映画 「満員電車」  監督:市川崑

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 ハイレベルな喜劇映画です。
 地方の小さな小学校の入学式では、「一生懸命勉強して将来は偉くなって欲しい」と校長が式辞を述べている。かたや、大学の卒業式では、会場に入りきれぬ学生たちが、会場入り口付近に群がり廊下まで溢れている。しかし、こうして卒業できても、就職先が見つからずに世に送り出される学生が多数いる。時代は就職難の様相。

2-0 名門の平和大学の卒業式は、土砂降りの雨の中、校庭で行われている。会場となる校舎が、卒業式の数日前に火事で焼失してしまったのだ。皆が一様に黒い傘をさしている。その中に茂呂井民雄(川口浩)がいる。彼は成績が良かったのだろう、大手飲料メーカーの「らくだビール」に内定していた。
 さて、らくだビールの入社式。会社は人員削減を考え、新卒採用を極力抑える最中だったが、入社式会場には10名の新卒者が並んでいる。うち8名は社長・重役の縁故だ。茂呂井は実力入社のひとりであった。
 新人研修が始まる。この時から、茂呂井はサラリーマンの空しさを覚悟している。生涯賃金-諸費用=わずかな残高、を計算していたし、一方でサラリーマンが気楽な稼業だとも思っていない。茂呂井は計算高さと、状況に流されないドライさと前向きさを信条とする男。言い換えれば、ちゃっかり抜け目なく振舞える男。

3-0-0.png 配属先は尼崎にある工場の経理部。配属初日の朝、配られた伝票の山をあっという間に処理した茂呂井は、上長に呼ばれ注意された。
 「あの伝票の束は、一日かけて処理してもらわないと、職場の規律が乱れるので困る」と言われる。(人員整理を恐れている風でもある) さっそく茂呂井は、伝票一枚あたりの処理時間を割りだして、ゆっくり仕事をした。また、職場の先輩の更利満(さらりまん)(船越英二)からは、「サラリーマンは、健康が第一、そして怠けず休まず働かず」と言われる。

 ここから、いくつかのエピソードが添えられる。
 茂呂井と工場付きの医師(産業医)とのドタバタ喜劇シーン、更利満や茂呂井を訪ねてきた彼女との可笑しなシーン。

4-0 だが、一番のエピソードは、茂呂井の父母の話。
 父親(笠智衆)は小田原で時計屋を営む時計職人。清廉潔白な市議会議員でもある。ある日、茂呂井は父親からの手紙を受け取る。そこには、母親(杉村春子)が「気違い」(台詞のママ)になったと書いてあった。が、実は父親が精神異常で病院に入院してしまった。茂呂井は急ぎ実家へ向かった。
 この話に和紙破太郎(川崎敬三)という精神科の医学生が絡んでくる。和紙破太郎は、ハイスピードで人生の成功を実現したい男であった。そこで地元有力者である茂呂井の父の協力を得て、小田原に精神病院建設を促してもらい、近い将来、和紙破太郎自身がその病院の院長の座に座ろうという魂胆だった。

 ある日、茂呂井と和紙破太郎が、(JR)お茶の水駅付近の聖橋上で落ち合っていた。ハイスピードで成功を実現したい和紙破太郎が、話の勢いが余って、こうだっ!と突如、猛スピードで三段跳び。そのホップ・ステップ・ジャンプのジャンプ着地で不幸にもバスに轢かれてしまう。茂呂井は驚いて駆け寄ろうとしたその瞬間、前方不注意で電柱に激突。その後、彼は病院で1ヶ月も意識不明の日々が続いた。

 こんなてんやわんやののち、茂呂井は久方ぶりに尼崎に戻り出社したが、無断欠勤で既に解雇となっていた。仕方なく、職安で職探し。やっと見つけた就職先は小学校の用務員。だが、間もなく、またもや解雇となった。理由は学歴詐称、大卒なのに学歴を隠していたのだ。職安での職探しには、大卒の肩書は邪魔だった。そして、彼は母と・・・。

 地味な映画で、かつ、よく分からない映画かもしれないが、抜群にいい喜劇映画。私のお気に入りのひとつです。


監督:市川崑|1957年|99分|
脚本:和田夏十、市川崑|撮影:村井博|下0下-0
出演:川口浩(茂呂井民雄)|笠智衆(その父・権六)|杉村春子(その母・乙女)|小野道子(茂呂井の彼女で教師になった壱岐留奈)|川崎敬三(精神科医の卵・和紙破太郎)|船越英二(茂呂井の先輩社員・更利満)|潮万太郎(山居直)|山茶花究(駱駝麦酒社長)|見明凡太郎(本社総務部長)|伊東光一(場場博士)|浜村純(平和大学総長)|入江洋佑(若竹)|袋野元臣(曾根武名夫)|杉森麟(町の歯医者)|響令子(その奥さん)|新宮信子(女歯科医)|葉山たか子(看護婦)|半谷光子(看護婦)|佐々木正時(茂呂井のYシャツを修理する洋服屋)|酒井三郎(既卒者・茂呂井の就職あっせんを断わる学生課長)|葛木香一(小学校校長)|泉静治(教頭)|杉田康(教師)|花布辰男(新人教育講師の工場長)|高村栄一(新人教育講師の営業部長)|春本富士夫(尼崎工場の給与課長)|南方伸夫(人事課長)|宮代恵子(茂呂井の彼女で百貨店の女店員)|久保田紀子(茂呂井の彼女で映画館の女)|直木明(体格の良い男)|志保京助(青白い顔の男)|此木透(無精たらしい男)|志賀暁子(社長秘書)|吉井莞象(大学総長(明治時代))|河原侃二(大学総長(大正時代))|宮島城之(大学総長(昭和時代)|

ロイ・アンダーソンの映画「散歩する惑星」の記事はこちらから、ご覧ください。

こちらで市川崑監督の作品をまとめています。
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やまなか
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