映画 「さらば愛しき大地」   監督:柳町光男

上

 映画の舞台は茨城県鹿嶋市、海と霞ヶ浦に挟まれた平たい地域。
 そこは田んぼが一面に広がる田園風景、そして疎らに点在する農家。
1-0_20170123155834c4f.jpg その一軒が主人公、幸雄(根津甚八)の家だ。幸雄は代々農家のこの家の長男。

 映画は、男女の愛と、衰退していく農業になすすべもない農家の、悲哀を描きながらも、その地に根ざす風土へのこみ上げる郷愁を伝えようとしている。

 幸雄の家は、米作と僅かな養豚じゃ今や食えなくて、(それは、老いた両親と嫁・文江(山口美也子)に任せ)、幸雄自身はダンプトラックを買って、生コン用川砂のピストン運搬を請け負っている。現金収入が入る。この家は俺が支えていると、幸雄は殿様気分。家族を見下して、いい気分。文江との関係は、もとより良くない。

 だが、幸雄はすぐカッとなる、つまらぬことで酒で荒れる。自尊心が強い一方、劣等感が強い。
 特に弟に対してだ。子供のころから頭が良く、品行方正な弟の明彦(矢吹二朗)には、いまも母親から多くの愛情が注がれている。その明彦は、独身で東京で働き東京に住んでいる。

 ある日、幸雄と文江の息子二人が、不幸にも、近所の水辺で遊んでいて水死してしまう。
 さすがの幸雄も、身重の文江も両親も、嘆いても嘆ききれない毎日であった。
 このことは幸雄、文江を精神的に不安定にさせ、二人の関係は疎遠の一途をたどる。

 母と二人暮らしの順子(秋吉久美子)。その母親が若い男と駆け落ちした。順子が知る限り、母親の駆け落ちはこれで3回目。
2-0_20170123160222583.png ひとり残された順子を、通りかかった幸雄がトラックに乗せたことが発端で、幸雄は順子と住む家を借り、嫁・文江と順子との、二重生活が始まる。
 互いの悲しみを舐めあう関係であった。
 それは、川砂運搬がそれなりに高収入だったから成り立った。とは言え、幸雄は文江のいる実家に帰ろうとはしなかった。

 やがて順子との間にも子供が出来、そこだけ見れば、幸せな一家に見えた。実家では、文江は第三子を出産し、幸雄の両親と農作業に相変らず追われていた。
 そこへ、東京にいた明彦が実家に帰って来た。明彦も川砂の運搬業を始め、瞬く間まに小さな事務所を構え事務員も置くに至る。

 そのうち、幸雄は覚醒剤に手を出すようになった。
 幸雄は川砂運搬の発注元の生コン会社の部長とうまくやって、仕事を多く回してもらっていたが、先方からは幸雄に運搬の手配管理も任されるようになるが、幸雄にそういう才はなく、また組織的な行動や指示に馴染めなかった。
 明彦と比べて幸雄は、という劣等感がまた頭をもたげる。荒れ始める。順子にもつらく当たるようになる。幸雄はひとり捨て鉢になり、自暴自棄、自滅への道を歩み出す。
 一方、明彦は結婚が決まった。相手は事務所の女の子だ。

 ついに、幸雄は包丁で順子を刺し殺す。覚醒剤による幻覚が順子の命を奪った。
 映画のラスト。実家の庭先では、明彦夫婦、文江とその子、両親が、ワイワイやっている。子ブタが集団で豚舎から脱走したのだ。
 そこには、やりきれないほどに繰り返しの何ごともない日々と、一時の幸せ、そして覚醒剤と殺人が、大した違和感なく同居している妙な風景であった。


地元社会を浮遊する幸雄と順子に対し、対称的な位置づけで描かれる家族や友人など地元に根付く人々。彼らはいわば古い慣習伝統に生きる人々だ。しかし、そんな彼らの中にも、生きにくい地元に(ささやかだが)あらがう者もいた。
 映画は幸雄と順子を主人公にするが、ふたりを取り巻く人々の生きざまも見つめたい。なぜなら、この映画は取り巻く人々あっての物語なのだ。 
 作品としては、幸雄の妻役の山口美也子、幸雄の母親役・日高澄子、父親役・奥村公延および幸雄の同僚役・蟹江敬三たちの、しっかりした脇役が素晴らしく、彼らによる勝利とみるべきだ。

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監督・脚本:柳町光男|1982年|130分|
撮影:田村正毅
出演:山沢幸雄(根津甚八)|順子(秋吉久美子)|幸雄の弟・山沢明彦(矢吹二朗)|幸雄の正妻・山沢文江(山口美也子)|幸雄の母・山沢イネ(日高澄子)|幸雄の父・山沢幸一郎(奥村公延)|幸雄の同僚・大尽(蟹江敬三)|その妻・フミ子(中島葵)|順子の母(佐々木すみ江)|実家に呼んだ霊媒師(白川和子)|ほか

秋吉久美子が出演の映画です。

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さらば愛しき大地
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バージンブルース
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赤ちょうちん
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旅の重さ
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