映画 「浅草四人姉妹」 監督:佐伯清
2016年08月24日 公開

左から四女・恵美子、長女・美佐子、父、三女・千枝子、次女・幸子、手前は母
浅草の街に住む 仲のいい四人姉妹を、さらりとスケッチする大人の喜劇。
そして、登場人物の心情を細やかに描く、無理のない、いい脚本。
ストーリーは、はじめは明るく軽快で、途中、相次ぎ事がこんがらがって、幸せそうで可哀想で、ラストは一抹の寂しさを残して終わります。
姉妹の両親は、浅草の飲食店街で小さな呑み屋をやっていて、店の奥が居間、2階は川の字で寝る姉妹の部屋になっている。
時は昭和27年、7月。浅草は夏を迎えようしている。
大柄でさっそうと歩く、四人姉妹の長女・美佐子は、家族や近所の人から「姉ちゃん先生」と呼ばれ一目置かれている。

家族で唯一の男性、父親の藤吉(三島雅夫)は、お人好しで、「我が家は女護ヶ島(にょごがしま)だ」といって家族女性群に頭が上がらない。よって美佐子が一家の柱となっている。
次女の幸子は、最近芸妓の道を選んだ。舞踊を極めたい。日頃は住込みで置屋にいるようだ。母親・梅子(沢村貞子)は、若い頃、浅草で名の通った芸妓だったので、幸子を応援している。
三女の千枝子(杉葉子)は、洋裁店に勤めていて洋裁が好き。ファッションに敏感なオシャレな娘。長女・美佐子に似て行動的。
四女の恵美子は、高校生でまだ子供っぽいが、将来、国会議員になって女性の地位向上に貢献したいという志。幼なじみの三平とは、いい仲。
さて、そんな一家だが、話は相次いで、こんがらがってくる。
まずは、次女の幸子。初めての客・村川に一目ぼれしてしまうが、村川に妻子あり。片思いの重症で寝込んでしまう。
次は美佐子の話。勤務先の病院に外科医の田中という男がいて、彼は前々から美佐子に気があるが、美佐子はまったくもって気にも留めていない。
ある日の、病院屋上で催された院内ビヤーガーデン・パーティ。飲める美佐子は大いに飲み、はずみで田中医師とダンスする。酔った美佐子の心は、なぜか田中医師の胸の中で解放され、気持ち良かった(のだろう)、その時、思わず漏らした一言、「これは、どういう気持ちなのかしら?」。
田中はその一言を聞いて、美佐子が恋に目覚めたと思い、一方、これまで色恋に縁のなかった美佐子は、あとになっておっとりと、この気持ちは恋、と分かる。
そんな折、三女の千枝子が急に腹痛を訴え美佐子の病院に入院。盲腸だった。これがなんと、田中医師との出会いであった。
この時、四人姉妹の3人が恋に落ち、うち2人は恋敵のてんやわんや。
結局、千枝子は田中医師とめでたく結婚。美佐子は、誰にも言えぬ辛い日々を過ごしながらも、明日への一歩を踏み出し始める。次女の幸子は、片思いの重症でずっと寝込んでいたが、ある日、地震でびっくり飛び起きた拍子に、病魔退散。四女の恵美子は、三平と並んで店の手伝いをしている。
さっそうと通勤する美佐子

だが映画冒頭で、夕食時に母親が、慶応卒のお見合い写真を四人姉妹に見せるが、またぁ!と言って、誰も見ようとしない。女性もキャリア形成の時代だと映画は言っている。
美佐子は近隣からも「姉ちゃん先生」と呼ばれているのは、家の近所の病人を嫌がらずに診察するからだ。家に往診用のカバンをいつも用意している。医院がまだ少なかった時代なのだろう。
ちなみに、映画製作の1952年(昭和27年)は、連合国軍による日本占領が終わり日本に主権が回復した年。戦争終結、GHQ廃止。日本とアメリカ合衆国との安全保障条約発効。これより、日本は明日に向かって発展を目指すことになる。
監督:佐伯清|1952年|84分|
脚本:井手俊郎 、 橋村美保|撮影:横山実|
出演:長女・美佐子(相馬千恵子)|次女・幸子(関千恵子)|三女・千枝子(杉葉子)|四女・恵美子(岩崎加根子)|父・藤吉(三島雅夫)|母・梅子(沢村貞子)|四女・恵美子の彼氏・三平(高島忠夫)|五郎(井上大助)|加代(飯田蝶子)|姉ちゃん先生の同僚で外科医・田中(山内明)|次女の幸子の客・村川 (二本柳寛)|四人姉妹のお見合いをすすめられた慶応大卒の春山(田中春夫)|その父(小堀誠)|ほか
四女・恵美子と同級生たち。浅草六区の興行街。

本作に地震にあうシーンがあるが、「地震、雷、空襲、親父」というセリフが出てくる。空襲がまだ生々しい頃だった。
浅草寺の本堂も空襲で焼失、だから映画ではその姿はない。映画公開(1952年(昭和27年)8月7日)の、その前年に本堂再建工事が始まっている。そんな様子が遠景で映画に映っている。
飲酒のシーンの大方が、美味しそうにビールを飲むシーン。映画公開が夏であったからだろうが、ビール原料になる大麦などの戦時下統制が解除になって、生産が大いに進んだ年だったらしい。
院内で美佐子と田中医師が、消毒用の純正アルコールを水で割って飲むシーンがある。一杯飲む度に都度、名のあるウィスキーの銘柄を言いながらグイッと、そしてまたグイッと。これで美佐子は酔っぱらい、田中医師との恋を知る。ウィスキーは高価だったようだ。
【 一夜一話の歩き方 】
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