映画「パンドラの匣(はこ)」  監督:冨永昌敬  出演:仲里依紗、川上未映子、染谷将太

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組1-0




  時は終戦直後。
  結核患者を収容する山奥の隔離施設で展開される、患者と看護師の恋の駆け引きを静かに綴る映画。

  病弱で兵隊になれなかった青年(染谷将太)が終戦間際に血を吐き、久坂健康道場という結核隔離施設に入った。
  入所後すぐに、ひばりと呼ばれるようになった青年は、同室のつくし(窪塚洋介)と親しくなる。つくしは看護師のマア坊(仲里依紗)といい関係であったが、つくしは退院していまう。
  彼が退院する日に、竹さん(川上未映子)が看護師長として赴任してくる。つくしはバス停へ向かう道で、すれ違った竹さんに一目ぼれするが、彼女はその時つくしに気付かなかった。

  その後、マア坊は徐々にひばりに魅かれていくが、同時に竹さんは、ひばりに対し何かと気配りするようになる。これを感じ取ったマア坊は、竹さんに近づかないようにと釘を刺す。一方、当のひばりは女性との付き合いに幼く、ぼんやりしている。その彼の幼さが、竹さんの気持ちをひばりに向かわせるのだろうか。

組2-0  そんなある日から、竹さん宛に手紙が届くようになった。結局、竹さんは久坂健康道場を辞めていく。退職の日、ひとりバスに揺られ道場を去って行く彼女の心は静かに輝いていた。そして、途中のある停留所から、ひとりの男が乗り込んできた。それは、なんと退院したつくしであった。

  原作は、太宰治の「パンドラの匣」(1946年)。 脚色は、監督の冨永昌敬。
  つまり、監督が太宰を読んで感じたイメージを映画にしているわけだから、原作とは違うのは当りまえである。これを原作とは違うと、とやかく言う必要はない。原作はひとつだが、あなたが読んだ太宰と私が読んだ太宰は、すでに違うのである。
  
  冨永昌敬という監督は、物語の空間にエフェクトをかける。つまり、ふんわりした肌触りのいい何やら薄いベールのようなものをかけることができる。2003年の「亀虫」もそうであった。これが本作で生きている。彼の魔法のベールが、結核隔離施設の暗いイメージを相殺している。


組3-0  戦中戦後、栄養不足、薬品不足、医師不足で、空気感染による結核は不治の病と恐れられ、とにかく隔離するより手立てはなかった。映画の久坂健康道場は、結核を治療する病院でない。道場でやれることは、ヨガの呼吸法らしきことや乾布摩擦だけで、あとは自力回復か死を待つだけである。
  そんな人里離れた道場で、外出もできずに死と向き合い、淡々と日々を送る患者らの明日を照らすのは、看護師たちだけであった。

  1945年8月15日正午、終戦を告げる玉音放送を聞き入る家族に、吐血を訴えるひばり。兵隊になれず大学進学も見送ったひばりは、生まれかわりたかった。新しい男になりたかった。

  マア坊役の仲里依紗が、彼女の持ち味を元気いっぱい見せてくれる。さらには、竹さん役の川上未映子が女優初挑戦らしいが、これが良い。
  また、音楽担当の菊地成孔のサウンドが、オシャレで良いセンス。1945年という時代設定の古臭さを払拭し、異空間を作り出す。映画冒頭の、バスのシーンで流れるスキャット&ピアノ伴奏が抜群に良い。
  さらに、のちの場面で、このピアノだけが患者たちが唱える念仏のバックに流れる。これがまたいい。この映画は、観るものの音楽感受性を刺激する。
  総じて言えば、太宰にとらわれていると、この映画の良さは見えてこない。太宰をモチーフにしながらも冨永監督は、案外、別なところに立っている。

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監督・脚本:冨永昌敬|2009年|94分|
原作:太宰治|撮影:小林基己|音楽:菊地成孔|
出演:利助、病棟内での通称・ひばり(染谷将太)|竹さん(川上未映子)|マア坊(仲里依紗)|つくし(窪塚洋介)|固パン(ふかわりょう)|越後獅子(小田豊)|かっぽれ(杉山彦々)|ひばりの母(洞口依子)|場長(ミッキー・カーチス)|大月キヨ子(KIKI)|


 冨永監督作品:「亀虫」  2003年
main_20141008125849025.jpg  「亀虫」なんていうキーワードがトンガリ感を誘うが、奇をてらった映画じゃ、決してない。
  つまりいたってまっとうな映画、肩の力を抜いたストレート勝負、そんな良さを感じます。
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