「東アジアと日本」をテーマに、東アジアの現在をちょっと俯瞰する。・・・最近読んだ本。「越える文化、交錯する境界」「アジア 力の世紀」「われ日本海の橋とならん」「アジアインフラ争奪」「日本と出会った難民たち」

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 「東アジアと日本」をテーマに、その現在を俯瞰してみようと試みました。
 選べた本の内容は、各国の国境を勢いよく越境する大衆文化、中国・アメリカ両国の強力で巧みな外交戦略と日本、日中韓による東アジアのインフラ建設受注競争、最後に、内なるアジアとして日本国内のアジア難民の現状、以上の計5冊。(Kindle版含む)

 
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「越える文化、交錯する境界 - トランス・アジアを翔るメディア文化」  (アジア理解講座)
  岩渕 功一 (編集) 山川出版社 2004年

 東アジアの国々において、テレビ、CD・DVD、インターネットなどのメディアの普及や雑誌流通の発達で、日本・韓国・香港・台湾が製作したドラマや漫画やポップミュージック等が、国境を越えて広範に、それぞれの国民の人気を集めている。その実態と背景を知ることができる本。(下記目次参照)
 視聴率上位10番組に占めるドラマ・映画などフィクションの比率が、印象に残ることのひとつ。その比率は、北米10%、ヨーロッパ27%、アジア75.7%、とりわけ中国香港台湾韓国の4国では80%と、アジアにおいて、ドラマへの集中度は圧倒的に高い。(EURODATA TV 2001年 本書P.88)
 なお、本書発行が2004年と古いので、四方田犬彦・編著の「アジアの文化は越境する ~映画・文学・美術」(弦書房・2011年)も読んだが、本書が述べる延長線上に現在はあるようだ。



【目次】
序章 方法としての「トランス・アジア」
Ⅰ越えるつながり、越えない文化
   ・「日本偶像劇」と錯綜するアイデンティティ ~台湾における日本製テレビドラマの消費
   ・犬はあなたで、犬はわたし ~アニメ『フランダースの犬』の旅をめぐって
   ・タイの歌はきこえてくるか? ~ポピュラー音楽流通の非対称性をめぐって
Ⅱナショナル化されるトランスナショナル
   ・東アジア・テレビ交通のなかの中国 ~韓国と台湾の番組を中心に
   ・「韓国マンガ」という戦略 ~グローバリゼーション・「反日」・儒教文化
Ⅲ 内なる「越境アジア」
   ・円環の外へ ~映像にみるアジア・沖縄へのまなざし
   ・「在日音楽」という想像力 ~コリアン・ジャパニーズ・ミュージックの(不)可能性から、音楽が「在日」することへ
   ・ベトナム系住民とディアスポリック・メディア消費 ~越僑社会の文化交通とポピュラー音楽


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「アジア 力の世紀 - どう生き抜くのか」  (岩波新書)
  進藤 榮一 (著) 岩波書店 2013年
  
 中国含めアジア諸国との相互依存と連携、共生の持続が、いかに重要かは言うまでもないだろう。
 中国脅威論の立場に立つ限り日本は、「アジア 力の世紀」を生き抜くことはできないと著者は主張する。
 冷戦後、アメリカは自国にとって三種類の国があると定義したと言う。敵対国、同盟国、進貢国。進貢国に対しては、従順でアメリカの保護を受ける状態を維持することが、アメリカの地整戦略で極めて重要。(カーター大統領政権時の国家安全保障問題担当大統領補佐官ブレジンスキーが定義) 著者は言う、日本は自らその定義を実証して来たと。(P.112)
 一方、あるEU対外活動庁高官が著者に言ったそうだ。「問題はむしろ、歴史問題ひとつ解決できず、アジア統合を進められない日本外交の稚拙さですよ。」 
 混迷する日本外交のガラパゴス化の現状を直視し、同時にこれまでの歴史を資料(公開文書)に基づき振り返り、アメリカ・中国両国の巧みな外交の力と日本、アメリカのグローバリズム戦略、中国の軍拡とグローバルな通商経済大国となった中国の現実などの実態と真実を、2国間だけの狭い視野で語らず、日本のマスコミが語らない世界的視野・複眼の視野で解き明かす。
 ただし、一度読んだだけじゃ、なかなか頭に入らない。

【目次】
第1章 衰退する帝国、興隆するアジア  ・・(帝国とはアメリカを指す)
  二つのアジア|崩壊するヘゲモニー|脱亜入欧論を越えて
第2章 情報革命がつくるアジア力
  情報革命が変える産業の仕組み|地軸は東方へ|アジア経済一体化へ
第3章 TPPから人間安全保障共同体へ
  アメリカン・グローバリズムの外交戦略|TPPの罠、農業大国ニッポンのウソ
  アジア人間安全保障共同体への道
第4章 中国という存在
  脅威論という「いつか来た道」|中国の軍拡をどう読み解くのか
  グローバル化の海の中で|多国間主義外交へ
第5章 相互補完するアジア
  小国主導の開かれた地域主義|胎動するアジア通商共同体
  アジア金融共同体~ドル依存体制からの脱却へ
  開発共同体としてのアジア地域統合
第6章 欧州危機から見えるもの
  二つの戦後|百年に一度という神話
  欧州債務危機から再生ヨーロッパへ
第7章 日本の生きる道 - いま何をなすべきか
  一つのヨーロッパへ|ありうる三つのシナリオ|第三の敗戦を超える


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「われ日本海の橋とならん - 内から見た中国、外から見た日本、そして世界」
  加藤 嘉一 (著) ダイヤモンド社  2011年

 若くて、新しく柔軟な視点を持つ著者の本を探した。こんな人がいた。
 著者は現在、中国で最も有名な日本人、らしい(1984年生まれで北京在住)。中国版ツィッターで、著者のフォロワー数65万人、英フィナンシャルタイムズ中国版コラムニスト、北京大学研究員、香港フェニックスTVコメンテーター。
 中国共産党上層部にも愛読者たちがいる。彼らは、外から見た新しい視点が欲しいらしい。そんな著者が内から見た中国、外から見た日本についての言論は、まったくおっしゃる通りの直球正論だ。
 中国に在住しながら、どうして言論の自由を得ているかの、彼の視座が、明日の日本を示唆している。
 読後、中国が近くに見えてくる。
 手垢のまみれていない視点で相手の国を知ることの大切さを知る。(目次参照)



【目次】
第1章 中国をめぐる7つの疑問
  中国に自由はあるのか?|共産党の一党独裁は絶対なのか?
  人々は民主化を求めているのか?|ジャーナリズムは存在するのか?
  本当に覇権主義国家なのか?|途上国なのか超大国なのか?
  反日感情はどの程度なのか?    
第2章 僕が中国を選んだ理由
  環境は人をつくり、時代は人を変える|世界で勝負するには英語が必要!
  ほか、著者のこれまで。
第3章 日中関係をよくするために知ってほしいこと
  日本だけが抱えるチャイナリスク|地下鉄で胸ぐらを掴まれる
  中国が切って来たカードの意味|現代中国が抱える意外なリスクとは?
  反日デモとは反・自分デモである|チャイナリスクとジャパンリスクの関係
  日中が乗り越えるべき2つの壁
第4章 中国の民意はクラウドと公園にある
  インターネット人口5億人の衝撃|街に溶け込むインターネット
  検閲の壁をチャンスに変える中国人|ネット時代の万里の長城とは?
  なぜインターネットが脅威なのか?|「暇人」のエレガントな生活
  お金より大切な面子とは?|ほか
第5章 ポスト「2011」時代の日本人へ
  「自分にできること」はなにか|日本に寄せられた共感と敬意|ほか


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「アジアインフラ争奪」  (週刊エコノミストebooks)  [Kindle版]
  週刊エコノミスト編集部  毎日新聞出版  2015年

 アジアではインフラ特需らしい。道路・橋・鉄道・空港・港湾・発電・水事業。
 受注に向けての日系企業の取り組みと、アジア・インフラ投資銀行(A I I B)を使っての中国の対外戦略を主に解説している。
 経済成長著しいアジア新興国では、国内のインフラ整備が追い付かない。都市の道路は大渋滞、電気・水道の普及率が低い。しかし、自国の資金や技術で整備できない。よって海外に頼らざるを得ない状況。
 中国は経済成長が鈍化し始め鉄鋼・セメントの供給が過剰気味。あわせて国内市場が小さい韓国。ともに国を挙げてアジアのインフラ輸出に力を入れる。A I I Bが融資するインフラ事業では出資国企業を優遇することは十分あり得る。日本はこの激戦を生き抜かねばならない。また、日本は世銀やADB(アジア開発銀行)同様に、このA I I Bと協力するしかない。
 A I I Bを使った中国の狙いは、中東を含む西アジアへの進出らしい。オバマ政権による西太平洋から中東地域へのアジア回帰戦略「西進」に対抗する、中国の「西進」は中国地政戦略「21世紀・海のシルクロード」。一方、太平洋からバルト海に至る基幹道路の整備や人民元と各国通貨の直接交換取引の拡大を図る「シルクロード経済ベルト」と合わせて、これら2つの戦略を中国では「一帯一路」と言うらしい。
 
【目次】
・はじめに
・900兆円市場。インフラ獲得の熾烈な戦い
   資材・労務費の急上昇|土地収用の遅れ
   人材不足|言語・文化・地質の違い|契約リスク
・アジアインフラ投資銀行(AIIB) ~中国の対外戦略を担う。初代総裁候補・金立群に高い評価
・インフラ投資の仕組み ~ファンドを通じて分散投資
・道路・橋 ~東西・南部経済回廊で物流改善。ミャンマーの整備がカギ
・鉄道 ~高速鉄道、都市鉄道に多くの計画。受注めぐり中国とツバぜり合い
・鉄道受注獲得の戦い ~鉄道輸出に弾みをつけるJR参加
・空港 ~進む大規模化と民間開放。韓国勢らと激しい競争
・港湾 ~コンテナ急増に対応。運営にも続々参入
・発電プラント ~爆発的に伸びる電力需要。原発、石炭火力、地熱で食い込む
・水事業 ~水道輸出の突破口はノウハウ提供。日本企業は海外勢との協力が鍵


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「日本と出会った難民たち - 生き抜くチカラ、支えるチカラ」
  根本かおる (著) 英治出版 2013年

 欧州を揺らす難民流入の波。だが、日本に難民申請する人々も、近年急激に増えている。2014年は5000人、出身国73ヶ国。しかし、認定された数は、たったの11人。日本には来たが長年にわたり、認定されず難民にもなれない人々が大勢、年々累積してこの国にいる。そういう実態を本書は、わかりやすく明かす。
 通称、難民条約は1951年に国連で採択、日本は1981年に国会で承認、翌年発効。入国管理局が申請に基づいて審査する。保護を申請して審査を受けている段階の人々を「難民申請者」と呼ぶ。
 問題は・・と著者は言う。難民にあたるかどうかを審査する機関が、独立した審査機関ではなく、「入国管理」を主な目的とする入国管理局の一部局が審査する。自ずと「難民を守る」という視点よりも「入国管理」というゲートキーパー的なものの見方が色濃くなる。こういった点が弁護士・支援NPO等から指摘されている。
 下記の目次Part 1で書かれている、そもそも「難民とは誰か」という定義である難民条約(世界共通の定義)、難民と移民の違いを押さえておきたい。加えて、日本特有の「人道配慮」と呼ばれる制度(在留特別許可)、「ウシク」と難民申請者らから呼ばれる刑務所のような、強制送還されるまでを待つ収容施設も知っておきたい。また、著者は英国にある同様な施設がとても人道的であり、犯罪者あつかいされる日本との大きな違いを述べている。
 難民支援協会や支援NPO等が提案している新難民法の三つの柱。当たり前のことが法制化されていない。
 1.適正な難民認定が行われる仕組みを作る。
 2.審査を待つ間の法的地位を確立し、最低限の生活を保障する。
 3.認定を受けたあとの日本社会への適応を支援する。
 申請して何年経っても認定されない、生活困窮でホームレスになる人々も出現している。
 著者は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の元職員。 

【目次】
はじめに  ~ネットカフェ難民ではない、あなたの隣の「本当の難民」
Part 1 ニッポン国内の難民事情
  01 難民をめぐる定義・制度・歴史
  02 「ウシク」で見た景色 ~長期収容という問題  ・・「ウシク」とは東日本入国管理センター(収容施設)
Part 2 彼女が「難民」になるまで
  03 2Kのアパートが彼女の世界のすべて
  04 彼女の額には傷がある
  05 家族をめぐる問題
Part 3 難民同士、そして日本人がつながる
  06 女性を主役にするアクセサリーと料理の力
  07 難民同士の支え合い
  08 支援する日本人の広がり
Part 4 新しい難民受け入れのかたち
  09 新しい難民受け入れのかたちをつくる
  10 私と難民のこれまで、そしてこれから
おわりに ~みんなで支える時代へ



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やまなか
Posted byやまなか

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