“ ひとつに括れない国、日本 ” ・・・「天ぷらにソースをかけますか? - ニッポン食文化の境界線 」、「くらべる東西」、「全国アホ・バカ分布考 - はるかなる言葉の旅路」・・・ 最近、読んだ本。

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 私のように、関西から東京に出て来た者にとって、東西の物事の違いは気になるところです。
 東西くらべの本はたくさん出ていて、それなりに面白いのですが、例えば蕎麦・うどんなど、引き合いに出され過ぎのモノは、もうさすがにつまらない。
 さらには、物事は関東関西の違いだけじゃなく南北もあり、さらには違いはもっと複雑に入り組んで存在する。
 ひとつに括れない国、日本。確かにそうだが、一方で均一化が急激に進んでいる。
 コンビニはおでんに地域色を持たせているが、基本、全国的な大手の商売は効率化を求め均一化に向かうし、宣伝が人々を均一化へと向かわせる。


★図書館くらべる東西2016 「くらべる東西」は、様々なものの東西比較を写真集にした本。
 例えば表紙の写真は、銭湯の東西比較だ。湯船が浴室の奥にある東の銭湯、湯船が浴室の中央にある西の銭湯、を表わしている。
 たしかに私が小学校6年まで、よく通った(大阪府堺市)堺東の銭湯、大小路湯と天神湯の2軒はともに、こうだった。
 この東西の違いをどう思うかだが、西の銭湯は、ゆっくり楽しむ「温泉」を真似た「娯楽施設」に近いのだと思う。つまり湯が主役。だから、主役が中央にデンとある。(左の表紙写真をクリックすると拡大して見えます)

 考えれば、ボイラーのたき口と浴槽が壁越しに隣接直結しているのが普通で、浴室の中央に浴槽があるのは、相当に無理がある構造だ。これを押してわざわざ、中央に湯船をかまえるのは、やはり西の銭湯は、「温泉を真似た娯楽施設」を目指して来たのだろう。
 そう思うと、西に比べ東の銭湯は、どちらかというと身体を洗うことを主眼にしている風に思える。

 ただし京都伏見では、小さな銭湯で浴室が狭い所では、もともと湯船が浴室の中央にない。さらにはたぶん、大きな銭湯でも、浅い浴槽深い浴槽以外に、薬湯や電気風呂やサウナ室や水風呂や人間洗濯機などの浴槽を増築すれば、おのずと中央の湯船は無くなって行く。
 街の銭湯が衰退するなかで、自らが知恵を出し合った結果、かつスーパー銭湯が追い打ちをかけて、湯船が中央にある古風な西の銭湯は姿を消しつつあるようだ。

 著者が言う通り、銭湯に限らずおしなべて、東と西の違いは無くなりつつある。
 続いて著者は、田中優子の次の言を引用している。
 「伝統とは意志である。その時代の人々が、残したいと思ったものだけが残る。」
 確かに、この一言は光ります。

 この本は、下記目次にあるように、銭湯以外に様々なものを引き合いに出している。
 その中の七味唐辛子の項で思い出すのは、京都の錦市場商店街にある七味唐辛子屋さん。この店は客の目の前で、亰都風の各種香辛料を客の好みに応じて調合してくれる。
 さて、その調合具合の味見だが、小さな椀にいれた「京風の出汁」に七味を入れて味わせてくれるのだ。
 こうしないと味見にならないでしょ、と店の女性は言う。なるほど!
 何でもないようだが、これはやはり、伝統を重んじて「残したいもの」なんだろう。

 この本で、残念なのは、取りあげるモノの選択の力が弱いこと。写真集だから「形」から入ったからだろうか、あるいは本つくりを急いだのかな。取りあげるアイテムをもう少し吟味してほしかった。アイデアは良いのに惜しい。


★これ2 「天ぷらにソースをかけますか? ~ ニッポン食文化の境界線」、この書名は、ちょいと気になるキャッチコピーですな。
 たこ焼き・お好み鉄板系の粉モンは脇に置いといて、この天ぷら、カレーライス、肉まんor 豚まん(あるいは中華まん)、それに加えてシュウマイやチャンポンに、ウスターソースをかける人々が、この世に様々な分布で、いますね。

 本書の天ぷらの項によると、「天ぷらにソース」は、とにかく和歌山県が群を抜き、ついで沖縄、高知、福井、鳥取、鹿児島、愛媛、奈良、徳島の人の半数以上が「ソースで天ぷら」的人生を送っているらしい。
 反対に、「天ぷらにソースはかけない」傾向が強い反ソース派は、福島、岩手、山形、山梨。
 この本は、これらの強弱傾向分布を5段階にして日本地図で見せてくれる。
 「天ぷらにソース」分布図を眺めると、日本の真中を南北に走る境界線がくっきりと浮かび上がる。
 (この他、本書が取り上げるほかの食べ物でも分布地図が掲載されています。)

 「カレーライスと生卵」の項では、ソース以外に、カレーライスに卵は、生卵か、ゆで卵か、半熟か、が書かれている。
 また、上記の「肉まんor 豚まん」と「ソース」というややこしい問題は、辛子や酢醤油と絡んで「中華まんを考える」の項で、かつ西の牛肉好き・東の豚肉好きを解きほぐす「牛対豚の「肉」談戦」の項でも述べられている。
 著者が辛いもの嫌いなので、「「殺意」を秘めた辛いもの」という題名になっているこの項では、上記の「くらべる東西」にも出て来た唐辛子について書かれている。ここでは、唐辛子を「南蛮」あるいは「こしょう」と呼ぶ人々がいることが分かる。言われてみれば、例の柚子胡椒という調味料の原料は、ユズと唐辛子だ。

 なお、本書とは別に、著者(日本経済新聞社編集局編集委員)が日経ネットに書いた連載記事があります。
 その「食べ物新日本奇行 第1回 ソースでてんぷら(その1)」は下記から読めます。
 (これは外部リンクですので、今後リンク切れの可能性があります)
 http://waga.nikkei.co.jp/play/kiko.aspx?i=MMWAh3003003072009


★これ使う 「全国アホ・バカ分布考 ~ はるかなる言葉の旅路」は、まじめな本です。
 はるかなる言葉の旅路、古語は辺境に残る。
 むかし、京の都でひとつの魅力的な表現(言葉)が流行すると、やがてそれは地方に向けてじわじわと広がって行った。つまり、言葉は旅をした。そして、次にまた新しい表現が亰で流行ると、これもまた、先の表現の後を追って地方に旅立つ。
 まるで水面の波紋の様に、言葉は同心円の輪を広げながら次々と遠くへと伝わって行く。結果、古い表現、言葉は亰から遠い所に残った。

 バカは古い言葉で、アホは新しい言葉。これがこの本でわかる。
 そのほか、この本はアホバカの部類の言葉を全国的に集め整理している。(下記の本書目次を見て下さい)
 著者はTV放送局の人で学者ではないが、学会発表までしている。(上記の「天ぷらにソース」の著者は新聞社の人。放送メディアを駆使して調査情報の収集が出来た二人であった)
 また、アホバカの研究が、学者のプライドという壁で、まったく手つかずであったことが、一番面白い。

<アホバカ関連の言葉分布図>
 右の地図をクリックすると、大きくなります。(但し、関西を中心とした部分地図)図2

<本書の「アホ・バカ方言全国語彙一覧」から抜粋>
 【京都府】 
 (府下で広く使われている言葉)
 アホ系・・・アホ・アホウ・アホー・アホンダラ・アホタレ・ドアホ・アホケ・アホチン・アッポー・アハー・アハータレ・ハータレ
 ボケ・ホウケ(惚け)系・・・ホウケモン・ホウケサラシ
 (府下の一部地域の言葉)
 バカモン・バカモノ・バカタレ・バカ・スカタン・マヌケ・ヌケ・ヌケサク・フヌケ

 例えば・・・・新潟県では
 【新潟県】 
 (県下で広く使われている言葉)
 バカ系・・・バカ・バカタレ・バガ・ウ(ッ)スラバガ・ウスバガ・ハンバガ・バガメラ・バガヤロ・バガメロ・バガガキ・バガメ・バガタレ・バガクサイ・ドスバカ・ブアカジャネー・バッケヤロー
 (県下の一部地域の言葉)
 ウスラ系・タラズ(足らず)系・アホ系・ダボ系・フヌケ系・アッタカサ系・タワケ系・グダ系・ほか多種

 例えば・・・・宮崎県では
 【宮崎県】 
 (県下で広く使われている言葉)
 バカ系・・・バカ・バカタン・バカタレ・クソバカ・ヤサシバカ・コヤサシバカ・バカスッカン・バカスカタン・バカドンタ
 (県下の一部地域の言葉)
 ホンジナシ(本地なし)系・ほか多種:ダラ・タラン・ダロ・ゲドー(外道)・ハンチュー・アンポン・アンポンタンなどなど

 例えば・・・・神奈川県では
 【神奈川県】 
 (県下で広く使われている言葉) 
 バカ系・・・バカ・バカヤロウ・バカスカシ・バカッタレ・ウスラバカ
 (県下の一部地域の言葉)
 クソッタレー・マヌケ・ヌケサク・アホ・アンポンタン・オタンコナス・ボケナス・オタンチン・スッポーダツ・ノータリン・ボンクラ・クルクルパー・タワケなどなど 

<目次>
「くらべる東西」  おかべ たかし (著)、 山出 高士 (写真)  東京書籍 (2016)
1 あ行か行:いなり寿司、おでん、カクテル、かるた、環状線、金封、建築家、独楽|2 さ行た行:桜餅、座布団、七味唐辛子、実業家、消防紋章、縄文土器、関、線香花火、ぜんざい、扇子、銭湯、タクシー、たまごサンド、玉子焼き器、だるま、ちらし寿司|3 な行は行ま行や行ら行:ねぎ、ネコ、のれん、ひなあられ、ひな人形、火鉢、骨抜き、名山、屋根、落語家|

「天ぷらにソースをかけますか? - ニッポン食文化の境界線」  野瀬 泰申 (著)  新潮社-新潮文庫 (2008)
天ぷらにソースをかけますか? ニッポン食文化の境界線|キノコについて|「ばら」か「ちらし」か|ぜんざいVS.お汁粉|「殺意」を秘めた辛いもの|中華まんを考える|たこ焼き・お好み鉄板系|メロンパンとサンライズ|牛対豚の「肉」談戦|お豆について|冷やし中華にマヨネーズ|日本の甘味処|味噌と味噌汁|漬物をどうぞ|カレーライスと生卵|東海道における食文化の境界|

「全国アホ・バカ分布考 - はるかなる言葉の旅路」   松本 修 (著)  新潮社-新潮文庫 (1996)
第一章:「アホ」と「バカ」の境界線 全国アホ・バカ分布図に向けて|第二章:「バカ」は古く「アホ」はいちばん新しい 恐るべき多重の同心円 古典に潜むアホ・バカ表現|第三章:「フリムン」は琉球の愛の言葉 「ホンジナシ」は、本地忘れず|第四章:「アヤカリ」たいほどの果報者 「ハンカクサイ」は船に乗った 言葉遊びの玉手箱 分布図が語る「話し言葉」の変遷史|第五章:「バカ」は「バカ」のみにて「バカ」にあらず 新村出と柳田国男の「ヲコ」語源論争 周圏分布の成立 学会で発表する|第六章:「アホンダラ」と近世上方 江戸っ子の「バカ」と「ベラボウ」 「アホウ」と「バカ」の一騎打ち|第七章:君見ずや「バカ」の宅 「アハウ」の謎 「阿呆」と「馬家」の来た道|エピローグ:方言と民俗のゆくえ|アホ・バカ方言全国語彙一覧|

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