「環りの海 - 竹島と尖閣 国境地域からの問い」 「ハモの旅、メンタイの夢 - 日韓さかな交流史」 「海路としての〈尖閣諸島〉 - 航海技術史上の洋上風景」 ・・・最近読んだ本。
2015年05月07日 公開

最近読んだ本から、竹島と尖閣の問題についての3冊をピックアップしてみました。
こういう問題は、ネットで情報をチェックする、他人の意見の切れ端を拾い読みする、といったことでは到底掴み取れるものではないし、早急に反応すべきものでもない。ことは多面的でかつ、問題のすそ野は思うより広い。

◆「環りの海 ― 竹島と尖閣、国境地域からの問い」
琉球新報 (著)、山陰中央新報 (著) 発行:岩波書店
竹島と尖閣の問題を、島根県沖縄県の両県の地方紙2紙が、共同企画し連載したルポルタージュ。
漁業の当事者として、現実や歴史を、地域や漁場からの目線で、かつ国を越えた大きな視野で、冷静に見つめている。その勇気を称えたい。
ややもすると、領土問題についての好戦的な姿勢に対し、早急に Yes か No かを問いがちな世の中。あるいは、Yes と No を並列して見せるしかない大手マスコミ。
そんな中、足元からモノを言うこの本は、一読に値する。
まずは、下記の目次をご覧いただきたい。
さらには、第3章の中の、「戦後から冷戦へ ― 米国が残した曖昧さ」、この指摘も重要だ。
とにかく、竹島と尖閣の問題を語る場合、この本のように、少なくとも200ページは費やす、とても多面的な問題なのだ。
序1章 翻弄される国境の民
第1章 不穏な漁場 ― 苦悩する漁業者たち
竹島 ― 乱獲と密漁
尖閣 ― 「国有化」がもたらしたもの
第2章 対岸のまなざし ― 中国・台湾・韓国の人々の思い
中国 ― 「反日」感情への距離
台湾 ― 領有権より漁業権
韓国 ― 歴史の相克、変化の胎動
第3章 絡み合う歴史 ― 「対立」の背景を探る
領土編入以前 ― 航路漁場で利活用
領土編入期 ― 実業家主導で領土に
戦後から冷戦へ ― 米国が残した曖昧さ
国交回復期 ― 苦肉の外交と先送り
国連海洋法条約以後 ― 境界めぐり衝突
第4章 世界のアプローチに学ぶ ― 対立を乗り越えるために
南沙諸島 ― 「紛争回避」を目指して
ペドラ・ブランカ島 ― 第三者による解決
オーランド諸島 ― 住民自治を基礎に
アルザス・ロレーヌ地方 ― 争いの火種を共同管理
第5章 踏み出す一歩 ― 人・地域をつなぐ試み

◆「ハモの旅、メンタイの夢 ― 日韓さかな交流史」
竹国 友康 (著) 発行:岩波書店
日韓の漁業とその交流史を、下関と釜山の港を起点に語る本。
領土・領海の政治問題の文脈とは別に、日本、韓国、および中国、ロシアの4か国間では、その不足を補う魚の輸出入は相互依存の関係になっている。
例えば、すけとうたら(明太)と、ぐち。乱獲と自然環境の変化で、近年、漁獲量が大幅に減少している。韓国は、日本海、東海、オホーツク海のすけとうたらを、ロシア・日本から輸入。黄海、西海のぐちは中国から輸入している。
そして、京都の夏の風物詩、ハモ(鱧)。わけても、その高級品は韓国から輸入されている。
書名はファンタスティックだが、中身は韓国現代史でもあり地味な内容。しかし、日韓関係を下関と釜山を起点に、じんわり理解できる。
第1章 日韓「さかな」交流のいま ― 水産物の取引現場を歩く
第2章 コムジャンオクイの生活文化史 ― その「起源」をたずねて
第3章 臨時首都釜山避難民の生活誌 ― 朝鮮戦争のなかで
第4章 ミョンテとプゴ ― 朝鮮在来の水産業の過去と現在
第5章 植民地と学問 ― 魚類学者・鄭文基と内田恵太郎
第6章 日本の植民地統治は何をもたらしたのか ― ミョンテ漁をめぐって
第7章 ハモの旅 ― 韓国南海から京都へ
おわりに 海峡を渡る風に吹かれて 下関から釜山へ

◆「海路としての〈尖閣諸島〉 ― 航海技術史上の洋上風景」
山田 慶兒(著) 発行:編集グループSURE
中国・福建と琉球を結ぶ、明・清の時代にあった航路。その航路上に尖閣諸島はある。羅針盤が未発達な当時、尖閣諸島は航路の目印であった。
「指南広義」という古い航海指針書を見出した著者は、本書で航海技術史を語っている。
その上で著者は言う。この海域の島嶼はかつて、どの国の領土でもなく国境線もなかった。1880年代以降、帝国主義の時代になってから、領土・国境の概念がこの海域に持ち込まれた。
固有の領土とは何だろう。いつからどのような形態で領有すれば、それは固有の領土と呼べるのか。
さらに著者は言う。歴史問題はすぐに解決するは難しい。しかし、資源開発は経済問題だ。経済問題は、冷静になれば、その解決は難しくないのではないかと。
第1章 この文章を書きはじめるまで
第2章 「福建ー琉球航路と釣魚嶼 ─ 中国と琉球国の無名の遠洋航海者たちを讃えて」
第3章 これをめぐっての討議
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