映画「エレナの惑い」  ロシア映画 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ

上
2人が住む高級マンション。室内は生活感が感じられない。会話も少ない。


1‐0 静かな静かなサスペンス・ドラマ。 
 遺産配分というものは、時に人の心を激しく揺り動かす。そして、揺れる心は愛をもねじ伏せ、良心さえも易々と乗り越える。

 かつて、入院していたウラジミルは、献身的な看護師エレナと出会った。
 それぞれに伴侶と離別していたふたりは、まもなく都心の高級マンションで同居を始める。それから、時はゆるゆると10年経った。
 初老を過ぎたウラジミルは資産家だ。仕事を引退し、エレナと2人の、悠々自適な毎日を送っている。ウラジミルは高級なスポーツジムに通っている。ジムに行くその朝に、彼はエレナを抱く。精力家でもあるようだ。
 しかし、その日、ウラジミルはプールで心臓麻痺を起こし、救急入院となった。
2-0_20160203114855c79.jpg まもなく退院したウラジミルは、エレナの看護のもと自宅で療養生活に入った。気弱になった彼はベッドで遺言書を書くことにした。さて、ことはここから始まる。

 ところで、ウラジミルにはひとり娘がいる。前妻との子だ。今は独立して別居している。カテリナという。裕福な家庭に育った彼女は、甘やかされて来たようだ。カテリナは上流階級の空気に反抗的で、かつ厭世的だ。そして父親に対して、今も反抗期。それでもドラッグは週一回に減らしたようだ。一方、ウラジミルはカテリナが可愛くて仕方ない。娘に金を送っている。

 一方、エレナにも前夫との子がいる。セルゲイだ。結婚していて2人の子どもがいるが、無職だ。求職活動をしているのだろうか、無為な日々を郊外の団地で送っている。セルゲイの長男サーシャは大学進学を考える年頃だが、彼は地域の不良連とつるんでいる方が楽しいようだ。エレナは、孫のサーシャをなんとか大学へ行かせてやりたい。でも、そんな金はない。
 ウラジミルは家計を握っている。エレナには、年金相当額を月々渡しているようだ。彼女は、その中から息子に生活費を渡している。息子一家は、それを頼りにしている。ウラジミルは銀行送金しろと言うが、エレナは息子の家に行って金を渡している。孫に会いたいのだ。

 さて、遺産配分。ウラジミルはカテリナにほぼ全額贈与。エレナには年金相当額のみ。
 エレナはウラジミルに泣きついたが、彼は有無を言わさない。(2年前に籍を入れたのだが・・・)
 そして、エレナは・・・。
  
 ウラジミルとエレナが住むマンションの室内シーンがとても秀逸。これがこの映画のコアでメイン舞台だ。
 果たして、このふたりに愛はあるのか? ふたりが出会って10年は、何だったのか? ふたりは、どう心を通わせているのか?
 そんな疑問に答えてくれるのが、この室内シーンだ。セリフがとても少ないなかで、映像が実に饒舌に語っている。
 かつ、その室内シーンにおいて、ふたりの間に流れる時間の描写が凄い。時間の流れの音が微かに聴こえるような映像。時間の感触、温度さえ感じる。
 
 話の背景は、もちろんロシアの格差社会だが、メインテーマは「愛とは?」だろう。格差社会の状況下、愛はどう歪んでいくのか。
 上流階級のウラジミルと下層出身のエレナとの夫婦のような愛人関係、介護付きマンションのような関係。加えて上流生まれで反主流の娘と父との親子愛と対立、上流経験したエレナと下層のセルゲイ一家との親子愛の今後。これらに監督の視線が鋭く迫る。 
 それにしても、当人しか知り得ない秘密の殺人はあり得るのだ。

【アンドレイ・ズビャギンツェフの映画】
これまでに記事に取り上げた作品
父、帰る (2003年) こちらからお読みください。

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オリジナルタイトル:Елена|Elena|
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ|ロシア|2011年|109分|
脚本:アンドレイ・ズビャギンツェフ、 オレグ・ネギン|
撮影:ミハイル・クリシュマン|
出演:エレナ(ナジェジダ・マルキナ)|ウラジミル(アンドレイ・スミルノフ)|エレナの息子セルゲイ(アレクセイ・ロズィン)|ウラジミルの娘カテリナ(エレナ・リャドワ)|タチアナ(エフジェニア・コヌシュキナ)|アレクサンドル(イゴール・オグルツォフ)|ほか

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の映画
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エレナの惑い
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父、帰る


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