映画「祇園囃子」 監督:溝口健二 主演:若尾文子、木暮実千代
2014年09月28日 公開


木暮実千代35歳、若尾文子20歳の映画。
祇園の芸者が馴染みの客から、商談成立の道具として、つまり 「女」として有無を言わさず利用されることになるが、抵抗しながらも、ことの成り行きを受け入れるしかない。映画は、祇園で生きていくより他に生活の糧が無い、芸者の悲哀と明日への勇気を描いている。

その美代春のかつての常連客・沢本(進藤英太郎)の娘が、舞妓(まいこ)になりたいと言って、美代春の家に転がり込んできた。話はここから始まる。
娘の名は、栄子(若尾文子)。 美人で姿もいいと、美代春の見立てで舞妓修行が始まり、一年経って筋の良い舞妓になった。
栄子の母親は上七軒の芸者だった。彼女は、その血筋を引いているのかもしれない。だが不幸にも最近、母親が他界し、生活苦で荒れる父親との生活が耐えきれず、家を飛び出して美代春のもとに来たのであった。

楠田専務は、8000万円の納入がかかった大仕事を抱えていた。客は役所で、発注窓口責任者は神崎課長という男であった。楠田の部下・佐伯は、神崎課長の接待を仕切り、神崎と楠田専務と共に、社用で馴染みの「よし君」の座敷にいた。座敷には、美代春ほか多数の芸者がいる。その中に美代栄もいた。ちょうどその晩は、美代栄のデビュー(見世だし)の日であった。
佐伯は、神崎が初対面の美代春に一目惚れしたのを、目ざとく感じ取った。
彼はすぐさま座敷を抜け、女将のお君にことの次第を確かめに階下に降りて行った。
神崎:女将!
お君:なんどす?
神崎:今、美代春(木暮実千代)に、旦那は有るのか無いのか?
お君:専務さんが聞いておやすの? 阿呆くさ 今さらなんどんね。
神崎:違う違う、専務は妹の方や。 (妹=美代栄・若尾文子)
お君:・美代栄どっか?
神崎:そや。
お君:ま~あ、専務さん、癖の悪い。見世だしの晩から何ゆうておやるの。
神崎:それは、ええけどな。 今、美代春に旦那が有るのか無いのか。
お君:旦那どっか? おへん。
神崎:ほんまやね。
お君:‥‥ほんまどすがな。
<しばらくの間>
お君:なんどんね?
神崎:大作戦をこねてるとこや。 (と、神崎は天井を見上げて、上の座敷にいる神崎対策に思いを巡らせる。)
(一方お君は、美代栄に誰か良い旦那を世話しようと思うようになる。)
さてある日、この8000万円の発注にあたって神崎は、根回しのため上京し本庁に出向くこととなった。
お供として、楠田専務に佐伯そして、佐伯に誘われて美代春がこれに付いた。彼女は、馴染みの専務と連れだって「遠出」のつもりであったのだろうか・・・。のちに彼女は、芸者の分別について女将から苦言されることになる。
さらに佐伯は、東京を見たことがない美代栄に誘いをかけた。若い美代栄は、東京見学できることを喜んだ。

本庁との一回目の根回しは不調だったが、専務らは神崎をねぎらおうとした。
部下の佐伯は美代春に、神崎と一夜を共にしろと押し殺した声で強要した。前もって聞いてもいないことに彼女は戸惑いを隠せない。おろおろするその時、隣室から悲鳴が聞こえてきた。
それは美代栄の悲鳴であった。美代栄の身体を求めた専務に抑え込まれた彼女は、思い余って専務の舌を思いきり噛んだのであった。結果これで、佐伯の心ない計画は霧散し、美代春は助かったのである。

神崎に顔向けできない専務と佐伯は、顔を潰された女将に何とかしろと迫る。女将は言う。「今度は何とかします。」
女将は、美代春を呼びつけて、例の30万円は専務から借りた金だと初めて言った。「あんた、あの30万円、返せるか?」
ことは明快であった。「返します」と言い返した美代春に、その晩を境に祇園中のお茶屋からお座敷がかからなくなった。もちろん、美代栄もである。それほどに、「よし君」の女将、お君は祇園で絶大な力を持っていた。
唯一、心配してくれる他人は、美代栄が通った舞妓修行の同窓生たちだけであった。

彼女は親兄弟がおらず、これまでひとりで生きて来た。しかし、今は身近に美代栄がいてくれる。この美代栄が自分を気遣ってくれる。この嬉しさが、美代春にとっては何物にも代えがたいものであった。
いつしか、ふたりに親子のような感情が生まれる。 「あんたの旦那はあたし」と美代春は言う。彼女は、美代栄との生活を守るため、ついに決心するのであった。
その晩、佐伯と女将が用意したお茶屋で待つ神崎。美代春は、そのお茶屋へ向かった。
翌朝、帰宅した美代春を美代栄は責めたてた。
だが、芸者ふたりにできることは他に無い。
現金なことに、この日の晩から美代春と美代栄に、ふたたびお座敷がかかるようになった。
ふたりは並んでお茶屋に向かう。京都は祇園祭であった。

祇園の芸者は、客の自由にならぬものと思っていたが、この映画ではそうではないらしい。※
接待のために女を使う、それも祇園の芸者を使うともなれば大接待なのだろうが、こんなことに頼るようなビジネス・スタンスなら楠田の会社の先はないし、役所の権威を笠に着て、金や女を求める神崎はげすな男だ。
映画のストーリーには、事業が上手く行かい美代栄の父親のエピソードが絡んでくるが、このエピソードは取って付けた感じがぬぐえない。東京行の夜行列車にこの父親がひょっこり現れるシーンは失笑。
※祇園には、ふたつの街があったらしい。祇園甲部と乙部。
映画の舞台は、祇園甲部。乙部は、自由になったらしい。
同じく祇園を舞台にした溝口映画 「祇園の姉妹」のレビューの最後のコメントもご参考に。こちらからどうぞ。

監督:溝口健二|1953年|85分|
原作:川口松太郎|脚本:依田義賢|撮影:宮川一夫|
出演:木暮実千代(美代春)|若尾文子(栄子・美代栄)|河津清三郎(楠田専務)|進藤英太郎(栄子の父親・沢本)|菅井一郎(専務の部下・佐伯)|田中春男(小川)|小柴幹治(役所の神崎)|浪花千栄子(「よし君」の女将・お君)|石原須磨男(幸吉)|志賀廼家弁慶(助次郎)|伊達三郎(今西)|毛利菊枝(女紅場の教師)|柳恵美子(かなめ)|小松みどり(お梅)|小林加奈枝(髪結)|大美輝子(八重)|橘公子(菊春)|小柳圭子(芸妓)|前田和子(女中)|種井信子(舞妓)|三田登喜子(舞妓)|上田徳子(舞妓)|不二輝子(小女)|久松京子(小女)|岩田正(富坂)|牧龍介(崎谷)|
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