映画 「アメリ」 主演:オドレイ・トトゥ 監督:ジャン=ピエール・ジュネ
2016年04月02日 公開

奥にいる黒い服の女性が、カフェのマダム・シュザンヌ

この映画は、パリに住む可愛い女性をファンタジックに描いたラブロマンスに見えます。ですが、この映画の見どころはそれだけじゃない。
映画は、アメリをはじめハンディキャップを持つマージナルな世界(周辺・境界)の人々を、そして彼らがモンマルトルの街に生きる日常を、コミカルにていねいに描いています。
アメリ22歳が働くモンマルトルのカフェ・ドゥ・ムーランは、マージナルな人を受け入れてくれる場でした。極度の対人恐怖症のアメリも、自分を病気だと信じて疑わない精神疾患「心気症」のジョルジェットも、一日中カフェにいるジョセフという執拗な常連客の男も、この店が心やすらぐ場でした。これはたぶん、世の中の裏も表も知り尽くしているカフェのマダム、シュザンヌの包容力のなせるわざなんでしょう。
そして、アメリが住むアパートの住人で、引きこもり独居老人のデュファイエル。彼もまた、マージナルな人間の庇護者です。かつ、この人もアメリと同じ対人恐怖症なのかもしれない。「会う人間は自分が選ぶ」と言っている。
その数少ないひとりが、八百屋の小僧リシュアンです。リシュアンは知的障害の青年。老人が必要とする生活物資はみなリシュアンが部屋の中まで運んできてくれる。リシュアンに部屋の鍵を預けているのです。このことは人に認めてもらえる喜びをリシュアンに与えています。
そして、もうひとり、「会う人間は自分が選ぶ」に選ばれたのがアメリだった。アメリもこの老人から少なからぬアドバイスを受けます。

例えば、アメリの悪戯。少女期のアメリが隣家の屋根の上でTVアンテナ線のプラグを抜く悪戯、リシュアンをいじめる八百屋の店主コリニョンを懲らしめるために彼の部屋のドアノブを入れ替える悪戯や電話機の短縮ダイアルの悪戯、あるいは平べったい石を投げて運河で水切りをするアメリの遊び、これらは考えてみればみな、男の子がやりそうなことですね。(監督の子供っぽい側面が出たのでしょうか。)
さらに「アイデアの断片」を挙げると、例えば、パリ北駅の物乞いの男が今日は仕事休みだからお金は受け取らないと言うシーンや、マメがいっぱい入った所に手を入れるアメリの快感シーンとか、アメリが一目惚れした男ニノを公園の丘の上に誘う白線矢印の最後が、なぜか鳩の好きな豆で描いた矢印になっていたり、額の絵の動物やベッドサイドのテーブルスタンドライトの飾り人形のブタが話したり等々、この映画には「アイデアの断片」がぎっしり詰まっている。これを楽しみたい。(無類の凝り性というか、細かなところまで丹念に作り込む監督の執着を感じます。)もちろん、破り捨てたスピード証明写真のコレクションというアイデアは、この映画の重要なアイテムですね。

それは、先に書いた八百屋店主コリニョンへの少々ダークな悪戯や、ニノに恋したことで起きる冒険の出来事です。
ただし、強い対人恐怖症でかつ幼児性が残るアメリにとって世の中とのお付き合いそれ自体がもう冒険で、とてもおっかなびっくりです。また、そのおっかなびっくりの対応や発見に対して、アメリ持ち前の幼児的想像力がフル回転し、映画は喜劇となります。
そしてアメリの人生にとって最大の冒険は、二つあったと思います。ひとつは実家を出てひとりモンマルトルで生活を始めた事だったろうし、もう一つは好きになった男ニノ・カンカンポワと幸せになるには、まずは彼と対面する事から始めなければなりませんでした。
さて、このニノという男、ポルノショップの店員で遊園地のお化け屋敷の骸骨人間で、かつスピード写真コレクションマニアだったりはしますが、意外にもその素性は決してマージナルな人間ではない、すっきりした好青年な男。この青年に対してアメリは、明るく心を開いて行きます。
アメリという女性を、手数がかかって迷惑面倒な人、得体の知れない人と即断するのはいかがなものでしょうか。この映画においては、登場人物にもう少し寄り添う気持ちがいるのかもしれません。また一方で、映画の宣伝文句に寄り添い過ぎる鑑賞は、時に映画をダメにするのかもしれません。

オリジナル・タイトル:Le Fabuleux destin d'Amelie Poulain
監督:ジャン=ピエール・ジュネ|フランス|2001年|121分|
脚本:ジャン=ピエール・ジュネ 、 ギョーム・ローラン|撮影:ブリュノ・デルボネル|
6歳の頃からアメリは空想の世界にいた。

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