映画「過去のない男」  監督:アキ・カウリスマキ

上2
組1-0
  記憶喪失で過去を失くすことと、それまで築き上げてきた人生を捨てることは次元の異なることだ。
  記憶喪失後に妻と会った、過去のない男(マルック・ペルトラ)は、互いが不仲であったこと、妻に愛人がいること、離婚は成立していることを知る。そして、過去のない男は、それまでの職、溶接工の職も戸建の家も社会的地位も、元妻も過去の自分も捨てた。
  何がどうだったかはわからないが、列車に乗ってヘルシンキに来て辻強盗に殴られ記憶喪失になった。
  所持金もなく底辺生活を送るうちに、救世軍の職員イルマ(カティ・オウティネン)に出会い恋に落ちる。つまり、過去のない男は記憶喪失を機に、底辺の生活者になるのを覚悟で過去を捨て、イルマとの愛を得る。住む家は、空き地にある錆び付いたコンテナ、それも貸家だ。

  アキ・カウリスマキ独特の語り口に共振する人々は、そう多くないかもしれないが、本作はそこんところを改善している。例えば、こんなシーンがある。
  過去のない男が、若い男たちに殴られ瀕死の重傷で集中治療室に運び込まれるが、治療の甲斐なく心肺停止。医師も看護師も去った後に、男はICUのベッドからむっくり起き上がり、身体に付いた管やコードを、まるでフランケンシュタインのように引きちぎる。分かりやすく笑いを誘うが、一方、このシーンが挿入されて目障りと言うこともない。このあたりが巧い。もちろん、こんなシーンが無くても、本作に影響は全くないのだが。
  過去のない男・役のマルック・ペルトラは、悪くはないが、やはりマッティ・ペロンパー(故人)のほうが味が出る。


底辺の人々が集まる救世軍主催の食事会。ブリューゲルの絵のようだ。
左奥に、イルマと過去のない男がいる。

下






オリジナル・タイトル:Mies Vailla Menneisyyttä
監督・脚本:アキ・カウリスマキ|フィンランド|2002年|97分|
撮影:ティモ・サルミネン|
出演:マルック・ペルトラ(過去のない男)|カティ・オウティネン(イルマ)|アンニッキ・タハティ(救世軍のマネージャー)|ユハニ・ニユミラ(ニーミネン)|カイヤ・パリカネン(カイザ)|サカリ・クオスマネン(アンティラ)|マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ(救世軍バンド)|


こちらで、アキ・カウリスマキ監督の作品をまとめています。
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