映画「最愛の夏」 監督:チャン・ツォーチ
2014年09月16日 公開


アビンとカンイ
穏やかな日常描写と、不幸な出来事とのバランスを取りながら、カンイの淡い恋と、姉思いの弟と、彼女を心配するアビンや父親の霊魂とを、ファンタジーに描いている作品。
夏休みで、台北から帰省した女の子・カンイのひと夏の物語。
舞台は、台北の東北にある港町・基隆(キールン)。貿易・物流で栄えている。夜市でも有名。台北から、そんなに遠くない。

こういう何でもない日常シーンを、ていねいに描く映画。だから、話の先を急がず、台湾の家庭の日常生活を、その家の臭いまでをも、ゆっくり味わえる気持ちがあるか否かで、映画に対する印象が変わってくる作品。

その親分の手下が、カンイが住む同じアパートに住んでいて、そこへ一人の男の子が引っ越して来た。名はアビン。
アビンは、この親分率いる組に入った新入りで、手下の家で居候することになったらしい。カンイとアビンの出会いである。
一方、アビンの幼なじみが、以前からカンイに片思いで、会えば「俺の彼女になれ」と言う。でも彼女には、まったくその気はない。しかし、この幼なじみというのが、やくざの息子。それも、カンイの父親が世話になった親分と競り合う、敵対勢力の組長の息子なんで、話がややこしくなって行く。
だが、カンイとアビンとに芽生えた淡い恋は育ち始める。
弟のアギィは、どこで覚えたのか、何かに付けて 「姉さんは、Fall in love だからね」 と言うようになる。片や、幼なじみの男は、一方的に三角関係に悩む。
アビンを預かるやくざが、相手の組員に呼ばれる。「カンイにアビンといった子供のもめごとには関与しない」と言う彼は、普通に見識があったが、相手の組員は聞く耳を持たない。相手の組長は、幼なじみの母親、つまり女親分。一人息子なんだろうか、話が粘っこくなってくる。かつ、この女親分は地元警察にも通じていて、その勢力は街では一枚上手のようだ。

続いて、カンイの悲しみに追い打ちをかけるように、健康を害していた父親の容体が急変し、入院先で亡くなる。
葬儀も終わり、悲しみに沈むカンイの家は静か。
港に面した窓辺にいた弟・アギィに、電話がかかって来た。
「アビン兄さん? どこからかけてるの? 姉さんだけど、泣くなって言ってよ。ずっと泣いてる。僕とも遊んでくれない。いつ帰ってくる? 明日?」 というところで電話が切れてしまう。ただし、彼の愛用の携帯電話は、おもちゃ。
悲しみを抱えつつも、家族の日常は日常として朝を迎え、朝食や洗濯・掃除と日々は淡々と過ぎる。
その日も、夕飯時を迎えていた。
義母やアギィと一緒に、夕食の準備をしていたカンイが、ふと、何かに誘われるようにして、窓辺に向かう。

急に玄関の方から人の声がし、窓辺の彼女は室内の方へ振り返った。
父親が旅行から帰って来たのだ。
土産がどうのこうのと言いながら、アギィはじめ家族やマッサージ師ら、みんなが嬉しそうに、お帰りと言って父を迎えている。カンイもみんなのところへ。そこに、アビンの姿が。
どうしたの、というカンイに、父親は、「アパートの前で、アビンに会ったから連れてきた。」と。
「田舎に帰ってた。俺に会いたかった?」 と言うアビンは、カンイに穏やかにほほ笑む。
カンイは、アビンを家族らが集まる夕食のテーブルへ誘うのであった。

とつとつと語る、こういう地味な映画もあるんです。
例えば絵画作品が自分自身を説明しないように、自ら進んで説明しない、こういう不親切な映画もあるんです。
誰でもが簡単便利に理解できるように作った「説明十分な映像」に慣れた眼で観ると、この映画は分かりづらく、よって退屈な映画の部類となってしまう。
オリジナル・タイトル:黒暗之光
英語タイトル:DARKNESS & LIGHT
監督・脚本:チャン・ツォーチ|台湾|1999年|102分|
撮影:チャン・ツァン|
出演:カンイ(リー・カンイ)|アピン(ファン・チィウェイ)|父アシュウ(ツァイ・ミンショウ)|アギィ(ホー・ホァンジ)|義母バオフェイ(シイェ・バオフェイ)|祖父 (ルー・イン)|ソン(リャオ・チィド)|アミン(チャン・ミン)|
チャン・ツォーチ監督の映画
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