映画「水の声を聞く」  監督:山本政志  主演:玄里  2014年製作・公開

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  設立間もない宗教法人(架空)の内情を軸に、教祖のミンジョン(玄里)とその父親、そして父親に借金返済を迫る地場のヤクザたちとの攻防を描く。

中2  一人暮らしのミンジョンと美奈(趣里)は、気の合う女友達で、ともに在日韓国人。
  ふたりは、新宿・大久保の街中に小さな店舗スペースを借り、ミンジョンを巫女 (みこ)役にして、占いの店を始めると、思いのほか客が付いた。
中  これに、ある男が目をつけた。ここから、このお話は始まります。

  その男とは、大手の広告代理店でマーケティングの仕事をしている赤尾という輩。
  彼は、商品のマーケティングじゃなく、宗教法人の仕事がしたかった。それも、客相手の仕事じゃなくて、自分の事業として儲けたい。そもそもマーケティングの元祖は、宗教の布教活動だ。

中  結局、ミンジョンと美奈は、赤尾の得意とする口車に乗せられたのかもしれない。
  ミンジョンが教祖役で、美奈は教団の管理マネジャー。赤尾は、勤務先の代理店の仕事をしながら、教団の相談役、と言いながら経営者。ちなみに、本人自身が一番知ることだが、赤尾に教祖の素質はまったく無かった。

  大久保にあるビルのワンフロアーを借りて、教団本部と聖なる礼拝所を設けた。さらに、本部スタッフが数人集まり、教団の態勢が出来上がった。
  これが、宗教法人「真教・神の水」である。
中3  「真教・神の水」の宗教スタイルは、韓国・済州島の巫女とその儀式をヒントにしたオリジナル。これを考え出したのは、赤尾はじめ教団メンバーだった。「水の声を聞く」という斬新なご宣託手法や、ネットを最大限に活用した手法は、今までにないタイプの教団ということで、「真教・神の水」のブランドイメージは老若男女問わず受けた。宗教ベンチャービジネス。



中4  そんなことが、宗教法人「真教・神の水」の始まりにあった。
  教祖ミンジョンのもとに、信者は順調に増えた。
  ミンジョンは、信者が抱えるさまざまな苦悩を、真摯に聞き入れた。
  同時に、楚々としたミンジョンの美しさと、その韓服姿は輝きを増した。 そして、赤尾の手腕は大したものだった。

中5  だが、事はミンジョン自身の苦悩から始まった。
  教祖に切々と訴える信者の苦悩を、「教祖役のお仕事ですから」として、右から左へ受け流すことが徐々に出来なくなってきたのだ。思えばミンジョンの祖母は、済州島の本物の巫女であった。このことを足掛かりに彼女は、母親を知る知人を頼って山に入り、巫女の修行を始めてしまった。

  教祖がいない!と、教団本部は焦ったが、赤尾はビジネスマンであった。彼は機転を利かせ、ミンジョンの代役に教団スタッフの紗枝を急きょ指名した。短時間のレクチャののちに、紗枝は教祖2号として信者の前に立つのであった。話は、ここで第二章に入る。
  ミンジョンが帰って来ないことをいいことに、代役のはずの紗枝が、地味で無口だった紗枝が、急変し横柄な教祖様的態度をとり始める。教団スタッフが3派に分かれた。紗枝を教祖に推す赤尾・多数派、いやいや教祖はやはりミンジョンでしょ と思う少数派、そして、のちに赤尾・多数派に流れていく中間派。

中9  勿論ミンジョン派の美奈は、心中穏やかでなく、教団管理のマネジャーとして悩む毎日を送ることになる。中10
  さて話は、大久保の狭い街で、さらに複雑に入り組んで展開する。
  行方知らずで やさぐれの、ミンジョンの父親・三樹夫。ミンジョンの父親とは知らずに、この三樹夫に借金返済を迫るやくざの高沢と、その手下たち。手下の一員でもあり、ミンジョンが実の弟のように可愛がっていた、実は悪徳少年・中学生のシンジ。
  父親・三樹夫は時折、娘の前に現れては、悪態をついて金をせびってきた。そして、娘の忠告をよそに三樹夫は、教団本部に顔を出すようになり、ついに事務所に寝泊まりするようになっていた。シンジは、いち早く三樹夫の正体を嗅ぎ付け、ボスの高沢に、三樹夫は教祖の実の父親だと伝える。
  一方、ふとしたことから、教祖2号の紗枝を巻き込んでいた、やくざの高沢は、あることを計画する。

  事態は、ミンジョンが教祖に復帰したことで始まる。
  一気に平社員に戻ってしまった紗枝は、ミンジョンを大いに恨んだ。ワルの高沢はこれを利用した。
  ある日、山奥の沢で、新生「真教・神の水」の儀式が、教団を挙げて執り行われようとしていた。この映画の、大団円である。
  突如、紗枝が現れ、信者たちに教団とミンジョンの嘘をぶちまけた。さらに、高沢たちやくざが侵入し儀式を壊し、三樹夫を殺し、ミンジョンを犯した。

上  しかし、ミンジョンは不死鳥のように舞い戻った。
  教祖として生きることを心に決めた彼女を、力強く支えるのは、誰よりも やはり美奈であった。  
  
  信者が凄い。
  教祖を前に、抱える苦悩を激しく吐露する信者たちのシーンが凄い。 観る者に、その苦悩が、ぐいぐいと迫ってくる。
  こんな様子が数シーンあるが、どれも、誰もが、いつそうなっても おかしくない境遇なだけに、とてもシリアス。
  この信者シーンが、作り話であるこの映画を、大変にリアルなものにし、映画の重心をぐぐっと低くしている。
  唯一、残念なのは、「水の声を聞く」にふさわしい、みずみず しい「聖なる水」のイメージが、映画から伝わってこないこと。

  ところで、北野武・原作の映画  「教祖誕生」 というのがある。これも、お勧めです。
  萩原聖人、北野武、岸部一徳らが出演。 こちらから。どうぞ。

下2

監督・脚本:山本政志|2014年|129分|
撮影:高木風太|
出演:玄里:ミンジョン|趣里:坂井美奈|村上淳:赤尾|鎌滝秋浩:ミンジョンの父・三樹夫|中村夏子:ミンジョンの代役教祖・紗枝|萩原利久:中学生のシンジ|松崎颯:小宮守|薬袋いづみ:小宮佳恵|小田敬:やくざのボス・高沢|齋藤隆文:文人|富士たくや:宮沢裕太|西尾英子:宮沢依子|間部祐介:俊一|高木悠衣:茂木奈緒|かわはらゆな:和子|小松茂孝:笹内|リー・マーシャル:Gee|牛丸亮:ジュン|


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