映画 「しとやかな獣」 監督:川島雄三
2015年12月26日 公開
前田家は、息子の実(みのる)、父母、そして娘の友子の4人家族だ。

金は天下の回りもの。この映画でも、横領や、あるいは、いささか道義にもとる形ではあるが、金が人から人へ回って行く。
金の切れ目が縁の切れ目という。金があるうちは、ちやほやされたり慕われたりするが、尽きた時が人の縁の切れる時。この映画では、金が「貯まる」までは、ちやほやしたり慕ったりするが、貯まった時が縁を切る日になるようだ。
物語は始め、ベールに包まれている。
その幾重ものベールが、話の進むにつれて、さも楽しげに一枚一枚、はがされていく。
そして、その都度、じんわりにじみ出る人間関係と金の秘め事が見えてくる。映画は、そんな趣向になっている。
前田家は、かつては極貧の生活をしていたようだ。
しかし今は、父・時造(伊藤雄之助)、その妻・よしの(山岡久乃)は、息子と娘からの入金で、そこそこ優雅に過ごしている。
息子の実(川畑愛光)は、芸能プロダクションの営業マン。彼は所属歌手の出演料を横領し、その金を実家に入れて来た。度重なる横領で、その総額は100万円になったらしい(昭和37年当時)。これがついに発覚し、プロダクションの社長が前田家に乗り込んできた。しかし実(みのる)の両親は、「うちの息子に限って、そんなことをするはずはない」とシラを切る。
社長が帰ったあと、父親は実(みのる)にやんわり言う。「お前、100万円も横領したのか、うちに入れた金はたったの20万円ほどだ。残りはどうした?」 さて、どうしたのだろう。
彼がこれまで、会社の金を誤魔化せたのは、経理担当の幸枝(若尾文子)と、いい関係だったからだ。そして、実(みのる)の懐に入った出演料の大半を、彼は愛人の幸枝に貢いでいたのだ。
前田家の娘・友子(浜田ゆう子)は、流行作家の吉沢先生(山茶花究)の「愛人をしている」。父が金に困っている、何とか工面して頂けない?なんて可愛くせがんで、これまで20万、30万とその都度、先生から金を巻き上げて来た。そして友子はその金を家に入れて来た。
実(みのる)も、先生と親しい。先生の代理で出版社へ原稿料を取りに行き、その金を実は横領している。
これらのことは、もちろん先生も気づいていたが、先生の小説のネタは、前田家の人々なのだ。盗られる金と小説のネタを天秤にかけて、先生は今まで我慢してきたが、ついに堪忍袋の緒が切れる時が来る。
一方、実(みのる)の愛人・幸枝(若尾文子)は、ある日、彼に対し一方的に縁を切ると言ってきた。旅館を開業するらしい。実(みのる)は驚き、かつ旅館の件は初耳・寝耳に水であった。
しかしだ、実(みのる)が貢いだ金額は、旅館開業資金の額を思えば、所詮、大した額ではない。
幸枝は、一体どこから、そんな多額の金を用意できたのだろうか。映画は、芸能プロダクション社長(高松英郎)と幸枝の関係を匂わす。だが、100万円の横領でおたおたする人間だ。
ここで、税務署の職員・神谷という男(船越英二)が、登場するが・・・。
この映画は娯楽映画だ。
全体に、コミカルなパウダーが振りかけられているので、どぎつい金の話にもかかわらず、ぎすぎすした映画にはなっていない。
若尾文子が主役なのだろうが、前田家4人を中心とした群像劇仕立てになっている。

総じて、若尾文子と伊藤雄之助の2人が、その実力を発揮している。しかし、ほかの俳優は、自身の役の、人物像の彫りが浅いのが残念。前田家の母親役の山岡久乃も息子・娘も、しかり。ただし、物語の構成がしっかりしているので、何とか救われている。
ちなみに、映画に出てくる金の流れは、図を参照ください。
監督:川島雄三|1962年|96分|
原作・脚色:新藤兼人|撮影:宗川信夫|
出演:三谷幸枝(若尾文子)|父・前田時造(伊藤雄之助)|その妻・よしの(山岡久乃)|その息子・実(川畑愛光)|その娘・友子(浜田ゆう子)|芸能プロダクション社長・香取一郎(高松英郎)|その専属歌手・ピノサク(小沢昭一)|税務署職員・神谷栄作(船越英二)|前田友子の旦那・吉沢駿太郎(山茶花究)|銀座のマダムゆき(ミヤコ蝶々)|
こちらで川島雄三 監督の特集をしています。タップしてお進みください。

【 一夜一話の歩き方 】 下記、クリックしてお読みください。

金は天下の回りもの。この映画でも、横領や、あるいは、いささか道義にもとる形ではあるが、金が人から人へ回って行く。
金の切れ目が縁の切れ目という。金があるうちは、ちやほやされたり慕われたりするが、尽きた時が人の縁の切れる時。この映画では、金が「貯まる」までは、ちやほやしたり慕ったりするが、貯まった時が縁を切る日になるようだ。
物語は始め、ベールに包まれている。
その幾重ものベールが、話の進むにつれて、さも楽しげに一枚一枚、はがされていく。
そして、その都度、じんわりにじみ出る人間関係と金の秘め事が見えてくる。映画は、そんな趣向になっている。

しかし今は、父・時造(伊藤雄之助)、その妻・よしの(山岡久乃)は、息子と娘からの入金で、そこそこ優雅に過ごしている。
息子の実(川畑愛光)は、芸能プロダクションの営業マン。彼は所属歌手の出演料を横領し、その金を実家に入れて来た。度重なる横領で、その総額は100万円になったらしい(昭和37年当時)。これがついに発覚し、プロダクションの社長が前田家に乗り込んできた。しかし実(みのる)の両親は、「うちの息子に限って、そんなことをするはずはない」とシラを切る。
社長が帰ったあと、父親は実(みのる)にやんわり言う。「お前、100万円も横領したのか、うちに入れた金はたったの20万円ほどだ。残りはどうした?」 さて、どうしたのだろう。
彼がこれまで、会社の金を誤魔化せたのは、経理担当の幸枝(若尾文子)と、いい関係だったからだ。そして、実(みのる)の懐に入った出演料の大半を、彼は愛人の幸枝に貢いでいたのだ。
前田家の娘・友子(浜田ゆう子)は、流行作家の吉沢先生(山茶花究)の「愛人をしている」。父が金に困っている、何とか工面して頂けない?なんて可愛くせがんで、これまで20万、30万とその都度、先生から金を巻き上げて来た。そして友子はその金を家に入れて来た。
実(みのる)も、先生と親しい。先生の代理で出版社へ原稿料を取りに行き、その金を実は横領している。
これらのことは、もちろん先生も気づいていたが、先生の小説のネタは、前田家の人々なのだ。盗られる金と小説のネタを天秤にかけて、先生は今まで我慢してきたが、ついに堪忍袋の緒が切れる時が来る。

しかしだ、実(みのる)が貢いだ金額は、旅館開業資金の額を思えば、所詮、大した額ではない。
幸枝は、一体どこから、そんな多額の金を用意できたのだろうか。映画は、芸能プロダクション社長(高松英郎)と幸枝の関係を匂わす。だが、100万円の横領でおたおたする人間だ。
ここで、税務署の職員・神谷という男(船越英二)が、登場するが・・・。
この映画は娯楽映画だ。
全体に、コミカルなパウダーが振りかけられているので、どぎつい金の話にもかかわらず、ぎすぎすした映画にはなっていない。
若尾文子が主役なのだろうが、前田家4人を中心とした群像劇仕立てになっている。

総じて、若尾文子と伊藤雄之助の2人が、その実力を発揮している。しかし、ほかの俳優は、自身の役の、人物像の彫りが浅いのが残念。前田家の母親役の山岡久乃も息子・娘も、しかり。ただし、物語の構成がしっかりしているので、何とか救われている。
ちなみに、映画に出てくる金の流れは、図を参照ください。
監督:川島雄三|1962年|96分|
原作・脚色:新藤兼人|撮影:宗川信夫|
出演:三谷幸枝(若尾文子)|父・前田時造(伊藤雄之助)|その妻・よしの(山岡久乃)|その息子・実(川畑愛光)|その娘・友子(浜田ゆう子)|芸能プロダクション社長・香取一郎(高松英郎)|その専属歌手・ピノサク(小沢昭一)|税務署職員・神谷栄作(船越英二)|前田友子の旦那・吉沢駿太郎(山茶花究)|銀座のマダムゆき(ミヤコ蝶々)|
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