映画「午前中の時間割り」 監督:羽仁進 1972年
2015年03月24日 公開

草子と、その後ろが、玲子。

左が草子、右、玲子
草子と玲子とは、とても親しい女友達。玲子と親二は、初々しい恋人同士。
主人公のこの三人、1972年のその当時、高校三年生だ。
映画は、この「1972年」に意味を感じて製作されている。
それは、1960年安保闘争から始まる学生運動、そのムーブメントが ’70年安保闘争で挫折し、急速に衰退して行った1972年。
その時、大人の入り口に立つ高校三年生とは、1960年代の混沌の時代以後の新世代、団塊の世代を兄姉とする子たちだ。さらには、終わってしまった’70年安保闘争を心のどこかに意識する高校三年生にとっては、「遅れて来た世代」と言える。 とにかく青春真っただ中の、草子、玲子、親二とは、そんな子たちなのだ。

だから監督にとって、草子(国木田アコ)と玲子(シャウ・スーメイ)の自然なその表情、特にふたりの「カメラ目線」が必要だった。
そのため、親しい間柄で撮り撮られの、気取らず構えずの8ミリ映像が多用されている。インディペンデントな映画だが、奇をてらう新しさをその趣旨とする前衛的、実験的な映画じゃないことを感じ取って欲しい。
監督のその感性は、ナイーブでやわらかい。
ところで、今回この映画をあらためて観て思うに、1972年。あのころは、どういう時代だったろうか。本作のバックグラウンドを思い返してみる。
’70年安保、その1968年~1971年の怒りの時が過ぎると、一部の若い人々を中心とする反体制的気運は萎え、虚脱感と無気力が彼らの手元に残った時代。
それと同時に、一般の人々も、なにやら共になって、そんなどんよりした同時代の空気を呼吸したかのような、そんな時代。経済も低調であった。
一方、アメリカから来たヒッピー文化をはじめとする反体制的雰囲気を取り込んだファッション、ロックミュージックやらの文化が商品化され、世の中一般に浸透して行った時代。つまりジーンズ、ロングヘアなど、見てくれのカウンター・カルチャーっぽさが、若者の間では最先端でかっこいいと思われた時代でもあった。
そんな同時代が織りなす雰囲気が誘ったのだろう、一言で言えば、若い人のヤンチャがちょっとかっこよく思えた時代。
そのヤンチャとは、無気力な気分で、反体制的雰囲気をなぞって真似て、世間の既成概念を破ってみようする行動とでも言おうか。今からみると、それは結構幼く、また、古くさい「世の縛り」がまだあった。
1971年の映画 「あらかじめ失われた恋人たちよ」 ※は、そんな時代の気分をいち早く先取りしていた。
それは、やっちゃいけないことを羽目を外してやってしまう、その人個人の小さな無鉄砲さだ。
例えば、教師や親や受験や故郷や世間への挑発・反抗、高校生の飲酒喫煙、男の放浪・女の一人旅、ひとり勝手なオフザケ路上パフォーマンス、無賃乗車、場当たり的な人生選択、同棲ごっこ、万引きや盗みやら・・・、期待される良い子でいることへの自問自答と自分自身への反発が原動力の、向こう見ずな行動。映画に登場する草子に象徴される 「午前中の時間割り」とは、そういうことだ。

戦中生まれのツワモノや団塊世代が飛び跳ねた、ゴツゴツ手触り感ある60年代と、スマートで狡猾でバブルを準備する80年代前半との、狭間に位置した、なんとも頼りなげな感傷の時代だった。けれど、人はみな、懸命に生きた。「午前中の時間割り」とは、そういうことだ。
※映画 「あらかじめ失われた恋人たちよ」 の記事はこちらから。
ヤンチャといえば、状況劇場の唐十郎もヤンチャだったし、チェコの映画「ひなぎく」も姉妹のヤンチャの映画であった。
「ひなぎく」の記事はこちらから。
ちなみに、1979年の桃井かおり主演の映画 「もう頬づえはつかない」 は、70年代の残り香だ。この記事は、こちらからどうぞ。
監督:羽仁進|1972年|101分|
脚本:中尾寛治、浜田豊、荒木一郎、羽仁進|撮影:佐藤敏彦|
出演:国木田アコ(今木草子)|シャウ・スーメイ 蕭淑美(山中玲子)|秦野卓爾(下村親二)|沖至(沖)|吉田まさ子(草子の叔母)|矢部正男(玲子の父)|板津正二(刑事)|和田周(浜口先生)|蜂尾和彦(沼田さん)|野沢房良 (高野さん)|
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