映画「牡蠣工場」  ドキュメンタリー映画  監督:想田和弘

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瀬戸内の海に点在する、牡蠣の養殖筏。

 牡蠣(かき)の養殖と、むき身加工の現場で働く人々を「観察」するドキュメンタリー映画。
 
 この稼業に後継ぎがいないある一家に、宮城県で牡蠣工場を営んでいた渡邊さんが後継者として働いている。渡邊さんは、震災で被害を受け、家族と一緒にここ岡山県瀬戸市牛窓町に移住して来たのだ。牛窓町、海を挟んだ向こうは小豆島。

1-0_201603061440317eb.jpg 牡蠣養殖筏で育った牡蠣を水揚げし、むき身の加工(牡蠣の収穫)を始めるのは、11月から。そしてこの仕事は、翌年の5月ごろまで続く。むき身にする作業は、一個一個すべて手作業だ。専用の刃物で牡蠣の貝柱を切り、殻を開け牡蠣の身を取り出す。ここに臨時の季節労働力が要る。
 むき身の加工場(木造の小屋)には、近隣のおばさん達のベテランが数人働くが、これだけでは足らない。中国からの女性の出稼ぎ労働力に頼ることになる。加えて、渡邊さんの雇い主(養殖・加工場のオーナー)の息子さんも、休みを取ってむき身作業を手伝いに来る。彼はサラリーマンで家業を継がないらしい。

 このむき身作業のほかに、漁船で沖に出て牡蠣養殖筏から牡蠣を水揚げし、港で降ろす作業がある。男手が要る肉体労働。「きつい」「汚い」「危険」の3K仕事。今どき、この仕事をする若い働き手は集まらない。ここでも、中国からの出稼ぎ労働力に頼ることになる。

 この加工場では、むき身加工担当の中国人女性がすでに三人働いている。彼女たちの宿泊所は、牡蠣加工場内にある一室。この三人に加えて、二人の中国人男性が来た。彼らは、肉体労働とむき身加工もする。
 中国人を受け入れる渡邊さん一家や、渡邊さんの雇い主らも準備が大変。中国語会話の本を買い即席で勉強する。中国人男性二人の宿泊所としてプレハブの小屋をレンタルした。もちろん、まかない付きなので、彼らのために毎日の食事の仕度もある。
 映画はこんな風に、渡邊さんが働く工場の人々を中心に、近隣の牡蠣工場の人々も含めて、現場で働く人々のあれこれを淡々と描いて行く。

 映画に出てくる人々の、カメラに対する対応姿勢が気になった。
 多くの人が、NHKの紀行・バラエティ番組「鶴瓶の家族に乾杯」などのテレビを見ているせいだろうか。普通の人の私生活にカメラが入り込んだ時の、番組撮影時の「お作法」「お約束」とでも言うべき親しげな対応を、登場する人びとが違和感なく自ら進んでしている。結果、監督はそういう対応をする人々と対話しながら撮影するので、映画の観客はTVの紀行番組を見ている錯覚に陥る。ただし、もちろん、牡蠣の味見だとか、牡蠣のむき身作業体験などはない。
 次いで、中国人の労働についても気になった。いわゆる外国人研修制度を利用しての「出稼ぎ」なのだろうか。

 ちなみに、むき身作業を見ていて気になったこと。宮城県では生牡蠣の生産が主で、この地では加熱処理した牡蠣の生産が主なのだろうと思った。映画の中で、渡邊さんは監督の質問に対して、宮城県とは仕事のやり方が違うと言っていた。

監督・撮影・編集:想田和弘|日本・アメリカ|2015年|145分|
製作:想田和弘、柏木規与子


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