映画「運命じゃない人」 監督:内田けんじ

上2

 なかなかの映画。練りに練ったストーリー。喜劇仕立てのサスペンス。監督自らの脚本に脱帽!
 夜、ある男が帰宅した後の、数時間の間に起きた出来事です。
 話の冒頭は、ユル~イ恋愛話で始まりますが、ここで侮ってはいけません。ストーリーは次々に思わぬ展開をし始めます。そして、登場人物5人の真実が暴かれていきます。喜々としてご覧ください。
 映画は、幾つものエピソードが、寄木細工のように組み合わさって出来ています。各エピソードは、互いに時間差があって時系列的に1時間程度前後しています。

1-0_201509051236056d0.jpg 平凡な会社員の宮田は、新婚生活1週間で女房のあゆみに逃げられた。貯金をはたいて買った広い新築マンションで、ひとりわびしい毎日。段ボール箱に詰めたあゆみの荷物は、まだ部屋に置きっぱなしである・・・。
 宮田はまだ、あゆみへの未練が残っている。それを聞いている親友・神田は、宮田に説教する。気持ちを切り替えて、積極的に新しい彼女を見つけろと。

 さて、次に書く冒頭シーンは、な~んでもないような場面だが、(あとで分かるが) 実はとても重要なシーンだ。
 ある日の事。仕事を終えた宮田がマンションに帰って来た【1】。 帰って来て早々に、神田から電話が入る。いつものレストランで一緒に飯を食おうとの呼び出し。電話越しの神田は、なにやら強引な口調だ。そして、何故だかヒソヒソ声【2】。 疲れている宮田は断ろうとしたが、あゆみについて話があると聞いて、店へスッ飛んで行く。
 店に着いたが、神田はまだ来てない【3】。 だいぶ待たされる。やっと神田が現れ、彼が言ったことは、街であゆみに会ったと、ただそれだけの話だった。優しい宮田は、ムッとしたが口に出さない。
 そのうち神田は宮田に、また例の話をし出す。新しい彼女を見つけろと。あつかましい神田は、後ろのテーブルでひとりでいる女性に声をかけた。飯はひとりで食っても美味くない。奢るから、こっちに来て一緒に食おう。意外にも、女はすなおに従った。
 しばらくして、神田はトイレに立つ。そして、席に戻ってこない。どこかに行ってしまった。宮田が神田に電話すると、俺はいま仕事中だ【4】、 お前ら二人、うまくやれ。と言ったきり電話は切れる。残された宮田と女は、気まずい食事をした。

2-0_2015090512414972f.jpg 続いて、以下のシーンは、さらに重要なシーンだ。
 その女は、名を真紀といった。大きなバッグを抱えている。真紀は、同居していた男から婚約破棄され、家を出た身であった。帰る家がない。仕方なく、宮田は真紀を泊めることにした。ふたりはマンションに着いた【5】。 真紀は、空いているあゆみの部屋に通される。
 そこへ、こともあろうに突然、あゆみが現れた【6】。 置きっパの荷物の中に、ぜひ今、欲しいモノがあるから取りに来た、すぐ帰るからと言う。
 そんなもめごと聞いた真紀は、自分のバッグを抱えて部屋からあわてて出てきた。ふたりに悪いからと言って、彼女は逃げるように出て行った。そして、そして、しばらく躊躇した宮田は、真紀を追って急いでマンションを出て行った。
 
3-0_201509051252104c8.jpg さてさて、ここから先は、映画が進むうちに分かってくること。 
 宮田の親友・神田は実は私立探偵だった。
 職業柄、宮田の元妻あゆみの失踪に不審なものを感じた神田は、密かに彼女の身元を洗っていた。分かったことは、彼女は結婚詐欺の常習犯だった。幾人もの男を騙して稼いだ金をたんまり持っている。そして、あゆみは、さらにもうひとつの重要な真実を抱えている。てなことで、神田は、宮田がかわいそうで、ことの真実を宮田に話せないでいる。

 そんなところへ、事件が起こる。
 ある日、失踪したはずのあゆみが、神田の探偵事務所にひょっこり現れた。
 あゆみが持ってきた黒い皮張りのアタッシュケースには、札束がごっそり入っている。外国に高跳びしたいから手伝ってくれとニッコリと言う。
 だが神田は、あゆみの申し出を受けたくない。なぜなら、あゆみは浅井組組長・浅井の愛人だ。やくざとはかかわりたくない。ましてカバンの金は組事務所から盗み出した金らしい。彼女は組事務所から直行でここへ来たようだ。そう言わずに助けて欲しいと、あゆみは神田に手数料100万円を差し出し・・・、hmm、神田はしぶしぶ仕事を引き受けた。
中1 あゆみは言う。まずはパスポートが宮田のマンションにあるから取りだしたい。親友なので合鍵を持っている神田は、アタッシュケースを抱えたあゆみと一緒に、マンションに侵入した。そこへ、まずいことに・・・【1】へ。
 ふたりは咄嗟に身を隠し、神田は室内から、室内にいる宮田へ電話した・・・【2】へ。

 宮田をマンションから追い出した神田は、盗んだ金は組に返そう、そうしないと高跳びしても追われるぞと、あゆみに言い含めて、(レストランへ行く前に)アタッシュケースを組事務所へ急いで、そぉーっと届けに行った・・・【3】へ。その時、神田は組員に顔を見られたが、まあ事なきを得た。

 その間、訳あって、あゆみは再度、宮田のマンションに戻った・・・【6】へ。
 真紀を追って出て行った宮田がいない誰もいないマンションで、あゆみは微笑みながら、元の自分の部屋に入り、急いで段ボール箱を開けた・・・【7】

4-0_20150905130739893.jpg 浅井組長は、組員たちを引き連れて食事から戻ってきて、留守中に金庫の金が盗まれたことに気付いた。留守番役の新入り組員が、犯人はあゆみだと言った。すぐに浅井は組員たちにあゆみを探せと指示を出す。
 その時、盗まれたハズのアタッシュケースが、事務所前の廊下で発見される。浅井がケースを開けると、なんと・・・。さらには神田探偵事務所の名刺がアタッシュケースに入っていた。浅井は、組員たちに神田も見つけ出せと指示を出す。そして組員たちは、レストランにいる神田を偶然に発見する。当然、すぐさま車に乗せられ組事務所へ連行された・・・【4】へ。
 一方、組長浅井は、単独で神田探偵事務所へ向かった。何者だ?神田と言う男。探偵事務所で入手できた情報は、愛人・あゆみの調査ファイルと、その中にあった1枚の写真。写真には、あゆみと宮田という男が仲睦まじく写っていた。宮田の住所も分かった。そこでこんどは、浅井は宮田のマンションに侵入した、そこへ・・・【5】へ。
 驚いた浅井は、あゆみの部屋のベッドの下に潜り込んで身を隠した。浅井はベッドの下から、その一部始終を見聞きし、ことの全容を誰よりも知ることとなった・・・【5】~【7】。
 そして、浅井はベッド下から出て、段ボール箱からまさに札束を取り出そうとする、あゆみと対面した。現行犯、彼女は何も言えない。
 浅井は車にあゆみを乗せて組事務所へ向かった。そこへ、組員に捕まった神田も事務所に連れられてきた。あゆみと神田、互いに状況の悪さを目で確認し合った。あゆみが神田に支払った100万円が巻き上げられた。浅井は言う。これと引き換えに、神田、お前は釈放だ。(続けて) そうそう、そう言えばと言いながら、あんたは知らないよね、浅井は神田にアタッシュケースの中身を見せた。エッ!と神田は驚いた。あゆみはそっぽを向いている。

5-0.jpg そうだ、忘れちゃいけない、真紀を追ってマンションを出て行った宮田のその後は、どうなったんだろうか?
 真紀にやっと追いついた宮田は、好きだと告白したが、突っぱねられる。真紀がタクシーに乗りその場を去ろうとした時、宮田は電話番号を聞いた。タクシーの運転手が番号ぐらい教えてあげな。宮田はメモをもらった。(でも、それはデタラメの番号だった)
 走り出した車中、ふたりの間の空気を読んだ運転手が彼女に言う。実直で良さそうな男じゃないか。ああいう若いのが減ったな。
 それを聞きながら、真紀は大きなバッグをそっと開け、札束を確認している。
 翌朝、真紀は宮田の部屋の前に立ち呼び鈴を押した。抱えたバッグには札束がそのまま入っていた。
 
 アタッシュケースには、元々もっとたくさんの札束があった。浅井があゆみから取り返した札束は全部じゃない。残りはまだ真紀が持っている。それを知っているのは浅井だけ。
 そして、浅井のほかには誰も知らない秘密がもうひとつある。それはヤクザのメンツにかかわること。だが、その秘密が暴かれるのは時間の問題になっていた。もし宮田がその秘密を知ったなら、私立探偵の神田に相談するのだろうか? 危ない!

 ちなみに2つのこと。ひとつ:ちょっとしたタイミングで、あゆみは宮田から金をだまし取れなかった。なぜなら、狙われた金を宮田はあゆみの知らぬ間にマンションの頭金として振り込んでしまった。ふたつ目:浅井は抱いた女の臭いを忘れない鼻の利く男だった。

 全体通して、ゆったりした空気が流れています。それがいいです。
 とにかく、ぼんやりして観ると、たわいないラブストーリーにしか見えない映画ですからご用心を。

予告編はこちらから。


監督・脚本:内田けんじ|2005年|98分|
撮影:井上恵一郎|
出演:会社員の宮田(中村靖日)|婚約破棄された女・真紀(霧島れいか)|私立探偵の神田(山中聡)|浅井組のボス・浅井志信(山下規介)|結婚詐欺のあゆみ(板谷由夏)|浅井組の組員(眞島秀和)|

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