闘争に加わっていたらしい(津川雅彦)|同店で働くユキちゃん(中山貴美子)|同じく渡辺クン(趙方豪)|15歳の時、駆け落ちに失敗した。線路わきのクリーニング店の今井さん(大坂志郎)|古いトランクを時代屋に売りに来たクリーニング店の奥さん(初井言栄)|飲み屋トン吉のおやじ(藤木悠)|卍がための、トン吉のおかみ(藤田弓子)|ヤスの乳母&父親の後妻さん・菊池松江(朝丘雪路)|真弓と出会った自殺しようとしていた若者(沖田浩之)|美郷と結婚する鈴木健一(この頃は、まだまだ若く元気だった平田満)|東北弁の平野旅館主人(坂野比呂志)|
◆ 夏目雅子主演の映画「魚影の群れ」 (監督:相米慎二)のレビューは、こちらから、ご覧ください。
森崎東 監督の映画
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