映画 「シュトロツェクの不思議な旅」  西ドイツ映画  監督:ヴェルナー・ヘルツォーク

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 男と女と老人の話。
 シュトロツェク役のブルーノ・Sという男優の存在感が、この映画を制しています。
 私たちは、映画の中のシュトロツェクをみているのか、それともブルーノ・Sという男の生きざまをみているのか。混同してしまいます。
 つまり、映画というお芝居を観ているつもりが、ブルーノ・Sという憐れな男についてのドキュメンタリーを観ているように感じてしまうのです。この映画は、そんな映画です。

 ベルリンの壁があった時代の話です。そのころ、ベルリン(西ベルリン)は東ドイツのなかにポツンとあって、「赤い海(共産主義諸国)に浮かぶ自由の島」と言われていました。
 しかし、シュトロツェクにとって、ベルリンは自由の島ではなかった。酒乱のあげくに何の罪を犯したのか、彼はやっと刑務所から出てきます。話はここから始まります。

 出所して、その足で最初に向かった先が、飲み屋。そこで、顔見知りの街のワルに出会い、そして、ワルにいたぶられているエーファーという、これも顔見知りの女を、シュトロツェクは慰めます。行くところがないなら、私の家に来れば。

 そんなことで、シュトロツェクとエーファーの奇妙な同居生活が始まります。しかし、この同居を良く思わないワルな男ふたりから、シュトロツェクとエーファーは虐待を受けます。そしていつしか、ふたりの間に愛が生まれます。普通なら、ダサくてとろい変人のシュトロツェクが、派手でワルで要領のいいエーファーと、くっつくことはなかったでしょう。

2‐0 さて、ふたりの知り合いの老人シャイツは、甥を頼ってアメリカに行くことにしていました。これを知ったシュトロツェクとエーファーは、老人について一緒にアメリカへ渡ることになります。脱ベルリン。
 自由なアメリカ! 不幸から這い上がれるチャンスが転がってるアメリカへ!

 ニューヨークに着いた三人は、ここでアメリカの息吹きを感じ嬉しそうでした。そして甥が住むウィスコンシン州に到着。そこは、もうすぐカナダというアメリカ北部の地。人口希薄な田舎の大地。

 シュトロツェクは、シャイツ老人の甥が営む自動車修理を手伝います。エーファーは近くのレストランでウェイトレス。しかし稼げる金は僅かです。
3-0_201609192042500b3.png せっかくアメリカまで来たのに、ふたりの生活は豊かになりません。思い切ってトレーラーハウスや家電を買いましたが、たちまちローンの返済が滞る。これまで、いささか幻想的な風味をみせていた映画は、ここでは、やけに現実的な様相をみせます。

 エーファーは、いつまで経っても世間ずれしないシュトロツェクを姉のように守ります。もっと稼ぎを増やすため、彼女はレストランに来る客に身を売りはじめます。

 しかし、こんな生活は長続きしませんでした。エーファーは、長距離トラックのドライバーと、どこかへ行ってしまいます。トレーラーハウスや家電は競売にかけられ、シュトロツェクはすべてを失います。

 ひとり残されたシュトロツェクは、シュトロツェク以上に浮世離れのシャイツ老人と、ライフル銃を持って銀行強盗を仕掛けます。
 ですが狙った町の銀行は閉まっていて、銀行の隣りの店で僅かな金を盗むに終わります。ケチな強盗でした。
 警察はシャイツ老人を逮捕、シュトロツェクは逃げおおせました。そして、ライフル銃を携え逃走するシュトロツェクは、・・・・。
 映画はラスト近くになって、ふたたび幻想味を色濃くして行きます。

 自由と解放を期待したシュトロツェクですが、そもそも彼は、人並みに生きる術を持てない不自由な男でした。
 ストーリーの力量は拙いくらいで、シュトロツェク役のブルーノ・Sなくしては成立しえなかった映画です。あるいは、初めから彼の出演を見込んで、敢えてこんな脚本にしたのかもしれません。
 ブルーノ・Sの演技は、怪演というほどの派手さは無く、地味でジワッとモッサリですが、それがかえってリアリティを生みます。
 どこまでが演技で、どこまでが「素」なのか、判然としない俳優、奇妙な魅力のある演技というと、私は2014年の日本映画 「川下さんは何度もやってくる」の主演俳優・佐藤宏を思い浮かべます。ブルーノ・Sに負けず劣らずの演技を観てください。(「川下さんは何度もやってくる」の記事を読むには、題名をクリック)
 

オリジナル・タイトル:Stroszek
監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク|西ドイツ|1977年|110分|
撮影:トーマス・マウフ 、 エド・ラッハマン|
出演:シュトロツェク(ブルーノ・S)|エーファー(エヴァ)(エーファ・マッテス)|シャイツ老人(クレメンス・シャイツ)|ほか


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