映画 「預言者」  フランス映画  監督:ジャック・オーディアール

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 マリクは孤児だった。
 彼はフランス生まれのアラブ人。施設で育てられたが、小学校を卒業せず今に至る。フランス語アラブ語は話せるが、読み書きがままならない。
 19歳の時、6年の刑で中央刑務所に入った。天涯孤独の身だ、ひとりで生きるには、色々なことがあったんだろう。そのすべては、生きる術(すべ)。だが、根っからのワルじゃない。腕力にモノを言わせるタイプでもない。もちろん、人を殺したこともない。

 ここフランスの中央刑務所には、刑期が長い受刑者、暴力的受刑者、組織犯罪の受刑者が集められている。受刑者の中に、コルシカ島(仏領)を拠点とするマフィアのお偉方、セザールという男がいる。彼はコルシカ人マフィアの受刑者達を従え、かつ刑務官達に対しては、刑務所の外から賄賂と脅迫で揺さぶりをかけて、セザールは彼らをうまく手なずけ抱き込んでいる。

運動場の隅でたむろするアラブ人受刑者たち
2-5_20160105160821bd9.jpg その一方で最近、アラブ人受刑者が増えつつあり、刑務所内の勢力図が二極化しつつあった。こんな状況の中、マリクは入所してきた。

 セザールは、新入りの若造マリクに注目した。まだ無垢で使える。さっそく呼んで脅した。組織に邪魔な男、アラブ系のレイェブを殺せ、殺さないとお前を殺すと脅迫する。自分の独居房に戻ったマリクは、インターホーンで刑務所の所長や担当刑務官と連絡を取り、この件を話したかった。(フランスの刑務所は一人部屋) だが、部屋を訪れたのは、刑務官から連絡を受けたセザールの部下達で、ひどく痛めつけられた。カミソリの刃を渡され、殺し方を教えられ、ついに彼はレイェブを殺害した。だが、この殺人事件は刑務所で何故か何の問題にもならなかった。つまり自殺と処理される。セザールの力である。

 こうして、アラブ人のマリクは、コルシカ人グループの使い走りとなった。始めはインスタントコーヒーでコーヒーを作る担当だったが、従順な彼はまもなく、セザールの手配で配膳係りとなり、所内の連絡伝達や密かな所内物流を担うこととなる。日が経ち、自ずと刑務所内の情報通になってセザールの耳となったマリクは、コルシカ語も覚え、セザールの知恵を学んでいく。

2-0 だが、今もってマリクを見くだすセザールは、彼に対し暴力を振るう。そんなセザールに反感の感情が強まって行くマリクであったが、反感を持つこと自体、マリク自身が所内で生きることに自信を持ち始めた証拠でもあった。
 そしてその自信は、マリクの中で時と共に深まって行く。だが、その自信とは何から生まれたのだろうか?
 それは、セザールの知恵とツテを学んだ事、また話を先回りして言えば「セザールの信頼を得ていること」がマリクに箔を付け、刑務所内外でセザールの違法薬物ビジネスをマリクがうまくこなせるようになった事、同時に刑務所の外でセザールのツテを活用したマリク自身の違法薬物ビジネスがうまく行くようになった事。そのお蔭でマリクは刑務所内で徐々に地位を築けた。
 一方でマリクは今も、セザールに寄り添い、彼のコーヒーを甲斐甲斐しくいれる。それは、セザールを父とも思うマリクの気持ちなのかもしれない。
 
 話を戻す。次々に、三つのことが起きていく。マリクのサクセスストーリーだ。
 マリクが入所して3年が経った。刑期の半分を過ぎると、模範受刑者は審査の上、時間限定で外出ができるようになる。
 セザールの後押しで審査を通ったマリクは、外出しセザールの命で動いた。どれも危ない仕事であったが何とかこなせた。この経験で得た情報から、マリクはシャバにいるアラブ人の友人リヤドと組んで、違法薬物の売買に手を付け始めた。手元に金が貯まる。 

 セザールはコルシカ・マフィアのボスを消して、自分がボスになりたかった。
 ボス殺害の命を受けたマリクは、シャバのリヤドと実行するが、故意にボスの手下だけを殺し、その場にいるボスに告げた。この仕事はセザールの命令だとボスに密告し、同時にボスに恩を売った。のちにマリクはこのボスと会い、マリク自身の仕事に協力を得ることができる。信頼を得たのであった。マリクは「上」に気に入られる何らかの素質を持った男なのかもしれない。結果このことは、マリクが刑務所内でセザールの支配から脱却できる素地を作った。
 
 コルシカ人受刑者のうち、経済犯罪に関わった者はコルシカ島の刑務所に移送されることとなった。 
 経済犯罪に関わった人数は多かった。残ったコルシカ人は数人になった。わけても、信頼ある手下が移送されてしまう。セザールは今まで以上に、マリクに頼らざるを得なくなる。そこで、マリクはセザールに言った。あのアラブ人グループを手なずけて、あなたの配下に置き、勢力を維持しようと。こうして、この機をつかんだアラブ人のマリクは、アラブ人グループに接近していく。
 そして、ある日、マリクはアラブ人グループを従えて、セザールの前に現れた。

 
 150分、とても見応えのある映画だ。娯楽映画とは言えないかもしれないが、じっくり楽しめる。
 しっかりした脚本、いい映画だ。

3-0



オリジナル・タイトル:Un prophète
監督:ジャック・オーディアール|フランス|2009年|150分|
脚本:アブデル・ラウフ・ダブリ、ニコラ・ブファイイ|
脚色:ジャック・オーディアール、トーマス・ビドゲイン|
撮影:ステファンヌ・フォンテーヌ|
出演:マリク(タハール・ラヒム)|セザール(ニエル・アレストリュプ)|リヤド(アデル・バンシェリフ)|レイェブ(イシェーム・ヤクビ)|リヤドの妻ジャミラ(レイラ・ベクティ)|ほか


出所日。マリクと連れ添うように歩くリヤドの妻と子。
後ろにはマリクを出迎える違法薬物ビジネスの仕事仲間の車が3台。

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