映画 「おゆきさん」 主演:和泉雅子、笠智衆 監督:鍛冶昇
2016年03月27日 公開

駅へ迎いに出たおゆきは、平山のあとについて歩く。初対面の二人。(多摩川の土手沿いの道)
和泉雅子主演の青春映画だが、笠智衆の起用によって深みが出て、大人の映画となった。
つまり、親の気持ちが分からないと、魅力の半分しか見えてこない。
おゆき(和泉雅子)は両親を早くに亡くし、深川に住む口うるさい遠縁の叔母(武智豊子)に育てられた。中学を卒業すると、おゆきはすぐに働きに出た。
今回の「お手伝いさん」の仕事は、おゆきにとって初めてのことであったが、人の紹介で田園調布のお宅に住み込みで働くこととなった。

平山宅の最寄駅、東急東横線・田園調布駅を下車してきた平山を、迎えに出たおゆき。映画はこのシーンから始まる。
明治生まれの頑固者の平山は、娘の洋子が結婚相手を勝手に決めたことに憤慨している。前もって平山に相談すら無かったのだ。つまり洋子は現代的。妻の正子は夫の気持ちを理解する一方、娘の気持ちも分かる。もっとも平山も仕事柄、日頃、助手や院生らの若いのと付き合っているから、若い女性の気持ちがまったく分からないではないが、父親としてとなると事は違う。

珍しいことに、初対面の時から平山は、おゆきとは相性がいいようだ。おゆきの方でも、平山に違和感はなかった。
ちょうどそのころ、平山にとっては、娘が結婚して自分から離れていくという男親ならではの哀愁、その前触れが平山の心をよぎり始めるころであった。もちろん、そんな心の内は家族にも見せない。(これを演じてみせる笠智衆) そんな平山は、おゆきが持つ少し古風なたたずまいをこころよく感じていた。
おゆきは活発で、天真爛漫な現代的女性だが、平山が感じたその快さとは、田園調布のような郊外には無い、いささか古風だが下町情緒残る深川、その空気を吸って育ったおゆきが発する粋、とでもいうようなものなのかもしれない。
また、おゆきはおゆきで、親を知らぬ故に父親というものへの憧れから、平山に父親の匂いを感じとっていた。
いつしか平山とおゆきの間に、父娘に似た感情が行き来し始めた。平山はおゆきを、大学の野球大会や歌舞伎や食事に連れて行った。正月には日本髪を結わせてやった。
しかし、おゆきは父親に甘える経験が無い。また、父親に口答えする経験もない。結婚のことで平山と娘の洋子が不和になってることに口を挟んだおゆきは、出過ぎたことと平山から平手打ちを食らった。その瞬間、おゆきは経験したことのない感情を覚えた。それは赤の他人が言い過ぎたことの自戒はさることながら、平手に二人目の娘に対する父親を感じて、おゆきはハッとしたのである。なぜなら、平山は他人に暴力をふるう類いの人間ではないことを、おゆきは知っているからだ。もちろん、平山はすぐに謝った。謝ったが、思わず手を出してしまった事を心の中で整理できずに動揺する平山であった。

それは、確かに大学の助手らが冗談で話されていたことではあったが、彼らも本意ではない。助手らも、美人のおゆきに憧れていた。
そして、映画はいくつものエピソードを加えながら、洋子は無事、彼氏と結婚し、おゆきはというと、平山の願いから、なんと平山家の養女となったことを描く。さらには、おゆきは平山の研究室の助手・川田という男と相思相愛になり結婚が決まった。めでたしめでたし。
登場人物たちの人情を細やかに描いた映画です。
平山とおゆき

監督:鍛冶昇|1966年|79分|
原作:塩田良平|脚色:倉本聰|撮影:藤岡粂信|
出演:おゆき・祐紀子(和泉雅子)|平山良吉教授(笠智衆)|その妻・平山正子(小夜福子)|その娘・平山洋子(松尾嘉代)|川田・・おゆきを好きになる男、院生(新克利)|碌ちゃん・・花屋で働く男、おゆきの幼なじみ(松山政路)|おゆきを育てた伯母・・深川に住む(武智豊子)|木所・・平山洋子の結婚相手(平田大三郎)|木所の父・・北鎌倉に住む(高野誠二郎)|木所の母(原恵子)|川田の父(若宮忠三郎)|みどり・・川田の婚約者だったが交通事故で死亡(瞳美沙)|本吉・・おゆきを紹介した人(山田禅二)|佐伯教授(浜村純)|阿部教授(小泉郁之助)|村田教授(伊藤寿章)|山内・・助手か院生(野村隆)|吉田・・助手か院生(浜口竜哉)|後藤・・助手か院生(平塚仁郎)|ほか
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