映画「愛しのタチアナ」 監督:アキ・カウリスマキ フィンランド映画
2014年09月10日 公開

実にいい映画だ。 上質な喜劇です。
一見、素っ気ないまでの態度を示す作品かも知れない。

「愛しのタチアナ」、この映画の完成度は、様式美の領域にある。
自宅で、女物の服を手慣れた手つきで仕立てるヴァルト。
母親の仕事を引き継いだ。大きな体に小さなミシン。
これから始まるこの物語は、そんなヴァルトが見た、内気な彼の夢の話か。
ある日突然、俺は家を出るんだ。
急ぎの注文、母のこと全部打ち捨てて、男の旅に出る。
しかし出るには、金が要る。仕方ない、親をクローゼットに押し込んで、その隙にハンドバックから有り金全部いただこう。
まずは、こんな日のために準備しておいたモノを取りに行く。それは、母に内緒で郵便局留めにしておいたドライブ用のドリップ式コーヒーメーカーだ。

一方、アル中のレイノ (マッティ・ペロンパー) は、いつもウォッカのビンを手離さない。
そのレイノは、いい加減な自動車修理をやっている。
早速、彼に預けて置いた車を取りに行って、俺とレイノはこの町を出た。
車中、やつは隣りの席でウォッカ片手に、さっきから 大声出してエンドレスな馬鹿話。もちろん、俺は黙って運転だ。

片方は、エストニアの女・タチアナ(カティ・オウティネン)、もうひとりはポッチャリした女でロシア人のクラウディア。
ふたりはフィンランドに出稼ぎに来て、これから国へ帰るところ。

まず、レイノとふたりだけでホテルに入って行って、シングル2部屋でチェックイン。それから、女2人がホテルに入ってくる段取り。たぶん、受付の女は、見逃してくれる。
そして、何故か、話のこのあたりから、俺の思う通りに行かなくなるんだ。
成り行きのことだったのかも知れないが、荷物を持って部屋に向かうレイノの後をタチアナがすっと付いて行き・・・、これで自ずと部屋割りが決まってしまった。結果、俺はロシア女と部屋を共にすることになる。
さて、ホテルのレストランで4人で食事したいところ。だが、金がない。
ドリンクとタバコだけでも、楽しい会話をしたい。しかし、俺もレイノも、女向けの話題を持ち合わせていない。ダンスも出来ない。だんまりを決め込むしかなかった。(記事冒頭の写真)


そう、ここを聞いてくれ、レイノのやつ、テーブルの隅に置いてあったタチアナのカメラをそっと奪って部屋に行った。
だから、タチアナはそうかと思って、すぐに席を立ってやつの後を追ったわけ。
残された俺は、ロシア女と気まずい場を取り繕うはめに。 さっきから、このスチームの調子が、どうもおかしい・・・。
ま、しかし、一夜明けた。
その日は、一日走り続けて、夜になってヘルシンキにたどり着いた。
女2人は、明日ここからフェリーで、エストニアの首都タリンへ渡る。
気を遣ってタチアナとクラウディアは、我々ふたりにサンドイッチとティを奢ってくれた。
彼女たちも、金の余裕はなかった。その小さなサンドイッチは4等分されて、まるでカナッペのようだった。

4人は、埠頭でお別れの挨拶。女たちは、大きなフェリーの中へと消えて行った。
その時、レイノが言った。「まだ、金はあるか?」 と。
お人よしの俺は、少しはあると言ってフェリーの切符を2枚買い、車ごと乗船。海を越えタリンの港に着く。
ここで長距離列車に乗るクラウディアを見送った我々3人は、車でタチアナの家へと向かった。そして、やつは いみじくも言った。
「俺と彼女は、ここに残る。」と。 あっそ。
俺はひとり、来た道を引き返し、親を押し込めたクローゼットの戸を開けた。

オリジナル・タイトル:TAKE CARE OF YOUR SCARF, TATIANA
監督:アキ・カウリスマキ|フィンランド|1994年|62分|
脚本:アキ・カウリスマキ、サッケ・ヤルヴェンパー|撮影:ティモ・サルミネン|
出演:ヴァルト(マト・ヴァルトネン)|レイノ(マッティ・ペロンパー)|タチアナ(カティ・オウティネン)|クラウディア(キルシ・テュッキュライネン)|ホテルの受付(エリナ・サロ)|ヴァルトの母さん(Irma Juni Lainen)|

シングル盤をプレーヤーのスロットに押し込んで、オールディーズ・ロックンロールを、下記URLから どうぞ!
http://www.youtube.com/watch?v=4ou7QJxXLfs
(外部リンクですので、今後リンク切れが生じる可能性があります。)
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