映画「ソウルガールズ」 監督:ウェイン・ブレア 2012年 オーストラリア映画
2014年08月23日 公開

’60年代のソウルミュージックが、ギッシリつまってる、ご機嫌な映画。
そして、オーストラリア先住民のことを少し知ることができる映画でもある。

歌の途中から、軽~く ローズの甘いフレーズが寄り添う。ぐっと来る。これがソウルへいざなう導火線。ここん所で、あなたの魂に火が付けば、楽しい限り。
ただし、この歌自慢コンクールは、白人主催で出演者も観客も白人ばかり。我々は、このシーンで有色人種差別の現場を見ることになる。ゲイルたちは、徹底的に無視される。観客は帰り出す。ただ、デイブだけは、違った。彼は、ゲイルたちの歌唱力に惚れた。
どうでもいいことだが、デイブが弾くこのピアノ「Fender RHODES」 の、ロゴ(金属製エンブレム)が取れてネジ穴だけになっているところが凝ってる。(写真)
ソウルガールズは、4人の女の子たちのこと。ゲイルの三姉妹に、プラスあと1人は、従妹のケイ。
実は彼女たちは、オーストラリア先住民で、街からずっと離れた居住地域に住んでいた。小さいころから、この4人は歌うことが何より好きで、居住地区の仮設ステージ(トラックの荷台)で歌い、みんなを楽しませていた。

当時、ベトナム戦争真っ最中の米軍が、戦地で兵士慰安のコンサートに出演・巡業する慰問団(ミュージシャン)を募集していた。この広告を見たゲイル三姉妹は、従妹のケイを誘い、押しかけマネジャー兼音楽プロデューサーのデイヴの助けを借りて、米軍のオーディションに挑戦。結果、みごとパスし、サイゴンに向かった。グループ名はサファイアズ。
彼女たち4人とデイヴそして楽団は、サイゴンを振りだしに、戦場の各地を巡って思いっきり歌うことになる。その間、兵士たちとの出会いと恋があり、リードボーカルのジュリーがスカウトされアメリカ行を打診されたり、慰問団の安全を確保する武装ガードが打ち切られたり、南ベトナム解放民族戦線の奇襲攻撃を受けたり・・・。とりわけ、当初から反目し合っていたゲイルとデイヴが、恋に落ちる。(奇襲攻撃シーンは、音響効果がリアル。ヒュンヒュンと銃弾が耳をかすめる。戦場にいるようで怖い。)
戦場での野外コンサートは、小さな仮設ステージであったり、無数の兵士を前にしての夜の大ステージであったり、また傷病兵たちを慰問するためベッドサイドでも歌った。
ここで、従妹のケイの話。彼女だけ肌の色が白い。(上の写真の左から2人目)
ケイが少女のころ、警察官など白人たちによって彼女は拉致される。そして白人社会に適応させるため、強制的に白人家庭に引き取られ育てられた。
ケイのような「混血のオーストラリア先住民は白人に近い存在」という考えで、国は幼い子供たちを「保護」し、キリスト教化した。これはアポリジニ保護隔離と同化政策。つまり、※白豪主義的な人種差別政策である。
ちなみにオーストラリア先住民の市民権は1967年になってようやく認められた。この映画は、そんなころのお話。
拉致されてから10年、ケイは親や友人たちから引き離され、街の白人家庭で白人として育てられ、現在はその家から病院に通勤し清掃婦をしている。
次のシーンも印象に残る。戦地で瀕死の重傷を負った白人兵士に応急手当てをしようとしたケイは、その兵士に言われる。「黒い手で触るな、黒犬!」 だが、そう言いいながら兵士はすぐに息を引きとった。

演奏シーンや挿入歌の多くは、ジュリー役のジェシカ・マーボイが実際に歌っている。だから、そのサウンドは、’60年代を尊重しながらも現代的。ドラムなんか、かっこいい。
※白豪主義:オーストラリアの白人最優先主義とそれに基づく有色人種への排除政策。

上左から時計回りで、ジュリー、ゲイル、シンシア、ケイ。

監督:ウェイン・ブレア|オーストラリア|2012年|98分|
原作:トニー・ブリッグス|脚本:キース・トンプソン、トニー・ブリッグス|撮影:ワーウィック・ソーントン|音楽プロデューサー:ブライアン・ジョーンズ|
出演:デボラ・メイルマン(ゲイル)|ジェシカ・マーボイ(ジュリー)|ミランダ・タプセル(シンシア)|シャリ・セベンズ(ケイ)|クリス・オダウド(デイヴ)|
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